(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも支持体(A)と感光性樹脂層(B)と感熱マスク層(C)が順次積層されてなるフレキソ印刷原版より得られるフレキソ印刷版であって、感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物が、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)を含み、感光性樹脂組成物中の数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)の含有量が7〜13質量%であり、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量が2.5〜9質量%であること、網点の複合弾性率が35〜80MPaであり、かつベタ部分の複合弾性率が5〜15MPaであること、及びフレキソ印刷原版が、感光性樹脂層(B)と感熱マスク層(C)の間に、酸素バリヤ層(D)を有することを特徴とするフレキソ印刷版。
感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の質量と数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)の質量との比率が0.20〜0.55の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷版。
(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(ii)をさらに含み、感光性樹脂組成物中の数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(ii)の含有量が5〜25質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキソ印刷版。
(c)光重合開始剤が、ベンジルアルキルケタール系とベンゾフェノン系の2種類の化合物を含み、ベンジルアルキルケタール系化合物とベンゾフェノン系化合物の質量比が99:1〜80:20の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフレキソ印刷版。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、版材の凸部にインキを乗せ、版材を基材へ押し当てることでインキを版材から基材へ転写させる印刷方式である。フレキソ印刷に用いる版材は比較的柔軟であり、種々の形状に追従可能であることから、幅広い基材への印刷が可能である。基材としては、包装フィルムやラベル紙、飲料用カートン、紙器、封筒、ダンボール等が挙げられ、なかでも表面の粗い基材には専らフレキソ印刷が用いられている。また、フレキソ印刷は、VOC排出量が少ない水性やアルコール性インキを用いることができ、環境適応性が高い印刷方式である。これらの基材適応性や環境適応性といった利点により、グラビア印刷やオフセット印刷からフレキソ印刷への移行が進んでいる。
【0003】
しかし、フレキソ印刷は比較的柔軟な版材を基材へ押し当てて印刷するため、押し当てた際に版材が変形を起こし、版材のドットサイズよりも印刷されるドットが太る現象(ドットゲイン)が起きる。このドットゲインは、網点が微小になるほど、押し圧による版ドットの変形が大きくなり、顕著に発生する。版材が硬質であるグラビア印刷やオフセット印刷に比べ、フレキソ印刷では明らかに大きなドットゲインが起きる。押し圧を下げることで微小網点のドットゲインを低減させることができるが、この場合、ベタ部分のインク転写が不十分となり、ベタ部分にカスレなどの著しい品質不良が発生する。
【0004】
従来、ドットゲインを低減させる方法として、網点のダイナミック硬さを高める方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1は、感光性樹脂層に多官能架橋モノマーを配合し、架橋密度を高めることで網点のダイナミック硬さを向上させている。しかし、このようにして架橋密度を高めた場合、版材全体が硬質化し、ベタ部分のインク乗りが不十分となる問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、網点のダイナミック硬さとベタ部分のダイナミック硬さの両立を図った方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2では、感光性樹脂層に用いる架橋剤の化学構造に着眼し、2個以上のメタクリレート基もしくはアクリレート基を持ちメタクリレート基が50%以上である架橋剤を用いることが提案されている。しかし、この方法では、網点/ベタ部分のダイナミック硬度比は0.6〜1.0の範囲であり、つまりベタ部分は網点部分よりも硬くなっており、微小網点のドットゲインの低減とベタ部分の十分なインク乗りの両方を達成できるものにはなっていない。
【0006】
この他に、網点表面と内部のダイナミック硬度の両立を図った方法が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3は、感光性樹脂層に1,2−ブタジエン骨格を有する架橋基を持たない共役ジエンオリゴマーを配合することを特徴とし、架橋基を持たない材料を使うことで内部のダイナミック硬さを低下させ、版材の装着性を改善させている。しかし、この方法では、内部のダイナミック硬さは低下できてもベタ部分のダイナミック硬さを低下させることはできず、ベタ部分のインク乗りが不十分であり、また架橋基を持たない材料を配合することで微小網点の硬さが低下し、微小網点のドットゲインが起きる問題がある。
【0007】
一方、一般的なフレキソ印刷版の例示として、特許文献4が挙げられる。特許文献4のフレキソ印刷版の感光性樹脂層は、(A)水分散ラテックスから得られる疎水性重合体、(B)親水性重合体、(C)光重合性不飽和化合物、(D)光重合開始剤からなり、(C)光重合性不飽和化合物に(C−1)水酸基非含有光重合性オリゴマー、(C−2)水酸基含有光重合性モノマー、(C−3)水酸基非含有光重合性モノマーを用いることを特徴とする。特許文献4の実施例のフレキソ印刷版は、印刷カスレや耐刷性に改善があるものの、微小網点のドットゲインの低減とベタ部分の十分なインク乗りを両立させることはできていない。
【0008】
従って、微小網点のドットゲインの低減とベタ部分の十分なインク乗りを両立させることができるフレキソ印刷版が強く求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフレキソ印刷版は、少なくとも支持体(A)と感光性樹脂層(B)と感熱マスク層(C)が順次積層されてなるフレキソ印刷原版より得られる印刷版であり、具体的には、かかるフレキソ印刷原版を露光して現像することによって得られる印刷版であり、網点の複合弾性率を特定の値になるように高くし、且つベタ部分の複合弾性率を特定の値になるように低くしたことを特徴とする。このように網点とベタ部分の複合弾性率を構成することにより、微小網点のドットゲインの防止とベタ部分における十分なインク乗りの両方を達成することができる。
【0015】
フレキソ印刷原版に使用される支持体(A)は、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を使用することができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定化あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から、50〜350μm、好ましくは100〜250μmが望ましい。また、必要により、支持体(A)と感光性樹脂層(B)との接着性を向上させるために、それらの間に接着剤を設けても良い。
【0016】
フレキソ印刷原版に使用される感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物は、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、さらに必要により可塑剤、親水性化合物、紫外線吸収剤、表面張力調整剤、熱重合防止剤、染料、顔料、香料、又は酸化防止剤などの添加剤を含むものである。特に、本発明では、感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物において(b)エチレン性不飽和化合物の組成を工夫したこと、そして(c)光重合開始剤を従来の実際の使用量より多い質量割合で使用することを特徴とする。
【0017】
(a)共役ジエンを重合して得られるポリマーとしては、印刷原版に使用される従来公知の合成高分子化合物を使用することができる。具体的には、共役ジエン系炭化水素を重合して得られる重合体、又は共役ジエン系炭化水素とモノオレフィン系不飽和化合物とを共重合して得られる共重合体が挙げられる。例えば、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン−スチレン共重合体等が挙げられる。これらの中でもフレキソ印刷版としての特性、すなわち版面の反発弾性、強伸度物性、樹脂版硬度、及び未露光時の形態安定性、または入手性等の観点から、ブタジエン重合体が好ましく用いられる。これらのポリマーは1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物中の(a)成分の割合は、40〜70質量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
(b)エチレン性不飽和化合物としては、印刷原版に使用される従来公知のものを使用することができるが、数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(以下、単に低分子量の(メタ)アクリレート化合物とも言う)(i)を含むことが好ましく、さらに、それに加えて数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(以下、単に高分子量の(メタ)アクリレート化合物とも言う)(ii)を含むことが好ましい。ここで、低分子量の(メタ)アクリレート化合物は光重合開始剤により架橋硬化して密な架橋ネットワークを形成するものであり、高分子量の(メタ)アクリレート化合物は光重合開始剤により架橋硬化してゆるやかな架橋ネットワークを形成するものである。前者は、数平均分子量200以上500以下がさらに好ましく、後者は、数平均分子量2000以上10000以下がさらに好ましい。上記のように低分子量の(メタ)アクリレート化合物だけでなく、高分子量の(メタ)アクリレート化合物を配合させることで、(c)光重合開始剤を従来より多量に配合した場合でも独立点の再現性や、印刷時の耐久性が損なわれない効果を有する。これは、高分子量(メタ)アクリレート化合物の一定割合の含有により版の強靭性が高まるためと考えられる。感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物中の(b)成分の割合は、10〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0019】
感光性樹脂組成物中の上記の高分子量の(メタ)アクリレート化合物の含有量は、5〜25質量%が好ましく、更に好ましくは8〜20質量%である。この含有量が上記範囲未満では、(c)光重合開始剤を多量に配合したときに耐久性が低下しやすく、上記範囲を越えると、ベタ部分の複合弾性率が高くなりやすい。また、感光性樹脂組成物中の上記の低分子量の(メタ)アクリレート化合物の含有量は、5〜16質量%が好ましく、更に好ましくは7〜13質量%である。低分子量(メタ)アクリレート化合物を上記の範囲で含有させることで、網点の複合弾性率の選択的な向上効果が大きくなるが、含有量が上記範囲未満では、網点の複合弾性率の選択的な向上効果が不十分であり、上記範囲を越えると、ベタ部分の複合弾性率が高くなりやすい。
【0020】
低分子量の(メタ)アクリレート化合物としては、数平均分子量が100以上600以下の範囲内であれば特に制限されるものでなく、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、ノナン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチル,2−ブチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ECH変性アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の単官能モノマーが挙げられる。また、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチルプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ECH変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、EO(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の多官能モノマー等も挙げられる。これらの化合物は1種のみを単独で使用してもよく、目的とする樹脂物性を持たせるために2種以上併用してもよい。
【0021】
高分子量の(メタ)アクリレート化合物としては、数平均分子量が600超20000以下の範囲内であれば特に制限されるものでなく、例えば、ブタジエンオリゴマーやイソプレンオリゴマーに(メタ)アクリレート基を付与したものや、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの化合物は1種のみを単独で使用してもよく、目的とする樹脂物性を持たせるために2種以上併用してもよい。
【0022】
(c)光重合開始剤の質量と低分子量の(メタ)アクリレート化合物(i)の質量との比率[(光重合開始剤の質量)/(低分子量の(メタ)アクリレート化合物の質量)]は、0.20〜0.55であることが好ましい。より好ましくは0.22〜0.50、更に好ましくは0.25〜0.45である。このような比率とすることにより、網点の複合弾性率を十分に満足することができる。この比率が上記範囲未満では、光重合開始剤が少なすぎて、網点の複合弾性率の選択的な向上効果が小さくなり、上記範囲を越えると、(メタ)アクリレートに対して光重合開始剤が多すぎて、架橋反応する(メタ)アクリレート量が不十分となるおそれがあり、この場合も網点の複合弾性率の選択的な向上効果が小さくなりやすい。
【0023】
(c)光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−アリルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0024】
(c)光重合開始剤は、ベンジルアルキルケタール系とベンゾフェノン系の2種類からなる化合物を含むことが好ましく、さらにベンジルアルキルケタール系化合物とベンゾフェノン系化合物の質量比が99:1〜80:20、さらには97:3〜85:15の範囲にあることが好ましい。光重合開始剤は固有の光吸収スペクトルを持つことから、2種類の光重合開始剤を併用することで、後述する後露光、及び殺菌灯による露光の光エネルギーを無駄なく使用できる。特に、ベンジルアルキルケタール系とベンゾフェノン系の2種類の光重合開始剤を併用することにより、網点の複合弾性率をさらに選択的に向上させることができる。ベンジルアルキルケタール系としては、ベンジルジメチルケタールが好ましく、ベンゾフェノン系としては、ベンゾフェノンが好ましい。特にベンゾフェノンは、主露光で用いるランプ(ピーク波長370nm)に対しては光吸収をもたず、殺菌灯のランプ(ピーク波長250nm)に対して光吸収を持つため、主露光でベタ部分の複合弾性率を高めることなく、殺菌灯による露光でのみ網点の複合弾性率を選択的に高めることができる。
【0025】
本発明では、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量は、好ましくは2〜9質量%、より好ましくは2.5〜7.5質量%、さらに好ましくは3〜7質量%である。このように光重合開始剤の含有量を従来の使用量より多量に配合することにより、ベタ部分の複合弾性率を変えずに、網点の複合弾性率を選択的に高めることに寄与することができる。従来は、光重合開始剤の含有量を多くすると、反応後の光重合開始剤の光吸収により版の厚み方向の光到達が遮られ、独立点の再現性が低下する問題や、印刷時の耐久性が低下する問題が起きると考えられていた。そのため、従来は、感光性樹脂組成物中の光重合開始剤の含有量としては、通常、最大でも1質量%程度しか実使用では採用されていなかった。これに対して、本発明では、高分子量の(メタ)アクリレート化合物を感光性樹脂組成物中に一定割合で含有させることによって、版の強靱性を高めることができ、光重合開始剤を多量に配合した場合の上述の従来の欠点(独立点の再現性の低下や、印刷時の耐久性の低下)を克服したうえで、光重合開始剤の含有量の増加による利点(網点の複合弾性率の選択的な向上)を享受することが可能となった。
【0026】
フレキソ印刷原版に使用される感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物は、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤の他に、必要により可塑剤、親水性化合物、紫外線吸収剤、表面張力調整剤、熱重合防止剤、染料、顔料、香料、又は酸化防止剤などの添加剤を含むものである。
【0027】
可塑剤は、感光性樹脂層(B)に柔軟性を付与するものであり、可塑剤としては、液状ゴム、オイル、ポリエステル、リン酸系化合物などを挙げることができる。液状ゴムとしては、例えば液状のポリブタジエン、液状のポリイソプレン、あるいは、これらに水酸基やカルボキシル基を付与したものなどを挙げることができる。オイルとしては、パラフィン、ナフテン、アロマなどを挙げることができる。ポリエステルとしては、アジピン酸系ポリエステルなどを挙げることができる。リン酸系化合物としては、リン酸エステルなどを挙げることができる。この中でも、共役ジエンを重合して得られるポリマーとの相溶性の観点より液状のポリブタジエン、水酸基やカルボキシル基を付与した液状ポリブタジエンが好ましい。水系の現像液で現像する場合は、水酸基やカルボキシル基を付与した液状ポリブタジエンが特に好ましい。感光性樹脂組成物中の可塑剤の含有量は5〜15質量%であることが好ましい。
【0028】
親水性化合物は、感光性樹脂層(B)の水系現像液での現像性を高めるものである。親水性化合物としては、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、水酸基、アミノ基、リン酸基、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどの親水基を有するアクリル重合体、ウレタン重合体、ポリアミド重合体、ポリエステル重合体が挙げられる。また、公知の界面活性剤も使用することができる。この中でも、水系現像液での現像性の観点よりカルボン酸塩を有するウレタン重合体が好ましい。感光性樹脂組成物中の親水性化合物の含有量は1〜15質量%であることが好ましい。
【0029】
表面張力調整剤は、印刷版の表面張力を調整するものであり、印刷版の表面張力を調整することで、インク転移性や印刷版へのインク詰まりを調整することができる。表面張力調整剤としては、パラフィンオイル、長鎖アルキル化合物、界面活性剤、脂肪酸アミド、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フッ素化合物、変性フッ素化合物などが挙げられる。感光性樹脂組成物中の表面張力調整剤の含有量は0.1〜2質量%であることが好ましい。
【0030】
紫外線吸収剤は、感光性樹脂層(B)の露光ラチチュードを高めるものであり、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系、金属錯塩系、ヒンダートアミン系、アントラキノン系、アゾ系、クマリン系、フラン系の化合物が挙げられる。この中でも、入手性や露光ラチチュードの観点よりベンゾトリアゾール系が好ましい。感光性樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は0.005〜0.1質量%であることが好ましい。
【0031】
通常、フレキソ印刷原版からフレキソ印刷版を製造する際には、裏露光、主露光、後露光、及び殺菌灯での露光という四種類の露光が行なわれる。裏露光は、支持体側から全面に光照射し、印刷版にフロア部分を形成させるためのものである。主露光は、マスクを介してフレキソ印刷原版を像様に光照射し、光照射された部分の感光性樹脂層中の不飽和化合物を架橋硬化させて像となる部分を形成させるためのものである。後露光は、主露光後の版を現像して網点部分の凸やベタ部分が形成された後の版を全面光照射するものであり、主露光での架橋硬化を補完するとともに、網点部分の凸の側面を架橋硬化させるためのものである。殺菌灯による露光は、版の表面粘着性を除去するために行われるものであるが、後露光と同様に網点の側面を架橋硬化させる役割も一部有する。なお、通常、主露光及び後露光はUVAを使用して行なわれるのに対して、殺菌灯による露光はUVCを使用して行なわれる。
【0032】
このような後露光及び殺菌灯での露光による網点の側面の硬化は、従来のものでもある程度は生じている。ただし、後露光及び殺菌灯での露光は通常、大気下で行なうため、大気中の酸素による重合阻害が起きる。このため、従来は、後露光及び殺菌灯での露光による網点の側面の硬化の程度は、あまり大きくなかった。これに対して、本発明では、従来より多量の光重合開始剤を配合することによって、酸素による重合阻害の影響を十分抑制して、網点の側面を十分に硬化させることができ、網点の複合弾性率を有意に向上させることができる。なお、ベタ部分には側面がないため、ベタ部分の複合弾性率は後露光及び殺菌灯による露光の前後で大きく変化しない。本発明では、網点がベタ部分よりも複合弾性率が高くなっているが、その理由は、網点の側面の硬化を十分なものにしたため、側面により網点の変形が抑えられて網点がベタ部分よりも複合弾性率が高くなったものと推測される。
【0033】
光重合開始剤の含有量が上記の好ましい範囲未満では、後露光及び殺菌灯による露光での網点の複合弾性率向上効果が少なく、網点複合弾性率が本発明で規定する範囲より低く、微小網点でのドットゲインが起きる傾向がある。一方、光重合開始剤の含有量が上記の好ましい範囲を越えると、主露光時の硬化が進んでベタ部分の複合弾性率が高くなりすぎ、ベタ部分のインク乗りが劣る傾向がある。
【0034】
フレキソ印刷原版に使用される感熱マスク層(C)は、印刷原版に使用されるものを使用することができるが、例えば赤外線レーザーを吸収して熱に変換する機能と紫外光を遮断する機能を有する材料であるカーボンブラックと、その分散バインダーと、被膜形成可能なバインダーポリマーとから構成されるものであることが好ましい。分散バインダーと被膜形成可能なバインダーポリマーとは、兼用することもできる。また、これら以外の任意成分として、顔料分散剤、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0035】
本発明のフレキソ印刷原版に使用される感熱マスク層(C)は、水現像性であることが好ましい。具体的な感熱マスク層(C)としては、極性基含有ポリアミドとブチラール樹脂とを組合せた感熱マスク層(特許第4200510号)、感光性樹脂層中のポリマーと同じ構造を持つポリマーとアクリル樹脂とを含有する感熱マスク層(特許第5710961号)、アニオン性ポリマーと側鎖にエステル結合を有するケン化度が0%以上90%以下のポリマーとを含有する感熱マスク層(特許第5525074号)などが挙げられる。
【0036】
本発明のフレキソ印刷原版は、感光性樹脂層(B)と感熱マスク層(C)との間に酸素バリヤ層(D)を設けることが好ましい。酸素バリヤ層(D)を設けることにより、主露光時の酸素重合阻害が抑制され、網点部、ベタ部分とも十分な硬化反応が起こる。これにより、網点部は印刷に適したフラットトップが形成される。フラットトップとなることで微小網点の印刷ドットゲインが改善される。また、ベタ部分は表面が平滑になり、ベタ部分のインク乗りが改善する。バリヤ層中のバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロース、セルロース系ポリマー、ポリアミドが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。酸素バリヤ性の点で好ましいバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、ポリアミドである。酸素バリヤ性が好ましい範囲にあるバインダーポリマーを選択することで画像再現性を好適に制御することができる。
【0037】
バリヤ層の層厚としては、0.2μm〜3.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.2μm〜1.5μmの範囲である。層厚が上記範囲未満になると、酸素バリヤ性が不十分であり、レリーフの版面に荒れが生じるおそれがある。上記範囲を越えると、細線再現不良が起こるおそれがある。
【0038】
本発明のフレキソ印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
まず、感熱マスク層(C)のカーボンブラック以外のバインダー等の成分を適当な溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、このような分散液を感熱マスク層用支持体(例えばポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布して、溶媒を蒸発させる。その後、酸素バリヤ層(D)成分を上塗りし、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に、支持体(A)上に塗工により感光性樹脂層(B)を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層(B)が酸素バリヤ層(D)に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0039】
上記のように製造したフレキソ印刷原版からフレキソ印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムをフレキソ印刷原版から除去する。その後、感熱マスク層(C)をIRレーザにより画像様に照射して、感光性樹脂層(B)上にマスクを形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0040】
画像情報を感熱マスク層(C)に書き込んだ後、フレキソ印刷原版に像様のマスクを介して活性光線を全面照射する(主露光)。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザ装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり、一般的である。活性光線としては、330〜380nmの波長に発光ピークを有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は現像され、後露光され、さらに殺菌灯により露光されて、フレキソ印刷版を得る。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができる。
【0041】
上記のようにして得られたフレキソ印刷版は、網点の複合弾性率が30〜80MPa、さらには35〜75MPa、さらには40〜70MPaであり、ベタ部分の複合弾性率が5〜15MPa、さらには6〜14MPa、さらには7〜13MPaであることができる。これらの網点、ベタ部分の複合弾性率により、本発明のフレキソ印刷版は、微小網点のドットゲインの低減とベタ部分の十分なインク乗りの両方を達成することができる。
【0042】
本発明における複合弾性率はBruker社製のナノインデンテーション装置Hysitron TI Premierを用いて、下記測定条件に従って測定した。装置の校正は石英にて行い、69.6±5%GPaの値になるような条件下で測定した。
圧子:バーコビッチ型 ダイヤモンド圧子 先端開き角142.3°
最大押し込み深さ:4500nm
負荷速度、除荷速度:4500nm/sec
保持時間:0sec
Feedback Mode:Displ.Control
なお、特許文献1〜3で使用されているダイナミック硬度測定器DUH−201の最小試験力は100μNであるが、TI Premierの最小試験力は75nNであり、TI Premierは高精度な測定が可能である。かかる応力感知精度の相違のため、TI Premierは、特許文献1〜3で使用されている測定器よりも高精度な測定が可能である。
【0043】
複合弾性率の測定に用いる印刷版は以下の条件で製版した。裏露光、主露光、後露光はPhilips社のTL−K 40W/10Rランプ(ピーク波長370nm、350nmの照度が10mW/cm
2)を使用した。殺菌灯はパナソニック社製 殺菌ランプ GL−40(ピーク波長250nm、250nmの照度が4.5mW/cm
2)を使用した。感熱マスク層のイメージングにはエスコグラフィック社製CDI 4850を用いて4000dpiの解像度で行った。評価画像は少なくとも175線で0%〜10%網点で0.3%刻みの網点と、ベタ画像を持つ画像とした。裏露光量はレリーフ深度が0.6mmとなる時間に調整し、主露光量は印刷版上で1%網点(直径16μm)が再現する時間に調整した。現像、乾燥工程を経たのち、後露光を7分、最後に殺菌灯を5分照射し、印刷版を得た。
【0044】
上記製版条件で製版した印刷版から、網点直径が25μmである箇所を切り出し、網点の複合弾性率を測定した。切り出した印刷版は25℃、65%RHの環境下に24時間保存し、その後で複合弾性率の測定を行った。まず、網点の中央に圧子が降下するように位置を調整し、圧子を試料に押し込み、荷重一変位曲線を測定した。得られた荷重−変位曲線から、以下の式より網点の複合弾性率を算出した。ここでErは複合弾性率、Sは接触剛性、Acは接触面積である。フィッティングカーブのLower Fitは20%に設定し、Upper Fitは95%に設定した。測定は50回行ない、平均値を求めた。ベタの複合弾性率は、上記製版条件で製版した印刷版からベタ箇所を切り出し、網点の複合弾性率と同じ測定条件で測定した。
複合弾性率Er=S√π/2√Ac
【0045】
上記の式からわかるように、複合弾性率は、弾性変形も考慮したパラメータである。これに対して、従来技術で硬さの評価パラメータとして採用されているダイナミック硬度は、弾性変形を考慮していないパラメータである。
【0046】
また、測定精度の点から見ると、複合弾性率は、上述のように、ダイナミック硬度と比べて高精度の測定が可能であるという利点を有する。これは、それぞれのパラメータの測定に使用する装置の応力感知精度の相違に起因する。
【実施例】
【0047】
本発明の印刷原版の効果を以下の実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例中の部は質量部を意味し、表中の組成割合を示す数値も質量部を意味する。
【0048】
実施例中の評価は以下の方法で行なった。
(1)複合弾性率
実施例1で作製したフレキソ印刷版について、Bruker社製のHysitron TI Premierを用いて、上述の方法で網点及びベタ部分の複合弾性率を算出した。
【0049】
(2)微小網点のドットゲイン
実施例1で作製したフレキソ印刷版について、フレキソ印刷機FPR302(エム・シーケー社製)を用い、900LPIのアニロックスを用いて、微小網点のドットゲインを評価した。インキは、UVインキ(商品名:FLEXOCURE CYAN(Flint社製))を用いて行った。被印刷体にはコート紙(商品名:パールコート 王子製紙製)を用いた。印刷速度は50m/分で行った。印刷での押し込み量は、版が被印刷体に接触した箇所をゼロとし、そこから90μm押し込んだ箇所とした。印刷版上でのドットサイズが直径16μmの網点に着眼し、印刷での太り(ドットゲイン)量を測定した。印刷での太り(ドットゲイン)量が5μm以下を◎、5μmより大きく10μm未満を○、10μm以上15μm未満を△、15μm以上を×で判定した。印刷での太り(ドットゲイン)量の数値が低いほど、印刷での太りが少なく良好であることを意味する。
【0050】
(3)ベタ部分のインキ乗り
微小網点のドットゲイン評価で得られた印刷物のベタ部分の光学濃度を測定した。光学濃度の測定は大日本スクリーン製DM−800を用いて行った。光学濃度が1.7より上を◎、1.7以下で1.6より上を○、1.6以下で1.5より上を△、1.5以下を×で判定した。光学濃度が高いほど、ベタ部分のインキ乗りに優れることを意味する。
【0051】
(4)独立点の再現性
印刷版上での最小独立点の再現性を測定した。最小独立点が50μm以下であれば◎、50μmより大きく100μm以下であれば○、100μmより大きく200μm以下であれば△、200μmより上であれば×で判定した。再現する最小独立点が小さいほど、独立点の再現性に優れることを意味する。
【0052】
(5)印刷版の耐久性
実施例1で得られたフレキソ印刷版を、押し込み量を150μmにする以外は微小網点のドットゲイン評価と同じ印刷方法で5、000mの印刷を行った。印刷後の版の直径16μm網点を顕微鏡で観察した。印刷前後で変化がない場合は◎、端部のみに軽微な磨耗がある場合は○、部分的に欠けや磨耗がみられる場合は△、全体に欠けや磨耗がみられる場合を×で判定した。
【0053】
実施例1
感光性樹脂組成物の作成
共役ジエンを重合して得られるポリマーとしてブタジエンラテックス(Nipol LX111NF、不揮発分55%、日本ゼオン(株)製)86質量部、及びアクリロニトリル−ブタジエンラテックス(Nipol SX1503、不揮発分42%、日本ゼオン(株)製)24質量部、エチレン性不飽和化合物として数平均分子量が10000であるポリブタジエン末端アクリレート(BAC45、大阪有機化学工業(株)製)15質量部、及び数平均分子量が338であるトリメチロールプロパントリメタクリレート(ライトエステルTMP、共栄社化学(株)製)10質量部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール3質量部、その他成分として親水性重合体(PFT−4、不揮発分25%、共栄社化学(株)製)20質量部、ブタジエンオリゴマー(日本曹達(株)製 B2000)9.9質量部、熱安定剤(4−メトキシフェノール)0.1質量部、紫外線吸収剤(チヌビン326)0.01質量部を容器中で混合し、ドープを作成した。ドープを加圧ニーダーに投入して、80℃で溶剤を減圧除去し、感光性樹脂組成物を得た。
【0054】
フレキソ印刷原版の作成
カーボンブラック分散液(オリエント化学工業(株)製、AMBK−8)、共重合ポリアミド(PA223、東洋紡績(株)製)、プロピレングリコール、メタノールを45/5/5/45の質量割合で混合し、感熱マスク層塗工液を得た。PETフィルム(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)の両面に離型処理を施した後、乾燥後の塗膜の厚みが2μmとなるようにバーコーターで感熱マスク層塗工液を塗工し、120℃×5分乾燥してフィルム積層体(I)を得た。光学濃度は2.3であった。光学濃度は白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))によって測定した。鹸化度80%のポリ酢酸ビニル(KH20、日本合成(株)製)と可塑剤(グリセリン)を、70/30の質量割合で混合し、酸素バリヤ層塗工液を得た。フィルム積層体(I)上に、乾燥後の塗膜の厚みが2.0μmとなるようにバーコーターで酸素バリヤ層塗工液を塗工し、120℃×5分乾燥してフィルム積層体(II)を得た。共重合ポリエステル系接着剤を塗工したPETフィルム支持体(東洋紡績(株)、E5000、厚さ125μm)上に上記感光性樹脂組成物を配置し、その上からフィルム積層体(II)を重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、PET支持体、接着層、感光性樹脂層、酸素バリヤ層、感熱マスク層およびカバーフィルムからなるフレキソ印刷原版を得た。版の総厚は1.14mmであった。
【0055】
フレキソ印刷原版からの印刷版の作成
印刷原版のPET支持体側から裏露光を10秒行った。続いて、カバーフィルムを剥離した。この版を、エスコグラフィック社製 CDI4530に巻き付け、175線で0〜10%間で0.3%刻みの網点と、0〜300μm間で50μm刻みの独立点、及びベタを持つテスト画像で、解像度4000dpiでアブレーションを行った。アブレーション後、版を取り出して平面に戻し、主露光を7分行った。その後、A&V(株)製現像機(Stuck System、1%洗濯石鹸水溶液、40℃)で8分現像し、版面の水滴を水きり棒で除去した。その後、60℃の乾燥機で10分乾燥した。続いて、後露光を7分間行い、最後に殺菌灯を5分間照射し、フレキソ印刷版を得た。裏露光、主露光、後露光はPhilips社のTL−K 40W/10Rランプ(ピーク波長370nm、350nmの照度が10mW/cm
2)を、殺菌灯はパナソニック社製 殺菌ランプ GL−40(ピーク波長250nm、250nmの照度が4.5mW/cm
2)を用いて行った。得られた印刷版のレリーフ深度は0.6mmであり、印刷版上に直径16μmの網点が再現していることを確認した。
【0056】
実施例2〜
14、比較例15、比較例1〜6
感光性樹脂層を構成する感光性樹脂組成物中の各成分の配合割合を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法でフレキソ印刷原版を作製し、その原版から印刷版を得た。なお、レリーフ深度が0.6mmとなるように裏露光時間を調整し、主露光時間は直径16μmの網点が印刷版上に再現する時間とした。
【0057】
実施例1〜
14、比較例15、比較例1〜6の評価結果を表1及び表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
なお、上記の表中のエチレン性不飽和化合物の詳細は以下の通りである。
ライトエステルTMP:トリメチロールプロパントリメタクリレート、数平均分子量338、共栄社化学(株)製。
ライトエステル1,6HX:1,6ヘキサンジオールジメタクリレート、数平均分子量254、共栄社化学(株)製。
ライトエステル19ND:1,9ノナンジオールジメタクリレート、数平均分子量298、共栄社化学(株)製。
BAC45:ポリブタジエン末端アクリレート、数平均分子量10000、大阪有機化学工業(株)製。
TE2000:末端メタクリル基導入ポリブタジエン、ウレタン結合型、数平均分子量3,000、日本曹達(株)製。
【0061】
上記の表の評価結果からわかるように、網点の複合弾性率とベタ部分の複合弾性率が本発明の範囲内である実施例1〜
14では、微小網点のドットゲイン抑制とベタ部分のインキ乗りが両立できている。このように網点とベタの複合弾性率を本発明の範囲内とする方法としては、従来よりも光重合開始剤量を多量に配合すること、低分子量(メタ)アクリレート化合物を一定量配合すること、及び光重合開始剤と低分子(メタ)アクリレート化合物の配合比率を一定範囲内とすることが重要である。さらに、高分子量の(メタ)アクリレート化合物を配合することで光重合開始剤を多量配合した場合でも独立点の再現性や印刷版の耐久性を損なわない(実施例1〜8,11〜1
3と実施例9,10,14の対比)。さらに、光重合開始剤にベンゾフェノンを併用することで網点の複合弾性率を選択的に高めることができる(実施例1〜6,9〜
14と実施例7,8の対比)。さらに、酸素バリア層を持たせることで微小網点のドットゲインとベタ部分のインキ乗りをさらに高めることができる(実施例1〜14と
比較例15の対比)。
【0062】
これに対して、比較例1では、光重合開始剤の配合量が少なく、従来と同程度の量であるため、網点の複合弾性率が低くなり、微小網点のドットゲインが抑制できていない。比較例2では、光重合開始剤の配合量が多いため、網点及びベタ部分の複合弾性率が高くなり、ベタ部分のインキ乗りに劣り、独立点の再現性及び印刷版の耐久性にも劣る。比較例3では、光重合開始剤の配合量が少ないため、光重合開始剤と低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合比率が適切であっても、網点の複合弾性率が低くなり、微小網点のドットゲインが抑制できていない。比較例4では、低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合量が少ないため、網点の複合弾性率が低くなり、微小網点のドットゲインが抑制できていない。比較例5では、低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合量が多いため、網点及びベタ部分の複合弾性率が高くなり、ベタ部分のインキ乗りに劣る。比較例6では、低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合量が多いため、光重合開始剤と低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合比率が適切であっても、網点及びベタ部分の複合弾性率が高くなり、ベタ部分のインキ乗りに劣る。
微小網点のドットゲインの低減とベタ部分の十分なインク乗りの両方を達成することができるフレキソ印刷版を提供する。少なくとも支持体(A)と感光性樹脂層(B)と感熱マスク層(C)が順次積層されてなるフレキソ印刷原版より得られるフレキソ印刷版であって、網点の複合弾性率が30〜80Mpaであり、かつベタ部分の複合弾性率が5〜15MPaである。感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物は、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量が2〜9質量%であり、(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)を含み、感光性樹脂組成物中の化合物(i)の含有量が5〜16質量%であり、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の質量と化合物(i)の質量との比率が0.20〜0.55である。