(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903872
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルム積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20210701BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20210701BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20210701BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20210701BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20210701BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20210701BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20210701BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20210701BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/00 B
C23C16/40
C23C16/42
C23C16/34
C23C16/32
H05B33/04
H05B33/02
H05B33/14 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-127342(P2016-127342)
(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公開番号】特開2017-119418(P2017-119418A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-256179(P2015-256179)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 恭子
(72)【発明者】
【氏名】相馬 宗尚
【審査官】
飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−226673(JP,A)
【文献】
特表2011−518055(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0009264(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C23C 16/32
C23C 16/34
C23C 16/40
C23C 16/42
H01L 51/50
H05B 33/02
H05B 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材フィルム上にALD法により一層の無機ガスバリア膜を積層し、
前記無機ガスバリア膜上に、CVD法により、酸化ケイ素(SiO2)または窒化ケイ素(SiN)または酸窒化ケイ素(SiON)の膜を少なくとも一層積層し、
前記酸化ケイ素または窒化ケイ素または酸窒化ケイ素の膜の表面全体を覆うようにレジスト層を積層し、
前記レジスト層が積層されたガスバリアフィルム積層体の表面を全面ドライエッチングバックすることにより前記レジスト層と前記酸化ケイ素または窒化ケイ素または酸窒化ケイ素の膜の一部とを除去し、ガスバリアフィルム積層体表面の表面最大高低差を100nm以下とする、ガスバリアフィルム積層体の製造方法。
【請求項2】
樹脂基材フィルム上にALD法により一層の無機ガスバリア膜を積層し、
前記無機ガスバリア膜上に、CVD法により、酸化ケイ素(SiO2)または窒化ケイ素(SiN)または酸窒化ケイ素(SiON)の膜を少なくとも一層積層し、
前記酸化ケイ素または窒化ケイ素または酸窒化ケイ素の膜の表面に、前記酸化ケイ素または窒化ケイ素または酸窒化ケイ素の膜の最大高低差より薄い膜厚のレジスト層を積層し、
前記レジスト層が積層されたガスバリアフィルム積層体の表面を全面ウェットエッチングバックすることにより前記酸化ケイ素または窒化ケイ素または酸窒化ケイ素の膜の一部を除去した後、前記レジスト層を除去し、ガスバリアフィルム積層体表面の表面最大高低差を100nm以下とする、ガスバリアフィルム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルム積層体、ガスバリアフィルム積層体の製造方法およびガスバリアフィルム積層体を用いた有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリアフィルム分野においては、従来の食品包装用途のほか、電子部品用途の製品開発が盛んになされている。電子部品用途としては、製品の梱包材としてのみならず、例えば石油代替エネルギーとして有望視される太陽電池など、その特性が水分により劣化する装置の保護フィルムとして使用されつつある。
【0003】
水分により劣化する装置のうち、極めて敏感であるのが薄型ディスプレイとして着目される有機EL装置である。
【0004】
有機EL装置は、有機物質からなるごく薄い発光層の両サイドに電極を配置し、一方は正孔を注入する陽極、もう一方は電子を注入する陰極として発光層に電流を流すことで発光させている。この電極は、発光した光を取り出すため一方が透明である必要がある。そのため、仕事関数の関係から一般に陽極を透明金属酸化物からなるものとし、陰極は金属電極とすることが多い。
【0005】
しかし、一般に有機発光層や電極材料は水分や酸素により化学変化をおこし、電荷注入が効率的に行われなくなる場合がある。特に水分により有機EL装置の発光輝度は低下し、最終的にはダークスポットと呼ばれる非発光領域が発生する。
【0006】
このダークスポットを抑制するために、かねてから様々な手法が確立されている。一つは、有機EL装置を作製する際、特に電極および有機発光層を成膜する工程をN2や希ガスなどの不活性雰囲気中で行うことである。また、有機EL装置を大気中の水分から保護するために、金属やガラスからなるキャップ型カバーで完全に封止する。さらには有機EL装置と封止キャップとの間に封じられる雰囲気は不活性ガスとなるようにする。つまり、成膜から封止までの工程をすべて不活性雰囲気下で行うのが一般的である。
【0007】
こうして作製された有機EL装置においては、許容される外部からの水蒸気透過率が10
−3g/m
2/day以下であるとされている。
【0008】
一方、近年では有機EL装置の多様化によりそれ自身にフレキシブル性が求められようになり、フレキシブル型有機EL装置と呼ばれる樹脂基材フィルム上に有機EL素子が形成された装置の開発がなされている。フレキシブル型有機EL装置はフレキシブル性を維持するため、従来のように基材に厚いガラス材を用いる事は出来ず、また、金属やガラス材で封止することが出来ない。そのため、ガラスや金属と同等の水蒸気透過率を持つフレキシブル素材、つまりはハイガスバリアフィルムが嘱望されている。
【0009】
ハイガスバリアフィルムとは、樹脂基材フィルム上に水蒸気の透過を抑制するガスバリア膜と呼ばれる無機薄膜層あるいは有機薄膜層をコーティングしたものである。樹脂基材フィルムとしてよく知られるものにはポリオレフィンフィルム、アクリルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene trephthalate:PET)やポリエチレンナフタレート(Polyehylene naphtalate:PEN)などのポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルムなどがある。これら樹脂基材フィルム上にガスバリア膜をコーティングするには、ガスバリア膜が例えばアルミニウム(Al)や酸化アルミニウム(Al
2O
3)や酸化シリコン(SiO
2)などの無機薄膜層である場合、真空蒸着法やスパッタリング法や化学蒸着法(Chemical Vaper Deposition:CVD)により成膜し、有機薄膜である場合樹脂を溶剤に溶かし塗布するウェットコーティング法で成膜するのが一般的である。
【0010】
ところで、ガスバリアフィルムにおけるガス透過にはいくつかのモードがある。一つはガスバリア膜と透過ガスとの相互作用、つまりは親和性や反応性など化学的性質に基づくモードである。別のモードは、ガスバリア膜の形態や緻密性に由来するもので、ガスバリア膜を構成する粒子の粒界やガスバリア膜のピンホールを経路としガスが透過していくものである。
【0011】
ガスバリア膜の形態に由来するモードについて、ガス透過を抑制するべく様々な開発が開示されている。
【0012】
代表的な例は、ガスバリア膜のピンホール欠陥を無くすために樹脂基材フィルム上の異物や傷などを極力減らす方法である。特許文献1では2軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを用いた蒸着ガスバリアフィルムが開示され、樹脂基材フィルムの蒸着膜形成面における陥没を伴う突起の数や表面粗さを限定し、また樹脂基材フィルム中に存在する異物の大きさや個数を限定している。特許文献2では、樹脂基材フィルム上にエポキシ化合物からなる樹脂薄膜層を積層し、さらに樹脂薄膜層上に真空成膜法により無機酸化物を蒸着積層し表面平均粗さを4nm以下にした積層体が開示されている。
【0013】
また、樹脂基材フィルム上の傷や異物によりガスバリア膜にピンホールがあった場合でも、ガス透過経路を長くしガス透過を遅延させることでガスバリア性を高めた開発も開示されている。特許文献3では、樹脂基材フィルム上に、SiO
2などからなる透明無機ガスバリア膜とゾルゲル法によるポリマー膜を交互に積層し、ガスバリア膜のピンホールをポリマー膜で埋めることによりガス透過を遅延させる技術が開示されている。特許文献4では、ケイ素(Si)、酸素(O)、炭素(C)からなる無機ガスバリア膜上に、ポリメトキシシロキサンおよび有機ケイ素化合物およびアルミニウム化合物からなる無機一有機ハイブリッドポリマー膜を積層し、ポリマー膜のガスバリア性も付加したガスバリアフィルムが開示されている。
【0014】
無機ガスバリア膜の緻密性を高くすべく、成膜方法の検討も行われている。前述した従来の成膜方法に加え近年では原子層堆積法(Atomic Layer DepoSition:ALD)によるガスバリア膜の形成も多く開発されている。
【0015】
ALD法は、表面吸着した物質を表面における化学反応によって原子レベルで一層ずつ成膜していく方法である。前駆体またはプリカーサとも云われる活性に富んだガスと反応性ガスを交互に用い、基板表面における吸着と、これに続く化学反応によって原子レベルで一層ずつ薄膜を成長させていく特殊な成膜方法である。
【0016】
ALD法の具体的な成膜方法は、基板表面がある種のガスで覆われると、それ以上そのガスの吸着が生じない、いわゆるセルフ・リミッテイング効果を利用し、前駆体が一層のみ吸着したところで未反応の前駆体を排気する。続いて、反応性ガスを導入して、先の前駆体を酸化または還元させて所望の組成を有する薄膜を一層のみ得たのちに反応性ガスを排気する。このような処理を1サイクルとし、このサイクルを繰り返して薄膜を成長させていくものである。したがって、ALD法では薄膜は2次元的に成長する。また、ALD法は、従来の成膜方法と比較して、成膜欠陥が少ないことが特徴である。
【0017】
また、ALD法は、他の成膜法と比較して斜影効果(成膜粒子が基板表面に斜めに入射して成膜バラツキが生じる現象)が無いなどの特徴があるため、ガスが入り込める隙間があれば一様な成膜が可能である。樹脂基材フィルム上の凹凸のある傷について、従来の成膜法は成膜粒子が凹凸部を完全に覆うことが不可能であるのに対し、ALD法は凹凸に追従するように成膜することが可能であるため、ピンホール欠陥が著しく低減できる。
【0018】
特許文献5ではALD法により樹脂基材フィルム上に無機ガスバリア膜を形成する技術が開示され、数十nmの厚さにおいて桁違いでガス透過を低減させることが可能な光透過性バリアフィルムを実現している。
【0019】
さらに、特許文献6では、ALD法を用いて樹脂基材フィルム上にガスバリア膜を形成するための成膜装置に関する技術が開示されている。この技術によれば、コンベアに樹脂基材フィルムを搭載し真空チャンバー内を貫通移動させる流れの中でコンベアに搭載された樹脂基材フィルムの表面にALD膜を形成している。さらに、ALD膜が積層された樹脂基材フィルムを巻取りドラムに巻き取ることによって、ガスバリア性の高いガスバリアフィルムを高速生産している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第5151000号公報
【特許文献2】特許第4014931号公報
【特許文献3】特開2005−288851号公報
【特許文献4】特開2014−141055号公報
【特許文献5】特表2007−516347号公報
【特許文献6】特表2007−522344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献1および特許文献2で開示されるガスバリアフィルムは水蒸気透過度が1g/m
2/day程度のため、有機EL装置用途としてのガスバリア性が十分ではないという問題があった。また、特許文献3および特許文献4で開示されるガスバリアフィルムはガスバリア膜の総計が100nm以上必要であり生産性の問題があった。
【0022】
また、特許文献5で開示されるガスバリアフィルムおよび特許文献6で開示される製造方法によるガスバリアフィルムは、基材の凹凸に追従した薄膜ALDガスバリア膜により1×10
−3g/m
2/day程度とガスバリア性能が著しく向上したものの、有機EL装置のダークスポットを完全に抑制するには十分ではないという問題があった。
【0023】
有機EL装置のダークスポットを抑制するためにはガスバリアフィルムの高いガスバリア性能に加え表面凹凸を極力抑える必要がある。なぜならば、有機EL装置を構成する有機発光層や電極などの部材は数十nmの厚みであり、有機EL装置基材表面に存在する凹凸により容易に有機EL装置部材に欠陥が形成されてしまう。ガスバリアフィルムに使用される樹脂基材フィルムには元来表面キズが存在し、表面キズの突起部は高さ数百nm以上に及ぶ。これまで、突起を含む樹脂基材フィルムからなるガスバリアフィルム、更にはこの積層体を基材とする有機EL装置部材の欠陥は避けがたいものであった。
【0024】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ガスバリア膜が単層の単純な構造であり、40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率が5×10
−4g/m
2/day以下であり、更に、表面凹凸が少ないガスバリアフィルム積層体、ガスバリアフィルム積層体の製造方法およびガスバリアフィルム積層体を用いた有機EL装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係るガスバリアフィルム積層体は、樹脂基材フィルムに積層される一層の無機ガスバリア膜と、無機ガスバリア膜上に積層される少なくとも一層のパッシベーション膜とを有し、パッシベーション膜表面の表面最大高低差が100nm以下であり、40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率が5×10
−4g/m
2/day以下であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、無機ガスバリア膜の細孔半径が0.15nm以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、無機ガスバリア膜の膜厚が10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0028】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、無機ガスバリア膜が金属酸化物または金属窒化物または金属炭化物であることが好ましい。
【0029】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、金属がアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、セリウム(Ce)、それらの混合物のいずれかであることが好ましい。
【0030】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、パッシベーション膜が酸化ケイ素(SiO
2)または窒化ケイ素(SiN)または酸窒化ケイ素(SiON)であることが好ましい。
【0031】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、樹脂基材フィルムの40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率が5g/m
2/day以下であることが好ましい。
【0032】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、樹脂基材フィルムが、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂のいずれかであることが好ましい。
【0033】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体では、樹脂基材フィルムの厚みが50μm以上であることが好ましい。
【0034】
本発明に係るガスバリアフィルム積層体の製造方法では、樹脂基材フィルムにALD法により一層の無機ガスバリア膜を積層し、無機ガスバリア膜上にケイ素化合物からなるパッシベーション膜を少なくとも一層積層し、パッシベーション膜の表面全体を覆うようにレジスト層を積層し、レジスト層が積層されたガスバリアフィルム積層体の表面を全面ドライエッチングバックすることによりレジスト層とパッシベーション膜の一部とを除去し、ガスバリアフィルム積層体表面の表面最大高低差を100nm以下とすることを特徴とする。
【0035】
あるいは、本発明に係るガスバリアフィルム積層体は、樹脂基材フィルム上にALD法により一層の無機ガスバリア膜を積層し、無機ガスバリア膜上にケイ素化合物からなるパッシベーション膜を少なくとも一層積層し、パッシベーション膜の表面に、パッシベーション層の最大高低差より薄い膜厚のレジスト層を積層し、レジスト層が積層されたガスバリアフィルム積層体の表面を全面ウェットエッチングバックすることによりパッシベーション膜の一部を除去し、ガスバリアフィルム積層体表面の表面最大高低差を100nm以下とすることによって製造しても良い。
【0036】
また、本発明に係るガスバリアフィルム積層体の製造方法では、パッシベーション膜をCVD法により成膜しても良い。
【0037】
また、本発明に係る有機EL装置は、基材および封止材の少なくとも一方が上記のガスバリアフィルム積層体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率が5×10
−4g/m
2/day以下であり、かつ表面凹凸が少ないガスバリアフィルムを提供することが可能となり、また前記ガスバリアフィルムを用いることによりダークスポットの少ない有機EL装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第1の製造方法を示す図であって、パッシベーション膜成膜後のガスバリアフィルム積層体の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第1の製造方法を示す図であって、レジスト塗布後のガスバリアフィルム積層体の断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第1の製造方法を示す図であって、レジストおよびパッシベーション膜のドライエッチング後のガスバリアフィルム積層体の断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第2の製造方法を示す図であって、パッシベーション膜成膜後のガスバリアフィルム積層体の断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第2の製造方法を示す図であって、レジスト塗布後のガスバリアフィルム積層体の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第2の製造方法を示す図であって、ウェットエッチング後のガスバリアフィルム積層体の断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る有機EL装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<ガスバリアフィルム積層体の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体1の一例を示す断面図である。
【0041】
図1に示すように、ガスバリアフィルム積層体1は、樹脂基材フィルム2上に無機ガスバリア膜3およびパッシベーション膜4を積層した構成となっている。
【0042】
ここで、樹脂基材フィルム2の材質はポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂が選択できるが、水蒸気透過率および酸素透過率のいずれも低いPETあるいはPEN等のポリエステル系樹脂が好ましい。更には耐熱性の観点からPENフィルムがより好適である。また、樹脂基材フィルム2自身のガス透過率はフィルムの厚みに依存するため、より高いガス透過率を得るために厚みは50μm以上とし、その水蒸気透過率は5g/m
2/day以下である。
【0043】
無機ガスバリア膜3は、ALD法で成膜される金属酸化物または金属窒化物または金属炭化物などの透明セラミック薄膜である。一般的にバリア膜が樹脂材料の場合、高分子同士の網目間相互作用により自由体積が高くなりガスが透過しやすくなるが、セラミック膜は自由体積が低いためガスが透過し難い。更にALD法で成膜される無機ガスバリア膜3は、前述のように2次元的に成長するため他の成膜方法で形成された膜より緻密でその平均細孔半径は水蒸気の分子半径より小さい0.15nm以下となる。かつ、ALD法で成膜される無機ガスバリア膜3は、樹脂基材フィルムの微細な凹凸にも追従するよう成膜されることから極めて欠陥が少ない。前記金属としてはAl、Si、Ti、Zn、zr、Nb、Sn、Hf、Ta、Ceが挙げられるが、ガスバリアフィルム積層体1の使用用途によりその組成は選定される。例えばボトムエミッション型有機EL装置の基材として使用される場合高い光線透過率に加え絶縁性が必要となるためSiO
2やAl
2O
3が適当である。
【0044】
樹脂基材フィルム2上の無機ガスバリア膜3が10nm以上の膜厚である場合、その水蒸気透過率は5×10
―4g/m
2/day以下となるため、ガスバリア性能の観点では10nm以上の膜厚があれば十分であるが、膜厚が厚くなると屈曲に対して無機ガスバリア膜3が割れやすくなり、クラック、すなわち線状の膜欠陥が発生する。このため、無機ガスバリア膜3は100nm以下とする。
【0045】
パッシベーション膜4は、透明性が高くかつ薬品耐久性のあるSiO
2またはSiNまたはSiON膜である。また、パッシベーション膜4の膜厚は、樹脂基材フィルムの突起高さ以上である必要があり、300nm以上、好ましくは500nm以上である。パッシベーション膜4は無機ガスバリア膜3上に接していてもよいが、無機ガスバリア膜3との間に樹脂コート膜などの緩衝層(図示せず)を設けてもよい。
【0046】
<ガスバリアフィルム積層体の製造方法の実施形態>
ガスバリアフィルム積層体1の製造方法の実施形態について説明する。本実施形態に係るガスバリアフィルム積層体1は、以下に説明する第1の製造方法及び第2の製造方法のいずれかにより製造することができる。
【0047】
(第1の製造方法)
図2〜4は、本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第1の製造方法を示す図である。
【0048】
まず、樹脂基材フィルム2を用意する。一般的に樹脂基材フィルム2は原料樹脂を加熱加圧し、ダイスリットから出てきた樹脂を流れ方向(MD)および幅方向(TD)の二軸に延伸しフィルム化する。作製された基材樹脂フィルムは所望の幅に分割(スリット)され、それぞれロール状に巻取られる。
【0049】
このように作製された樹脂基材フィルム2は、製造装置やスリッターの搬送ローラーに接触したり、あるいは巻き取り中にフィルムロールに異物が挟みこまれたりして、表面に300nm以上の突起状の変形が発生していることが多々ある。また、樹脂基材フィルム2の表面には、環境浮遊物やスリット時の切り屑が付着しているため、無機ガスバリア膜3を形成する前に樹脂基材フィルム2を洗浄してもよい。樹脂基材フィルム2の洗浄手段は、フィルム接触式のラバーローラー洗浄法や、超音波が印加されたエアを高圧で吹き付ける超音波ドライエア洗浄法や、水および薬品によるウェット洗浄法などから選択される。
【0050】
次に、
図2に示すように、樹脂基材フィルム2にALD法により無機ガスバリア層3を形成する。樹脂基材フィルム2をALD成膜装置の成膜チャンバー内に静置させ、チャンバー内を真空引きする。次に、無機ガスバリア膜3がAl
2O
3である場合、Alを含む有機アルミニウム化合物(トリメチルアルミニウム:TMA)前駆体をチャンバーに導入する。これにより樹脂基材フィルム2にTMAを吸着させ一定時間余剰前駆体をパージすると、1分子層分のTMAが基材樹脂フィルム2の表面に吸着する。
【0051】
続いて、反応性ガスとして水(H
2O)あるいはオゾン(O
3)あるいはプラズマ化された酸素(O
2)などをチャンバーに導入し、TMAを酸化させ、その後余剰の反応性ガスをパージする。
【0052】
この一連の工程を1サイクルとし、所望の厚さになるまでサイクルを繰り返すことで樹脂基材フィルム2上に無機ガスバリア膜3が形成される。このとき、樹脂基材フィルム2の突起部では、無機バリア膜3は突起部に追従して成膜される。
【0053】
次に、
図2に示すように、無機ガスバリア膜3の上にSiO
2もしくはSiNもしくはSiONからなるパッシベーション膜4をCVD法により形成する。無機ガスバリア膜3が形成された樹脂基材フィルム2をCVD成膜装置の成膜チャンバー内の下部電極上に静置させ、チャンバー内を真空引きする。次に、無機ガスバリア膜3がSiO
2である場合、Siを含む有機シリコン化合物前駆体とO
2ガスおよび希釈ガスをチャンバーに導入し、上部電極および下部電極に高周波を印加すると対向電極間でO
2プラズマが形成される。このO
2プラズマにより有機シリコン化合物がSiO
2へと酸化される。所望の厚さになるまで成膜することで無機ガスバリア膜3上にパッシベーション膜4が形成される。このとき、パッシベーション膜4の膜厚は樹脂基材フィルム2上の突起の高さより厚くする必要があるため、300nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましい。しかし、
図2に示すとおり、パッシベーション膜4の表面には、依然として最大高低差が約250nm程度の突起部が存在する。
【0054】
次に、
図3に示すように、パッシベーション膜4の上に、パッシベーション膜4の表面全体を覆うようにレジスト膜5を塗布する。レジスト膜5は、後述するドライエッチングにおいて、ドライエッチングガスにおける反応選択比がエッチング対象物であるパッシベーション膜4と等しくなるものを選択する。このとき、
図3に示すとおり、レジスト膜5は液状塗布膜のため表面高低差はほぼ緩和され100nm以下となる。レジスト膜5の膜厚は500nm以上が好ましい。
【0055】
続いて、レジスト膜5が成膜された樹脂基材フィルムをドライエッチング法によりエッチングする。パッシベーション膜4とレジスト膜5はエッチングガスに対し反応選択比が同じため、エッチング時間に依存して表面から一様にエッチングされる。つまり、レジスト膜5がすべてエッチングされるとき、パッシベーション膜4の突起部はレジスト膜5とともにエッチングされ、結果としてパッシベーション膜4は、
図4に示すとおり、最大高低差が100nm以下の平坦な膜となる。
【0056】
このようにして、ガスバリアフィルム積層体1は製造される。
【0057】
(第2の製造方法)
図5〜7は、本発明の実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の第2の製造方法を示す図である。
【0058】
まず、
図5に示すように、樹脂基材フィルム2上に無機ガスバリア膜3とパッシベーション膜4とを積層する。無機ガスバリア膜3及びパッシベーション膜4は、第1の製造方法で説明した方法により成膜できる。
【0059】
次に、
図6に示すように、パッシベーション膜4の上に、レジスト膜5をスピンコート法などで塗布する。レジスト膜5の膜厚は、パッシベーション膜4の表面の最大高低差より薄くする。また、パッシベーション膜4の最大高低差を100nm以下にする場合、レジスト膜5の膜厚は100nm以下であることが好ましい。このとき、
図6に示すとおり、レジスト膜5は液状塗布膜のため、パッシベーション膜4の突起部にはレジストが塗布されず、突起部上のパッシベーション膜4がレジスト膜5から露出する。
【0060】
続いて、レジスト膜5が成膜されたパッシベーション膜4の表面を希フッ酸もしくはリン酸によりウェットエッチングする。このとき、レジスト膜5がパッシベーション膜4を被覆していない部分、すなわちパッシベーション膜4の突起部のみがエッチングされ、
図7に示すとおり、パッシベーション膜4は最大高低差が100nm以下の平坦な膜となる。その後、レジスト膜5を剥離することにより、ガスバリアフィルム積層体1を得ることができる。
【0061】
<有機EL装置の実施形態>
図8は、本発明に係る有機EL装置6の一例を示す断面図である。
【0062】
有機EL装置6は、ガスバリアフィルム積層体1のパッシベーション膜4上に、陽極7、正孔注入層8、正孔輸送層9、発光層10、電子輸送層11および陰極12がこの順に積層され、更に全ての層を覆うように上部にキャップ封止材13を樹脂接着材14で貼付した構造となっている。
【実施例】
【0063】
次に、上記の実施形態に基づいて実現したガスバリアフィルム積層体の具体的な実施例について説明する。
【0064】
<実施例1>
まず、水蒸気バリアフィルム積層体を作成した。このとき、基材には水蒸気透過率が4.7g/m
2/dayを示す厚み100μm、最大高低差約400nmのPETフィルムを用いた。シート状に切り出したPETフィルムをノズル式超音波洗浄機の冶具に表面を上にした状態で固定し、950kHz超音波印加純水を吐出させ洗浄した。その後直ちにエアナイフ装置にてPETフィルム表面に0.5MPaおよび流速50m/sの条件で乾燥空気を噴出させ乾燥し、続いてクリーンオーブン内に洗浄後のPETフィルムを静置させ、80℃で24時間乾燥を行った。
【0065】
次に、乾燥後のPETフィルムにALD−Al
2O
3膜を成膜した。ALD成膜装置チャンバー内の基板ステージにPETフィルムを載置し、基板ステージを90℃に保持し、チャンバーを密閉したのち真空ポンプで排気した。次に、チャンバー内にキャリアガスN2とともに前駆体TMAを60msec導入し、PETフィルム表面に吸着させたのち、N2を流しながら10sec排気し余剰TMAをパージした。
【0066】
続いて、チャンバーにキャリアガスN
2とともに反応ガスであるH
2Oを60msec導入し、TMAとH
2Oを反応させAl
2O
3を成膜した。その後、N
2を流しながら10sec排気し余剰H
2Oをパージした。これらTMA導入から余剰H
2Oパージまでの一連の作業を1サイクルとし、138サイクル繰り返しAl
2O
3を成膜した。このとき形成されたAl
2O
3の膜厚は24.0nmであった。
【0067】
続いて、ALD−Al
2O
3膜上にCVD−SiO
2を成膜した。プラズマ(PE)CVD成膜装置のチャンバーに搭載される下部電極上にALD−Al
2O
3が成膜されたPETフィルムを載置し、密閉したのち真空ポンプで排気を行った。原料にはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用い、O
2およびアルゴン(Ar)ガスを反応ガスとして用いた。成膜は、全圧5.0Pa、基板温度80℃、放電電源周波数13.56MHz、電力100W、の条件で約800nmの膜厚のCVD−SiO
2膜を成膜し、積層体を作製した。このとき、CVD−SiO
2膜表面の最大高低差は318nmであった。
【0068】
続いて、CVD−SiO
2膜上にレジストを塗布した。レジストは、ドライエッチングに対しSiO
2膜と選択比が1となるものを選択し、スピンコート法にて回転数3000rpmにて塗布した。このときレジスト膜厚は約500nmであった。
【0069】
続いて、反応性イオンエッチング装置にてレジストが塗布された積層体の表面をドライエッチング法により全面エッチングした。レジストが塗布された積層体を電極ステージに載置し、密閉したのちポンプで排気をおこなった。エッチングガスにはC
4F
8/CO/Arの混合ガスを用い、電力密度3.0W/cm
2、全圧5.0Pa、基板温度30℃で処理を行った。まずレジスト膜厚に相当する約500nmをエッチングし、そのまま同じエッチング条件でCVD−SiO
2膜を約200nmエッチングした。このとき、露出したCVD−SiO
2膜の表面は最大高低差が78nmであった。
【0070】
作製した水蒸気バリアフィルム積層体の水蒸気透過率は、カルシウム(Ca)腐食法で確認した。上記水蒸気バリアフィルム積層体のパッシベーション膜上に真空蒸着法にてCaを100nm、続いてCa上にAlを1μmそれぞれ成膜した。成膜面積はCaが1cm角、AlはCaを覆うように、2cm角とした。CaおよびAlを積層した水蒸気バリアフィルム積層体をガラス板に樹脂接着剤を用いて貼り付け水蒸気透過率測定用構造体を作製した。
【0071】
実施例1に係る水蒸気バリアフィルム積層体を40℃かつ90%の温湿度で所定時間保持し、Ca全面の腐食面積率を経時で計測しながら水蒸気透過率を算出したところ、6.4×10
−5g/m
2/dayであった。
【0072】
次に、作製した水蒸気バリアフィルム積層体に有機EL素子を形成した。水蒸気バリアフィルム上に、取り出し電極を形成したのち、陽極および正孔注入層および正孔輸送層および発光層を順にスピンコート法にて塗布した。次に電子注入層および陰極を真空蒸着により成膜し、窒素雰囲気下においてキャップ封止層を樹脂接着剤で貼付した。
【0073】
実施例1に係る有機EL素子を40℃/90%の湿熱環境下で168h保管し、点灯試験を行ったところ、100〜800μmのダークスポットが1cm
2あたり4個確認された。
【0074】
<実施例2>
実施例1と同じ材料及び製造方法により、PETフィルム上に、ALD−Al
2O
3膜とCVD−SiO
2膜とを成膜した。Al
2O
3膜及びSiO
2膜の膜厚、SiO
2膜表面の最大高低差は、実施例1と同じである。
【0075】
続いて、CVD−SiO2膜上にレジストを塗布した。レジストは、スピンコート法にて回転数4000rpmにて塗布した。このときレジスト膜厚は108nmであった。
【0076】
続いて、レジストが塗布された積層体を希フッ酸にて全面エッチングした。積層体をフッ素樹脂板上に固定載置後500rpmにて回転させ、積層体のレジスト面にスプレイ式ノズルにて5%フッ酸を30秒スプレイした。その後リンスノズルから純水をかけ、希フッ酸を十分に洗浄後3000rpmにてスピン乾燥した。
【0077】
続いて、希フッ酸にて全面エッチングした積層体上のレジストを酸素アッシング処理により除去した。このとき、露出したCVD−SiO2膜の表面は最大高低差が92nmであった。
【0078】
実施例2に係る水蒸気バリアフィルム積層体の水蒸気透過率は、上述したカルシウム(Ca)腐食法で測定したところ、8.2×10
−5g/m
2/dayであった。
【0079】
次に、実施例2に係る水蒸気バリアフィルム積層体に、上述した方法により有機EL素子を形成した。作製した有機EL素子を40℃/90%の湿熱環境下で168h保管し、点灯試験を行ったところ、100〜800μmのダークスポットが1cm
2あたり12個確認された。
【0080】
<比較例1>
実施例1と同じ材料及び製造方法により、PETフィルム上にALD−Al
2O
3膜を成膜し、ALD−Al
2O
3上にCVD−SiO
2膜を600nm成膜し、成膜後にドライエッチバックを行わず水蒸気バリアフィルムを作製した。作成後Ca法により水蒸気透過率を測定したところ、3.8×10
−4g/m
2/dayであった。そののち実施例1と同じ条件で有機EL素子を作製し、40℃/90%の湿熱環境下で168h保管したのち点灯試験したところ、100〜800μmのダークスポットが1cm
2あたり81個であった。
【0081】
以上のように、本発明によれば40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率が5×10−
4g/m
2/day以下であるハイガスバリアフィルムおよびダークスポットの少ない有機EL装置を提供できることが確認できた。
【0082】
本発明に係る積層体の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、本発明の具体的な構成は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、それらは本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ガスバリアフィルムに利用でき、特に、有機EL装置の基材として用いるガスバリアフィルムに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0084】
1 ガスバリアフィルム積層体
2 樹脂基材フィルム
3 無機ガスバリア膜
4 パッシベーション膜
5 レジスト膜
6 有機EL装置
7 陽極
8 正孔注入層
9 正孔輸送層
10 発光層
11 電子輸送層
12 陰極
13 キャップ封止材
14 樹脂接着剤