(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本願発明の一実施例は、SiC基板の上面における350nm以上かつ720nm以下の波長を有する光に対する第1の反射率を測定する工程と、前記第1の反射率を測定した後、MOCVD法を用い前記SiC基板上にAlNバッファ層の成長を開始する工程と、前記AlNバッファ層を成長する間に、前記AlNバッファ層における前記波長を有する光に対する第2の反射率を測定する工程と、前記第1の反射率に対する前記第2の反射率の比が所定範囲内か否か判定する工程と、前記比が前記所定範囲内と判定したとき、前記AlNバッファ層の成長を終了する工程と、を含む半導体基板の製造方法である。
これにより、ドリフト現象が抑制できる条件でAlNバッファ層の膜厚を設定することができる。よって、ドリフト現象等の不安定な現象を抑制できる半導体基板の製造方法を提供することができる。
(2)前記波長は390nm以上かつ420nm以下であり、前記所定範囲は、前記比が0.92以上かつ0.935以下の範囲であることが好ましい。これにより、不安定な現象をより抑制できる。
(3)前記第1の反射率は、前記SiC基板の温度を前記AlNバッファ層の成長温度とした状態で測定することが好ましい。これにより、第1反射率を精度よく測定できる。
(4)前記AlNバッファ層の成長温度は1095℃以上かつ1105℃より低いことが好ましい。これにより、不安定な現象をより抑制できる。
(5)前記AlNバッファ層は、12nmより大きくかつ14nm以下の膜厚で成長されることが好ましい。これにより、不安定な現象をより抑制できる。
【0010】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる半導体基板の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
[実験]
図1(a)は、GaN系HEMTの断面図、
図1(b)は、実験に用いた素子の断面図である。
図1(a)に示すように、GaN系HEMT100では、SiC基板10上に窒化物半導体層20が積層されている。窒化物半導体層20は、SiC基板10側からAlNバッファ層12、GaNチャネル層14、AlGaN電子供給層16およびGaNキャップ層18である。GaNチャネル層14のAlGaN電子供給層16との界面付近には2次元電子ガス15が形成される。窒化物半導体層20上にソース電極22、ドレイン電極24およびゲート電極26が設けられている。
【0012】
以下の実験で用いた各層の膜厚等は以下である。AlNバッファ層12の膜厚は10nmから15nmである。GaNチャネル層14の膜厚は600nmである。AlGaN電子供給層16の膜厚は24nmである。Alの組成比は0.22である。GaNキャップ層18の膜厚は5nmである。AlNバッファ層12およびGaNチャネル層14は、意図的に不純物を添加していない。AlGaN電子供給層16およびGaNキャップ層18はSiを添加したn型である。ソース電極22およびドレイン電極24は、GaNキャップ層18側から順にタンタル膜、アルミニウム膜およびタンタル膜である。ゲート電極26は、GaNキャップ層18側からにニッケル膜、パラジウム膜および金膜である。
【0013】
図1(b)に示すように、実験素子110では、電極22aおよび24aはGaN系HEMT100のソース電極22およびドレイン電極24と同じ構造である。電極22aと24aとの間のGaNキャップ層18およびAlGaN電子供給層16を除去している。GaNキャップ層18およびAlGaN電子供給層16が除去された領域では、GaNチャネル層14の上部は空乏化しており、2次元電子ガス15は形成されない。電極22aに対し電極24aに電圧を印加すると矢印58のようにGaNチャネル層14内を電子が流れ電流(電流の向きは矢印58の逆)となる。
【0014】
ドレイン電流のドリフト現象は、
図1(a)のGaN系HEMT100において、ドレイン電極24にソース電極22に対し電圧(ドレイン電圧)を印加すると、ドレイン電極24とソース電極22との間を流れる電流(ドレイン電流)が時間とともにドリフトする現象である。ドリフト現象の時定数は例えば数μ秒である。
【0015】
ドリフト現象の大きさは、
図1(a)のようなゲート電極26、ドレイン電極24およびソース電極22を有するGaN系HEMT100を用いて評価される。一方、
図1(b)のような電極22aおよび24aのみを有する(ゲート電極を備えていない)実験素子110を用いて、電極22aと電極24aとの間のバルク電流を評価する。GaN系HEMT100におけるソース電極22とドレイン電極24との間は5μm、フィンガの延伸方向(
図1(a)の奥行き方向)の幅を100μmとした。また、実験素子110における電極22aと24aとの間隔Lを2μm、電極22aおよび24aのフィンガの延伸方向(
図1(b)の奥行方向)の幅を100μmとした。
【0016】
窒化物半導体層20はMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用い成長した。表1は成長条件を表1に示す表である。
【表1】
【0017】
表1において、TMAはトリメチルアルミニウム(Trimethyl Aluminum)、TMGはトリメチルガリウム(Trimethyl Gallium)、NH
3はアンモニア、SiH
4はシランである。1Torr=133.3Pa、1sccm=1.667×10
−8m
3/s、1slm=1.667×10
−11m
3/sである。
【0018】
ドリフト現象を評価するためのドレイン−ソース間電流は、ドレイン電極24にソース電極22に対し50Vを印加し測定した。GaN系HEMT100におけるドレイン−ソース間電流は、ドレイン−ソース間がオンしていると考えればドレイン電流であり、オフしていると考えればリーク電流である。ドレイン電圧を印加してから十分な時間後の飽和した電流をIds、ドレイン電圧を印加して1μ秒後の電流をI1とする。このとき、電流のドリフト量ΔI=I1/Ids×100[%]とした。ドリフト量ΔIが100%のときドレイン電圧を印加してから1μ秒後の電流が飽和した電流Idsと同じことを示しており、このときドリフトは小さい。ドリフト量ΔIが小さいと、電流のドリフトが大きいことを示している。ここで、GaN系HEMT100を用い測定した電流のドリフトは、実験素子110の電極22aと24aとの間のバルク電極と相関があることがわかっている。
【0019】
AlNバッファ層12の膜厚および成長温度が様々なサンプルについて、実験素子110のバルク電流とGaN系HEMT100のドリフト量ΔIとの相関を測定した。
図2は、バルク電流に対するドリフト量ΔIを示す図である。
図2に示すように、バルク電流とドリフト量ΔIには相関がある。バルク電流が大きくなるとドリフト量ΔIが大きくなる。このように、実験素子110のバルク電流が大きいと電流のドリフトは小さくなる。よって、GaN系HEMT100におけるドリフト現象も小さくなる。
【0020】
GaN系HEMT100におけるドレイン電流のドリフト現象のような不安定な現象は、GaNチャネル層14内のAlNバッファ層12付近の結晶性が影響していると考えられる。例えばGaNチャネル層14の結晶性が悪いと、欠陥等にキャリアがトラップされドレイン電流のドリフト現象が生じると考えられる。GaNチャネル層14の結晶性はAlNバッファ層12の状態を反映していると考えられる。
図1(b)の実験素子110では、バルク電流はGaNチャネル層14内のAlNバッファ層12付近を流れる。よって、バルク電流によりGaNチャネル層14内のAlNバッファ層12付近の結晶性を判断することができると考えられる。
図2より、バルク電流が小さいことは、GaNチャネル層14内のAlNバッファ層12付近の結晶性が良好でないことを示していると考えられる。
【0021】
そこで、実験素子110におけるバルク電流をGaNチャネル層14内のAlNバッファ層12付近の結晶性の指標として用いる。
【0022】
まず、AlNバッファ層12の膜厚を12nmから14nmまで、および成長温度を1095℃から1105℃まで変化させて作製した実験素子110を用いバルク電流を測定した。
図3(a)は、AlNバッファ層の膜厚に対するバルク電流を示す図、
図3(b)は、AlNバッファ層の成長温度に対するバルク電流を示す図である。
図3(a)では、成長温度T
AlNをT
AlN=1100℃とし、
図3(b)では膜厚t
AlNをt
AlN=13nmとした。
【0023】
図3(a)に示すように、AlNバッファ層12の膜厚が薄くなると、バルク電流は大きくなる。
図3(b)に示すように、AlNバッファ層12の成長温度が高くなるとバルク電流は大きくなる。この結果から、AlNバッファ層12の膜厚が薄い、および成長温度が高いほどGaNチャネル層14の結晶性がよくなると考えられる。この原因は明確ではないが、例えば、AlNバッファ層12が厚いとAlNバッファ層12が島状に成長される。
【0024】
例えば、AlNバッファ層12が臨界膜厚(例えば4nm程度)を超えて厚くなると島状成長が顕著になる。このため、AlNバッファ層12の膜厚が大きいと、島状成長が顕著な状態でGaNチャネル層14を成長する。これにより、AlNバッファ層12とGaNチャネル層14との界面の格子不整合差が大きくなる。このため、GaNチャネル層14の結晶性が悪くなると考えられる。ただし、AlNバッファ層12はGaNチャネル層14を形成するためのバッファ層であり、AlNバッファ層12が薄すぎるとGaNチャネル層14が正常に成長されない。また、成長温度が高いとAlNバッファ層12が島状に成長されにくくGaNチャネル層14の結晶性がよくなると考えられる。
【0025】
GaNチャネル層14の結晶性のメカニズムは不明であるが、少なくともAlNバッファ層12の膜厚および成長温度をきわめて精密に調整することが重要である。AlNバッファ層12の成長温度は、赤外線反射を利用したパイロメータを用いて容易に測定することができる。一方、AlNバッファ層12の膜厚は10nmから20nm程度と薄い。このため、X線測定または光学的な測定(分光器による測定等)を用いAlNバッファ層12の膜厚を測定することは困難である。TEM(Transmission Electron Microscope)を用いれば薄いAlNバッファ層12の膜厚を測定できるが破壊検査となってしまう。このため、全てのウエハの成長に用いることはできない。このように、AlNバッファ層12の膜厚を正確に制御できないと、バルク電流を制御できない。よって、ドリフト現象の小さいGaN系HEMT100を提供することができない。
【0026】
発明者らは上記課題を解決するため、AlNバッファ層12の成長中に、ウエハ表面の反射率をモニタすることを検討した。
図4は、SiC基板10上に窒化物半導体層20を成長したときの基板温度、ウエハ表面の反射率を示す図である。反射率は、波長が951.4nmおよび404.6nmの半導体レーザのレーザ光を用いて測定した。AlNバッファ層12を成長する期間を破線で示した。
図4内の実線の丸に示すように、AlNバッファ層12を成長するときに、波長が951.4nmの反射率はほとんど変化していない。一方、波長が404.6nmの反射率はAlNバッファ層12の成長中に低下する。
【0027】
この現象を粒子による散乱を用いて説明する。AlNバッファ層12の島状の表面は粒子状と考えられる。このため、粒子による光散乱をモデルとする。粒子による散乱の散乱係数α(サイズパラメータ)は以下の式1による。
α=πd/λ (式1)
ここで、dおよびλはそれぞれ粒子直径および波長である。散乱係数αが1より十分小さいとき、粒子による散乱はレイリー散乱となる。AlNバッファ層12の膜厚は10nm程度のため、粒子サイズも10nm程度と考えられる。このため、波長が404.6nmおよび951.4nmではレイリー散乱となる。
【0028】
レイリー散乱の散乱係数(散乱断面積)κsは式2で表される。
κs=(2π
5/3)・n・{(m
2−1)/(m
2+2)}
2・d
6/λ
4 (式2)
ここで、d、nおよびmはそれぞれ粒子直径、粒子数および反射係数である。
式2のように、レイリー散乱係数は波長λの4乗に反比例する。つまり、波長が951.4nmの光のレイリー散乱の散乱係数κsは、波長が404.6nmの光の約1/30となる。このように、AlNバッファ層12表面に島状の表面荒れが生じるとレイリー散乱が生じる。これにより、反射率が低下する。一方、波長が951.4nmの光に対してはAlNバッファ層12表面に島状の表面荒れが生じてもレイリー散乱はほとんど生じない。このため、AlNバッファ層12の表面が島状となっても反射率はほとんど変化しない。以上のように、波長が404.6nmの光の反射率はAlNバッファ層12の表面状態を表していると考えられる。
【0029】
そこで、波長が404.6nmにおけるAlNバッファ層12の成長を開始する前の反射率をR0、AlNバッファ層12の成長を終了した時点の反射率をR1とし、反射率比R=R1/R0とした。
【0030】
図5は、AlNバッファ層12の成長時間に対する反射率比Rを示す図である。成長温度T
AlNはT
AlN=1100℃である。
図5に示すように、成長時間が長くなると反射率比Rは小さくなる。これは、AlNバッファ層12の成長にともない、AlNバッファ層12の表面の島状の成長が強調されているためと考えられる。
【0031】
図6は、反射率比Rに対するAlNバッファ層の膜厚を示す図である。
図6に示すように、反射率比RはAlNバッファ層12の膜厚と相関がある。
図7は、成長時間を193秒としたときの成長温度に対する反射率比Rを示す図である。
図7に示すように、成長温度が高いと反射率比Rは大きくなっている。成長温度が高いとAlNバッファ層12の表面の凹凸が小さくなるため反射率比Rが大きくなると考えられる。
【0032】
図8は、反射率比Rに対するバルク電流を示す図である。AlNバッファ層12の成長温度T
AlNをT
AlN=1100℃とし、膜厚の異なるサンプルについて、反射率比Rに対するバルク電流を示している。
図8に示すように、AlNバッファ層12の反射率比Rが大きくなるとバルク電流が大きくなる。
【0033】
以上をまとめると、AlNバッファ層12の膜厚が厚くなると、実験素子110におけるバルク電流が減少する。これは、GaNチャネル層14のAlNバッファ層12付近の結晶性が劣化しているためと考えられる。バルク電流が小さい半導体基板を用いGaN系HEMT100を形成すると、GaN系HEMT100のドリフト現象が大きくなる。
【0034】
そこで、AlNバッファ層12の成長しているときの反射率に着目した。その結果、AlNバッファ層12の成長時間にともない反射率が小さくなる。AlNバッファ層12の成長を終了したときの反射率とバルク電流とに相関があることがわかった。
【0035】
以上の知見に基づく実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0036】
図9は、実施例1に係る半導体基板の製造方法を示すフローチャートである。
図10(a)から
図10(d)は、実施例1に係る半導体基板および半導体装置の製造方法を示す断面図である。
図9および
図10(a)に示すように、SiC基板10を洗浄後、MOCVD装置内のサセプタにSiC基板をセットする。キャリアガスとして窒素ガスを導入後SiC基板10の温度を設定温度まで上昇させる。この状態で、SiC基板10の表面の反射率R0を測定する(ステップS10)。光照射装置50が照射光54をSiC基板10の表面に照射し、検出器52がSiC基板10の表面に反射された反射光56を検出する。反射光56の強度から反射率R0を算出する。反射率R0は絶対的なものでなく相対的なものでもよい。
【0037】
図9および
図10(b)に示すように、MOCVD法を用い、AlNバッファ層12の成長を開始する(ステップS12)。例えば表1の原料ガス(TMAおよびNH
3)を導入する。AlNバッファ層12の成長を行っている状態で、AlNバッファ層12の表面の反射率R1を測定する(ステップS14)。例えば、検出器52がAlNバッファ層12の表面に反射された反射光56を検出する。反射光56の強度から反射率R1を算出する。反射率比R=R1/R0を算出し、反射率比Rが所定の範囲か否かを判定する(ステップS16)。Noのとき、AlNバッファ層12の成長を続けステップS14に戻る。Yesのとき、AlNバッファ層12の成長を終了する(ステップS18)。
【0038】
図9および
図10(c)に示すように、MOCVD法を用い、AlNバッファ層12上にGaNチャネル層14からGaNキャップ層18を形成する(ステップS20)。これにより窒化物半導体層20が形成される。以上により、半導体基板102が製造できる。
【0039】
図10(d)に示すように、窒化物半導体層20上に、ソース電極22、ドレイン電極24およびゲート電極26を形成する。これにより、GaN系HEMT100が製造できる。
【0040】
実験では、波長が404.6nmの反射率を用いたが、式2のレイリー散乱の散乱係数κsがλの4乗に反比例することから、波長が短い光を用いて反射率を測定することが好ましい。例えば散乱係数κsが404.6nm波長の光の1/10まで許容できるのであれば、光の波長が720nm以下であればよい。散乱係数κsが404.6nm波長の光の1/5、1/3および1/2まで許容できるのであれば、反射率を測定する光の波長は、それぞれ600nm以下、530nm以下および480nm以下となる。
【0041】
また、反射率を測定する光の波長が短いとレイリー散乱とはならない。また、6H結晶構造のSiCのバンドギャップエネルギーは2.93eVである。これは423nmの波長に相当する。反射率を測定する光の波長はSiC基板に対してレイリー散乱が得られるように、上記SiCのバンドギャップ波長よりは短く、かつ光の波長は350nm以上が好ましい。
【0042】
実施例1によれば、
図9のステップS10のように、SiC基板10の上面における350nm以上かつ720nm以下の波長を有する光に対する反射率R0(第1の反射率)を測定する。ステップS12のように、MOCVD法を用いSiC基板10上にAlNバッファ層12の成長を開始する。ステップS14のように、AlNバッファ層12を成長する間に、AlNバッファ層12の反射率(第2の反射率)を測定する。ステップS16のように、反射率R0に対する反射率R1の反射率比Rが所定範囲内か否か判定する。ステップS18のように、反射率比Rが所定範囲内と判定したとき、AlNバッファ層12の成長を終了する。ステップS20のように、その後、AlNバッファ層12上にGaNチャネル層14を成長する。これにより、ドリフト現象が抑制できる条件でAlNバッファ層12の膜厚を設定することができる。
【0043】
実施例1では、
図8のように、波長が404.6nmの光の反射率比Rが0.92以上かつ0.935以下とすることによりバルク電流が0.1μAから1μAの範囲にすることができる。これにより、AlNバッファ層12の膜厚が適切となり、ドリフト現象を抑制できる。
【0044】
光の波長が変化すると反射率比Rが変化する。そこで、波長がどの程度変化すると反射率比Rが0.01変化するか考察した。AlNバッファ層12の成長にともない、反射されなくなる光はレイリー散乱により散乱されたと考えられる。このように考えると反射率比Rが0.93程度のとき、レイリー散乱に起因して反射されない光の比率は1−0.93=0.07である。よって、反射率比Rが0.01変化するとき、レイリー散乱の強度は0.07のうち0.01変化している。つまりレイリー散乱の強度が約14.3%変化する。式2からレイリー散乱の強度が波長の4乗に反比例すると、光の波長が404.6nmに対し、レイリー散乱の強度が約14.3%変化する光の波長の範囲は約390nm以上かつ約420nm以下の広い範囲に設定することができる。
【0045】
一方、波長がどの程度変化すると反射率比Rが0.003変化するか考察する。反射率比Rが0.93程度のとき、レイリー散乱の強度は0.07に対し0.003変化している。つまりレイリー散乱の強度が約4.3%変化する。式2から光の波長が404.6nmに対し、レイリー散乱の強度変化約4.3%を検知するためには、光の波長の範囲は約400nm以上かつ約410nm以下の狭い範囲とすることとなる。
【0046】
図8から、波長が404.6nmの光の反射率比Rが0.92以上かつ0.935以下とすることによりバルク電流を好ましい範囲とすることができる。光の反射率比Rが実質的に0.01程度変化してもバルク電流を好ましい範囲とすることができるとすると、上記考察から反射率を測定する光の波長は390nm以上かつ420nm以下の範囲であればよい。反射率比Rの変化0.003程度であってもバルク電流を好ましい範囲とすることができるとすると、すなわち、反射率比0.003の変化を検知するには、光の波長は400nm以上かつ410nm以下としなければならない。さらに、反射率を測定する光の波長を402nm以上かつ407nm以下とさらに狭く設定すれば、さらに微小な反射率比の変化を検知することができる。
【0047】
以上のように、反射率を測定する光の波長が390nm以上かつ420nm以下のとき、ステップS16の反射率の比Rの所定範囲を0.92以上かつ0.935以下とする。これにより、
図8のように、バルク電流を0.1μAから1μAとすることができる。よって、
図2のようにドリフト現象を抑制できる。反射率を測定する光の波長は、400nm以上かつ410nm以下がより好ましい。反射率の比は0.925以上かつ0.933以下がより好ましい。
【0048】
バルク電流の観点から、反射率比Rは下限値のみを設定すればよいとも考えられる。しかしながら、AlNバッファ層12の膜厚が薄いと、GaNチャネル層14のバッファ層として機能せず、GaNチャネル層14が正常に成長されない。よって、反射率比Rの上限値も設定する。
【0049】
ステップS10における反射率R0の測定は、MOCVD装置内において、SiC基板10の温度をAlNバッファ層12の成長温度とした状態で測定することが好ましい。これにより、反射率R0をより正確に測定できる。反射率R0の測定は、キャリアガスを導入した状態で測定することがより好ましい。
【0050】
図10(a)および
図10(b)における光照射装置50はレーザ装置であり、照射光54はレーザ光であることが好ましい。これにより、反射光56の強度を大きくできる。また、光照射装置50は半導体レーザ装置であることが好ましい。AlNバッファ層12の成長温度は1095℃以上かつ1105℃より低いことが好ましく、1097℃以上かつ1103℃以下であることがより好ましい。これにより、ドリフト現象を抑制できる。
【0051】
AlNバッファ層12の膜厚は12nmより大きくかつ14m以下が好ましく、12.5nm以上かつ13.5nm以下がより好ましい。
【0052】
MOCVD法を用い、GaNチャネル層14上に窒化物半導体からなる電子供給層16を形成する工程を含むことが好ましい。これにより、GaN系HEMT用の半導体基板102を製造できる。電子供給層16としては、例えばAlGaNまたはAlInNを用いることができる。GaNキャップ層18は設けられていてもよいが設けられていなくてもよい。窒化物半導体とは、窒素(N)を含む半導体であり、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウム(InN)、および窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)などである。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。