【実施例】
【0041】
以下に、実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【0042】
<実施例1>
(位相シフトマスクブランクの製造プロセス)
本実施例では、本発明の位相シフトマスクブランクを得るための製造プロセスを説明する。特に、遮光膜の下部から上部にかけての酸素含有量を変化させることで、漸次的にエッチングレートを変化させた場合について記載する。
【0043】
〔位相シフト膜〕
位相シフト膜の成膜は、マグネトロンスパッタリング装置を用いて行った。この位相シフト膜は、珪素の酸化物、窒化物、または酸化窒化物、もしくは珪素と遷移金属の酸化物、窒化物、または酸化窒化物で成膜することが好ましい。したがって、位相シフト膜をどの化合物で形成するかに応じてスパッタリング用のターゲットが選択され、ハードマスク層と概ね同様の条件下で成膜がなされる。
【0044】
位相シフト膜は、互いに異なる組成の膜を積層させた複合膜とすることもできる。このような位相シフト膜は、上記で列挙した材料からなる単層膜あるいは多層膜の透過率が2〜40%、位相シフト量が約180°となるように膜組成が設計される。具体的な成膜例は以下のとおりである。
【0045】
先ず、マグネトロンスパッタ装置を用いて成膜した。スパッタリングターゲット(スパッタリング面の面積:直径6インチ)としてMoSi
4焼結体を使用し、MoSi
4ターゲットに直流モードで1000Wの放電電力を印加して、フォトマスクブランク用基板を30rpmで回転させながらスパッタ成膜を行い、基板上に70nmの厚みの光学調整層を成膜した。スパッタガスは、流量8sccmのAr、流量20sccmのN
2、および流量5sccmのO
2の混合ガスとした。また、スパッタ時のチャンバ内ガス圧力は0.15Paに設定した。なお、スパッタガスを導入する直前の到達真空度は、1.0×10
−4Paとし、基板温度は、制御しなかった。また、スパッタリングターゲットと基板間の距離は、30mmとした。
【0046】
次に、スパッタガスを15sccmのAr、100sccmのN
2、および1sccmのO
2の混合ガスに変更し、基板を30rpmで回転させながら、ガス圧力0.25Pa(その他は、光学調整層の条件と同じ)にて厚み40nmの低応力層を成膜した。
【0047】
更に、スパッタガスを5sccmのAr、50sccmのN
2、および5sccmのO
2の混合ガスに変更し、基板を30rpmで回転させながら、ガス圧力0.10Pa(その他は、光学調整層の条件と同じ)にて20nmに示される厚みの表面層を成膜した。位相シフト膜は、光学調整層、低応力層、表面層のこれら3層からなる。
【0048】
〔遮光膜〕
次に位相シフト膜上に成膜する遮光膜の成膜方法を示す。
同じマグネトロンスパッタ装置を用いて真空を破らずに、クロムターゲットを用い、位相シフト膜上にクロムを主な材料とした遮光膜を成膜した。スパッタリングガスとしてはArを用い、流量はArガスを10sccm、N
2ガスを2sccm、O
2ガスを2sccmから10sccmの範囲でチャンバ内に導入し、チャンバ内ガス圧が0.1Paになるように設定した。そして、成膜前加熱温度を120℃とし、クロムターゲットに直流モードで1000Wの放電電力を印加して、基板を30rpmで回転させながら、膜厚50nmの酸化窒化クロム膜を成膜し、これを遮光膜とした。この際に、O
2ガスの流量を、成膜開始時を10sccmに設定し、連続的に徐々に2sccmまで変化させながら成膜を行うことで、O
2含有量が漸次的に変化する組成勾配を持った膜(下部の位相シフト膜付近はO
2含有量が多く、上部のハードマスク層付近に行くにつれて、O
2含有量が少なくなる膜)を作製することができた。なお、この酸化窒化クロム膜の組成は、クロム(Cr)と酸素(O)と窒素(N)の組成比(原子比)が5.5:4.0:0.5〜8.0:1.0:1.0のCrON膜であった。
下部(位相シフト膜側)における組成比⇒ Cr:O:N=5.5:4.0:0.5
上部(ハードマスク側)における組成比⇒ Cr:O:N=8.0:1.0:1.0
【0049】
〔ハードマスク層〕
続いて、同じマグネトロンスパッタ装置を用いて真空を破らずに、遮光膜上にハードマスク層を成膜した。なお、ここでのスパッタリングターゲットには珪素(Si)単結晶を用いた。成膜中のチャンバ内ガス圧が0.1Paとなるようにガス流量の設定を行い、基板を30rpmで回転させながら、酸化シリコン膜(SiO
2膜)を成膜した。
【0050】
具体的には、スパッタガスとしてArガスを20sccm、O
2ガスを0sccmの流量でチャンバ内に導入してチャンバ内ガス圧を0.1Paとし、SiターゲットにRFモードで1000Wの放電電力を印加して、基板を30rpmで回転させながら成膜を開始し、次第に、Arガスを5sccm、O
2ガスを50sccm、の流量でチャンバ内に導入してチャンバ内ガス圧を0.1Paとなるように設定した。成膜条件を連続的に変化させながら膜厚がほぼ10nmとなるように成膜した。
【0051】
<実施例2>
(位相シフトマスクの製造プロセス)
実施例2では、本発明の位相シフトマスクブランクを使用して位相シフトマスクを得るための製造プロセスを説明する。ここでは、遮光膜の上部から下部にかけての酸素含有量を変化させることで、漸次的にエッチングレートを変化させた本発明の位相シフトマスクブランクを用いた場合の例を挙げるが、製造プロセスは従来のものと同様で良い。
【0052】
図3から
図5は、位相シフトマスクの製造プロセスを説明するための図で、先ず、基板11に位相シフト膜12、遮光膜13b、ハードマスク層14が順次、積層された位相シフトマスクブランクの上にフォトレジスト膜15を塗布して(
図3(a))、このフォトレジスト膜15に、電子線描画機を用いて描画し、続けて、PEB(Post Exposure Bake)を110度で600秒、現像を60秒実施することで、レジストパターン15´を形成する(
図3(b))。なお、フォトレジスト膜15を塗布する前にハードマスク層14の表面エネルギーを下げるための表面処理を施しておくことが好ましい。これは、その後のプロセスにおいて、微細なパターンが形成されたレジストマスクが剥がれたり倒れたりすることを防止するための処理である。
【0053】
この表面処理方法として最も好ましい方法は、半導体製造工程で常用されるヘキサメチルジシラザン(HMDS)やその他の有機シリコン系の表面処理剤で基板表面(実際には遮光性膜表面)をアルキルシリル化する方法で、これらの表面処理剤を含有したガス中に基板表面を暴露させるか、あるいは基板表面に表面処理剤を直接塗布するなどの方法がある。
【0054】
こうして得られたレジストパターン15´をマスクとして、ハードマスク層14のパターニングをフッ素系ドライエッチングで行う(
図3(c))。
【0055】
その後、剥膜洗浄によって、残ったレジストパターン15´を剥離し(
図3(d))、ハードマスクパターン14´をマスクとして、遮光膜13bを酸素含有塩素系ガスにてドライエッチングする(
図4(e))。なお、この遮光膜13bのエッチング条件は、すでに公知の一般的な手法によることができる。
【0056】
従来の位相シフトマスクブランクを用いた場合の遮光膜エッチング後の断面SEM写真(
図6(a))と、本発明の位相シフトマスクブランクを用いた場合の遮光膜エッチング後の断面SEM(
図6(b))を比較すると、遮光膜の形状が改善していることが分かる。
【0057】
次に、パターニングされた遮光膜である遮光膜パターン13b´をエッチングマスクとして、位相シフト膜12をフッ素系ドライエッチングしてパターニングする。この際に、遮光膜上に残っているハードマスク層14´も同時にエッチングされ、除去される(
図4(f))。
【0058】
本実施例では、ハードマスク層14と同一条件下でフッ素系ドライエッチングを施した場合の位相シフト膜12のクリアタイム(エッチング除去される時間)が、ハードマスク層14のクリアタイムよりも長くなるように組成や膜厚が設計されている。このようなクリアタイムの設定を行うと、ハードマスク層14は位相シフト膜12のエッチング工程中に完全に除去され、エッチング終了段階では、位相シフト膜パターン12´の上にはクロム系材料からなる遮光膜パターン13b´のみが残ることとなる。なお、この位相シフト膜12のエッチング条件は、すでに公知の一般的な手法によることができる。
【0059】
そして、不要となった遮光膜パターン13b´はクロム系材料の一般的なエッチング条件のもとで除去されるが、一部遮光膜を残す必要がある場合は、再度レジスト塗布、レジストパターニングを行った後、エッチングを行う(
図4(g)〜(h)、
図5(i))。
【0060】
最後に、不要となったレジストパターン16´を剥膜洗浄にて剥離し、硫酸と過酸化水素水の混合液やアンモニア水と過酸化水素水の混合液などの洗浄液で最終洗浄して位相シフトマスク20が完成する(
図5(j))。
【0061】
本発明に係る位相シフトマスクブランク10を用いて作製した位相シフトマスク20における解像限界を確認した結果を
図7に示した。従来の位相シフトマスクブランクを用いたものが、Iso−Line 50nm、LS−Line 50nm、Iso−Space 45nmであるのに対し、Iso−Line 35nm、LS−Line 35nm、Iso−Space 40nmと、大幅な改善が確認された。
【0062】
以上、本発明の実施形態に係る位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法について説明したが、上記実施形態は本発明を実施するための一例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。これらの実施形態を種々変形することは本発明の範囲内であり、本発明の範囲内において他の様々な実施形態が可能であることは上記記載から自明である。