(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周に内軌道溝が形成されている内輪、内周に外軌道溝が形成されている外輪、前記内軌道溝と前記外軌道溝との間に介在する複数の玉、及び、前記複数の玉を保持する環状の保持器を備え、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、当該環状部の一部から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記環状部の軸方向他方側であって周方向で隣り合う一対の前記柱部の間が前記玉を収容するためのポケットであり、
前記玉は、前記柱部の軸方向他方側の端部から更に軸方向他方側の範囲で露出しており、前記玉が前記端部から露出している前記範囲の軸方向寸法は、当該玉の直径の30%以上であり50%以下であり、
前記保持器は、前記内軌道溝に接触することにより当該保持器の径方向及び軸方向についての位置決めを行うために、前記柱部との間に欠損部が形成されるようにして前記環状部の他部又は前記柱部の軸方向一方側の基部から当該内軌道溝側に向かって設けられているガイド部を、更に有し、当該ガイド部は、径方向及び軸方向についての前記位置決めを行うために、前記内軌道溝に径方向に接触可能であると共に軸方向に接触可能である接触部を有し、
前記ガイド部の軸方向他方側の端は、前記内輪の軸方向一方側の肩部の外周面よりも前記外輪側に位置している、玉軸受。
外周に内軌道溝が形成されている内輪、内周に外軌道溝が形成されている外輪、前記内軌道溝と前記外軌道溝との間に介在する複数の玉、及び、前記複数の玉を保持する環状の保持器を備え、
前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、当該環状部の一部から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記環状部の軸方向他方側であって周方向で隣り合う一対の前記柱部の間が前記玉を収容するためのポケットであり、
前記玉は、前記柱部の軸方向他方側の端部から更に軸方向他方側の範囲で露出しており、前記玉が前記端部から露出している前記範囲の軸方向寸法は、当該玉の直径の30%以上であり50%以下であり、
前記保持器は、前記外軌道溝に接触することにより当該保持器の径方向及び軸方向についての位置決めを行うために、前記柱部との間に欠損部が形成されるようにして前記環状部の他部又は前記柱部の軸方向一方側の基部から当該外軌道溝側に向かって設けられているガイド部を、更に有し、当該ガイド部は、径方向及び軸方向についての前記位置決めを行うために、前記外軌道溝に径方向に接触可能であると共に軸方向に接触可能である接触部を有し、
前記ガイド部の軸方向他方側の端は、前記外輪の軸方向一方側の肩部の内周面よりも前記内輪側に位置している、玉軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転動体ガイドの構成を採用するためには、保持器90は玉93を抱く必要があり、そのために、前記のとおり、ポケット面95は玉93よりも直径が僅かに大きい仮想の球面に沿った形状を有しており、また、各柱部92から爪部97を軸方向他方側に大きく突出させている。この構成によれば、保持器90が大きくなり、玉93に対向するポケット面95も広くなる。
【0007】
玉軸受が回転すると、玉93とポケット面95との間及びその周囲に存在するグリースがせん断されるが、前記のとおり玉93に対向するポケット面95が広いと、このせん断に起因する抵抗(せん断抵抗)も大きくなり、玉軸受の回転抵抗(回転トルク)が大きくなるとともに、グリースの寿命が短くなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明では、玉軸受において、内輪と外輪との間に形成されている環状空間に設けられるグリースのせん断を可及的に減らし、回転抵抗を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の玉軸受は、外周に内軌道溝が形成されている内輪、内周に外軌道溝が形成されている外輪、前記内軌道溝と前記外軌道溝との間に介在する複数の玉、及び、前記複数の玉を保持する環状の保持器を備え、前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、当該環状部から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部と、を有し、前記環状部の軸方向他方側であって周方向で隣り合う一対の前記柱部の間が前記玉を収容するためのポケットであり、前記玉は、前記柱部の軸方向他方側の端部から更に軸方向他方側の範囲で露出しており、前記玉が前記端部から露出している前記範囲の軸方向寸法は、当該玉の直径の30%以上であり50%以下である。
【0010】
この玉軸受によれば、保持器が玉を保持している範囲は軸方向に関して小さくなり、これにより、玉と保持器との間で生じるグリースのせん断を可及的に減らすことができる。この結果、前記せん断に起因する抵抗を抑え、玉軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0011】
また、前記保持器は、前記内軌道溝及び前記
外軌道溝のうちの一方に接触することにより当該保持器の位置決めを行うガイド部を、更に有しているのが好ましい。
この場合、保持器は内輪又は外輪によって案内されるので、前記のとおり保持器が玉を保持している範囲が軸方向に関して小さくても、内輪と外輪との間に介在している玉に対して保持器が脱落するのを防ぐことが可能となる。
特に、前記ガイド部は、前記内軌道溝に接触するのが好ましく、これにより、保持器を内輪側に偏らせて設けることが容易となり、保持器がグリースをせん断することで生じる抵抗を小さくすることが可能となる。すなわち、内輪と外輪との間に形成されている環状空間に存在しているグリースは、玉軸受が回転すると、遠心力によって外輪側に集まりやすくなることから、保持器を内輪側に偏らせて設けることによって、保持器がグリースをせん断しにくくなり、グリースのせん断に起因する抵抗を小さくすることが可能となる。
【0012】
また、保持器が内輪又は外輪によって案内される場合において、前記ポケットは、軸方向他方側において開口しており、前記ポケットは、軸方向他方側の開口領域に、前記玉の直径よりも大きい間隔で周方向に対向して設けられている一対の平坦面を有しているのが好ましい。すなわち、周方向に対向する一対の平坦面の間がポケットの開口となり、これら一対の平坦面間の寸法は玉の直径よりも大きくなっている。
保持器が内輪又は外輪によって案内されることで、ポケットと玉とが外れる可能性が低いため、ポケットの開口(一対の平坦面の間隔)は玉の直径よりも大きくてよく、これにより、玉と保持器(ポケット)との間におけるグリースのせん断に起因する抵抗を抑える機能をより高めることができる。更に、保持器を組み立てる際、ポケットに玉を収容させる作業が容易となる。
【0013】
また、前記柱部は、前記玉と点接触可能であるのが好ましい。柱部が玉と点接触することで、玉との間の接触面積が小さくなって、グリースのせん断に起因する抵抗をより効果的に抑えることができる。
そして、前記柱部は、前記玉との接触点を基準として径方向外側及び径方向内側それぞれにおいて当該玉の直径の15%以下の範囲に存在しているのが好ましい。
この場合、保持器が玉を保持している範囲が径方向に関しても小さくなり、保持器を小さくすることができる。これにより、玉と保持器との間で生じるグリースのせん断をより効果的に減らすことができ、玉軸受の回転抵抗の低減に貢献することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、玉と保持器との間で生じるグリースのせん断を可及的に減らすことができ、この結果、このせん断に起因する抵抗を抑え、玉軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の玉軸受の実施の一形態を示す断面図である。この玉軸受1は、内輪2と、この内輪2の径方向外側に設けられている外輪3と、これら内輪2と外輪3との間に介在している複数の玉4と、これら玉4を保持している環状の保持器5とを備えている。
【0017】
図1に示す玉軸受1は、更に、軸方向両側に密封装置6を備えており、これら密封装置6によって、玉4及び保持器5が設けられている軸受内部のグリースが外部へ漏れるのを防いでいる。また、密封装置6は、外部の異物が軸受内部へ侵入するのを防止する機能も備えている。
【0018】
内輪2は環状の部材であり、その外周に、玉4が転動する内軌道溝21が形成されている。
図1に示す縦断面において、内軌道溝21は、玉4の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有している。また、内輪2は、内軌道溝21の軸方向一方側に第1の肩部22、及び、内軌道溝21の軸方向他方側に第2の肩部23を有している。
【0019】
外輪3は環状の部材であり、その内周に、玉4が転動する外軌道溝31が形成されている。
図1に示す縦断面において、外軌道溝31は、玉4の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有している。また、外輪3は、外軌道溝31の軸方向一方側に第1の肩部32、及び、外軌道溝31の軸方向他方側に第2の肩部33を有している。外輪3の軸方向両側部それぞれの内周面には、凹溝39が形成されており、この凹溝39に密封装置6が取り付けられている。本実施形態の玉軸受1は深溝玉軸受である。
【0020】
玉4は、内軌道溝21と外軌道溝31との間に複数介在しており、玉軸受1(内輪2)が回転すると、玉4は内軌道溝21及び外軌道溝31を転動する。玉4は、内軌道溝21のうちの最も深い点(領域S3)で接触し、外軌道溝31のうちの最も深い点(領域S1)で接触する。玉4は、軸受鋼等を用いて形成された鋼製の部材である。なお、内輪2及び外輪3は、軸受鋼や機械構造用鋼等の鋼製である。
【0021】
図2は、保持器5の一部を示す斜視図である。保持器5は、玉4の軸方向一方側に位置する環状部11と、この環状部11から軸方向他方側に延びて設けられている複数の柱部13とを有しており、いわゆる冠形の保持器である。また、保持器5は、環状部11から軸方向他方側に延びて設けられている複数のガイド部14を有している。環状部11は、円環形状の部分であり、内輪2(
図1参照)の肩部22と外輪3の肩部32との間に位置している。柱部13はすべて同じ形状であり、また、ガイド部14もすべて同じであり、ガイド部14それぞれは各柱部13の径方向内側に設けられている。保持器5は、樹脂製(合成樹脂製)であり、射出成形によって製造される。環状部11と柱部13とガイド部14は一体成形されており、保持器5は単一部材からなる。
【0022】
環状部11の軸方向他方側であって周方向で隣り合う一対の柱部13,13の間が、玉4を収容するポケット15となる。そして、ポケット15は、軸方向他方側において開口している。ポケット15は周方向に沿って複数形成されており、保持器5は、複数の玉4を周方向に間隔をあけて保持することができる。
【0023】
図1に示す密封装置6は、環状のシールド板であり、外周部(径方向外側の部分)が、外輪3の凹溝39に嵌合することで密封装置6は外輪3に取り付けられている。密封装置6の内周部(径方向内側の部分)は、内輪2(肩部22,23)と隙間を有して対向しており、この内周部によってラビリンスシールが構成される。なお、密封装置6は、図示しないが、環状の芯金と、この芯金に固定され内輪2に摺接するリップ部を有するゴム部材とを有するシールであってもよい。
【0024】
図3は、内輪2、外輪3、及び保持器5の断面図である。なお、
図3では、密封装置6を外した状態としている。保持器5は、前記のとおり、環状部11と柱部13とガイド部14とを備えている。
図2及び
図3に示すように、柱部13は玉4と接触させるための部分であり、ガイド部14は、内軌道溝21に接触させるための部分である。
【0025】
図3に示すように、柱部13は、環状部11の径方向外側部11bから軸方向他方側に向かって直線的に延びる部分である。ガイド部14は、環状部11の径方向内側部11aから軸方向他方側に向かって延びる部分である。なお、図示しないが、ガイド部14は、柱部13の軸方向一方側の部分(基部)から分岐して径方向内側に突出した構成であってもよい。
図3に示すように、ガイド部14は、内軌道溝21側に向かって径方向内側に突出する突出部14bを有している。ガイド部14と柱部13との間には欠損部16が形成されている。欠損部16は、柱部13の一部が断面において凹形状に切り欠かれることにより形成された部分である。
【0026】
図4は、内輪2、外輪3、玉4、及び保持器5の一部を軸方向から見た図である。
図5は、玉4がポケット15に収容されている状態にある保持器5を径方向外側から見た説明図である。ポケット15は、軸方向他方側において開口しており(
図5参照)、軸方向他方側の開口領域に、一対の平坦面17,17を有している。これら平坦面17,17は、玉4の直径Dよりも僅かに大きい間隔Eで周方向に対向して設けられている。ポケット15と玉4とが周方向について相対的に接近して、ポケット15に対して玉4が接触する点(接触点)44は、平坦面17上に位置する。
図4及び
図5では、平坦面17に対して玉4が接触可能となる点(接触点)を符号44としている。
図4に示すように、各平坦面17は、玉4との接触点44から内輪2側に向かうにしたがってこの玉4との間隔が広くなる面となっている。また、ポケット15は、環状部11が有する玉4側の面11c(
図5参照)と、この面11cと平坦面17との間の円弧面51とを有している。
【0027】
ガイド部14は、保持器5を径方向についての位置決めするための部分である。つまり、
図3に示すように、内輪2と保持器5とが同心状にある場合、ガイド部14の一部は内軌道溝21と隙間を有して対向した配置にあるが、保持器5が径方向に変位することで、ガイド部14の一部(接触部18)が、内軌道溝21に対して径方向から接触可能となっている。特にこのガイド部14は、内軌道溝21のうち玉4が接触する領域S3(以下、接触領域S3という。)以外の非接触領域S2において接触する。更に、ガイド部14は、内軌道溝21のうち前記非接触領域S2において、一箇所でのみ接触する。非接触領域S2は、玉4が接触する前記領域S3よりも肩部22側に寄った位置にある。なお、前記接触領域S3とは、軸受全体にアキシアル荷重が作用していない状態で玉4が接触する領域であり、また、前記非接触領域S2とは、軸受全体にアキシアル荷重が作用していない状態で玉4が非接触となる領域である。また、軸受全体にアキシアル荷重が作用していない状態は、外軌道溝31の軸方向についての中心、内軌道溝21の軸方向についての中心、及び、玉4の中心それぞれが、玉軸受1の中心線に直交する一つの面上に位置している状態となる。
この構成により、ガイド部14は、保持器5の径方向についての位置決めを行うことができる。なお、ガイド部14において内軌道溝21と接触する部分を接触部18という。
【0028】
また、内軌道溝21は凹円弧形状を有しており、この内軌道溝21内にガイド部14の(接触部18を含む)一部が位置している。このため、保持器5が軸方向一方側に変位すると、ガイド部14の一部(接触部18)が、内軌道溝21(非接触領域S2)に対して軸方向から接触可能である。これにより、ガイド部14は、保持器5が軸方向一方側に移動するのを規制して保持器5の位置決めを行うことができる。
そして、保持器5の環状部11(
図1参照)が有する玉4側の面11cは、保持器5が軸方向他方側に変位すると、玉4に対して軸方向から接触可能となっている。これにより、環状部11は、保持器5が軸方向他方側に移動するのを規制して保持器5の位置決めを行うことができる。この環状部11が有する面11cもポケット15の一部に含まれる。
【0029】
図6は、玉軸受1の中心線Cを含む断面における保持器5及びその周囲の形状を示す説明図である。なお、
図6では、前記断面上に玉4の中心が含まれると仮定した場合の当該玉4を、仮想線(二点鎖線)で示している。
図5及び
図6に示すように、玉4は、保持器5の柱部13の軸方向他方側の端部19から更に軸方向他方側の範囲A1で露出している。そして、この端部19から玉4が露出している前記範囲A1の軸方向寸法L1は、玉4の直径Dの30%以上であり50%以下となっている(D×30/100≦L1≦D×50/100)。なお、この軸方向寸法L1が玉4の直径Dの30%以上であり50%以下であるという構成は、玉4がポケット15において正規の位置に収容された状態(つまり、玉4とポケット15との間に形成される隙間が設計値とおりとなるようにこれら玉4とポケット15とを配置した状態)を前提としており、また、この状態は、玉4の中心とポケット15の中心とが一致した状態となる。玉4が保持器5の前記端部19から軸方向について露出している範囲A1は、従来よりも広い。
【0030】
この構成を備えている玉軸受1によれば、保持器5が玉4を保持している範囲は軸方向に関して小さくなり(狭くなり)、これにより、玉4と保持器5との間で生じるグリースのせん断を可及的に減らすことができる。この結果、玉軸受1が回転した場合に、グリースのせん断に起因する抵抗を抑えることができ、玉軸受1の回転抵抗(回転トルク)を低減することが可能となる。前記軸方向寸法L1を、玉4の直径Dの35%以上とすることもでき、この場合、グリースのせん断を減らす作用がより高まる。
玉4が露出している前記範囲A1の軸方向寸法L1が玉4の直径Dの30%未満であると、グリースのせん断を減らす作用が低下し、せん断に因る抵抗は従来と同等となる。また、軸方向寸法L1が、玉4の直径Dの50%を超えると、玉4がポケット15に接触した際に保持器5が玉4から脱落しようとする力が保持器5に作用し、好ましくない。
【0031】
また、
図6に示すように、柱部13は、玉4との接触点44を基準として外輪3側及び内輪2側それぞれにおいて、玉4の直径Dの15%以下の範囲に存在している。つまり、柱部13(平坦面17)における玉4の接触点44を基準(中心)として、玉4の直径Dの15%について外輪3側(径方向外側)に位置する仮想線L2と、玉4の直径Dの15%について内輪2側(径方向内側)に位置する仮想線L3との間の範囲を、
図6において「A2」で示しており、この範囲A2に柱部13は存在している。なお、この構成についても、玉4はポケット15において正規の位置に収容された状態を前提としている。この構成により、玉4が保持器5(柱部13)から径方向について露出している範囲は、従来よりも広くなる。
この構成によれば、保持器5が玉4を保持している範囲が径方向に関しても小さくなり、グリースのせん断に起因する抵抗をより効果的に抑えることができ、玉軸受1の回転抵抗の低減に貢献することができる。
【0032】
以上のように、柱部13が軸方向及び径方向に小さくされていることで、この柱部13を含む保持器5を(従来よりも)小さくすることができる。保持器5が小さくなると、内輪2と外輪3との間に存在するグリースを保持器5が撹拌する領域が小さくなるので、低トルク化が可能となる。また、保持器5を小さくすることで、軽量化、低コスト化が可能となる。
更に、本実施形態では、玉4は、柱部13(平坦面17)に対して点接触可能となっていることから、玉4と保持器5との間の接触面積が更に小さくなって、グリースのせん断に起因する抵抗を抑えることができる。
【0033】
本実施形態では、保持器5のガイド部14が内輪2の一部(内軌道溝21)に接触することで、保持器5を位置決めする構成となっている。つまり、保持器5は内輪2によって案内される構成となっている。このため、前記のとおり保持器5が玉4を保持している範囲が小さくても、内輪2と外輪3との間に介在している玉4に対して保持器5が脱落するのを防ぐことが可能となる。
【0034】
また、ガイド部14は、内軌道溝21において接触する構成であることから、保持器5を全体として内輪2側に偏らせて設けることが容易となり、保持器5がグリースをせん断することで生じる抵抗を小さくすることが可能となる。すなわち、内輪2と外輪3との間に形成されている環状空間に存在しているグリースは、玉軸受1が回転すると、遠心力によって外輪3側に集まりやすくなることから、保持器5を内輪2側に偏らせて設けることによって、保持器5がグリースをせん断しにくくなり、グリースのせん断に起因する抵抗を小さくすることが可能となる。
【0035】
また、前記のとおり、保持器5が内輪2によって案内されることで、ポケット15と玉4とが外れる可能性が低いため、ポケット15において(
図5参照)、周方向に対向する一対の平坦面17,17の間がポケット15の開口となっており、この開口(一対の平坦面17,17の間隔E)は玉4の直径Dよりも大きくてよい。これにより、玉4と保持器5(ポケット15の開口側)との間におけるグリースのせん断に起因する抵抗を抑える機能をより高めることができる。
【0036】
また、玉軸受1の組み立ては、先ず、内輪2と外輪3との間に複数の(全ての)玉4を配置させ、その後、これらの玉4に対して保持器5を軸方向一方側から接近させ、組み立てを行う。その後、グリースを、軸受内部に設け、密封装置6(
図1参照)を外輪3に取り付ける。そこで、前記のとおり、ポケット15の開口(一対の平坦面17,17の間隔E)が玉4の直径Dよりも大きいことから、保持器5を組み立てる際、ポケット15に玉4を収容させる作業が容易となる。
【0037】
図7は、保持器5の断面図である。
図7に示すように、保持器5は、保持器5を補強する補強部20を有している。補強部20は特にガイド部14を補強する。ガイド部14は、環状部11(又は柱部13)から、柱部13と分岐するようにして構成されている部分であるが、柱部13と比べて厚さ(径方向寸法)が薄くなっており、柱部13と比較して剛性が低くなる。そこで、本実施形態では、ガイド部14の基部14cに補強部20が設けられている。なお、
図7では、環状部11からガイド部14を内軌道溝21に向かってストレート状に伸ばして形成した場合の基部14cの輪郭線を、二点鎖線で示している。つまり、この二点鎖線で示す形態は、補強部20を有していない場合である。
補強部20は、ガイド部14の基部14cから、内輪2側及び軸方向一方側に膨らんでいる部分である。このようにガイド部14は膨らませた部分を有することで断面係数が大きくなり、剛性が増す。
この保持器5を内輪2と外輪3との間に組み付けるためには、ガイド部14を弾性変形させる必要があり、この際、ガイド部14の剛性が低いと、保持器5の組み付けの際に、基部14cが損傷する可能性があるが、本実施形態のように補強部20が設けられていることで、このような損傷を防ぐことが可能となる。
【0038】
前記実施形態では、保持器5は内輪2により位置決めされる場合について説明したが、外輪3により位置決めされる玉軸受であってもよい。この場合、図示しないが、ガイド部14が柱部13よりも外輪3側に設けられた構成とすればよい。つまり、
図1を参考にして説明すると、柱部13が有するガイド部14は、
外軌道溝31であって玉4が接触する領域S1(以下、接触領域S1という。)以外の非接触領域において接触することにより、保持器5の位置決めが行われる構成とすることができる。なお、前記接触領域S1とは、軸受全体にアキシアル荷重が作用していない状態で玉4が接触する領域であり、また、前記非接触領域とは、軸受全体にアキシアル荷重が作用していない状態で玉4が非接触となる領域である。また、軸受全体にアキシアル荷重が作用していない状態は、外軌道溝31の軸方向についての中心、内軌道溝21の軸方向についての中心、及び、玉4の中心それぞれが、玉軸受1の中心線に直交する一つの面上に位置している状態となる。
【0039】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の玉軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。前記実施形態では、玉軸受が深溝玉軸受である場合について説明したが、アンギュラ玉軸受であってもよい。