(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有するシート状物であって、前記極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10.0μm以下であり、前記高分子弾性体が親水性基とN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合とを有し、以下の条件1および条件2を満たす、シート状物。
条件1:JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.21 剛軟度」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が、40mm以上140mm以下である
条件2:N,N−ジメチルホルムアミドに24時間浸漬後のJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」に記載のE法(マーチンデール法)で規定される押圧荷重12.0kPa、摩擦回数20000回における摩耗試験において4級以上であり、摩耗減量が25mg以下である
前記第1の高分子弾性体前駆体含浸工程の高分子弾性体前駆体と前記第2の高分子弾性体前駆体含浸工程の高分子弾性体前駆体とで用いられる高分子弾性体前駆体が同一の高分子弾性体前駆体である、請求項7に記載のシート状物の製造方法。
前記第1の高分子弾性体前駆体含浸工程の高分子弾性体前駆体が高分子弾性体前駆体Aであり、前記第2の高分子弾性体前駆体含浸工程の高分子弾性体前駆体とで用いられる高分子弾性体前駆体が該高分子弾性体前駆体Aとは異なる高分子弾性体前駆体Bである、請求項7に記載のシート状物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のシート状物は、極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有するシート状物であって、前記の極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10.0μm以下であり、前記の高分子弾性体が親水性基とN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合とを有し、以下の条件1および条件2を満たす。
条件1:JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.21 剛軟度」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が、40mm以上140mm以下である
条件2:N,N−ジメチルホルムアミドに浸漬後のJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」に記載のE法(マーチンデール法)で規定される押圧荷重12.0kPa、摩擦回数20000回における摩耗試験において4級以上であり、摩耗減量が25mg以下である
以下にこの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0035】
[極細繊維からなる繊維質基材]
まず、本発明のシート状物は、極細繊維からなる繊維質基材を有する。
【0036】
この極細繊維に用いることができる樹脂としては、優れた耐久性、特には機械的強度、耐熱性および耐薬品性の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0037】
本発明において、極細繊維に用いられる樹脂として、ポリエステル系樹脂を用いる場合には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびこれらの共重合体を用いることができる。また、ポリエステル系樹脂は、例えば、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールとから得ることができる。
【0038】
前記のポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0039】
前記のポリエステル系樹脂に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0040】
本発明において、極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12および共重合ポリアミド等を用いることができる。
【0041】
なお、極細繊維に用いられる樹脂には、種々の目的に応じて、本発明の目的を達成する限りにおいて、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有することができる。
【0042】
さらに、本発明の極細繊維に用いられる樹脂が、バイオマス資源由来の成分を含有することがより好ましい。
【0043】
このバイオマス資源由来の成分としては、極細繊維に用いられる樹脂としてポリエステル系樹脂を用いた場合には、その構成成分であるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいし、ジオールとしてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいが、環境負荷低減の観点からは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールの両方にバイオマス資源由来の成分を用いることが好ましい。
【0044】
バイオマス資源由来の成分としては、極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合には、バイオマス資源由来の原料を経済的に有利に得られることや繊維の物性の点から、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11が好ましく用いられる。
【0045】
極細繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などが挙げられる。
【0046】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径が10μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下であることによって、シート状物をより柔軟なものとすることができる。また、シート状物が立毛を有する場合は、立毛の品位を向上させることができる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色後の発色性に優れたシート状物とすることができる。また、シート状物が立毛を有する場合、バフィングによる立毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
【0047】
本発明でいう平均単繊維直径とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)得られたシート状物を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径をそれぞれの極細繊維断面において3方向で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする
単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm
2))/π)
1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0048】
本発明で用いられる繊維質基材は、前記の極細繊維からなる。なお、繊維質基材には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
【0049】
前記の繊維質基材の具体的な形態としては、前記の極細繊維それぞれが絡合してなる不織布や極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができる。中でも、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、シート状物の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0050】
前記不織布としては、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、シート状物の風合いや品位の観点から短繊維不織布がより好ましく用いられる。
【0051】
短繊維不織布を用いた場合における短繊維の繊維長は、25mm以上90mm以下の範囲であることが好ましい。繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物が得られやすくなる。また、繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、より風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0052】
本発明において、繊維質基材として不織布を用いる場合、強度を向上させるなどの目的で、不織布の内部に織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持することができるため、0.3μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0053】
前記の織物や編物を構成する繊維としては、「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸」などのポリエステルや、「ポリアミド6やポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12および共重合ポリアミド」などのポリアミドに代表される熱可塑性樹脂からなる合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
【0054】
本発明において、極細繊維からなる繊維質基材を得る手段としては、極細繊維発現型繊維を用いた繊維質基材を準備し、後述する手段によって極細繊維を発現させる方法を採ることが好ましい。
【0055】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は2または3成分)の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維を用いることが、海成分を除去する際に島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、シート状物の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0056】
海島型複合繊維としては、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は3成分)を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0057】
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0058】
なお、海成分の溶解除去は、第1の高分子弾性体前駆体含浸工程の後に行うことが好ましい。
【0059】
本発明で用いられる海島型複合繊維における海成分と島成分の質量割合は、海成分:島成分=10:90〜80:20の範囲であることが好ましい。海成分の質量割合が10質量%以上であると、島成分が十分に極細化されやすくなる。また、海成分の質量割合が80質量以下であると、溶出成分の割合が少ないため生産性が向上する。海成分と島成分の質量割合は、より好ましくは、海成分:島成分=20:80〜70:30の範囲である。
【0060】
また、極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材は、不織布の形態をとることが好ましく、いわゆる短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、シート状物の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際のシート状物の表面に高い緻密感を得ることができるため好ましい。
【0061】
極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材として短繊維不織布を用いる場合には、まず、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0062】
次に、得られた原綿を、クロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより短繊維不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ短繊維不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0063】
さらに、得られた短繊維不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。短繊維不織布と織物の絡合一体化には、短繊維不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の短繊維不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって短繊維不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0064】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の複合繊維(極細繊維発現型繊維)からなる短繊維不織布の見掛け密度は、0.15g/cm
3以上0.45g/cm
3以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm
3以上とすることにより、シート状物が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm
3以下とすることにより、高分子弾性体を形成させるための十分な空間を維持することができる。
【0065】
このようにして得られた短繊維不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、短繊維不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0066】
[高分子弾性体]
次に、本発明のシート状物は、高分子弾性体を有する。この高分子弾性体は、高分子弾性体前駆体と架橋剤とが反応して形成されるものである。以下、この詳細について、さらに説明する。
【0067】
(1)高分子弾性体前駆体
まず、本発明に係る高分子弾性体前駆体は、親水性基を有する。本発明において「親水性基を有する」とは、そのものが「活性水素を有する基を有する」ことを指す。この活性水素を有する基の具体例としては、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。
【0068】
この高分子弾性体前駆体としては、水分散型シリコーン樹脂、水分散型アクリル樹脂、水分散型ウレタン樹脂やそれらの共重合体が挙げられる。それらの中でも風合いの面から、水分散型ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。特に、後述する高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させることによって調製される水分散型ポリウレタン樹脂がより好ましく用いられる。以下に、これらについて詳細を説明する。
【0069】
(a)高分子ポリオール
本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールは、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0070】
まず、ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリンおよびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、ならびに、前記のモノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、およびこれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0071】
次に、ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開
環重合することによって得られるポリオールなどを挙げることができる。
【0072】
ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールとしては、例えば、「エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1
,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール」などの直鎖アルキレングリコールや、「ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール」などの分岐アルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコール、などから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0073】
一方、ポリエステル系ポリオールに用いられる多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸などからなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0074】
そして、ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、あるいはポリオールとジアリールカーボネートなど、ポリオールとカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0075】
ポリカーボネート系ポリオールに用いられるポリオールとしては、ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールを用いることができる。一方、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートなどを用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを用いることができる。
【0076】
なお、本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は、500以上5000以下であることが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、シート状物の風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしてのポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。
【0077】
(b)有機ジイソシアネート
本発明で好ましく用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0078】
前記の炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記することがある)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5−ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0079】
前記の炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、および2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0080】
前記の炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、および2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0081】
前記の炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m−および/またはp−キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0082】
これらのうち、より好ましい有機ジイソシアネートは、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(以下、水添MDIと略することがある。)である。
【0083】
(c) 親水性基を有する活性水素成分含有化合物
本発明で好ましく用いられる親水性基を有する活性水素成分含有化合物としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。これらの活性水素成分含有化合物は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。この親水性基を有する活性水素成分含有化合物を用いることによって、シート状物の製造方法で用いられる水分散液の安定性を高めることができる。
【0084】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250〜9000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0085】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0086】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3−ジメチルアミノプロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0087】
(d)鎖伸長剤
本発明で好ましく用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4−ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0088】
これらのうち、より好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0089】
(e)水分散型ポリウレタン樹脂の構成
前記のとおり、本発明で好ましく用いられる水分散型ポリウレタン樹脂は、前記の高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させることによって調製される。
【0090】
(f)高分子弾性体前駆体の構成
本発明に係る高分子弾性体前駆体は、ポリエーテルジオールおよび/またはポリカーボネートジオールを構成成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において、「AがBを構成成分として含有する」とは、「Aを構成するモノマー成分、オリゴマー成分として、Bを含有する」ことを指す。
【0091】
本発明に係る高分子弾性体前駆体がこのポリエーテルジオールを構成成分として含有することによって、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れる高分子弾性体とすることができる。一方、ポリカーボネートジオールを構成成分として含有することによって、そのカーボネート基の有する高い凝集力により、耐水性、耐熱性、耐候性に優れる高分子弾性体とすることができる。
【0092】
本発明に用いられる高分子弾性体前駆体の数平均分子量は、20000以上500000以下が好ましい。20000以上、より好ましくは30000以上であることによって、高分子弾性体の強度を高くできる。一方、500000以下、より好ましくは150000以下であることによって、粘度の安定性を高め、作業性を向上させることができる。
【0093】
前記の高分子弾性体前駆体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることができ、例えば次の条件で測定される。
・機器:東ソー株式会社製「HLC−8220」
・カラム:東ソーTSKgel α−M
・溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
・温度:40℃
・校正:ポリスチレン。
【0094】
(2)架橋剤
続いて、本発明に係る架橋剤は、カルボジイミド基、イソシアネート基、オキサゾリン基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する高分子化合物を用いることができる。
【0095】
特に、高分子弾性体前駆体として水分散型ポリウレタン樹脂を用いる場合には、カルボジイミド基を含有するカルボジイミド架橋剤および加熱によりイソシアネート基が発現するブロックイソシアネート架橋剤を用い、N−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を形成することが好ましい。このようにすることで、シート状物中の高分子弾性体の分子内に、耐光性や耐熱性、耐摩耗性等の物性、および柔軟性に優れるN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合によって3次元架橋構造を付与させることができ、シート状物の柔軟性を保持しながら、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることができる。
【0096】
(3)高分子弾性体
本発明のシート状物
の高分子弾性体は、前記の高分子弾性体前駆体と架橋剤とが反応して形成されるものである。この反応によって、本発明の高分子弾性体は、高分子弾性体前駆体由来の親水性基と、さらに、N−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合とを有するものとなる。これらの結合を有することによって、前記のとおり、シート状物の柔軟性を保持しながら、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることができる。
【0097】
なお、高分子弾性体に上記のN−アシルウレア基やイソウレア基が存在することは、シート状物の断面に対して、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS分析)等のマッピング処理(分析機器としては、例えば、ION−TOF社製「TOF.SIMS 5」など)や赤外分光分析(分析機器としては、例えば、日本分光株式会社製「FT/IR 4000 series」など)を行えば分析可能である。
【0098】
本発明に係る高分子弾性体は、ポリエーテルジオールおよび/またはポリカーボネートジオールを構成成分として含有することが好ましい。
【0099】
本発明に係る高分子弾性体がこのポリエーテルジオールを構成成分として含有することによって、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れる高分子弾性体とすることができる。一方、ポリカーボネートジオールを構成成分として含有することによって、そのカーボネート基の有する高い凝集力により、耐水性、耐熱性、耐候性に優れる高分子弾性体とすることができる。
【0100】
本発明のシート状物において、前記の高分子弾性体が、構成成分としてポリエーテルジオールを含む、高分子弾性体Aと、構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、高分子弾性体Bとからなることが好ましい。柔軟性に優れる構成成分としてポリエーテルジオールを含む、高分子弾性体Aと、光や熱などの外的刺激に対する耐久性に優れる構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、高分子弾性体Bの両者をシート状物内部に含むことで、柔軟かつ耐久性に優れるシート状物が得られやすくなる。
【0101】
本発明で用いられる親水性基を有する高分子弾性体は、シート状物中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくはシート状物の少なくとも片面に立毛を有する観点から、繊維質基材の内部に存在していることが好ましい態様である。
【0102】
[シート状物]
本発明のシート状物は、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験法」の「8.21 剛軟度」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が、40mm以上140mm以下である。剛軟度をこの範囲とすることで、適度な柔軟性と反発性を有するシート状物とすることができる。この剛軟度を50mm以上、より好ましくは55mm以上とすることで、より
反発性のあるシート状物とすることができる。一方、剛軟度を120mm以下、より好ましくは110mm以下とすることで、より柔軟性のあるシート状物とすることができる。
【0103】
本発明のシート状物における「縦方向」とは、シート状物の製造工程において、シート状物に対して起毛処理を行った方向のことをいう。起毛処理を行った方向の探索方法としては、指でなぞった時の目視確認やSEM撮影などシート状物の構成成分に応じて適宜採用することができる。すなわち、指でなぞった際、立毛繊維を寝かせたり、立たせたりすることができる方向が縦方向となる。また、指でなぞったシート状物の表面をSEM撮影することで寝た立毛繊維の向きが最も多い方向が縦方向となる。一方で、本発明のシート状物における横方向とは、縦方向に対してシート状物面内における垂直方向のことを横方向という。
【0104】
また、本発明のシート状物は、N,N−ジメチルホルムアミドに24時間浸漬後のJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」に記載のE法(マーチンデール法)で規定される押圧荷重12.0kPa、摩擦回数20000回における摩耗試験において4級以上であり、摩耗減量が25mg以下である。N,N−ジメチルホルムアミドに24時間浸漬後の表面品位級数および摩耗減量がこの範囲内であることによって、有機溶剤、酸、アルカリ液または太陽光に晒されるような過酷な環境で長期間使用しても高分子弾性体の低分子化を抑制でき、シート状物の外観を維持することができる。この摩耗減量は、シート状物の外観の劣化を抑制できることから23mg以下であることが好ましく、20mg以下であることがより好ましい。
【0105】
また、本発明のシート状物は、湿潤時の引張強力が乾燥時の75%以上であることが好ましい。湿潤時の引張強力がこの範囲内であることで、染色および後加工時での物性の低下を抑えることができ、製品の耐久性をより高めることができる。湿潤時の引張強力は、より好ましくは77%以上、さらに好ましくは80%以上とすることで、さらにシート状物の劣化を抑制できる。
【0106】
さらに、本発明のシート状物は、湿潤時の引張強伸度が乾燥時の100%以上であることが好ましい。湿潤時の引張強伸度がこの範囲内であることで、染色および後加工時での物性の低下を抑えることができ、製品の耐久性をより高めることができる。湿湿潤時の引張強伸度は、より好ましくは105%以上、さらに好ましくは110%以上とすることで、さらにシート状物の劣化を抑制できる。
【0107】
なお、本発明において、シート状物の乾燥時あるいは湿潤時の引張強力、引張強伸度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」に準じて、以下の手順で測定し、算出される値を指す。
(A)乾燥時
(1) 室温18℃以上28℃以下、湿度35%以上75%以下の条件下で1時間以上静置する。
(2) シート状物から幅20mm、長さ300mm(うち、つかみ間隔200mm)の縦方向の試験片を5枚採取する。
(3) 試験片を初荷重(試験片を手でたるみが生じない程度に引っ張った状態の荷重)で定速伸長型引張試験機につかみ間隔200mmで取り付ける。
(4) 100mm/分の引張速度で試験片が切断するまで荷重を加える。
(5) 試験片の最大荷重時の強さ(N)を0.1N単位まで測定するとともに、最大荷重時の伸びを1mmまで測定する。この伸びから伸び率を求める。
(6) 各試験片について同様に測定し、最大荷重時の強さ(N)を試験片幅(cm)で除した値の算術平均値を引張強力(N/cm)、伸び率の算術平均値を引張強伸度(%)とする。
(B)湿潤時
(1) 室温18℃以上28℃以下、湿度35%以上75%以下の条件下で1時間以上静置する。
(2) シート状物を常温の水に10分間浸漬させる。
(3) シート状物から幅20mm、長さ300mm(うち、つかみ間隔200mm)の縦方向の試験片を5枚採取する。
(4) 試験片を初荷重(試験片を手でたるみが生じない程度に引っ張った状態の荷重)で定速伸長型引張試験機につかみ間隔200mmで取り付ける。
(5) 100mm/分の引張速度で試験片が切断するまで荷重を加える。
(6) 試験片の最大荷重時の強さ(N)を0.1N単位まで測定するとともに、最大荷重時の伸びを1mmまで測定する。この伸びから伸び率を求める。
(7) 各試験片について同様に測定し、最大荷重時の強さ(N)を試験片幅(cm)で除した値の算術平均値を引張強力(N/cm)、伸び率の算術平均値を引張強伸度(%)とする。
【0108】
また、湿潤時の引張強力保持率および湿潤時の引張強伸度保持率を以下のように定義する
湿潤時の引張強力保持率(%)=湿潤時の引張強力(N/cm)/乾燥時の引張強力(N/cm)×100
湿潤時の引張強伸度保持率(%)=湿潤時の引張強伸度(%)/乾燥時の引張強伸度(%)×100。
【0109】
本発明のシート状物は、さらに、シート状物の起毛面を150℃に加熱したホットプレート上に載置し、押圧荷重2.5kPaで10秒間押圧した際のL値の保持率(以下、単にL値保持率と略することがある)が90%以上100%以下であることが好ましい。中でも、L値保持率が90%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であることによって、シート状物が高い耐熱性を有するものとなる。
【0110】
なお、本発明において「シート状物の起毛面」とは、シート状物に対して起毛処理を行った表面のことを指す。また、L値とは、国際照明委員会(Commission International on Illumination、CIE)が定義したL値のことであるが、本発明におけるL値保持率とは、加熱・押圧条件下での明度の変化の割合が小さい、すなわち、加熱・押圧前に明るい色彩を有するシート状物が、加熱・押圧後にどの程度暗くならないかを指す指標である。
【0111】
なお、本発明において、L値保持率は、以下のように手順で測定し、算出される値を指す。
(1) シート状物を裁断し、裁断した試験片のL値を色差計(例えば、コニカミノルタ株式会社製「CR−410」など)を用いて測定する。
(2) 試験片の起毛面を下にして、試験片を150℃に熱したホットプレート(例えば、アズワン株式会社製「CHP−250DN」など)上に載置する。
(3) 試験片上に、押圧荷重が2.5kPaとなるように調整した圧子を載置し、10秒間保持する。
(4) 試験片上の圧子を外し、試験片の起毛面のL値を前記の色差計で測定する。
(5) L値保持率を以下の式より算出する。
【0112】
L値保持率(%)=((1)で測定されるL値)/((4)で測定されるL値)×100
本発明のシート状物は、さらに、ISO 6330 C4N法に従う洗濯試験時において、前記のシート状物1枚の洗濯試験を実施し、試験後に排水ホースに取り付けた捕集袋に付着した繊維屑を、メンブレンフィルターを用いて捕集した場合の繊維屑量が10.0(mg/シート状物100cm
2)以下とすることもできる。中でも、8.0(mg/シート状物100cm
2)以下、より好ましくは6.0(mg/シート状物100cm
2)以下、さらに好ましくは5.0(mg/シート状物100cm
2)以下であることによって、シート状物が洗濯時に繊維脱落が少なく、環境負荷の少ないものとなる。
【0113】
なお、本発明において、ISO 6330 C4N法に従う洗濯試験時において、前記のシート状物1枚の洗濯試験を実施し、試験後に排水ホースに取り付けた捕集袋に付着した繊維屑を、メンブレンフィルターを用いて捕集した場合の繊維屑量は、以下のように手順で測定し、算出される値を指す。まず、洗濯機に被洗物、洗剤を入れずにISO 6330 C4N法に従い、洗濯を行い、洗濯機を洗浄する。次に、洗濯機の排水ホースに目開き10μmの“ナイロンスクリーン” NY10−HC(フロン工業株式会社製)を用いて製造した捕集袋を取り付けた状態で、評価するシート状物1枚を洗濯機に入れ、ISO 6330 C4N法に従い、洗濯を行う。ただし、洗剤と負荷布は使用しないものとする。洗濯後、“ナイロンスクリーン”に付着した繊維屑を、あらかじめ重量を測定したポリカーボネートメンブレン(K040A047A アドバンテック東洋株式会社)を用いて吸引濾過する。濾過後のポリカーボネートメンブレンと繊維屑を105℃で1時間乾燥、重量を測定し、濾過前の重量との差を洗濯時の繊維屑量とする。
【0114】
剛軟度や、N,N−ジメチルホルムアミド処理後の摩耗級数および減量や、湿潤時の引張強力や湿潤時の引張強伸度、L値保持率、洗濯時の繊維屑量を上記の範囲になるようにするためには、例えば、後述する第1の高分子弾性体前駆体含浸工程、極細繊維発現工程、第2の高分子弾性体前駆体含浸工程を経てシート状物を製造することが挙げられる。第1の高分子弾性体前駆体を含浸させた後に、極細繊維発現工程を経ることで、極細繊維と高分子弾性体の間隙に作ることができ、柔軟な風合いが得られやすくなる。また、極細繊維発現後に第2の高分子弾性体前駆体含浸工程を経ることで、1度目に付与した高分子弾性体を補強でき、耐薬品性や耐染色性を向上させやすくすることができる。さらに、水分散液の感熱凝固温度を後述の範囲とすることで水分蒸発に伴うポリウレタンのシート状物表面への偏在(マイグレーション)を抑制し、ポリウレタンの熱プレスによる劣化を抑制し、L値保持率を高くすることができる。
【0115】
本発明のシート状物は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【0116】
[シート状物の製造方法]
本発明のシート状物の製造方法は、下記(1)〜(3)の工程をこの順に含む。
(1) 極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、次いで水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行って高分子弾性体を形成させる第1の高分子弾性体前駆体含浸工程であって、前記の水分散液における1価陽イオン含有無機塩の含有量を高分子弾性体前駆体100質量部に対して10質量部以上100質量部以下とする、第1の高分子弾性体前駆体含浸工程
(2) 前記の極細繊維発現型繊維から極細繊維を発現させて前記の極細繊維からなる極細繊維質基材を形成する、極細繊維発現工程
(3) 前記の極細繊維からなる繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、次いで水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行って、さらに高分子弾性体を形成させる第2の高分子弾性体前駆体含浸工程であって、前記の水分散液における1価陽イオン含有無機塩の含有量が高分子弾性体前駆体100質量部に対して10質量部以上100質量部以下とする、第2の高分子弾性体前駆体含浸工程
以下に、これについて、詳細を順に説明する。
【0117】
(1)第1の高分子弾性体前駆体含浸工程
本工程では、極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、次いで水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行って高分子弾性体を形成させる。
【0118】
(1−a)水分散液
まず、本工程で用いられる水分散液は、前記の親水性基を有する高分子弾性体前駆体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤とを含有する。
【0119】
この水分散液における高分子弾性体前駆体の濃度は、水分散液中5質量%以上50質量%以下が好ましい。高分子弾性体前駆体の水分散液中の濃度を5質量%以上、より好ましくは10質量%以上とすることで、凝集性が良好となり、高分子弾性体が大きな固まりで凝集し、良好な耐摩耗性となる。一方、前記の濃度を50質量%以下、より好ましくは40質量%以下とすることで、高分子弾性体を繊維質基材に均一に付与することができる。
【0120】
次に、前記の水分散液は、1価陽イオン含有無機塩を含有する。1価陽イオン含有無機塩を含有することで、水分散液に感熱凝固性を付与することができる。本発明において、感熱凝固性とは、水分散液を加熱した際に、ある温度(以降、この温度を感熱凝固温度と称する)に達すると水分散液の流動性が減少し、凝固する性質のことをいう。
【0121】
この水分散液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましい。乾熱凝固温度を55℃以上、より好ましくは60℃以上とすることで、水分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時の製造設備への高分子弾性体の付着等を抑制することができる。一方、乾熱凝固温度を80℃以下、より好ましくは70℃以下とすることで、高分子弾性体が水分の蒸発とともに繊維質基材の表面に移行する、マイグレーション現象を抑制することができ、さらに、繊維質基材からの水分蒸発前に高分子弾性体の凝固が進行することで、高分子弾性体が強く繊維を拘束しない構造を形成することができ、良好な柔軟性、反発感を達成することが可能である。
【0122】
この1価陽イオン含有無機塩は、好ましくは塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムである。従来手法においては、感熱凝固剤としては硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩が好適に用いられてきた。しかしながら、これらの無機塩は少量の添加によっても水分散液の安定性に大きく影響するため、高分子弾性体前駆体の種類によっては、その添加量を調整することによる感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難であり、また、水分散液の調整時や貯蔵時にゲル化してしまうことがあるなどの点で課題がある。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、水分散液の安定性への影響が比較的小さく、添加量を調整することで水分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御することができる。
【0123】
この水分散液において、1価陽イオン含有無機塩は、水分散液中の高分子弾性体前駆体100質量部に対して10質量部以上100質量部以下となる量が含有される。この含有される量を10質量部以上とすることで、水分散液中に多量に存在するイオンが、高分子弾性体粒子に均一に作用することで、特定の感熱凝固温度において速やかに凝固を完了させることができる。これによって、繊維質基材中に多量の水分を含有した状態で高分子弾性体凝固を進行させることができるようになる。この結果、天然皮革に類似した良好な柔軟性、反発感を達成することが可能である。さらに、前記の含有量を上記の範囲とすることで、高分子弾性体が過度に凝集・硬化してしまうことを抑制し、高分子弾性体の膜状物が形成されてしまうことも抑制できる。一方で、前記の含有量を100質量部以下とすることで、高分子弾性体が適度なサイズで硬化されるため、物性の低下を抑えることができる。また水分散液の安定性も保持することができる。
【0124】
次に、前記の水分散液は、架橋剤を含有する。架橋剤を用いることによって、高分子弾性体が3次元網目構造を有するものとなり、シート状物が耐摩耗性等に優れたものとなる。さらに前述の1価陽イオン含有無機塩と併用することで、高分子弾性体前駆体の凝固と高分子弾性体前駆体と架橋剤の反応を同時に進行させることで、密な3次元網目構造の形成と繊維の接着構造制御とが可能となり、シート状物をより柔軟なものにすることができ、かつ、シート状物の高物性化や高耐光性、高耐熱性も達成可能となる。
【0125】
なお、水分散液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン系溶媒などの水溶性有機溶剤を水分散液100質量%中に40質量%以下含有していてもよい。ただし、作業環境の保全の観点や排水処理回収の観点等から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0126】
(1−b)加熱乾燥処理
本工程では、前記の極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材に、前記の水分散液を含浸せしめ、次いで水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行い、高分子弾性体を形成させる。
【0127】
この加熱乾燥処理における繊維質基材の温度は、100℃以上180℃以下とする。繊維質基材の温度を100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上とすることにより、高分子弾性体前駆体を速やかに凝固させ、自重によるシート下面に高分子弾性体が偏在してしまうことを抑制できる。また、高分子弾性体前駆体と架橋剤との架橋反応を十分に促進し、3次元網目構造を形成させ、シート状物の物性や耐光性、耐熱性を向上させることができる。一方、繊維質基材の温度を180℃以下、好ましくは175℃以下とすることで、高分子弾性体が熱劣化してしまうことを抑制することができる。
【0128】
(2)極細繊維発現工程
本工程では、前記の極細繊維発現型繊維から極細繊維を発現させて前記の極細繊維からなる繊維質基材を形成する。
【0129】
第1の高分子弾性体前駆体含浸工程後に、すなわち、1回、高分子弾性体を付与した後に極細繊維を発現させることで、例えば、極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維であるときには、島成分が溶解されてできる空隙を形成させることができるため、高分子弾性体が極細繊維を強固に拘束することがなくなり、シート状物の風合いがより柔軟なものとなる。
【0130】
この工程において、極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維である場合には、繊維極細化処理(脱海処理)は、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。
【0131】
この極細繊維発現工程では、極細繊維の発現に、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機などの装置を用いることができる。
【0132】
また、極細繊維発現工程後において、アルカリ水溶液などを用いた場合には、その処理後に十分な洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程を経ることでシート状物に付着したアルカリや過剰な1価陽イオン含有無機塩をシートに残存させることなく加工でき、生産設備への影響を与えず加工できる。洗浄液は環境面や安全性を考慮すると水を用いることが好ましい。
【0133】
(3)第2の高分子弾性体前駆体含浸工程
本工程では、極細繊維からなる繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と、1価陽イオン含有無機塩と、架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、次いで水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行って、さらに高分子弾性体を形成させる。
【0134】
本工程で用いられる水分散液は、第1の高分子弾性体前駆体含浸工程で用いられる水分散液と同様である。前記のとおり、同一の高分子弾性体前駆体を用いてもよいし、異なる高分子弾性体前駆体を用いてもよい。好ましくは、第1の高分子弾性体前駆体が構成成分としてポリエーテルジオールを含む、高分子弾性体前駆体Aであり、第2の高分子弾性体前駆体が構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、高分子弾性体前駆体Bとからなる態様である。柔軟性に優れる構成成分としてポリエーテルジオールを含む、高分子弾性体Aと、光や熱などの外的刺激に対する耐久性に優れる構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、高分子弾性体Bの両者をシート状物内部に含むことで、柔軟かつ耐久性に優れるシート状物が得られやすくなる。
【0135】
また、本工程における加熱乾燥処理も、第1の高分子弾性体前駆体含浸工程で行われる加熱乾燥処理と同様である。
【0136】
(4)その他の工程
本発明では、シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1mm以下とすることが好ましい。
【0137】
本発明のひとつの態様において、シート状物は、染色することができる。染色方法としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができる。シート状物の染色と同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いる方法が好ましい。
【0138】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、高分子弾性体の劣化を防ぐことができる。
【0139】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0140】
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【実施例】
【0141】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0142】
[評価方法]
(1)極細繊維の平均単繊維直径:
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VE−7800型」を用いてシート状物を構成する極細繊維を3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径をμm単位で、小数第1位まで測定した。
【0143】
(2)シート状物の剛軟度(柔軟性):
JIS L1096:2010「織物および編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」の8.21.1に記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、縦方向へ2×35cmの試験片を5枚作成し、45°の角度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。
【0144】
(3)水分散液の感熱凝固温度:
各実施例、比較例で調製される水分散液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込んだ後、試験管を封止し、95℃の温度の温水浴に水分散液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬した。温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げて水分散液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺すり、水分散液の液面が流動性を失った温度を水分散液の感熱凝固温度とした。この測定を、水分散液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出した。
【0145】
(4)高分子弾性体中の結合種の同定:
上記シート状物より分離した高分子弾性体について、日本分光株式会社製「FT/IR 4000 series」を用いて、赤外分光分析により結合種を同定した。
【0146】
(5)シート状物の外観品位:
得られたシート状物の表面品位は10人のパネラーによる評価で行い、下記の基準で評価して、最も人数の多かった評価結果を採用した。なお、表面品位の評価は、
図1に示すように床面1と平行の位置にある検査台2の上にシート状物3を置き、目視確認する位置とシート状物とを結ぶ線4の距離が50cmとなるように、シート状物3に対して検査台平面から45°の角度でシート状物3を目視確認して判断した。また、検査台には、検査台上面から垂直方向に150cm上部に32Wの蛍光灯6が設置されていた。その蛍光灯6の真下、すなわち、シート状物から蛍光灯への垂線7を引くことができる位置にシート状物3を置いて表面品位評価を実施した。外観品位は、4級〜5級を良好であるものとした。
5級:均一な繊維の立毛があり、繊維の分散状態は良好で、外観は良好であった。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:繊維の分散状態はやや良くない部分があったが、繊維の立毛はあり、外観はまずまず良好であった。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:繊維の立毛は少なく、また、全体的に繊維の分散状態は非常に悪く、外観は不良であった。
【0147】
(6)DMF処理後のシート状物の摩耗評価(耐薬品性):
摩耗評価に用いるマーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.社製の「Model 406」を用い、標準摩擦布として同社の「ABRASTIVE CLOTH SM25」を用いた。評価基準は、シート状物の外観が摩耗前と全く変化が無かったものを5級とし、直径1mm以上の毛玉が30個以上発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。また、摩耗前後のシート状物の質量を用いて、下記の式により、摩耗減量を算出した。
【0148】
摩耗減量(mg)=摩耗前の質量(mg)−摩耗後の質量(mg)
(7)湿潤時の引張強力保持率および引張強伸度保持率(耐染色性):
定速伸長型引張試験機として、Illinois Tool Works Inc.製「Instron 3343」を用いた。
【0149】
(8)シート状物中に含まれる無機塩種および含有量の測定:
シート状物をN,N−ジメチルホルムアミドに一晩浸漬させ、高分子弾性体および無機塩を溶出させた溶液を140℃での加熱乾燥により濃縮し、固形化させた。得られた固形物に対し、蒸留水を加え、無機塩のみを溶出させた。この無機塩を含む水溶液を加熱乾燥した上で、シート状物中に含まれる無機塩の量を測定した。また、固形化した高分子弾性体についても加熱乾燥の上、重量を測定し、高分子弾性体質量対比での無機塩重量を算出した。ただし、数値の有効性の観点から高分子弾性体対比で0.1質量%未満は、検出下限未満とする。
【0150】
無機塩の種類については、上記無機塩を含む水溶液に対して、ダイオネクス社製「ICS−3000型」のイオンクロマトグラフ装置を用いて同定した。
【0151】
(9)L値保持率(耐熱性):
ホットプレートとして、アズワン株式会社製「CHP−250DN」を用い、色差計として、コニカミノルタ株式会社製「CR−410」を用い、前記の方法によって測定、算出を行った。
【0152】
(10)洗濯時の繊維屑量:
シート状物から10cm×10cm(100cm
2)の試験片を切り出し、前記の方法にて洗濯試験を実施し、繊維屑量を算出した。測定は2回行い、その平均値を洗濯時の繊維屑量とした。
【0153】
[製造例1: 高分子弾性体前駆体aの水分散液Waの調製]
高分子ポリオールとして数平均分子量(Mn)が2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、有機ジイソシアネートとしてMDI、親水性基を有する活性水素成分含有化合物として、2,2−ジメチロールプロピオン酸を用い、トルエン溶媒中でプレポリマーを作成した。さらに、鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミン、外部乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水を添加して、攪拌した。減圧化でトルエンを除去して、高分子弾性体前駆体aの水分散液Waを得た。なお、高分子弾性体前駆体aは、高分子弾性体Aに対応する高分子弾性体前駆体である。
【0154】
[製造例2:高分子弾性体前駆体bの水分散液Wbの調製]
高分子ポリオールとして数平均分子量(Mn)が2000のポリヘキサメチレンカーボネート、有機ジイソシアネートとして水添MDI、親水性基を有する活性水素成分含有化合物として、側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物および2,2−ジメチロールプロピオン酸を用い、アセトン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミンと水を添加して、攪拌した。減圧化でアセトンを除去して高分子弾性体前駆体bの水分散液Wbを得た。なお、高分子弾性体前駆体bは、高分子弾性体Bに対応する高分子弾性体前駆体である。
【0155】
[実施例1]
(極細繊維発現型不織布)
海成分として、5−スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が20質量%で島成分が80質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により不織布とした。このようにして得られた不織布を、97℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させた。
【0156】
(第1の高分子弾性体樹脂の付与)
高分子弾性体前駆体aを100質量部として、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム(表1では「Na
2SO
4」と記載)を35質量部添加し、カルボジイミド系架橋剤を3質量部加え、水によって全体を固形分11質量%となるように、高分子弾性体前駆体aを含む水分散液Waを調製した。感熱凝固温度は、65℃であった。得られた繊維質基材用不織布を、前記の水分散液に浸漬し、次いで160℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、繊維重量に対して高分子弾性体Aが10質量%付与された高分子弾性体付与不織布を得た。
【0157】
(繊維極細化)
得られた高分子弾性体付与不織布を、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなるシート(高分子弾性体付与極細繊維不織布)を得た。
【0158】
(第2の高分子弾性体樹脂の付与)
高分子弾性体前駆体bを100質量部として、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加し、カルボジイミド系架橋剤を3質量部加え、水によって全体を固形分11質量%となるように、高分子弾性体前駆体bを含む水分散液Wbを調製した。感熱凝固温度は、65℃であった。得られた繊維質基材用不織布を、前記の水分散液に浸漬し、次いで160℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、繊維重量に対して高分子弾性体Bが10質量%付与された高分子弾性体付与不織布を得た。
【0159】
(半裁と起毛)
得られた高分子弾性体樹脂付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.7mmの立毛を有するシート状物を得た。
【0160】
(染色と仕上げ)
得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は84mm、表面品位は5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4.5級/摩耗減量7.6mg、湿潤時の引張強力保持率83%/引張強伸度保持率119%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。ここで、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有するとは、高分子弾性体がN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有することを表す。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は97%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は2.9(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0161】
[実施例2]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、架橋剤としてカルボジイミド系架橋剤を3質量部加えていたところを、ブロックイソシアネート系架橋剤を3質量部添加することに変えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は94mm、表面品位は5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4.5級/摩耗減量7.8mg、湿潤時の引張強力保持率81%/引張強伸度保持率119%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は93%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は3.1(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0162】
[実施例3]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、架橋剤としてカルボジイミド系架橋剤を3質量部加えていたところを、ブロックイソシアネート系架橋剤を3質量部添加することに変えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は89mm、表面品位は5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4.5級/摩耗減量8.5mg、湿潤時の引張強力保持率80%/引張強伸度保持率114%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は94%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は3.4(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0163】
[実施例4]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、高分子弾性体前駆体として高分子弾性体前駆体bを用いていたところを、高分子弾性体前駆体aを用いることに変えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は82mm、表面品位は4.5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量8.8mg、湿潤時の引張強力保持率77%/引張強伸度保持率122%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は93%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は3.4(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0164】
[実施例5]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、高分子弾性体前駆体として高分子弾性体前駆体aを用いていたところを、高分子弾性体前駆体bを用いることに変えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は98mm、表面品位は4級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4.5級/摩耗減量7.7mg、湿潤時の引張強力保持率84%/引張強伸度保持率111%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は96%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は2.8(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0165】
[実施例6]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを12質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を70℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は94mm、表面品位は4級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量7.7mg、湿潤時の引張強力保持率83%/引張強伸度保持率117%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は90%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は2.8(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0166】
[実施例7]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを86質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を60℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は80mm、表面品位は4級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量13.5mg、湿潤時の引張強力保持率80%/引張強伸度保持率115%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は91%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は5.4(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0167】
[実施例8]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを12質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を70℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は98mm、表面品位は4級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量8.0mg、湿潤時の引張強力保持率83%/引張強伸度保持率114%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は91%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は2.6(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0168】
[実施例9]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを86質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を60℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は88mm、表面品位は4級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量14.1mg、湿潤時の引張強力保持率81%/引張強伸度保持率113%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は93%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は5.8(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0169】
[実施例10]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを塩化ナトリウム(表1では「NaCl」と記載)を30質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を65℃に調整し、さらに、(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを塩化ナトリウムを30質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を65℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は86mm、表面品位は5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4.5級/摩耗減量7.4mg、湿潤時の引張強力保持率83%/引張強伸度保持率119%であり、柔軟な風合いと優れた耐薬品性および耐染色性を有していた。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。さらに、L値保持率は96%であり、優れた耐熱性を有していた。また、洗濯時の繊維屑量は2.9(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであった。
【0170】
[比較例1]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)の工程を経ないこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は81mm、表面品位は5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数2級/摩耗減量33.5mg、湿潤時の引張強力保持率72%/引張強伸度保持率103%であり、柔軟な風合いであり、L値保持率も93%と優れた耐熱性を有していたが、耐薬品性および耐染色性が劣位であった。また、洗濯時の繊維屑量は12.5(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の大きいものであった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0171】
[比較例2]
比較例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、高分子弾性体前駆体として高分子弾性体前駆体bを用いたこと以外は、比較例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は92mm、表面品位は3.5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数2級/摩耗減量29.9mg、湿潤時の引張強力保持率73%/引張強伸度保持率101%であり、柔軟な風合いであり、L値保持率も94%と優れた耐熱性を有していたが、耐薬品性および耐染色性が劣位であった。また、洗濯時の繊維屑量は11.4(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の大きいものであった。なお、高分子弾性体内部にポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0172】
[比較例3]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤の添加をしなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は150mm以上、表面品位は2級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量7.4mg、湿潤時の引張強力保持率84%/引張強伸度保持率109%であり、耐薬品性および耐染色性は良好であり、洗濯時の繊維屑量は2.8(mg/シート状物100cm
2)であって、環境負荷の小さいものであったものの、硬い風合いであった。さらに、L値保持率は84%であり、耐熱性は十分なものではなかった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0173】
[比較例4]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤の添加をしなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は150mm以上、表面品位は2級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量7.1mg、湿潤時の引張強力保持率82%/引張強伸度保持率110%であり、耐薬品性および耐染色性は良好であり、洗濯時の繊維屑量は3.0(mg/シート状物100cm
2)であって、環境負荷の小さいものであったものの、硬い風合いであった。さらに、L値保持率は86%であり、耐熱性は十分なものではなかった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0174】
[比較例5]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを5質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を85℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は144mm、表面品位は2.5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量8.0mg、湿潤時の引張強力保持率82%/引張強伸度保持率111%であり、耐薬品性および耐染色性は良好であり、洗濯時の繊維屑量は2.6(mg/シート状物100cm
2)であって、環境負荷の小さいものであったものの、硬い風合いであった。さらに、L値保持率は85%であり、耐熱性は十分なものではなかった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0175】
[比較例6]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを120質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を50℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は84mm、表面品位は1.5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数3級/摩耗減量21.2mg、湿潤時の引張強力保持率80%/引張強伸度保持率114%であり、柔軟な風合い、良好な耐染色性であって、L値保持率も90%と一定の耐熱性を有しており、また、洗濯時の繊維屑量は8.8(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の小さいものであったが、耐薬品性および品位が劣位であった。なお、高分子弾性体内部にN−アシルウレア結合とイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0176】
[比較例7]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを5質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を85℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は148mm、表面品位は2.5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数4級/摩耗減量7.8mg、湿潤時の引張強力保持率77%/引張強伸度保持率120%であり、耐薬品性および耐染色性は良好であり、洗濯時の繊維屑量は2.6(mg/シート状物100cm
2)であって、環境負荷の小さいものであったものの、硬い風合いであった。さらに、L値保持率は87%であり、耐熱性は十分なものではなかった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0177】
[比較例8]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを120質量部添加することに変えて、感熱凝固温度を50℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は86mm、表面品位は1.5級、DMF処理後の耐摩耗性は級数3級/摩耗減量32.7mg、湿潤時の引張強力保持率74%/引張強伸度保持率113%であり、柔軟な風合い、良好な耐染色性であるが、耐薬品性および品位が劣位であった。さらに、L値保持率は89%であり、耐熱性は十分なものではなかった。また、洗濯時の繊維屑量は12.1(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の大きいものであった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N‐アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0178】
[比較例9]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、架橋剤の添加をせず、(第2の高分子弾性体樹脂の付与)においても架橋剤の添加をしなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は96mm、表面品位は3級、DMF処理後の耐摩耗性は級数2級/摩耗減量32.0mg、湿潤時の引張強力保持率71%/引張強伸度保持率97%であり、良好な風合いであるものの、耐薬品性、耐染色性が劣位であった。さらに、L値保持率は88%であり、耐熱性は十分なものではなかった。また、洗濯時の繊維屑量は13.6(mg/シート状物100cm
2)であり、環境負荷の大きいものであった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合は存在しなかった。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0179】
[比較例10]
実施例1の(第1の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤を添加していたところを発泡剤(AIBN)を3質量%添加することに変えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は145mm、表面品位は2級、DMF処理後の耐摩耗性は級数3級/摩耗減量19.5mg、湿潤時の引張強力保持率77%/引張強伸度保持率107%であり、耐染色性に優れ、洗濯時の繊維屑量は9.1(mg/シート状物100cm
2)であって、環境負荷の小さいものであったものの、風合い、品位、耐薬品性が劣位であった。さらに、L値保持率は88%であり、耐熱性は十分なものではなかった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0180】
[比較例11]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、高分子弾性体前駆体としてDMFに溶解しているポリカーボネート系高分子弾性体前駆体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物の剛軟度は97mm、表面品位は3級、DMF処理後の耐摩耗性は級数2級/摩耗減量42.7mg、湿潤時の引張強力保持率81%/引張強伸度保持率118%であり、柔軟な風合いと優れた耐染色性を有しており、洗濯時の繊維屑量は2.7(mg/シート状物100cm
2)であって、環境負荷の小さいものであったが耐薬品性が劣位であった。さらに、L値保持率は88%であり、耐熱性は十分なものではなかった。なお、高分子弾性体内部にポリエーテル結合、ポリカーボネート結合、N−アシルウレア結合およびイソウレア結合が存在した。また、高分子弾性体内部の無機塩量は検出下限未満であった。
【0181】
[比較例12]
実施例1の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加していたところを硫酸マグネシウム(表1では「MgSO
4」と記載)を35質量部添加することに変え、カルボジイミド系架橋剤3質量%加え、水によって全体を固形分11質量%に調製し、高分子弾性体aを含む水分散液を得たが、加工中に不織布表面でゲル化し、不織布に高分子弾性体を付与することができなかった。
【0182】
上記の実施例1〜10および比較例1〜12の結果を、表1〜4にまとめて示す。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
本発明のシート状物は、極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有するシート状物であって、前記極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10.0μm以下であり、前記高分子弾性体が親水性基とN−アシルウレア結合および/またはイソウレア結合とを有し、以下の条件1および条件2を満たす。
条件1:JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.21 剛軟度」に記載のA法(45°カンチレバー法)にて規定される縦方向の剛軟度が、40mm以上140mm以下である。
条件2:N,N−ジメチルホルムアミドに24時間浸漬後のJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」に記載のE法(マーチンデール法)で規定される押圧荷重12.0kPa、摩擦回数20000回における摩耗試験において4級以上であり、摩耗減量が25mg以下である。