(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリオレフィン繊維を主成分とする不織布であって、繊維断面円周方向に等分割した4点において、ラマン分光を用いて繊維側面から測定して得られる配向パラメータの最大値Imaxと最小値Iminの差が0.6以上であることを特徴とする請求項1記載のスパンボンド不織布。
ポリオレフィン樹脂をダンベル型ノズルから吐出させた繊維群の側面に、相対する2方向から冷却風を当てて冷却することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスパンボンド不織布の製造方法。
ポリオレフィン樹脂をダンベル型ノズルから吐出させた繊維群に対し、自然冷却することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスパンボンド不織布の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のスパンボンド不織布は、ポリオレフィン繊維を主成分とする不織布であって、前記のポリオレフィン繊維の横断面において、下記(1)〜(4)の方法で求めることができる線分A1’A2’と線分B1’B2’(A1’A2’≧B1’B2’とする。)の比率A1’A2’/B1’B2’値が、1.05以上のスパンボンド不織布である。
(1)繊維横断面外周上の2点を結ぶ線分の内、最も長い線分を引き、その線分と繊維横断面外周との接点を、AおよびBとする、
(2)線分ABの長さをDとし、AからD/4の距離にある点をA’とし、同じくBからD/4の距離にある点をB’とする、
(3)A’を通り線分ABと垂直な直線と繊維横断面の接点を、A1’およびA2’とする、
(4)B’を通り線分ABと垂直な直線と繊維横断面の接点を、B1’およびB2’とする。
【0024】
本発明のスパンボンド不織布は、ポリオレフィン繊維を主成分とする不織布であって、繊維断面円周方向に等分割した4点において、ラマン分光を用いて繊維側面から測定して得られる配向パラメータの最大値I
maxと最小値I
minの差が、0.6以上のスパンボンド不織布である。
【0025】
本発明のスパンボンド不織布は、ポリオレフィン繊維を含有する不織布である。
【0026】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の横断面の形状は、通常の丸型断面ではなく、特殊な異型断面構造である。より具体的には、繊維横断面外周上の2点を結ぶ線分の内、最も長い線分に対し対称な構造であり、それと垂直な線分に対して非対称な構造である。上記のような構造とすることにより、繊維横断面方向に冷却に差が生じることにより構造差ができるため、延伸後の応力緩和において繊維横断面方向に収縮差が生じることにより、繊維に捲縮を付与することができる。
【0027】
図1は、本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の横断面を例示する模式断面図の図面代用写真であり、
図2は、本発明のスパンボンド不織布を構成する他のポリオレフィン繊維の横断面を例示する模式断面図の図面代用写真である。
【0028】
図1と
図2において、繊維断面外周上の2点を結ぶ線分の内、最も長い線分と繊維横断面外周との接点を、AおよびBとする。 線分ABの長さをDとし、AからD/4の距離にある点をA’とし、同じくBからD/4の距離にある点をB’とし、それぞれを通り線分ABと垂直な直線を引き、繊維断面外周との交点をそれぞれ、A1’、A2’、B1’、B2’(A1’A2’≧B1’B2’)とする。
【0029】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維は、線分A1’A2’と線分B1’B2’の比率A1’A2’/B1’B2’値が、1.05以上であることが重要である。上記の比率A1’A2’/B1’B2’値は、より好ましくは1.10以上であり、更に好ましくは1.20以上である。上記の比率A1’A2’/B1’B2’値を、1.05以上とすることにより、繊維横断面方向に構造差ができるため、延伸後に捲縮が発現しやすい構造となり好ましい形態である。
【0030】
上記の比率A1’A2’/B1’B2’値の上限は、この比率が大きくなるにつれて繊維横断面の構造差も大きくなるため、繊維の紡糸吐出時に不安定になりやすくなる。そのため、紡糸の安定性から、この比率の上限値はせいぜい5.0程度である。
【0031】
本発明においては、本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の繊維断面円周方向に等分割した4点において、ラマン分光を用いて繊維側面から測定した配向パラメータの最大値I
maxと最小値I
minの差が、0.6以上であることが重要である。
【0032】
本発明でいう配向パラメータとは、ラマン分光法で得られるラマンスペクトルにおいて、例えば、PPの場合は、810cm
−1と840cm
−1付近のラマンバンドの強度から求めることができる。PPの場合、810cm
−1と840cm
−1付近のラマンバンドは入射光の偏光に対して強い異方性を示すことが知られている。これらは、CH
2変角振動とC−C伸縮振動のカップリングモード、CH
2変角振動モードにそれぞれ帰属される。これらのうち、810cm
−1のラマンバンドについては、振動モードのラマンテンソルの主軸は分子の主鎖方向に対し平行であり、一方で、840cm
−1のラマンバンドでは直交している。よって、これらのラマンバンドの偏光方向に対するバンド強度比から、分子鎖の配向が得られる。
【0033】
本発明でいう配向パラメータIは、I
810/I
840(I
810:810cm
−1付近のラマンバンド強度、I
840:840cm
−1付近のラマンバンド強度)の値として求められる。
【0034】
また、PEの場合は、1130cm
−1付近のラマンバンドが振動モードのラマンテンソルの主軸は分子の主鎖方向に対し平行であり、1060cm
−1付近のラマンバンドが直交している。そのため、本発明でいう配向パラメータIは、I
1130/I
1060(I
1130:1130cm
−1付近のラマンバンド強度、I
1060:1060cm
−1付近のラマンバンド強度)の値として求められる。
【0035】
一般的なPP繊維の場合、配向パラメータの最大値と最小値の差は、せいぜい0.2程度である。公知の異なる2成分の原料を用いたPP系サイドバイサイド捲縮複合繊維の場合の配向パラメータの最大値と最小値の差は、0.4程度である。スパンボンド不織布を構成する繊維の配向パラメータの最大値と最小値の差を0.6以上とすることにより、捲縮が非常に発現しやすい構造とすることができる。
【0036】
本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維の配向パラメータの最大値と最小値の差は、0.6以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは1.0以上である。配向パラメータの差を0.6以上によりとすることにより、繊維が捲縮発現する上で十分な構造差とすることができる。また、配向パラメータの差の上限は、同一繊維内に製造できる限界としては、せいぜい7.0程度である。
【0037】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらのモノマーと他のα−オレフィンとの共重合体などの樹脂からなる繊維が挙げられる。なかでも、強度が強く使用時において破断し難く、かつ衛生材料の生産時における寸法安定性に優れていることから、ポリプロピレン繊維を用いることが好ましい態様である。
【0038】
ポリプロピレン樹脂は、一般的なチーグラナッタ触媒により合成されるポリマーでもよく、メタロセンに代表されるシングルサイト活性触媒により合成されたポリマーも用いることができる。また、エチレンランダム共重合ポリプロピレンも用いることができる。エチレン含有量は、2質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満である。
【0039】
他のα−オレフィンとしては、炭素数3〜10のものであり、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキサン、4−メチル−1−ペンテン、および1−オクテンなどが挙げられる。これらは、1種類単独でも2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
ポリプロピレン樹脂は、強度と寸法安定性、および生産性とコストの観点から、ホモポリプロピレンを主成分とするものであることが特に好ましい態様である。
【0041】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリプロピレン繊維としては、単一成分のポリマーで構成されてもよいし、異なる2種類以上のポリマーで構成される複合繊維でもよいが、生産性とコストの観点から、単一成分のポリマーで構成することが特に好ましい態様である。本発明でいうところの単一成分のポリマーで構成するとは、例えば、主原料であるオレフィン種が1種類であることを意味する。通常用いられている酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤および顔料等の添加物等は、ポリマーの原料としてカウントしない。すなわち、オレフィン種が1種類であるポリマーが、これらの添加物等を何種類含んでいても、そのポリマーは実質的に単一原料で構成されたポリマーとなる。
【0042】
また、複数の原料をチップの状態で混合した後に紡糸する、いわゆるブレンド紡糸は、原料同士の界面が確認できないことから、本発明においては単一成分のポリマーとして扱う。本発明において、ポリオレフィンを主成分とするとは、繊維中のポリオレフィンの含有率が80質量%以上であることをいう。前記の含有率は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%であることが特に好ましい。
【0043】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと記載する場合がある;ASTM D−1238 荷重;2160g、温度;230℃)は、1〜1000g/10分であることが好ましく、10〜500g/10分であることがより好ましく、20〜200g/10分であることがさらに好ましい態様である。メルトフローレートを1〜1000g/10分の範囲とすることにより、安定した紡糸を行いやすくなり、かつ配向結晶化が進みやすくなり、高い強度の繊維が得られやすくなる。
【0044】
また、本発明で用いられるポリエチレン樹脂のメルトフローレート(ASTM D−1238 荷重;2160g、温度;190℃)は、好ましくは1〜1000g/10分であり、より好ましくは10〜500g/10分であり、さらに好ましくは15〜100g/10分である。メルトフローレートを1〜1000g/10分の範囲とすることにより、安定した紡糸を行いやすくなり、かつ配向結晶化が進みやすくなり、高い強度の繊維が得られやすくなる。
【0045】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられている酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤および顔料等の添加物あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
【0046】
一般的な不織布の製法としては、例えば、ニードルパンチ不織布、湿式不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、レジンボンド不織布、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、トウ開繊式不織布、およびエアレイド不織布等の種々の製法が挙げられるが、本発明ではスパンボンド法による不織布であることが重要である。スパンボンド不織布は、生産性や機械的強度に優れ、また、長繊維からなるため、短繊維不織布に比べて毛羽立ちしにくいという特徴を有する。
【0047】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の平均単繊維繊度は、0.5dtex以上3.5dtex以下であることが好ましく、より好ましくは0.7dtex以上3.2dtex以下であり、さらに好ましくは0.9dtex以上2.8dtex以下である。平均単繊維繊度は、紡糸安定性の観点から、0.5dtex以上であることが好ましく、繊度が細い程、不織布として糸の接着点が多くなるため強度が高く、柔軟性が良好となる。本発明のスパンボンド不織布は、主として衛生材料に使用されるため、スパンボンド不織布の強力の観点から、平均単繊維繊度は、3.5dtex以下であることが好ましい態様である。上記の平均単繊維繊度は、繊維断面写真における繊維断面積A(m
2)とポリマー密度ρ(g/m
3)より、次式を用いて算出することができる。
・単繊維繊度(dtex)=A(m
2)×ρ(g/m
3)×10000(m)。
【0048】
本発明のスパンボンド不織布は、目付が3〜200g/m
2であることが好ましい態様である。前記の目付は、より好ましくは5〜150g/m
2であり、さらに好ましくは10〜100g/m
2である。目付を上記の範囲とすることにより、特に衛生材料用不織布として用いる場合に、十分な柔軟性を得ることができる。
【0049】
また、本発明のスパンボンド不織布の見掛密度は、0.130g/cm
3以下であることが好ましい態様である。前記の見掛密度は、目付を厚さで除することにより算出することができる。見掛密度は、より好ましくは0.025g/cm
3以上0.125g/cm
3以下であり、さらに好ましくは0.040g/cm
3以上0.100g/cm
3以下である。見掛密度を上記の範囲とすることにより、特に衛生材料用不織布として用いる場合に十分な嵩高性と物性を得ることができる。
【0050】
次に、本発明のスパンボンド不織布を製造する方法の一例を説明する。
【0051】
スパンボンド法は、原料樹脂を溶融し、紡糸口金から紡糸した後、冷却固化した繊維群に対し、エジェクターで牽引し延伸して、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した後、熱接着する工程を要する製造方法である。
【0052】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、繊維群同士の融着や擦過が起こりにくい点から矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましく用いられる。
【0053】
本発明で用いられるポリオレフィン繊維の断面形状を得る口金としては、
図4に例示される吐出孔の形状(本発明においては、ダンベル形状と称することがある。)をしていることが重要である。ダンベル形状の吐出孔径は、長方形の両側にそれぞれ円が配置されている形状であり、この円の孔径に差がある形状である。
図4は、紡糸口金の吐出面を例示するものであり、ここでは吐出孔(大孔径側)20と吐出孔(小孔径側)30が示されている。
【0054】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維を得るには、2つの円の吐出孔面積に差があることが重要であり、大孔径面積/小孔径面積の値(面積比率)は1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは2.0以上である。面積比率を1.2以上とすることにより、得られる繊維に構造差を付与することができる。面積比率の上限値は、面積比率が大きくなるにつれて、吐出直後の糸曲がりが大きくなり紡糸が不安定になることから、面積比率はせいぜい5.0以下である。
【0055】
本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の断面は、上記の口金の吐出形状を適宜調整することにより得ることができる。上記の大孔径面積/小孔径面積の値を1.2以上とすることにより、繊維断面の線分A1’A2’と線分B1’B2’(A1’A2’≧B1’B2’とする。)の比率A1’A2’/B1’B2’値が1.05以上となる、本発明を構成する繊維断面を得ることができる。
【0056】
溶融し紡糸する際の紡糸温度は、200〜300℃であることが好ましく、より好ましくは210〜280℃であり、さらに好ましくは220〜260℃である。紡糸温度を上記の範囲内とすることにより、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0057】
ポリオレフィン樹脂(原料)は、押出機によって溶融し計量され、紡糸口金へと供給される口金吐出孔から紡出される。
【0058】
紡出された長繊維の繊維群を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に繊維群に吹き付ける方法、繊維群周りの雰囲気温度にて自然冷却する方法、紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法、およびこれらの組み合わせを採用することができる。
【0059】
また、冷却は繊維群に対し相対する2方向から冷却風を当てる、もしくは自然冷却することが好ましい。片側から冷却風を当てる、いわゆる非対称冷却の場合、繊維群のゆれが大きくなることで糸切れが発生しやすくなり、また、繊維間での冷却ムラが生じる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度および雰囲気温度等を考慮し適宜調整し採用することができる。
【0060】
次に、冷却固化された繊維群は、エジェクターから噴射する圧縮エアによって牽引し延伸される。延伸された後は圧縮エアによる拘束がなくなるため、延伸繊維は応力緩和の影響を受ける。このとき、繊維横断面の構造差に起因する収縮差により、繊維に捲縮が発現する。その後、長繊維を移動するネット上に捕集して不織ウェブ化し、得られた不織ウェブを熱接着により一体化することによりスパンボンド不織布を得ることができる。
【0061】
熱接着の方法としては、例えば、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールによる熱圧着や、超音波による融着を適用することができる。
【0062】
中でも強度と耐摩耗性の観点から、エンボスロールを用いた熱接着を好ましく採用することができる。また、上下いずれかに彫刻(凹凸部)が施されたロールを用いることは、全体に圧力が掛かりにくくなり、捲縮繊維による嵩高性が損なわれないため好ましい態様である。
【0063】
熱融着時のエンボス接着面積率は、5〜30%であることが好ましい。エンボス接着面積率を5%以上、より好ましくは10%以上とすることにより、スパンボンド不織布として実用に供しうる強度を得ることができる。一方、エンボス接着面積率を30%以下、より好ましくは20%以下とすることにより、捲縮繊維による嵩高性を維持することができる。
【0064】
ここでいうエンボス接着面積率とは、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことをいう。
【0065】
熱エンボスロールに施される彫刻の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などの形状を用いることができる。
【0066】
熱エンボスロールの表面温度は、使用している樹脂のうち、最も低融点の樹脂(以下、低融点樹脂と称する場合がある。)の融点に対し−50〜−1℃とすることが好ましい。熱エンボスロールの表面温度を、低融点樹脂の融点に対し−50℃以上、より好ましくは−30℃以上、さらに好ましくは−10℃以上とすることにより、十分に熱接着させ強度をもたせ毛羽の発生を抑えやすくすることができる。
【0067】
また、熱エンボスロールの表面温度を低融点樹脂の融点に対し−1℃以下とすることにより、繊維の融解により樹脂同士の剥離が発生するのを防ぎやすくすることができる。
【0068】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、5〜50kgf/cmであることが好ましい。前記線圧を5kgf/cm以上、より好ましくは10kgf/cm以上、さらに好ましくは15kgf/cm以上とすることで、十分に熱接着させることができる。一方、前記線圧を50kgf/cm以下、より好ましくは40kgf/cm以下、さらに好ましくは30kgf/cm以下とすることで、ロールの応力がかかりすぎないことによって捲縮繊維による嵩高性を維持することができる。
【0069】
本発明のスパンボンド不織布は、嵩高性に非常に優れていることから、使い捨て紙おむつやナプキンなどの衛生材料用途に好適に利用することができる。衛生材料のなかでも、特に表面材(トップシート)等に好適に利用することができる。また、包帯、医療用ガーゼ、タオル等の医療衛生材料、および衛生マスク等のかさ高性と柔軟性が求められる各種用途のいずれにも好適に使用することができる。
【実施例】
【0070】
次に、実施例に基づき、本発明のスパンボンド不織布とその製造方法について、具体的に説明する。
【0071】
(1)繊維横断面における比率A1’A2’/B1’B2’値の算出:
スパンボンド不織布を構成する繊維横断面をキーエンス社製走査型電子顕微鏡(型番:VE7800)により撮影し、次の(A)〜(D)の手順に従い、線分A1’A2’および線分B1’B2’の長さ(A1’A2’≧B1’B2’とする)を測定し、比率A1’A2’/B1’B2’値を算出した。この比率における各種線分の測定は、画像撮影に使用した顕微鏡ソフトウエアに付属されている計測機能を使用して算出した。不織布の異なる位置から採取した繊維3本に対して測定し、その平均を求めた。
(A)繊維横断面外周上の2点を結ぶ線分の内、最も長い線分を引き、その線分と繊維断面外周との接点をA、Bとする。
(B)線分ABの長さをDとし、AからD/4の距離にある点をA’とし、同じくBからD/4の距離にある点をB’とする。
(C)上記のA’を通り線分ABと垂直な直線と繊維横断面の接点を、A1’およびA2’とする。
(D)上記のB’を通り線分ABと垂直な直線と繊維横断面の接点を、B1’およびB2’とする。
【0072】
(2)繊維断面における配向パラメータの差(I
max−I
min):
測定装置には、愛宕物産製トリプルラマン分光装置T−64000を用いた。測定条件は、次のとおりで実施した。
・測定モード:顕微ラマン(偏光測定)
・対物レンズ:長焦点90倍(NA=0.90)
・ビーム径:51μm、光源:Ar
+レーザー/514.5nm
・レーザーパワー:100mW
・回折格子:Single1800gr/mm
・スリット:100μm
・クロススリット:200μm
・検出器:CCD/Jobin Yvon 1024×256
・積算時間:120秒
スパンボンド不織布から繊維1本を取り出し、繊維断面円周方向に等分割した4点において、繊維側面よりラマンスペクトルをそれぞれ測定した。PPの場合は、各測定点における810cm
−1および840cm
−1のラマンバンドの強度I
810およびI
840を算出し、その比率I
810/I
840を、配向パラメータIとして算出した。また、PEの場合は、1130cm
−1および1060cm
−1のラマンバンドの強度I
1130およびI
1060を算出し、その比率I
1130/I
1060配向パラメータIとして算出した。各測定点における配向パラメータの最大値I
maxと最小値I
minを求め、その差(I
max−I
min)を算出した。スパンボンド不織布の異なる位置から採取した繊維1本に対して同様に測定し、2点の平均を求め、配向パラメータの差とした。
【0073】
本発明における配向パラメータの測定位置について説明する。
図3は、本発明のスパンボンド不織布を構成するポリオレフィン繊維の横断面を例示しており、配向パラメータ測定位置10の一例を示している。
図3の(a)と(b)は本発明における異なる2つの具体的な例を示している。
図3に示す配向パラメータ測定位置10は本発明の配向パラメータを測定する4点の位置を示した一例であり、発明の形態により測定位置は適宜選択することができる。配向パラメータ測定位置10で示す測定位置同士を繊維円周上の等間隔に4点とすることが重要であり、そのような測定位置とすることにより、本発明における配向パラメータの差の算出が可能となる。
【0074】
(3)繊維の捲縮数:
マイクロスコープにより撮影した繊維の画像から、繊維の捲縮数を測定した。単位長さ当たりの繊維の山と谷の数全部数え、その合計を2で割り、25mm当たりの数を捲縮数とした。繊維10本について測定し、その平均を求めた。捲縮数が50個/25mm以上を捲縮度(◎)とし、捲縮数が25個/25mm以上50個/25mm未満を捲縮度(○)とし、捲縮数が0個/25mm(捲縮しないもの)〜25個/25mm未満を捲縮度(×)とした。捲縮数が25個/25mm以上のもの(◎および〇)を、合格とした。
【0075】
(4)スパンボンド不織布の目付:
スパンボンド不織布の目付は、JIS L1913(2010年)の6.2「単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m
2当たりの質量(g/m
2)で表した。
【0076】
(5)スパンボンド不織布の厚さ:
JIS L 1908(2010年)に準拠して、スパンボンド不織布の厚さを測定した。2500mm
2の面積を有するプレッサーフット準備する。プレッサーフットの直径の 1.75 倍以上の大きさの試験片について、一定時間2kPaの圧力を加えた後、厚さを測定する。試験片10枚分の平均値を算出して、その値を厚みとした。この数値が高いほど、嵩高性に優れると評価した。
【0077】
(6)スパンボンド不織布の見掛密度:
測定した上記のスパンボンド不織布の目付と厚さから、スパンボンド不織布の見掛密度を算出した。この数値が低いほど、嵩高性に優れていると評価した。
【0078】
(実施例1)
原料に、メルトフローレート(MFR)が60g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃のポリプロピレン(PP)樹脂を用い、これを押出機で溶融し、紡糸温度235℃で、孔径がφ0.38mmとφ0.27mmで両孔の中心距離が0.8mmの形状を有する紡糸口金(ダンベル型ノズル)から単孔吐出量0.6g/分で、
図1に示された断面形状の長繊維を紡出した。
【0079】
紡出された長繊維群の側面に、相対する2方向から冷却風を当てて冷却した後、エジェクターに通しエジェクター圧力0.17MPaでエジェクターから圧縮エアを噴射させ、繊維群を牽引し、延伸し、捲縮を発現させた。その後、移動するネット上に、糸状を捕集して不織ウェブ化した。引き続き、金属製の水玉柄の彫刻がなされた上ロール、および金属製でフラットな下ロールから構成される上下一対の接着面積10%のエンボスロールを用いて、線圧が20kgf/cm、熱接着温度135℃で熱接着処理し、目付が20g/m
2のスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布を構成する繊維断面の比率A1’A2’/B1’B2’の値、スパンボンド不織布を構成する繊維の繊維断面における配向パラメータの差(I
max−I
min)、捲縮数、不織布の目付、厚みおよび見掛密度を測定した。得られた評価結果を、表1に示す。
【0080】
(実施例2)
原料にMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃であるポリプロピレン(PP)樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表1に示す。
【0081】
(実施例3)
原料にMFRが33g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が149℃である共重合ポリプロピレン(共重合PP)樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表1に示す。
【0082】
(実施例4)
原料にMFRが18g/10分(荷重;2160g、温度;190℃)で、融点が130℃である高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂を用い、エンボスロールの熱接着温度を90℃にしたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表1に示す。
【0083】
(実施例5)
原料の第一成分にMFRが60g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃であるポリプロピレン(PP)樹脂と、第二成分にMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃のポリプロピレン樹脂用い、それぞれ別の押出機で溶融し、各成分の質量比が50:50となるように計量して、第一成分を吐出孔径φ0.38mm側に、第二成分を吐出孔径φ0.27mm側に導入して紡糸したこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表1に示す。
【0084】
(実施例6)
原料の第一成分に原料にMFRが60g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)、融点が162℃であるポリプロピレン(PP)樹脂を用い、第二成分に原料にMFRが33g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が149℃の共重合ポリプロピレン(共重合PP)樹脂を用いたこと以外は、実施例5と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表1に示す。
【0085】
(実施例7)
使用する口金を孔径がφ0.35mmとφ0.32mmで、両孔の中心距離が0.8mmの吐出形状を有する紡糸口金としたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた結果を、表1に示す。
【0086】
(実施例8)
原料にMFRが35g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)で、融点が162℃のポリプロピレン(PP)樹脂と、MFRが25g/10分(荷重;2160g、温度;230℃)の共重合ポリプロピレン(PP)樹脂を、各原原料の質量比率が88:12となるように配合した混合原料を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた結果を表2に示す。
【0087】
(実施例9)
原料にMFRが30g/10分(荷重;2160g、温度;190℃)で、融点が130℃の線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いたこと以外は、実施例4と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた結果を、表2に示す。
【0088】
(実施例10)
繊維群の冷却を自然冷却にしたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた結果を、表2に示す。
【0089】
(比較例1)
使用する口金の吐出孔径を従来公知である丸形形状(吐出孔径φ0.5mm)にしたこと以外は、実施例5と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表2に示す。
【0090】
(比較例2)
使用する口金の吐出孔径を、従来公知である丸形形状(吐出孔径φ0.5mm)にしたこと以外は、実施例6と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表2に示す。
【0091】
(比較例3)
吐出形状が従来公知であるV型の形状の口金から吐出させたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンド不織布を得た。得られた評価結果を、表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
本発明の実施例1〜4および8〜10は、原料が単一成分にもかかわらず、比率A1’A2’/B1’B2’値が1.05以上であることから、繊維横断面に構造差ができることにより繊維が捲縮しており、得られたスパンボンド不織布は嵩高性に非常に優れており、衛生材料の表面部材として非常に好適に用いられるものであった。また、繊維断面の配向パラメータの差が0.6以上と十分な構造差ができており、繊維は捲縮し得られたスパンボンド不織布は嵩高性に非常に優れており、衛生材料の表面部材として非常に好適に用いられるものであった。
【0095】
また、本発明の実施例5および6は、比較例1および2に比較して、繊維横断面に構造差ができることにより捲縮数が多く、スパンボンド不織布の嵩高性に優れており衛生材料の表面部材として非常に好適に用いられるものであった。また、配向パラメータの差が大きく、捲縮数も多く、不織布の嵩高性に優れており衛生材料の表面部材として非常に好適に用いられるものであった。
【0096】
表1の実施例7は実施例1との比較において、比率A1’A2’/B1’B2’値が小さく、得られた繊維の捲縮数と不織布の嵩高性は劣るものの、衛生材料の表面部材として好適に用いられるものであった。また、実施例7は実施例1と対比して、配向パラメータの差が小さく、得られた繊維の捲縮数、スパンボンド不織布の嵩高性が劣るものの、衛生材料の表面部材として好適に用いられるものであった。
【0097】
これに対し、比較例3は異形断面ではあるが、繊維断面構造差はなく捲縮は発現せず、不織布の嵩高性に劣っていた。また、配向パラメータの差はほとんどなく繊維に捲縮は発現せず、スパンボンド不織布の嵩高性に劣っていた。