特許第6904038号(P6904038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904038
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】マルチピースソリッドゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
   A63B37/00 654
   A63B37/00 418
   A63B37/00 328
   A63B37/00 618
   A63B37/00 314
   A63B37/00 640
   A63B37/00 144
   A63B37/00 138
   A63B37/00 632
   A63B37/00 542
   A63B37/00 538
   A63B37/00 658
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-85059(P2017-85059)
(22)【出願日】2017年4月24日
(65)【公開番号】特開2018-183247(P2018-183247A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克典
(72)【発明者】
【氏名】桑原 壮暢
【審査官】 槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−120898(JP,A)
【文献】 特開2015−077405(JP,A)
【文献】 特開2017−046930(JP,A)
【文献】 米国特許第8888613(US,B2)
【文献】 米国特許第7056234(US,B2)
【文献】 米国特許第7278929(US,B2)
【文献】 米国特許第9199230(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、該コアを被覆する中間層と、該中間層を被覆し、外表面に多数のディンプルが形成されるカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記中間層が樹脂材料により形成され、上記カバーがウレタン樹脂材料により形成されると共に、上記中間層の材料硬度がショアD硬度で61〜70であり、上記カバーの材料硬度がショアD硬度で55以下であり、中間層厚さ/コア直径の値が0.031〜0.039、カバー厚さ/コア直径の値が0.017〜0.022であり、コアに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が4.2mm以上であり、コアに中間層を被覆した球体の初速の値Aとコアの初速の値Bとの関係がA−B≧0(m/s)であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】
コアの表面硬度から中心硬度を引いた値がJIS−C硬度で15以上である請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】
コアの中心から表面の硬度分布において、下記式
(コア表面のJIS−C硬度−コア表面から5mm内側のJIS−C硬度)−(コア中心から5mm外側のJIS−C硬度−コア中心のJIS−C硬度)≧0
を満足する請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】
コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度からコア表面硬度を引いた値がショアD硬度で6以上であり、ボール表面硬度から中間層被覆球体の表面硬度を引いた値が0以下であり、且つ、コアの表面硬度からボールの表面硬度を引いた値が−5以上である請求項1〜のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】
コア、中間層被覆球体及びボールの初速の関係が下記式
中間層被覆球体の初速≧コア初速>ボール初速
を満足する請求項1〜のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項6】
ボール表面に形成されるディンプルが、直径及び/又は深さの異なる3種以上からなり、ディンプルの総数が250〜380個であり、且つ、各ディンプルの縁部によって囲まれる仮想球面の総面積が占める割合(ディンプル表面占有率)SRの値が70%以上である請求項1〜のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項7】
下記(i)〜(iv)の手順により特定される断面形状を有するディンプル(特定断面形状を有するディンプル)が少なくとも1個配置される請求項1〜のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
(i)ディンプルの最深点から該ディンプルの周縁で作られる仮想平面に下ろした垂線の足(垂足)をディンプル中心とし、該ディンプル中心と任意の1つのディンプルエッジとを通る直線を基準線とする。
(ii)上記基準線のうち上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの線分において、100点以上に分割し、該ディンプルエッジから該ディンプル中心までの距離を100%とした際に、各点の距離の割合を算出する。
(iii)上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの距離の0〜100%の20%毎のディンプル深さの割合を算出する。
(iv)上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの距離の20〜100%のディンプル領域における深さの割合において、上記距離の20%毎の深さの変化量ΔHを求め、この変化量ΔHが上記距離20〜100%に相当する全ての領域において6%以上24%以下となるようにディンプルの断面形状を設計する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア、中間層及びカバーの少なくとも3層構造を有するマルチピースソリッドゴルフボールに関し、更に詳述すると、フルショットでのスピンを抑えて優れた飛び性能を与え、ソフトな打感と繰り返し打撃耐久性を有するマルチピースソリッドゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールに要求される主な性能としては、飛距離、コントロール性、耐久性、打感(フィーリング)等があり、常に最高のものが求められている。このような中、近年のゴルフボールでは、3ピースに代表される多層構造ボールが次々と生み出されている。ゴルフボールの構造を多層化したことにより、異なる特性の材料を多く組み合わせることができるようになり、各層に機能を分担させることで、多種多様なボール設計が可能になった。
【0003】
中でも、コアを被覆する中間層やカバー(最外層)の各層の硬度関係を適正化した機能的なマルチピースソリッドゴルフボールが普及している。例えば、コア、中間層及びカバーを有する少なくとも3層以上のゴルフボールであって、コアの直径、中間層及びカバーの厚さや、コアの所定荷重負荷時のたわみ量や各層の硬度等の設計に着目したゴルフボールとして、例えば、特開2002−11117号公報、特開平9−239068号公報、特開平11−104273号公報、特開2001−54588号公報、特開2001−299961号公報、特開2010−188199号公報、特開2010−179119号公報、特開2002−315848号公報、特開2002−345999号公報、特開2004−180822号公報、特開2005−224514号公報、特開2005−224515号公報、特開2006−204908号公報、特開2006−312044号公報、特開2008−119461号公報、特開2009−106739号公報、特開2009−34505号公報、特開2011−120898号公報、特開2011−218161号公報、特開2013−230362号公報及び特開2016−112308号公報の技術文献が挙げられる。
【0004】
しかしながら、上記のマルチピースソリッドゴルフボールは、いずれも、フルショットでのスピンを抑えて飛距離を伸ばすことができ、更には、ソフトな打感と繰り返し打撃耐久性とを両立させるボール性能として十分に満足し得るものではなかった。特には、ゴルフボールの市場においては、プロ以外に、プロや上級者ほどヘッドスピードは速くない中級者のボール使用者は多く、ドライバー(W#1)打撃時の飛び性能だけでなくアプローチした時のスピン性能においては十分な高いスピン性能を発揮でき、打感等の諸性能を高レベルなものとする中級者が満足し得るゲーム性の高いゴルフボールの提案や開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−11117号公報
【特許文献2】特開平9−239068号公報
【特許文献3】特開平11−104273号公報
【特許文献4】特開2001−54588号公報
【特許文献5】特開2001−299961号公報
【特許文献6】特開2010−188199号公報
【特許文献7】特開2010−179119号公報
【特許文献8】特開2002−315848号公報
【特許文献9】特開2002−345999号公報
【特許文献10】特開2004−180822号公報
【特許文献11】特開2005−224514号公報
【特許文献12】特開2005−224515号公報
【特許文献13】特開2006−204908号公報
【特許文献14】特開2006−312044号公報
【特許文献15】特開2008−119461号公報
【特許文献16】特開2009−106739号公報
【特許文献17】特開2009−34505号公報
【特許文献18】特開2011−120898号公報
【特許文献19】特開2011−218161号公報
【特許文献20】特開2013−230362号公報
【特許文献21】特開2016−112308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、フルショットでのスピンを抑えて優れた飛び性能を与え、ソフトな打感と繰り返し打撃耐久性を有するマルチピースソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、コア、中間層及びカバーを具備し、外表面に多数のディンプルが形成されるカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記中間層を樹脂材料により形成し、上記カバーをウレタン樹脂材料により形成すると共に、上記中間層の材料硬度及び上記カバーの材料硬度をそれぞれ所定範囲とし、中間層厚さ/コア直径の値、及びカバー厚さ/コア直径の値をそれぞれ所定範囲とし、コアの所定荷重負荷時のたわみ量、コアに中間層を被覆した球体の初速の値とコアの初速の値との関係を特定化することにより、フルショットでのスピンを抑えると共に、ソフトな打感と繰り返し打撃耐久性とを両立させることができ、特にヘッドスピードが中程度である中級者に向けのゴルファーに最適なゴルフボールを提供できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、軟らかいコアと硬めの中間層を有し、フルショットで低スピン化が得られる構造にしており、良好なW#1打撃時の飛距離が得られるようにしている。また、ソフトな打感と高い繰り返し打撃耐久性を両立させるために、中間層厚さ/コアの直径を適正化している。更に、優れた飛びと高い生産性を両立させるために、カバー厚さ/コアの直径を適正化している。また更に、ショットゲームにおけるコントロール性を高めるために軟らかいウレタンカバーを搭載している。
【0009】
従って、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
〔1〕コアと、該コアを被覆する中間層と、該中間層を被覆し、外表面に多数のディンプルが形成されるカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記中間層が樹脂材料により形成され、上記カバーがウレタン樹脂材料により形成されると共に、上記中間層の材料硬度がショアD硬度で61〜70であり、上記カバーの材料硬度がショアD硬度で55以下であり、中間層厚さ/コア直径の値が0.031〜0.039、カバー厚さ/コア直径の値が0.017〜0.022であり、コアに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量が4.2mm以上であり、コアに中間層を被覆した球体の初速の値Aとコアの初速の値Bとの関係がA−B≧0(m/s)であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
〔2〕コアの表面硬度から中心硬度を引いた値がJIS−C硬度で15以上である〔1〕記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〔3〕コアの中心から表面の硬度分布において、下記式
(コア表面のJIS−C硬度−コア表面から5mm内側のJIS−C硬度)−(コア中心から5mm外側のJIS−C硬度−コア中心のJIS−C硬度)≧0
を満足する〔1〕又は〔2〕記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〕コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度からコア表面硬度を引いた値がショアD硬度で6以上であり、ボール表面硬度から中間層被覆球体の表面硬度を引いた値が0以下であり、且つ、コアの表面硬度からボールの表面硬度を引いた値が−5以上である〔1〕〜〔〕のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〕コア、中間層被覆球体及びボールの初速の関係が下記式
中間層被覆球体の初速≧コア初速>ボール初速
を満足する〔1〕〜〔〕のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〕ボール表面に形成されるディンプルが、直径及び/又は深さの異なる3種以上からなり、ディンプルの総数が250〜380個であり、且つ、各ディンプルの縁部によって囲まれる仮想球面の総面積が占める割合(ディンプル表面占有率)SRの値が70%以上である〔1〕〜〔〕のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〕下記(i)〜(iv)の手順により特定される断面形状を有するディンプル(特定断面形状を有するディンプル)が少なくとも1個配置される〔1〕〜〔〕のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
(i)ディンプルの最深点から該ディンプルの周縁で作られる仮想平面に下ろした垂線の足(垂足)をディンプル中心とし、該ディンプル中心と任意の1つのディンプルエッジとを通る直線を基準線とする。
(ii)上記基準線のうち上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの線分において、100点以上に分割し、該ディンプルエッジから該ディンプル中心までの距離を100%とした際に、各点の距離の割合を算出する。
(iii)上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの距離の0〜100%の20%毎のディンプル深さの割合を算出する。
(iv)上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの距離の20〜100%のディンプル領域における深さの割合において、上記距離の20%毎の深さの変化量ΔHを求め、この変化量ΔHが上記距離20〜100%に相当する全ての領域において6%以上24%以下となるようにディンプルの断面形状を設計する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールによれば、特に、中級者において、ドライバー(W#1)でのフルショットで低スピン化が得られ飛距離を十分に伸ばすことができると共に、ソフトな打感と高い繰り返し打撃耐久性を両立させることができる。また、アプローチショット時のスピンが高く得られ、ショットゲームにおけるコントロール性を高く、更に、ゴルフボールの生産性も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るゴルフボールの構造の一例を示した概略断面図である。
図2】ゴルフボールの表面に形成されたディンプルの1つを拡大した拡大断面図である。
図3】ディンプルの断面とその内部に設定した領域との関係を示す説明図である。
図4】各実施例・比較例のボールで使用したディンプルパターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、コア、中間層及びカバーを有するものであり、例えば、図1にその一例を示す。図1に示したゴルフボールGは、コア1と、該コア1を被覆す中間層2と、該中間層2を被覆するカバー3とを有している。本発明においては、上記コアは単層であっても複数層に形成されていてもよい。なお、上記カバー3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。以下、上記の各層について詳述する。
【0013】
コアは公知のゴム組成物を用いて形成することができ、特に制限されるものではないが、好適なものとして以下に示す配合のゴム組成物を例示することができる。
【0014】
上記コアを形成する材料としては、ゴム材を主材として用いることができる。例えば、基材ゴムに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、硫黄、老化防止剤、有機硫黄化合物等を含有するゴム組成物を用いて形成することができる。
【0015】
本発明では、特に以下に示す配合成分(I)〜(III)を含有するゴム組成物を採用することが好ましい。
(I)基材ゴム
(II)有機過酸化物
(III)水及び/又はモノカルボン酸金属塩
【0016】
上記(I)成分の基材ゴムについては、特に制限されるものではないが、特にポリブタジエンを用いることが好適である。
【0017】
上記のポリブタジエンは、そのポリマー鎖中に、シス−1,4−結合を60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上有することが好適である。ポリブタジエン分子中の結合に占めるシス−1,4−結合が少なすぎると、反発性が低下する場合がある。
【0018】
なお、基材ゴム中には、上記ランタン系列希土類元素化合物とは異なる触媒にて合成されたポリブタジエンゴムを配合してもよい。また、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等を配合してもよく、これら1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
次に、上記の(II)有機過酸化物としては、特に制限されるものではないが、1分間半減期温度が110〜185℃である有機過酸化物を用いることが好適であり、1種または2種以上の有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物の配合量としては、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限値としては、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。上記の有機過酸化物は、市販品を用いることができ、具体的には、商品名「パークミルD」、「パーヘキサC−40」、「ナイパーBW」、「パーロイルL」等(いずれも日油社製)、または、Luperco 231XL(アトケム社製)などを例示することができる。
【0020】
次に、上記の(III)成分の水については、特に制限はなく、蒸留水であっても水道水であってもよいが、特には、不純物を含まない蒸留水を使用することが好適に採用される。水の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上配合することが好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限としては、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0021】
また、上記の水を適量配合することにより、加硫前のゴム組成物における水分含有率が1000ppm以上となることが好ましく、より好ましくは1500ppm以上である。上限としては、好ましくは8500ppm以下であり、より好ましくは8000ppm以下である。上記ゴム組成物の水分含有率が小さすぎると、適切な架橋密度・Tan δを得ることが困難となり、エネルギーロスが少なく低スピン化を図ったゴルフボールを成形することが困難となる場合がある。上記ゴム組成物の水分含有率が大きすぎると、コアが軟らかくなりすぎてしまい、適切なコア初速を得ることが困難となる場合がある。
【0022】
上記ゴム組成物に水を直接配合することも可能ではあるが、下記の(i)〜(iii)の方法を採用することができる。
(i)スチームや超音波によりミスト状の水をゴム組成物(配合材料)の全部または一部にあてる方法
(ii)ゴム組成物の全部または一部を水に浸漬させる方法
(iii)ゴム組成物の全部または一部を恒湿槽等の湿度管理可能な場所において高湿度環境下に一定時間放置する方法
なお、高湿度環境とはゴム組成物等を湿らせることができる環境であれば特に制限されるものではないが湿度40〜100%であることが好ましい。
【0023】
また、水をゼリー状に加工して上記ゴム組成物に配合することができる。或いは、予め水を、充填剤,未加硫ゴム,ゴム粉等に担持した材料を用い、これを上記ゴム組成物に配合することができる。このような態様は、直接水を配合するよりも作業性に優れるため、ゴルフボールの生産効率を向上させることができる。水を所定量含有させた材料の種類については特に制限はないが、十分に水を含有させた充填剤,未加硫ゴム,ゴム粉等が挙げられ、特に、耐久性や反発性を損なうことがない材料を使用することが好適である。上記の材料の水分含有率としては、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、上限として、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0024】
また、上記の水の代わりに、モノカルボン酸金属塩を採用することができる。モノカルボン酸金属塩は、カルボン酸が金属に対して配位結合していると推定され、例えば〔CH2=CHCOO〕2Znで表わされるジアクリル酸亜鉛のようなジカルボン酸金属塩とは区別される。モノカルボン酸金属塩は、脱水縮合反応をすることによりゴム組成物中に水をもたらすため、上記水と同様の効果を得ることができる。また、モノカルボン酸金属塩は、粉体としてゴム組成物に配合することができるため、作業工程を簡略化することができると共に、ゴム組成物中に均一に分散させることが容易である。なお、上記の反応を効果的に行うためには、モノ塩であることが必要である。モノカルボン酸金属塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して1質量部以上配合することが好ましく、より好ましくは3質量部以上である。上限としては、モノカルボン酸金属塩の配合量は、60質量部以下配合することが好ましく、より好ましくは50質量部以下である。上記モノカルボン酸金属塩の配合量が少なすぎると、適切な架橋密度・Tan δを得ることが困難となり、十分にゴルフボールの低スピン効果を得ることができないことがある。また、配合量が多すぎる場合には、コアが硬くなりすぎるため、適切な打感を保つことが困難になる場合がある。
【0025】
上記のカルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ステアリン酸等を使用することができる。置換金属としては、Na、K、Li、Zn、Cu、Mg、Ca、Co、Ni、Pb等が挙げられるが、好ましくはZnが好適に用いられる。具体例としては、モノアクリル酸亜鉛、モノメタクリル酸亜鉛等が挙げられ、特に、モノアクリル酸亜鉛を用いることが好ましい。
【0026】
上記の各成分を含有するゴム組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練することにより調製される。また、該ゴム組成物を用いてコアを成形する場合、所定のコア成形用金型を用いて圧縮成形又は射出成形等により成形すればよい。得られた成形体については、ゴム組成物に配合された有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度条件で加熱硬化し、所定の硬度分布を有するコアとする。この場合、加硫条件は特に限定されるものではないが、通常、約100〜200℃、特に130〜170℃で10〜40分、特に12〜20分の条件とされる。
【0027】
上記コアの直径は、特に制限されるものでないが、37.6mm以上とすることが好ましく、より好ましくは37.8mm以上、さらに好ましくは38.0mm以上であり、上限値としては、好ましくは39.1mm以下、より好ましくは38.8mm以下、さらに好ましくは38.5mm以下である。
【0028】
上記コアの中心硬度(Cc)は、特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは46以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは54以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは65以下、より好ましくは62以下、更に好ましくは58以下とすることができる。この値が大き過ぎると、スピンが増え過ぎて飛ばなくなることがあり、または打感が硬く感じられることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがあり、または打感が軟らかくなり過ぎることがある。
【0029】
上記コアの表面硬度(Cs)は、特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは70以上、より好ましくは75以上、更に好ましくは80以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは90以下、より好ましくは88以下、更に好ましくは86以下とすることができる。また、上記コアの表面硬度は、ショアD硬度で表すと、好ましくは45以上、より好ましくは49以上、更に好ましくは53以上であり、上限として、好ましくは60以下、より好ましくは59以下、更に好ましくは57以下である。この値が大き過ぎると、打感が硬くなり、または繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、スピンが増え過ぎ、または反発が低くなって飛ばなくなることがある。
【0030】
なお、上記の中心硬度(Cc)とは、コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の中心において測定される硬度を意味し、表面硬度(Cs)は上記コアの表面(球面)において測定される硬度を意味する。
【0031】
コアの内外の硬度差を大きくすべく、コアの中心と表面の硬度差を適正化する。即ち、コア表面硬度(Cs)−コア中心C硬度(Cc)の値は、JIS−C硬度で15以上であり、好ましくは20以上、より好ましくは24以上である。また、その上限は、特に制限されるものではなく、JIS−C硬度で好ましくは40以下、より好ましくは30以下である。上記硬度差が小さすぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。上記の硬度差が大きすぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。
【0032】
また、コアの表面硬度(Cs)と、コア表面から5mm内側の硬度(Cs−5)との差、即ち、(Cs)−(Cs−5)の値は、JIS−C硬度で好ましくは3以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは9以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下とすることができる。この値が小さすぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0033】
コア中心から5mm外側の硬度(Cc+5)と、コアの中心硬度(Cc)との差、即ち、(Cc+5)−(Cc)の値は、JIS−C硬度で好ましくは0以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは3以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは9以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは5以下とすることができる。この値が小さすぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0034】
コア中心部分及びその付近の硬度よりも表面部分及びその付近の硬度が高く、表面付近の硬度傾斜を中心付近の硬度傾斜と同等以上にするため、上述した、コア中心C硬度(Cc)、コア中心から5mm外側の硬度(Cc+5)、コア表面から5mm内側の硬度(Cs−5)及びコア表面硬度(Cs)の関係を所定範囲に適正化することが好適である。即ち、{(Cs)−(Cs−5)}−{(Cc+5)−(Cc)}の値は、JIS−C硬度で好ましくは0以上であり、より好ましくは2以上、更に好ましくは5以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、JIS−C硬度で好ましくは15以下、より好ましくは13以下、更に好ましくは10以下とすることができる。上記の値が小さすぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0035】
上記コアのたわみ量、即ち、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1275N(130kgf)まで負荷したときのたわみ量は、特に制限されるものではないが、好ましくは4.2mm以上、より好ましくは4.3mm以上、更に好ましくは4.4mm以上である。また、その上限値は、好ましくは5.0mm以下であり、より好ましくは4.6mm以下とすることができる。上記範囲よりも硬すぎる(たわみ量が小さすぎる)と、スピン量が増えすぎて飛ばなくなり、または打感が硬くなりすぎることがある。逆に、上記範囲よりも軟らかすぎる(たわみ量が大きい)と、反発性が低くなりすぎて飛ばなくなり、または打感が軟らかくなりすぎ、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0036】
次に、中間層について説明すると、本発明では中間層材料は樹脂により形成されるものであり、特に各種の熱可塑性樹脂材料を好適に用いられる。中間層の好ましい材料としては、例えば、アイオノマー樹脂材料や後述する高中和型樹脂材料を使用することが好適である。
【0037】
アイオノマー樹脂材料としては、具体的には、(商品名)ハイミラン1605、同1601、サーリン8120等のナトリウム中和型アイオノマー樹脂やハイミラン1557、同1706等の亜鉛中和型アイオノマー樹脂などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上併用することができる。
【0038】
また、上記のアイオノマー樹脂材料には、好ましくは高酸のアイオノマーをブレンドすることが望ましい。この場合、高酸アイオノマー材料に含まれる不飽和カルボン酸の含量(酸含量)については、好ましくは16質量%以上、より好ましくは17質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、上限値として、好ましくは22質量%以下、より好ましくは21質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。この酸含量の値が小さすぎると、フルショット時にスピンが増え、狙いの飛距離が得られなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、打感が硬くなりすぎたり、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0039】
また、高中和型樹脂材料としては、下記(A)〜(D)成分、
(a−1)オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(a−2)オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを、
質量比で100:0〜0:100になるように配合した(A)ベース樹脂と、
(B)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを質量比で100:0〜50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、
(C)分子量が228〜1500の脂肪酸及び/又はその誘導体
5〜120質量部と、
(D)上記(A)成分及び(C)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1〜17質量部
とを含有する樹脂組成物を主材として形成されたものを好適に用いることができる。
【0040】
上記(A)〜(D)成分について以下に説明する。
(A)成分は、中間層を形成する樹脂組成物のベース樹脂となるものであり、(a−1)成分は、オレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物、(a−2)成分は、オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物である。
【0041】
ここで、上記(a−1)成分及び(a−2)成分におけるオレフィンとしては、通常炭素数2以上、上限として8以下、特に6以下のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、特にエチレンであることが好ましい。
【0042】
また、不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。
【0043】
上記(a−2)成分における不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば上述した不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルを挙げることができ、より具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、特にアクリル酸ブチル(n−アクリル酸ブチル、i−アクリル酸ブチル)が好ましく用いられる。
【0044】
上記(a−1)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び(a−2)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体(以下、これらを総称して「ランダム共重合体」と略記することがある)は、それぞれ上述したオレフィン、不飽和カルボン酸、及び必要に応じて不飽和カルボン酸エステルを公知の方法によりランダム共重合させて得ることができる。
【0045】
上記ランダム共重合体は、不飽和カルボン酸の含量(酸含量)が調整されたものであることが好ましい。この場合、(a−1)成分に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、最も好ましくは10質量%以上とすることができ、その上限は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは18質量%以下、最も好ましくは15質量%以下であることが推奨される。また、(a−2)成分に含まれる不飽和カルボン酸の含量は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上とすることができ、その上限は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であることが推奨される。上記(a−1)成分及び/又は(a−2)成分に含まれる不飽和カルボン酸の含量が少なすぎると反発性が低下する可能性があり、多すぎると加工性が低下する可能性がある。
【0046】
上記(a−1)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物及び(a−2)成分のオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物(以下、これらを総称して「ランダム共重合体の金属イオン中和物」と略記することがある)は、それぞれ上記ランダム共重合体中の酸基の一部又は全部を金属イオンで中和することにより得ることができる。
【0047】
上記ランダム共重合体中の酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na+、K+、Li+、Zn++、Cu++、Mg++、Ca++、Co++、Ni++、Pb++等が挙げられる。本発明においては、この中でも特にNa+、Li+、Zn++、Mg++等を好適に用いることができ、更にはMg++、Zn++であることが推奨される。これら金属イオンによるランダム共重合体の中和度は特に限定されるものではない。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記ランダム共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して導入することができる。
【0048】
上記(A)成分としては市販品を用いることができ、具体的には、上記(a−1)成分のランダム共重合体として、例えばニュクレル1560、同1214、同1035(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR5200、同5100、同5000(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、
上記(a−1)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えばハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同AM7311(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン7930(米国デュポン社製)、アイオテック3110、同4200(EXXONMOBILCHEMICAL社製)等を、
上記(a−2)成分のランダム共重合体として、例えばニュクレルAN4311、同AN4318、同AN4319、同AN4221C(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、ESCOR ATX325、同ATX320、同ATX310(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、
上記(a−2)成分のランダム共重合体の金属イオン中和物として、例えばハイミラン1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同8320、同9320、同8120(いずれも米国デュポン社製)、アイオテック7510、同7520(いずれもEXXONMOBIL CHEMICAL社製)等を、
それぞれ挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
なお、上記ランダム共重合体の金属イオン中和物として好適なナトリウム中和型アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1605、同1601、サーリン8120を挙げることができる。
【0050】
なお、上記中間層用の樹脂組成物のベース樹脂として、上記(a−1)成分及び上記(a−2)成分を単独で又は両成分を併用して使用することができる。両成分の配合比率は質量比で(a−1)成分:(a−2)成分=100:0〜0:100であり、特に制限されるものではないが、好ましくは50:50〜0:100である。
【0051】
上記(B)非アイオノマー系熱可塑性エラストマーは、ゴルフボール打撃時のフィーリング、反発性をより一層向上させる観点から好適に配合される成分である。本発明においては、上記(A)成分のベース樹脂と(B)成分の非アイオノマー系熱可塑性エラストマーとを総称して「樹脂成分」と略記することがある。この(B)成分としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができ、本発明においては反発性を更に高める観点から、特にオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーを好適に用いることができる。また、上記(B)成分としては、市販品を用いることができ、具体的には、オレフィン系エラストマーとしてダイナロン(JSR社製)、ポリエステル系エラストマーとしてハイトレル(東レ・デュポン社製)等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分との質量比で(A)成分:(B)成分=100:0〜50:50、好ましくは100:0〜60:40とすることができる。上記(B)成分が上記樹脂成分中に占める割合が50質量%を超えると、各々の成分の相溶性が低下し、ゴルフボールの耐久性が著しく低下する可能性がある。
【0053】
(C)成分は、分子量228以上の脂肪酸及び/又はその脂肪酸誘導体であり、樹脂組成物の流動性向上に寄与する成分で、上記樹脂成分の熱可塑性樹脂と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度を適度に調整し、特に流動性の向上に寄与する成分である。また、本発明の脂肪酸(誘導体)は、分子量が228以上で高含量の酸基(誘導体)を含むため、添加による反発性の損失が少ないものである。
【0054】
上記(C)成分の脂肪酸又はその誘導体の分子量は、228以上、好ましくは256以上、より好ましくは280以上、更に好ましくは300以上とすることができる。また、その上限は1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、更に好ましくは500以下であるとされる。この場合、分子量が小さすぎると、耐熱性の改善が達成できない上、酸基の含有量が多すぎて、(A)成分に含まれる酸基との相互作用により流動性の改善の効果が少なくなってしまう場合がある。一方、分子量が大きすぎる場合には、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
【0055】
このような(C)成分の脂肪酸としては、例えば、アルキル基中に二重結合又は三重結合を含む不飽和脂肪酸や、アルキル基中の結合が単結合のみで構成される飽和脂肪酸を好適に用いることができる。上記脂肪酸の1分子中の炭素数としては18以上、好ましくは20以上、より好ましくは22以上、更に好ましくは24以上とすることができる。また、その上限は80以下、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下とすることができる。炭素数が少なすぎると、耐熱性に劣る結果となる場合があるのみならず、酸基の含有量が相対的に多すぎて樹脂成分に含まれる酸基との相互作用が過剰となり、流動性の改善効果が小さくなってしまう場合がある。一方、炭素数が多すぎる場合には、分子量が大きくなるために、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
【0056】
(C)成分の脂肪酸として、具体的には、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、特に、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸を好適に用いることができる。
【0057】
また、脂肪酸誘導体は、脂肪酸の酸基に含まれるプロトンを置換したものが挙げられ、このような脂肪酸誘導体としては、金属イオンにより置換した金属せっけんを例示することができる。該金属せっけんに用いられる金属イオンとしては、例えば、Li+、Ca++、Mg++、Zn++、Mn++、Al+++、Ni++、Fe++、Fe+++、Cu++、Sn++、Pb++、Co++が挙げられ、特にCa++、Mg++、Zn++が好ましい。
【0058】
(C)成分の脂肪酸誘導体として、具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等が挙げられ、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛を好適に使用することができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分及び(B)成分を含む樹脂成分100質量部に対し5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは18質量部以上とすることができる。また、その上限は120質量部以下、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下とされる。上記(C)成分の配合量が少ない場合、溶融粘度が低くなり加工性が低下し、多いと耐久性が低下することがある。
【0060】
なお、本発明においては、上述した(A)成分及び(C)成分の混合物として、公知の金属せっけん変性アイオノマー(米国特許第5312857号明細書、米国特許第5306760号明細書、国際公開第98/46671号等)を使用することもできる。
【0061】
(D)成分の塩基性無機金属化合物は、上記(A)成分及び(C)成分中の酸基を中和するために配合するものである。上記(D)成分を含まない場合、特に金属変性アイオノマー樹脂のみ(例えば、上記特許公報に記載された金属せっけん変性アイオノマー樹脂のみ)を加熱混合すると、下記に示すように金属せっけんとアイオノマーに含まれる未中和の酸基との交換反応により脂肪酸が発生する。この発生した脂肪酸は熱的安定性が低く、成形時に容易に気化するため、成形不良の原因となるばかりでなく、発生した脂肪酸が成形物の表面に付着した場合、塗膜密着性が著しく低下する原因になる。
【0062】
【化1】
【0063】
このような問題を解決すべく、(D)成分として、上記(A)成分と(C)成分中に含まれる酸基を中和する塩基性無機金属化合物を必須成分として配合する。(D)成分の配合で、上記(A)成分と(C)成分中の酸基が中和され、これら各成分配合による相乗効果により、樹脂組成物の熱安定性が高まると同時に、良好な成形性が付与され、ゴルフボール用材料としての反発性が向上するという優れた特性が付与されるものである。
【0064】
(D)成分は、上記(A)成分及び(C)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機金属化合物であり、好ましくは一酸化物であることが推奨され、アイオノマー樹脂との反応性が高く、反応副生成物に有機物を含まないため、熱安定性を損なうことなく、樹脂組成物の中和度を上げることができる。
【0065】
ここで、塩基性無機金属化合物に使われる金属イオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Ca++、Mg++、Zn++、Al+++、Ni++、Fe++、Fe+++、Cu++、Mn++、Sn++、Pb++、Co++等が挙げられ、無機金属化合物としては、これら金属イオンを含む塩基性無機充填材、具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上併用しても良い。本発明においてはこれらの中でも、特に水酸化物又は一酸化物であることが推奨され、(A)成分との反応性が高い水酸化カルシウム、酸化マグネシウムが好適に使用される。
【0066】
(D)成分の配合量は、上記樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上とすることができる。また、その上限は17質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは13質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。上記(D)成分の配合量が少なすぎると、熱安定性及び反発性の向上がみられず、多すぎた場合は、過剰の塩基性無機金属化合物により組成物の耐熱性がかえって低下することがある。
【0067】
なお、上記(A)〜(D)成分を混合して得られる混合物の中和度は、混合物中の酸基の総量を基準として50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上とされる。このような高中和化により、例えば金属せっけん変性アイオノマー樹脂を使用する場合であっても、加熱混合時に金属せっけんとアイオノマー樹脂に含まれる未中和の酸基との交換反応が生じにくく、熱的安定性、成形性、反発性を損なうおそれが低減される。
【0068】
なお、上記(A)〜(D)成分を含む樹脂組成物には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができ、例えば、顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜配合することができる。その配合量としても特に制限されるものではないが、上記樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上とすることができる。また、その上限は10質量部以下、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0069】
なお、上記樹脂組成物は、上述した(A)〜(D)を加熱混合して得ることができ、例えば、混練型二軸押出機、バンバリーミキサー及びニーダー等の公知の混練機を用いて150〜250℃の加熱温度で混練することにより得ることができる。また、市販品のものを直接使用することができ、具体的には、Dupont社製の商品名「HPF 1000」「HPF 2000」、「HPF AD1027」、実験用「HPF SEP1264−3」などが挙げられる。
【0070】
中間層の形成方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、予め作製したコアを金型内に配備し、上記で作製した樹脂組成物を射出成形する方法等を採用できる。
【0071】
なお、中間層材料については、後述するように、カバー(最外層)として好適に用いられるポリウレタンとの密着度を高めるために中間層表面を研磨することが好適である。更に、その研磨処理の後にプライマー(接着剤)を中間層表面に塗布するか、もしくは材料中に密着強化材を添加することが好ましい。
【0072】
中間層材料の比重は、通常1.1未満であり、好ましくは0.90〜1.05、さらに好ましくは0.93〜0.99である。その範囲を逸脱すると、反発が低くなり飛距離が伸びなくなり、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。
【0073】
中間層の材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは61以上、より好ましくは62以上、更に好ましくは63以上、上限として、好ましくは70以下、より好ましくは68以下、更に好ましくは66以下である。また、コアに中間層を被覆した球体の表面硬度(以下、「中間層被覆球体」と称す。)は、ショアD硬度で、好ましくは67以上、より好ましくは68以上、更に好ましくは69以上であり、上限として、好ましくは76以下、より好ましくは74以下、更に好ましくは72以下である。上記範囲よりも軟らかすぎると、フルショット時に反発が足りなくなり、またはスピンが掛かりすぎて飛距離が出なくなることがある。逆に、上記範囲よりも硬すぎると、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなり、または打感が硬くなりすぎることがある。
【0074】
本発明では、ソフトな打感と高い繰り返し打撃耐久性との両立の点から、中間層厚さ/コア直径の値を0.025〜0.043の範囲に設定する。上記の中間層厚さ/コア直径の好ましい値は、0.028〜0.041であり、更に好ましくは0.031〜0.039である。この値が小さすぎると、繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、打感が硬く感じられることがある。
【0075】
次に、ボールの最外層に相当するカバーについて説明する。
本発明では、上記カバーは、コントロール性と耐擦過傷性の観点から、ウレタン樹脂材料が使用される。特に、ボール製品の量産性の観点から、熱可塑性ポリウレタンを主体としたものを使用することが好適であり、より好ましくは、(X)熱可塑性ポリウレタン及び(Y)ポリイソシアネート化合物を主成分とする樹脂配合物により形成することができる。
【0076】
本発明の効果を十分有効に発揮させるためには、必要十分量の未反応のイソシアネート基がカバー樹脂材料中に存在すればよく、具体的には、上記の(X)成分と(Y)成分とを合わせた合計質量が、カバー全体の質量の60%以上であることが推奨されるものであり、より好ましくは、70%以上である。上記(X)成分及び(Y)成分については以下に詳述する。
【0077】
上記(X)熱可塑性ポリウレタンについて述べると、その熱可塑性ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤及びポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、反発弾性率が高く低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタンを合成できる点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0078】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブチレングリコールがより好ましい。
【0079】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−(又は)2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0080】
具体的な(X)成分の熱可塑性ポリウレタンとして、市販品を用いることもでき、例えば、パンデックスT−8295、同T−8290、同T−8260、同T−8283(いずれもディーアイシーバイエルポリマー社製)などが挙げられる。
【0081】
必須成分ではないが、上記(X)及び(Y)成分に、(Z)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(Z)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐擦過傷性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
【0082】
上記(X)、(Y)及び(Z)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(X):(Y):(Z)=100:2〜50:0〜50であることが好ましく、更に好ましくは、(X):(Y):(Z)=100:2〜30:8〜50(質量比)とすることである。
【0083】
更に、上記の樹脂配合物には、必要に応じて、上記の熱可塑性ポリウレタンを構成する成分以外の種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0084】
カバーの材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは35以上、より好ましくは40以上であり、上限として、好ましくは55以下、より好ましくは53以下、更に好ましくは50以下である。上述した中間層被覆球体にカバーを被覆した球体、即ちボールの表面硬度は、ショアD硬度で、好ましくは40以上、より好ましくは50以上であり、上限として、好ましくは62以下、より好ましくは61以下、更に好ましくは60以下である。上記範囲よりも軟らかすぎると、W#1打撃時にスピンが多くなり飛距離が出なくなることがある。
【0085】
また、本発明では、優れた飛びと高い生産性を両立させるために、カバー厚さ/コア直径の値を0.014〜0.027の範囲に設定する。上記のカバー厚さ/コア直径の好ましい値は、0.017〜0.024であり、より好ましくは0.020〜0.022である。この値が小さすぎると、カバーの成形性が悪くなったり、耐擦過傷性が悪くなったり、アプローチでのスピンが掛からなくなりコントロール性が不足することがある。逆に、上記の値が大きすぎると、W#1やアイアンフルショット時に反発が足りなくなったりスピンが多くなったりして、飛距離が出なくなることがある。
【0086】
次に、上記のゴルフボールについては、更に、以下の要件を満たすことが好適である。
(1)コアの初速と中間層被覆球体の初速の関係について
ボール内部を高反発性及び耐久性の点から、コアに中間層を被覆した球体の初速の値Aがコアの初速の値Bとの関係がA−B≧0(m/s)であることを要件とする。即ち、中間層被覆球体の初速からコアの初速を引いた値が0m/s以上、好ましくは0.1m/s以上であり、より好ましくは0.2m/s以上であり、上限として、好ましくは0.8m/s以下、より好ましくは0.5m/s以下である。この値が小さすぎると、ボールとしての反発が低くなりすぎ、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなりすぎることがある。なお、各球体の初速の測定については、後述する各実施例に示した測定装置及び測定条件を用いる。
【0087】
(2)コアの初速、中間層被覆球体の初速及びボールの初速について
また、コア、中間層被覆球体及びボールの初速の関係が下記式
中間層被覆球体の初速≧コア初速>ボール初速
を満足すること、より好ましくは、
中間層被覆球体の初速>コア初速>ボール初速
を満足することである。上記の関係式を満たさない場合、ボールの反発性が低くなったり、適正なフルショット時のスピンレベルを保つことができず飛ばなくなることがある。
【0088】
(3)中間層被覆球体の表面硬度とコアの表面硬度について
中間層被覆球体の表面硬度からコア表面硬度を引いた値は、ショアD硬度で、好ましくは6以上であり、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上である。また、この値の上限としては、好ましくは24以下であり、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは18以下である。この値が小さすぎると、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0089】
(4)ボール表面硬度と中間層被覆球体の表面硬度について
ボール表面硬度から中間層被覆球体の表面硬度を引いた値は、ショアD硬度で、好ましくは−25以上、より好ましくは−20以上であり、上限としては、好ましくは0以下、より好ましくは−4以下、さらに好ましくは−8以下である。この値が小さすぎる(マイナス方向に大きくなりすぎる)と、スピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きく(正の方向)なりすぎると、ショートゲームでのコントロール性が不足し、または打感が悪くなりすぎることがある。
【0090】
(5)コア表面硬度とボール表面硬度について
コアの表面硬度からボールの表面硬度を引いた値は、ショアD硬度で、好ましくは−11以上、より好ましくは−8以上、さらに好ましくは−5以上であり、上限としては、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは0以下である。この値が小さくなりすぎる(マイナス方向に大きくなりすぎる)と、ショートゲームでのコントロール性が悪くなり、或いは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなりすぎることがある。逆に、上記値が大きくなりすぎると、打感が悪くなることがある。
【0091】
(6)中間層厚さとカバー厚さとの関係
中間層とカバーとの厚さの取り合いを所定範囲に特定するものである。即ち、中間層厚さからカバー厚さを引いた値は、好ましくは0mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上であり、上限として、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.1mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。上記の値が小さすぎると、フルショットした時のスピンが増えすぎて飛ばなくなることがある。逆に、上記の値が大きすぎると、打感が硬く感じられることがある。
【0092】
上記カバーの外表面には多数のディンプルを形成することができる。カバー表面に配置されるディンプルについては、特に制限はないが、好ましくは250個以上、より好ましくは300個以上、更に好ましくは320個以上であり、上限として、好ましくは380個以下、より好ましくは350個以下、更に好ましくは340個以下を具備することができる。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり、飛距離が低下することがある。逆に、ディンプル個数が少なくなると、ボールの弾道が高くなり、飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0093】
ディンプルの種類としては、直径及び/又は深さが互いに異なるディンプルが2種以上形成されることが好ましく、より好ましくは3種以上形成されることが推奨される。ディンプルの形状については、円形、各種多角形、デュードロップ形、その他楕円形など1種類又は2種類以上を組み合わせて適宜使用することができる。例えば、円形ディンプルを使用する場合には、直径は2.5mm以上6.5mm以下程度、深さは0.08mm以上0.30mm以下とすることができる。
【0094】
ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率、即ち、各ディンプルの縁部によって囲まれる仮想球面の総面積が占める割合(ディンプル表面占有率)SR値(%)については、空気力学特性を十分に発揮し得る点から70%以上90%以下であることが望ましい。また、各々のディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0は、ボールの弾道の適正化を図る点から0.35以上0.80以下とすることが好適である。更に、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計がディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占めるVR値は、0.6%以上1.0%以下とすることが好ましい。上述した各数値の範囲を逸脱すると、良好な飛距離が得られない弾道となり、十分満足した飛距離を出せない場合がある。
【0095】
また、本発明では、ディンプルの断面形状を最適化することにより、飛びのバラツキを減らし空力性能を向上させることができ、即ち、ディンプル内の一定の位置における深さの変化の割合を一定の範囲に収めることにより、ディンプルの効果を安定させ、空気力学的に性能を向上させることができる。具体的には、上記ディンプルの断面形状を以下の条件を満足させることが好適である。以下、その条件について説明する。
【0096】
先ず、(i)の条件として、図2のディンプルの1つを拡大した拡大断面図を参照して、ディンプルDの最深点Pから該ディンプルの周縁で作られる仮想平面に下ろした垂線の足(垂足)をディンプル中心Oとし、該ディンプル中心Oと任意の1つのディンプルエッジEとを通る直線を基準線Lとする。
【0097】
次に、(ii)の条件として、上記基準線Lのうち上記ディンプルエッジEから上記ディンプル中心Oまでの線分において、100点以上に分割する。そして、ディンプルエッジから該ディンプル中心までの距離を100%とした際に、各点の距離の割合を算出する。即ち、図3に示すように、図中の波線がディンプルの深さに沿って表される分割ラインである。ディンプルエッジEは基点であり、上記基準線上で0%の位置であり、ディンプル中心Oは、上記基準線上では線分EOに対して100%の位置である。
【0098】
次に、(iii)の条件として、上記ディンプルエッジEから上記ディンプル中心Oまでの距離の0〜100%の20%毎のディンプル深さの割合を算出する。この場合、上記ディンプル中心Oがディンプルの最深部Pであり深さH(mm)を有する。これを深さの100%として各距離におけるディンプル深さの割合を求める。なお、ディンプルエッジEにおけるディンプル深さの割合は0%となる。
【0099】
そして、(iv)の条件として、上記ディンプルエッジから上記ディンプル中心までの距離の20〜100%のディンプル領域における深さの割合において、上記距離の20%毎の深さの変化量ΔHを求め、この変化量ΔHが上記距離20〜100%の全ての領域において6%以上24%以下となるようにディンプルの断面形状を設計する。
【0100】
このようにディンプルの断面形状を定量化すること、即ち、ディンプルの深さの変化量ΔHの値を6%以上24%以下とすることにより、ディンプルの断面形状の最適化により飛びのバラツキが減り空気力学的性能が向上するものである。上記の変化量ΔHの好ましい値は8〜22%であり、より好ましくは10〜20%である。
【0101】
また、本発明の効果をより一層高める点から、上記特定断面形状を有するディンプルにおいて、ディンプルエッジから20%の距離におけるディンプル深さの割合の変化量ΔHが最大となることが好適である。また、上記特定断面形状を有するディンプルの断面形状を呈する曲線には2箇所以上の変曲点が含まれることも本発明の効果を高める点から好適に採用される。
【0102】
上記の断面形状を有するディンプルについては、ディンプル全体の一部に含まれることが好ましい。この場合、上記の断面形状を有するディンプルがボール表面に形成されたディンプルの総数に占める割合は、特に制限されるものではないが、20%以上とすればよく、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは100%とすることができる。
【0103】
なお、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径としては42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、重さとしては好ましくは45.0〜45.93gに形成することができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0105】
〔実施例1〜4,比較例1〜7〕
コアの形成
下記表1に示すゴム組成物を調製した後、155℃,15分間の加硫条件により加硫成形することにより直径38.3mmのソリッドコアを作製した。
【0106】
【表1】
【0107】
なお、表1中に記載した数字は質量部を示し、コア材料の詳細は下記の通りである。
ポリブタジエンA
商品名「BR51」JSR社製
ポリブタジエンB
商品名「BR730」JSR社製
アクリル酸亜鉛
和光純薬工業社製
有機過酸化物
ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」日油社製
老化防止剤
2,2−メチレンビス(4−メチル−6−ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS−6」大内新興化学工業社製
酸化亜鉛
商品名「三種酸化亜鉛」(堺化学工業社製)
ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩
和光純薬工業社製
【0108】
中間層及びカバーの形成
次に、上記で得たコアの周囲に、表2に示された配合の各種樹脂成分を用いて射出成形法により中間層及びカバーを順次成形して、コアの周囲に中間層及びカバーを備えるスリーピースソリッドゴルフボールを作製した。この際、カバー表面には、全ての実施例・比較例に共通する図4に示したディンプル(ディンプル種I〜IVの4種)を形成した。このディンプルの詳細については表3に示した。
【0109】
【表2】
【0110】
なお、表2に記載した数字は質量部を示し、記載した材料の詳細は下記の通りである。
T−8295、T−8290、T−8283
DIC Bayer Polymer社製の商品名「パンデックス」、MDI−PTMGタイプ熱可塑性ポリウレタン
サーリン9150
Dupont社製のアイオノマー
AM7318、ハイミラン
三井デュポンポリケミカル社製のアイオノマー
ハイトレル4001
東レ・デュポン社製の熱可塑性ポリエステルエラストマー
ポリエチレンワックス
商品名「サンワックス161P」(三洋化成社製)
イソシアネート化合物
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
【0111】
【表3】
【0112】
ディンプルの定義
直径:ディンプルの縁に囲まれた平面の直径
深さ:ディンプルの縁に囲まれた平面からのディンプルの最大深さ
SR:ディンプルの縁に囲まれた平面で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率
【0113】
上記で得られた各実施例・比較例のゴルフボールについて、以下の項目・物性について測定した。その結果を表4に示した。
【0114】
コア、中間層被覆球体の外径
23.9±1℃の温度で、任意の表面5箇所を測定し、その平均値を1個のコア、中間層被覆球体の測定値とし、測定個数10個のコア、中間層被覆球体の平均値を求めた。
【0115】
ボール(カバー被覆球体)の外径
23.9±1℃の温度で、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数10個のボールの平均値を求めた。
【0116】
コアのたわみ量
コアを硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときまでのたわみ量を計測した。なお、上記のたわみ量はいずれも23.9℃に温度調整した後の測定値である。
【0117】
コアの中心硬度(Cc)(JIS−C硬度)
コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の中心の硬度を計測した。JIS−C硬度は、JIS K 6301−1975に規定するスプリング式硬度計(JIS−C形)により計測した。
【0118】
コアの表面硬度(Cs)(JIS−C硬度)
球状のコアの表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測した。JIS−C硬度は、JIS K 6301−1975に規定するスプリング式硬度計(JIS−C形)により計測した。また、コアの表面硬度については、ショアD硬度(ASTM D2240−95規格に準拠したタイプDデュロメータ)によっても計測した
【0119】
コアの所定位置における断面硬度(JIS−C硬度)
(1)コア中心から5mm外側の位置の断面硬度(Cc+5)については、コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の中心から5mm外側の位置の硬度を、JIS K 6301−1975に規定するスプリング式硬度計(JIS−C形)により測定した。
(2)コア表面から5mm内側の位置の断面硬度(Cs−5)については、コアを半分に(中心を通るように)切断して得た断面の表面から5mm内側の位置の硬度を、上記硬度計(JIS−C形)により測定した。
【0120】
中間層被覆球体、ボール(カバー被覆球体)の表面硬度(ショアD硬度)
中間層被覆球体又はボール(カバー)の表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測した。なお、ボール(カバー被覆球体)の表面硬度は、ボール表面においてディンプルが形成されていない陸部における測定値である。ショアD硬度はASTM D2240−95規格に準拠したタイプDデュロメータによって計測した。
【0121】
中間層及びカバーの材料硬度(ショアD硬度)
中間層及びカバーの樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアD硬度はASTM D2240−95規格に準拠して計測した。
【0122】
各層の被覆球体及びボールの初速
R&Aの承認する装置であるUSGAのドラム回転式の初速計と同方式の初速測定器を用いて測定した。コア、中間層被覆球体及びボール(カバー被覆球体)を23.9±1℃環境下で3時間以上温度調整した後、室温23.9±2℃の部屋でテストした。250ポンド(113.4kg)のヘッド(ストライキングマス)を用いて打撃速度143.8ft/s(43.83m/s)にてボールを打撃し、1ダースのボールを各々4回打撃して6.28ft(1.91m)の間を通過する時間を測定し、初速(m/s)を算出した。約15分間でこのサイクルを行なった。
【0123】
【表4】
【0124】
そして、各実施例、比較例のゴルフボールの飛び性能(W#1)、アプローチスピン性能、打感及び繰り返し打撃耐久性を下記の基準に従って評価した。その結果を表5に示す。
【0125】
飛び性能(W#1打撃)
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけてヘッドスピード(HS)40m/sにて打撃した時の飛距離を測定し、下記基準により評価した。クラブはブリヂストン社製「PHYZドライバー(2016モデル)」(ロフト 10.5°)を使用した。また、スピン量は同様に打撃した直後のボールを初期条件計測装置により測定した。
〔判定基準〕
トータル飛距離202.0m以上 ・・・・ ○
トータル飛距離202.0m未満 ・・・・ ×
【0126】
アプローチスピン性能
ゴルフ打撃ロボットにサンドウエッジをつけてヘッドスピード(HS)20m/sにて打撃した時のスピンの量を下記の基準により判断した。
〔判定基準〕
スピン量5800rpm以上 ・・・・ ○
スピン量5800rpm未満 ・・・・ ×
【0127】
打感
ドライバー(W#1)のヘッドスピード(HS)が35〜45m/sのアマチュアゴルファーによる実打における官能評価を行い、下記基準により評価した。
〔判定基準〕
良好な打感と評価した人が10人中6人以上 ・・・・ ○
良好な打感と評価した人が10人中5人以下 ・・・・ ×
なお、上記の「良好な打感」とは、適度な軟らかさが感じられるものをいう。
【0128】
繰り返し打撃耐久性
ゴルフ打撃ロボットにW#1クラブをつけてヘッドスピード40m/sにて繰り返し打撃した。実施例4のボールが割れ始めた回数を100とした場合の各々の指数を、下記基準にて評価した。
○:指数95以上
×:指数95未満
【0129】
【表5】
【0130】
表5の結果から、本実施例1〜4のゴルフボールは、飛び性能、アプローチスピン、打感及び繰り返し打撃耐久性の全ての面において優れているが、比較例のゴルフボールは下記の結果となった。
比較例1のゴルフボールは、中間層厚さ/コア直径の値が0.025未満であり、その結果、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が劣った。
比較例2のゴルフボールは、中間層厚さ/コア直径の値が0.043を超えるものであり、その結果、アイアンフルショットやショートゲーム時に打感が硬く感じられた。
比較例3のゴルフボールは、カバー厚さ/コア直径の値が0.027を超えるものであり、その結果、W#1打撃時にスピンが多めになり、飛距離が劣った。
比較例4については、ボール製造時に、カバー厚さ0.5mm(カバー厚さ/コア直径の値が0.014未満)を狙ってカバー材料の射出成形を試みたが、射出成形機のキャビディ内に樹脂がうまく回りこまず、その結果、ボール成形ができなかった。
比較例5のゴルフボールは、中間層のショアD硬度が61未満であり、且つ、(中間層初速−コア初速)の値が0未満であり、その結果、ボール初速が低くなるとともに、W#1打撃時にスピンが多めとなり、飛距離が劣った。
比較例6のゴルフボールは、カバーのショアD硬度が55を超えるものであり、その結果、アプローチ時のスピン性能が劣った。
比較例7のゴルフボールは、コアの10−130kg荷重負荷時のたわみ量が4.2mm未満であり、その結果、打感が硬く感じられた。
【符号の説明】
【0131】
1 コア
2 中間層
3 カバー(最外層)
G ゴルフボール
D ディンプル
図1
図2
図3
図4