特許第6904493号(P6904493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6904493
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月14日
(54)【発明の名称】シート状物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20210701BHJP
【FI】
   D06N3/14 101
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2020-569210(P2020-569210)
(86)(22)【出願日】2020年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2020046009
【審査請求日】2021年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2019-230227(P2019-230227)
(32)【優先日】2019年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2020-49010(P2020-49010)
(32)【優先日】2020年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芝野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宿利 隆司
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝樹
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−112905(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/063761(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/198357(WO,A1)
【文献】 特開2021−021172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00 − 7/06
D06M 17/00 − 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材に高分子弾性体を含有するシート状物であって、繊維質基材が平均単繊維直径0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、以下の条件1及び条件2を満たすシート状物。
条件1:JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験法」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が40mm以上140mm以下である
条件2:JIS L 0843:2006耐光堅牢度測定法のキセノンアーク量が110MJ/m条件で測定した耐光試験後のJIS L 1096:2005で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が25mg以下である
【請求項2】
耐光試験前のシート状物において、JIS L 1096:2010で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が20mg以下である、請求項1記載のシート状物。
【請求項3】
前記高分子弾性体を10質量%以上含有する、請求項1または2に記載のシート状物。
【請求項4】
前記シート状物において、さらに以下の条件3を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物。
条件3:前記シート状物の起毛面を150℃に加熱したホットプレート上に載置し、押圧荷重2.5kPaで10秒間押圧した際のL値の保持率が90%以上100%以下である
【請求項5】
下記(1)〜(4)の工程をこの順に含む、シート状物の製造方法。
(1)極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、高分子弾性体、1価陽イオン含有無機塩、および架橋剤を含有する水分散液を含浸せしめ、次いで120℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う高分子弾性体含浸工程であって、前記高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記水分散液における1価陽イオン含有無機塩の含有量が前記高分子弾性体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である、高分子弾性体含浸工程
(2)前記極細繊維発現型繊維をアルカリ処理し、極細繊維を発現させる、極細繊維発現工程
(3)120℃以上180℃以下の温度で熱処理を施す、乾燥工程
(4)未起毛シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させる、起毛工程
【請求項6】
前記乾燥工程より後に未起毛シート状物またはシート状物を染色する染色工程を含む、請求項5に記載のシート状物の製造方法。
【請求項7】
前記1価陽イオン含有無機塩が塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムである、請求項5または6に記載のシート状物の製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤である、請求項5〜7のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物およびその製造方法、特に、柔軟性および耐光性に優れるシート状物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として不織布等の繊維質基材とポリウレタンからなるシート状物は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、人工皮革等の種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いたシート状物は、成型性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等に年々広がっている。
【0003】
このようなシート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが一般的に採用されている。この場合、ポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤が用いられるが、一般的に有機溶剤は環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
具体的な解決手段として、従来の有機溶剤系のポリウレタンに代えて、水中にポリウレタン樹脂を分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されているが、一般的に水分散型ポリウレタンを用いて凝固したシート状物は風合いが固くなりやすいという問題がある。
【0005】
その主な理由の一つとして、両者の凝固方式の違いがある。すなわち、有機溶剤適用ポリウレタンの凝固方式は、有機溶剤に溶解しているポリウレタン分子を、水で溶媒置換して凝固する、いわゆる湿式凝固方式であり、ポリウレタン膜で見ると、密度が低い多孔膜が形成される。そのため、ポリウレタンが繊維質基材内に含浸され、凝固された場合も繊維とポリウレタンの接着面積が少なくなり、柔らかいシート状物となると考えられる。
【0006】
一方、水分散型ポリウレタンは、主に加熱することにより、水分散型ポリウレタン分散液の水和状態を崩壊させ、ポリウレタンエマルジョン同士を凝集させることにより凝固する、いわゆる湿熱凝固方式が主流であり、得られるポリウレタン膜構造は密度が高い無孔膜となる。そのため、繊維質基材とポリウレタンの接着は密になり、繊維の交絡部分が強く把持されるため、風合いが硬くなると考えられる。
【0007】
これまでに、水分散型ポリウレタンを用いて柔軟な風合いのシート状物を得るため、例えば水分散型ポリウレタンを含む溶液中に増粘剤を添加し、その溶液を含浸した繊維質基材を熱水で処理することで、繊維質基材を覆うポリウレタンの被膜を小さくし、柔軟な風合いを得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
同じ熱水処理による凝固法を利用したものとしては、染色後にキュア処理を施すことで、染色時のポリウレタン膨潤による物性低下を防止し、耐湿熱性に優れたシート状物を得る方法(特許文献2)やヒンダードアミン化合物が含まれた水分散型ポリウレタンを適用し、耐光黄変性、耐光染色堅牢性などの耐光性および柔軟性に優れるシート状物を得る方法が提案されている(特許文献3)。
【0009】
また、強制乳化させた非イオン性の水分散型ポリウレタンに無機塩類を溶解、混合させることで、水分散型ポリウレタンがゲル化する温度である感熱ゲル化温度を調整し、水中に分散していた高分子エマルジョンの粒子が、水の移動に引き連られてシート状物の表面層に集中的に付着する現象、所謂マイグレーション現象を抑制することにより、柔軟な風合いを得る方法が提案されている(特許文献4)。
【0010】
さらに、多糖類を添加した水分散型ポリウレタンをシート状物に含浸し、2段階の温度にて加熱乾燥することで高分子弾性体を多孔構造化し、風合いを柔軟化させる方法が提案されている(特許文献5)。この方法では、1段階目の乾燥において多糖類が水分を把持した状態で、高分子弾性体を完全に凝固させ、2段階目の乾燥において高分子弾性体が完全に凝固した状態で、高分子弾性体中に内包される多糖類が把持した水分を蒸発させることで、多糖類が把持した水分が存在していた部位が空隙となり、多孔構造を形成させることができる。
【0011】
あるいは、水分散型ポリウレタンを凝固させたシート状物に、架橋剤を付与・加熱を行い、反応させ、架橋剤添加前の風合いを維持する方法が提案されている(特許文献6)。この方法では、ポリウレタンの凝固方法に関係なく、水分散型ポリウレタンと架橋剤を反応させることができ、本来のポリウレタンの凝集構造に近い状態を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2015/129602号
【特許文献2】特開2017−172074号公報
【特許文献3】特開2000−265052号公報
【特許文献4】特開平6−316877号公報
【特許文献5】特開2019−112742号公報
【特許文献6】国際公開第2016/052189号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、自動車内装材用途などの屋外でシート状物を利用する場合、太陽光に含まれる紫外線によりシート状物中の繊維を把持するポリウレタンが分解され、シート状物が劣化するという課題がある。
【0014】
通常、水分散型ポリウレタンは、高分子ポリオールと、有機ポリイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られ、高分子ポリオールの成分により様々な性質を示す。代表的な高分子ポリオールとして、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールの2種類があるが、ポリエーテル系適用ポリウレタンを用いたシート状物は、ポリカーボネート系適用ポリウレタン対比で柔軟な風合いを得られるが、耐光性に劣っている。柔軟な風合いと耐光性を両立させるためには、ポリエーテル系適用ポリウレタンを用いて耐光性を向上させることが実使用に耐えうるために必要である。
【0015】
特許文献1〜3に開示された方法においては、熱水凝固により風合いの硬さを改善してある程度柔軟な風合いを得ることは出来るものの、ポリウレタンがバインダーとしての機能を十分に果たせず、耐摩耗性が不十分となる。特許文献2に開示された方法においては、染色後に高温で加熱するため、染料が昇華することから、実使用における色落ち懸念があり、耐光性が不十分となる。また、特許文献3に開示された方法においてはヒンダードアミン化合物を含むことにより耐光性は向上するものの、該化合物を高分子ポリオール中に含むため膜物性が低下し、繊維に対する把持力が弱く、シート状物の耐摩耗性が不十分である。また、柔軟性についても十分とはいえない。
【0016】
さらに、特許文献4に開示された方法においては、マイグレーション抑制により柔軟な風合いを達成することができるものの、3次元的にポリウレタン樹脂を架橋していないため繊維を十分に把持することができず、耐摩耗性および耐光性が不十分となる。
【0017】
一方、特許文献5に開示された方法においては、二段階の乾燥を経ることで多孔構造を得ることができるが、完全にマイグレーション現象を抑制できず、風合いについて不十分である。また、3次元的にポリウレタン樹脂を架橋していないため繊維を十分に把持することができず、耐摩耗性および耐光性が不十分となる。
【0018】
あるいは、特許文献6に開示された方法においては、架橋剤をポリウレタン凝固後に含浸させているが、ポリウレタンと架橋剤の反応があまり進行しないため、ポリウレタンと架橋剤による三次元的な構造が十分に形成することができず、耐摩耗性および耐光性が不十分となる。
【0019】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の背景に鑑み、柔軟な風合いと優れた耐光性を両立したシート状物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、特定量の1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤とを併用した高分子弾性体の凝固において、乾燥温度を調整することで、環境に配慮してシート状物を製造できるだけでなく、従来のシート状物と比較して、風合い、耐光性に優れたシート状物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0021】
すなわち、本発明は前記課題を解決せんとするものであって、本発明のシート状物は、繊維質基材に高分子弾性体を含有するシート状物であって、繊維質基材が平均単繊維直径0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、以下の条件1及び条件2を満たすシート状物である。
条件1:JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験法」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が40mm以上140mm以下である
条件2:JIS L 0843:2006耐光堅牢度測定法のキセノンアーク量が110MJ/m条件で測定した耐光試験後のJIS L 1096:2005で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が25mg以下である
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、耐光試験前のシート状物において、JIS L 1096:2010で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が20mg以下である。
【0022】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記高分子弾性体を10質量%以上含有する。
【0023】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記シート状物において、さらに以下の条件3を満たす。
条件3:前記シート状物の起毛面を150℃に加熱したホットプレート上に載置し、押圧荷重2.5kPaで10秒間押圧した際のL値の保持率が90%以上100%以下である
本発明のシート状物の製造方法は、下記(1)〜(4)の工程をこの順に含む、シート状物の製造方法である。
(1)極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、高分子弾性体、1価陽イオン含有無機塩、および架橋剤を含有する水分散液を含浸せしめ、次いで120℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う高分子弾性体含浸工程であって、前記高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記水分散液における1価陽イオン含有無機塩の含有量が前記高分子弾性体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である、高分子弾性体含浸工程
(2)前記極細繊維発現型繊維をアルカリ処理し、極細繊維を発現させる、極細繊維発現工程
(3)120℃以上180℃以下の温度で熱処理を施す、乾燥工程
(4)未起毛シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させる、起毛工程
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記乾燥工程より後に未起毛シート状物またはシート状物を染色する染色工程を含む。
【0024】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記1価陽イオン含有無機塩が塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムである。
【0025】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、柔軟な風合いと優れた耐光性を両立したシート状物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のシート状物は、繊維質基材に高分子弾性体を含有するシート状物であって、繊維質基材が平均単繊維直径0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、以下の条件1及び条件2を満たすシート状物である。
条件1:JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験法」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が40mm以上140mm以下である。
条件2:JIS L 0843:2006耐光堅牢度測定法のキセノンアーク量が110MJ/m条件で測定した耐光試験後のJIS L 1096:2005で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が25mg以下である。
【0028】
以下にこの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0029】
[極細繊維]
本発明に用いられる極細繊維に用いることができる樹脂としては、優れた耐久性、特には機械的強度、耐熱性および耐光性の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などが挙げられる。ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂は、例えば、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールとから得ることができる。
【0030】
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0031】
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0032】
極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、共重合ポリアミド等を用いることができる。
【0033】
極細繊維に用いられる樹脂には、種々の目的に応じて、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有することができる。
【0034】
また、極細繊維に用いられる樹脂がバイオマス資源由来の成分を含有することが好ましい。
【0035】
極細繊維に用いられる樹脂としてポリエステル系樹脂を用いた場合のバイオマス資源由来の成分としては、その構成成分であるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいし、ジオールとしてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいが、環境負荷低減の観点からは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールの両方にバイオマス資源由来の成分を用いることが好ましい。
【0036】
極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合のバイオマス資源由来の成分としては、バイオマス資源由来の原料を経済的に有利に得られることや繊維の物性の点から、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11が好ましく用いられる。
【0037】
極細繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などが挙げられる。
【0038】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10μm以下であることが重要である。極細繊維の平均単繊維直径が10μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下であることによって、シート状物をより柔軟なものとすることができる。また、立毛の品位を向上させることができる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色を行う場合に染色後の発色性に優れたシート状物とすることができる。また、バフィングによる起毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
【0039】
本発明でいう平均単繊維直径とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)シート状物を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径をそれぞれの極細繊維断面において3方向で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする。
・単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm))/π)1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0040】
[繊維質基材]
本発明で用いられる繊維質基材は、前記極細繊維からなる。なお、繊維質基材には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
【0041】
前記繊維質基材の具体的な形態としては、前記極細繊維それぞれが絡合してなる不織布や極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができる。中でも、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、シート状物の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0042】
前記不織布としては、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、シート状物の風合いや品位の観点から短繊維不織布がより好ましく用いられる。
【0043】
短繊維不織布を用いた場合における短繊維の繊維長は、25mm以上90mm以下の範囲であることが好ましい。繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物が得られやすくなる。また、繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、より風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0044】
本発明において、繊維質基材として不織布を用いる場合、強度を向上させるなどの目的で、不織布の内部に織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持することができるため、0.3μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0045】
前記織物や編物を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステルや、6−ナイロンや66−ナイロンなどのポリアミド等の合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
【0046】
[高分子弾性体]
本発明のシート状物において、高分子弾性体としては、水分散型シリコーン樹脂、水分散型アクリル樹脂、水分散型ウレタン樹脂やそれらの共重合体などが挙げられる。それらの中でも風合いの面から、水分散型ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0047】
水分散型ポリウレタン樹脂としては、数平均分子量が好ましくは500以上5,000以下の高分子ポリオールと、有機ポリイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られる樹脂が好ましく用いられる。また、水分散型ポリウレタン分散液の安定性を高めるために、親水性基含有活性水素成分を併用することが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1,500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、数平均分子量を5,000以下、より好ましくは4,000以下とすることにより、バインダーとしてのポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。以下に高分子弾性体として、水分散型ポリウレタン樹脂を用いた場合について説明する。
【0048】
(1)水分散型ポリウレタン樹脂の各反応成分
まず、水分散型ポリウレタン樹脂の各反応成分について説明する。
【0049】
(1−1)高分子ポリオール
本発明のシート状物において、前記高分子弾性体は、構成成分としてポリエーテルジオールを含む。高分子ポリオール中のポリエーテルジオールの含有量は、好ましくは高分子ポリオール全体の50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90%質量以上である。ポリエーテルジオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等およびそれらを組み合わせた共重合ポリエーテルジオールが挙げられる。なお、本明細書において、「構成成分として含む」とは、高分子弾性体を構成するモノマー成分、オリゴマー成分として含有することをいう。ポリエーテルジオールは、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れるポリウレタンが得られやすくなる。
【0050】
(1−2)有機ジイソシアネート
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が含まれる。
【0051】
前記炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5−ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0052】
前記炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、および2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0053】
前記炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、および2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0054】
前記炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m−および/またはp−キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0055】
これらのうち、好ましい有機ジイソシアネートは、脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートである。
【0056】
(1−3)鎖伸長剤
本発明に用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4−ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0057】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0058】
(2)水分散型ポリウレタン樹脂の添加剤
本発明では後述する理由により、水分散型ポリウレタンを含む溶液中に、1価陽イオン含有無機塩を添加することが重要である。またその他にも、必要により酸化チタンなどの着色剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)や酸化防止剤[4,4−ブチリデンービス(3−メチル−6−1−ブチルフェノール)などのヒンダードフェノール;トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイトなどの有機ホスファイトなど]などの各種安定剤、無機充填剤(炭酸カルシウムなど)などを含有させることができる。
【0059】
(3)水分散型ポリウレタン樹脂の構成
本発明で用いられる水分散型ポリウレタンにおいて、ポリウレタンに親水性基を含有させる成分として、例えば、親水性基含有活性水素成分が挙げられる。親水性基含有活性水素成分としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。
【0060】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250〜9,000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0061】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0062】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3−ジメチルアミノプロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0063】
前記親水性基含有活性水素成分は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。
【0064】
ポリウレタン分子内に用いられる親水性基含有活性水素成分は、水分散型ポリウレタン樹脂の機械的強度および分散安定性の観点から、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸およびこれらの中和塩を用いることが好ましい。
【0065】
本発明において、高分子弾性体における親水性基とは、活性水素を有する基である。親水性基の具体例としては、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。
【0066】
本発明では高分子弾性体内部に、N−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有する。ここで、高分子弾性体内部にN―アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有するとは、高分子弾性体がN―アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有することを表す。高分子弾性体として、水分散型ポリウレタン樹脂を用いる場合、N−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合は、例えば、前述の親水性基含有活性水素成分として存在する水酸基および/またはカルボキシル基とカルボジイミド系架橋剤とを反応させて形成することができる。これにより高分子弾性体の分子内に、耐光性や耐熱性、耐摩耗性等の物性、および柔軟性に優れるN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合による3次元架橋構造を付与し、シート状物の柔軟性を保持しながら、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることが出来る。
【0067】
なお、高分子弾性体に上記のN−アシルウレア基やイソウレア基が存在することは、シート状物の断面に対して、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS分析)等のマッピング処理(分析機器としては、例えば、ION−TOF社製「TOF.SIMS 5」など)や赤外分光分析(分析機器としては、例えば、日本分光株式会社製「FT/IR 4000 series」など)を行えば分析可能である。
【0068】
本発明に用いられる高分子弾性体の数平均分子量は、樹脂強度の観点から20,000以上であることが好ましく、また、粘度安定性と作業性の観点から500,000以下であることが好ましい。数平均分子量は、更に好ましくは30,000以上150,000以下である。
【0069】
前記高分子弾性体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めることができ、例えば次の条件で測定される。
・機器:東ソー株式会社製HLC−8220
・カラム:東ソーTSKgel α−M
・溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
・温度:40℃
・校正:ポリスチレン
本発明で用いられる高分子弾性体は、シート状物中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくはシート状物の少なくとも片面に立毛を有する観点から、繊維質基材の内部に存在していることが好ましい態様である。
【0070】
[シート状物]
本発明のシート状物は、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験法」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が40mm以上140mm以下であることが重要である。剛軟度を上記範囲とすることで、適度な柔軟性と反発性を有することができる。剛軟度について、反発性のあるシート状物を得ることができる点から好ましくは、50mm以上、より好ましくは、55mm以上であり、柔軟性のあるシート状物を得る点から好ましくは、120mm以下、より好ましくは、110mm以下である。
【0071】
本発明のシート状物における縦方向とは、シート状物に対して起毛処理を行った方向のことをいう。起毛処理を行った方向の探索方法としては、指でなぞった時の目視確認やSEM撮影などシート状物の構成成分に応じて適宜採用することができる。すなわち、指でなぞった際、立毛繊維を寝かせたり、立たせたりすることができる方向が縦方向となる。また、指でなぞったシート状物の表面をSEM撮影することで寝た立毛繊維の向きが最も多い方向が縦方向となる。一方で、本発明のシート状物における横方向とは、縦方向に対して垂直の方向のことを横方向という。
【0072】
また、本発明のシート状物は、JIS L 0843:2006耐光堅牢度測定法のキセノンアーク量が110MJ/m条件で測定した耐光試験後のJIS L 1096:2005で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が25mg以下であることが重要である。耐光試験後の摩耗減量を上記範囲とすることで、太陽光に晒されるような過酷な環境で長期間使用しても高分子弾性体の劣化を抑制でき、シート状物の外観を維持することが出来る。摩耗減量は、シート状物の外観の劣化を抑制できる観点から23mg以下であることが好ましく、20mg以下であることがより好ましい。
【0073】
本発明のシート状物は、耐光試験前のシート状物において、JIS L 1096:2010で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が20mg以下であることが好ましい。耐光試験前の摩耗減量を上記範囲とすることで、実使用における毛羽落ちや、外観の劣化等を抑制しやすくなる。摩耗減量は、実使用における毛羽落ちをより抑制できる観点から18mg以下であることが好ましく、15mg以下であることがより好ましい。
【0074】
本発明のシート状物は、高分子弾性体を10質量%以上含有することが好ましい。製造工程内での張力による破断や実使用における毛羽落ち等を抑制できる観点から12質量%以上含有していることがより好ましく、15質量%以上含有していることがさらに好ましい。含有量の上限は特に限定されないが、通常、50質量%以下であり、40質量以下%が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
【0075】
本発明のシート状物は、さらに、以下の条件3を満たすことが好ましい。
条件3:シート状物の起毛面を150℃に加熱したホットプレート上に載置し、押圧荷重2.5kPaで10秒間押圧した際のL値の保持率(以下、単にL値保持率と略することがある)が90%以上100%以下である。
【0076】
中でも、L値保持率が90%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であることによって、シート状物が高い耐熱性を有するものとなる。
【0077】
なお、本発明において「シート状物の起毛面」とは、シート状物に対して起毛処理を行った表面のことを指す。また、L値とは、国際照明委員会(Commission International on Illumination、CIE)が定義したL値のことであるが、本発明におけるL値保持率とは、加熱・押圧条件下での明度の変化の割合が小さい、すなわち、加熱・押圧前に暗い色彩を有するシート状物が、加熱・押圧後にどの程度明るくならないかを指す指標である。
【0078】
なお、本発明において、L値保持率は、以下のように手順で測定し、算出される値を指す。
(1) シート状物を裁断し、裁断した試験片のL値を色差計(例えば、コニカミノルタ株式会社製「CR−410」など)を用いて測定する。
(2) 試験片の起毛面を下にして、試験片を150℃に熱したホットプレート(例えば、アズワン株式会社製「CHP−250DN」など)上に載置する。
(3) 試験片上に、押圧荷重が2.5kPaとなるように調整した圧子を載置し、10秒間保持する。
(4) 試験片上の圧子を外し、試験片の起毛面のL値を前記の色差計で測定する。
(5) L値保持率を以下の式より算出する。
【0079】
L値保持率(%)=((1)で測定されるL値)/((4)で測定されるL値)×100
剛軟度や耐光試験前、耐光試験後の摩耗減量、L値保持率を上記範囲になるようにするためには、例えば、後述する高分子弾性体含浸工程、極細繊維発現工程、乾燥工程を経てシート状物を製造することが挙げられる。高分子弾性体を含浸させた後に、極細繊維発現工程を経ることで、極細繊維と高分子弾性体の間隙に作ることができ、柔軟な風合いが得られやすくなる。また、例えば、乾燥工程において、120℃以上180℃以下の温度で熱処理(キュア処理)することで、高分子弾性体の粒子同士を凝集させ、耐光性や耐摩耗性、耐熱性を向上させやすくすることが出来る。さらに、水分散液の感熱凝固温度を後述の範囲とすることで水分蒸発に伴うポリウレタンのシート状物表面への偏在(マイグレーション)を抑制し、L値保持率を高くすることが出来る。
【0080】
[シート状物の製造方法]
次に、本発明のシート状物の製造方法について述べる。
【0081】
本発明のシート状物の製造方法は、下記(1)〜(4)の工程をこの順に含む。
(1)極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、高分子弾性体、1価陽イオン含有無機塩、および架橋剤を含有する水分散液を含浸せしめ、次いで120℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う高分子弾性体含浸工程であって、前記高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記水分散液における1価陽イオン含有無機塩の含有量が前記高分子弾性体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である、高分子弾性体含浸工程
(2)前記極細繊維発現型繊維をアルカリ処理し、極細繊維を発現させる、極細繊維発現工程
(3)120℃以上180℃以下の温度で熱処理を施す、乾燥工程
(4)未起毛シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させる、起毛工程。
【0082】
本発明において、「未起毛シート状物」とは、少なくとも上記(1)〜(3)の工程をこの順に含む方法により得られた起毛処理前のシート状物をいう。
【0083】
本発明において、極細繊維を得る手段としては、極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい態様である。極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合し不織布とした後に、繊維の極細化を行うことによって、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0084】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は2または3成分)の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維を用いることが、海成分を除去する際に島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、シート状物の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0085】
海島型複合繊維としては、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は3成分)を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維直径の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0086】
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0087】
海成分の溶解除去は、高分子弾性体の付与後に行うことが好ましい様態である。後述するとおりである。
【0088】
本発明で用いられる海島型複合繊維における海成分と島成分の質量割合は、海成分:島成分=10:90〜80:20の範囲であることが好ましい。海成分の質量割合が10質量%以上であると、島成分が十分に極細化されやすくなる。また、海成分の質量割合が80質量以下であると、溶出成分の割合が少ないため生産性が向上する。海成分と島成分の質量割合は、より好ましくは、海成分:島成分=20:80〜70:30の範囲である。
【0089】
また、繊維絡合体は不織布の形態をとることが好ましく、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、繊維質基材の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の繊維質基材の表面に高い緻密感を得ることができるため好ましい。
【0090】
繊維絡合体として短繊維不織布を用いる場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0091】
次に、得られた原綿を、クロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより短繊維不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ短繊維不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0092】
さらに、得られた短繊維不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。短繊維不織布と織物の絡合一体化には、短繊維不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の短繊維不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって短繊維不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0093】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の複合繊維(極細繊維発現型繊維)からなる短繊維不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、繊維質基材が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0094】
このようにして得られた不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0095】
本発明のシート状物の製造方法では、(1)極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、高分子弾性体、1価陽イオン含有無機塩、および架橋剤を含有する水分散液を含浸せしめ、次いで120℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う高分子弾性体含浸工程であって、前記高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記水分散液における1価陽イオン含有無機塩の含有量が前記高分子弾性体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である、高分子弾性体含浸工程を含む。
【0096】
本発明のシート状物の製造方法では、親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含む高分子弾性体を繊維質基材に付与する。繊維質基材として不織布を用いる場合の高分子弾性体の付与は、複合繊維からなる不織布でも、極細繊維化された不織布でもどちらに対しても行うことができる。
【0097】
本発明のシート状物の製造方法では、前記高分子弾性体がポリエーテルジオールを構成成分として含有する。理由は前述の(1−1)高分子ポリオールの項目にて述べたとおりである。
【0098】
本発明のシート状物の製造方法では、高分子弾性体付与後の凝固は、120℃以上180℃以下の温度で加熱処理を行う乾熱凝固法を用いる。他の凝固方法、例えば熱水中で高分子弾性体を凝固させる熱水凝固法では、高分子弾性体が熱水中に拡散し、一部脱落するため、加工性に懸念がある。また、酸により高分子弾性体を凝固させる酸凝固法では、シート内に残存する酸性溶液を中和する必要があり、加工操業性において好ましくない。一方で、本発明で適用する乾熱凝固法は、高分子弾性体を含浸したシートを熱風乾燥機等で加熱処理するという非常に簡易な手法であり、高分子弾性体の脱落の懸念もなく、加工性に優れる手法である。
【0099】
本発明のシート状物の製造方法では、乾熱凝固における加熱温度は120℃以上180℃以下である。加熱温度が140℃以上であることがより好ましい。これは、高分子弾性体を速やかに凝固させ、自重によるシート下面への高分子弾性体の偏在を抑えることが出来るためである。さらに、本発明では架橋剤との併用が必要であるが、上記温度とすることで、架橋反応を十分に促進し、3次元網目構造を形成させ、物性や耐光性、耐熱性を向上させることが出来る。加熱温度が175℃以下であることがより好ましい。これは、高分子弾性体の熱劣化を抑制することが出来るためである。
【0100】
水分散液中の高分子弾性体の濃度(水分散液100質量%中の高分子弾性体の含有量)は、水分散液の貯蔵安定性の観点から、10質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0101】
本発明に用いる水分散液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤を水分散液100質量%中に40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0102】
本発明のシート状物の製造方法では、水分散液中に1価陽イオン含有無機塩を含有する。1価陽イオン含有無機塩を含有することで、水分散液に感熱凝固性を付与することが出来る。本発明において、感熱凝固性とは、水分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達すると水分散液の流動性が減少し、凝固する性質のことをいう。
【0103】
本発明のシート状物の製造方法においては、水分散液を繊維質基材に付与後、120℃以上180℃以下の温度で加熱処理し、乾熱凝固させることで、繊維質基材に高分子弾性体を付与する。
【0104】
高分子弾性体が感熱凝固性を有していない場合、高分子弾性体が水分の蒸発とともにシート表面に移行する、マイグレーションが発生する。さらに、水分の蒸発とともに繊維の周囲に高分子弾性体が偏在した状態で凝固が進行するため、高分子弾性体が繊維周囲を覆い、その動きを強く拘束した構造となる。これらによって、シート状物の風合いは著しく硬化する。
【0105】
水分散液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましい。水分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへの高分子弾性体の付着等を抑制することができるため、感熱温度を60℃以上であることがより好ましい。繊維質基材の表層への高分子弾性体のマイグレーション現象を抑制することができ、さらに繊維質基材からの水分蒸発前に高分子弾性体の凝固が進行することで、溶剤系高分子弾性体を湿式凝固させて得られる場合に類似した構造、すなわち高分子弾性体が強く繊維を拘束しない構造を形成することが出来、良好な柔軟性、反発感を達成することが可能であるため、感熱凝固温度を70℃以下であることがより好ましい。
【0106】
本発明では、感熱凝固剤として用いる無機塩において、1価陽イオン含有無機塩を用いることが重要である。前記1価陽イオン含有無機塩は、好ましくは塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムである。従来手法においては、感熱凝固剤としては硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩が好適に用いられてきたが、これらの無機塩は少量の添加によっても水分散液の安定性に大きく影響するため、高分子弾性体種によっては、その添加量調整による感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難であり、また、水分散液の調整時や貯蔵時におけるゲル化の懸念など課題があった。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、水分散液の安定性への影響が小さく、添加量を調整することで水分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御することが出来る。
【0107】
さらに本発明では、水分散液中の1価陽イオン含有無機塩の含有量が、高分子弾性体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下であることが重要である。含有量を10質量部以上とすることで、水分散液中に多量に存在するイオンが、高分子弾性体粒子に均一に作用することで、特定の感熱凝固温度において速やかに凝固を完了させることが出来る。これにより、前述のような、繊維質基材中に多量の水分を含有した状態で高分子弾性体凝固を進行させることにおいて、より顕著な効果を得ることが出来る。結果、溶剤系高分子弾性体を湿式凝固させて得られる場合に非常に類似した構造を形成し、良好な柔軟性、反発感を達成することが可能である。さらに、添加量を上記とすることで、無機塩が高分子弾性体粒子の融着における阻害剤となり、連続被膜形成による高分子弾性体の硬化を抑制することも出来る。一方で、含有量を50質量部以下とすることで、適度な高分子弾性体の連続被膜構造を残存させ、物性の低下を抑えることが出来る。また水分散液の安定性も保持することが出来る。
【0108】
本発明のシート状物の製造方法では、水分散液に架橋剤を含有することが重要である。架橋剤によって高分子弾性体に3次元網目構造を導入することで、耐摩耗性等の物性を向上させることが出来る。さらに前述の1価陽イオン含有無機塩と併用することで、高分子弾性体の凝固と高分子弾性体と架橋剤の反応を同時に進行させることで、密な3次元網目構造の形成と繊維の接着構造制御によってシート状物を柔軟化すると同時に、シート状物の高物性化や高耐光性、高耐熱性も達成可能となる。すなわち、シート状物の物性や耐光性、耐熱性を向上させるうえで1価陽イオン含有無機塩および架橋剤、乾熱凝固における加熱温度の制御を併用することが必要不可欠である。
【0109】
反応後に得られる高分子弾性体が耐光性や耐熱性、耐摩耗性に優れ、かつ柔軟性も良好であることから、前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤であることが好ましい。
【0110】
本発明のシート状物の製造方法は、(2)極細繊維発現型繊維をアルカリ処理し、極細繊維を発現させる、極細繊維発現工程を含む。高分子弾性体付与後にアルカリ処理を行うことで、高分子弾性体と極細繊維間に、アルカリ処理により溶解する成分に起因する空隙が生成することから、極細繊維を直接高分子弾性体が把持せずにシート状物の風合いはより柔軟となる。
【0111】
極細繊維発現型繊維として海島型複合繊維を用いる場合の繊維極細化処理(脱海処理)は、例えば、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。
【0112】
極細繊維発現工程では、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
【0113】
極細繊維発現工程後において、アルカリ処理後に十分な洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程を経ることでシート状物に付着したアルカリや1価陽イオン含有無機塩をシートに残存させることなく、加工でき、生産設備への影響を与えず加工できる。洗浄液は環境面や安全性を考慮すると水を用いることが好ましい。
【0114】
本発明のシート状物の製造方法は、(3)120℃以上180℃以下の温度で熱処理を施す、乾燥工程を含む。極細繊維発現工程の際に、極細繊維発現型繊維における極細繊維以外の成分を溶解する溶剤により高分子弾性体の結合が一部分解してしまうため、乾燥によるキュア処理を行うことで高分子弾性体の粒子同士を凝集させ、耐光性や耐摩耗性、耐熱性等の物性をさらに向上させることが出来る。
【0115】
本発明のシート状物の製造方法では、乾燥によるキュア処理での加熱温度は120℃以上180℃以下である。キュア処理の効果を高め、耐光性や耐摩耗性、耐熱性等の高物性化を行うために、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上である。高分子弾性体の熱劣化を抑制することために、好ましくは175℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0116】
本発明のシート状物の製造方法は、前記乾燥工程より後に未起毛シート状物またはシート状物を染色する染色工程を含むことが好ましい。この染色処理としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができ、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、未起毛シート状物またはシート状物の染色と同時に揉み効果を与えて未起毛シート状物またはシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0117】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、高分子弾性体の劣化を防ぐことができる。
【0118】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0119】
染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0120】
本発明では、染色工程の前後に問わず、製造効率の観点から、厚み方向に半裁することも好ましい態様である。
【0121】
本発明のシート状物の製造方法は、染色工程の前後に問わず、(4)未起毛シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させる、起毛工程を含む。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。
【0122】
また、本発明のひとつの態様において、起毛処理の前に、未起毛シート状物に滑剤としてシリコーン等を付与してもよい。滑剤を付与することにより、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となるため好ましい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与してもよい。帯電防止剤の付与により、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるため好ましい態様である。
【0123】
さらに、本発明のひとつの態様において、必要に応じてその表面に意匠性を施すことができる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【実施例】
【0124】
次に、実施例を用いて本発明のシート状物について、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0125】
[評価方法]
(1)シート状物の平均単繊維直径:
シート状物の繊維を含む厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社キーエンス製VE−7800型)を用いて3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径をμm単位で、小数第1位まで測定した。
【0126】
これを3ヶ所で行い、合計150本の単繊維の直径を測定し、平均値を小数第1位までで算出した。繊維直径が50μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に該当しないものとして平均繊維直径の測定対象から除外するものとする。また、極細繊維が異形断面の場合、前記したように、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めた。これを母集団とした平均値を算出し、平均単繊維直径とした。
【0127】
(2)水分散液の凝固温度
各実施例、比較例で調製される、高分子弾性体を含む水分散液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込んだ後、試験管を封止し、95℃の温度の温水浴に水分散液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬した。温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げて水分散液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺すり、水分散液の液面が流動性を失った温度を凝固温度とした。この測定を水分散液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出した。
【0128】
(3)シート状物の柔軟性評価:
JIS L 1096:2010「織物および編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」の、8.21.1に記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、縦方向へ2×15cmの試験片を5枚作成し、45°の角度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。
【0129】
(4)シート状物の摩耗評価
JIS L 1096:2010に基づき、摩耗評価を行った。マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製のModel 406を用い、標準摩擦布として同社のABRASTIVE CLOTH SM25を用いた。後述する耐光試験前後のシート状物に12kPaの荷重をかけ、摩耗回数は20,000回とした。摩耗前後のシート状物の質量を用いて、下記の式により、摩耗減量を算出した。
【0130】
摩耗減量(mg)= 摩耗前の質量(mg) − 摩耗後の質量(mg)
なお、摩耗減量は小数点第一位の値を四捨五入した値を摩耗減量とした。
【0131】
(5)シート状物の耐光試験
JIS L 0843:2006耐光堅牢度測定法(B法、第5露光法)に則り、キセノンアーク照射量が110MJ/mになるように測定時間を調整した条件で照射を行った。
【0132】
(6)高分子弾性体中の結合種の同定
上記シート状物より分離した高分子弾性体について、日本分光株式会社製FT/IR 4000 seriesを用いて、赤外分光分析により結合種を同定した。
【0133】
(7)L値保持率
ホットプレートとして、アズワン株式会社製「CHP−250DN」を用い、色差計として、コニカミノルタ株式会社製「CR−410」を用い、前記の方法によって測定、算出を行った。
【0134】
(8)シート状物中に含まれる無機塩種および含有量の測定:
シート状物をN,N−ジメチルホルムアミドに一晩浸漬させ、高分子弾性体および無機塩を溶出させた溶液を140℃での加熱乾燥により濃縮し、固形化させた。得られた固形物に対し、蒸留水を加え、無機塩のみを溶出させた。この無機塩を含む水溶液を加熱乾燥した上で、シート状物中に含まれる無機塩の量を測定した。また、固形化した高分子弾性体についても加熱乾燥の上、質量を測定し、高分子弾性体質量対比での無機塩質量を算出した。ただし、数値の有効性の観点から高分子弾性体対比で0.1質量%未満は、検出下限未満とする。
【0135】
無機塩の種類については、上記無機塩を含む水溶液に対して、ダイオネクス社製「ICS−3000型」のイオンクロマトグラフ装置を用いて同定した。
【0136】
[繊維質基材用不織布Aの製造方法]
海成分としてSSIA(5−スルホイソフタル酸ナトリウム)8モル%共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が700g/mで、厚みが3.0mmの不織布を製造した。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布Aとした。
【0137】
[繊維質基材用不織布Bの製造方法]
海成分としてSSIA(5−スルホイソフタル酸ナトリウム)8モル%共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が43質量%、島成分が57質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、目付が550g/mで、厚みが2.9mmの不織布を製造した。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布Bとした。
【0138】
[高分子弾性体の製造方法]
ポリオールに数平均分子量(Mn)が2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(表ではPTMGと記載)、イソシアネートにMDI、親水性基を含有させる成分として、2,2−ジメチロールプロピオン酸を用い、トルエン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミン、外部乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水を添加して、攪拌した。減圧化でトルエンを除去して高分子弾性体の水分散液を得た。
【0139】
[実施例1]
(不織布)
不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0140】
(高分子弾性体の付与)
高分子弾性体100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム(表1では「NaSO」と記載)を20質量部添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量部加え、水によって全体を固形分12質量%に調製し、高分子弾性体を含む水分散液を得た。感熱凝固温度は、70℃であった。得られた繊維質基材用不織布Aを、前記水分散液に浸漬し、次いで160℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、シート状物としたときにシート状物100質量%中に高分子弾性体が20質量%となるように高分子弾性体が付与された、厚みが2.10mmの高分子弾性体付与不織布を得た。
【0141】
(極細繊維発現処理)
得られた高分子弾性体付与不織布を、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して5分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した。その後、不織布に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水に浸漬して30分間洗浄し、160℃の乾燥機で30分間乾燥させ、極細繊維からなるシート(高分子弾性体付与シート)を得た。
【0142】
(染色・仕上げ)
得られた脱海後の高分子弾性体付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.75mmの立毛を有するシート状物を得た。
【0143】
得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は80mm、耐光試験前の摩耗減量は7mg、耐光試験後の摩耗減量は9mgであり、柔軟な風合いと優れた耐光性および耐摩耗性を有していた。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は93%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0144】
[実施例2]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0145】
(高分子弾性体の付与)
感熱凝固剤を塩化ナトリウム(表1では「NaCl」と記載)に変更した。また、感熱凝固剤の添加量および熱風による加熱温度、高分子弾性体の付与量を変更した以外は実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0146】
(極細繊維発現処理)
乾燥温度を変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0147】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は90mm、耐光試験前の摩耗減量は6mg、耐光試験後の摩耗減量は8mgであり、柔軟な風合いと優れた耐光性および耐摩耗性を有していた。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は91%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0148】
[実施例3]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0149】
(高分子弾性体の付与)
感熱凝固剤の添加量、熱風による加熱温度、高分子弾性体の付与量を変更した以外は実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0150】
(極細繊維発現処理)
乾燥温度を変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0151】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は55mm、耐光試験前の摩耗減量は12mg、耐光試験後の摩耗減量は18mgであり、柔軟な風合いと優れた耐光性および耐摩耗性を有していた。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は97%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0152】
[実施例4]
(不織布)
不織布として繊維質基材用不織布Bを用いた。
【0153】
(高分子弾性体の付与)
熱風による加熱温度、高分子弾性体の付与量を変更した以外は実施例2と同様に行い、厚みが2.05mmの高分子弾性体付与不織布を得た。
【0154】
(極細繊維発現処理)
得られた高分子弾性体付与不織布を、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して10分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した。その後、不織布に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水に浸漬して30分間洗浄し、170℃の乾燥機で30分間乾燥させ、極細繊維からなるシート(高分子弾性体付与シート)を得た。
【0155】
(染色・仕上げ)
得られた脱海後の高分子弾性体付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手120番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.75mmの立毛を有するシート状物を得た。
【0156】
得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維直径が3.0μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は75mm、耐光試験前の摩耗減量は7mg、耐光試験後の摩耗減量は10mgであり、柔軟な風合いと優れた耐光性および耐摩耗性を有していた。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は96%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0157】
[実施例5]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0158】
(高分子弾性体の付与)
感熱凝固剤および感熱凝固剤の添加量、高分子弾性体の付与量を変更した以外は実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0159】
(極細繊維発現処理)
実施例1と同様に行った。
【0160】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は100mm、耐光試験前の摩耗減量は6mg、耐光試験後の摩耗減量は8mgであり、柔軟な風合いと優れた耐光性および耐摩耗性を有していた。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は94%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0161】
[実施例6]
(不織布)
実施例4と同様、不織布として繊維質基材用不織布Bを用いた。
【0162】
(高分子弾性体の付与)
実施例4と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0163】
(極細繊維発現処理)
実施例4と同様に行った。
【0164】
(染色・仕上げ)
得られた脱海後の高分子弾性体付与シートを両面ともサンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが1.50mmの立毛を有するシート状物を得た。
【0165】
得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行った後、厚み方向に垂直に半裁し、極細繊維の平均単繊維直径が3.0μmのシート状物を得た。
【0166】
得られたシート状物の剛軟度は80mm、耐光試験前の摩耗減量は6mg、耐光試験後の摩耗減量は9mgであり、柔軟な風合いと優れた耐光性および耐摩耗性を有していた。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は96%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0167】
[比較例1]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0168】
(高分子弾性体の付与)
高分子弾性体100質量部に対して、感熱凝固剤として硫酸マグネシウム(表1では「MgSO」と記載)を10質量部添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量部加え、水によって全体を固形分12質量%に調製し、高分子弾性体を含む水分散液を得たが、加工中に不織布表面でゲル化し、不織布に高分子弾性体を付与することができなかった。
【0169】
[比較例2]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0170】
(高分子弾性体の付与)
感熱凝固剤の添加量を変更した以外は実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0171】
(極細繊維発現処理)
実施例1と同様に行った。
【0172】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は150mmより大きいため測定不能であり、硬い風合いとなった。耐光試験前の摩耗減量は15mg、耐光試験後の摩耗減量は25mgであった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は87%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0173】
[比較例3]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0174】
(高分子弾性体の付与)
感熱凝固剤の添加量を変更した以外は実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0175】
(極細繊維発現処理)
実施例1と同様に行った。
【0176】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は150mmより大きいため測定不能であり、硬い風合いとなった。耐光試験前の摩耗減量は16mg、耐光試験後の摩耗減量は28mgであり、耐光性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は89%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0177】
[比較例4]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0178】
(高分子弾性体の付与)
架橋剤を付与しない以外は実施例2と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0179】
(極細繊維発現処理)
実施例2と同様に行った。
【0180】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は150mmより大きいため測定不能であり、硬い風合いとなった。耐光試験前の摩耗減量は21mg、耐光試験後の摩耗減量は32mgであり、耐光性および耐摩耗性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しなかった。さらに、L値保持率は88%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0181】
[比較例5]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0182】
(高分子弾性体の付与)
加熱温度を変更した以外は実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0183】
(極細繊維発現処理)
実施例1と同様に行った。
【0184】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は120mm、耐光試験前の摩耗減量は13mg、耐光試験後の摩耗減量は29mgであり、耐光性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は88%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0185】
[比較例6]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0186】
(高分子弾性体の付与)
実施例1と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0187】
(極細繊維発現処理)
乾燥温度を変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0188】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は130mm、耐光試験前の摩耗減量は16mg、耐光試験後の摩耗減量は30mgであり、耐光性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は88%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0189】
[比較例7]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0190】
(高分子弾性体の付与)
高分子弾性体100質量部に対して、カルボジイミド系架橋剤3質量部を加え、ノニオン性増粘剤(グアーガム)[太陽化学(株)製「ネオソフトG」]を有効成分が高分子弾性体100質量部に対して1質量部となるように加え、水によって全体を固形分13質量%に調製し、高分子弾性体を含む水分散液を得た。得られた不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで温度90℃の熱水中で3分間処理後、乾燥温度160℃で30分間熱風乾燥させ、シート状物としたときにシート状物100質量%中に高分子弾性体が20質量%となるように高分子弾性体が付与された、厚みが2.10mmの高分子弾性体付与不織布を得た。
【0191】
(極細繊維発現処理)
実施例1と同様に行った。
【0192】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は90mm、耐光試験前の摩耗減量は20mg、耐光試験後の摩耗減量は33mgであり、耐光性および耐摩耗性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は87%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0193】
[比較例8]
(不織布)
実施例1と同様、不織布として繊維質基材用不織布Aを用いた。
【0194】
(高分子弾性体の付与)
架橋剤を付与しない以外は実施例2と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0195】
(極細繊維発現処理)
得られた高分子弾性体付与不織布を、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して5分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した。次に、不織布に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水に浸漬して30分間洗浄し、120℃の乾燥機で30分間乾燥させた。その後、カルボジイミド系架橋剤に水を加え、全体を固形分2質量%に調製した架橋剤をシートに含浸・付与し、160℃の乾燥機で30分間乾燥させ、極細繊維からなるシート(高分子弾性体付与シート)を得た。
【0196】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は150mmより大きいため測定不能であり、硬い風合いとなった。耐光試験前の摩耗減量は20mg、耐光試験後の摩耗減量は30mgであり、耐光性および耐摩耗性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は86%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0197】
[比較例9]
(不織布)
実施例4と同様、不織布として繊維質基材用不織布Bを用いた。
【0198】
(高分子弾性体の付与)
上記不織布にケン化度99%、重合度1400のPVA(日本合成化学株式会社製NM−14)の10質量%水溶液を含浸させ、140℃の温度で10分間加熱乾燥を行い、繊維質基材用不織布の繊維質量100質量部に対するPVAの付着量が30質量部のPVA付与シートを得た。
【0199】
得られたPVA付与シートを、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなるシート(PVA付与極細繊維不織布)を得た。
【0200】
高分子弾性体100質量部に対して、感熱凝固剤として塩化ナトリウム(表1では「NaCl」と記載)を15質量部添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量部加え、水によって全体を固形分12質量%に調製し、高分子弾性体を含む水分散液を得た。感熱凝固温度は、68℃であった。得られた繊維質基材用不織布Aを、前記水分散液に浸漬し、次いで160℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、シート状物としたときにシート状物100質量%中に高分子弾性体が38質量%となるように高分子弾性体が付与された、厚みが2.05mmの高分子弾性体付与シートを得た。
【0201】
得られた高分子弾性体付与シートを、95℃に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、120℃の乾燥機で30分間乾燥させることで、付与したPVAを除去したシートを得た。
【0202】
(染色・仕上げ)
実施例1と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は90mm、耐光試験前の摩耗減量は11mg、耐光試験後の摩耗減量は26mgであり、耐光性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は91%であり、優れた耐熱性を有しており、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は1.2質量%であった。
【0203】
[比較例10]
(不織布)
実施例6と同様、不織布として繊維質基材用不織布Bを用いた。
【0204】
(高分子弾性体の付与)
加熱温度を変更した以外は実施例6と同様に行い、高分子弾性体付与不織布を得た。
【0205】
(極細繊維発現処理)
乾燥温度を変更した以外は実施例6と同様に行った。
【0206】
(染色・仕上げ)
実施例6と同様に行った。得られたシート状物の剛軟度は85mm、耐光試験前の摩耗減量は21mg、耐光試験後の摩耗減量は31mgであり、耐光性および耐摩耗性が劣位であった。また、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。さらに、L値保持率は85%であり、耐熱性は十分なものではなく、高分子弾性体内部の1価陽イオン含有無機塩量は検出下限未満であった。
【0207】
【表1】
【0208】
【表2】
【0209】
なお、表2中の「PU」はポリウレタンを表す。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明により得られるシート状物は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【要約】
本発明は、柔軟な風合いと優れた耐光性を両立したシート状物およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達するため、本発明のシート状物は以下の構成を有する。すなわち、
繊維質基材に高分子弾性体を含有するシート状物であって、繊維質基材が平均単繊維直径0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、高分子弾性体が親水性基を有し、かつ、構成成分としてポリエーテルジオールを含み、前記高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、以下の条件1及び条件2を満たすシート状物。
条件1:特定の規格にて規定される縦方向の剛軟度が40mm以上140mm以下である
条件2:特定の規格にて規定される条件で測定した耐光試験後のJIS L 1096:2005で規定されるマーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が25mg以下である