(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904087
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】研磨用組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20210701BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20210701BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20210701BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20210701BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
B24B37/10
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
【請求項の数】49
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-119671(P2017-119671)
(22)【出願日】2017年6月19日
(65)【公開番号】特開2018-170485(P2018-170485A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年9月26日
(31)【優先権主張番号】15/472,788
(32)【優先日】2017年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514251329
【氏名又は名称】フジフイルム エレクトロニック マテリアルズ ユー.エス.エー., インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】レオーノフ、 アレクセイ ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ミシュラ、 アビューダヤ
【審査官】
三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−266155(JP,A)
【文献】
特表2006−520530(JP,A)
【文献】
特開2007−180451(JP,A)
【文献】
特開2014−051576(JP,A)
【文献】
特開平10−321569(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/052990(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
B24B 37/10
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)少なくとも1種類の研磨剤;
2)少なくとも1種類の構造(I)の化合物:
【化1】
構造(I)
(構造(I)中、
nは0、1、2または3であり;
XおよびYの各々は独立して、O(R
a)、CH
2(R
a)またはNH(R
a)であり、ただし、XとYの少なくとも一方はO(R
a)またはNH(R
a)であり、ここで、各R
aは独立して、Hであるか、またはヒドロキシルもしくはNH
2で任意に置換されているC
1−C
2アルキルであり、
R
1〜R
6の各々は独立して、H、OH、またはOHもしくはNH
2で任意に置換されているC
1−C
3アルキルである);
3)少なくとも1種類の構造(II)の化合物:
【化2】
構造(II)
(構造(II)中、
Z
1およびZ
2の各々は独立して、−CR
8−または−N−であり、R
8は、H、N(R
b)
2、COOH、もしくはC
1−C
3アルキルであり;各R
bは、独立してHもしくはC
1−C
3アルキルであるか;または、Z
1とZ
2が一体となって構造(II)の5員環と縮合した5〜6員環を形成しており;
Z
3は−C−または−N−であり;
R
7は、H、COOH、C
1−C
3アルキルまたはN(R
9)
2であり、ここで、各R
9は独立して、HまたはC
1−C
3アルキルである;ただし、Z
3が−N−である場合、R
7は存在しない);および、
4)水;
を含み、
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはその塩を含ま
ず、
ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が、少なくとも50:1である、
化学機械研磨用組成物。
【請求項2】
構造(I)の化合物がアミノアルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
構造(I)の化合物が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノールおよび5−アミノ−1−ペンタノールからなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
構造(I)の化合物がジアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
構造(I)の化合物が、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ジアミノペンタンおよび2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノールからなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
nが0であり、かつ、R1〜R4の各々がHである場合、XとYの少なくとも一方はOHである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
構造(I)の化合物が、組成物の0.1重量%〜15重量%の量である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
構造(II)の化合物がイミダゾール類またはトリアゾール類である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
構造(II)の化合物が、イミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸からなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
構造(II)の化合物がテトラゾール類である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
構造(II)の化合物が、5−(アミノメチル)テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、または、その水和物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
構造(II)の化合物が、組成物の0.1重量%〜15重量%の量である、請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記研磨剤が、アルミナ、ヒュームドシリカ、コロイド状シリカ、被覆粒子、チタニア、セリア、ジルコニアおよびこれらの任意の組合せからなる群より選択される、請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記研磨剤がコロイド状シリカである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記研磨剤が、組成物の0.05重量%〜20重量%の量である、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
pH調整剤をさらに含む、請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
スルホン酸基、アミノ基、カルボン酸基またはテトラアルキルアンモニウム基を含有する塩をさらに含み、前記塩がテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの塩とは異なるものである、請求項1〜請求項16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記塩が、アミノ酸、タウリンおよび水酸化コリンからなる群より選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記塩が、組成物の0.05重量%〜5重量%の量である、請求項17または請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
アミノホスホン酸をさらに含む、請求項1〜請求項19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記アミノホスホン酸がアミノ(トリメチレンホスホン酸)である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記アミノホスホン酸が、組成物の0.01重量%〜5重量%の量である、請求項20または請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
pH7〜pH12である、請求項1〜請求項22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
重炭酸塩または酸化剤を含まない、請求項1〜請求項23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
8000Å/分以上のポリシリコン除去速度を有する、請求項1〜請求項24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が、最大で200:1である、請求項1〜請求項25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
希釈前の研磨用組成物と比べての研磨性能の低下無しに、研磨する前の使用時(POU)に少なくとも2倍に希釈することができる、請求項1〜請求項26のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項28】
ポリシリコン膜を、請求項1〜請求項27のいずれか1項に記載の組成物で処理することを含む、ウェハ基板の表面上に露出しているポリシリコン膜を研磨するための方法。
【請求項29】
さらに、研磨処理工程前に、前記組成物を脱イオン水で希釈することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
1)少なくとも1種類の研磨剤;
2)少なくとも1種類の構造(I)の化合物:
【化3】
構造(I)
(構造(I)中、
nは0、1、2または3であり;
XおよびYの各々は独立して、O(Ra)、CH2(Ra)またはNH(Ra)であり、ただし、XとYの少なくとも一方はO(Ra)またはNH(Ra)であり、ここで、各Raは独立して、Hであるか、またはヒドロキシルもしくはNH2で任意に置換されているC1−C3アルキルであり、
R1〜R6の各々は独立して、H、OH、またはOHもしくはNH2で任意に置換されているC1−C3アルキルである);
3)少なくとも1種類の構造(II)の化合物:
【化4】
構造(II)
(構造(II)中、
Z1およびZ2の各々は独立して、−CR8−または−N−であり、R8は、H、N(Rb)2、COOH、もしくはC1−C3アルキルであり;各Rbは、独立してHもしくはC1−C3アルキルであるか;または、Z1とZ2が一体となって構造(II)の5員環と縮合した5〜6員環を形成しており;
Z3は−C−または−N−であり;
R7は、H、COOH、C1−C3アルキルまたはN(R9)2であり、ここで、各R9は独立して、HまたはC1−C3アルキルである;ただし、Z3が−N−である場合、R7は存在しない);
4)テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの塩とは異なる、少なくとも1種類のテトラアルキルアンモニウム塩;
5)少なくとも1種類のpH調整剤;
6)少なくとも1種類のアミノ酸;および、
7)水;
のみからなる、
化学機械研磨用組成物。
【請求項31】
ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が、少なくとも50:1である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が、最大で200:1である、請求項30または請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
8000Å/分以上のポリシリコン除去速度を有する、請求項30〜請求項32のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項34】
構造(I)の化合物がアミノアルコールである、請求項30〜請求項33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
構造(I)の化合物が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノールおよび5−アミノ−1−ペンタノールからなる群より選択される、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
構造(I)の化合物がジアミンである、請求項30〜請求項33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項37】
構造(I)の化合物が、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ジアミノペンタンおよび2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノールからなる群より選択される、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
nが0であり、かつ、R1〜R4の各々がHである場合、XとYの少なくとも一方はOHである、請求項30〜請求項33のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項39】
構造(I)の化合物が、組成物の0.1重量%〜15重量%の量である、請求項30〜請求項38のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項40】
構造(II)の化合物がイミダゾール類またはトリアゾール類である、請求項30〜請求項39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項41】
構造(II)の化合物が、イミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸からなる群より選択される、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
構造(II)の化合物がテトラゾール類である、請求項30〜請求項39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項43】
構造(II)の化合物が、5−(アミノメチル)テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、または、その水和物である、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
構造(II)の化合物が、組成物の0.1重量%〜15重量%の量である、請求項30〜請求項43のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項45】
前記研磨剤が、アルミナ、ヒュームドシリカ、コロイド状シリカ、被覆粒子、チタニア、セリア、ジルコニアおよびこれらの任意の組合せからなる群より選択される、請求項30〜請求項44のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項46】
前記研磨剤がコロイド状シリカである、請求項30〜請求項44のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項47】
前記研磨剤が、組成物の0.05重量%〜20重量%の量である、請求項30〜請求項46のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項48】
前記テトラアルキルアンモニウム塩が、組成物の0.05重量%〜5重量%の量である、請求項30〜請求項47のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項49】
pH7〜pH12である、請求項30〜請求項48のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、研磨用組成物、および本明細書に記載の組成物を用いて半導体基板を研磨するための方法に関する。より詳しくは、本開示は、化学機械研磨用組成物および半導体基板からポリシリコン層を除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学機械研磨用組成物は、半導体産業において、化学機械研磨/平坦化(CMP)と称されると称される工程段階で使用されている。フォトリソグラフィによるパターン形成および蒸着とともに、CMPは、集積回路(IC)の製造プロセスフローの鍵となる3つの実現工程段階の1つである。現在のICは、平行様式で、典型的には数百個が一度に、共通のシリコンウェハ基板の表面上に構築される。フォトリソグラフィ、蒸着、CMPおよびたくさんの補助工程は、形成中のIC構造が存在しているウェハ表面に対して反復的に、最終のICデバイスが完成し、ウェハが個々のダイ(チップ)に切断されてパッケージングされる状態になるまで適用される。
【発明の概要】
【0003】
この技術のプロセスフローにおけるCMP工程の目的の1つは、先の蒸着工程での過剰負荷分を、集積スキームによって決定された指定の層厚まで低減させること、および後続のフォトリソグラフィ工程を可能にするために平坦なウェハ表面をもたらすことである。これは、CMPによりウェハ表面を機械的研磨機で研磨することによって達成される。この研磨プロセスは、ウェハを回転チャック(研磨ヘッドと称される)内に保持すること、およびこのウェハを、研磨テーブル(プラテン)上で回転している従動性フェルト様研磨パッドに対して、ウェハ表面と研磨パッドの間に研磨剤含有スラリー(すなわち、化学機械研磨用組成物)を適用しながら、事前に選択した圧力(ダウンフォース)でプレスことを伴うものである。
【0004】
具体的な化学機械研磨用組成物によるCMP法に一般的に所望される性能基準の一例は:1)工場のスループット効率に関わる高い除去速度;2)デバイス層積層体内のストップ層として選択された特定の材料上でCMP法を終了できることに関わる高い研磨選択性;3)最終デバイスの歩留まりの向上に関わる低い欠陥(キズ、デブリ、残存研磨剤粒子)レベル;および4)得られるウェハが、後続のフォトリソグラフィ工程のために好適に平坦になることと関連する、ウェハ表面全体における均一な材料除去である。また、ダイ内およびウェハ全面における均一な材料除去は、ダイ内およびウェハ内のデバイス性能の再現性および信頼性のためにも重要である。
【0005】
多結晶シリコンまたはポリシリコン(P−Si)は、半導体産業においてICの製造のために、不純物添加に応じて導体から絶縁体までの範囲に及ぶ異なる役割のロジックおよびメモリの両方の集積スキームに広く使用されている材料である。ロジック用途のための集積スキームにおいては、MOSFET/FinFET−型デバイスのゲート電極材料として広く使用されている。メモリ方面では、ポリシリコンは、例えばDRAMの集積において見られるように、コンデンサ、ゲートおよびコンタクトプラグ構造の一部として使用される。窒化ケイ素(SiN)は、IC製造に使用される別の一般的な材料である。これは、デフォルト(default)の誘電体材料、すなわち酸化ケイ素が、種々の機能的またはプロセス上の制限のため使用できない場合に使用される多目的の誘電体である。半導体産業のロジック方面では、窒化ケイ素はゲート絶縁材料として広く使用されており、メモリ方面、特にDRAMでは、コンデンサ材料として典型的に使用される。US4897702には、上記のコンデンサにP−SiおよびSiNが使用されたDRAM(メモリの一種)デバイスの一例が示されている。
【0006】
現在のDRAMプロセスフローにおけるポリシリコンCMPに対する要求の1つは、低〜中程度のダウンフォース圧力(<3psi)での高いポリシリコン除去速度(例えば、>8000Å/分)である。高いポリシリコン除去速度は、短いプロセス所要時間内で極めて高いポリシリコン過剰負荷分を除去する必要性によって決定される。研磨プロセス所要時間の削減は、工場の製造スループット効率を高める重要な方法である。比較的低いダウンフォース圧力の必要性は、高いダウンフォース圧力の使用に伴うキズ欠陥を最小限にしようとする、およびデバイス性能に重要な機能性ストップ層厚保持/予定量を最大限にしようとすることにより生じている。
【0007】
DRAM用途の場合、ストップ層は典型的には窒化ケイ素であるため、DRAMポリシリコンCMPプロセスのもうひとつの要件は、ポリシリコンの窒化ケイ素に対する高い除去速度選択性(例えば、>100:1)である。このレベルの速度選択性により、DRAMポリシリコンCMP工程中、下層の窒化ケイ素層が露出するまでポリシリコンが速やかに除去され、この露出時点で、窒化ケイ素層の減少が最小限の状態で研磨プロセスが終了することが確実にする。SiNの保持/減少の最小化は、絶縁体SiN誘電体を有するデバイスの適正なキャッピング/封止を確実にするために必要である。したがって、これにより、電気性能およびDRAMデバイス全体の性能が改善する。
【0008】
高いポリシリコン除去速度および低い窒化ケイ素除去速度に加えて、半導体産業では、ポリシリコン化学機械研磨用組成物に対して一群のさらなる困難な要求が提示されている。このようなさらなる要求としては:1)作業場での化学薬品安全性を向上させるための低い健康有害性;および2)組成物を希釈可能にすることによって達成される低い保有コスト(COO)または単純に、低い化学機械研磨用組成物コストが挙げられる。保有コスト(COO)は、コストを削減して事業効率を改善するための継続的な取り組みに応えて、化学機械研磨用組成物に対する事業の重要な考慮事項として登場した。
【0009】
化学機械研磨用組成物のCOOを改善するための重要な方法は、化学機械研磨用組成物のサプライヤーが濃縮型の研磨用組成物を提供し、消費者が使用前に、化学機械研磨用組成物を指定の希釈レベルまで希釈するというように、組成物を希釈可能にすることである。典型的な希釈レベルは2倍から、場合によっては10倍超まで広い幅がある。
【0010】
健康および化学薬品安全性に関しては、ケミカルハザードおよび毒性物質に対する従業員の曝露を低減することにより化学薬品安全性を確保することができ、作業場での健康への有害な影響が最小限にすることができる。米国ではOSHA Hazard Communication Standard 29CFR1910.1200に委任された有害性物質の分類のグローバルハーモナイゼーションシステム(Global Harmonized System)(GHS)には、種々の化学薬品に関する健康有害性レベルの理解および情報伝達のための枠組みが示されている。急性毒性を伴う化学薬品はカテゴリーに分類されており、カテゴリー1が最も高い健康有害性を示し、一方、カテゴリー5が最も低い健康有害性を示す。
【0011】
事実上、除外されるのは、GHSカテゴリー1および2の発癌物質、GHSカテゴリー1および2の生殖有害性物質、GHSカテゴリー1および2の急性毒性を有する物質、ならびにGHSカテゴリー1および2の感作物質に分類される物質である。半導体産業では、消耗品のサプライヤーに対して、上記のGHSカテゴリーの有害物質が除外されている製品を配合するように相当な圧力がかかっている。
【0012】
半導体製造業者は、工場内、特にCMPモジュール内での有害な化学薬品の使用を継続的に制限している。CMPモジュールは(エッチング、リソグラフィーなどとは対照的に)、廃水流への有害な化学薬品の放出量を抑制するための技術的管理がほとんどないため、有害な化学薬品に対して特に敏感である。典型的には、CMP研磨機設備は、公共の廃水流につながる配管を有する。工場でウェハが研磨されたら、研磨後のCMPスラリーは公共の廃水流に放出される。したがって、このような有害な化学薬品は、工場付近の公共の廃水を汚染する一因となる。各都市の環境保全部門(EHS)は、このような工場からの廃水の排出が日常的にモニタリングする。したがって、すべての工場によって、供給元のCMPスラリー中の有害な化学薬品の曝露が無いように制限されることが望ましい。エッチングモジュールなどの他のモジュールは化学廃棄物が隔離することができ、廃棄物はその後、適正な化学物質の処分のために敷地外に送られ得る。このように、典型的には、CMP供給元が直面する環境問題に直面することはない。
【0013】
研磨剤ナノ粒子に加えて、既知のポリシリコン化学機械研磨用組成物の成分は、ポリシリコン膜との化学反応によってポリシリコン除去速度を促進させる化学添加剤である。従来より伝統的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)が、ポリシリコンおよび単結晶シリコンの高い除去速度となるように設計された化学機械研磨用組成物に選択される化学添加剤となっている。例えば、米国特許出願公開第2009/0156008号(Sakamoto,et al.)には、使用ポイント(POU)で約0.28%のTMAHを含有しており、10,000Å/分程度の単結晶シリコン材料除去速度を示す化学機械研磨用組成物が記載されている。米国特許第8,697,576号(Reiss,et al.)には、POU時に0.25%のTMAHを含有しており、約4,500Å/分のポリシリコン除去速度を示すポリシリコン化学機械研磨用組成物が記載されている。
【0014】
ポリシリコンおよび単結晶シリコンの除去速度の効率的な促進剤ではあるが、TMAHは、急性経口および経皮毒性(GHSカテゴリー2)を有し、特定の標的器官(例えば、中枢神経系、胸腺または肝臓)毒性(GHSカテゴリー1)を有する物質に分類されている。TMAHは、死亡者も出た3件を含む注目された多くの労働災害に関与している[Lin,Chun−Chi,et al,2010,Clinical Toxicology(48),3,213−217]。したがって、ポリシリコンCMPのための無TMAH化学機械研磨用組成物が求められている。また、多くの工場では、TMAHが都市の廃水流に入り込むこと、および市当局が工場のCMPスラリーモジュールにおいてTMAHを禁止することを要求していることに関して不満がでている。
【0015】
本開示により、非常に高いポリシリコン除去速度を示し(例えば、8000Å/分を超える)、窒化ケイ素に対して高い選択性を示す(例えば、ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が>100:1の)化学機械研磨配合物およびその使用方法を提供する。さらに、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物の成分のほとんどは、一般的に健康有害性が低い(例えば、GHSカテゴリー3以上に分類される)ものである。一部の実施形態では、本開示の化学機械研磨用組成物は、半導体工場のCMPモジュールに許容されない健康有害性を有する化合物(例えば、GHSカテゴリー1および2の発癌物質、GHSカテゴリー1および2の生殖有害性物質、GHSカテゴリー1および2の急性毒性を有する物質、ならびにGHSカテゴリー1および2の感作物質)を含有していない。また、本開示の化学機械研磨用組成物により、少なくとも2倍希釈可能であることによって低い保有コスト(COO)がもたらされる。
【0016】
一部の実施形態では、本開示により、1)少なくとも1種類の研磨剤;
2)少なくとも1種類の構造(I)の化合物:
【化1】
(I)
(式中、nは0、1、2または3であり;XおよびYの各々は独立して、O(R
a)、CH
2(R
a)またはNH(R
a)である、ただし、XとYのうち少なくとも一方(例えば、両方)はO(R
a)またはNH(R
a)であり、ここで、各R
aは独立して、Hであるか、またはヒドロキシルもしくはNH
2で任意に置換されているC
1−C
3アルキルであり、R
1〜R
6の各々は独立して、H、OHであるか、またはOHもしくはNH
2で任意に置換されているC
1−C
3アルキルである)
3)少なくとも1種類の構造(II)の化合物:
【化2】
(II)
(式中、Z
1およびZ
2の各々は独立して、−CR
8−または−N−であり、ここで、R
8は、H、N(R
b)
2、COOH、もしくはC
1−C
3アルキルであり;各R
bは、独立してHもしくはC
1〜C
3アルキルであるか;またはZ
1とZ
2が一体となって、構造(II)の5員環と縮合した5〜6員環を形成しており;Z
3は−C−または−N−であり;R
7は、H、COOH、C
1〜C
3アルキルまたはN(R
9)
2であり、ここで、各R
9は独立して、HまたはC
1〜C
3アルキルである;ただし、Z
3が−N−である場合、R
7は存在しない)
;ならびに
4)水、を含む化学機械研磨用組成物を特徴とする。この組成物はテトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはその塩を含まない。
【0017】
一部の実施形態では、本開示により、本明細書に記載の化学機械研磨組成物でポリシリコン膜を処理することによる、ウェハ基板の表面上に露出しているポリシリコン膜を研磨するための方法を取り上げる。かかる方法は、例えば、A)研磨パッドを備えた研磨機にウェハを置き、B)このウェハをこの研磨パッドで、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物の存在下で研磨することにより行われ得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示において示す化学機械研磨用組成物は、一般的に水に不溶性である研磨剤を含有している。したがって、本開示の組成物はスラリーと称され得るものである。本開示の解釈上、用語“composition(組成物)”と“slurry(スラリー)”および“compositions”と“スラリー”は互換的に用いている。
【0019】
本明細書に記載の化学機械研磨用組成物は、低い健康有害性を有することを特徴とする成分が使用されているが、高いポリシリコン除去速度(例えば、少なくとも8000Å/分)およびポリシリコンの除去速度の窒化ケイ素の除去速度に対する選択性(少なくとも50:1)を提供する。本開示の化学機械研磨用組成物は、ポリシリコン除去速度の促進剤としてのテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)(これは、高い毒性のため認知されている健康有害品である)を含有している同様の製品の代替品として使用され得る。
【0020】
理論に拘束されることを望まないが、本開示の化学機械研磨用組成物によってもたらされる高いポリシリコン除去速度(少なくとも8000Å/分)および/またはポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する高い比(例えば、少なくとも50:1)は、研磨時における構造(I)の化合物と構造(II)の化合物間の相乗効果によって得られると考えられる。この効果の機序は完全に明らかにはなっていないが、本明細書の実施例に示すように、高いポリシリコン除去速度および/またはポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比は、両方の成分が研磨配合物中に存在している場合に観察される。一部の実施形態では、いずれか一方が省かれている場合、得られるポリシリコン除去速度および/またはポリシリコン除去速度の窒化ケイ素の除去速度に対する比は有意に小さくなり得る。
【0021】
一部の実施形態では、本開示により、1)少なくとも1種類の研磨剤;2)少なくとも1種類の構造(I)の化合物:
【化3】
(I)
(式中、nは0、1、2または3であり;XおよびYの各々は独立して、O(R
a)、CH
2(R
a)またはNH(R
a)である、ただし、XとYのうち少なくとも一方(例えば、両方)はO(R
a)またはNH(R
a)であるものとし、ここで、各R
aは独立して、Hであるか、またはヒドロキシルもしくはNH
2で任意選択的に置換されているC
1〜C
3アルキルであり、R
1〜R
6の各々は独立して、H、OHであるか、またはOHもしくはNH
2で任意選択的に置換されているC
1〜C
3アルキルである)
3)少なくとも1種類の構造(II)の化合物:
【化4】
(II)
(式中、Z
1およびZ
2の各々は独立して、−CR
8−または−N−であり、ここで、R
8は、H、N(R
b)
2、COOH、もしくはC
1−C
3アルキルであり;各R
bは、独立してHもしくはC
1〜C
3アルキルであるか;またはZ
1とZ
2が一体となって、構造(II)の5員環と縮合した5〜6員環を形成しており;Z
3は−C−または−N−であり;R
7は、H、COOH、C
1−C
3アルキルまたはN(R
9)
2であり、ここで、各R
9は独立して、HまたはC
1−C
3アルキルである;ただし、Z
3が−N−である場合、R
7は存在しない);ならびに
4)水、を含む化学機械研磨用組成物を特徴とする。この組成物はテトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはその塩を含まない。
【0022】
本明細書で用いる場合、用語「C
1−3アルキル」は、直鎖であっても分枝であってもよく、1〜3個の炭素を有し得る飽和炭化水素基、例えば、メチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルをいう。
【0023】
一部の実施形態では、式(I)のnが0である。かかる実施形態において、YはNH(R
a)であり得、R
aがHであるか、またはヒドロキシル(例えば、ヒドロキシルエチル)で任意に置換されているC
1−C
3アルキルであり;XはO(R
a)であり得、R
aがHであるか、またはヒドロキシル(例えば、ヒドロキシルエチル)で任意選択的に置換されているC
1−C
3アルキルであり;R
1はHであり得;R
2はHまたはC
1−C
3アルキル(例えば、メチルもしくはエチル)であり得;R
3はHであり得、R
4はHまたはC
1−C
3アルキル(例えば、メチル)であり得る。一部の実施形態では、nが0であり、R
1〜R
4の各々がHである場合、XとYの少なくとも一方はOHである。
【0024】
一部の実施形態では、式(I)のnが1である。かかる実施形態において、YはNH(R
a)であり得、R
aが、ヒドロキシル(例えば、ヒドロキシルエチル)で任意に置換されているC
1−C
3アルキルであり;XはOHまたはNH
2であり得;R
1はHであり得;R
2はHであり得;R
3はHであり得;R
4はHであり得;R
5はHまたはC
1−C
3アルキル(例えば、メチル)であり得;R
6はH、OHおよびまたはC
1−C
3アルキル(例えば、メチルもしくはエチル)であり得る。
【0025】
一部の実施形態では、式(I)のR
1〜R
4またはR
1〜R
6のうち最大で1つがOHであるか、またはOHもしくはNH
2で任意に置換されているC
1−C
3アルキルである。例えば、式(I)のnが0であり、XがO(R
a)であり、YがNH(R
a)である場合、R
1〜R
3はHであり得、R
4は、OHまたはNH
2で任意に置換されているC
1−C
3アルキル(例えば、メチルまたはエチル)であり得る。かかるアミンの例としては、1−アミノ−2−プロパノールおよび1−アミノ−2−ブタノールが挙げられる。一部の実施形態では、XがNH(R
a)であり、YがO(R
a)である場合、R
3とR
4のうち一方はOHであるか、またはOHもしくはNH
2で任意に置換されているC
1−C
3アルキルであり;R
3とR
4のうち他方はHである。
【0026】
一部の実施形態では、構造(I)の化合物がアミノアルコールである。本開示の実施における使用に想定される例示的なアミノアルコールとしては、限定されないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノールなどが挙げられる。
【0027】
一部の実施形態では、構造(I)の化合物がジアミンである。本開示の実施における使用に想定される例示的なジアミンとしては、限定されないが、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ジアミノペンタン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノールなどが挙げられる。
【0028】
一部の実施形態では、構造(I)の化合物の量は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかのCMP組成物の少なくとも約0.1重量%(例えば、少なくとも約0.25重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.6重量%、少なくとも約0.7重量%、少なくとも約0.8重量%、少なくとも約0.9重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.25重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約1.75重量%、少なくとも約2重量%または少なくとも約2.5重量%または少なくとも約3重量%)から最大で約15重量%(例えば、最大で約12.5重量%、最大で約10重量%、最大で約7.5重量%、最大で約5重量%、最大で約4重量%、最大で約3重量%または最大で約2重量%)である。
【0029】
一部の実施形態では、式(II)のZ
3が−C−である場合、Z
1とZ
2のうち一方は−N−であり得る。かかる実施形態において、Z
1は−N−であり得;Z
2は−CR
8−であり得、R
8がHまたはNH
2であり;R
7はNH
2またはCOOHであり得る。一部の実施形態では、式(II)のZ
3が−C−である場合、Z
1とZ
2の両方が−N−であり得る。かかる実施形態において、R
7はNH
2であり得る。
【0030】
一部の実施形態では、構造(II)の化合物はトリアゾール類である。本開示の実施における使用に想定される例示的なトリアゾールとしては、限定されないが、ベンゾトリアゾール、3−アミノ1,2,4−トリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸などが挙げられる。
【0031】
一部の実施形態では、構造(II)の化合物がテトラゾール類である。本開示の実施における使用に想定される例示的なテトラゾールとしては、限定されないが、5−(アミノメチル)テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール(ATA)、その水和物(例えば、一水和物)などが挙げられる。
【0032】
構造(II)のアゾールの互変異性体形態は、本明細書に記載の水性の化学機械研磨用組成物に速やかに相互転換し、したがって互いに等価であることは理解されよう。本明細書に記載のアゾールのすべての互変異性体形態が本明細書に記載のCMP組成物における使用に想定される。
【0033】
一部の実施形態では、構造(II)の化合物は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかのCMP組成物の少なくとも約0.1重量%(例えば、少なくとも約0.2重量%、少なくとも約0.3重量%、少なくとも約0.4重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.6重量%、少なくとも約0.7重量%、少なくとも約0.8重量%、少なくとも約0.9重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.25重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約1.75重量%または少なくとも約2重量%)から最大で約15重量%(例えば、最大で約12.5重量%、最大で約10重量%、最大で約7.5重量%、最大で約5重量%、最大で約4重量%、最大で約3重量%、最大で約2重量%、最大で約1重量%、最大で約0.9重量%、最大で約0.8重量%、最大で約0.7重量%、最大で約0.6重量%または最大で約0.5重量%)の量である。
【0034】
一部の実施形態では、使用が想定される研磨剤としては、アルミナ、ヒュームドシリカ、コロイド状シリカ、被覆粒子、チタニア、セリア、ジルコニアおよびそれらの任意の組合せが挙げられる。一部の実施形態では、研磨剤はコロイド状シリカである。
【0035】
また、使用が想定されるシリカ粒子としては、表面改質なしのゾル−ゲル法由来コロイド状シリカ、および表面改質されたゾル−ゲル法由来コロイド状シリカが挙げられる。表面改質シリカはアニオン性シリカであってもカチオン性シリカであってもよい。シリカ粒子としては、一次粒子直径d1を特徴とする等方性球状形態を有するコロイド状シリカ粒子、または一次粒子直径と二次粒子直径d1とd2を特徴とする凝集形態(主に、溶融ダイマーおよびトリマー)を有するコロイド状シリカ粒子が挙げられる。一部の実施形態では、シリカの形態構のタイプは、80nm未満だが10nmより大きい一次粒子直径d1と160nm未満だがより大きい20nm二次粒子直径d2を有する凝集形態である。
【0036】
本実施例において実証されているように、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物の高い性能を担う重要な要素は、構造(I)の化合物と構造(II)の化合物との予期しない相乗作用であると考えられる。
【0037】
一部の実施形態では、研磨剤は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかのCMP組成物の少なくとも約0.05重量%(例えば、少なくとも約0.10重量%、少なくとも約0.25重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.75重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約1.25重量%、少なくとも約1.5重量%、少なくとも約1.75重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約2.5重量%または少なくとも約3重量%)から最大で約20重量%(例えば、最大で約15重量%、最大で約12.5重量%、最大で約10重量%、最大で約7.5重量%、最大で約5重量%、最大で約4重量%、最大で約3重量%、最大で約2重量%または最大で約1重量%)の量である。
【0038】
一部の実施形態では、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物は少なくとも1種類のアミノホスホン酸を含むものであり得る。好適なアミノホスホン酸の例としては、限定されないが、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(アミノトリス(メタンホスホン酸)とも称される)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、およびそれらの塩が挙げられる。アミノホスホン酸の市販の例としては、Italmatch Chemicals S.P.A.(アレーゼ,イタリア)から入手可能なDEQUESTシリーズの製品が挙げられる。一部の実施形態では、アミノホスホン酸は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかのCMP組成物の少なくとも約0.01重量%(例えば、少なくとも約0.05重量%、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.25重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.75重量%または少なくとも約1重量%)から最大で約5重量%(例えば、最大で約4重量%、最大で約3重量%、最大で約2重量%または最大で約1重量%)の量である。理論に拘束されることを望まないが、かかるアミノホスホン酸により、本明細書に記載のCMP組成物の性能(例えば、ポリシリコン除去速度、ポリシリコンの除去選択性または両方)がさらに向上されることができると考えられる。
【0039】
一部の実施形態では、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物は、両性イオンを含有している健康有害性が低い1種類以上の塩(例えば、GHSカテゴリー3以上に分類されるもの)をさらに含むものであり得る。一部の実施形態では、この塩は、スルホン酸基、アミノ基、カルボン酸基またはテトラアルキルアンモニウム基を含有しているものであり得、ここで、テトラアルキルアンモニウム基を含有している塩はテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの塩とは異なる。この目的に使用され得る塩の例としては、限定されないが、グリシンなどの種々のアミノ酸、タウリン、水酸化コリンなどが挙げられる。一部の実施形態では、この塩は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかの本明細書に記載のCMP組成物の少なくとも約0.05重量%(例えば、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.2重量%、少なくとも約0.3重量%、少なくとも約0.4重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.6重量%、少なくとも約0.7重量%、少なくとも約0.8重量%、少なくとも約0.9重量%または少なくとも約1重量%)から最大で約5重量%(例えば、最大で約4重量%、最大で約3重量%、最大で約2重量%、最大で約1.9重量%、最大で約1.8重量%、最大で約1.7重量%、最大で約1.6重量%、最大で約1.5重量%、最大で約1.4重量%、最大で約1.3重量%、最大で約1.2重量%、最大で約1.1重量%または最大で約1重量%)の量である。一部の実施形態では、この塩の濃度の上限は、配合物の2倍希釈可能な濃縮物の濃度であり得る。一部の実施形態では、グリシンの濃度は約0.75重量%であり得、水酸化コリンの濃度は約0.5重量%であり得る。理論に拘束されることを望まないが、かかる塩により、本明細書に記載のCMP組成物の性能(例えば、ポリシリコン除去速度、窒化ケイ素に対するポリシリコンの除去選択性、または両方)がさらに向上され得ると考えられる。
【0040】
濃縮能(「希釈能」とも称される)は、半導体製造業者により現在のすべての化学機械研磨用組成物に対して設定される、製造消耗品の保有コスト(COO)を削減するための要件の1つである。本明細書に記載の化学機械研磨用組成物は、少なくとも2倍希釈可能な濃縮混合物として使用され得る。換言すると、化学機械研磨用組成物は、エンドユーザーによる使用の前に少なくとも2倍(例えば、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍または少なくとも10倍)に希釈され得る。本開示の化学機械研磨用組成物は、2倍濃縮物組成物混合物中に0.05〜20重量パーセント(例えば、2〜3重量パーセント)の研磨剤を含むものであり得る。
【0041】
また、一部の実施形態では、本開示の化学機械研磨用組成物には、1種類以上の添加剤、例えば、pH調整剤、腐食防止剤、界面活性剤、有機溶媒および消泡剤が任意の成分として含有され得る。
【0042】
一部の実施形態では、本開示の化学機械研磨用組成物は少なくとも1種類のpH調整剤を含む。pH調整剤は、化学機械研磨用組成物を動作pH範囲にすることができる。さまざまな塩基性pH調整剤が使用に想定され、限定はされないが、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、トリエタノールアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0043】
一部の実施形態では、水は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかのCMP組成物の少なくとも約50重量%(例えば、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%または少なくとも約97重量%)から最大で約99重量%(例えば、最大で約95重量%、最大で約90重量%、最大で約85重量%、最大で約75重量%、最大で約70重量%、最大で約65重量%、最大で約60重量%または最大で約55重量%)の量である。
【0044】
一部の実施形態では、本開示のCMP組成物は、pHが少なくとも約7(例えば、少なくとも約7.5、少なくとも約8、少なくとも約8.5、少なくとも約9、少なくとも約9.5または少なくとも約10)から最大で12(例えば、最大で約11.5、最大で約11、最大で約10.5または最大で約10)であり得る。理論に拘束されることを望まないが、上記のpHを有しないCMP組成物では、高いポリシリコン除去速度、ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する高い比、または両方を得ることができない場合があり得ると考えられる。
【0045】
一部の実施形態では、本開示のCMP組成物を希釈する場合、少なくとも1種類の酸化剤が組成物に添加され得る。本開示の組成物における使用に想定される酸化剤としては、限定されないが、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、硝酸銀(AgNO
3)、硝酸第二鉄もしくは塩化第二鉄、過酸もしくはその塩、オゾン水、フェリシアン化カリウム、重クロム酸カリウム、ヨウ素酸カリウム、臭素酸カリウム、三酸化バナジウム、次亜鉛素酸、次亜鉛素酸ナトリウム、次亜鉛素酸カリウム、次亜鉛素酸カルシウム、次亜鉛素酸マグネシウム、硝酸第二鉄、KMnO
4、他の無機もしくは有機の過酸化物、またはそれらの混合物が挙げられる。一部の実施形態では、酸化剤は過酸化水素であり得る。酸化剤は、濃縮形態または使用ポイント(POU)時の希釈スラリーのいずれかのこの組成物の約0.1重量%〜約5重量%(例えば、約0.4重量%〜約2重量%)の量で存在させ得る。一部の実施形態では、本明細書に記載のCMP組成物は上記の酸化剤を含まないものであり得る。
【0046】
一部の実施形態では、本開示のCMP組成物は、ある成分を含まなくてもよく、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドもしくはその塩、酸化剤(上記のものなど)、重炭酸塩(例えば、重炭酸カリウムもしくは重炭酸アンモニウム)、炭酸塩(例えば、炭酸グアニジン)、GHSカテゴリー1もしくは2に分類される健康有害性の化学薬品(例えば、エチレンジアミン、ピペラジン、1,3−ジアミノプロパン、イミダゾール、1,2,4−トリアゾールもしくは3−アミノ−1,2,4−トリアゾールおよび/または50℃未満の沸点を有する化合物(例えば、プロピルアミンもしくはイソプロピルアミン)を含まないものであり得る。
【0047】
一般に、本開示のCMP組成物は、比較的に高いポリシリコン除去速度を有するものであり得る。一部の実施形態では、本開示のCMP組成物のポリシリコン除去速度は、少なくとも約8,000Å/分(例えば、少なくとも約8,500Å/分、少なくとも約9,000Å/分、少なくとも約9,500Å/分、少なくとも約10,000Å/分、少なくとも約10,500Å/分、少なくとも約11,000Å/分、少なくとも約11,500Å/分または少なくとも約12,000Å/分)から最大で約15,000Å/分(例えば、最大で約14,000Å/分または最大で約13,000Å/分)であり得る。本明細書に記載のように、ポリシリコン除去速度は、2.5psiの研磨ダウンフォース圧力で測定される。
【0048】
一般に、本開示のCMP組成物は、窒化ケイ素に対するポリシリコンの比較的高い除去選択性(例えば、ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素の除去速度に対する比較的高い比)を有することができる。一部の実施形態では、本開示のCMP組成物は、少なくとも約50:1(例えば、少なくとも約75:1、少なくとも約100:1、少なくとも約110:1、少なくとも約120:1、少なくとも約130:1、少なくとも約140:1または少なくとも約150:1)から最大で約200:1(例えば、最大で約180:1または最大で約150:1)のポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比を有することができる。本明細書に記載のように、ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比/選択性は、2.5psiの研磨ダウンフォース圧力で測定される。
【0049】
一般に、本開示において記載のCMP組成物の成分(例えば、研磨剤、構造(I)および(II)の化合物、アミノホスホン酸および添加剤)は、市販の供給元から入手してもよく、当該技術分野で知られた方法によって合成してもよい。
【0050】
一部の実施形態では、本開示により、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物でポリシリコン膜を処理する工程を含む、ウェハ基板の表面上に露出しているポリシリコン膜を研磨するための方法を取り上げる。かかる方法は、例えば、
A)研磨パッドを備える研磨機にウェハを置くこと、
B)ウェハを、本明細書に記載の化学機械研磨用組成物の存在下で研磨パッドと接触させること、
により行われ得る。一部の実施形態では、CMP組成物は、ポリシリコン膜をCMP組成物で処理する前またはCMP組成物と接触させる前にDI水で(例えば、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍または少なくとも10倍に)希釈され得る。上記のCMP法に使用される他の成分および/または工程は、後述のものまたは当該技術分野で知られているもののいずれかである。
【0051】
本明細書において挙げたすべての刊行物(例えば、特許、特許出願公開公報および論文)の内容は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0052】
以下の実施例は、本開示の主題のさらなる実例を示すことを意図したものであり、なんら本開示を限定するものと解釈されるべきでない。
【実施例】
【0053】
以下の実施例における化学機械研磨用組成物は、各実施例に付随する説明に従って調製した。以下の実施例による各化学機械研磨用組成物でのポリシリコンおよび窒化ケイ素の除去速度を得るための研磨試験は以下のとおりにして行った。
【0054】
200ミリメートルのポリシリコンおよび窒化ケイ素のウェハを、各々、VISIONPAD(商標)6000研磨パッドを備えたDOW Chemical Companyから入手可能なApplied Materials Mirra研磨機を使用し、2.5psiのダウンフォース、200mL/分の化学機械研磨用組成物流速、120rpmのプラテン回転速度および114rpmのキャリアヘッド回転速度で60秒間研磨した。シリコン材料および窒化ケイ素材料の除去速度は、ブランケットウェハ上の研磨後のシリコン膜厚または窒化ケイ素膜厚を同じブランケットウェハ上の研磨前の膜厚から引き、その差を研磨時間で割ることにより算出した。膜厚の値は、Filmetrics F80C楕円偏光計測器を用いてウェハ全体にわたる29回の膜厚測定の平均とした。各化学機械研磨用組成物でのポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比は、対応するブランケットウェハを対象の化学機械研磨用組成物で研磨することにより得られたポリシリコン除去速度を窒化ケイ素除去速度で割ることにより求めた。
【0055】
<実施例1>
この実施例では、構造(I)の化合物を含有していない比較化学機械研磨用組成物(すなわち、C−1A〜C−1D,表1.1)の研磨性能を、本開示の化学機械研磨用組成物(すなわち、1E、1F、1Gおよび1H)と比較する。
【0056】
化学機械研磨用組成物C−1A〜C−1Dおよび1E〜1Hは、各々、表1.1に記載のアミン化合物1A〜1H、5−アミノテトラゾール一水和物、アミノトリス(メタンホスホン酸) 高純度コロイド状シリカ、および混合物のpHを最終値10.8に調整するための水酸化カリウムを含有するものとした。ポリシリコンおよび窒化ケイ素の除去速度を、表1.2の研磨試験P−1A〜P−1F(比較例)およびP−1GとP−1H(本開示)にて、表1.1の化学機械研磨用組成物C−1A〜C−1Dおよび1E〜1Hを用いて測定した。試験結果を表1.2にまとめる。
【0057】
これらの例は、構造(I)と異なる構造を有する他のアミン構造と比べて、構造(I)のアミン(式中、Xはアルキル、ヒドロキシルまたは置換ヒドロキシルであり、Yはアミノ基である)(1E、1F、1Gおよび1H)の利点を示す。
【0058】
例えば、表1.2の結果は、式中のXがヒドロキシルエトキシであり、Yがアミノ基であり、n=0である構造(I)を有するアミン、すなわち2−(2−アミノエトキシ)エタノールと、式中のZ
1=Z
2=Nであり;Z
3がCであり、R
7がNH
2である構造(II)を有するアゾール、すなわち5−アミノテトラゾールを含有している化学機械研磨用組成物1Fが、試験した化学機械研磨用組成物の中で、4番目に高いポリシリコン除去速度および5番目に高いポリシリコン対窒化ケイ素の除去速度の比を示したことを示す。
【0059】
別の例として、表1.2の結果は、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノ基であり、n=0である構造(I)を有するアミン、すなわちモノエタノールアミンと、構造(II)を有するアゾール、すなわち5−アミノテトラゾールを含有している化学機械研磨用組成物1Gが、試験した化学機械研磨用組成物の中で、3番目に高いポリシリコン除去速度および4番目に高いポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比を示したことを示す。
【0060】
また、表1.2.の結果は、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノ基であり、n=1である構造(I)を有するアミン、すなわち3−アミノ−1−プロパノールと、構造(II)を有するアゾール、すなわち5−アミノテトラゾールを含有している化学機械研磨用組成物1Hが、試験した化学機械研磨用組成物の中で、最も高いポリシリコン除去速度および2番目に高いポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比を示したことを示す。
【0061】
また、表1.2.の結果は、式中のXがCH
3基であり、Yがアミノ基であり、n=0である構造(I)を有するアミン、すなわちプロピルアミンと、構造(II)を有するアゾール、すなわち5−アミノテトラゾールを含有している化学機械研磨用組成物1Eが、この具体的な実施例で試験した化学機械研磨用組成物の中で、2番目に高いポリシリコン除去速度および最も高いポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比を示したことを示す。
【0062】
C−1Dなどの、アミン1D(イソプロピルアミン)を例とする非官能基化アミンベースの比較例の化学機械研磨用組成物では、ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する高い比が得られる場合があり得る(研磨実施例P−1D,表1.2)。しかしながら、かかるアミンの低い沸点およびそれに随伴する毒性と火災危険により、このようなアミンは、化学機械研磨用組成物用途に充分に適したものにはなっていない。
【0063】
アミン1D(これは非常に低い沸点を有する)ベースの化学機械研磨用組成物は、比較目的のためだけに例に含めている。このアミンを除外したら、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノ基であり、n=0である構造(I)を有する官能基化アミン1G、すなわちモノエタノールアミンベースの化学機械研磨用組成物1Gが、表1.2の残りの比較例の化学機械研磨用組成物より少なくとも25%高いポリシリコン除去速度、および少なくとも26%高いポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比を示したことがわかる。同様に、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノ基であり、n=1である構造(I)を有するアミン1−H、すなわち3−アミノ−1−プロパノールベースの化学機械研磨用組成物は、表1.2の比較例の化学機械研磨用組成物より少なくとも38%高いポリシリコン除去速度、および少なくとも47%高い窒化ケイ素除去速度に対するポリシリコン除去速度の比を示した。さらに、アミン1−F、すなわち2−(2−アミノエトキシ)エタノールベースの化学機械研磨用組成物は、表1.2の比較例の化学機械研磨用組成物より少なくとも16%高いポリシリコン除去速度、および少なくとも8%高い窒化ケイ素除去速度に対するポリシリコン除去速度の比を示した。
【0064】
この実例は、対応する化学機械研磨用組成物において使用する場合に構造(II)のアゾールと併用した場合、ポリシリコン除去速度の向上において、他の型のアミンと比べていくつかの構造(I)の官能基化アミンの利点を示す。
【0065】
【表1-1】
【0066】
【表1-2】
【0067】
<実施例2>
この例は、ポリシリコン除去速度および窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択性への官能基化アミン(I)の構造内における第2のアミノ基(例えば、官能基XおよびYがともにアミノ基である場合)の効果を示す。
【0068】
比較例の化学機械研磨用組成物C−2A〜C−2C、本発明の化学機械研磨用組成物2D〜2G、および本発明の化学機械研磨用組成物1H(比較のためにこの実施例に含めた)は各々、表2.1に示す対応するアミンである、5−アミノテトラゾール、アミノトリス(メタンホスホン酸)、および高純度コロイド状シリカを含有するものにした。充分な硝酸または水酸化カリウム(KOH)を添加し、混合物のpHを最終値10.8に調整した。
【0069】
ポリシリコンおよび窒化ケイ素の除去速度の研磨試験P−2A〜P−2Gおよび研磨試験P−1Hを、表2.1の化学機械研磨用組成物C−2A〜C−2C、2D〜2Gおよび研磨用組成物1Hを用いて行った。研磨速度および選択性の比の結果を表2.2にまとめる。
【0070】
この例は、式中においてXとYの両方がアミノ基である構造(I)を有する低置換ジアミン(アミン2D〜2G)では、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノ基である構造(I)を有するアミン、すなわち本発明のアミン1Hより少なくとも46%高いポリシリコン除去速度および少なくとも117%高いポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比を示したことを示す。さらに、高度に置換された比較ジアミンC−2A〜C−2Cでは、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノ基である構造(I)を有する非置換アミン、すなわち本発明のアミン1Hより少なくとも46%低いポリシリコン除去速度が示された。
【0071】
表2.2のすべての比較例および本発明の実施例の中で最も高いポリシリコン除去速度は、式中においてXとYの両方がアミノ基である構造(I)を有する非置換ジアミン2D、すなわちエチレンジアミンベースの本発明の化学機械研磨用組成物2Dによって示された。
【0072】
【表2-1】
【0073】
【表2-2】
【0074】
<実施例3>
この例は、表3.1に示すとおり、式中のXがヒドロキシルであり、Yがアミノである構造(I)のアミン1G(すなわち、モノエタノールアミン)と、式中のR
7がアミノであり、Z
1が窒素原子であり、Z
2が窒素原子であり、Z
3が炭素原子である構造(II)を有するアゾール1G’(すなわち、5−アミノテトラゾール)間の、研磨例P−1Gで観察されたポリシリコン除去速度およびポリシリコン除去速度の窒化ケイ素に対する選択性の比についての相乗効果を示す。
【0075】
この相乗作用は、研磨例P−3AおよびP−3Bの結果を研磨例P−1G(これは、比較のために表3.1に含めており、組成物1Gベースである)の結果と比較すると明白である。
【0076】
表3.1を参照すると、比較例の化学機械研磨用組成物C−3AとC−3Bおよび本発明の化学機械研磨用組成物1Gは、各々、アミノトリス(メタンホスホン酸)、高純度コロイド状シリカ、および混合物のpHが最終値10.8に調整されるのに充分なKOHを含有する。また、表3.1からわかるとおり、組成物C−3Aはアミン1G(1−アミノエタノール)を含有するがアゾール化合物は全く含有せず;組成物C−3Bはアゾール(5−アミノテトラゾール)を含有するがアミン化合物は全く含有せず;組成物1Gはアミン1G(1−アミノエタノール)とアゾール(5−アミノテトラゾール一水和物)の両方を含有する。組成物C−3AおよびC−3Bの導電率は組成物1Gの導電率と同様であった。表3.1のポリシリコンおよび窒化ケイ素の研磨試験P−3A、P−3BおよびP−1Gを、組成物C−3A、C−3Bおよび1Gを用いて行った。研磨試験の結果を表3.1にまとめる。
【0077】
この例は、アミン1G(1−アミノエタノール)またはアゾール(5−アミノテトラゾール)のいずれかを化学機械組成物の内容物から省くと(それぞれ、組成物C−3BおよびC−3A)、組成物を研磨例に使用した場合(それぞれ、研磨実施例P−3BおよびP−3A)、組成物のイオン強度/導電率が両成分を含有している研磨用組成物1Gのものと同様であってもポリシリコン除去速度の低下がもたらされたことを示す。
【0078】
アミンとアゾール間のこの予期しない相乗的相互作用の機序は不明であるが、アミン1Gとアゾールの両方を含有している組成物1Gで得られたポリシリコン除去速度およびポリシリコンの除去速度の窒化ケイ素に対する選択性の値は、2つの成分のうち一方を省いた組成物C−3AおよびC−3Bで得られたポリシリコン除去速度およびポリシリコン除去速度の窒化ケイ素に対する選択性のうち最も高い対応する値(P−3AおよびP−3B参照)より、それぞれ少なくとも34%および15%高いことがわかる(表3.1)。
【0079】
【表3】
【0080】
<実施例4>
この例は、化学機械研磨用組成物においてアゾールをアミン1−G(2−アミノエタノール)と併用して使用した場合の、種々のアゾール(4A’〜4F’,表4.1)の構造の、研磨例P−4A〜P−4F(表4.2)で観察されたポリシリコン除去速度およびポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比に対する効果を示す。
【0081】
さらに、この例は、式中のR
7がH、COOH、C
1〜C
3アルキルまたはN(R
9)
2、であり、ここで、各R
9は独立して、HまたはC
1〜C
3アルキルである;ただし、Z
3が−N−である場合、R
7は抹消されるものとする(請求項1に詳述のとおり)の構造IIのアゾール/アゾール誘導体(表4.1に表形式にしたとおり)を使用することの利点を示す。表4.1からわかるように、アゾール4A’においてR
7に対応する基はフェニルである。そのため、アゾール4A’は構造(II)の化合物ではない。驚くべきことに、アゾール4A’は、構造(II)の化合物であるアゾール4B’〜4F’よりずっと低いポリシリコン除去速度、およびずっと小さい窒化ケイ素除去速度に対するポリシリコン除去速度の比を示す(表4.2参照)。
【0082】
研磨用組成物は、他の例と同様の様式で調製した。同様に、ポリシリコンおよび窒化ケイ素の研磨試験を研磨例P−4A〜P−4Fにて行い、例P−1G(表1.2の)研磨試験の結果を、比較のために表4.2に含めている。
【0083】
表4.2にまとめた研磨の結果は、構造(I)を有する化合物を構造(II)を有するアゾール/アゾール誘導体と併用して使用することの利点を明白に示す。P−Si除去速度およびP−Si対SiN選択性を高めることにおけるこれらの化合物の相乗効果は表4.2から明白にわかる。表4.2からわかるように、比較例P−4Aは、最も低いP−Si除去速度および最も小さいP−Si対SiN選択性を有する。本発明の実施例はすべて(P−4B〜P−4FおよびP−1G)、ずっと高いP−Si除去速度およびP−Si対SiNの除去速度の比を有する。実際、アゾール4C(1,2,4−トリアゾール)を含有している組成物P−4Cは、比較例P−1Aより40%高いP−Si除去速度を有する。さらに、アゾール4B’(イミダゾール)を含有している組成物P−4Bは、比較例P−1Aより70%高いP−Si対SiNの除去速度の比を有する。
【0084】
【表4-1】
【0085】
【表4-2】
【0086】
<実施例5>
この例は、本発明の組成物1Gと密に関連した研磨用組成物における、追加的成分の、ポリシリコン除去速度およびポリシリコン対窒化ケイ素の除去速度の比に対する効果を示す(表5.1)。この例は、タウリンおよび水酸化コリンなどの添加剤により、ポリシリコン除去速度が大幅に向上し得ることを示す(それぞれ、研磨例P−5AおよびP−5Bに示されたとおり)。また、水酸化コリン(5B)により、ポリシリコン対窒化ケイ素の除去速度の比が劇的に向上する(研磨例P−5Bに示されたとおり)。
【0087】
表5.1に記載の本発明の化学機械研磨用組成物5A、5Bおよび1Gは各々、アミン1−G(モノエタノールアミン)、アゾール(5−アミノテトラゾール)、アミノトリス(メタンホスホン酸、高純度コロイド状シリカ、および混合物のpHが最終値10.8に調整されるのに充分なKOHまたは硝酸を含有する。また、組成物5Aはタウリンを含有し、組成物5Bは水酸化コリンを含有する。研磨試験P−5A、P−5BおよびP−1Gを、上記の標準的なプロトコルに従って行った。結果を表5.1にまとめる。
【0088】
この例は、タウリンを含有している本発明の研磨用組成物5Aでは、本発明の組成物1G(追加的成分は全くなし)と比べて、これらの組成物をそれぞれ研磨試験P−5AおよびP−1Gで使用した場合、ポリシリコン除去速度に関して少なくとも3%の改善が得られ、同等のポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が得られたことを示す。また、この例は、水酸化コリンを含有している本発明の研磨用組成物5Bでは、本発明の組成物1G(追加的成分は全くなし)と比べて、これらの組成物をそれぞれ研磨試験P−5BおよびP−1Gで使用した場合、ポリシリコン除去速度が少なくとも25%の向上し、窒化ケイ素に対するポリシリコンの除去速度の比が370%向上したことを示す。
【0089】
また、表5.1に、2倍濃縮物として調製して加速劣化条件(60℃のオーブン,3週間)に供した本発明の組成物5A、5Bおよび1Gに関して収集されたコロイド安定性データのまとめを提示する。動的光散乱(DLS)によって測定される平均粒径(MPS)の増加が試験期間の終了時に<5nmであった場合はスラリーを「安定」、MPSの増加が>5nmであることがわかった場合はスラリーを「不安定」に分類した。MPSは、Malvern Zetasizer(Malvern Instruments製)などのDLSツールを用いて測定することができる。コロイド安定性試験の結果により、本発明の組成物1G(これはさらなる成分を含有していない)ならびに本発明の組成物5Aおよび5Bの2倍濃縮物はすべて、安定であることがわかることが示された。
【0090】
【表5】
【0091】
本開示を、本明細書に示した実施例に関して説明したが、添付の特許請求の範囲に規定される本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく他の修正および変形が可能であることは理解されよう。
本開示は、以下の実施形態を含む。
<1> 1)少なくとも1種類の研磨剤;
2)少なくとも1種類の構造(I)の化合物:
【化5】
構造(I)
(構造(I)中、
nは0、1、2または3であり;
XおよびYの各々は独立して、O(Ra)、CH2(Ra)またはNH(Ra)であり、ただし、XとYの少なくとも一方はO(Ra)またはNH(Ra)であり、ここで、各Raは独立して、Hであるか、またはヒドロキシルもしくはNH2で任意に置換されているC1−C3アルキルであり、
R1〜R6の各々は独立して、H、OH、またはOHもしくはNH2で任意に置換されているC1−C3アルキルである);
3)少なくとも1種類の構造(II)の化合物:
【化6】
構造(II)
(構造(II)中、
Z1およびZ2の各々は独立して、−CR8−または−N−であり、R8は、H、N(Rb)2、COOH、もしくはC1−C3アルキルであり;各Rbは、独立してHもしくはC1−C3アルキルであるか;または、Z1とZ2が一体となって構造(II)の5員環と縮合した5〜6員環を形成しており;
Z3は−C−または−N−であり;
R7は、H、COOH、C1−C3アルキルまたはN(R9)2であり、ここで、各R9は独立して、HまたはC1−C3アルキルである;ただし、Z3が−N−である場合、R7は存在しない);および、
4)水;
を含み、
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはその塩を含まない、
化学機械研磨用組成物。
<2> 構造(I)の化合物がアミノアルコールである、<1>に記載の組成物。
<3> 構造(I)の化合物が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノールおよび5−アミノ−1−ペンタノールからなる群より選択される、<2>に記載の組成物。
<4> 構造(I)の化合物がジアミンである、<1>に記載の組成物。
<5> 構造(I)の化合物が、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ジアミノペンタンおよび2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノールからなる群より選択される、<4>に記載の組成物。
<6> nが0であり、かつ、R1〜R4の各々がHである場合、XとYの少なくとも一方はOHである、<1>に記載の組成物。
<7> 構造(I)の化合物が、組成物の0.1重量%〜15重量%の量である、<1>に記載の組成物。
<8> 構造(II)の化合物がイミダゾール類またはトリアゾール類である、<1>に記載の組成物。
<9> 構造(II)の化合物が、イミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸からなる群より選択される、<8>に記載の組成物。
<10> 構造(II)の化合物がテトラゾール類である、<1>に記載の組成物。
<11> 構造(II)の化合物が、5−(アミノメチル)テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、または、その水和物である、<10>に記載の組成物。
<12> 構造(II)の化合物が、組成物の0.1重量%〜15重量%の量である、<1>に記載の組成物。
<13> 前記研磨剤が、アルミナ、ヒュームドシリカ、コロイド状シリカ、被覆粒子、チタニア、セリア、ジルコニアおよびこれらの任意の組合せからなる群より選択される、<1>に記載の組成物。
<14> 前記研磨剤がコロイド状シリカである、<13>に記載の組成物。
<15> 前記研磨剤が、組成物の0.05重量%〜20重量%の量である、<1>に記載の組成物。
<16> pH調整剤をさらに含む、<1>に記載の組成物。
<17> スルホン酸基、アミノ基、カルボン酸基またはテトラアルキルアンモニウム基を含有する塩を含み、前記塩がテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの塩と異なるものである、<1>に記載の組成物。
<18> 前記塩が、アミノ酸の塩、タウリンの塩および水酸化コリンの塩からなる群より選択される、<17>に記載の組成物。
<19> 前記塩が、組成物の0.05重量%〜5重量%の量である、<17>に記載の組成物。
<20> アミノホスホン酸をさらに含む、<1>に記載の組成物。
<21> 前記アミノホスホン酸がアミノ(トリメチレンホスホン酸)である、<20>に記載の組成物。
<22> 前記アミノホスホン酸が、組成物の0.01重量%〜5重量%の量である、<20>に記載の組成物。
<23> pH7〜pH12である、<1>に記載の組成物。
<24> 重炭酸塩または酸化剤を含まない、<1>に記載の組成物。
<25> 8000Å/分以上のポリシリコン除去速度を有する、<1>に記載の組成物。
<26> ポリシリコン除去速度の窒化ケイ素除去速度に対する比が、少なくとも50:1である、<1>に記載の組成物。
<27> 希釈前の研磨用組成物と比べての研磨性能の低下無しに、研磨する前の使用時(POU)に少なくとも2倍に希釈することができる、<1>に記載の研磨用組成物。
<28> ポリシリコン膜を、<1>〜<27>のいずれか1つに記載の組成物で処理することを含む、ウェハ基板の表面上に露出しているポリシリコン膜を研磨するための方法。
<29> さらに、研磨処理工程前に、前記組成物を脱イオン水で希釈することを含む、<28>に記載の方法。