特許第6904093号(P6904093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904093
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】打具の把持状態の解析装置
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
   A63B69/36 541P
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-121313(P2017-121313)
(22)【出願日】2017年6月21日
(65)【公開番号】特開2019-4983(P2019-4983A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】永野 祐樹
【審査官】 石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−043349(JP,A)
【文献】 特開2007−325713(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0224012(US,A1)
【文献】 特開2010−094265(JP,A)
【文献】 特表2016−515884(JP,A)
【文献】 島田 充啓,スポーツ用具を使用する際の人間による拘束条件の同定,精密工学会 学術講演会 講演論文集1959−2002年,新井 民夫 社団法人精密工学会,2009年 5月25日,655−656ページ,特に「3.本手法の検証」−「5.結論」を参照。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A63B69/00−71/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打具の把持状態を解析する解析装置であって、
使用者が前記打具を使用するときの前記打具の動きを表す時系列データを取得する取得部と、
前記時系列データの波形に基づいて、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さを判定する判定部と
を備え、
前記判定部は、前記時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定し、前記所定の周波数成分の大きさに応じて、前記把持力の強さを判定する、
解析装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記時系列データを周波数解析し、前記所定の周波数成分の大きさを特定する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記時系列データを、前記所定の周波数成分又は前記所定の周波数成分以外の成分を通過させるバンドパスフィルタに通過させ、前記バンドパスフィルタ通過後の前記時系列データの波形を、前記バンドパスフィルタ通過前の前記時系列データの波形と比較し、前記バンドパスフィルタ通過前後における波形の変化の度合いを前記所定の周波数成分の大きさとして特定する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記時系列データにバンドパスフィルタを適用し、前記所定の周波数成分の大きさを特定する、
請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項5】
前記打具は、ゴルフクラブである、
請求項1から4のいずれかに記載の解析装置。
【請求項6】
前記判定部は、バックスイング時の前記時系列データに基づいて、前記把持力の強さを判定する、
請求項1から5のいずれかに記載の解析装置。
【請求項7】
前記取得部は、前記時系列データとして、前記打具に取り付けられた加速度センサ、角速度センサ及び地磁気センサの少なくとも1つのセンサから出力されるデータを取得する、
請求項1から6のいずれかに記載の解析装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つのセンサは、前記打具のグリップ部に取り付けられる、
請求項に記載の解析装置。
【請求項9】
打具の把持状態を解析する解析プログラムであって、
使用者が前記打具を使用するときの前記打具の動きを表す時系列データを取得するステップと、
前記時系列データの波形に基づいて、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さを判定するステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記判定するステップは、前記時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定し、前記所定の周波数成分の大きさに応じて、前記把持力の強さを判定するステップを含む、
解析プログラム。
【請求項10】
打具の把持状態を解析する解析方法であって、
使用者が前記打具を使用するときの前記打具の動きを表す時系列データを取得するステップと、
前記時系列データの波形に基づいて、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さを判定するステップと
を含み、
前記判定するステップは、前記時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定し、前記所定の周波数成分の大きさに応じて、前記把持力の強さを判定するステップを含む、
解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者がゴルフクラブ等の打具を使用するときの打具の把持状態の解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフやテニス、野球等の様々なスポーツにおいて、打具が使用される。このようなスポーツでは、プレイヤーが打具を把持する把持力は、プレーに影響を与え得る。そのため、打具の商品開発や打具のフィッティング、プレーの練習等、様々な目的でプレイヤーの動作を解析する場面において、打具の把持状態を把握することが重要となり得る。この点、特許文献1,2には、ゴルフクラブのグリップ部に圧力センサを取り付け、プレイヤーがグリップ部を把持したときの圧力を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−292061号公報
【特許文献2】特開2011−122972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2のような圧力センサは、時として汎用性に乏しい。従って、プレイヤーがグリップ部を把持したときの圧力を直接的に測定する以外にも、打具の把持状態を解析する技術が求められる。
【0005】
本発明は、使用者が打具を把持したときの圧力を直接的に測定せずとも、使用者が打具を把持する把持状態を解析することができる打具の把持状態の解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る解析装置は、打具の把持状態を解析する装置であって、使用者が前記打具を使用するときの前記打具の動きを表す時系列データを取得する取得部と、前記時系列データに基づいて、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さを判定する判定部とを備える。
【0007】
本発明の第2観点に係る解析装置は、第1観点に係る解析装置であって、前記判定部は、前記時系列データの波形に基づいて、前記把持力の強さを判定する。
【0008】
本発明の第3観点に係る解析装置は、第2観点に係る解析装置であって、前記判定部は、前記時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定し、前記所定の周波数成分の大きさに応じて、前記把持力の強さを判定する。
【0009】
本発明の第4観点に係る解析装置は、第3観点に係る解析装置であって、前記判定部は、前記時系列データを周波数解析し、前記所定の周波数成分の大きさを特定する。
【0010】
本発明の第5観点に係る解析装置は、第3観点又は第4観点に係る解析装置であって、前記判定部は、前記時系列データにバンドパスフィルタを適用し、前記所定の周波数成分の大きさを特定する。
【0011】
本発明の第6観点に係る解析装置は、第1観点から第5観点のいずれかに係る解析装置であって、前記打具は、ゴルフクラブである。
【0012】
本発明の第7観点に係る解析装置は、第1観点から第6観点のいずれかに係る解析装置であって、前記判定部は、バックスイング時の前記時系列データに基づいて、前記把持力の強さを判定する。
【0013】
本発明の第8観点に係る解析装置は、第1観点から第7観点のいずれかに係る解析装置であって、前記取得部は、前記時系列データとして、前記打具に取り付けられた加速度センサ、角速度センサ及び地磁気センサの少なくとも1つのセンサから出力されるデータを取得する。
【0014】
本発明の第9観点に係る解析装置は、第1観点から第8観点のいずれかに係る解析装置であって、前記少なくとも1つのセンサは、前記打具のグリップ部に取り付けられる。
【0015】
本発明の第10観点に係る解析プログラムは、打具の把持状態を解析する解析プログラムであって、以下のステップをコンピュータに実行させる。
・使用者が前記打具を使用するときの前記打具の動きを表す時系列データを取得するステップと、
・前記時系列データに基づいて、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さを判定するステップ
【0016】
本発明の第11観点に係る解析方法は、打具の把持状態を解析する解析方法であって、以下のステップを含む。
・使用者が前記打具を使用するときの前記打具の動きを表す時系列データを取得するステップと、
・前記時系列データに基づいて、前記使用者が前記打具を把持する把持力の強さを判定するステップ
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、打具の動きを表す時系列データに基づいて、使用者が打具を把持する把持力の強さが判定される。よって、使用者が打具を把持したときの圧力を直接的に測定せずとも、使用者が打具を把持する把持状態を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る解析装置を備えるスイング解析システムを示す図。
図2図1のスイング解析システムの機能ブロック図。
図3】ゴルフクラブのグリップを基準とするxyz局所座標系を説明する図。
図4】(A)アドレス状態を示す図。(B)トップ状態を示す図。(C)インパクト状態を示す図。(D)フィニッシュ状態を示す図。
図5A】把持力の強いゴルファーによるゴルフスイング時の角速度の時系列データのグラフ。
図5B】把持力の弱いゴルファーによるゴルフスイング時の角速度の時系列データのグラフ。
図6A図5Aの時系列データの周波数スペクトルのグラフ。
図6B図5Bの時系列データの周波数スペクトルのグラフ。
図7A】あるゴルファーにゴルフクラブを意図的に強く把持させてスイングさせた時の角速度の時系列データの周波数スペクトルのグラフ。
図7B図7Aと同じゴルファーにゴルフクラブを意図的に弱く把持させてスイングさせた時の角速度の時系列データの周波数スペクトルのグラフ。
図8】解析処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る打具の把持状態の解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0020】
<1.スイング解析システムの概略構成>
図1及び図2に、本実施形態に係る解析装置2を備えるスイング解析システム100の全体構成を示す。スイング解析システム100は、ゴルファー7によるゴルフスイングを解析するシステムである。解析装置2には、ゴルファー7がゴルフクラブ4を使用するときのゴルフクラブ4の把持状態を解析する機能が搭載されている。より具体的には、ゴルファー7がゴルフクラブ4をスイングするときにゴルフクラブ4を把持する把持力の強さが判定される。把持力の強さの情報は、各種用途で使用することができ、例えば、ゴルフ用品の開発やゴルフの練習、さらにはゴルフクラブ4のフィッティングを支援する用途でも使用することができる。把持力の強さは、計測装置1により計測されるゴルフスイング中のゴルフクラブ4の動きを表す時系列データに基づいて判定される。解析装置2は、この計測装置1とともに、スイング解析システム100を構成する。
【0021】
以下、計測装置1及び解析装置2の構成について説明した後、解析処理の流れについて説明する。
【0022】
<1−1.計測装置の構成>
本実施形態に係る計測装置1は、慣性センサであり、図1及び図3に示すとおり、ゴルフクラブ4のグリップ42におけるヘッド41と反対側の端部(以下、グリップエンドという)に取り付けられる。よって、計測装置1は、グリップ42の挙動(動き)を計測することができる。なお、ゴルフクラブ4は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト40と、シャフト40の一端に設けられたヘッド41と、シャフト40の他端に設けられたグリップ42とから構成される。計測装置1は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。
【0023】
図2に示すように、計測装置1には、加速度センサ11及び角速度センサ12が搭載されている。また、計測装置1には、これらのセンサ11,12から出力されるセンサデータを外部の解析装置2に送信するための通信装置10も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置10は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式に解析装置2に接続するようにしてもよい。
【0024】
加速度センサ11及び角速度センサ12はそれぞれ、xyz局所座標系における加速度及び角速度を計測する。より具体的には、加速度センサ11は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ42の加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ12は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップ42の角速度ωx,ωy,ωzを計測する。これらのセンサデータは、所定のサンプリング周期Δtの時系列データとして取得される。なお、xyz局所座標系は、図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト40の延びる方向に一致し、ヘッド41からグリップ42に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ4のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース−バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ−ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。
【0025】
なお、ゴルフクラブのスイング動作は、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、図4(A)に示すとおり、ゴルフクラブ4のヘッド41をボール近くに配置した初期の状態を意味し、トップとは、図4(B)に示すとおり、アドレスからゴルフクラブ4をテイクバックし、最もヘッド41が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、図4(C)に示すとおり、トップからゴルフクラブ4が振り下ろされ、ヘッド41がボールと衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、図4(D)に示すとおり、インパクト後、ゴルフクラブ4を前方へ振り抜いた状態を意味する。
【0026】
本実施形態では、加速度センサ11及び角速度センサ12からのセンサデータは、通信装置10を介してリアルタイムに解析装置2に送信される。しかしながら、例えば、計測装置1内の記憶装置にセンサデータを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置からセンサデータを取り出して、解析装置2に受け渡すようにしてもよい。
【0027】
<1−2.解析装置の構成>
図2を参照しつつ、解析装置2の構成について説明する。解析装置2は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォンとして実現される。解析装置2は、CD−ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体20から、或いはインターネット等のネットワークを介して、解析プログラム3を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。解析プログラム3は、計測装置1から送られてくるセンサデータに基づいてゴルフスイングを解析するためのソフトウェアであり、ゴルファーがグリップ42を把持する把持力の強さを推定する機能を有する。解析プログラム3は、解析装置2に後述する動作を実行させる。
【0028】
解析装置2は、表示部21、入力部22、記憶部23、制御部24及び通信部25を備える。そして、これらの部21〜25は、バス線26を介して接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部21は、液晶ディスプレイ等で構成され、後述する情報をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファー7自身やそのインストラクター、ゴルフ用品の販売者や開発者等の、解析結果を必要とする者の総称である。また、入力部22は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、解析装置2に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0029】
記憶部23は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置により構成される。記憶部23内には、解析プログラム3が格納されている他、計測装置1から送られてくるセンサデータが保存される。通信部25は、解析装置2と外部装置との通信を可能にする通信インターフェースであり、計測装置1からデータを受信する。
【0030】
制御部24は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部24は、記憶部23内の解析プログラム3を読み出して実行することにより、仮想的にデータ取得部24A及びスイング解析部24Bとして動作する。各部24A,24Bの動作の詳細については、後述する。
【0031】
<2.解析方法>
続いて、スイング解析システム100により実行される解析処理について説明する。解析処理では、ゴルファー7によるゴルフスイングが様々に解析され、本実施形態では、ゴルフスイング中のゴルフクラブ4の軌跡が算出される他、ゴルファー7がゴルフクラブ4を把持する把持力の強さが判定される。以下では、把持力の強さを判定するアルゴリズムについて説明した後、解析処理の流れについて詳細に説明する。
【0032】
<2−1.把持力の強さを判定するアルゴリズム>
本発明者らは、以下に説明する実験を行い、使用者が打具を使用するときの打具の動きを表す時系列データに基づいて、使用者が打具を把持する把持力の強さを判定することが可能であるという知見を得た。
【0033】
本実験では、ゴルファーにゴルフスイングを行わせた。このとき、上述したゴルフクラブ4のような、グリップエンドに慣性センサが取り付けられたゴルフクラブが使用された。図5Aに、把持力の強いゴルファー(以下、強力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ωzの時系列データの一例を示す。また、図5Bに、強力ゴルファーよりも把持力の弱いゴルファー(以下、弱力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ωzの時系列データの一例を示す。把持力の強弱は、グリップに圧力センサが取り付けられたゴルフクラブをゴルファーに把持させてスイングさせ、このときの圧力の値を測定することにより判断され得るが、目視でも凡その判断が可能である。図5A及び図5Bの横軸のゼロは、インパクトのタイミングを表している。
【0034】
本発明者らは、強力ゴルファー及び弱力ゴルファーによるゴルフスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データを多数蓄積してゆく中で、このようなスイングデータにはゴルファーの把持力の強弱に応じて特有の波形が出現することを発見した。より具体的には、図5Aに示すように、強力ゴルファーによりスイングされたゴルフクラブの動きの波形は比較的滑らかであるのに対し、弱力ゴルファーによる同様の波形には小刻みの山が観測された。すなわち、弱力ゴルファーの波形には、強力ゴルファーの波形よりも高周波成分が多く含まれるという知見を得た。
【0035】
以上の知見をより正確に確認するべく、周波数分析を行った。図6A及び図6Bは、それぞれ図5A及び図5Bの時系列データをバンドパスフィルタ(5〜20Hzの帯域を抽出するもの)に通した後、周波数解析した周波数スペクトルのグラフである。同図からは、弱力ゴルファーの周波数スペクトルには7〜10Hz付近にピークが出現するが、強力ゴルファーの周波数スペクトルにはそのようなピークは出現しない。
【0036】
以上の実験から、ゴルファーのスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データに含まれる周波数成分の大きさは、ゴルフクラブを把持する把持力の強さに応じて変化することが分かった。従って、ゴルファーのスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データを取得し、これに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定すれば、把持力の強さを判定することができるという知見を得た。これは、ゴルファーの把持力の強さに応じて、打具の振動の特性が変化するからであると考えられる。
【0037】
なお、図7A及び図7Bは、同一ゴルファーに意図的に把持力を変化させてゴルフスイングを行わせたときの結果を示しており、図7Aが意図的に強く把持させた場合を、図7Bが意図的に弱く把持させた場合を示している。この実験の場合も、把持力が弱い場合の角速度ωzの周波数スペクトルには、7〜10Hz付近に大きなピークが存在するが、把持力が強い場合の角速度ωzの周波数スペクトルには、同様の大きなピークは存在しない。よって、以上の知見の確からしさがさらに確認された。
【0038】
また、図5A及び図5Bに戻ると、主としてインパクト−2秒からインパクト−0.5秒の期間に高周波成分が確認される。この期間は、アドレスからトップまでのバックスイングの期間に相当する。すなわち、バックスイング中のようにゴルフフクラブを振り上げるときは、トップ以後のゴルフクラブを振り下ろすときに比べて、比較的ゆっくりとゴルフクラブが運動しているため、ゴルファーの把持力が小さいことの影響がより顕著に表れるためと考えられる。また、動きが速いときには、把持力が大きくなり易くなるため、ゆっくりの挙動の方が、ゴルファー間の差分が出やすい。よって、打具の動きが比較的ゆっくりとなる期間のデータに注目すれば、より正確な解析が可能なると考えられる。
【0039】
<2−2.解析処理の流れ>
図8は、解析処理の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS1では、データ取得部24Aにより、計測装置1から出力されるセンサデータが取得される。より具体的には、ゴルファー7により、上述の計測装置1付きゴルフクラブ4がスイングされる。このとき、計測装置1により、スイング中のゴルフクラブ4の動きを表す時系列データ、すなわち、グリップエンドの加速度ax,ay,az及び角速度ωx,ωy,ωzの時系列データが検出される。これらのセンサデータは、計測装置1の通信装置10を介して解析装置2に送信される。一方、解析装置2側では、データ取得部24Aが通信部25を介してこれを受信し、記憶部23内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスからフィニッシュまでのセンサデータが収集される。
【0040】
続くステップS2では、スイング解析部24Bが、記憶部23内に格納されているセンサデータに基づいて、アドレス、トップ及びインパクトの時刻ta,tt,tiを導出する。なお、角速度や加速度等の時系列データに基づくインパクト、トップ及びアドレスの時刻ti,tt,taの算出のアルゴリズムとしては、様々なものが公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
続くステップS3では、スイング解析部24Bは、記憶部23内に格納されているセンサデータに基づいて、ゴルフクラブ4の軌跡を算出する。より具体的には、スイング解析部24Bは、xyz局所座標系での加速度ax,ay,az及び角速度ωx,ωy,ωzの時系列データを、XYZ全体座標系での加速度aX,aY,aZ及び角速度ωX,ωY,ωZの時系列データに変換する。XYZ全体座標系は、図1に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、Z軸は、鉛直下方から上方に向かう方向であり、X軸は、ゴルファー7の背から腹に向かう方向であり、Y軸は、地平面に平行でボールの打球地点から目標地点に向かう方向である。なお、xyz局所座標系からXYZ全体座標系への変換のアルゴリズムとしては、様々なものが公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。スイング解析部24Bは、XYZ全体座標系での加速度aX,aY,aZの時系列データを2回積分することにより、ゴルフスイング中のゴルフクラブ4(より正確には、グリップエンド)の軌跡を表す時系列データを算出する。
【0042】
続くステップS4では、スイング解析部24Bは、記憶部23内に格納されているセンサデータ(本実施形態では、ωzの時系列データ)に、所定の周波数成分のみを通過させるバンドパスフィルタを適用する。ここでいう所定の周波数成分とは、ゴルファーの把持力の強さに関する特徴が顕著に出現する所定の周波数帯域における波の成分であり、本実施形態では、把持力が弱い場合の特徴が顕著に現れる5〜20Hzの帯域における波の成分である。なお、参考のため、図5Bには、5〜20Hzの周波数成分を通過させるバンドパスフィルタの適用後の波形が破線で示されている。
【0043】
続くステップS5では、スイング解析部24Bは、ステップS4のバンドパスフィルタの通過後のセンサデータ(本実施形態では、ωzの時系列データ)から、バックスイング時のゴルフクラブ4(より正確には、グリップエンド)の動きを表す時系列データを抽出する。上述した実験の結果から分かるように、ゴルファーの把持力の弱い場合には、バックスイング時の時系列データに高周波成分の波形が顕著に出現する。従って、ステップS5においてバックスイング時の時系列データを切り出すことにより、以後の分析において把持力の強さをより正確に判定することができる。なお、バックスイングとは、アドレスからトップまでの動きを言うが、バックスイング時の時系列データとしては、アドレスの少し前又は少し後からトップの少し前又は少し後までの時系列データが抽出されてもよい。なお、ステップS4とステップS5の実行順を反対にする、すなわち、バックスイング時のセンサデータを抽出した後、バンドパスフィルタに通すこともできる。
【0044】
続くステップS6では、スイング解析部24Bは、ステップS5で抽出された時系列データを周波数解析する。より具体的には、ステップS5で抽出された時系列データを高速フーリエ変換し、周波数スペクトルを導出する。そして、この周波数スペクトルを積分することにより、ステップS5で抽出された時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさDを特定する。なお、ステップS4を経ていることにより、ここでの積分値は、ステップS4でいう所定の周波数帯域における波の成分の大きさを表す値となる。
【0045】
続くステップS7では、スイング解析部24Bは、ステップS6で特定された所定の周波数成分の大きさDに応じて、ゴルファーの把持力の強さを判定する。より具体的には、ステップS4でいう所定の周波数帯域は、把持力の強弱の差が顕著に現れる傾向にある7〜10Hzを含むため、大きさD(積分値)は、把持力の強弱を的確に表すことができる。従って、所定の周波数成分の大きさDを所定の閾値と比較し、Dが所定の閾値以下であれば、把持力が強いと判定し、所定の閾値よりも大きければ、把持力が弱いと判定する。ここで使用される閾値は、多数の実験を通して予め定められ、記憶部23内に格納されているものとする。
【0046】
続くステップS8では、以上の解析結果が出力される。例えば、表示部21上に、ゴルファーの把持力の強弱を示すメッセージが表示されるとともに、ステップS3で導出されたゴルフクラブ4の軌跡を描画するグラフが表示される。なお、以上の解析結果は、必ずしもユーザに提示される最終出力である必要はなく、さらなるスイングの解析に使用されてもよい。また、ゴルファーの把持力の強弱の情報は、ゴルフの練習にも使用することができる。
【0047】
<3.特徴>
上記実施形態によれば、ゴルフクラブ4の動きを表す時系列データに基づいて、ゴルファー7がゴルフクラブ4のグリップ42を把持する把持力の強さが判定される。よって、ゴルファー7がグリップ42を把持したときの圧力を直接的に測定せずとも、ゴルファー7がグリップ42を把持する把持状態を解析することができる。
【0048】
なお、特許文献1,2のような圧力センサは、グリップ42においてプレイヤーの把持力が物理的に伝わる位置、すなわち、プレイヤーが手でまさに把持する位置に取り付ける必要がある。そうすると、時としてグリップ42を握るプレイヤーの感覚が変化してしまい、通常のプレーを妨げることにもなり兼ねない。また、特許文献1,2のような圧力センサをグリップ42に取り付ける場合には、解析装置が大がかりになり、さらにゴルフクラブ4の性能、特にバランスが変化してしまうが、計測装置1であればこのような問題が生じにくい。
【0049】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0050】
<4−1>
上記実施形態では、計測装置1は慣性センサであり、この慣性センサにより、ゴルファーの把持状態を解析するためのデータ(以下、解析データという)である、打具の動きを表す時系列データが取得された。しかしながら、この例に限られず、例えば、計測装置1を1台又は複数台のカメラ(三次元撮影が可能な距離画像センサを含み得る)により構成し、このようなカメラにより打具の動きを撮影してもよい。この場合、データ取得部24Aは、計測装置1から出力される画像の時系列データ(すなわち、動画データ)を画像処理することにより、解析データとして、例えばグリップエンドの位置、加速度、角速度等の時系列データを取得することができる。また、慣性センサとカメラとを組み合わせることにより、解析データを取得することもできる。
【0051】
また、慣性センサから解析データを取得する場合においても、角速度ωzに代えて又は加えて、角速度ωx,ωyや加速度ax,ay,az等のデータを解析データとすることもできる。また、慣性センサに地磁気センサが含まれていてもよく、地磁気のデータを解析データとすることもできる。また、慣性センサの取り付け位置も、グリップエンドに限られず、グリップ42の他の部分に取り付けることもできるし、ヘッド41やシャフト40に取り付けることもできる。
【0052】
<4−2>
上記実施形態では、ゴルフクラブ4を把持する把持力の強さが判定されたが、上述のアルゴリズムは、テニスラケット、ベースボールバット等、その他のスポーツ用の打具の把持力の判定に適用することもできるし、非スポーツ用途の打具の把持力の判定にも適用することができる。
【0053】
<4−3>
上記実施形態では、所定の周波数成分の大きさDが、周波数スペクトルを所定の周波数帯域において積分することにより特定された。しかしながら、所定の周波数成分の大きさDを、所定の周波数帯におけるスペクトルパワーの最大値としてもよいし、特定の周波数のスペクトルパワーの値としてもよい。
【0054】
また、これに代えて又は加えて、上記実施形態では、解析データをバンドパスフィルタに通すことにより、所定の周波数成分の大きさDが特定された。しかしながら、バンドパスフィルタに通すことなく解析データを周波数解析した後、その結果から所定の周波数成分の大きさDを特定してもよい。
【0055】
<4−4>
上記実施形態では、所定の周波数成分の大きさDが、周波数解析を行うことにより特定された。しかしながら、注目している所定の周波数成分又は所定の周波数成分以外の成分を通過させるバンドパスフィルタに通した後、これを元の波と比較し、元の波とバンドパスフィルタ通過後の波の変化の度合いを、所定の周波数成分の大きさDとすることもできる。
【0056】
<4−5>
上記実施形態では、把持力の強さが、強い又は弱いの2段階で現わされたが、3段階以上で判定することもできるし、数値で判定することもできる。また、把持力に依存する指標を、把持力の強さとして算出することもできる。ここでいう指標とは、例えば、スイング中のグリップの挙動をバネモデルで解析するときのバネ定数である。このようなバネ定数については、公知であるため(例えば、松本賢太,他5名,「クラブヘッドの慣性がシャフト挙動に及ぼす影響」,スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2015講演論文集,B−34(USB memory),2015年10月を参照)、詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0057】
1 計測装置
11 加速度センサ
12 角速度センサ
2 解析装置(コンピュータ)
24A データ取得部(取得部)
24B スイング解析部(判定部)
3 解析プログラム
4 ゴルフクラブ
42 グリップ
7 ゴルファー
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8