特許第6903921号(P6903921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6903921-空気入りタイヤ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6903921
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20210701BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20210701BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20210701BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20210701BHJP
【FI】
   B60C5/00 ZZNM
   B60C5/00 G
   B29D30/06
   D04H1/425
   D04H1/4382
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-6819(P2017-6819)
(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-114840(P2018-114840A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2020年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川添 真幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−196255(JP,A)
【文献】 特開2009−057552(JP,A)
【文献】 特開2015−063615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B29D 30/06
D04H 1/425
D04H 1/4382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内周面にインナーライナー層を有し該インナーライナー層のタイヤ径方向内側の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記不織薄層を、タイヤショルダー部に相当する位置の前記インナーライナー層のタイヤ径方向内側に有することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記不織薄層を、タイヤショルダー部に相当する位置の前記インナーライナー層のタイヤ径方向内側のみに有することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が1〜1000nm、平均アスペクト比が10〜1000であることを特徴とする請求項1,2または3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記不織薄層の厚さが1〜200μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
未加硫の空気入りタイヤの前記インナーライナー層のタイヤ径方向内側の少なくとも一部に、前記セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し加硫成型することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
加硫した空気入りタイヤの前記インナーライナー層のタイヤ径方向内側表面の少なくとも一部に、前記セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させることにより前記不織薄層を形成することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、インナーライナーの耐久性を向上させるようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ラベリング制度の導入などに見られるように、空気入りタイヤの転がり抵抗を小さくすることが求められている。転がり抵抗を低減する一つの手法として、経時でのタイヤ内圧の低下を抑制し適正な空気圧を確保することが挙げられる。
【0003】
タイヤ内圧の低下抑制は、インナーライナーの厚さを増加させて空気透過防止性能を高めることで達成できるが、タイヤ重量が増加するので転がり抵抗が悪化する。
【0004】
空気透過防止性能を改良するため、特許文献1は、平均粒子径が25〜100μmかつアスペクト比が25〜100であるマイカを配合したインナーライナー用ゴム組成物を提案している。またインナーライナー用ゴム組成物中の可塑剤を減量することにより空気透過防止性能を改良することができる。
【0005】
しかし、マイカなどの無機充填剤を配合したり、可塑剤を減量したりすると、インナーライナー用ゴム組成物の耐クラック成長性、とりわけ極寒冷地における耐クラック成長性に代表される耐久性が低下するという問題がある。このため、空気透過防止性能および耐久性を両立することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−138135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、インナーライナー層における耐久性を従来レベル以上に向上するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内周面にインナーライナー層を有し該インナーライナー層のタイヤ径方向内側の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空気入りタイヤは、インナーライナー層の少なくとも一部の最表面に、セルロースナノファイバーからなる不織薄層を配置したので、タイヤ耐久性を従来レベル以上に向上させることができる。さらに最表面に極薄の不織薄層を配置しただけなので基材のゴム組成物のゴム特性に悪影響を及ぼすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、図に示す実施形態を参照して詳細に説明する。
図1の本発明の実施形態を例示する空気入りタイヤは、トレッド部1、サイドウォール部2、およびビード部3からなる。ビード部3にビードコア5がタイヤ1周にわたるように埋設され、このビードコア5の回りにカーカス層4がタイヤ内側から外側へ折り返すように巻き上げられている。トレッド部1において、カーカス層4のタイヤ径方向外側にベルト層6が配置され、カーカス層4のタイヤ径方向内側にインナーライナー層7が配置されている。インナーライナー層7の少なくとも一部の最表面は、セルロースナノファイバーからなる不織薄層8により被覆されている。図示の例は、タイヤショルダー部に相当する位置のインナーライナー層7のタイヤ径方向内側に不織薄層8が配置されている。不織薄層8は、インナーライナー層7の内周側表面の全域に配置してもよい。また不織薄層8は、タイヤショルダー部に相当する範囲以外の領域に配置してもよく、タイヤショルダー部を含むより広い範囲に配置してもよい。さらに不織薄層8は、タイヤ径方向、幅方向および/または周方向に連続的に配置しても、間欠的に複数を配置してもよい。
【0012】
不織薄層8を、インナーライナー層7の少なくとも一部の最表面に配置し、保護するようにしたので、クラックが形成されるのを抑制するとともに、万一、インナーライナー層7に微小なクラックが形成された場合でも、そのクラックが成長するのを抑制することができる。また不織薄層8の厚さが極めて薄いため外観を低下させることがなく、また基材のゴム特性に影響を及ぼすことがない。さらにセルロースナノファイバーからなる不織薄層8で、インナーライナー層7を被覆することにより、インナーライナー層7の空気透過防止性能をいっそう優れたものにすることができる。
【0013】
不織薄層8は、セルロースナノファイバーにより構成される。セルロースナノファイバーはセルロースからなる平均繊維径が1〜1000nmの極細繊維である。セルロースナノファイバーの原料は、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のどちらでもよい。
【0014】
セルロースナノファイバーの作製方法としては、通常の解繊方法を挙げることができる。解繊方法は、パルプ化された原料を水に分散させ機械的な高せん断力をかけて解繊する方法と、原料に化学的な前処理を施し解繊しやすくしてから機械的なせん断力をかけて解繊する方法に大別される。一般に化学的な前処理を施した後に機械的なせん断力により解繊する方法のほうが、機械的な高せん断力だけで解繊する方法より、低いエネルギーでより細かく均質に解繊できるので好ましい。化学的な前処理としては、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、「TEMPO」という。)酸化、リン酸エステル化、過ヨウ素酸処理などを挙げることができる。
【0015】
セルロースナノファイバーの表面は、上述した解繊工程中の前処理として化学的に改質される他にも、複合化させる高分子との相性を改良するために、解繊工程のあとにセルラーゼ処理、カルボキシメチル化、エステル化、カチオン性高分子による処理などを施すことができる。このような処理により、ゴムラテックス等との親和性を向上することができる。
【0016】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は好ましくは1〜1000nm、より好ましくは1〜50nmである。またセルロースナノファイバーの平均アスペクト比(繊維長さ/繊維径)は好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜1000である。平均繊維粒径および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であると、セルロースナノファイバーの分散性が低下する。また平均繊維粒径および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えるとセルロースナノファイバーの補強性能が低下する。本明細書において、セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長さは、固形分率で0.05重量%〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得、この画像中の少なくとも50本以上において測定した繊維径および繊維長さの平均値を用いる。こうして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比(繊維長さ/繊維径)を算出するものとする。
【0017】
セルロースナノファイバーからなる不織薄層は、上述したセルロースナノファイバーにより構成された不織構造の極薄層である。不織薄層の厚さは、好ましくは1〜200μm、より好ましくは2〜150μm、更により好ましくは5〜100μmである。不織薄層の厚さを1μm以上にすることにより、インナーライナー層にクラックが形成されるのをを抑制し、また微細クラックが成長するのを抑制することができる。また不織薄層の厚さを200μm以下にすることにより、基材のゴム特性を損なうことがなく、また生産コストを抑制することができる。
【0018】
インナーライナー層7の最表面に、上述した不織薄層を配置する方法は、特に制限されるものではなく、通常の方法を用いることができる。例えば、未加硫の空気入りタイヤのインナーライナー層7に、セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し加硫成形する方法、加硫した空気入りタイヤのインナーライナー層7に、セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させる方法などが挙げられる。
【0019】
ワニスとしては、特に制限されるものではなく、セルロースナノファイバーを略均一に分散させることが可能な有機溶剤であればよい。有機溶剤として、極性、非極性のいずれでもよいが、セルロース表面のヒドロキシ基との親和性から極性の有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤は、通常用いられるものの中から適宜選択して使用することができる。
【0020】
ゴムラテックスとしては、特に制限されるものではなく、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられる水分散系ラテックスを使用することができる。例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレンブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、等を挙げることができる。また、それぞれのラテックスにおいてゴム分子骨格部分は、部分的に水素添加等の変性がされていてもよい。
【0021】
セルロースナノファイバーを含むワニスおよびゴムラテックスは、加硫剤および/または架橋剤、加硫促進剤などの加硫系配合剤や紫外線吸収剤、ラジカル吸収剤等の安定化剤、各種補強性充填剤を配合することができ、未加硫の空気入りタイヤに塗布し、必要に応じ乾燥させた後、加硫成形することにより、タイヤ加硫と同時に表面に加硫接着することができる。また加硫系配合剤が、未加硫タイヤの基材からワニスおよびゴムラテックスへ移行するときは、加硫系配合剤の配合量を削減または省略することができる。
【0022】
また加硫した空気入りタイヤのインナーライナー層7に、セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し固着させることができる。加硫した空気入りタイヤは、加硫成形の後、工場出荷前のタイヤでも、出荷後の販売店等に納められたタイヤでもよい。またリムに装着し使用を開始した後のタイヤでもよく、未使用または使用開始後に限定されない。セルロースナノファイバーを含むワニスまたはゴムラテックスを塗布し、必要に応じ乾燥させ、熱をかけて固着させることにより、未使用タイヤの品質を高くすることの他、使用中のタイヤの修理や外観の改良を行うことができる。
【0023】
セルロースナノファイバーを含むワニスおよびゴムラテックスの塗布方法は、特に制限されるものではなく、スプレーコート、ロールコート、ブレードコート、エアナイフコート、ブラッシュコート、ダイコート、バーコート、等を例示することができる。
【0024】
インナーライナー層を構成するゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に偏平形状の無機充填材を好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.1〜10質量部配合することができる。偏平形状の無機充填材の配合量を0.1質量部以上にすることにより、空気透過防止性をより高くすることができる。また偏平形状の無機充填材の配合量を50質量部以下にすることにより、耐クラック性および耐クラック成長性を維持することができる。偏平形状の無機充填材としては、偏平タルク、マイカ、等が例示される。
【0025】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1〜3
天然ゴムラテックス(固形分濃度60質量%)200g、セルロースナノファイバー(第一工業製薬(株)製「レオクリスタ」:固形分濃度2質量%)600gと水200mlを、ホモジナイザー混合により毎分5000回転で5分間混合し均一に分散させた天然ゴムラテックス分散液を得た。
【0027】
またジエン系ゴム100質量部に対し偏平タルクを10質量部配合したゴム組成物でインナーライナー層を成形した未加硫の空気入りタイヤ(サイズ195/65R16)を通常の方法でグリーン成形した。この未加硫の空気入りタイヤのインナーライナー層の内周側全域の表面に、上記で得られた天然ゴムラテックス分散液を、得られる不織薄層の厚さを三水準(実施例1〜3)で異ならせるようにスプレーコートし、乾燥により水分を除去した。上記と同じスプレーコートを薄いシート上で行い乾燥させた後の不織薄層の厚さは、10μm(実施例1)、55μm(実施例2)、および100μm(実施例3)であった。
【0028】
上記で得られた未加硫の空気入りタイヤを、通常のタイヤ用加硫機にて170℃、10分間の加硫を行い、インナーライナー層の表面にセルロースナノファイバーからなる不織薄層がコーティングされた加硫タイヤを得た。
【0029】
一方、比較例1としてインナーライナー層の表面に、セルロースナノファイバーの天然ゴムラテックス分散液を塗布せず、本発明の補強処理をしなかったことを除き、実施例1と同様にして空気入りタイヤを作製した。
【0030】
得られた4種類の空気入りタイヤ(実施例1〜3、比較例1)について下記の方法で、走行後のインナーライナー層の外観(クラック成長の有無)の評価を行った。
得られた空気入りタイヤの赤道部、ショルダー部、サイドウォール部に相当する位置のインナーライナー層にメスカット(長さ5mm)を付与し、試験用クラックを形成した。この空気入りタイヤを標準サイズのホイールにリム組みし空気圧230kPaに調整し、国産の乗用車(排気量2000cc)に装着した。この乗用車で極寒冷地のテストコースを10,000km走行した後、空気入りタイヤのインナーライナー層の外観を目視評価した。目視評価は、インナーライナー層に形成した試験用クラックが成長したか否かについて行った。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1〜3の空気入りタイヤでは、10,000km走行後のインナーライナー層にどの部位においてもクラックの成長が確認されなかった。
【0033】
比較例1の空気入りタイヤでは10,000km走行後のインナーライナー層において、ショルダー部およびサイドウォール部に形成した試験用クラックが成長しているのが認められた。
【符号の説明】
【0034】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
7 インナーライナー層
8 不織薄層
図1