(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によれば、仕上圧延機出側で計測されたウェッジ量とウェッジ目標値との偏差を修正するフィードバック制御と、前記ウェッジ量から理論式を用いてウェッジを目標値とすべきレベリング修正量を出力する機能とを組み合わせたウェッジ制御を行っている。
【0010】
また、特許文献2によれば、複数の圧延スタンドのうちの最終スタンドの出側での被圧延材のウェッジ比率、および各スタンドの差荷重の差に基づき、複数の圧延スタンドの各々のレベリングの修正量を算出し、定周期でレベリングを修正している。
【0011】
特許文献1及び特許文献2によれば、計測されたウェッジもしくはウェッジ比率に基づいて、定周期で連続的にフィードバッグ出力に基づきレベリングを制御している。レベリングによる制御はウェッジの制御に効果的であるが、ロール間隙が左右非対称となり、スタンド間での蛇行及び片側伸び等の現象を引き起こし、圧延が不安定となりやすい。上述した特許文献にはレベリング制御による不安定な圧延(蛇行や片側伸び)を抑制する方法について記載がなく、改善の余地がある。
【0012】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ウェッジの計測値に基づいてレベリング量を修正するウェッジのダイナミック制御を実施する場合に、被圧延材の蛇行や片側伸びといった圧延が不安定となる現象を少なくし、安定した圧延を実現しつつ、目標とするウェッジを達成できる熱間圧延ラインのウェッジ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的の達成のため、本発明に係る熱間圧延ラインのウェッジ制御装置は以下のように構成される。
【0014】
熱間圧延ラインは、仕上ミルと板プロファイル計測装置を備える。仕上ミルは、被圧延材を連続圧延するN(N≧2)基のスタンドを有する。各スタンドは、レベリング量に基づいて被圧延材のウェッジを制御する制御操作端を有する。板プロファイル計測装置は、仕上ミルの出側に設けられ、被圧延材のウェッジを含む板幅方向の板厚分布を計測する。
【0015】
ウェッジ制御装置は、レベリング量計算部と、トラッキング部と、レベリング操作部とを備える。
【0016】
レベリング量計算部は、被圧延材の製品仕様に基づいて、各スタンドの制御操作端の基準レベリング量ΔS
iSETおよびダイナミック制御用影響係数c
iを計算する。
【0017】
トラッキング部は、被圧延材上に追跡点を設定し、追跡点が板プロファイル計測装置に到達するまでトラッキングする。
【0018】
レベリング操作部は、被圧延材の先端が板プロファイル計測装置を通過後、ダイナミック制御用影響係数c
iに基づき、板プロファイル計測装置により計測されたウェッジと目標値との偏差を0にするための各スタンドのレベリング修正量ΔS
d(i)を計算する。また、レベリング操作部は、追跡点が各スタンドに到達するタイミングにおいて、基準レベリング量ΔS
iSETをレベリング修正量ΔS
d(i)で補正した最終レベリング量ΔS
ref(i)を用いて対象スタンドi(1≦i≦N)の制御操作端を順次制御するダイナミック制御を実施する。
【0019】
これによれば、ダイナミック制御によるレベリングの変更を上流側から順に行なうことで、連続的な変化ではなく、断続的にレベリングを変化させることで、オペレータがレベリングを変更した被圧延材の位置を把握しやすくなる。
【0020】
1つの態様では、レベリング操作部は、ダイナミック制御を実施中に圧延不安定要因が生じた場合に、少なくとも最終スタンドNの前記レベリング修正量ΔS
d(N)を0にする。圧延不安定要因を検知できるタイミングとして、(1)仕上ミル出側における被圧延材の片側伸び検出時、(2)オペレータの介入によるレベリング量変更時、(3)走間板厚変更時、(4)仕上ミルの入側温度分布または入側ウェッジの急峻な変化検出時、が挙げられる。
【0021】
仕上ミル出側における被圧延材の片側伸び発生に対する好ましい態様では、熱間圧延ラインは、仕上ミルの出側に設けられ、被圧延材の片側伸びを計測する平坦度計測装置をさらに備える。さらに、レベリング操作部は、ダイナミック制御を実施中に、被圧延材の片側伸びが生じた場合、かつ、レベリング修正量が片側伸びを悪化させる方向の場合に、少なくとも最終スタンドNのレベリング修正量ΔS
d(N)を0にする。
【0022】
これによれば、最終スタンド出側における片側伸びの発生を検知した場合に、一時的にレベリング修正量による変更をしないことで、被圧延材の片側伸びの悪化を抑制することができる。
【0023】
オペレータの介入によるレベリング量変更に対する好ましい態様では、熱間圧延ラインは、各スタンドの制御操作端に対して、オペレータによるレベリング量の変更操作を可能とする制御操作端介入部をさらに備える。さらに、トラッキング部は、オペレータが変更した対象スタンドiのレベリング量の極性が、レベリング修正量ΔS
d(i)の極性と異なる場合に、対象スタンドiに位置する被圧延材上に新たな追跡点Bを設定する。さらに、レベリング操作部は、ダイナミック制御を実施中に、追跡点Bが設定された場合に、追跡点Bが板プロファイル計測装置に到達するまでの間、対象スタンドiおよびその下流の各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(i+1),…,ΔS
d(N))を0にする。
【0024】
これによれば、オペレータの介入時に、一時的にレベリング修正量による変更をしないことで、ウェッジ制御による蛇行や片側伸びのような圧延が不安定となる現象の発生を抑制することができる。
【0025】
走間板厚変更に対する好ましい態様では、トラッキング部は、仕上ミルの入側上流において、被圧延材の走間板厚変更点に新たな追跡点Cを設定する。さらに、レベリング量計算部は、追跡点Cが設定された場合に、追跡点Cが仕上ミルの入側から板プロファイル計測装置に到達するまでの間、各スタンドの基準レベリング量(ΔS
1SET,…, ΔS
NSET)を制御操作端の現在のレベリング量の実績値とする。さらに、レベリング操作部は、ダイナミック制御を実施中に、追跡点Cが設定された場合に、追跡点Cが仕上ミルの入側から板プロファイル計測装置に到達するまでの間、各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(1),…,ΔS
d(N))を0にする。
【0026】
これによれば、走間板厚変更時における制御操作端のレベリング量の実績値を用いて、一時的にレベリングを制御することで、蛇行や片側伸びのような圧延が不安定となる現象の発生を抑制することができる。
【0027】
仕上ミルの入側温度分布の急峻な変化に対する好ましい態様では、熱間圧延ラインは、仕上ミルの入側に設けられ、被圧延材の入側温度を計測する入側温度計をさらに備える。さらに、トラッキング部は、入側温度の時間変化が温度分布変化閾値より大きい場合に、仕上ミルの入側の被圧延材上に新たな追跡点Dを設定する。さらに、レベリング量計算部は、追跡点Dが設定された場合に、追跡点Dが仕上ミルの入側から板プロファイル計測装置に到達するまでの間、各スタンドの基準レベリング量(ΔS
1SET,…, ΔS
NSET)を制御操作端の現在のレベリング量の実績値とする。さらに、レベリング操作部は、ダイナミック制御を実施中に、追跡点Dが設定された場合に、追跡点Dが仕上ミルの入側から板プロファイル計測装置に到達するまでの間、各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(1),…,ΔS
d(N))を0にする。
【0028】
仕上ミルの入側ウェッジの急峻な変化に対する好ましい態様では、熱間圧延ラインは、仕上ミルの入側に設けられ、被圧延材の入側ウェッジを計測する入側板プロファイル計測装置をさらに備える。さらに、トラッキング部は、入側ウェッジの時間変化がウェッジ変化閾値より大きい場合に、仕上ミルの入側の被圧延材上に新たな追跡点Eを設定する。さらに、レベリング量計算部は、追跡点Eが設定された場合に、追跡点Eが仕上ミルの入側から板プロファイル計測装置に到達するまでの間、各スタンドの基準レベリング量(ΔS
1SET,…, ΔS
NSET)を制御操作端の現在のレベリング量の実績値とする。さらに、レベリング操作部は、ダイナミック制御を実施中に、追跡点Eが設定された場合に、追跡点Eが仕上ミルの入側から板プロファイル計測装置に到達するまでの間、各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(1),…,ΔS
d(N))を0にする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る熱間圧延ラインのウェッジ制御装置によれば、ウェッジの計測値に基づいてレベリング量を修正するウェッジのダイナミック制御を実施する場合に、被圧延材の蛇行や片側伸びといった圧延が不安定となる現象を少なくし、安定した圧延を実現しつつ、目標とするウェッジを達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0032】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について説明する。まず、対象となる熱間圧延ラインの構成について説明する。
【0033】
(熱間圧延ラインの構成)
図4は、本発明の実施の形態1に係る熱間圧延ラインの構成例を示す図である。主な装置として、仕上ミル4a、板プロファイル計測装置(プロファイルゲージ)4b、平坦度計測装置4c、巻取機4d等の設備を備える。
【0034】
仕上ミル4aは、被圧延材4eを連続圧延する複数のスタンド41(圧延スタンド群)を有する。各スタンド41は、レベリング量に基づいて被圧延材4eのウェッジを制御する制御操作端42を有する。制御操作端42はレベリングであり、スタンド41のワークサイドとドライブサイドのロール間隙の差を操作できる制御アクチュエータである。
【0035】
板プロファイル計測装置4bは、仕上ミル4aの出側に設けられ、被圧延材4eのウェッジを含む板幅方向の板厚分布を計測する。平坦度計測装置4cは、仕上ミル4aの出側に設けられ、平坦度を計測し、被圧延材4eの片側伸びの発生を把握できる。巻取機4dは、仕上ミル4aに圧延された被圧延材4eを巻き取る。
【0036】
(ウェッジ制御装置)
図1は、ウェッジ制御装置1の構成図である。ウェッジ制御装置1は、板プロファイル計測装置4bにより計測されたウェッジ量に基づき、各スタンドのレベリング量を上流側から順に変更して、ウェッジ量を所望とする範囲内に制御できる。
【0037】
入力部1fは、被圧延材4eの寸法(目標とするウェッジ幅、各スタンド出側の目標板厚、コイル目標幅)など、ウェッジ制御に必要なデータを、レベリング量計算部1aへ送信する。
【0038】
制御操作端介入部1cは、各スタンドの制御操作端42に対して、オペレータの手動によるレベリング量の変更操作を可能とする。制御操作端介入部1cは、オペレータが入力したレベリング量を、レベリング操作部1bへ送信する。
【0039】
実績収集部1dは、板プロファイル計測装置4bで計測されたウェッジ、各スタンドの制御操作端42のレベリング量などの実績データを収集する。
【0040】
トラッキング部1eは、被圧延材4e上に追跡点を設定し、圧延の進行に伴い移動していく追跡点が板プロファイル計測装置4bに到達するまでトラッキングする。
【0041】
表示部1kは、トラッキング部1eが追跡している被圧延材4e上の追跡点を画面上に表示する。これによりオペレータは、後述するウェッジのダイナミック制御によるレベリングの変更点(追跡点A)、オペレータ介入によるレベリングの変更点(追跡点B)、走間板厚変更点(追跡点C)、仕上ミル入側温度が急峻に変化した点(追跡点D)、入側ウェッジが急峻に変化した点(追跡点E)を把握することができる。
【0042】
レベリング量計算部1aは、入力部1fから受信した被圧延材4eの製品仕様に基づいて、各スタンドの制御操作端42の基準レベリング量およびダイナミック制御用影響係数を計算する。レベリング量計算部1aは、基準レベリング量およびダイナミック制御用影響係数をレベリング操作部1bへ送信する。
【0043】
詳細には、レベリング量計算部1aは、レベリング量決定機能1h、学習計算機能1j、影響係数決定機能1iを備える。
【0044】
レベリング量決定機能1hは、入力部1fからのデータに基づいて、被圧延材4eのウェッジを目標値とするように基準レベリング量を決定する。
【0045】
学習計算機能1jは、実績収集部1dから受信した実績データに基づき、レベリング量の学習値を計算し、レベリング量決定機能1hへ出力する。
【0046】
影響係数決定機能1iは、レベリング操作部1bが良好にウェッジを目標閾値内に制御できるように、レベリング変更量に対するウェッジの変化量を示すダイナミック制御用影響係数を計算する。
【0047】
レベリング操作部1bは、ウェッジのダイナミック制御の開始前において、被圧延材4eが通板する前に、各スタンドの制御操作端42を基準レベリング量に基づき制御しておく。
【0048】
また、レベリング操作部1bは、被圧延材4eが通板した後にダイナミック制御を開始する。具体的には、レベリング操作部1bは、被圧延材4eの先端が板プロファイル計測装置4bを通過後、ダイナミック制御用影響係数に基づき、板プロファイル計測装置4bにより計測されたウェッジと目標値との偏差を0にするための各スタンドのレベリング修正量を計算する。さらにレベリング操作部1bは、追跡点が各スタンドに到達するタイミングにおいて、基準レベリング量をレベリング修正量で補正した最終レベリング量を用いて対象スタンドi(1≦i≦N)の制御操作端42を順次制御するダイナミック制御を実施する。
【0049】
(ウェッジ制御装置の処理:ダイナミック制御開始前)
実施の形態1に係るウェッジ制御装置1における制御操作端の設定計算の流れについて、
図1の各部の処理と合わせて説明する。設定計算とは、圧延機設定諸元のうち、理論的に計算できる部分を数式モデル化して数値計算することをいう。
【0050】
図5は、ダイナミック制御開始前におけるレベリング量決定タイミングを示す図である。
図5に示すように、被圧延材4eの先端が仕上ミル4aに進入する前に、レベリング量計算部1a内の影響係数決定機能1iは、各スタンドのダイナミック制御用影響係数c
iを計算する(式3)。
【0052】
ミル剛性M
i、塑性係数Q
i、各パス出側板厚h
i、目標コイル幅B
Fは、それぞれ入力部1fから入手される。調整係数α
iは、レベリング量計算部1a内部のテーブル値を使用する。
【0053】
また、レベリング量計算部1a内のレベリング量決定機能1hは、被圧延材4eがスタンドに進入する前(通板時)の基準レベリング量を、初期値テーブル値、学習値、もしくは現在値より計算する(式4〜式6)。
【0055】
例えば、ロール交換後の一本目などは初期値を使用する。2本目以降は前回材の学習値、または現在値をそのまま使用することができる。
【0056】
レベリング量計算部1aは、各スタンドの基準レベリング量ΔS
iSETとダイナミック制御用影響係数c
iを、上記レベリング操作部1bへ送信する。レベリング操作部1bは、被圧延材4eが仕上ミル4aに進入する前に、各スタンドの基準レベリング量ΔS
iSETに基づき、制御操作端42のレベリング量を操作する(式7)。
【0058】
(ウェッジ制御装置の処理:ダイナミック制御開始以後)
続いて、ダイナミック制御開始以後の処理ついて説明する。
図6は、ダイナミック制御開始タイミングを示す図である。
図6に示すように、被圧延材4eの先端が板プロファイル計測装置4bを通過してから、ある一定距離LS
mrgを通過した後、ダイナミック制御が開始される。一定距離LS
mrgは、鋼種、圧延材のサイズ(板厚、板幅、長さ)に基づき決定される(式8)。
【0060】
図7は、ダイナミック制御中の処理について説明するための図である。
図7に示すように、ダイナミック制御では、板プロファイル計測装置4bにより計測されたウェッジに基づきレベリングを変更する。はじめに、計測されたウェッジに基づき、レベリング操作部1bは、前段側数スタンドのレベリング修正量ΔS
d(i)を計算する(式9)。
【0062】
上流側スタンドNo.1〜jまでは、計算終了と同時にレベリング量を変更する。変更基準スタンド番号jは、レベリング操作部1bの中で予め決めておく。例えば、5つのスタンドを有する仕上ミル4aであれば、スタンドNo.1もしくはスタンドNo.2を変更基準スタンドとする。
【0063】
トラッキング部1eは、レベリング量の変更が完了した時、スタンドNo.jに位置する被圧延材4e上に追跡点Aを設定する。圧延により追跡点Aは下流側に移動していくので、トラッキング部1eは、随時、この点を追跡する。追跡点AがNo.jより下流に位置する各スタンドNo.j+1〜No.Nに到達した時に、レベリング操作部1bは、当該スタンドのレベリング量を変更する。すなわち、上流側から下流側まで、順番にレベリング量を変更していく。変更された結果、各スタンドの最終レベリング量は式10で表される。式10の左辺は、最終レベリング量であり、右辺第一項は、式9のレベリング修正量ΔS
d(i)、右辺第二項は式7の基準レベリング量である。
【0065】
追跡点Aが板プロファイル計測装置4bに到達するまでは、レベリング修正量ΔS
d(i)は計算しないでおき、追跡点Aが板プロファイル計測装置4bに到達した時、計測されたウェッジに基づき、各スタンドのレベリング修正量ΔS
d(i)を再度計算する。このレベリング修正量ΔS
d(i)を計算する際に必要とする計測時間は、板プロファイル計測装置4bの応答速度による(数msec〜数sec)。このようにして、以下に示すダイナミック制御終了点まで制御を繰り返す。
【0066】
図8は、ダイナミック制御終了タイミングを示す図である。
図8に示すように、被圧延材4eの尾端がスタンドNo.1に到達する一定距離LF
mrg手前でダイナミック制御を終了する。
【0067】
図9は、ウェッジのダイナミック制御の一例を示すタイムチャートである。仕上ミル4aのスタンド数は5(N=5)とする。横軸は時間とタイミングを示し、縦軸に上からウェッジW
40、スタンドNo.1のレベリング量ΔS
ref(1)、スタンドNo.1のレベリング修正量ΔS
d(1)、以下スタンドNo.2〜No.5までのレベリング量とレベリング修正量を示している。
【0068】
まず、設定計算タイミングt1において、レベリング量計算部1aは設定計算により基準レベリング量を決定する。レベリング操作部1bは、決定した基準レベリング量に各スタンドを変更する。時刻t2において、被圧延材4eの先端が板プロファイル計測装置4bに到達すると、ウェッジの計測が開始される。時刻t3において、被圧延材4eの先端が板プロファイル計測装置4bからある一定距離LS
mrg進んだのち、ダイナミック制御が開始される。まず時刻t4において、レベリング操作部1bは、スタンドNo.1とNo.2のレベリング量をレベリング修正量に基づき変更する。そして、トラッキング部1eは、追跡点AをスタンドNo.2の位置に設定する(j=2の場合)。
【0069】
追跡点Aが各スタンド(No.3,No.4,No.5)に到達した時(時刻t5,時刻t6,時刻t7)に、それぞれのスタンドのレベリング修正量に基づき、レベリング量を変更する。時刻t8において、追跡点Aが板プロファイル計測装置4bに到達し、次のレベリング修正量を計算するためウェッジの実績値が収集される。時刻t9において、再び、スタンドNo.1とNo.2のレベリング量をレベリング修正量に基づき変更し、追跡点AをスタンドNo.2の位置に作成する。これらを制御終了まで繰り返すことにより、ウェッジを目標値内に制御することができる。
【0070】
ところで、ウェッジの実測値に基づいてレベリング量を変更するダイナミック制御は、ウェッジの制御に効果的であるが、ロール間隙が左右非対称となり、スタンド間での蛇行及び片側伸び等の現象を引き起こす、圧延を不安定にさせやすい制御でもある。そこで、本実施形態に係るレベリング操作部1bは、ダイナミック制御を実施中に圧延不安定要因が生じた場合に、少なくとも最終スタンドNの前記レベリング修正量ΔS
d(N)を0にする。これにより、最終スタンドNのレベリング量が変更されず(式10)、被圧延材4eの蛇行や片側伸びといった圧延が不安定となる現象を小さくできる。
【0071】
(片側伸び発生時の処理)
平坦度計測装置4cによれば、仕上ミル4aの出側における被圧延材4eの片側伸びを検出できる。片側伸びが発生している状況は、片側伸びを増幅させる方向には制御させないようにすべきである。そこで、レベリング操作部1bは、ダイナミック制御を実施中に、被圧延材4eの片側伸びが生じた場合、かつ、最終スタンドのレベリング修正量ΔS
d(N)が片側伸びを悪化させる方向の場合(式11または式12が成立する場合)に、少なくとも前記最終スタンドNの前記レベリング修正量ΔS
d(N)を0にする(式13)。これにより、最終スタンドNの最終レベリング量ΔS
ref(N)は、レベリング修正量ΔS
d(N)による変更を受けない(式14)。
【0072】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
ここで、
【0073】
図10は、最終スタンド出側で被圧延材の片側伸びを計測した時の制御例を示すタイムチャートである。仕上ミル4aのスタンド数は5(N=5)とする。横軸は時間とタイミングを示し、縦軸に上からウェッジW
40、最終スタンド出側の平坦度計測値AF
act、スタンドNo.1のレベリング量ΔS
ref(1)、スタンドNo.1のレベリング修正量ΔS
d(1)、以下スタンドNo.2〜No.5までのレベリング量とレベリング修正量を示している。
【0074】
時刻t1から時刻t8までの処理については
図9と同様である。時刻t9において、再び、スタンドNo.1とNo.2のレベリング量をレベリング修正量に基づき変更し、追跡点AをスタンドNo.2の位置に作成する。また、平坦度計測装置4cにより被圧延材4eの片側伸びが計測される。この場合、2回目の最終スタンドのレベリングを変更するタイミング(時刻tA)では、レベリング修正量を0とし、レベリングの変更を行わない。
【0075】
以上のように、最終スタンド出側における片側伸びの発生を検知した場合に、一時的にレベリング修正量による変更をしないことで、被圧延材の片側伸びの悪化を抑制することができる。
【0076】
(オペレータ介入時の処理)
各スタンド間において片側伸びが発生、もしくは蛇行することもある。各スタンド間にはセンサがないので、オペレータの目視による確認が必要であり、片側伸びや蛇行を抑制するためのレベリングの手動介入が行われる。このとき、オペレータ介入によるレベリング量変更によって圧延が不安定となる現象を防止すべきである。
【0077】
図11は、オペレータ介入時の処理を説明するための図である。レベリング操作部1bは、制御操作端介入部1cから入力されたレベリング量に基づき対象スタンドiのレベリング量を変更する。トラッキング部1eは、オペレータが変更した対象スタンドiのレベリング量の極性が、レベリング修正量ΔS
d(i)の極性と異なる場合(式15または式16が成立する場合)に、対象スタンドiに位置する被圧延材4e上に新たな追跡点Bを設定する。また、トラッキング部1eは追跡点Aを消去する。さらに、レベリング操作部1bは、ダイナミック制御を実施中に、追跡点Bが設定された場合に、追跡点Bが板プロファイル計測装置4bに到達するまでの間、対象スタンドiおよびその下流の各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(i+1),…,ΔS
d(N))を0にする。追跡点Bが板プロファイル計測装置4bに到達した後、ウェッジ計測値に基づき、ウェッジ制御変更量を計算し、新たに追跡点Aを作成する。
【0079】
これによれば、オペレータの介入時に、一時的にレベリング修正量による変更をしないことで、ウェッジ制御による蛇行や片側伸びのような圧延が不安定となる現象の発生を抑制することができる。
【0080】
図12は、オペレータ介入時の制御例を示すタイムチャートである。仕上ミル4aのスタンド数は5(N=5)とする。横軸は時間とタイミングを示し、縦軸に上からウェッジW
40、スタンドNo.1のレベリング量ΔS
ref(1)、スタンドNo.1のレベリング修正量ΔS
d(1)、スタンドNo.2のレベリング量ΔS
ref(2)、スタンドNo.2のレベリング修正量ΔS
d(2)、スタンドNo.2のオペレータによるレベリング修正量ΔS
O(2)以下スタンドNo.3〜No.5までのレベリング量とレベリング修正量を示している。
【0081】
図12には、1回目のレベリング制御によるレベリング量の変更にあたり、スタンドNo.1およびNo.2のレベリング量を変更した後、オペレータがスタンドNo.2のレベリング量に介入している場合が示されている。時刻t1から時刻t4までの処理については
図9と同様である。時刻tBにおいて、オペレータがスタンドNo.2のレベリング量に介入した際、トラッキング部1eは、追跡点BをスタンドNo.2に生成し、追跡点Aを消去する。さらに、レベリング操作部1bは、スタンドNo.2およびその下流の各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(2),…,ΔS
d(5))を0にする。これによれば、オペレータの介入した点が、板プロファイル計測装置4bに到達するまでレベリングの変更が行われず、レベリング変更に伴う不安定性の発生を防止することができる。
【0082】
(学習計算)
図13は、学習計算タイミングを示す図である。学習計算機能1jは、被圧延材4eの先端が、板プロファイル計測装置4bを通過してから一定距離LL
mrg進んだ時に、実績収集部1dが収集したウェッジとレベリング量の実績値に基づいて、学習値を計算する。まず、実績ウェッジから必要レベリング修正量を以下の式18を用いて算出する。ここで、χは、評価基準点の位置で、板幅方向端部からの距離[mm]で示す(通常はχ=40mm)。
【0084】
学習値は、上記必要レベリング修正量とオペレータが入力したレベリングの総量、および分配係数に基づき、各スタンドのレベリング量の補正量として割り振る(式19)。
【0086】
以下に示すように学習値の更新を行なう。ここで、β
LVLiは更新ゲインで、学習計算機能1jの中で予め決めておく。
【0088】
更新した学習値は、上述の式5に示すように、レベリング量決定機能1hが、次材が通板する前に通板時のレベリング量として決定する。
【0089】
実施の形態2.
次に、
図1、
図4、
図14を参照して本発明の実施の形態2について説明する。
【0090】
(走間板厚変更)
図4を参照して、熱間圧延ラインにおける走間板厚変更について説明する。
図4の熱間圧延ラインでは、1つの被圧延材4eに対して複数の目標板厚を設定して、圧延中に目標板厚を変更することで異なる板厚を持つ部分を作成する走間板厚変更を実施できる。
【0091】
ここで、異なる目標板厚を2つ以上持つ場合、先に圧延される目標板厚を持つ部分を先行部、後に圧延される目標板厚を持つ部分を後行部と呼ぶことにする。
図4に示す先行部4gは、仕上ミル4aの圧延スタンド群によって圧延されている。変更点4fは、先行部4gと後行部4hの境目のあたりで、変更点4fの位置は、製品コイルの寸法から決められている。圧延は連続的に行われており、この変更点4fは上流から下流側へと移動していく。変更点4fは随時トラッキングされている。
【0092】
変更点4fが各スタンドに到達する直前に、仕上ミル4aの各スタンドのロールギャップを変更することで、仕上ミル4aの最終スタンド出側において製品の板厚が異なる部分を作成できる。
【0093】
尚、巻取機前シャー4iを有するミルにおいては、変更点4fが巻取機前シャー4iに到達した時に先行部4gから切断し、後行部4hは、先行部4gが巻取られている巻取機4dとは別の巻取機に巻取られることで、板厚の異なる複数のコイルを作成することもできる。
【0094】
(走間板厚変更時の処理)
上述の走間板厚変更では、変更点4fにおいてロールギャップが大きく変更され、板厚スケジュールが変更される。そのため、片側伸びや板の蛇行などが発生し、圧延が不安定になりやすい。そこで、実施の形態2に係るウェッジ制御装置1では、走間板厚変更時は、仕上ミル4aの入側から一定距離前に到達した時に、ダイナミック制御をホールドして、一時的に、各スタンドのレベリング量を変更しないこととした。
【0095】
図14は、本発明の実施の形態2に係る走間板厚変更時の処理を説明するための図である。
図1のトラッキング部1eは、仕上ミル4aの入側上流において、被圧延材4eの走間板厚変更点に新たな追跡点Cを設定する。走間板厚変更点は、走間板厚変更を行うポイントであり、材料の寸法から決められる。トラッキング部1eは、圧延開始前からその点を追跡する。
【0096】
また、実績保持部1gは、走間板厚変更点が仕上ミル4aの入側から一定距離前に到達した時、実績収集部1dが収集した各制御操作端42の現在のレベリング量の実績値と共に、レベリング量計算部1aにレベリング量を変更しないように指令する。
【0097】
レベリング量計算部1aは、追跡点Cが設定された場合に、追跡点Cが仕上ミル4aの入側から板プロファイル計測装置4bに到達するまでの間、各スタンドの基準レベリング量(ΔS
1SET,…, ΔS
NSET)を制御操作端の現在のレベリング量の実績値とする(式6)。レベリング量計算部1aは、ダイナミック制御用影響係数のみ式3に基づいて変更する。追跡点Cが通過するまではダイナミック制御がホールドされ、追跡点Cが板プロファイル計測装置4bに到達した時、ダイナミック制御を開始する。
【0098】
レベリング操作部1bは、ダイナミック制御を実施中に、追跡点Cが設定された場合に、追跡点Cが仕上ミル4aの入側から板プロファイル計測装置4bに到達するまでの間、各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(1),…,ΔS
d(N))を0にする。
【0099】
このように、走間板厚変更点(新たな追跡点C)を追跡し、追跡点Cが最上流に位置する圧延スタンドに進入する前から、板プロファイル計測装置4bを通過するまでの間、各スタンドのレベリング量を変更しないことにより、レベリング変更による圧延不安定性を防止することができる。
【0100】
ところで、上述した実施の形態2のウェッジ制御装置1は、単に走間板厚変更時の処理を備えた構成でもよいし、実施の形態1で説明した片側伸び発生時の処理およびオペレータ介入時の処理をさらに備えた構成であってもよい。
【0101】
実施の形態3.
次に、
図1、
図15を参照して本発明の実施の形態3について説明する。
【0102】
図15は、本発明の実施の形態3に係る熱間圧延ラインの構成例を示す図である。
図15に示すシステム構成は、入側温度計15a、入側板プロファイル計測装置15bが追加されている点を除き、
図4と同様である。
【0103】
入側温度計15aは、仕上ミル4aの入側に設けられ、被圧延材4eの入側温度を計測する。入側板プロファイル計測装置15bは、仕上ミル4aの入側に設けられ、被圧延材4eの入側ウェッジを計測する。
【0104】
(仕上ミルの入側温度分布または入側ウェッジが急峻に変化した場合の処理)
仕上ミル4aの入側温度分布または入側ウェッジが急峻に変化することは、圧延が不安定になる要因である。そこで、実施の形態3では、以下の条件(式22または式23)が成り立つ場合に、仕上ミル4aの入側から一定距離前に到達した時に、ダイナミック制御をホールドして、一時的に、各スタンドのレベリング量を変更しないこととした。
【0106】
図1のトラッキング部1eは、入側温度の時間変化が温度分布変化閾値より大きい場合(式22)に、仕上ミル4aの入側の被圧延材4e上に新たな追跡点Dを設定する。また、トラッキング部1eは、入側ウェッジの時間変化がウェッジ変化閾値より大きい場合(式23)に、仕上ミル4aの入側の被圧延材4e上に新たな追跡点Eを設定する。
【0107】
また、実績保持部1gは、追跡点Dまたは追跡点Eが設定された時、実績収集部1dが収集した各制御操作端42の現在のレベリング量の実績値と共に、レベリング量計算部1aにレベリング量を変更しないように指令する。
【0108】
レベリング量計算部1aは、追跡点D(または追跡点E)が設定された場合に、追跡点D(または追跡点E)が仕上ミル4aの入側から板プロファイル計測装置4bに到達するまでの間、各スタンドの基準レベリング量(ΔS
1SET,…, ΔS
NSET)を制御操作端の現在のレベリング量の実績値とする(式6)。レベリング量計算部1aは、ダイナミック制御用影響係数のみ式3に基づいて変更する。追跡点D(または追跡点E)が通過するまではダイナミック制御がホールドされ、追跡点D(または追跡点E)が板プロファイル計測装置4bに到達した時、ダイナミック制御を開始する。
【0109】
レベリング操作部1bは、ダイナミック制御を実施中に、追跡点D(または追跡点E)が設定された場合に、追跡点D(または追跡点E)が仕上ミル4aの入側から板プロファイル計測装置4bに到達するまでの間、各スタンドのレベリング修正量(ΔS
d(1),…,ΔS
d(N))を0にする。
【0110】
このように、仕上ミル4aの入側において被圧延材4eの温度もしくはウェッジが急峻に変化している場合に、新たな追跡点を設定し、追跡点が最上流に位置する圧延スタンドに進入する前から、板プロファイル計測装置4bを通過するまでの間、各スタンドのレベリング量を変更しないことにより、レベリング変更による圧延不安定性を防止することができる。
【0111】
ところで、上述した実施の形態3のウェッジ制御装置は、単に仕上ミルの入側温度分布または入側ウェッジが急峻に変化した場合の処理を備えた構成でもよいし、実施の形態1で説明した片側伸び発生時の処理およびオペレータ介入時の処理をさらに備えた構成であってもよい。また、実施の形態2で説明した走間板厚変更時の処理をさらに備えた構成であってもよい。
【0112】
(ハードウェア構成例)
図16は、各実施の形態のウェッジ制御装置1が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。上述した各部の機能は処理回路により実現される。一態様として、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0113】
処理回路がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0114】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0115】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。