特許第6903906号(P6903906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6903906外れ防止構造、駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903906
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】外れ防止構造、駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/02 20060101AFI20210701BHJP
   F16D 27/115 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
   F16B39/02 B
   F16D27/115 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-240638(P2016-240638)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-96432(P2018-96432A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 泰成
(72)【発明者】
【氏名】野中 雄介
【審査官】 児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−059911(JP,U)
【文献】 特開平11−153156(JP,A)
【文献】 実開平04−025031(JP,U)
【文献】 特開2004−019935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
F16C 35/00−39/06
43/00−43/08
F16D 11/00−48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並置されて螺合によって結合される第1部材及び第2部材の外れを防止する外れ防止構造であって、
前記第1部材は、外周面に雄ねじが形成された小径筒部、及び前記雄ねじよりも外方に突出して設けられた第1の当接部を有し、
前記第2部材は、内周面に前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成された大径筒部、及び前記第1の当接部と軸方向に対向する第2の当接部を有し、
前記雌ねじと前記雄ねじとの螺合によって前記第1の当接部と前記第2の当接部とが当接すると共に、前記第1及び第2の当接部のうち一方の当接部に設けられた凸部が他方の当接部に設けられた凹部に嵌合することにより、前記第1部材と前記第2部材との外れが防止されており、
前記第1部材及び前記第2部材のうち前記一方の当接部を有する部材は、前記凹部と軸方向に並ぶ部分の外周面が周方向の一部において径方向に窪んでおり、当該窪んだ部分の周縁部が前記凹部に向かって軸方向に突出して前記凸部となっている、
外れ防止構造。
【請求項2】
前記凹部は、前記凸部を周方向に挟む一対の壁部の間に形成され、
前記凸部は、前記一対の壁部のうち、少なくとも前記雌ねじと前記雄ねじとの螺合が緩む方向への前記第1部材と前記第2部材との相対回転が規制される側の壁部に接している、
請求項1に記載の外れ防止構造。
【請求項3】
前記第1の当接部は、前記第2の当接部の材料の強度よりも高い強度の材料からなり、
前記第1の当接部に前記凹部が設けられ、かつ前記第2の当接部に前記凸部が設けられている、
請求項1又は2に記載の外れ防止構造。
【請求項4】
前記窪んだ部分は、前記雄ねじと前記雌ねじとの螺合によって前記第1部材と前記第2部材とが結合された状態で前記凹部と軸方向に並ぶ位置に形成された径方向穴である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の外れ防止構造。
【請求項5】
雌ねじを有する第1部材を、雄ねじを有する有底円筒状の第2部材の開口端部に螺合によって結合してなるハウジングと、
前記ハウジングに収容され、前記ハウジングと同軸上で相対回転可能に支持されたシャフトと、
前記ハウジングに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なアウタクラッチプレート、及び前記シャフトに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なインナクラッチプレートを有する多板クラッチと、
前記多板クラッチを軸方向に押圧して前記アウタクラッチプレートと前記インナクラッチプレートとを駆動力伝達可能に摩擦係合させる押圧機構とを備え、
前記ハウジングの前記第1部材と前記第2部材とが、請求項1乃至の何れかに記載の外れ防止構造によって外れ防止された、
駆動力伝達装置。
【請求項6】
外周面に雄ねじが形成された小径筒部、及び前記雄ねじよりも外方に突出して設けられた第1の当接部を有する第1部材と、内周面に前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成された大径筒部、及び前記第1の当接部と軸方向に対向する第2の当接部を有する有底円筒状の第2部材とを有するハウジングと、
前記ハウジングに収容され、前記ハウジングと同軸上で相対回転可能に支持されたシャフトと、
前記ハウジングに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なアウタクラッチプレート、及び前記シャフトに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なインナクラッチプレートを有する多板クラッチと、
前記多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備え、
前記押圧機構の押圧力により前記アウタクラッチプレートと前記インナクラッチプレートとが摩擦係合することで前記ハウジングと前記シャフトとの間で駆動力が伝達される駆
動力伝達装置の製造方法であって、
前記ハウジングの前記第1及び第2の当接部のうち一方の当接部に凹部を形成する第1工程と、
前記第1及び第2の当接部が互いに当接するまで所定のトルクで前記第1部材と前記第2部材とを相対回転させ、前記雄ねじと前記雌ねじとの螺合によって前記第1部材と前記第2部材とを結合する第2工程と、
前記第1部材と前記第2部材とを結合した後、前記ハウジングの前記第1及び第2の当接部のうち他方の当接部の一部を塑性変形させ、前記凹部に嵌合する凸部を形成する第3工程とを含み、
前記第3工程は、前記第1部材及び前記第2部材のうち前記他方の当接部を有する部材の外周面における前記凹部に対応する位置に径方向に窪む径方向穴を形成した後、前記径方向穴の周縁部を前記凹部に向かって加締めることにより前記凸部を形成する工程である、
駆動力伝達装置の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程は、前記他方の当接部の前記径方向穴の近傍における前記一方の当接部との対向面が前記凹部に向かって軸方向に突出するように前記凸部を形成する工程である、
請求項に記載の駆動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に並置されて螺合によって結合される第1部材及び第2部材の外れを防止する外れ防止構造、この外れ防止構造を備えた駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に並置されて螺合によって結合される第1部材及び第2部材の外れを防止する外れ防止構造、及び外れ防止構造を備えた駆動力伝達装置として、特許文献1,2に記載のものが知られている。これらの駆動力伝達装置は、有底円筒状のフロントハウジングと、フロントハウジングの開口を閉塞するリヤハウジングとが螺合によって結合されている。フロントハウジングの内部には、複数のアウタクラッチプレート及び複数のインナクラッチプレートからなる多板クラッチ、カム機構、及びインナシャフトが収容されている。フロントハウジングには、駆動源であるエンジンの駆動力がプロペラシャフトを介して伝達され、インナシャフトには、リヤディファレンシャルに駆動力を伝達するドライブピニオンシャフトが相対回転不能に連結されている。そして、カム機構のカム推力によって多板クラッチが押圧されると、多板クラッチのアウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとが摩擦係合し、フロントハウジングに伝達された駆動力が多板クラッチ及びインナシャフトを介してドライブピニオンシャフトに伝達される。
【0003】
また、特許文献1に記載の駆動力伝達装置では、フロントハウジング及びリヤハウジングが、リヤハウジングに形成された雄ねじとフロントハウジングに形成された雌ねじとの螺合よって互いに結合されている。また、リヤハウジングの雌ねじにナット部材が螺合し、このナット部材によりフロントハウジングを後端側から締め付けるダブルナット構造によってリヤハウジングがフロントハウジングから外れてしまうことが抑止されている。
【0004】
特許文献2に記載の駆動力伝達装置では、ダブルナット構造のナット部材として機能する外れ防止部材がフロントハウジングの開口端部を外周側から覆う覆い部を有し、この覆い部によってフロントハウジングの開口端部の熱膨張が抑制されている。そして、この構成により、フロントハウジングの熱膨張率がリヤハウジングの熱膨張率よりも大きい場合でも、リヤハウジングがフロントハウジングから外れてしまうことが抑止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−153156号公報
【特許文献2】特開2015−75213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の外れ防止構造では、ナット部材を用いたダブルナット構造によってフロントハウジング及びリヤハウジングの外れが防止されているので、フロントハウジングの雌ねじにリヤハウジングの雄ねじを螺合させた後、さらにリヤハウジングの雄ねじにナット部材を螺合させて締め付ける作業が必要となる。そして、この作業工程ならびにナット部材を用いた外れ防止構造が、装置の組み立て工数削減ならびに部品点数削減の妨げとなっていた。
【0007】
そこで、本発明は、組み立て工数ならびに部品点数の削減が図られた外れ防止構造、駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、軸方向に並置されて螺合によって結合される第1部材及び第2部材の外れを防止する外れ防止構造であって、前記第1部材は、外周面に雄ねじが形成された小径筒部、及び前記雄ねじよりも外方に突出して設けられた第1の当接部を有し、前記第2部材は、内周面に前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成された大径筒部、及び前記第1の当接部と軸方向に対向する第2の当接部を有し、前記雌ねじと前記雄ねじとの螺合によって前記第1の当接部と前記第2の当接部とが当接すると共に、前記第1及び第2の当接部のうち一方の当接部に設けられた凸部が他方の当接部に設けられた凹部に嵌合することにより、前記第1部材と前記第2部材との外れが防止されており、前記第1部材及び前記第2部材のうち前記一方の当接部を有する部材は、前記凹部と軸方向に並ぶ部分の外周面が周方向の一部において径方向に窪んでおり、当該窪んだ部分の周縁部が前記凹部に向かって軸方向に突出して前記凸部となっている、外れ防止構造を提供する。
【0009】
また本発明は、上記の目的を達成するため、雌ねじを有する第1部材を、雄ねじを有する有底円筒状の第2部材の開口端部に螺合によって結合してなるハウジングと、前記ハウジングに収容され、前記ハウジングと同軸上で相対回転可能に支持されたシャフトと、前記ハウジングに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なアウタクラッチプレート、及び前記シャフトに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なインナクラッチプレートを有する多板クラッチと、前記多板クラッチを軸方向に押圧して前記アウタクラッチプレートと前記インナクラッチプレートとを駆動力伝達可能に摩擦係合させる押圧機構とを備え、前記ハウジングの前記第1部材と前記第2部材とが、上記の外れ防止構造によって外れ防止された、駆動力伝達装置を提供する。
【0010】
また本発明は、上記の目的を達成するため、外周面に雄ねじが形成された小径筒部、及び前記雄ねじよりも外方に突出して設けられた第1の当接部を有する第1部材と、内周面に前記雄ねじに螺合する雌ねじが形成された大径筒部、及び前記第1の当接部と軸方向に対向する第2の当接部を有する有底円筒状の第2部材とを有するハウジングと、前記ハウジングに収容され、前記ハウジングと同軸上で相対回転可能に支持されたシャフトと、前記ハウジングに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なアウタクラッチプレート、及び前記シャフトに対して軸方向移動可能かつ相対回転不能なインナクラッチプレートを有する多板クラッチと、前記多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備え、前記押圧機構の押圧力により前記アウタクラッチプレートと前記インナクラッチプレートとが摩擦係合することで前記ハウジングと前記シャフトとの間で駆動力が伝達される駆動力伝達装置の製造方法であって、前記ハウジングの前記第1及び第2の当接部のうち一方の当接部に凹部を形成する第1工程と、前記第1及び第2の当接部が互いに当接するまで所定のトルクで前記第1部材と前記第2部材とを相対回転させ、前記雄ねじと前記雌ねじとの螺合によって前記第1部材と前記第2部材とを結合する第2工程と、前記第1部材と前記第2部材とを結合した後、前記ハウジングの前記第1及び第2の当接部のうち他方の当接部の一部を塑性変形させ、前記凹部に嵌合する凸部を形成する第3工程とを含み、前記第3工程は、前記第1部材及び前記第2部材のうち前記他方の当接部を有する部材の外周面における前記凹部に対応する位置に径方向に窪む径方向穴を形成した後、前記径方向穴の周縁部を前記凹部に向かって加締めることにより前記凸部を形成する工程である、駆動力伝達装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る外れ防止構造、駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の製造方法によれば、組み立て工数ならびに部品点数の削減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る外れ防止構造が適用された駆動力伝達装置を搭載する四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図2】駆動力伝達装置の構成例を示す断面図である。
図3】駆動力伝達装置のリヤハウジングとフロントハウジングとの外れ防止構造を示し、(a)は図2一部拡大図、(b)は(a)の矢視図、(c)は(a)の矢視図である。
図4】(a)は、第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の部分断面図であり、(b)は(a)の矢視図、(c)は(a)の矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図3を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る外れ防止構造が適用された駆動力伝達装置を搭載する四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
【0015】
図1に示すように、四輪駆動車1は、アクセルペダル110の操作量(踏み込み量)に応じた走行用の駆動力(トルク)を発生する駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力を変速するトランスミッション12と、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が常時伝達される主駆動輪としての左右前輪181,182と、四輪駆動車1の走行状態に応じてエンジン11の駆動力が伝達される補助駆動輪としての左右後輪191,192とを備えている。この四輪駆動車1は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192にエンジン11の駆動力を伝達する四輪駆動状態と、左右前輪181,182のみに駆動力を伝達する二輪駆動状態とを切り替え可能である。
【0016】
また、四輪駆動車1には、フロントディファレンシャル13と、プロペラシャフト14と、リヤディファレンシャル15と、左右の前輪側のドライブシャフト161,162と、左右の後輪側のドライブシャフト171,172と、プロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間に配置された駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を制御する制御装置10とが搭載されている。駆動力伝達装置2は、制御装置10から供給される電流に応じた駆動力をプロペラシャフト14側からリヤディファレンシャル15側に伝達する。制御装置10は、駆動力伝達装置2に電流を供給することで、駆動力伝達装置2を制御する。
【0017】
左右前輪181,182には、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13、及び左右の前輪側のドライブシャフト161,162を介して伝達される。フロントディファレンシャル13は、左右の前輪側のドライブシャフト161,162にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ131,131と、一対のサイドギヤ131,131にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ132,132と、一対のピニオンギヤ132,132を支持するピニオンギヤシャフト133と、これらを収容するフロントデフケース134とを有している。
【0018】
フロントデフケース134には、リングギヤ135が固定され、このリングギヤ135がプロペラシャフト14の車両前方側の端部に設けられたピニオンギヤ141に噛み合っている。プロペラシャフト14の車両後方側の端部は、駆動力伝達装置2のハウジング20に連結されている。
【0019】
駆動力伝達装置2は、ハウジング20と相対回転可能に配置されたインナシャフト21を有しており、制御装置10から供給される制御電流に応じた駆動力を、インナシャフト21と相対回転不能に連結されたピニオンギヤシャフト150を介してリヤディファレンシャル15に伝達する。制御装置10は、車輪速センサ101〜104で検出された左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度の情報、ならびにアクセルペダルセンサ105で検出されたアクセルペダル110の操作量の情報を取得可能であり、これらの情報に基づいて制御電流を調節する。
【0020】
リヤディファレンシャル15は、左右の後輪側のドライブシャフト171,172にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ151,151と、一対のサイドギヤ151,151にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ152,152と、一対のピニオンギヤ152,152を支持するピニオンギヤシャフト153と、これらを収容するリヤデフケース154と、リヤデフケース154に固定されてピニオンギヤシャフト150と噛み合うリングギヤ155とを有している。
【0021】
(駆動力伝達装置2の全体構成)
図2は、駆動力伝達装置2の構成例を示す断面図である。図2において、回転軸線Oよりも上側は駆動力伝達装置2に制御電流が供給された作動状態を、下側は駆動力伝達装置2の非作動状態を、それぞれ示す。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0022】
駆動力伝達装置2は、ハウジング20と、ハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持された筒状のインナシャフト21と、ハウジング20とインナシャフト21との間に配置されたメインクラッチ3と、メインクラッチ3を押圧する押圧力を発生するカム機構4と、フロントハウジング7の回転力を受けてカム機構4を作動させる電磁クラッチ機構5とを有して構成されている。電磁クラッチ機構5は、電磁コイル50の通電により作動する。ハウジング20の内部空間には、各部の摺動を潤滑する図略の潤滑油が封入されている。
【0023】
ハウジング20は、第1部材としてのリヤハウジング6と、第2部材としてのフロントハウジング7とを有し、リヤハウジング6がフロントハウジング7の開口端部に螺合によって結合されている。以下、ハウジング20の回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。リヤハウジング6とフロントハウジング7とは、軸方向に並置され、回転軸線O周りに一体に回転する。
【0024】
フロントハウジング7は、円筒状の筒部71と、筒部71の軸方向一側を閉塞する底部72とを一体に有する有底円筒状である。筒部71における底部72とは反対側の端部(開口端部)には、内周面に雌ねじ711aが形成された大径筒部711、及び後述するリヤハウジング6の鍔部611に当接する第2の当接部としての円環部712が設けられている。本実施の形態では、円環部712が筒部71の先端部(底部72側とは反対側の軸方向の端部)に設けられている。フロントハウジング7の底部72には、プロペラシャフト14(図1参照)が例えば十字継手を介して連結される。また、フロントハウジング7は、軸方向に延びる複数の外側スプライン突起710を筒部71の内周面に有している。フロントハウジング7は、例えばADC12等のアルミニウム合金からなる。
【0025】
リヤハウジング6は、鉄系金属等の軟磁性材料からなる第1環状部材61、第1環状部材61の内周側に溶接等により一体に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性金属材料からなる第2環状部材62、及び第2環状部材62の内周側に溶接等により一体に結合された鉄系金属等の軟磁性材料からなる第3環状部材63からなる。第1環状部材61及び第3環状部材63は、フロントハウジング7の材料の強度よりも高い強度の材料からなる。第1環状部材61及び第3環状部材63の材料として、好適には例えばS10C等の低炭素鋼が挙げられる。
【0026】
第1環状部材61と第3環状部材63との間には、電磁コイル50を収容する環状の収容空間6aが形成されている。第1環状部材61は、フロントハウジング7の大径筒部711の内側に配置される小径筒部610の外周面に、フロントハウジング7の雌ねじ711aに螺合する雄ねじ610aが形成されている。また、第1環状部材61は、雄ねじ610aよりも外方に突出して設けられた第1の当接部としての鍔部611を有している。鍔部611とフロントハウジング7の円環部712とは、軸方向に対向する。
【0027】
リヤハウジング6とフロントハウジング7とは、小径筒部610の雄ねじ610aと大径筒部711の雌ねじ711aとの螺合によって、鍔部611と円環部712とが互いに押し付け合うようにして当接する。また、リヤハウジング6とフロントハウジング7とは、鍔部611及び円環部712の一方に設けられた凸部が他方に設けられた凹部に嵌合する凹凸嵌合により外れ防止されている。この外れ防止構造については後述する。
【0028】
インナシャフト21は、ハウジング20に収容され、玉軸受22及び針状ころ軸受23によってハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持されている。インナシャフト21は、軸方向に延びる複数の内側スプライン突起210を外周面に有している。また、インナシャフト21の一端部における内面には、ピニオンギヤシャフト150(図1参照)の一端部が相対回転不能に嵌合されるスプライン嵌合部211が形成されている。インナシャフト21は、第3環状部材63の内側に挿通され、インナシャフト21と第3環状部材63との間がOリング24によって封止されている。
【0029】
メインクラッチ3は、軸方向に沿って交互に配置された複数のメインアウタクラッチプレート31及び複数のメインインナクラッチプレート32を有する多板クラッチである。メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との摩擦摺動は潤滑油によって潤滑され、摩耗や焼き付きが抑制されている。
【0030】
メインアウタクラッチプレート31は、フロントハウジング7の外側スプライン突起710に係合する複数の係合突起311を外周端部に有している。メインアウタクラッチプレート31は、係合突起311が外側スプライン突起710に係合することにより、フロントハウジング7に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0031】
メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト21の内側スプライン突起210に係合する複数の係合突起321を内周端部に有している。メインインナクラッチプレート32は、係合突起321が内側スプライン突起210に係合することにより、インナシャフト21に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。また、メインインナクラッチプレート32には、潤滑油を流通させる複数の油孔322がメインアウタクラッチプレート31よりも内側に形成されている。
【0032】
カム機構4は、電磁クラッチ機構5を介してハウジング20の回転力を受けるパイロットカム41と、メインクラッチ3を軸方向に押圧するメインカム42と、パイロットカム41とメインカム42との間に配置された複数の球状のカムボール43とを有して構成されている。カム機構4は、メインクラッチ3を軸方向に押圧してメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とを駆動力伝達可能に摩擦係合させる本発明の押圧機構の一態様である。駆動力伝達装置2は、カム機構4の押圧力によりメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とが摩擦係合することで、ハウジング20とインナシャフト21との間で駆動力が伝達される。
【0033】
メインカム42は、メインクラッチ3の一端におけるメインインナクラッチプレート32に接触してメインクラッチ3を押圧する環板状の押圧部421と、押圧部421よりもメインカム42の内周側に設けられたカム部422とを一体に有している。メインカム42は、押圧部421の内周端部に形成されたスプライン係合部421aがインナシャフト21の内側スプライン突起210に係合し、インナシャフト21との相対回転が規制されている。また、メインカム42は、インナシャフト21に形成された段差面21aとの間に配置された皿バネ44により、メインクラッチ3から軸方向に離間するように付勢されている。
【0034】
パイロットカム41は、メインカム42に対して相対回転する回転力を電磁クラッチ機構5から受けるスプライン係合部411を外周端部に有している。パイロットカム41とリヤハウジング6の第3環状部材63との間には、スラスト針状ころ軸受45が配置されている。
【0035】
パイロットカム41とメインカム42のカム部422との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝41a,422aが形成されている。複数のカムボール43は、図略の保持器に保持され、パイロットカム41のカム溝41aとメインカム42のカム溝422aとの間に配置されている。そして、カム機構4は、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転することによりカムボール43がカム溝41a,422aを転動し、メインクラッチ3を押し付ける軸方向の押圧力を発生させる。
【0036】
電磁クラッチ機構5は、電磁コイル50と、複数のパイロットアウタクラッチプレート51と、複数のパイロットインナクラッチプレート52と、アーマチャ53とを有して構成されている。電磁コイル50は、磁性材料からなる環状のヨーク500に保持され、リヤハウジング6の収容空間6aに収容されている。ヨーク500は、玉軸受26によってリヤハウジング6の第3環状部材63に支持されている。電磁コイル50には、電線501を介して制御装置10から励磁電流が供給される。
【0037】
複数のパイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52は、リヤハウジング6とアーマチャ53との間に、軸方向に沿って交互に配置されている。パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52の径方向の中央部には、電磁コイル50の通電により発生する磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリットが形成されている。パイロットアウタクラッチプレート51は、フロントハウジング7の外側スプライン突起710に係合する複数の係合突起511を外周端部に有している。パイロットインナクラッチプレート52は、パイロットカム41のスプライン係合部411に係合する複数の係合突起521を内周端部に有している。
【0038】
アーマチャ53は、鉄等の磁性材料からなる環状の部材であり、外周部にはフロントハウジング7の外側スプライン突起710に係合する複数の係合突起531が形成されている。これにより、アーマチャ53は、フロントハウジング7に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0039】
上記のように構成された駆動力伝達装置2は、電磁コイル50に励磁電流が供給されることにより、ヨーク500、リヤハウジング6の第1環状部材61及び第3環状部材63、複数のパイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52、ならびにアーマチャ53を通過する磁路G(図2参照)に磁束が発生する。そして、この磁束によってアーマチャ53がリヤハウジング6側に引き寄せられ、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とが摩擦接触する。
【0040】
これにより、ハウジング20の回転力がパイロットカム41に伝達され、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転し、カムボール43がカム溝41a,422aを転動する。そして、このカムボール43の転動によりメインカム42にメインクラッチ3を押圧するカム推力が発生し、複数のメインアウタクラッチプレート31と複数のメインインナクラッチプレート32との間に摩擦力が発生する。こうして発生した摩擦力により、ハウジング20と一体に回転するプロペラシャフト14と、インナシャフト21と一体に回転するピニオンギヤシャフト150との間で駆動力が伝達される。
【0041】
また、四輪駆動車1は、例えばエンジン11やトランスミッション12の故障や損傷によって自走不能となったとき、前輪181,182を持ち上げて後輪191,192が接地した状態で牽引されると、ハウジング20に対してインナシャフト21が高速で回転する。そして、このインナシャフト21の回転により、リヤハウジング6がフロントハウジング7に対して回転する引き摺りトルクを受ける。本実施の形態では、この引き摺りトルクによって雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩むことを、次に説明する外れ防止構造によって抑止している。
【0042】
(リヤハウジング6とフロントハウジング7との外れ防止構造)
リヤハウジング6とフロントハウジング7とは、雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合によって鍔部611と円環部712とが当接すると共に、鍔部611及び円環部712のうち一方に設けられた凸部が他方に設けられた凹部に嵌合することにより外れが防止されている。本実施の形態では、フロントハウジング7の円環部712に凸部712aが設けられ、リヤハウジング6の鍔部611に凹部611aが設けられている。この外れ防止構造について、図3を参照して説明する。
【0043】
図3は、リヤハウジング6とフロントハウジング7との外れ防止構造を示し、(a)は図2の一部拡大図、(b)は(a)のA矢視図、(c)は(a)のB矢視図である。図3に示すように、フロントハウジング7の大径筒部711には、径方向に窪む径方向穴71bが複数箇所に形成されており、この径方向穴71bの周縁部を凹部611aに向かって加締めることにより、凸部712aが形成されている。径方向穴71bは、大径筒部711の外周面から径方向内方に向かってドリル等の切削工具により穿設されているが、その最深部が雌ねじ711aには達していない。
【0044】
本実施の形態では、凹部611aが鍔部611の外周面に形成された軸方向溝として形成されている。また、本実施の形態では、図3(c)に示すように、凹部611aの形状が軸方向視において半円状であるが、凹部611aの形状に特に限定はなく、例えば軸方向視において矩形状であってもよい。またさらに、本実施の形態では、凹部611aが鍔部611の外周面を軸方向に横断するように形成されているが、これに限らず、少なくともフロントハウジング7の円環部712と当接する側の一部に設けられていればよい。凹部611aは、例えばボールエンドミル等の切削工具により容易に形成することが可能である。
【0045】
本実施の形態では、雄ねじ610aが右ねじであり、例えば治具に固定されたフロントハウジング7に対してリヤハウジング6を収容空間6a側から見て時計回りに回すことにより、雄ねじ610aが雌ねじ711aに螺合する。リヤハウジング6の締め込みは、鍔部611における円環部712側の軸方向端面61aが、円環部712における筒部71の軸方向端面71aに突き当てられ、締め付けトルクが所定値に達するまで行われる。
【0046】
凹部611aは、凸部712aをリヤハウジング6の周方向に挟む一対の壁部611b,611cの間に形成されている。以下、一対の壁部611b,611cのうち、リヤハウジング6を収容空間6a側から見て凸部712aの右側にあたるものを第1の壁部611bとし、凸部712aの左側にあたるものを第2の壁部611cとする。第1の壁部611bは、雄ねじ610aを雌ねじ711aに螺合させる際のリヤハウジング6のフロントハウジング7に対する回転方向の前方にあたり、第2の壁部611cは、この回転方向の後方にあたる。
【0047】
本実施の形態では、凸部712aが第1及び第2の壁部611b,611cの双方に接している。ただし、凸部712aは、両壁部611b,611cのうち、少なくとも雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向へのリヤハウジング6とフロントハウジング7との相対回転が規制される側の壁部(本実施の形態では、第1の壁部611b)に接していればよい。つまり、雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向にリヤハウジング6とフロントハウジング7とを相対回転させるトルクが作用したとき、凸部712aが第1の壁部611bに係止されることにより、フロントハウジング7とリヤハウジング6との相対回転が規制される。
【0048】
また、図3(b)に示すように、本実施の形態では、フロントハウジング7の外周面を径方向に見た場合に、凸部712aの形状が全体に湾曲した山形状であり、その軸方向先端部712bを挟む両側面712c,712dがフロントハウジング7の周方向に対して傾斜している。このため、両側面712c,712dのうち、一方の側面712cは第1の壁部611bに対向し、他方の側面712dは第2の壁部611cに対向する。
【0049】
そして、この凸部712aの形状により、仮に雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向にリヤハウジング6とフロントハウジング7とが相対回転したとき、凸部712aの一方の側面712cが第1の壁部611bを軸方向に乗り上げようとするが、この動きによって雄ねじ610a及び雌ねじ711aの軸力が上がるので、リヤハウジング6とフロントハウジング7との相対回転が規制される。このため、凸部712aの全体が第1の壁部611bを乗り越えてリヤハウジング6とフロントハウジング7とが相対回転することはない。
【0050】
なお、凹部611aはリヤハウジング6の複数箇所に設けられ、フロントハウジング7には同数の凸部712aが設けられているが、これらの凹部611a及び凸部712aは、ハウジング20の回転バランスを考慮して、周方向に等間隔に設けられていることが望ましい。本実施の形態では、図2に示すように、回転軸線Oを挟む2箇所(180°ごと)に凹部611a及び凸部712aが設けられている。ただし、これに限らず、例えば3箇所又は4箇所以上の凹部611a及び凸部712aが周方向に等間隔に設けられていてもよい。
【0051】
(駆動力伝達装置2の製造方法)
次に、駆動力伝達装置2の製造方法について説明する。ここでは、駆動力伝達装置2の製造方法のうち、特にハウジング20の組み立てに関する複数の工程について説明する。この複数の工程は、リヤハウジング6の鍔部611に凹部611aを形成する第1工程と、鍔部611及び円環部712が互いに当接するまで所定のトルクでリヤハウジング6とフロントハウジング7とを相対回転させ、雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合によってリヤハウジング6とフロントハウジング7とを結合する第2工程と、リヤハウジング6とフロントハウジング7とを結合した後、円環部712の一部を塑性変形させ、凹部611aに嵌合する凸部712aを形成する第3工程とを含んでいる。
【0052】
第1工程では、例えば鍛造により第1環状部材61を成形した後に凹部611aを切削により形成してもよく、鍛造時に用いる金型の形状によって第1環状部材61の成形と同時に凹部611aを形成してもよい。切削により凹部611aを形成する場合、第1環状部材61に第2環状部材62及び第3環状部材63を一体化した後に凹部611aを形成してもよく、第1環状部材61に凹部611aを形成した後に第2環状部材62及び第3環状部材63を一体化してもよい。
【0053】
第2工程では、予めフロントハウジング7にインナシャフト21、メインクラッチ3、カム機構4、及び電磁コイル50以外の電磁クラッチ機構5の構成部品等を収容し、フロントハウジング7の開口端部とインナシャフト21との間を塞ぐようにリヤハウジング6を組み付ける。具体的には、フロントハウジング7をその開口が上を向くように治具により固定し、大径筒部711の雌ねじ711aに小径筒部610の雄ねじ610aを螺合させてリヤハウジング6の鍔部611をフロントハウジング7の円環部712に突き当て、締め付けトルクが所定値となるまでリヤハウジング6を締め付ける。
【0054】
第3工程では、まずフロントハウジング7の筒部71の外周面における凹部611aに対応する位置に径方向に窪む径方向穴71bを形成する。具体的には、第2工程においてリヤハウジング6が結合されたフロントハウジング7の筒部71をその外径側から見たとき、凹部611aと軸方向に並ぶ位置に径方向穴71bを例えばドリルによって形成する。そしてその後、径方向穴71bの周縁部を凹部611aに向かって加締めることにより凸部712aを形成する。この加締めの際には、円環部712の径方向穴71bの近傍における鍔部611との対向面が凹部611aに向かって軸方向に突出するように凸部712aを形成する。
【0055】
第3工程において径方向穴71bを形成したとき、その内周面と凹部611aとの軸方向の最短距離d(図3(b)参照)は、1.0〜1.5mmであることが望ましい。これにより、凸部712aを加締めによって容易に形成することができる。リヤハウジング6の周方向における凹部611aの幅wは、例えば8mmである。この加締めは、例えば凸曲面状のポンチの先端部を径方向穴71b内に挿入し、このポンチの先端部を軸方向に沿って図3(b)に示す矢印c方向に打ち込むことにより行うことができる。
【0056】
(第1の実施の形態の効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、凸部712aが凹部611aに嵌合することによりリヤハウジング6及びフロントハウジング7が回り止めされるので、例えば雄ねじ610aに螺合するナット部材を用いたダブルナット構造によってフロントハウジング7に対するリヤハウジング6の外れ(弛み)を防止する場合に比較して、駆動力伝達装置2の組み立て工数削減ならびに部品点数削減を図ることが可能となる。
【0057】
また、第1の実施の形態では、凸部712aが凹部611aの両壁部611b,611cのうち、少なくとも雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向へのリヤハウジング6とフロントハウジング7との相対回転が規制される側の第1の壁部611bに接しているので、フロントハウジング7とリヤハウジング6との緩みが確実に抑止される。
【0058】
また、第1の実施の形態では、リヤハウジング6及びフロントハウジング7のうち、比較的材料の強度が低いフロントハウジング7に凸部712aを形成するので、加締め時に割れ等を発生させることなく、凸部712aを容易に形成することができる。
【0059】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図4(a)〜(c)を参照して説明する。図4(a)は、第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置2の部分断面図である。図4(b)は(a)のA矢視図であり、図4(c)は(a)のB矢視図である。図4(a)〜(c)において、第1の実施の形態について説明したものに対応する部材等については、図3等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0060】
第1の実施の形態では、リヤハウジング6の鍔部611に設けられた凹部611aにフロントハウジング7に設けられた凸部712aが嵌合することにより外れ防止構造を構成した場合について説明したが、本実施の形態では、これとは逆に、フロントハウジング7に設けられた凹部712eにリヤハウジング6に設けられた凸部611eが嵌合することにより外れ防止構造が構成されている。
【0061】
図4の図示例では、フロントハウジング7の筒部71の円環部712を含む範囲に凹部712eが形成されている。この凹部712eは、フロントハウジング7の筒部71をその外径側から見たときの形状が半円状の切り欠きとして形成されている。ただし、凹部712eは、リヤハウジング6の鍔部611に対向する軸方向端面71aに開口していればよく、その形状等については適宜変形することが可能である。
【0062】
リヤハウジング6の凸部611eは、凹部712eと軸方向に並ぶ位置に形成された径方向穴611dの周縁部を凹部712eに向かって加締めることにより形成されている。これにより、凸部611eは、凹部712eにおいてフロントハウジング7の周方向に向かい合う一対の壁部712f,712gの間に軸方向に突出する。
【0063】
図4の図示例では、凸部611eが一対の壁部712f,712gの双方に接しているが、凸部611eは、両壁部712f,712gのうち、少なくとも雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向へのリヤハウジング6とフロントハウジング7との相対回転が規制される側の壁部712gに接していればよい。これにより、雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向にリヤハウジング6とフロントハウジング7とを相対回転させるトルクが作用したとき、凸部611eが壁部712fに係止されることにより、フロントハウジング7とリヤハウジング6との相対回転が規制される。
【0064】
上記のように構成された本実施の形態に係るハウジング20の組み立て工程は、フロントハウジング7の筒部71に凹部712eを形成する第1工程と、鍔部611及び円環部712が互いに当接するまで所定のトルクでリヤハウジング6とフロントハウジング7とを相対回転させ、雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合によってリヤハウジング6とフロントハウジング7とを結合する第2工程と、リヤハウジング6とフロントハウジング7とを結合した後、鍔部611の一部を塑性変形させ、凹部712eに嵌合する凸部611eを形成する第3工程とを含んでいる。
【0065】
第3工程では、リヤハウジング6の鍔部611の外周面における凹部712eに対応する位置に径方向に窪む径方向穴611dを形成し、径方向穴611dの周縁部のうち凹部712eと径方向穴611dとの間に挟まれた部分を凹部712eに向かって矢印c方向に加締めることにより凸部611eを形成する。これにより、鍔部611の径方向穴611dの近傍における円環部712との対向面が凹部712eに向かって軸方向に突出するように、凸部611eが形成される。
【0066】
フロントハウジング7の外周面を径方向に見た凸部611eの形状は、全体に湾曲した山形状であり、その軸方向先端部611fを挟む両側面611g,611hがリヤハウジング6の周方向に対して傾斜している。このため、第1の実施の形態と同様に、雄ねじ610aと雌ねじ711aとの螺合が緩む方向にリヤハウジング6とフロントハウジング7とが相対回転しようとするとき、雄ねじ610a及び雌ねじ711aの軸力が上がり、この相対回転が規制さる。
【0067】
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、駆動力伝達装置2の組み立て工数削減ならびに部品点数削減を図ることが可能となる。なお、前述のように、リヤハウジング6において凸部611eが形成される第1環状部材61は、フロントハウジング7よりも高強度の材料からなるので、加締めによって凸部611eを形成する際には、割れが発生しないように凸部611eの突出量等を考慮すべきである。また、この加締めは、フロントハウジング7の一対の壁部712f,712gの塑性変形を伴ってもよい。
【0068】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0069】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、本発明の外れ防止構造を車両用の駆動力伝達装置に適用した場合について説明したが、これに限らず、軸方向に並置されて螺合によって結合される第1部材及び第2部材の外れを防止することが必要な様々な装置に本発明の外れ防止構造を適用することが可能である。また、上記実施の形態では、メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とを軸方向に押圧する押圧機構としてカム機構4を用いた場合について説明したが、これに限らず、例えば油圧によって軸方向に移動するピストンを有する押圧機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
以下に第1及び第2の実施の形態において説明した構成要素のうち主な構成要素の符号をその名称と共に記載する。下記において、かっこ内の名称は、特許請求の範囲に記載された対応する部材や部分の名称である。
2…駆動力伝達装置
20…ハウジング
21…インナシャフト(シャフト)
3…メインクラッチ(多板クラッチ)
31…メインアウタクラッチプレート(アウタクラッチプレート)
32…メインインナクラッチプレート(インナクラッチプレート)
4…カム機構(押圧機構)
6…リヤハウジング(第1部材)
610…小径筒部
610a…雄ねじ
611…鍔部(第1の当接部)
611a…凹部
611b,611c…一対の壁部
611e…凸部
7…フロントハウジング(第2部材)
711…大径筒部
711a…雌ねじ
71b,611d…径方向穴
712…円環部(第2の当接部)
712a…凸部
712e…凹部
712f,712g…一対の壁部
図1
図2
図3
図4