特許第6904525号(P6904525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 同済大学の特許一覧

<>
  • 特許6904525-水中の塩化物を除去する方法 図000003
  • 特許6904525-水中の塩化物を除去する方法 図000004
  • 特許6904525-水中の塩化物を除去する方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904525
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】水中の塩化物を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20210708BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C02F1/72 Z
   C02F1/70 Z
   C02F1/72 101
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-217660(P2019-217660)
(22)【出願日】2019年12月1日
(65)【公開番号】特開2020-124701(P2020-124701A)
(43)【公開日】2020年8月20日
【審査請求日】2019年12月1日
(31)【優先権主張番号】201910099531.3
(32)【優先日】2019年1月31日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513059401
【氏名又は名称】同▲済▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】楚 文海
(72)【発明者】
【氏名】張 愛紅
(72)【発明者】
【氏名】張 迪
(72)【発明者】
【氏名】方 超
(72)【発明者】
【氏名】段 友麗
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第108341480(CN,A)
【文献】 特開2009−022940(JP,A)
【文献】 特開2009−055821(JP,A)
【文献】 特開2004−305958(JP,A)
【文献】 特開2004−057934(JP,A)
【文献】 特開2003−154362(JP,A)
【文献】 特開2000−107775(JP,A)
【文献】 特開2011−050843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70− 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
促進酸化処理において生成した強酸性のヒドロキシルラジカル又は硫酸ラジカルを利用して、塩化物イオンを酸化して活性塩素を形成するステップと、有機物又は有機物を含有する水を添加して、活性塩素を前記有機物と反応させて有機塩素を形成するステップと、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、及び吸着から選択される方法により前記有機塩素を除去するステップを含むことを特徴とする、水中の塩化物を除去する方法。
【請求項2】
塩化物を含有する水中に酸化剤を添加し、前記酸化剤を、強酸性のヒドロキシルラジカル又は硫酸ラジカルを生成するように活性化させるステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項3】
前記酸化剤と塩化物のモル比が1:10〜10:1の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項4】
前記有機物中の有機炭素と塩化物のモル比が1:1〜100:1の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項5】
前記活性塩素と有機物との反応時間が1時間〜12時間であることを特徴とする、請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項6】
前記酸化剤は、過酸化水素、過硫酸塩又はモノ過硫酸塩を含むことを特徴とする、請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項7】
原水中の塩化物濃度が100〜20000mg/Lであることを特徴とする、請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項8】
処理水のpHが3〜10であることを特徴とする、請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【請求項9】
前記有機物は、フミン酸、アミノ酸及びタンパク質から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2に記載の水中の塩化物を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理技術の分野に属し、水中の高濃度塩化物を除去する方法に関し、特に促進酸化処理(Advanced Oxidation Process:AOP)による、水中の高濃度塩化物を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
促進酸化処理の種類は非常に多く、応用範囲も非常に広い。UV/過酸化水素(UV/H)は典型的な促進酸化処理技術である。Hは、UV光の照射の下、光エネルギーを吸収して、O−O結合が切断され、強酸性のヒドロキシルラジカル(・OH)を生成するが、その酸化還元電位は2.8Vである。・OHは、有機物との反応は選択的ではなく、有機汚染物を二酸化炭素、水及び鉱物塩に酸化することができる。ほとんどの有機物と反応するときの速度定数は10〜1010L/(mol・s)の範囲であり、反応速度が速い。UV/Hが有機物を酸化する反応は、UV光による直接酸化、H又は・OHによる酸化である。・OHの有機物に対する酸化作用は、脱水素反応、求電子付加反応及び電子移動という3段階に分けて行われる。ここで、最も重要なのは脱水素反応である。
【0003】
図1は、UV/H促進酸化処理技術において、紫外線により過酸化水素を光分解して高い酸化力のヒドロキシルラジカルが大量に生成した状態を示す概略図である。
【0004】
UV/H促進酸化処理では、汚染物を効果的に分解することができ、飲料水の高度処理等広い範囲で利用できる可能性がある。
【0005】
塩化物(即ち、塩化物イオン)は、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウム塩等の形態で自然水中に広く存在する。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等である。ほぼ全ての表流水中に塩化物は存在するが、その含有量は大きく異なる。川水中の塩化物濃度は通常数ミリグラム/リットルであるが、海水中の塩化物(即ち、塩化物イオン[Cl])の含有量は19000mg/Lと高い。海水が飲料水源に侵入して水源水の塩化物濃度が基準値を超えた場合、あるいは塩化物の含有量が高い水を直接飲料水源とした場合、塩化物に対して何らかの処理を行うことが必要となる。高濃度塩化物は、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等通常のプロセスによって除去することはできない。コストが高くて操作が繁雑な逆浸透プロセスでは、ある程度塩化物を除去できるが、コストが高くなるため、応用範囲が制限される。そのため、環境に優しく、コスト調整が可能で、安全かつ有効な高濃度塩化物処理技術が求められている。
【発明の概要】
【0006】
上記従来技術の課題に対して、本発明の目的は、水中の塩化物、特に高濃度塩化物を除去する方法を提供することである。特に、促進酸化処理により水中の高濃度塩化物を除去する方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明では、無機塩化物イオンを、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等の通常のプロセスによってより除去しやすい有機塩素に変換することにより、塩化物を間接に除去するという目的を達成することができる。その原理は、促進酸化処理において生成した強酸性のヒドロキシルラジカル又は硫酸ラジカル(図1)を利用して、塩化物イオンを酸化して活性塩素(例えば、塩素ラジカル等,図2)を生成することである。さらに、フミン酸等の有機物又は有機物を含有する水を添加して、活性塩素をこれらの有機物と反応させて有機塩素を形成する(図3)。ここで、有機物量と被処理水中の塩化物イオンの含有量が一定の割合となるように、有機物の添加量を調整する。有機塩素は、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等の通常のプロセス、あるいは経済コストが低いその他の方法によって除去することができる。
【0008】
具体的な方法は以下の通りである。
高濃度塩化物に過酸化水素(H)を添加する。過酸化水素の他、過硫酸塩、モノ過硫酸塩等の酸化剤、及び上述した酸化剤を各種の金属イオンと組み合わせて形成した複合試薬等を用いることもできるが、ここでは、過酸化水素を例として説明する。投入するH溶液の量は、塩化物の濃度に応じて確定する。紫外線を照射して、一定時間反応させて過酸化水素をヒドロキシルラジカルに変換する。紫外線照射に加えて、鉄、マンガン等の金属イオンを添加する方法等によっても過酸化水素等の酸化剤を活性化させて高い酸性のヒドロキシルラジカル又は硫酸ラジカル等を生成することができる。フミン酸等の有機物を添加して、一定時間反応させる。なお、有機物は、フミン酸に限られず、アミノ酸、タンパク質及びこれら有機物を含有する水から選択される少なくとも1種を含むものであればよい。
原水中の塩化物濃度が100〜20000mg/Lであることが好ましい。
と塩化物のモル比は、1:10〜10:1の範囲に制御することが好ましい。さらに、過酸化水素の代わりに、過硫酸塩、モノ過硫酸塩等の酸化剤、及び上述した酸化剤を各種の金属イオンと組み合わせて形成した複合試薬等を使用することも可能である。含有する酸化剤成分(過酸化水素、過硫酸塩又はモノ過硫酸塩)と塩化物とのモル比を1:10〜10:1の範囲に制御すればよい。
投入後の原水中の有機物の濃度(有機炭素含有量)は1〜5mg/Lであることが好ましい。
遮光反応の温度が20±2℃であることが好ましい。
紫外線を照射して反応させる時間は1〜100分間であることが好ましい。
紫外線照射強度は1〜1000μW/cmに調整することが好ましい。
フミン酸の有機炭素と塩化物のモル比は1:1〜100:1の範囲であることが好ましい。また、有機物はフミン酸に限られず、アミノ酸、タンパク質及びこれら有機物を含有する水のいずれであってもよく、これら有機物中の有機炭素と塩化物のモル比は1:1〜100:1の範囲であることが好ましい。
フミン酸又はその他の有機物との反応時間は1時間〜12時間であることが好ましい。
【0009】
本発明では、以下の有益な効果を有する。
塩化物(即ち、塩化物イオン)は、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等の比較的低コストの通常の処理によって除去されにくいが、本発明では、無機塩化物イオンを有機塩素に変換することにより、通常の処理によって容易に除去することができる。
本発明において投入する試薬は、環境に優しく、逆浸透等の塩化物除去技術に比べてコスト低減が可能である。また、逆浸透濃縮廃水を生成することなく、操作しやすい等の特徴を有する。
反応条件が穏やかであり、適用範囲が広い。本発明の促進酸化処理による塩化物イオン除去反応が適用可能なpHは3〜10であり、反応条件が穏やかである。一般の自然水のpHは中性又は弱アルカリ性であり、浄水場で実際に前処理を実施する際に、pHを調節する必要がなく、労働力、物資、資金を節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】UV/Hを例とした促進酸化処理の概略図である。
図2】強酸性のヒドロキシルラジカルで塩化物を活性塩素に変換する反応を示す概略図である。
図3】活性塩素と有機物とを反応させて有機塩素を形成する反応を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面及び実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明では、無機塩化物イオンを、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等の通常の処理によって除去されやすい有機塩素に変換することにより、無機塩化物の間接除去を実現する。その原理は、以下のとおりである。促進酸化処理において生成した強酸性のヒドロキシルラジカル又は硫酸ラジカル(図1を参照)を利用して、塩化物イオンを酸化して活性塩素(例えば、塩素ラジカル等,図2を参照)を生成する。さらに、フミン酸等の有機物又は有機物を含有する水を添加し、活性塩素を有機物と反応させて有機塩素を形成する(図3を参照)。ここで、有機物量と被処理水中の塩化物イオンの含有量が一定の割合となるように、有機物の添加量を調整する。有機塩素は、化学的沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等の通常の処理、あるいはその他の低コストの方法で除去することができる。
【0013】
本発明に係る促進酸化処理による、高濃度塩化物の除去方法は、下記のステップを含む。
高濃度塩化物中に過酸化水素(H)を添加する。過酸化水素の他、過硫酸塩、モノ過硫酸塩等の酸化剤、及び上述した酸化剤を各種の金属イオンと組み合わせて形成した複合試薬等を用いることもできるが、以下、過酸化水素を例として説明する。投入するH溶液の量は、塩化物の濃度に応じて、Hと塩化物のモル比が1:10〜10:1の範囲となるように調整する。紫外線照射下で1〜100分間反応させる。ここで、紫外線照射強度は1〜1000μW/cmに制御する。これにより過酸化水素をヒドロキシルラジカルに変換することができる。紫外線照射に加えて、鉄、マンガン等の金属イオンを投入する等の方法によっても過酸化水素等の酸化剤を活性化させることができる。次に、フミン酸等の有機物を添加して、1時間〜12時間反応させる。ここで、フミン酸と塩化物のモル比は1:1〜100:1の範囲とする。上記の処理方法によって無機塩化物を有機塩素に変換することにより、通常の処理により有機塩素として塩素を除去する。なお、通常の処理方法としては、凝集沈殿、ろ過、空気浮上、吸着等を含むが、これらに限られない。
【0014】
上記原水中の塩化物濃度は100〜20000mg/Lである。
【0015】
過硫酸塩、モノ過硫酸塩等の酸化剤、及び上述した酸化剤各種の金属イオンと組み合わせて形成した複合試薬等のいずれも過酸化水素と代替することができる。これら中の酸化剤成分(過酸化水素、過硫酸塩又はモノ過硫酸塩)と塩化物とのモル比は1:10〜10:1の範囲に制御すればよい。
【0016】
添加する有機物は、フミン酸に限られず、アミノ酸、タンパク質及びこれら有機物を含有する水から選択される少なくとも1種であってもよい。これら有機物中の有機炭素量と塩化物のモル比を1:1〜100:1の範囲に制御すればよい。
【0017】
本発明の基本原理は、下記の化学式で表される。
O+H+紫外線=・OH(ヒドロキシラジカル) (1)
・OH+塩化物=活性塩素 (2)
活性塩素+フミン酸=有機塩素 (3)
【0018】
本発明の促進酸化処理による水中の高濃度塩化物を除去する基本原理は、化学式(1)、(2)及び(3)で示すように、促進酸化処理において生成したヒドロキシルラジカルにより、塩化物イオンを酸化して活性塩素(例えば、塩素ラジカル、次亜塩素酸塩等)を生成することである。さらに、フミン酸又は有機物を含有する水を添加し、活性塩素と有機物とを反応させて有機塩化物を形成する。ここで、有機物量と被処理水中の塩化物イオンの含有量が一定の割合となるように、有機物の添加量を調整する。生成した有機塩化物は、無機塩化物イオンよりも除去されやすく、凝集沈殿又はその他の低コストの方法で有機塩化物を除去することができる。
【0019】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0020】
本実施例に係る促進酸化処理により水中の高濃度塩化物を除去する方法は、下記のステップを含む。
濃度が200mg/Lの塩化物イオンを含有するサンプル水中に、異なる濃度(1〜20mM)のH溶液を添加した。紫外線強度による影響を確認するため、100〜500μW/cmの範囲で複数強度の紫外線を照射して、1時間反応させた。反応後の溶液を40mL取り、20〜200mg/Lの範囲でフミン酸量を変えて添加し、直ちにポリテトラフルオロエチレンガスケット付きのねじキャップで密封し、十分に混合した後、サーモスタット内で保存して24時間遮光反応させた。その後、サンプル水中のハロゲン化水素の含有量を測定した。実験結果を分析し、比較することにより、最適な条件を確定し、その変換率を求めた。
【実施例2】
【0021】
濃度が150mg/Lの塩化物イオンを含有するサンプル水中に、異なる濃度(1〜20mM)の硫酸ナトリウム(Na)溶液を添加した。紫外線強度による影響を確認するため、100〜500μW/cmの範囲で複数強度の紫外線を照射して、1時間反応させた。反応後の溶液を40mL取り、20〜200mg/Lの範囲でフミン酸量を変えてを添加し、直ちにポリテトラフルオロエチレンガスケット付きのねじキャップで密封し、十分に混合した後、サーモスタット内で保存して24h遮光反応させた。その後、サンプル水中のハロゲン化水素の含有量を測定した。実験結果を分析し、比較することにより、最適な条件を確定し、その変換率を求めた。
【実施例3】
【0022】
濃度が250mg/Lの塩化物イオンを含有するサンプル水中に、異なる濃度(1〜20mM)の一過硫酸水素カリウム(2KHSO・KHSO・KSO)溶液を添加した。紫外線強度による影響を確認するため、100〜500μW/cmの範囲で複数強度の紫外線を照射して、1時間反応させた。反応後の溶液を40mL取り、20〜200mg/Lの範囲でフミン酸量を変えて添加し、直ちにポリテトラフルオロエチレンガスケット付きのねじキャップで密封し、十分に混合した後、サーモスタット内で保存して24h遮光反応させた。その後、サンプル水中のハロゲン化水素の含有量を測定した。実験結果を分析し、比較することにより、最適な条件を確定し、その変換率を求めた。
【0023】
上述した実施例のサンプルに対して24時間後に有機ハロゲン含有量をTOX装置によって測定した。
【0024】
表1から、本発明の促進酸化処理による高濃度塩化物イオンを除去する方法では、原水中の塩化物イオンの濃度を効果的に低下させることができることがわかった。具体的には、除去率は、46.7〜51.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
上記実施例の説明は、当業者が本発明を理解するためのものである。当業者であれば、当然、容易に、これらの実施例に対して様々な変更を行い、ここで説明している一般原理をその他の実施例に適用することができる。したがって、本発明は上述した実施例に限定されるものではない。当業者が本発明の原理に基づいて本発明の趣旨から逸脱することなく行った改善及び変更はいずれも本発明の保護範囲である。

図1
図2
図3