(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記窒化化合物層の内部に分散する前記Ag粒子の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について、
図1から
図6を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板22(回路層12)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板10とされている。
図1に、本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板10及びこの絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0019】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(
図1において上側)の面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク51と、を備えている。
ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
【0020】
絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、絶縁性の高い窒化ケイ素(Si
3N
4)で構成されている。ここで、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0021】
回路層12は、
図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。銅又は銅合金としては、無酸素銅やタフピッチ銅等を用いることができる。本実施形態においては、回路層12を構成する銅板22として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0022】
金属層13は、
図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、このアルミニウム板23は、0.2%耐力が30N/mm
2以下とされている。ここで、金属層13(アルミニウム板23)の厚さは0.1mm以上6mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。
【0023】
ヒートシンク51は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、絶縁回路基板10と接合される天板部52と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路53とを備えている。ヒートシンク51(天板部52)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
このヒートシンク51(天板部52)は、本実施形態においては、絶縁回路基板10の金属層13にろう材を用いて直接接合されている。
【0024】
ここで、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)とは、
図5に示すように、AgとCuとTi,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含むろう材(本実施形態では、窒化物形成元素としてTiを含むAg−Cu−Ti系ろう材24)を用いて接合されている。
そして、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)との接合界面には、
図2に示すように、窒化化合物層31と、Ag−Cu共晶層32と、が形成されている。
【0025】
また、回路層12(銅板22)とセラミックス基板11との間には、窒化物形成元素(本実施形態ではTi)とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相33が存在している。本実施形態では、この金属間化合物相33は、Ti
5Si
3で構成されている。
そして、上述の窒化化合物層31においては、
図3に示すように、柱状晶組織とされており、この柱状晶の粒界31aにおいてCu及びSi34が存在している。なお、この窒化化合物層31の粒界31aに存在するCu及びSi34は、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率91万倍で観察し、0.1nm程度のビーム径によるCuとSiの元素マッピングによって検出することができる。
ここで、窒化化合物層31の厚さは0.15μm以上1.0μm以下とされている。なお、窒化化合物層31の厚さは0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。
【0026】
また、この窒化化合物層31内には、Ag粒子35が分散している。Ag粒子35は、窒化化合物層31のセラミックス基板11側に多く分布しており、窒化化合物層31のうちセラミックス基板11との界面から500nmまでの界面近傍領域におけるAg濃度が0.3原子%以上、好ましくは0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされている。なお、本実施形態では、窒化化合物層31内で観察されるAg粒子35の90%以上が、上述の界面近傍領域に分布している。なお、上記界面近傍領域に分布するAg粒子35のより好ましい割合は95%以上であり、上限値は100%であるが、これに限定されることはない。
また、本実施形態では、窒化化合物層31内に分散するAg粒子の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。なお、上記Ag粒子の粒径は10nm以上50nm以下の範囲内に設定されてもよい。
【0027】
ここで、本実施形態では、
図2に示すように、窒化化合物層31において、セラミックス基板11側の界面から窒化化合物層31の全厚tの25%位置までの領域A1におけるAgの平均濃度C
1と、銅板22(回路層12)側の界面から窒化化合物層31の全厚tの25%位置までの領域A2におけるAgの平均濃度C
2との比C
2/C
1が0.8以下とされていることが好ましい。また、C
2/C
1の下限は0以上であり、0.01以上であることが好ましい。
なお、本実施形態では、
図2に示すように、窒化化合物層31の銅板22(回路層12)側にはAg−Cu共晶層32が形成されていることから、上述の「窒化化合物層31の銅板22(回路層12)側の界面」は、Ag−Cu共晶層32との界面となる。
【0028】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図4から
図6を参照して説明する。
【0029】
(銅板積層工程S01)
まず、
図4及び
図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、AgとCuとTi,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含むろう材(本実施形態では、窒化物形成元素としてTiを含むAg−Cu−Ti系ろう材24)を介して、回路層12となる銅板22を積層する。
ここで、Ag−Cu−Ti系ろう材24においては、Cuの含有量は、18mass%以上34mass%以下、Tiの含有量は、0.3mass%以上7mass%以下であることが好ましいが、これに限定されることはない。なお、本実施形態では、Ag−Cu−Ti系ろう材24として箔材を用い、厚さは3μm以上50μm以下の範囲内に設定するとよい。
【0030】
(銅板接合工程S02)
次に、セラミックス基板11及び銅板22を積層方向に0.5kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(4.9×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11とを接合する。
【0031】
ここで、銅板接合工程S02においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等が規定される。また、接合温度が850℃を超えると、Cu−Ti金属間化合物形成反応が過剰に進行し、セラミックス基板11の割れが生じるおそれがある。このため、接合温度の上限を850℃以下とすることが好ましい。
なお、上述の温度積分値の下限は、250℃・min以上とすることが好ましく、500℃・min以上とすることがさらに好ましい。また、上述の温度積分値の上限は、1900℃・min以下とすることが好ましく、1700℃・min以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
この銅板接合工程S02においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を上述の範囲内としていることから、
図6に示すように、AgとCuの共晶反応によりAg−Cu共晶液相38が形成され、このAg−Cu共晶液相38中において、セラミックス基板11との界面で、Ag−Cu−Ti系ろう材24中の窒化物形成元素(Ti)とSi
3N
4からなるセラミックス基板11との反応によりSiが形成され、このSiとAg−Cu−Ti系ろう材24中のCuとが共晶反応してCu−Si共晶液相39が形成される。そして、このCu−Si共晶液相39中において、Ag−Cu−Ti系ろう材24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応して窒化チタンが生成される。これにより、セラミックス基板11の表面が侵食される形で、窒化チタンからなる窒化化合物層31が形成されることになる。
【0033】
さらに、セラミックス基板11中のSiとAg−Cu−Ti系ろう材24中の窒化物形成元素(Ti)が反応し、窒化物形成元素(本実施形態ではTi)とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相33が形成される。
また、上述の反応により、柱状晶として成長する窒化化合物層31の粒界に、Cu及びSi34が存在することになる。
さらに、窒化化合物層31内に、Ag粒子35が分散される。
【0034】
(アルミニウム板積層工程S03)
次に、セラミックス基板11の他方の面側にろう材25を介して金属層13となるアルミニウム板23を積層する。このとき、ろう材25としては、例えば、Al−Si系ろう材箔を用いることができる。
【0035】
(アルミニウム板接合工程S04)
次に、セラミックス基板11及びアルミニウム板23を積層方向に1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(9.8×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空または窒素雰囲気の加熱炉内に装入して加熱し、アルミニウム板23とセラミックス基板11とを接合する。
このとき、ろう付け温度を600℃以上650℃以下の範囲内、保持時間を15min以上120min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
以上のような工程により、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0037】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側に、ヒートシンク51を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク51とを、ろう材26を介して積層し、積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行う。これにより、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク51の天板部52とを接合する。このとき、ろう材26としては、例えば、厚さ20〜110μmのAl−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は、アルミニウム板接合工程S04におけるろう付け温度よりも低温に設定することが好ましい。
【0038】
(半導体素子搭載工程S06)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、無酸素銅からなる銅板22(回路層12)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との接合界面にAg−Cu共晶層32が形成されているとともに、銅板22(回路層12)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との間に窒化物形成元素(本実施形態ではTi)とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相33が存在しているので、セラミックス基板11の接合面において十分に分解反応が生じており、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10を得ることができる。
【0040】
さらに、本実施形態においては、窒化物形成元素(本実施形態ではTi)を含む窒化物からなる窒化化合物層31が形成されており、この窒化化合物層31の粒界においてCu及びSi34が存在しているので、この窒化化合物層31におけるクラックの発生を抑制することができる。
また、窒化化合物層31の厚さが0.15μm以上とされているので、銅板22(回路層12)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との接合界面に未反応部が生じることが無く接合強度の高い絶縁回路基板10を得ることができる。さらに窒化化合物層31の厚さが1.0μm以下とされているので、窒化化合物層31にクラックが生じることを抑制でき、接合強度の高い、絶縁回路基板10を得ることができる。
なお、金属間化合物相33はAg−Cu共晶層32の内部に存在する場合や、窒化化合物層31に隣接するように存在している場合もある。また、金属間化合物相33は銅板22(回路層12)とセラミックス基板11との接合界面から銅板22(回路層12)に向かって20μm以内に存在している場合もある。
【0041】
さらに、本実施形態においては、窒化化合物層31の内部にAg粒子35が分散しているので、接合時に窒化化合物層31が十分に形成されており、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とがさらに確実に接合されている。
また、本実施形態では、窒化化合物層31内に分散するAg粒子35は、その粒径が10nm以上100nm以下の範囲内と比較的微細とされており、窒化物形成元素(本実施形態ではTi)とN(窒素)とが反応して上述の窒化化合物層31が形成される過程で生成したものであると推測される。よって、セラミックス基板11の界面に窒化化合物層31が十分に形成されていることになり、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10を得ることができる。
【0042】
また、本実施形態では、窒化化合物層31のうちセラミックス基板11との界面近傍領域におけるAg濃度が0.3原子%以上とされているので、セラミックス基板11の接合界面に窒化化合物層31が十分に形成されており、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが強固に接合されることになる。
【0043】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板11側の界面から窒化化合物層31の全厚tの25%位置までの領域A1におけるAgの平均濃度C
1と、銅板22(回路層12)側の界面から窒化化合物層31の全厚tの25%位置までの領域A2におけるにAgの平均濃度C
2との比C
2/C
1が0.8以下とされており、セラミックス基板11側のAg濃度が銅板22(回路層12)側よりも高くなっているので、界面反応が十分に進行しており、銅板22(回路層12)とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10を得ることが可能となる。
【0044】
さらに、本実施形態では、銅板接合工程S02において、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等を規定しているので、Cu−Si共晶液相39において、Ag−Cu−Ti系ろう材24中のTiと窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との反応、Ag−Cu−Ti系ろう材24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)との反応、及び、セラミックス基板11中のSiとAg−Cu−Ti系ろう材24中のTiとの反応を促進することができ、Ag−Cu共晶層32の内部にTiとSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相33が存在し、窒化化合物層31の粒界においてCu及びSi34が存在する絶縁回路基板10を製造することができる。また、窒化化合物層31には、Ag粒子35が分散されることになる。
【0045】
また、銅板接合工程S02において、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等が規定されていればよく、銅板接合工程S02における温度条件が比較的低温であっても、セラミックス基板11と銅板22とを確実に接合することができる。よって、セラミックス基板11の劣化を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、接合温度が850℃以下とされているので、Cu−Ti金属間化合物形成反応が過剰に進行することを抑制でき、セラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、
図7から
図9を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板122(回路層112)及び銅板123(金属層113)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板110とされている。
図7に本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板110及びこの絶縁回路基板110を用いたパワーモジュール101を示す。
【0047】
このパワーモジュール101は、絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の一方側(
図7において上側)の面に第1はんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板110の他方側(
図7において下側)に配置されたヒートシンク151と、を備えている。
【0048】
絶縁回路基板110は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板11の他方の面(
図7において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高い窒化ケイ素(Si
3N
4)で構成されている。ここで、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0049】
回路層112は、
図9に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板122が接合されることにより形成されている。銅又は銅合金としては、無酸素銅やタフピッチ銅等を用いることができる。本実施形態においては、回路層112を構成する銅板122として、タフピッチ銅の圧延板が用いられている。この回路層112には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図7において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面されている。ここで、回路層112の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0050】
金属層113は、
図9に示すように、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる銅板123が接合されることにより形成されている。銅又は銅合金としては、無酸素銅やタフピッチ銅等を用いることができる。本実施形態においては、金属層113を構成する銅板123として、タフピッチ銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層113の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0051】
ヒートシンク151は、前述の絶縁回路基板110を冷却するためのものであり、絶縁回路基板110と接合される放熱板152と、この放熱板152に積層配置される冷却器154とで構成されている。
放熱板152は、前述の絶縁回路基板110からの熱を面方向に拡げるものであり、熱伝導性に優れた銅又は銅合金で構成されている。なお、放熱板152と絶縁回路基板110の金属層113とは、第2はんだ層8を介して接合されている。
【0052】
冷却器154は、
図7に示すように、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路153を備えている。冷却器154は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
なお、放熱板152と冷却器154とは、
図7に示すように、グリース層(図示なし)を介して固定ネジ156によって締結されている。
【0053】
ここで、セラミックス基板11と回路層112(銅板122)、及び、セラミックス基板11と金属層113(銅板123)とは、
図9に示すように、Agと、Cuと、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含むろう材(本実施形態では、窒化物形成元素としてTiを含むAg−Cu−Ti系ろう材124)を用いて接合されている。
【0054】
このセラミックス基板11と回路層112(銅板122)との接合界面、および、セラミックス基板11と金属層113(銅板123)との接合界面には、第1の実施形態と同様に、その粒界においてCu及びSiが存在するとともに内部にAg粒子が分散した窒化化合物層と、Ag−Cu共晶層と、が形成されている。そして、セラミックス基板11と回路層112(銅板122)との間、および、セラミックス基板11と金属層113(銅板123)との間には窒化物形成元素(本実施形態ではTi)とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在している(
図2及び
図3参照)。なお、窒化化合物層の厚さは0.15μm以上1.0μm以下とされている。窒化化合物層の厚さが0.15μm以上とされているので、銅板122(回路層112)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との接合界面に未反応部が生じることが無く接合強度の高い絶縁回路基板110を得ることができる。さらに窒化化合物層の厚さが1.0μm以下とされているので、窒化化合物層にクラックが生じることを抑制でき、接合強度の高い、絶縁回路基板110を得ることができる。また、窒化化合物層の厚さは0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。
【0055】
また、金属間化合物相はAg−Cu共晶層の内部に存在する場合や、窒化化合物層に隣接するように存在している場合もある。さらに、金属間化合物相は回路層112(銅板122)とセラミックス基板11との接合界面から回路層112(銅板122)に向かって20μm以内に存在している場合もある。また、セラミックス基板11と金属層113(銅板123)との接合界面から金属層113(銅板123)に向かって20μm以内に存在している場合もある。
【0056】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板110の製造方法について、
図8及び
図9を参照して説明する。
【0057】
(銅板積層工程S101)
まず、
図8及び
図9に示すように、セラミックス基板11の一方の面にAg−Cu−Ti系ろう材124を介して回路層112となる銅板122を積層する。また、セラミックス基板11の他方の面にAg−Cu−Ti系ろう材124を介して金属層113となる銅板123を積層する。
ここで、Ag−Cu−Ti系ろう材124においては、Cuの含有量は、18mass%以上34mass%以下、Tiの含有量は、0.3mass%以上7mass%以下であることが好ましいが、これに限定されることはない。また、本実施形態では、Ag−Cu−Ti系ろう材124として箔材を用い、厚さは3μm以上50μm以下の範囲内に設定するとよい。
【0058】
(銅板接合工程S102)
次に、銅板122、セラミックス基板11及び銅板123を積層方向に0.5kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(4.9×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱し、銅板122とセラミックス基板11と銅板123とを接合する。
【0059】
この銅板接合工程S102においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等が規定される。ここで、接合温度が850℃を超えると、Cu−Ti金属間化合物形成反応が過剰に進行し、セラミックス基板11の割れが生じるおそれがある。このため、接合温度の上限を850℃以下とすることが好ましい。
なお、上述の温度積分値の下限は、250℃・min以上とすることが好ましく、500℃・min以上とすることがさらに好ましい。また、上述の温度積分値の上限は、1900℃・min以下とすることが好ましく、1700℃・min以下とすることがさらに好ましい。
【0060】
この銅板接合工程S102においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を上述の範囲内としていることから、Ag−Cu共晶の液相中において、セラミックス基板11との界面で、Ag−Cu−Ti系ろう材124中のTiと窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との反応によりSiが形成され、このSiとAg−Cu−Ti系ろう材124中のCuとが共晶反応して液相が形成される。そして、このCu−Si共晶液相中において、Ag−Cu−Ti系ろう材124中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応して窒化チタンが生成する。これにより、セラミックス基板11の表面が侵食される形で窒化化合物層が形成されることになる。
【0061】
さらに、セラミックス基板11中のSiとAg−Cu−Ti系ろう材124中のTiが反応し、金属間化合物相が形成される。
また、上述の反応により、柱状晶として成長する窒化化合物層の粒界に、Cu及びSiが存在することになる。
さらに、窒化化合物層内に、Ag粒子が分散される。
【0062】
以上のような工程により、本実施形態である絶縁回路基板110が製造されることになる。
【0063】
(放熱板接合工程S103)
次に、絶縁回路基板110の金属層113の他方の面側に放熱板152を接合する。
絶縁回路基板110と放熱板152とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、絶縁回路基板110と放熱板152とをはんだ接合する。
【0064】
(冷却器配設工程S104)
次に、放熱板152の他方の面側に、冷却器154を配設する。
放熱板152と冷却器154との間にグリース(図示無し)を塗布し、放熱板152と冷却器154とを固定ネジ156によって連結する。
【0065】
(半導体素子搭載工程S105)
次に、絶縁回路基板110の回路層112の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
以上の工程により、
図7に示すパワーモジュール101が製出される。
【0066】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)によれば、タフピッチ銅からなる銅板122(回路層112)及び銅板123(金属層113)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11とが、それぞれAg−Cu−Ti系ろう材124を用いて接合されており、銅板接合工程S102において、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が上述の範囲内とされているので、第1の実施形態と同様の接合界面を有しており、銅板122(回路層112)とセラミックス基板11、銅板123(金属層113)とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板110を得ることができる。
【0067】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、
図10から
図12を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、
図10に示すように、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板222(回路層212)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板210とされている。
【0068】
セラミックス基板11は、絶縁性の高い窒化ケイ素(Si
3N
4)で構成されており、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の構成とされている。
回路層212は、
図12に示すように、セラミックス基板11の一方の面に無酸素銅やタフピッチ銅等の銅又は銅合金からなる銅板222が接合されることにより形成されている。本実施形態では、銅板222は無酸素銅の圧延板とされている。
【0069】
ここで、セラミックス基板11と回路層212(銅板222)とは、
図12に示すように、Agと、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含むろう材(本実施形態では、窒化物形成元素としてTiを含むAg−Ti系ろう材224)を用いて接合されている。
このセラミックス基板11と回路層212(銅板222)との接合界面には、第1の実施形態と同様に、その粒界においてCu及びSiが存在するとともに内部にAg粒子が分散した窒化化合物層(窒化チタン層)と、Ag−Cu共晶層と、が形成されている。そして、セラミックス基板11と回路層212(銅板222)との間には、窒化物形成元素(本実施形態ではTi)とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在している(
図2及び
図3参照)。なお、窒化化合物層の厚さは0.15μm以上1.0μm以下とされている。窒化化合物層の厚さが0.15μm以上とされているので、銅板222(回路層212)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との接合界面に未反応部が生じることが無く接合強度の高い絶縁回路基板210を得ることができる。さらに窒化化合物層の厚さが1.0μm以下とされているので、窒化化合物層にクラックが生じることを抑制でき、接合強度の高い、絶縁回路基板210を得ることができる。また、窒化化合物層の厚さは0.4μm以上0.8μm以下であることが好ましい。
また、金属間化合物相はAg−Cu共晶層の内部に存在する場合や、窒化化合物層に隣接するように存在している場合もある。さらに、金属間化合物相は銅板222(回路層212)とセラミックス基板11との接合界面から銅板222(回路層212)に向かって20μm以内に存在している場合もある。
【0070】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板210の製造方法について、
図11及び
図12を参照して説明する。
【0071】
(ろう材ペースト塗布工程S201)
まず、セラミックス基板11の一方の面に、スクリーン印刷によってAg−Ti系ろう材ペースト224を塗布する。なお、Ag−Ti系ろう材ペースト224の厚さは、乾燥後で20μm以上300μm以下とされている。
【0072】
ここで、Ag−Ti系ろう材ペースト224は、AgおよびTiを含む粉末成分と、樹脂と、溶剤と、分散剤と、可塑剤と、還元剤と、を含有するものである。
本実施形態では、粉末成分の含有量が、Ag−Ti系ろう材ペースト224全体の40質量%以上90質量%以下とされている。また、本実施形態では、Ag−Ti系ろう材ペースト224の粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0073】
粉末成分の組成は、Tiの含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされている。本実施形態では、Tiを10質量%含んでおり、残部がAg及び不可避不純物とされている。
また、本実施形態においては、Ag及びTiを含む粉末成分として、AgとTiとの合金粉末を使用している。この合金粉末は、アトマイズ法によって作製されたものであり、作製された合金粉末を篩い分けすることによって、粒径を40μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下に設定している。
【0074】
(銅板積層工程S202)
次に、セラミックス基板11の一方の面に回路層212となる銅板222を積層する。
【0075】
(銅板接合工程S203)
次に、銅板222とセラミックス基板11を積層方向に0.5kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下(4.9×10
4Pa以上343×10
4Pa以下)の範囲で加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱し、銅板222とセラミックス基板11とを接合する。
【0076】
この銅板接合工程S203においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等が規定される。ここで、接合温度が850℃を超えると、Cu−Ti金属間化合物形成反応が過剰に進行し、セラミックス基板11の割れが生じるおそれがある。このため、接合温度の上限を850℃以下とすることが好ましい。
なお、上述の温度積分値の下限は、250℃・min以上とすることが好ましく、500℃・min以上とすることがさらに好ましい。また、上述の温度積分値の上限は、1900℃・min以下とすることが好ましく、1700℃・min以下とすることがさらに好ましい。
【0077】
この銅板接合工程S203においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値を上述の範囲内としていることから、Ag−Cu共晶の液相中において、セラミックス基板11との界面で、Ag−Ti系ろう材ペースト224中のTiと窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11との反応によりSiが形成され、このSiと銅板222中のCuとが共晶反応して液相が形成される。この液相中において、Ag−Ti系ろう材ペースト224中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応して窒化チタンが生成する。これにより、セラミックス基板11の表面が侵食される形で窒化チタンからなる窒化化合物層が形成されることになる。
【0078】
さらに、セラミックス基板11中のSiとAg−Ti系ろう材ペースト224中のTiが反応し、金属間化合物相が形成される。
また、上述の反応により、柱状晶として成長する窒化化合物層の粒界に、Cu及びSiが存在することになる。
さらに、窒化化合物層内に、Ag粒子が分散される。
【0079】
以上のような工程により、本実施形態である絶縁回路基板210が製造されることになる。
【0080】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板210(銅/セラミックス接合体)によれば、無酸素銅からなる銅板222(回路層212)と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11とが、Ag−Ti系ろう材ペースト224を用いて接合されており、銅板接合工程S203において、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が上述の範囲内とされているので、第1の実施形態と同様の接合界面を有しており、銅板222(回路層212)とセラミックス基板11が確実に接合された絶縁回路基板210を得ることができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層又は金属層を構成する銅板を、無酸素銅の圧延板、あるいは、タフピッチ銅の圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、他の銅又は銅合金で構成されたものであってもよい。
【0082】
また、第1の実施形態において、金属層を構成するアルミニウム板を、純度99.99mass%の純アルミニウムの圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、純度99mass%のアルミニウム(2Nアルミニウム)等、他のアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものであってもよい。
【0083】
さらに、本実施形態では、窒化化合物層にAg粒子が分散されているものとして説明したが、これに限定されることはない。
また、本実施形態では、窒化化合物層に分散されるAg粒子の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされているものとして説明したが、これ以外のサイズのAg粒子が分散していてもよい。
【0084】
さらに、ヒートシンクや放熱板は、本実施形態で例示してものに限定されることはなく、ヒートシンクの構造に特に限定はない。
また、ヒートシンクの天板部や放熱板と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けてもよい。
【0085】
さらに、本実施形態においては、窒化物形成元素としてTiを用いて、窒化チタンからなる窒化化合物層及びTiとSiを含む金属間化合物相を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を用いて、この窒化物形成元素を含む窒化化合物層及び窒化物形成元素とSiを含む金属間化合物相を有するものとしてもよい。
【0086】
さらに、第3の実施形態では、Ag−Ti系ろう材ペーストを用いてセラミックス基板と銅板とを接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Ag−Cu−Ti系ペーストを用いてもよい。この場合、第1の実施形態と同様の界面構造を有することになる。
また、Ag−Ti系ろう材ペーストをセラミックス基板に塗布するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅板にAg−Ti系ろう材ペースト等を塗布してもよい。
さらに、Ag−Ti系ろう材ペーストをスクリーン印刷によって塗布するものとして説明したが、塗布方法に限定はない。
また、積層工程(S202)の前に、Ag−Ti系ろう材ペーストの乾燥を行う工程を設けても良い。
【0087】
さらに、第3の実施形態では、Ag及びTiを含む粉末成分として、AgとTiとの合金粉末を使用したが、これに限らず、Ag粉末とTi粉末との混合粉末を用いることができる。この場合、用いるAg粉末の粒径は40μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であるとよい。
また、Ti粉末の代わりにTiH
2粉末を用いることもできる。TiH
2粉末を用いた場合、粉末成分の組成は、TiH
2の含有量が0.4質量%以上50質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とすると良い。用いられるTiH
2粉末の粒径は15μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下であるとよい。また、TiH
2粉末を用いたペーストの場合、塗布されたペーストの厚さは、乾燥後で20μm以上300μm以下とすると良い。
また、Ag粉末と、Cu粉末と、Ti粉末又はTiH
2粉末との混合粉末からなるペーストを用いることもできる。
【0088】
また、上記実施形態に記載したAg−Cu−Ti系ろう材やAg−Ti系ろう材にIn、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の元素を添加させることもできる。この場合、接合温度をさらに低下させることができる。
さらに、Ag−Ti系ろう材ペーストとして、TiとIn、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の元素と、残部がAg及び不可避不純物からなるペーストを用いることもできる。この場合、接合温度をさらに低下させることができる。
また、第2の実施形態において、Ag−Cu−Ti系ろう材箔の代わりに第3の実施形態で記載したAg−Ti系ろう材ペーストを用いることもできる。
【0089】
また、本実施形態では、絶縁回路基板にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【実施例】
【0090】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0091】
(実施例1)
窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板、ろう材、銅板を用いて、銅/セラミックス接合体を形成した。詳述すると、40mm角で厚さ0.32mmのセラミックス基板の片面に、表1記載の材質からなる銅板を接合した。銅板の大きさは、44mm×25mm(但し、セラミックス基板の端部から5mm突出している)とした。セラミックス基板と銅板の間にろう材を介し、表1に示す条件で、銅板を接合し、銅/セラミックス接合体を形成した。また、積層方向への加圧力(荷重)は1.5kgf/cm
2とし、接合雰囲気は真空(3×10
−5Pa)とした。
【0092】
また、ろう材は、Ag−Cu−Ti箔の場合にはAg−28mass%Cu−3mass%Ti(厚さ:20μm)のろう材を用いた。
Ag−Ti箔の場合にはAg−10mass%Ti(厚さ:20μm)のろう材を用いた。
Ag−Cu−Tiペーストの場合には、粉末成分の組成がAg−28mass%Cu−3mass%Tiのろう材粉末(粒径20μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを、乾燥後の厚さが150μmとなるよう塗布し、ろう材とした。
Ag−Tiペーストの場合には、粉末成分の組成がAg−10mass%Tiのろう材粉末(粒径20μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを、乾燥後の厚さが150μmとなるよう塗布し、ろう材とした。
【0093】
Ag−Zrペーストの場合には、粉末成分の組成がAg−17mass%Zrのろう材粉末(粒径20μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを、乾燥後の厚さが150μmとなるよう塗布し、ろう材とした。
Ag−Hfペーストの場合には、粉末成分の組成がAg−29mass%Hfのろう材粉末(粒径40μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを、乾燥後の厚さが150μmとなるよう塗布し、ろう材とした。
Ag−Nbペーストの場合には、粉末成分の組成がAg−18mass%Nbのろう材粉末(粒径20μm)と、アクリル系樹脂と、テキサノールとを含有するペーストを、乾燥後の厚さが150μmとなるよう塗布し、ろう材とした。
【0094】
このようにして得られた銅/セラミックス接合体について、窒化化合物層の厚さ、Ag−Cu共晶層中の金属間化合物相の有無、窒化化合物層の粒界におけるCu及びSiの有無、窒化化合物層中のAg粒子の有無(粒径)、銅板とセラミックス基板との間の90°ピール強度を評価した。
【0095】
(接合界面の観察)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、走査型電子顕微鏡(カールツァイスNTS社製ULTRA55)を用いて、倍率15000倍(測定視野:6μm×8μm)、視野数5で観察を行い、窒化化合物層の厚さ、Ag−Cu共晶層中の金属間化合物相の有無、窒化化合物層中のAg粒子の有無(粒径)を確認した。
【0096】
窒化化合物層の厚さについては、銅板とセラミックス基板との接合界面において、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される窒化物形成元素とNの元素マッピングを取得し、窒化物形成元素と窒素(N)が共存する領域を窒化化合物層とみなし、この領域の面積を測定し、測定視野の幅の寸法で除して求め、5視野の平均を窒化化合物層の厚さとした。
【0097】
なお、金属間化合物相の有無については、窒化物形成元素とSiの元素マッピングにおいて、窒化物形成元素とSiが共存する領域が存在し、その領域の窒化物形成元素の濃度が60mass%以上90mass%以下であった場合を金属間化合物相「有」とみなした。
また、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率91万倍で観察し、0.1nm程度のビーム径による元素マッピングにより、窒化化合物層の粒界におけるCu及びSiの有無を確認した。
【0098】
Ag粒子の有無については、窒化化合物層内のAgの元素マッピングを8ビットグレースケールに変換し、Ag分布像を取得し、Kapur−Sahoo−Wong(Maximum Entropy)thresholding mrthod(Kapur,JN;Sahoo,PK;Wong,ACK(1985)、“A New Method for Gray−Level Picture Thresholding Usingthe Entropy of the Histogram”,Graphical Models and Image Processing 29(3):273−285参照)に基づいて、Ag分布像を2値化した。2値化した画像からAg粒子の輪郭を抽出し、輪郭内の面積(ピクセル数)から円相当径(直径)を算出した。そして、算出された円相当径のD50をAg粒子の粒径とした。
【0099】
(90°ピール強度試験)
銅/セラミックス接合体において、150℃で500時間放置後、接合された銅板のうちセラミックス基板から突出した部分を90°折り曲げ、セラミックス基板と垂直方向に銅板を引っ張り、銅板がセラミックス基板から剥離するまでの最大の引っ張り荷重を測定した。この荷重を接合長さで割った値を90°ピール強度とし、表1に記載した。
【0100】
評価結果を表1に示す。また、本発明例1の銅/セラミックス接合体におけるSEM観察結果を
図13に、本発明例1の銅/セラミックス接合体におけるSTEM観察結果を
図14に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
窒化化合物層にCu及びSiが存在せず、窒化化合物層の厚さが0.15μm未満であった比較例1においては、90°ピール強度が3.2kN/mと低くなった。窒化化合物層におけるクラックの発生を抑制できず、また、セラミックス基板と銅板との接合界面に未反応部が生じたためと推測される。
窒化化合物層の厚さが1.24μmとされた比較例2においては、90°ピール強度が4.5kN/mと低くなった。窒化化合物層が必要以上に厚く形成され、クラックが生じたためと推測される。
【0103】
これに対して、本発明例1−13においては、いずれも90°ピール強度が高くなった。窒化化合物層の厚さが0.15μm以上1.0μm以下とされ、窒化化合物層にCu及びSiが存在しており、窒化化合物層におけるクラックの発生が抑制されたためと推測される。
【0104】
ここで、本発明例においては、
図13(a)(In Lens SE像)に示すように、セラミックス基板(Si
3N
4)11の接合界面に窒化化合物層31とAg−Cu共晶層32(
図13(a)ではAg−Cu共晶層32を構成するAg32aとCu32bが観察されている)が観察されている。
また、金属間化合物相33は、銅板とセラミックス基板との間に存在しているとともに、Ag−Cu共晶層32の内部に窒化化合物層31に隣接して存在していることが確認された。
また、
図13(b)(BSE像)に示すように、上述の窒化化合物層31の内部にAg粒子35が分散していることが確認された。
そして、本発明例においては、
図14(上段の図はHAADF像、中央の図はCuの元素マッピング、下段の図はSiの元素マッピング)に示すように、窒化化合物層の粒界にCu及びSiが存在していることが確認された。
【0105】
(実施例2)
窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板、ろう材、銅板を用いて、絶縁回路基板を形成した。詳述すると、40mm角で厚さ0.32mmのセラミックス基板の両面に、表2記載の材質からなる銅板を接合した。銅板の大きさは、37mm角で厚さ0.8mmとした。セラミックス基板と銅板の間にろう材を介し、表2に示す条件で、銅板を接合し、銅/セラミックス接合体を形成した。また、積層方向への加圧力(荷重)は1.5kgf/cm
2とし、接合雰囲気は真空(3×10
−5Pa)とした。なお、表2に示すろう材は、上述の実施例1と同様のものを用いた。
【0106】
このようにして得られた絶縁回路基板について、窒化化合物層の厚さ、窒化化合物層におけるセラミックス基板側の界面から全厚の25%位置の領域におけるAgの平均濃度C
1と、銅板側の界面から全厚の25%位置の領域におけるにAgの平均濃度C
2との比C
2/C
1、セラミックス基板と銅板との初期接合率、冷熱サイクル試験によるセラミックス基板の割れを評価した。
【0107】
(窒化化合物層の厚さ、窒化化合物層におけるAg濃度)
窒化化合物層の厚さ方向のライン分析を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率91万倍で実施し、縦軸をAg濃度、横軸を測定位置としてグラフを作成した。
窒化化合物層の全厚をtとして、セラミックス基板側の界面から窒化化合物層の全厚tの25%(t/4)位置までの領域において原点を通る横軸とAg濃度曲線とで囲まれる面積をt/4で割ってAgの平均濃度C
1とした。また、銅板側の界面から窒化化合物層の全厚tの25%(t/4)位置までの領域において原点を通る横軸とAg濃度曲線とで囲まれる面積をt/4で割ってAgの平均濃度C
2とした。
【0108】
ここで、セラミックス基板と窒化化合物層との界面は、ライン分析における窒化物形成元素の濃度が、セラミックス基板側から見て初めて10at%以上となった位置を界面とした。
また、銅板と窒化化合物層との界面は、ライン分析における窒化物形成元素の濃度が、銅板側から見て初めて10at%以上となった位置を界面とした。
そして、窒化化合物層の全厚tは、上述のように規定されたセラミックス基板との界面位置及び銅板との界面位置から算出した。
【0109】
(初期接合率)
銅板とセラミックス基板との接合率は、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて以下の式を用いて求めた。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち銅板の接合面の面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
【0110】
(セラミックス基板の割れ)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA−72ES)を使用し、−40℃×5分←→150℃×5分の冷熱サイクルを200回繰り返す毎に、セラミックス基板の割れの有無を確認し、割れが確認された回数を測定した。なお、1400回負荷時に割れが確認されなかったものは「>1400」と記載した。
【0111】
【表2】
【0112】
窒化化合物層におけるセラミックス基板側の界面から全厚の25%位置までの領域におけるAgの平均濃度C
1と、銅板側の界面から全厚の25%位置までの領域におけるAgの平均濃度C
2との比C
2/C
1が小さいと、初期接合率が高く、かつ、セラミックス基板の割れが抑制される傾向にあった。これは、セラミックス基板側にAgが十分に拡散しており、界面反応が進行しているためと推測される。
【0113】
以上のことから、本発明例によれば、銅部材と窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を提供可能であることが確認された。