【文献】
Biotechnology & Biotechnological Equipment,2014年,Vol.28, No.2,pp350-354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、特定の微生物の培養抽出物を含む細胞における有用物質の比生産速度促進剤;当該促進剤を含む有用物質生産に用いる細胞培養用培地;当該促進剤を含む細胞培養用培地を用いて細胞を培養する工程を含む有用物質の製造方法等を提供する。
【0009】
本発明では、特定の微生物の培養抽出物により、細胞増殖性を抑制して細胞密度を低減できると共に、細胞においてタンパク質等の有用物質の生産性を向上させ、1細胞当たりの比生産速度を増大(促進)させることができる。これにより、培養バッチあたりの有用物質生産量を維持(または増加)したまま、その有用物質生産量を得るために要する細胞数を低減できる。そのため、細胞密度を高めた場合に培養液中に増加する、不純物、変性物、細胞断片等を低減でき、有用物質の精製工程の負荷を低減できると共に、培地に用いる栄養源量も低減でき、有用物質の生産に関するトータルコストの低減を図ることが可能である。
【0010】
本発明では、細菌、放線菌、糸状菌、酵母および担子菌からなる群より選択される少なくとも1種の微生物の培養抽出物が使用される。
培養抽出物の調製方法としては、例えば、上記微生物を培養して得られる培養物から抽出する方法が挙げられる。具体的には、上記微生物を培地で培養する培養工程、および培養工程により得られた培養物から培養抽出物を調製する抽出工程を含む方法により培養抽出物を製造できる。
【0011】
<微生物について>
本発明の用いることのできる微生物としては、特に限定されず、例えば、細菌、放線菌、子嚢菌網に属する糸状菌、酵母、担子菌等を例示することができる。
【0012】
細菌としては特に限定されず、例えば、アセトバクター(Acetobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アーセロバクター(Arthrobacter)属、バチルス(Bacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属、シトバクター(Citobacter)属、クロストリヂウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、エーウイニア(Erwinia)属、エッシェリキア(Escherichia)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、ハロバクテリウム(Halobacterium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、リューコノストク(Leuconostoc)属、ペヂオコッカス(Pediococcus)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、プロタミノバクター(Protaminobacter)属、プロビデンシア(Providencia)属、シュードモナス(Psudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ストレプトバクテリウム(Streptobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、キサントモナス(Xanthomonas)属、ジモモナス(Zymomonas)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペヂオコッカス(Pediococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属等が挙げられる。
【0013】
放線菌としては特に限定されず、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、アクチノプラネス(Actinoplanes)属、ミクロモノスポラ(Micromonospora)属、クリプトバクテリウム(Cryptobacterium)属、ルブロバクター(Rubrobacter)属、アクチノバチュラム(Actinobaculum)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、ゴルドニア(Gordonia)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ミクロスファエラ(Microsphaera)属、クリプトスポランギウム(Cryptosporangium)属、アグロマイセス(Agromyces)属、クリオバクテリウム(Cryobacterium)属、ダクチロスポランギウム(Dactylosporangium)属、ノカルディオイデス(Nocardioides)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属、アクチノビスポラ(Actinobispora)属、アミコラトプシス(Amycolatopsis)属、サッカロモノスポラ(Saccharomonospora)属、アクチノシネマ(Actinosynnema)属、アクチノキネオスポラ(Actinokineospora)属、キタサトスポラ(Kitasatospora)属、ストレプトスポランギウム(Streptosporangium)属、ミクロビスポラ(Microbispora)属、ミクロテトラスポラ(Microtetraspora)属、ノノムラエ(Nonomuraea)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属、アクチノマデュラ(Actinomadura)属、キネオコッカス(Kineococcus)属、キネオスポリア(Kineosporia)属、サーモビスポラ(Thermobispora)属等が挙げられる。なかでも、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ミクロモノスポラ(Micromonospora)属、クリプトバクテリウム(Cryptobacterium)属、アクチノバチュラム(Actinobaculum)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ミクロスファエラ(Microsphaera)属、アグロマイセス(Agromyces)属、クリオバクテリウム(Cryobacterium)属、ノカルディオイデス(Nocardioides)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属、アクチノシネマ(Actinosynnema)属、ミクロビスポラ(Microbispora)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属、キネオコッカス(Kineococcus)属、キネオスポリア(Kineosporia)属、サーモビスポラ(Thermobispora)が好ましく、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、クリプトバクテリウム(Cryptobacterium)属、アクチノマイセス(Actinomyces)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、クリオバクテリウム(Cryobacterium)属、ノカルディオイデス(Nocardioides)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属、アクチノシネマ(Actinosynnema)属、ノカルディオプシス(Nocardiopsis)属、キネオコッカス(Kineococcus)属がより好ましい。
【0014】
糸状菌としては特に限定されず、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アクチノムコール(Actinomucor)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アウレオバシヂウム(Aureobasidium)属、バクーセラ(Backusella)属、ボトリチス(Botrytis)属、チャララ(Chalara)属、クラビセプス(Claviceps)属、コルチシウム(Corticium)属、クリフォネクトリア(Cryphonectria)属、ユウロチウム(Eurotium)属、フサリウム(Fusarium)属、ゲオトリチュム(Geotrichum)属、モナスカス(Monascus)属、モルチエレラ(Mortierella)属、ムコール(Mucor)属、ミロテシウム(Myrothecium)属、ニューロスポーラ(Neurospora)属、パエシロマイセス(Paecilomyces)属、ペニシリウム(Penicilium)属、ペスタロチオプス(Pestalotiopsis)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、スクレロチニア(Sclerotinia)属、シンセファラストルム(Syncephalastrum)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、アルテルナリア(Alternaria)属、ボーベリア(Beauveria)属、セルコスポラ(Cercospora)属、セファロスフォリウム(Cephalosporium)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、コクシジオイデス(Coccidioides)属、クルブラリア(Curvularia)属、シリンドロカルポン(Cylindrocarpon)属、シリンドロクラディウム(Cylindrocladium)属、カニングハメラ(Cunninghamella)属、ドレクスレラ(Drechslera)属、エピコッカム(Epicoccum)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、グリオクラディウム(Gliocladium)属、グラフィウム(Graphium)属、ヘルミントスポリウム(Helminthosporium)属、ヒアロデンドロン(Hyalodendron)属、イサリア(Isaria)属、メタルヒジウム(Metarhizium)属、モニリア(Monilia)属、ノデュリオスポリウム(Nodulisporium)属、ピリキュラリア(Pyricularia)属、フィアロマイセス(Phialomyces)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、スポロスリクス(Sporopthrix)属、トリコヒートン(Trichophyton)属、トリコセシウム(Trichothecium)属等が挙げられる。なかでも、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アウレオバシヂウム(Aureobasidium)属、バクーセラ(Backusella)属、ボトリチス(Botrytis)属、コルチシウム(Corticium)属、フサリウム(Fusarium)属、モナスカス(Monascus)属、モルチエレラ(Mortierella)属、ムコール(Mucor)属、ニューロスポーラ(Neurospora)属、パエシロマイセス(Paecilomyces)属、ペニシリウム(Penicilium)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、シンセファラストルム(Syncephalastrum)属、アルテルナリア(Alternaria)属、セルコスポラ(Cercospora)属、セファロスフォリウム(Cephalosporium)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、エピコッカム(Epicoccum)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、グリオクラディウム(Gliocladium)属、グラフィウム(Graphium)属、ピリキュラリア(Pyricularia)属、フィアロマイセス(Phialomyces)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、スポロスリクス(Sporopthrix)属が好ましく、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アウレオバシヂウム(Aureobasidium)属、ボトリチス(Botrytis)属、フサリウム(Fusarium)属、モナスカス(Monascus)属、モルチエレラ(Mortierella)属、ムコール(Mucor)属、パエシロマイセス(Paecilomyces)属、ペニシリウム(Penicilium)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、リゾプス(Rhizopus)属、セファロスフォリウム(Cephalosporium)属、クリソスポリウム(Chrysosporium)属、エピコッカム(Epicoccum)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、グリオクラディウム(Gliocladium)属、グラフィウム(Graphium)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、スポロスリクス(Sporopthrix)属がより好ましい。
【0015】
酵母としては特に限定されず、例えば、デバリョマイセス(Debaryomyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピチア(Pichiak)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンヂダ(Candida)属、シュビア(Ashbya)属、ブレッタノマイセス(Brettanomyces)属、エレモテリウム(Eremothecium)属、イッサチェンキア(Issatchenkia)属、クロッケラ(Klockera)属、リポマイセス(Lipomyces)属、メトシュニコウイア(Metschnikowia)属、ロードトルア(Rhodotorula)属、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属等が挙げられる。なかでも、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピチア(Pichiak)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンヂダ(Candida)属、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属が好ましい。
【0016】
担子菌としては特に限定されず、例えば、マンネンタケ属、カワラタケ属、スエヒロタケ属、シイタケ属、エノキタケ属、シメジ属、ヒラタケ属、タモギタケ属、アガリクス属、アンズタケ属、シロソウメンタケ属、ホウキタケ属、ハナビラタケ属、サンゴハリタケ属、フサハリタケ属、カノシタ属、ブナハリタケ属、マイタケ属、オオチリメンタケ属、ヒイロハリタケ属、オリーブウロコタケ属、カンゾウタケ属、ラシャタケ属、カラスタケ属、ニンギョウタケ属、ヌメリアイタケ属、コウタケ属、クロカワ属、チョレイマイタケ属、アイカワタケ属、シュタケ属、ヒメシロアミタケ属、ミヤマシロアミタケ属、シカタケ属、クロサルノコシカケ属、アナタケ属、カワタケ属、シトネタケ属等が挙げられる。
より具体的には、霊芝(マンネンタケ)(Ganoderma lucidum)、カワラタケ(Trametes versicolor)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、シイタケ(Lentinula edodes)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、シメジタケ(Lyophyllum decastes)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)、メシマコブ(Fomes yucatensis)、アガリクス(Agaricus subrufescens)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、アンズタケ(Cantharellus cibarius)、シロソウメンタケ(Clavaria vermicularis)、ホウキタケ(Ramaria botrytis)、ハナビラタケ(Sparassis crispa)、サンゴハリタケ(Hericium ramosun)、フサハリタケ(Creoloplus cirrbatus)、カノシタ(Hydnum repandum)、ブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitcbisonii)、マイタケ(Grifola frondosa)、オオチリメンタケ(Trametes gibbosa)、ヒイロハリタケ(Phanerochaete chrysorbiza)、オリーブウロコタケ(Lopharia cinerascens)、カンゾウタケ(Fistulina hepatica)、イボラシャタケ(Tomentella crinalis)、カラスタケ(Polyzellus multiplex)、ニンギョウタケ(Albatrellus confluens)、アオロウジ(Albatrellus caeruleoporus)、ヌメリアイタケ(Albatrellus yasudai)、コウタケ(Sarcodon aspratus)、クロカワ(Boletopsis leucomelas)、センニンタケ(Albatrellus pascaprae)、チョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)、マスタケ(Laetiporus sulphureus)、ヒイロタケ(Pycnoporus coccineus)、ヒメシロアミタケ(Antrodia albida)、ミヤマシロアミタケ(Antrodia beteromorpha)、ベニクスノキタケ(Antrodia camphorata)、Antrodia salmonea(和名なし)、クロサルノコシカケ(Melanoporia castanea)、アナタケ(Schizopora flavipora)、ツガノマンネンタケ(Ganoderma mastporum)、カバノアナタケ(Inonotus oblicuus)、カワタケ(Peniophora quercina)、シトネタケ(Peroneutypa scoparia)等が挙げられる。なかでも、霊芝(マンネンタケ)(Ganoderma lucidum)、カワラタケ(Trametes versicolor)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、シイタケ(Lentinula edodes)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、シメジタケ(Lyophyllum decastes)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)、メシマコブ(Fomes yucatensis)、アガリクス(Agaricus subrufescens)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、アンズタケ(Cantharellus cibarius)、シロソウメンタケ(Clavaria vermicularis)、ホウキタケ(Ramaria botrytis)、ハナビラタケ(Sparassis crispa)、マイタケ(Grifola frondosa)、チョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)、マスタケ(Laetiporus sulphureus)、ベニクスノキタケ(Antrodia camphorata)、Antrodia salmonea(和名なし)、クロサルノコシカケ(Melanoporia castanea)、アナタケ(Schizopora flavipora)、ツガノマンネンタケ(Ganoderma mastporum)、カバノアナタケ(Inonotus oblicuus)、カワタケ(Peniophora quercina)、シトネタケ(Peroneutypa scoparia)が好ましく、霊芝(マンネンタケ)(Ganoderma lucidum)、カワラタケ(Trametes versicolor)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、シイタケ(Lentinula edodes)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、メシマコブ(Fomes yucatensis)、アガリクス(Agaricus subrufescens)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、ハナビラタケ(Sparassis crispa)、マイタケ(Grifola frondosa)、チョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)、カワタケ(Peniophora quercina)、シトネタケ(Peroneutypa scoparia)がより好ましい。
【0017】
上記微生物のなかでも放線菌、担子菌が好ましく、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シトネタケ属がより好ましい。
【0018】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属としては特に限定されず、例えば、ストレプトマイセス・スピーシーズ(Streptomyces sp.)、ストレプトマイセス・バイオラセオルバー(Streptomyces violaceoruber)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)、ストレプトマイセス・コエリコラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・サーモビオラセウス(Streptomyces thermoviolaceus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・ライジカス(Streptomyces lydicus)、ストレプトマイセス・サブルティラス(Streptomyces subrutilus)、ストレプトマイセス・ラベンジュレ(Streptomyces lavendulae)、ストレプトマイセス・アヌラトス(Streptomyces anulatus)、ストレプトマイセス・スカビエイ(Streptomyces scabiei)、ストレプトマイセス・スカビエス(Streptomyces scabies)、ストレプトマイセス・アシディスカビエス(Streptomyces acidiscabies)、ストレプトマイセス・タージディスカビエス(Streptomyces turgidiscabies)、ストレプトマイセス・ビンチャンエンシス(Streptomyces bingchengensis) 、ストレプトマイセス ロゼオスポラス(Strepromyces roseosporus)、ストレプトマイセス アルブス(Streptomyces albus)、ストレプトマイセス ピウセチウス(Streptomyces peucetius)、ストレプトマイセス オーレオファシエンス(Streptomyces aureofaciens)、ストレプトマイセス ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)等が挙げられる。なかでも、ストレプトマイセス・スピーシーズ(Streptomyces sp.)が好ましい。
【0019】
シトネタケ属としては特に限定されず、例えば、Peroneutypa aequlinearis、Peroneutypa sp.、Peroneutypa vitis、Peroneutypa canker、Peroneutypa parasitica、Peroneutypa scoparia等が挙げられる。
【0020】
<培養方法について>
上記微生物を培養する方法としては、上記微生物を培養できる限り特に限定されず、また、使用する微生物に応じて公知の培養方法を適宜調整すればよい。
【0021】
具体的には、上記微生物を適当な培地で培養すればよい。このための培地はその微生物が増殖し得るものであれば特に制限はなく、通常の炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要に応じ有機栄養源を含む通常の培地でよい。また、固体培地、液体培地のいずれであってもよいが、液体培地が好ましい。
【0022】
例えば、炭素源としては上記微生物が利用可能であればいずれも使用でき、具体的には、グルコース、フラクトース、マルトース、アミロース等の糖類、ソルビトール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類及びこれらの塩類、パラフィン等の炭水化物類あるいはこれらの混合物等を使用することができる。
【0023】
窒素源としては特に限定されず、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の無機塩のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー等の有機窒素化合物あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0024】
他に無機塩類、微量金属塩、ビタミン類、ホルモン等、通常の培地に用いられる栄養源を適宜混合して用いることができる。
【0025】
また、培地として、市販の培地を使用してもよい。
【0026】
培養条件にも格別の制限はなく、例えば、好気的条件下にてpH1〜10(好ましくは3〜8)、温度15〜60℃(好ましくは25〜35℃)の範囲でpHおよび温度を適当に制御しつつ12〜480時間程度培養を行えばよい。また、静置培養、振盪培養のいずれであってもよいが、振盪培養が好ましい。
【0027】
<抽出を行う方法について>
上述の培養条件にて上記微生物を培養することにより、培養物が得られる。ここで、培養物とは、例えば、上述の培養条件にて上記微生物を培養した培養液や、該培養液から微生物をろ過や遠心分離等により分離した培養ろ液(培養上澄液)等が挙げられる。なかでも、有効成分の大部分が培養液中に分泌されているため、培養ろ液を含有する培養物または培養ろ液から抽出することが好ましく、より多くの有効成分が得られるという理由から、培養液から抽出することがより好ましい。もちろん、上記培養液からろ過や遠心分離等により分離された微生物体のみから抽出してもよい。また、培養液や分離された微生物体をホモジナイズした破砕物、超音波処理した破砕物等から抽出してもよい。
【0028】
培養物から抽出を行う方法としては特に限定されず、公知の方法により抽出を行えばよい。なかでも、有機溶媒による抽出が好ましく、有機溶媒による溶媒抽出が好ましい。
【0029】
有機溶媒による抽出方法としては特に限定されず、公知の方法により抽出を行えばよい。例えば、培養物と有機溶媒を混合し混合液を得、一定時間後に有機溶媒相を分離すればよい。
【0030】
有機溶媒としては特に限定されず、例えば、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等のジオール類;グリセロール;炭素数1〜10(好ましくは炭素数4〜8)の直鎖又は分岐鎖のアルコール、シクロヘキサノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチル、蟻酸エチル等の脂肪酸エステル類;ポリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルエーテル等のグリコール又はグリコールエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;テルピネオール等のテルペン類;アセトニトリル;γ-ブチロラクトン;2-ピロリドン;N-メチルピロリドン;N-(2-アミノエチル)ピペラジン等の極性溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘキサン、オクタン等の無極性溶媒等が挙げられる。なお、上記溶媒を混合して使用してもよい。なかでも、極性溶媒が好ましく、脂肪酸エステル類、直鎖又は分岐鎖のアルコールがより好ましく、酢酸エステル類が特に好ましい。
酢酸エステル類としては、上述の酢酸エチル、酢酸ブチルの他、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル等が挙げられる。
【0031】
培養物に対する有機溶媒の割合は、特に限定されず、例えば、体積比で10:1〜1:10(培養物:有機溶媒)、好ましくは4:1〜1:4、より好ましくは2:1〜1:2である。
抽出温度も特に限定されず、例えば、25〜60℃で抽出を行えばよい。
【0032】
混合液から有機溶媒相を分離する方法としては特に限定されず、例えば、遠心分離法、ろ過法、減圧膜ろ過法、加圧膜ろ過法、静置デカント法等が挙げられる。
【0033】
得られた有機溶媒相は、そのまま培養抽出物として使用してもよいし、公知の方法で有機溶媒相を濃縮した濃縮液、有機溶媒相を希釈した希釈液、または有機溶媒相を凍結乾燥した粉末を培養抽出物として使用してもよい。もちろん、上記粉末を任意の溶媒に溶解および/又は懸濁させてから培養抽出物として使用してもよい。
【0034】
また、有効成分が含有(残留)される限り、必要に応じて、得られた有機溶媒相に対して、酸沈殿、アルコール沈殿、塩析、膜分離、クロマト分離等の公知の精製操作を更に行ってもよい。
【0035】
このようにして得られた特定の微生物の培養抽出物は、細胞での有用物質の比生産速度の増大に使用することができる。好ましくは、in vitroで細胞を用いた有用物質生産をする際の比生産速度の増大のため、特定の微生物の培養抽出物の使用が提供される。比生産速度の増大は、そのメカニズムに関係なく、有用物質の1細胞当たりの比生産速度が増大すればよく、例えば、細胞増殖を抑制することにより比生産速度を増大させてもよく、個々の細胞における有用物質の発現量を増大させることにより有用物質の産生を増大させて比生産速度を増大させてもよく、その両方であってもよい。
【0036】
本発明では、培養抽出物として、由来する微生物が異なる複数の培養抽出物を組み合わせて使用してもよく、抽出方法が異なる複数の培養抽出物を組み合わせて使用してもよい。この場合、後述する、特定の微生物の培養抽出物の最終濃度、特定の微生物の培養抽出物の含有量は、それぞれ、特定の微生物の培養抽出物の最終合計濃度、特定の微生物の培養抽出物の合計含有量を意味する。
【0037】
特定の微生物の培養抽出物は、細胞培養用培地に添加することにより有用物質の比生産速度促進に使用することができる。また、好ましい実施態様において、特定の微生物の培養抽出物を細胞培養用培地に添加することにより、有用物質の比生産速度を向上させる。よって、特定の微生物の培養抽出物は、単独で培地添加因子である有用物質比生産速度促進剤として使用できる。また、他の有用物質の産生促進に寄与する物質(例えば、トランスフェリン、インスリン等のタンパク質)および/または低分子化合物(例えば、グルコース、リン酸塩、亜セレン酸)とともに使用することもできる。すなわち、有用物質比生産速度促進剤は、特定の微生物の培養抽出物を含む限り、特に限定されず、他の物質を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0038】
本発明が提供する促進剤(例えば、有用物質の比生産速度促進剤)は、培地容量に対する特定の微生物の培養抽出物の添加量(培養抽出物の添加量(v)/培養抽出物添加前の培地容量(v))が、0.001〜1%(v/v)の範囲で使用すればよく、0.01〜1%(v/v)の範囲で使用することが好ましく、0.01〜0.5%(v/v)の範囲で使用することがより好ましい。また、培地への培養抽出物の添加量として、培養後の生細胞数が培養抽出物無添加をコントロールとした場合の生細胞数を5%以上生育阻害する添加量であればよく、10%以上生育阻害する添加量が好ましく、15%以上生育阻害する添加量がより好ましい。促進剤は室温で液体でも固体でもよい。例えば、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液等の緩衝液やジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に特定の微生物の培養抽出物を溶解および/又は懸濁させて、本発明が提供する促進剤として、培地中での培養抽出物濃度を上記範囲内で調整することができる。
【0039】
特定の微生物の培養抽出物を添加する培地は、例えば、MEM、DMEM、HamF12、RPMI1640、Fisher’s mediumまたはそれらの混合物であってもよい。これらの基礎培地に上記で説明した特定の微生物の培養抽出物を添加することにより、有用物質の製造に有用な培地(無血清培地)を調製できる。また、増殖因子や血清代替物質を添加することにより血清非含有で使用することを前提とした無血清培地、無タンパク培地またはケミカリー・ディファインド培地に添加して用いることもできる。これらの培地の例としてはSAFC Biosciences社製のEX−CELL 302, EX−CELL 325−PF、EX−CELL CD CHO等、Life Technologies社製のSFM II、CHO−III−PFM、CD CHO等、また、Irvine Scientific社製のIS−CHO CD、BalanCD Growth A Medium等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、このような無血清培地、無タンパク培地、またはケミカリーディファインド培地を任意の比率で2種以上を混合した混合培地に対しても同様に用いることができる。培地中の特定の微生物の培養抽出物の含有量は、特に限定されないが、培養後の生細胞数が培養抽出物無添加をコントロールとした場合の生細胞数を5%以上生育阻害する含有量であればよく、10%以上生育阻害する含有量が好ましく、15%以上生育阻害する含有量がより好ましい。
【0040】
特定の微生物の培養抽出物を含む培地は、前記培養抽出物に加えて、例えば、無機塩類(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)、炭水化物(例えば、グルコース等の糖)、アミノ酸(例えば、グルタミンやイソロイシン)、ビタミン(例えば、リボフラビン、チアミン)、脂肪酸・脂質(例えば、コレステロール等のステロイド)、タンパク質・ペプチド(例えば、アルブミン、トランスフェリン、L−アラニル−L−グルタミン等のジペプチド)、微量元素(例えば、マグネシウム、銅、鉄)およびそれらの組み合わせから選択される物質を含んでもよい。一つの実施態様において、特定の微生物の培養抽出物を含む液体培地は、前記培養抽出物に加え、0.1〜4.5g/Lのグルコース、0.1〜0.5g/LのCaCl
2、1〜10g/LのNaCl、0.001〜0.3g/LのL−アルギニン・HCl、0.001〜0.3g/LのL−システイン・2HCl、0.001〜0.3g/LのL−ヒスチジン・HCl・H
2O、0.001〜0.3g/LのL−イソロイシン、0.001〜0.3g/LのL−ロイシン、0.001〜0.3g/LのL−リジン・HCl、0.001〜0.3g/LのL−メチオニン、0.001〜0.3g/LのL−フェニルアラニン、0.001〜0.3g/LのL−トレオニン、0.001〜0.3g/LのL−トリプトファン、0.001〜0.3g/LのL−チロシン・2Na・2H
2O、および0.001〜0.3g/LのL−バリンを含む。また、一つの実施態様として、水に溶解したときに上記の組成になるような粉末状態の培地であってもよい。このような上記で説明した特定の微生物の培養抽出物を含有する培地は、有用物質の製造に使用することができる。
具体的には、有用物質を産生する細胞を、特定の微生物の培養抽出物を含む培地で培養する培養工程、および細胞から産生された有用物質を単離する単離工程を含む方法により有用物質を製造できる。例えば、有用物質として抗体を製造する場合には、抗体産生細胞を、特定の微生物の培養抽出物を含む培地で培養し、抗体を精製する工程を含む方法により抗体を製造できる。抗体の精製工程は、例えば、アフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いた方法等が含まれる。なお、上記培養工程においては、培養中に培地成分を追加する、いわゆるFeed培養を行ってもよい。この場合、追加される培地は、特定の微生物の培養抽出物を含むことが好ましい。
【0041】
本発明では、培養抽出物の培地への添加時期は特に限定されず、培養開始前に培養抽出物を予め培地に添加しておいてもよく、培養途中に培養抽出物を培地に添加してもよい。なかでも、本発明では、特定の微生物の培養抽出物により、細胞増殖性を抑制して細胞密度を低減できると共に、細胞においてタンパク質等の有用物質の比生産速度を増大させることができるため、上記培養工程において、細胞の増殖が盛んな対数増殖期に培養抽出物を培地へ添加することが好ましい。これにより、本発明の効果がより好適に得られる。
【0042】
本明細書において、有用物質とは、医薬、農薬、食品、その他化学工業に有用な物質であれば特に制限はない。好ましくは、抗体、酵素(ウロキナーゼ等)、ホルモン(インスリン等)、サイトカイン(インターフェロン、インターロイキン、エリスロポエチン、G−CSF、GM−CSF等)等の生理活性タンパク質、ペプチド等が例として挙げられる。抗体は、例えば、マウスモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体またはヒトモノクローナル抗体である。また、免疫グロブリンのクラスは特に限定されないが、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2)である。有用物質は、外来遺伝子の発現産物である組み換えタンパク質であり得る。
【0043】
本明細書において、細胞については組換えタンパク等の有用物質生産に使用可能な細胞であれば特に限定されず、CHO細胞、BHK細胞、HepG2細胞、rodent myeloma細胞(例えば、SP2/O細胞、NSO細胞等のマウス骨髄腫細胞)等の哺乳類動物細胞、カイコ細胞、ショウジョウバエ細胞等の昆虫細胞等の動物細胞;シロイヌナズナ細胞等の植物細胞;およびそれらの細胞に外来遺伝子を導入した形質転換細胞が例として挙げられる。有用物質として抗体を産生させる場合は、CHO細胞、SP2/O細胞またはNSO細胞等の動物細胞(好ましくは哺乳類動物細胞)を細胞融合することによって得られるハイブリドーマ等を抗体産生細胞として採用することができる。なかでも、動物細胞が好ましく、哺乳類動物細胞がより好ましく、CHO細胞が更に好ましい。
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(培養抽出物の調製1−a(A204))
培養抽出物(1−a)はオーピーバイオファクトリー株式会社より購入した。培養抽出物は下記の調製方法で調製した。
−80℃の凍結保存液からISP2寒天平板培地(0.4%酵母エキス、1%麦芽エキス、0.4%グルコース、2%寒天となるように海水1Lに溶解し、pH7.3に調整)にStreptomyces sp.OPMA40691(A204)を植菌し、28℃で7日間培養した。寒天平板培地上に生育した菌株をSPY培地(1%可溶性スターチ、0.5%ペプトン、0.25%酵母エキスとなるように海水1Lに溶解し、生育培地として用い、φ22mm試験管1本当たり、15ml分注したもの10本を用いた)に植菌し、28℃、200rpm、5日間振盪培養を行った。培養終了後、培養液15mlに等量の酢酸エチルを添加し、25℃で1時間撹拌抽出をおこなった。撹拌抽出後、抽出液を遠心分離(3,000rpm、5min)して、液相を分離し、分離上層(酢酸エチル層)から、12mlの酢酸エチルを分取、回収(試験官10本分の培養液から、120mlの酢酸エチル抽出液)した。回収した酢酸エチル抽出液をエバポレータで濃縮して、溶媒を除去、乾燥した後、12mlのDMSOを添加して培養抽出物(1−a)を溶解した。培養抽出物(1−a)を実施例1に用いた。
【0046】
さらに、培養抽出物(1−a)を3gのODS樹脂(Cosmosil 75C18−OPN)を10ml容PP注射筒に充填した分離カラムを用いて、培養抽出物の分画を行った。溶出溶媒は、水/アセトニトリルを用いて、アセトニトリル20%(画分1)、40%(画分2)、60%(画分3)、80%(画分4)、100%(画分5)のステップワイズ溶出で分画を実施し、5分画とした。各分画(液量15ml)を遠心濃縮し、乾燥した。乾燥した各培養抽出画分(1−a:画分1〜5)を11.8mlのDMSOに溶解した。
【0047】
(培養抽出物の調製2−a(A278))
培養抽出物(2−a)はオーピーバイオファクトリー株式会社より購入した。培養抽出物は下記の調製方法で調製した。
−80℃の凍結保存液からISP2寒天平板培地(0.4%酵母エキス、1%麦芽エキス、0.4%グルコース、2%寒天となるように海水1Lに溶解し、pH7.3に調整)にStreptomyces sp. OPMA40760(A278)を植菌し、28℃で7日間培養した。寒天平板培地上に生育した菌株をSPY培地(1%可溶性スターチ、0.5%ペプトン、0.25%酵母エキスとなるように海水1Lに溶解し、生育培地として用い、φ22mm試験管1本当たり、15ml分注したもの10本を用いた)に植菌し、28℃、200rpm、5日間振盪培養を行った。培養終了後、培養液15mlに等量の酢酸エチルを添加し、25℃で1時間撹拌抽出をおこなった。撹拌抽出後、抽出液を遠心分離(3,000rpm、5min)して、液相を分離し、分離上層(酢酸エチル層)から、12mlの酢酸エチルを分取、回収(試験官10本分の培養液から、120mlの酢酸エチル抽出液)した。回収した酢酸エチル抽出液をエバポレータで濃縮して、溶媒を除去、乾燥した後、12mlのDMSOを添加して培養抽出物(2−a)を溶解した。培養抽出物(2−a)を実施例1に用いた。
【0048】
さらに、培養抽出物(2−a)を3gのODS樹脂(Cosmosil 75C18−OPN)を10ml容PP注射筒に充填した分離カラムを用いて、培養抽出物の分画を行った。溶出溶媒は、水/アセトニトリルを用いて、アセトニトリル20%(画分6)、40%(画分7)、60%(画分8)、80%(画分9)、100%(画分10)のステップワイズ溶出で分画を実施し、5分画とした。各分画(液量15ml)を遠心濃縮し、乾燥した。乾燥した各培養抽出画分(2−a:画分6〜10)を11.8mlのDMSOに溶解した。
【0049】
(培養抽出物の調製3(F67))
培養抽出物(3−a)はオーピーバイオファクトリー株式会社より購入した。培養抽出物は下記の調製方法で調製した。
−80℃の凍結保存液からLC寒天平板培地(0.1%グルコース、0.1%リン酸二水素カリウム、0.02%硫酸マグネシウム・7水和物、0.02%塩化カリウム、0.2%硝酸ナトリウム、0.2酵母エキス、2%寒天となるように海水1Lに溶解し、pH7.0に調整)にPeroneutypa scoparia OPMF00794(F67)を植菌し、28℃で7日間培養した。寒天平板培地上に生育した菌株をPDB培地(2.4%ポテトデキストリンブロース、0.4%硝酸カリウム、0.15%リン酸二水素カリウム、0.05%硫酸マグネシウム・7水和物となるように海水1Lに溶解し、生育培地として用い、φ22mm試験管1本当たり、15ml分注したもの10本を用いた)に植菌し、28℃、200rpm、7日間振盪培養を行った。培養終了後、培養液15mlに等量の酢酸エチルを添加し、25℃で1時間撹拌抽出をおこなった。撹拌抽出後、抽出液を遠心分離(3,000rpm、5min)して、液相を分離し、分離上層(酢酸エチル層)から、12mlの酢酸エチルを分取、回収(試験官10本分の培養液から、120mlの酢酸エチル抽出液)した。回収した酢酸エチル抽出液をエバポレータで濃縮して、溶媒を除去、乾燥した後、12mlのDMSOを添加して培養抽出物(3−a)を溶解した。培養抽出物(3−a)を実施例1に用いた。
【0050】
さらに、培養抽出物(3−a)を、3gのODS樹脂(Cosmosil 75C18−OPN)を10ml容PP注射筒に充填した分離カラムを用いて、培養抽出物の分画を行った。溶出溶媒は、水/アセトニトリルを用いて、アセトニトリル20%(画分11)、40%(画分12)、60%(画分13)、80%(画分14)、100%(画分15)のステップワイズ溶出で分画を実施し、5分画とした。各分画(液量15ml)を遠心濃縮し、乾燥した。乾燥した各培養抽出画分(3−a:画分11〜15)を11.8mlのDMSOに溶解した。
【0051】
(培養抽出物の効果の確認(実施例1))
IgG遺伝子が導入されIgG抗体を分泌産生するCHO細胞株(ATCC CRL−12445)を用い、BalanCD Growth A Medium(Irvine Scientific社製)に馴化、および浮遊化させた細胞を実験に用いた。125mlの三角フラスコにBalanCD Growth A Mediumを30ml添加し、上記浮遊化細胞を2.0×10
5cells/mlとなるように播種し、37℃、5%CO
2環境下、100rpmで振盪をしながら8日間培養した。
各培養抽出物(1−a、2−a、3−a)を培養4日目に培地容量に対して各々0.1%添加し、コントロール(培養抽出物無添加)としてDMSOを添加した。8日目の培養液をサンプリングし、培養液中の生細胞数とIgG抗体濃度を測定し、抗体比生産速度を求めた。結果を
図1に示す。また、培養8日目の生細胞数を
図2に示す。
【0052】
(IgG濃度の測定方法)
Pall ForteBio社製のBLItzを用い、添付の取扱説明書記載の方法で細胞培養液中のIgG濃度を測定した。
【0053】
(生細胞数の測定方法)
Life technologies社製のCountess Automated Cell Counterを用いて、添付の取扱説明書記載の方法で生細胞数を測定した。
【0054】
(HCPの測定方法)
Cygnus社製のCHO Host Cell Protein 3rd Generation #550 を用い、添付の取扱説明書記載の方法で細胞培養液中のHCP濃度を測定した。
【0055】
図1、2より、特定の微生物の培養抽出物を培地に添加することにより、細胞増殖性を抑制して細胞密度を低減できると共に、細胞においてタンパク質等の有用物質の比生産速度を増大させることができることがわかった。
【0056】
(培養抽出物の培地への添加量の検討)
IgG遺伝子が導入されIgG抗体を分泌産生するCHO細胞株(ATCC CRL−12445)を用い、BalanCD Growth A Medium(Irvine Scientific社製)に馴化、および浮遊化させた細胞を実験に用いた。125mlの三角フラスコにBalanCD Growth A Mediumを30ml添加し、上記浮遊化細胞を2.0×10
5cells/mlとなるように播種し、37℃、5%CO
2環境下、100rpmで振盪をしながら8日間培養した。培養抽出画分(1−a:画分1〜5、2−a:画分6〜10、3−a:画分11〜15)を培養4日目に各々0.006%、0.016%、0.024%、0.04%、0.08%添加し、コントロール(培養抽出物無添加)としてDMSOを0.08%添加した。なお、各画分の培地へのDMSOの添加量が0.08%になるように不足分を各々添加した。8日目の培養液をサンプリングし、培養液中の生細胞数を測定した。各培養抽出各分の生育数の結果を表1に示す。8日目の生細胞数がコントロールと比べ、20%以上抑制(コントロールの生細胞数を100とした場合)されている画分を〇で示す。
【0058】
(実施例2〜4、比較例1)培養抽出物の効果
表1に示した8日目の生細胞数がコントロール(培養抽出物無添加)と比べ、20%以上抑制されていた培養抽出画分を添加した培地について、培養液中のIgG濃度を測定した。生細胞数の測定結果を
図3に示す。また、IgG濃度と生細胞数より算出した培養8日目の抗体比生産速度を
図4に示す。
【0059】
効果のあった培養抽出画分のうち、添加量が最も低濃度である培養抽出画分(1−a:画分3 0.04%、2−a:画分8 0.024%、3−a:画分13 0.016%)を添加した培地について、培養液中のHCP濃度(Host cell protein)を測定し、抗体量当たりのHCPを求めた。培養8日目の抗体量当たりの不純物量を
図5に示す。
【0060】
図3、4より、特定の微生物の培養抽出物を培地に添加することにより、細胞増殖性を抑制して細胞密度を低減できると共に、細胞においてタンパク質等の有用物質の比生産速度を増大させることができることがわかった。また、
図5より、特定の微生物の培養抽出物を培地に添加することにより、不純物量を低減できることがわかった。