特許第6904530号(P6904530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6904530ヒドロキシラジカル検出用組成物及びデバイス、並びにそれを用いたヒドロキシラジカルの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904530
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】ヒドロキシラジカル検出用組成物及びデバイス、並びにそれを用いたヒドロキシラジカルの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20210708BHJP
【FI】
   G01N21/78 C
   G01N21/78 Z
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-173928(P2016-173928)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-40639(P2018-40639A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】金澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】市來 龍大
(72)【発明者】
【氏名】東山 堅一
(72)【発明者】
【氏名】平山 裕二
(72)【発明者】
【氏名】芳原 和希
(72)【発明者】
【氏名】冨永 健太
【審査官】 赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】 SANDWALL PA, et al.,Spatial Dosimetry with Violet Diode Laser-Induced Fluorescence of Water-Equivalent Radio-Fluorogenic Gels,PhD Thesis,University of Cincinnati,2014年 2月28日,pp. 1-120,URL,http://rave.ohiolink.edu/etdc/view?acc_num=ucin1397477646
【文献】 AHMED EM, et al.,Hydrogel: Preparation, characterization, and applications: A review,J. Adv. Res.,2013年 7月18日,Vol. 6,pp. 105-121,URL,https://doi.org/10.1016/j.jare.2013.07.006
【文献】 林浩之、ほか,水中放電により生成されたOHとH2O2の計測,平成25年度電気関係学会九州支部連合大会講演論文集,2013年 9月13日,07-1P-03,URL,https://doi.org/10.11527/jceeek.2013.0_217
【文献】 SANDWALL PA, et al.,Measuring the photon depth dose distribution produced by a medical linear accelerator in a water-equivalent radio-fluorogenic gel,J. Radioanal. Nucl. Chem.,2015年10月26日,Vol. 307,pp. 2505-2508,URL,https://doi.org/10.1007/s10967-015-4563-x
【文献】 MCJURY M, et al.,Radiation dosimetry using polymer gels: methods and applications,Br. J. Radiol.,2014年 1月28日,Vol. 73,pp. 919-929,URL,https://doi.org/10.1259/bjr.73.873.11064643
【文献】 SAHNI M and LOCKE BR,Quantification of hydroxyl radicals produced in aqueous phase pulsed electrical discharge reactors,Ind. Eng. Chem. Res.,2006年 7月13日,Vol. 45,pp. 5819-5825,URL,https://doi.org/10.1021/ie0601504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/83
G01N 31/00−31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によるプラズマ及び/又は光化学反応により生じるヒドロキシラジカルを検出するための組成物であって、
ゲル状の基材と、前記基材内に担持された検出用化合物とを含み、前記検出用化合物はテレフタル酸又はその塩を含むと共に、
当該組成物を用いたヒドロキシラジカルの検出が、当該組成物に波長280〜320nmの励起光を照射した場合に生じる波長400〜500nmの蛍光の検出結果に基づいて行われる、ヒドロキシラジカル検出用組成物。
【請求項2】
前記基材が、ゼラチン、寒天、アガロース、コラーゲン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デンプンアミロースポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、及びカルボキシメチルセルロースから選択される1又は2以上の水溶性高分子からなる高分子ゲルである、請求項1に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物。
【請求項3】
粒子状である、請求項1又は2に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物。
【請求項4】
シート状である、請求項1又は2に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物。
【請求項5】
固相支持体と、前記固相支持体の表面の少なくとも一部に添着されてなる、請求項1〜4の何れか一項に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物とを含む、ヒドロキシラジカル検出用デバイス。
【請求項6】
放電によるプラズマ及び/又は光化学反応により生じるヒドロキシラジカルを検出するための方法であって、
請求項1〜4の何れか一項に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物を、ヒドロキシラジカルの測定対象環境下に供した後、
前記ヒドロキシラジカル検出用組成物に波長280〜320nmの励起光を照射し、
次いで、前記ヒドロキシラジカル検出用組成物から生じる波長400〜500nmの蛍光を検出し、前記蛍光の検出結果に基づいて、ヒドロキシラジカルを検出する
ことを含む方法。
【請求項7】
前記蛍光を定量し、前記蛍光の定量結果に基づいて、ヒドロキシラジカルを定量することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシラジカルを検出するための組成物及びデバイス、並びに斯かる組成物を用いてヒドロキシラジカルを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水(HO)と接する放電により生成するヒドロキシラジカル(OH)は、高い酸化力を有し、各種物質の殺菌や酸化処理等に有効である。このため、医療分野や食品分野など幅広い分野で利用することが期待されている。
【0003】
ヒドロキシラジカルは極めて酸化力に富み、効果的に作用する一方で、過剰な投与等は、生化学的・医療的には組織・細胞・DNA等に損傷を与えるおそれがある。そのため、ヒドロキシラジカルの用途拡大に伴い、ヒドロキシラジカルの発生状況やその影響を評価できる検出法が求められている。
【0004】
液中のヒドロキシラジカルの検出手法としては、発光分光(optical emission spectrochemical:OES)分析法が知られている。また、超音波化学や放射線科学の分野では、液中ヒドロキシラジカルの測定に化学プローブ法が用いられている(例えば非特許文献1:Fang et al., Ultrason. Sonochem., (1996), 3[1]:57-63)。中でも、テレフタル酸(terephthalic acid:TA)の水酸化反応を利用した方法は、簡便で再現性や感度の点でも優れている。
【0005】
本発明者等は、液中でテレフタル酸にトラップされたヒドロキシラジカルを蛍光に基づき測定する装置及び方法を開発している(特許文献1:特許第5740138号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5740138号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fang et al., Ultrason. Sonochem., (1996), 3[1]:57-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、液中に存在するテレフタル酸を用いてヒドロキシラジカルを測定するため、固相表面や気相内におけるヒドロキシラジカルの検出や定量には利用できなかった。また、テレフタル酸や(ヒドロキシラジカルをトラップした)ヒドロキシテレフタル酸が液中で即時に拡散してしまうため、ヒドロキシラジカル照射後に即時に測定する必要がある上に、定量性に乏しく、更には二次元面内でのヒドロキシラジカルの分布状態や各位置におけるヒドロキシラジカルの深度・濃度等の測定も不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意検討した結果、テレフタル酸を含む検出用化合物をゲル状の基材内に担持させた組成物とすることにより、固相表面や気相内におけるヒドロキシラジカルの検出や定量が可能となると共に、ヒドロキシラジカル照射後に時間が経っても定量的な測定を行うことができ、更には二次元面内でのヒドロキシラジカル分布状態の検出や定量も可能となることを見いだし、本願発明に想到した。
【0010】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]ヒドロキシラジカルを検出するための組成物であって、ゲル状の基材と、前記基材内に担持された検出用化合物とを含み、前記検出用化合物はテレフタル酸又はその塩を含む、ヒドロキシラジカル検出用組成物。
[2]前記基材が、ゼラチン、寒天、アガロース、コラーゲン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デンプン(アミロース)、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、及びカルボキシメチルセルロースから選択される1又は2以上の水溶性高分子からなる高分子ゲルである、[1]に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物。
[3]粒子状である、[1]又は[2]に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物。
[4]シート状である、[1]又は[2]に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物。
[5]固相支持体と、前記固相支持体の表面の少なくとも一部に添着されてなる、[1]〜[4]の何れか一項に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物とを含む、ヒドロキシラジカル検出用デバイス。
[6]ヒドロキシラジカルを検出するための方法であって、[1]〜[4]の何れか一項に記載のヒドロキシラジカル検出用組成物を、ヒドロキシラジカルの測定対象環境下に供した後、前記ヒドロキシラジカル検出用組成物に波長280〜320nmの励起光を照射し、次いで、前記ヒドロキシラジカル検出用組成物から生じる波長400〜500nmの蛍光を検出し、前記蛍光の検出結果に基づいて、ヒドロキシラジカルを検出することを含む方法。
[7]前記蛍光を定量し、前記蛍光の定量結果に基づいて、ヒドロキシラジカルを定量することを更に含む、[6]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固相表面や気相内におけるヒドロキシラジカルの検出や定量を行うことができる。また、ヒドロキシラジカル照射後に時間が経っても定量的な測定を行うことができる。更には、二次元面内でのヒドロキシラジカル分布の検出や定量も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1等で使用したプラズマジェットによるヒドロキシラジカル照射装置の構成を模式的に示す図である。
図2図2(a)は、図1に示す装置によりヒドロキシラジカルを一点に照射した実施例1のシート状ゲル組成物の蛍光写真である。図2(b)は、図2(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、ヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
図3図3(a)〜(c)は、図1に示す装置によりヒドロキシラジカルを十字状に照射した実施例1のシート状ゲル組成物の、それぞれ照射直後、1日放置後、及び5日放置後に撮影した蛍光写真である。
図4図4は、実施例2等で使用したパルスストリーマコロナ放電によるヒドロキシラジカル照射装置の構成を模式的に示す図である。
図5-1】図5(a1)及び(a2)は、図4に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した実施例2のシート状ゲル組成物の蛍光写真である。(a1)は放電時間1分の場合、(a2)は放電時間3分の場合の蛍光写真である。図5(b1)及び(b2)は、それぞれ図5(a1)及び(a2)の蛍光写真の白破線枠内部分を画像処理して得られた、ヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
図5-2】同上。
図6図6は、実施例3で使用したバリア放電によるヒドロキシラジカル照射装置の構成を模式的に示す図である。
図7図7(a)は、図6に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した実施例3のゲル組成物の蛍光写真である。図7(b)は、図7(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、ヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
図8図8は、実施例4で得られた種々の大きさの粒子状ゲル組成物を示す写真である。
図9図9(a)は、図1に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した、直径5mmの実施例4の粒子状ゲル組成物の蛍光写真である。図9(b)は、図9(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、ヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
図10図10(a)は、参考例1−1のゲル組成物(糖添加)の写真であり、図10(b)は、参考例1−2のゲル組成物(糖不添加)の写真である。
図11図11(a)及び(b)は、図1に示す装置によりプラズマジェットを照射した、それぞれ参考例1−1(糖50重量%)及び参考例1−2(糖不添加)の各ゲル組成物の蛍光写真である。
図12図12(a)は、図4に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した、参考例2−1(糖10重量%)のゲル組成物の蛍光写真である。図12(b)は、図12(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、ヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
図13図13(a)は、図4に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した、参考例2−2(糖30重量%)のゲル組成物の蛍光写真である。図13(b)は、図13(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、ヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的な実施形態に則して説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されない。
【0014】
本発明は、ヒドロキシラジカルを検出するための新たな組成物及びデバイス、並びにそれを用いたヒドロキシラジカルの新たな検出方法を提供する。
【0015】
本発明に係るヒドロキシラジカル検出用組成物(以降「本発明のゲル組成物」或いは単に「ゲル組成物」と略称する)は、主成分である水に加えて、ゲル状の基材と、基材内に担持された検出用化合物とを含んで構成される。本発明のゲル組成物において、検出用化合物は通常は水溶液又は水分散液の形態で、ゲル状基材の特徴である三次元網目状組織内に閉じ込められ、いわゆるスポンジ状の組織を形成する。固体と液体の中間の流動性を持つゲルは、複雑形状(シート、粒子、ブロックなど)を可能とし、柔軟で、それ自身で他の物体への密着性に富むものである。検出用化合物としては少なくともテレフタル酸又はその塩を含んでなり、ヒドロキシラジカルの検出には、テレフタル酸がヒドロキシラジカルと反応して蛍光性のヒドロキシテレフタル酸に変換される現象を利用する。本発明のゲル組成物は、ヒドロキシラジカルをトラップした検出用化合物の拡散が少ないため、ヒドロキシラジカルの発生分布や濃度を可視化できる。
【0016】
ゲル状の基材は、通常は水溶性高分子から形成される高分子ゲルからなる。高分子ゲルは通常は三次元網目構造を有するところ、検出用化合物は斯かる三次元網目構造内に閉じ込められ、その動きが制限された状態となる。高分子ゲルの材料となる水溶性高分子は、ゲルを形成しうる高分子であれば制限されず、天然高分子でも合成高分子でもよい。例としては、ゼラチン、寒天、アガロース、コラーゲン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デンプン、アミロース、アミロペクチン、こんにゃく(グルコマンナン)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol:PVA)、ポリアクリルアミド、、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクアマテリアル等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。中でも、常温で処理が可能である、アガロースや寒天(主成分はアガロースであり、他にアガロペクチン等の糖質が3割程度含まれる)等が好ましい。
【0017】
検出用化合物としては、テレフタル酸及びその各種の塩等が挙げられる。テレフタル酸の塩としては、例えばテレフタル酸二ナトリウムが挙げられる。テレフタル酸二ナトリウムは、溶解性等の観点から利用において好ましい(テレフタル酸はアルカリ性の液体でないと溶解し難いのに対し、テレフタル酸二ナトリウム等のテレフタル酸塩は通常の中性の水にも高い溶解性を示す)。また、後述の原理によるヒドロキシラジカルの検出を妨げない範囲で種々の修飾を加えたテレフタル酸の各種の誘導体を用いてもよい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0018】
テレフタル酸は、ヒドロキシラジカルのスカベンジャーとなり、水酸化反応によりヒドロキシテレフタル酸(hydroxyterephthalic acid:HTA)を生成する。ヒドロキシテレフタル酸に波長310nm付近の励起光を入射すると、波長425nm付近の蛍光を発するのに対し、テレフタル酸ではこのような蛍光は生じない。従って、ヒドロキシテレフタル酸由来の蛍光を測定することにより、ヒドロキシラジカルの検出を行うことができる。
【化1】
【0019】
テレフタル酸等を検出用化合物として用いるヒドロキシラジカルの検出法は、従来公知のスピントラップ剤を用いる電子スピン共鳴法や、同じく検出試薬の反応にもとづく高速液体クロマトグラフィー法に比べて、使用する試薬や検出装置の価格が安く、高度な熟練度も要求しないという点で有利である。
【0020】
ヒドロキシラジカルの生成源としては、放電によるプラズマ、光化学反応(フェントン反応)、促進酸化(オゾン/紫外線、オゾン/過酸化水素/紫外線)、オゾン/ミスト、太陽光下での反応等が挙げられる。本発明はその何れの検出にも対応できる。
【0021】
本発明のゲル組成物は、検出用化合物として、前記テレフタル酸等に加えて、その他の化合物を含んでいてもよい。その他の検出用化合物の例としては、色素、ルミノール、p−ニトロジメチルアニリン、サルチル酸、フルオレセイン誘導体の一種HPF等が挙げられる。
【0022】
色素を用いる場合、その種類は任意であるが、ヒドロキシラジカルによる化学反応により変色又は脱色を生じる色素が好ましい。例としては、インジゴ、メチレンブルー、メチルオレンジ等が挙げられる。また、色素の一種であるクマリン(CCA)は、テレフタル酸と同様に蛍光特性があるが、可視光の励起光と蛍光の波長差が少ないため分光する必要がある。前記テレフタル酸等に加え、こうした色素を検出用化合物として併用することにより、ヒドロキシテレフタル酸による蛍光と色素による脱色現象とを同時に観察しながらヒドロキシラジカルを測定できるため、ラジカルによる化学反応プロセスを検討する有用な手法が提案できる。
【0023】
ルミノールは、ヒドロキシラジカルをトラップすると発光する物質である。但し、他の活性酸素とも反応するため注意が必要である。
【0024】
前記テレフタル酸等と併用されるこれらの検出用化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0025】
なお、前記テレフタル酸等に加えてその他の検出用化合物、例えば色素等を併用する場合には、ゲル内の領域を複数に分割して、各領域にテレフタル酸等又は色素等の何れかを割り当てる構成としてもよい。これにより、ヒドロキシテレフタル酸による蛍光と色素による脱色現象とを同時に対比しながら観察することが可能となる。
【0026】
本発明のゲル組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、ラジカルスカベンジャーや糖等が挙げられる。
【0027】
ラジカルスカベンジャーを用いる場合、その種類は任意であるが、例としてはビタミンC、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。ラジカルスカベンジャーの使用は、酸化力の強いヒドロキシラジカルの作用を抑えるように働く。したがって、ラジカルスカベンジャーの投入量や種類を変えることによって、ヒドロキシラジカル消失の効果を検証することができる。
【0028】
糖を加える場合、その種類は任意であるが、例としては種々の単糖類、二糖類、多糖類、修飾糖類、増粘多糖類などが挙げられる。中でも、グルコース、スクロース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、グリセリン等が好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。糖の添加は、ゲル強度の増加や透明度の向上に寄与する。但し、糖の添加は検出用化合物によるヒドロキシラジカルの検出感度を阻害する場合もあるため、低分子の糖を少量添加することが好ましい。なお、糖の添加によりゲルの強度が増大する原理は定かではないが、糖がゲル組織中の水和水を奪い、ゲルの分子同士の相互架橋を作る機会を増して架橋が密に均質化し、また、ゲル構造の網目間にある溶液の粘度も増す結果、流動性の少ない固くて強い弾性のあるゲルが形成されるものと推測される。
【0029】
本発明のゲル組成物は、例えば以下の手順で作製できる。まず、ゲル形成用溶液として、高分子ゲルの材料となる水溶性高分子と、検出用化合物、並びに任意により使用されるその他の成分を含む水溶液を調製する。次いで、ゲル形成用溶液中の水溶性高分子をゲル化させて高分子ゲルを形成すると共に、検出用化合物を高分子ゲル内に捕捉して担持させる。
【0030】
ゲル形成用溶液の調製及び水溶性高分子のゲル化の具体的な手法は任意であり、水溶性高分子の種類等に応じて適宜選択すればよい。典型的な例として、高温下で溶解し低温下でゲル化する水溶性高分子(例えばアガロースやポリアクリルアミド等)を用いる場合には、水溶性高分子及び検出用化合物を加熱下で水に溶解させてゲル形成用溶液を作製し、その後に冷却することで水溶性高分子をゲル化させる手法が挙げられる。具体的には、テレフタル酸等の検出用化合物と、アガロース等の水溶性高分子の粉末を、ビーカー内でよく攪拌しながら水に溶解させる。得られたゲル形成用溶液を鍋に移し替え、攪拌しながらコンロで加熱する。溶液が沸騰して透明になったら、成形用の各種容器へと注ぎ、完全に冷えて固まるまで常温で安置すればよい。或いは、より簡便な手法として、ゲル形成用溶液を鍋で加熱する代わりに、ビーカーに入れた材料をラップして電子レンジで加熱し、ゲル形成用溶液を調製してもよい。ゲル形成用溶液調製時の加熱温度は、水溶性高分子の種類によっても異なるが、例えば水溶性高分子がアガロース(寒天)の場合、そのゲル溶解温度は約80℃以上であるため、加熱する温度の目安は80〜90℃程度である。加熱調製されたゲル形成用溶液は、約80℃以下でゾルの状態になり、約20℃以下に冷却されるとゲル化する。
【0031】
水溶液中の水溶性高分子及び検出用化合物の濃度、並びにその他の任意成分の濃度は、各成分の種類や目的とする高分子ゲルの強度・硬度によっても異なるが、例としては以下のとおりである。
【0032】
ゲル形成用溶液における水溶性高分子の濃度は、通常0.1重量%以上、中でも0.3重量%以上、更には0.7重量%以上、また、通常5重量%以下、中でも2重量%以下、更には1.5重量%以下とすることが好ましい。水溶性高分子の濃度が前記下限値を下回るとゲル強度が低下し、形状を保てない場合がある。水溶性高分子の濃度が高くなるほどゲル硬度は増す傾向があるが、前記上限値を上回ると弾力性が低下してしまい、却ってゲルが脆くなる場合がある。また、ゲルが白濁して透明性が低下し、検出に支障をきたす場合がある。
【0033】
ゲル形成用溶液におけるテレフタル酸等の検出用化合物の濃度は、通常0.5mM以上、中でも1mM以上、更には2mM以上、また、通常50mM以下、中でも20mM以下、更には10mM以下とすることが好ましい。検出用化合物の濃度が前記下限値を下回ると、検出感度が低下してしまう場合がある。一方、検出用化合物の濃度が前記上限値を上回ると、蛍光強度が飽和してしまう場合がある。なお、ゲル中では検出用化合物の流動性が抑制されるので、検出用化合物を従来のように水溶液で用いる場合と比較して、検出用化合物の濃度を高めることが好ましい。
【0034】
ゲル形成用溶液に糖を加える場合、糖の濃度は、通常1重量%以上、中でも5重量%以上、また、通常70重量%以下、中でも50重量%以下とすることが好ましい。糖の濃度が前記下限値を下回ると、ゲルの強度向上や透明性向上の効果が十分に得られない場合がある。一方、糖の濃度が前記上限値を上回ると、検出用化合物によるヒドロキシラジカルの検出を阻害する場合がある。
【0035】
ゲル形成用溶液にその他の成分を加える場合、各成分の濃度は任意であり、検出用化合物によるヒドロキシラジカルの検出を妨げない範囲において、当該成分の目的に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
なお、高分子ゲルの強度・硬度は、材料となる水溶性高分子の種類や水溶液中の濃度、その他ゲルを凝固させたときの容器の大きさ、ゲルの形状と大きさ、使用する部位等の条件に応じて変化するが、ヒドロキシラジカルの検出・定量精度を向上させる観点からは、所定の範囲内とすることが好ましい。具体的には、粉寒天の場合、ゼリー強度は400〜600g/cm程度のものが利用できる。アガロースでは、ゼリー強度は600〜2600g/cm程度のものが利用できるが、800〜1600g/cm程度のものが、適度な強度をもち、シートへの成形さらには付着や剥離の作業のしやすさからも好ましい。なお、高分子ゲルの強度・硬度の測定は、例えばレオメーターによるゼリー強度の測定、日寒水式の方法(例えば「寒天ハンドブック」(林金雄・岡崎彰夫共著、光琳書院刊、昭和45年発行)等参照)等の手法により行うことが可能である。
【0037】
本発明のゲル組成物は、任意の形状に成形することが可能である。形状の例としては、シート・フィルム状、粒子状(略球状、略円柱状等)、ブロック状(円柱、角柱)等が挙げられる。その成形法は任意であるが、例えば前記の作製手順において、ゲル形成用溶液の調製後、ゲル形成用溶液を所望の形状に維持しつつ、ゲル形成用溶液中の水溶性高分子をゲル化させることにより、所望の形状に形成することができる。また、3Dプリンタ等の付加製造装置を用いて溶解したゲルを流し込む型を作れば、より複雑な形状への成形も可能である。
【0038】
具体的に、本発明のゲル組成物をシート・フィルム状に成形する場合、例えばゲル形成用溶液を平板容器状に流し込んでから水溶性高分子をゲル化させる等の手法で成形することができる。この際に、容器の平面面積を考慮しつつ、容器に流し込むゲル形成用溶液の量を調節することにより、シート・フィルムの厚みを制御することができる。シート・フィルムの好ましい厚みは使用目的等に応じて異なるが、通常0.5mm以上、中でも1mm以上、また、通常30mm以下、中でも5mm以下の範囲とすることができる。ゲル化後、所望の平面形状となるように裁断又は型抜きしてもよい。これにより、円形シートや矩形シート等の任意の平面形状のシートが作製できる。シート・フィルム状のゲル組成物は、測定対象となる固相表面への接着及び脱着が容易である。
【0039】
また、本発明のゲル組成物を粒子状に成形する場合、例えば加熱溶融したゲル形成用溶液をシリンジに装填し、疎水性固相表面上や疎水性液相中に滴下する等の手法で成形することができる。ゲル形成用溶液を疎水性平板等の固相表面上に滴下すれば楕円体状や扁平状の粒子が、オイル等の疎水性液相中に滴下すれば略球形状の粒子が形成できる(但し後者の場合には、得られた粒子の回収及び付着したオイルの除去が必要となる。)。また、ゲル形成用溶液の滴下量や滴下高さ等を調製することにより、得られる粒子の大きさ等も制御することができる。また、シート状やその他の任意の形状に形成したゲル組成物を液中に投入し、攪拌しながら分散することによっても、界面張力の作用で球形や楕円形に成形できる。
【0040】
本発明のゲル組成物を用いてヒドロキシラジカルを検出する方法(以降「本発明の検出方法」と略称する)は特に限定されないが、通常は以下を含む。
(1)本発明のゲル組成物を、ヒドロキシラジカルの測定対象環境下に配置する。
(2)本発明のゲル組成物に、UV−Bの中波長紫外線に相当する波長280〜320nm(特に310nm付近を中心とする波長)の励起光を照射する。
(3)本発明のゲル組成物から生じる、紫〜青緑の可視光線に相当する波長400〜500nm(特に425nm付近を中心とする波長)の蛍光を検出し、検出結果に基づいてヒドロキシラジカルを検出する。ここで、蛍光の定量結果に基づいて、ヒドロキシラジカルを定量することも可能である。
【0041】
前記工程(1)において、測定対象環境は、予めヒドロキシラジカルを照射した環境や、既にヒドロキシラジカルが存在する環境であってもよい。或いは、測定対象環境に本発明のゲル組成物を配置した後に、ヒドロキシラジカルを照射してもよい。
【0042】
測定対象環境の例としては、固相表面、液相内、気液界面、気相内等が挙げられる。通常は、ゲル組成物を単独で使用することによるヒドロキシラジカルの測定が基礎研究では使用されることが多い。固相表面の具体例としては、人体皮膚表面、プラズマ発生装置(リアクタ)の内表面、各種デバイスや容器等の内外表面(特に複雑形状の部分や入り組んだ裏側の部分など)等が挙げられる。液相の具体例としては、水中での放電、水中での超音波照射等が挙げられる。気液界面の具体例としては、水で覆われた細胞への照射、水面へのプラズマ照射、水面での沿面放電等が挙げられる。気相の具体例としては、プラズマ発生装置(リアクタ)や各種デバイス・容器の内部、プラズマによる表面改質や表面処理のための素材表面等が挙げられる。
【0043】
固相表面を測定対象とする場合、シート・フィルム状のゲル組成物を固相表面に貼着し、或いは固相表面に合わせた形状に成形したゲル組成物を固相表面に配置した上で、ヒドロキシラジカルと反応させた後、必要に応じてゲル組成物を固相表面から回収して、その後の工程(2)の励起光照射及び工程(3)の蛍光検出に供すればよい。
【0044】
気相内を測定対象とする場合、例えば粒子状のゲル組成物を気相内に噴霧等により投入し、ヒドロキシラジカルと反応させた後、必要に応じてゲル組成物を気相から回収して、その後の工程(2)の励起光照射及び工程(3)の蛍光検出に供すればよい。
【0045】
特に、粒子状のゲル組成物を用いる場合には、μ−TAS(Micro-Total Analysis Systems)のような微細流路を設けた化学反応装置や生化学分析デバイスに付加することで、ミクロな反応場におけるヒドロキシラジカルが測定できる。
【0046】
前記工程(2)において、UV−Bの中波長紫外線に相当する波長280〜320nm(特に310nm付近を中心とする波長)の励起光を照射する手法は、制限されるものではないが、例えば前記波長範囲の光を発する市販のランプ(例えば、波長312nmの紫外線ランプなど)等を使用することができる。
【0047】
なお、微細な粒子状のゲル組成物に励起光を照射する場合には、光ファイバ(例えば石英製のファイバなど)と紫外発光ダイオード(light emitting diode:LED)との組合せによる光源を用いてもよい。斯かる光ファイバ及び紫外LEDは、装置への組み込みも容易である。
【0048】
前記工程(3)において、紫〜青緑の可視光線に相当する波長400〜500nm(特に425nm付近を中心とする波長)の蛍光を検出する手法は、制限されるものではないが、例えば、目視による直接観測、分光器により分光された前記波長範囲内の光の検出、又はデジタルカメラやビデオカメラ等により記録して行うことができる。デジタルカメラやビデオカメラ等により記録された画像や映像は、画像処理や映像処理を行うことで、2次元分布図又は(時間軸を含めた)三次元分布図として可視化できる。また、分光光度計により、光強度を数値化して検量することも可能である。
【0049】
なお、蛍光分光光度計を用いることにより、工程(2)の励起光照射及び工程(3)の蛍光検出を同時に実施してもよい。
【0050】
本発明の検出方法でヒドロキシラジカルを定量化する場合は、既知量の成分を用いて調製した本発明のゲル組成物を用いて蛍光強度を測定し、予め蛍光強度とヒドロキシラジカル量との関係を示す検量線を作成しておく。その上で、前記工程(1)〜(3)により測定された測定対象の蛍光強度を前記検量線と比較することにより、ヒドロキシラジカル量を定量することができる。
【0051】
本発明の検出方法によれば、従来のテレフタル酸を含む液体を用いた検出方法による種々の課題が解決される。
【0052】
即ち、従来のテレフタル酸を含む液体を用いた検出方法では、液体であるため取り扱い性に制限がある上に、固相表面や気相内におけるヒドロキシラジカルの検出や定量はできなかった。また、テレフタル酸や(ヒドロキシラジカルをトラップした)ヒドロキシテレフタル酸が液中で即時に拡散してしまうため、ヒドロキシラジカル照射後に即時に測定する必要がある上に、定量性に乏しく、更には二次元面内でのヒドロキシラジカルの分布状態や各位置におけるヒドロキシラジカルの深度・濃度等の測定も不可能であった。
【0053】
これに対して、本発明の検出方法によれば、固体状のゲル組成物を用いるため、液体よりも取扱が簡単である上に、ゲル組成物を固相表面や気相内に配置することにより、固相表面や気相内におけるヒドロキシラジカルの検出や定量が可能となる。
【0054】
また、ゲル組成物内では、テレフタル酸や(ヒドロキシラジカルをトラップした)ヒドロキシテレフタル酸が高分子ゲルの三次元構造内に捕捉されており、ヒドロキシラジカル照射後に時間が経ってもその状態が維持されているため、時間経過後でも定量的な測定を行うことが可能である。このため、試料分析等をまとめて連続して実施でき、実験の効率化等に寄与する。
【0055】
また、ゲル組成物からの蛍光を測定して検出・定量を行うため、二次元面内でのヒドロキシラジカル分布状態の検出や定量も可能となる。
【0056】
また、ある程度の厚みを有するゲル組成物を用い、これをヒドロキシラジカルとの反応後に厚さ方向でスライスし、励起光照射及び蛍光検出に供することで、深さ方向におけるヒドロキシラジカルの分布状態の情報も得ることができる。更には、厚さ方向でスライスした複数枚の2次元分布画像を画像処理すれば、3次元での可視化情報も得られる。
【0057】
また、ゲル組成物にヒドロキシラジカルを照射しながら励起光照射及び蛍光検出を行うことで、その場(in situ)観測やリアルタイム観測も可能である。
【0058】
更に、本発明のゲル組成物は、弾力性・柔軟性・密着性にも富むため、人間の皮膚をはじめとする生体との馴染みもよく、活性酸素による医療分野の研究にも用いることができる。また、測定対象領域への溶液の塗布や、密着性を確保するための両面テープ等の補助素材も不要である。
【0059】
なお、本発明のゲル組成物は、従来のヒドロキシラジカル検出に使用されていたテレフタル酸溶液とは異なり、一定の強度・硬度を持たせて調製することにより、単独で自立可能である。但し、用途によっては、本発明のゲル組成物を、各種の固相支持体の表面の少なくとも一部に添着したデバイスの構成とすることが好ましい場合もある。斯かるヒドロキシラジカル検出用デバイス(以降「本発明のデバイス」と略称する)も、本発明の対象となる。
【0060】
本発明のゲル組成物の用途は特に限定されないが、一例としてはプラズマ医療への適用が挙げられる。プラズマ医療は、メラノーマ等の皮膚ガン等の治療において、患部にプラズマを照射することにより病変部位を縮小させ、或いは増殖を抑制して、症状を改善又は軽減することを目指した治療である。掛かるプラズマ医療において、皮膚表面のプラズマ照射領域に、例えばシート状に成形した本発明のゲル組成物を密着させ、この状態でプラズマを照射し、その後に本発明のゲル組成物をヒドロキシラジカルの検出に供することにより、照射されたヒドロキシラジカルの皮膚表面領域における量的分布を測定することが可能となる。上述のように、本発明のゲル組成物は密着性に優れるため、特に接着剤やテープ等を使わなくても、皮膚に密着性よく貼り付けることができる。ヒドロキシラジカルは細胞やDNAなどへの影響も大きいところ、本発明を使用すれば、プラズマ照射による皮膚への影響の大きさ及び範囲を見積もることができ、その価値は非常に大きい。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を具体的な実施例に則して説明するが、本発明はこれらの実施例にも何ら限定されない。
【0062】
・実施例1(シート状ゲル組成物の作製、並びに、プラズマジェットを用いたヒドロキシラジカルの照射及び検出の例):
本実施例は、ヒドロキシラジカル検出用のシート状のゲル組成物を作製し、これにプラズマジェットを用いてヒドロキシラジカルを照射すると共に、ゲル組成物からの蛍光に基づきヒドロキシラジカルを検出した例である。
【0063】
ヒドロキシラジカル検出用のゲル組成物は、以下の手順により作製した。即ち、検出用化合物としてテレフタル酸ナトリウム(NaTA)を用い、ゲル状高分子の材料となる水溶性高分子として寒天(和光純薬工業株式会社製、粉末)を用い、約90℃まで加熱しながら水に溶解させてゲル形成用溶液を作製した。該溶液中のNaTAの濃度は2mM、水溶性高分子の濃度は1重量%とした。得られたゲル形成用溶液を平板容器に流し込み、室温で自然冷却することにより、シート状のゲル組成物を作製した。得られたシート状ゲル組成物の厚さは約2mmであった。平面形状は25mm×25mmの方形に切断して用いた。これを実施例1のゲル組成物とする。
【0064】
図1は、本実施例で使用したプラズマジェットによるヒドロキシラジカル照射装置100の構成を模式的に示す図である。本装置100は、ガラス管1と、一対の電極2a及び2bと、電源3と、ガス供給源4と、シャーレ5とを備える。ガラス管1は、一端から他端に向かって先細りした形状を有し、太端の開口は約4.5mm、細端の開口は約1mmである。電極2a及び2bは、ガラス管1表面上に、その長軸方向に沿って10mmの間隔をおいて配置される。電源3は、電極2a、2bに連結され、これらの電極2a、2b間に電圧を印加可能に構成される。ガス供給源4はガラス管1の太端に連結され、ヘリウムや酸素・ヘリウムの混合ガス等のガスをガラス管1内に供給可能に構成される。シャーレ5はガラス管1の細端に対向して配置され、内部にはゲル組成物Gが配置される。本装置100において、ガス供給源4からガラス管1内にガスを供給しながら、電源3により電極2a、2b間に低周波・高電圧の交流電圧を印加すると、電極2a、2b間でガラス管1内にプラズマが点火し、ガラス管1の細端の開口部よりジェット状のプラズマ流Pとして噴出し、シャーレ5内のゲル組成物Gに照射される。
【0065】
図2(a)は、図1に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射したシート状ゲル組成物の蛍光写真である。図1のシャーレ5として直径75mmの石英ガラス製のシャーレを用い、ゲル組成物Gとして実施例1のゲル組成物を用いて、10秒間のプラズマ照射を行った。実験条件は、ガスとしてヘリウムガスを用い、ガス流量2L/分、印加電圧の周波数20kHz、印加電圧6kV、照射間距離10mmとし、照射位置は一カ所に固定して照射を行った。照射後、シート状ゲル組成物を入れたシャーレを反転して紫外線ランプ(波長312nm)上に配置し、紫外線ランプを点灯させて励起光を照射すると共に、得られた蛍光を通常のデジタル一眼レフカメラで撮影した。シート状ゲル組成物はシャーレ表面に密着しているので、反転しても剥落することはない。図2(a)の写真において観測された蛍光は、実施例1のゲル組成物中の検出用化合物であるテレフタル酸がヒドロキシラジカルをトラップしてヒドロキシテレフタル酸に変化したことを示しており、惹いてはヒドロキシラジカルの分布状態を示すことになる(なお、図2(a)の写真において、横長の棒状の明部は紫外線ランプからの光を表す。紫外線ランプからの光の主成分は紫外光であるが、光の透過窓にあたり若干の可視光が観察されたものである。)。
【0066】
図2(b)は、図2(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、実施例1のゲル組成物のヒドロキシラジカル照射軸に直交する面内における蛍光強度の二次元分布、惹いてはヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
【0067】
図3(a)〜(c)は、図1に示す装置によりヒドロキシラジカルを十字状に照射したのシート状ゲル組成物の蛍光写真である。実験条件は、図2(a)の蛍光写真における実験条件と基本的に同じであるが、照射時間は3分に変更し、実施例1のゲル組成物上を十字を描くようにプラズマ流Pを走査しながら噴出させた。図3(a)〜(c)はそれぞれ、照射直後、1日放置後、及び5日放置後に撮影した蛍光写真である。1日及び5日の放置時には、ゲル組成物を冷蔵庫に入れて放置した。これらの蛍光写真から分かるように、数日もの時間が経過しても、蛍光分布は殆ど変化しておらず、ヒドロキシラジカルをトラップしたヒドロキシテレフタル酸がゲル内を移動していないことが分かる。なお、少なくとも数時間程度であれば、ゲル組成物を室温で放置しても、蛍光分布は変化しないことが確認されている。
【0068】
・実施例2(シート状ゲル組成物の作製、並びに、パルスストリーマコロナ放電を用いたヒドロキシラジカルの照射及び検出の例):
本実施例は、ヒドロキシラジカル検出用のシート状ゲル組成物を作製し、これにパルスストリーマコロナ放電を用いてヒドロキシラジカルを照射すると共に、ゲル組成物からの蛍光に基づきヒドロキシラジカルを検出した例である。
【0069】
ヒドロキシラジカル検出用のゲル組成物は、ゲル状高分子の材料となる水溶性高分子としてアガロース(和光純薬工業株式会社製、ゼリー強度600〜800g/cm)を用い、ゲル形成用溶液中のNaTAの濃度を10mMとした点、及び、シート状ゲル組成物の厚さを1mm、平面形状を50mm×50mmの方形とした点を除いては、実施例1と同様に作製した。これを実施例2のゲル組成物とする。
【0070】
図4は、本実施例で使用したパルスストリーマコロナ放電によるヒドロキシラジカル照射装置101の構成を模式的に示す図である。本装置101は、約1cmの電極間隙を設けて対向して設置された針電極11及び平板電極12と、前記の針電極11及び平板電極12の間に電圧を印加しうる電源13とを備えて構成される。ゲル組成物Gは平板電極12表面上に、針電極11と対向して配置される。本装置101において、電源13により針電極11と平板電極12との間に低周波・高電圧のパルス電圧を印加すると、針電極11と平板電極12との間にフィラメント状の細いパルスストリーマコロナ放電Pが生じ、ゲル組成物Gにヒドロキシラジカルが照射される。
【0071】
図5(a1)及び(a2)は、図4に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射したシート状ゲル組成物の蛍光写真である。ゲル組成物Gとして実施例2のゲル組成物を用いて、プラズマ照射を行った。実験条件は、印加パルス周波数100pps(pulses per second)、印加電圧18kVとし、放電時間は1分間及び3分間の2通り実施した。照射後、実施例1と同様に、シート状ゲル組成物を入れたシャーレを反転して紫外線ランプ(波長312nm)上に配置し、紫外線ランプを点灯させて励起光を照射すると共に、得られた蛍光を通常のデジタル一眼レフカメラで撮影した。図5(a1)は放電時間1分の場合に得られた蛍光写真、図5(a2)は放電時間3分の場合に得られた蛍光写真である。これらの写真において観測された蛍光は、実施例2のゲル組成物中の検出用化合物であるテレフタル酸がヒドロキシラジカルをトラップしてヒドロキシテレフタル酸に変化したことを示しており、惹いてはヒドロキシラジカルの分布状態を示すことになる。
【0072】
図5(b1)及び(b2)は、それぞれ図5(a1)及び(a2)の蛍光写真の白破線枠内部分を画像処理して得られた、実施例2のゲル組成物のヒドロキシラジカル照射軸に直交する面内における蛍光強度の二次元分布、惹いてはヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。パルスストリーマコロナ放電(図4中符号P)は、フィラメント状の細い線状の放電として生じるところ、図5(b1)及び(b2)に示したヒドロキシラジカルの分布もそれを反映したものになっている。
【0073】
・実施例3(シート状ゲル組成物の作製、並びに、バリア放電を用いたヒドロキシラジカルの照射及び検出の例):
本実施例は、ヒドロキシラジカル検出用のシート状ゲル組成物を作製し、これにバリア放電を用いてヒドロキシラジカルを照射すると共に、ゲル組成物からの蛍光に基づきヒドロキシラジカルを検出した例である。
【0074】
ヒドロキシラジカル検出用のゲル組成物は、ゲル状高分子の材料となる水溶性高分子としてアガロース(和光純薬工業株式会社製、ゼリー強度600〜800g/cm)を用い、シート状ゲル組成物の厚さを約1mm、平面形状を直径約50mmの円形とした点を除いては、実施例1と同様に作製した。これを実施例3のゲル組成物とする。
【0075】
図6は、本実施例で使用したバリア放電によるヒドロキシラジカル照射装置102の構成を模式的に示す図である。本装置102は、平行となるように対向して設けられた一対の平板電極21a、21bと、一方の電極21b上に配置されたガラス製の絶縁層22と、前記電極21a、21b間に電圧を印加しうる電源23とを備えて構成される。ゲル組成物Gは絶縁層22表面上に、電極21aと対向して配置される。本装置102において、電源23により前記電極21a、21b間に低周波・高電圧の交流電圧を印加すると、電極21aとゲル組成物Gとの間隙を通じて電極21a、21b間にバリア放電Pが生じ、ゲル組成物Gにヒドロキシラジカルが照射される。
【0076】
図7(a)は、図6に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した実施例3のゲル組成物の蛍光写真である。ゲル組成物Gとして実施例3のゲル組成物を用いて、3分間のプラズマ照射を行った。実験条件は、電極21aとゲル組成物Gとの間隙、ゲル組成物Gの厚さ、ガラス絶縁層22の厚さはそれぞれ1mmとし、商用周波数60Hzの交流電圧7kVを印加電圧とした。照射後、実施例1と同様に、シート状ゲル組成物を入れたシャーレを反転して紫外線ランプ(波長312nm)上に配置し、紫外線ランプを点灯させて励起光を照射すると共に、得られた蛍光を通常のデジタル一眼レフカメラで撮影した。この写真において観測された蛍光は、実施例3のゲル組成物中の検出用化合物であるテレフタル酸がヒドロキシラジカルをトラップしてヒドロキシテレフタル酸に変化したことを示しており、惹いてはヒドロキシラジカルの分布状態を示すことになる。
【0077】
図7(b)は、図7(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、実施例3のゲル組成物のヒドロキシラジカル照射軸に直交する面内における蛍光強度の二次元分布、惹いてはヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。バリア放電(図6中符号P)は細いストリーマとして電極間で密に発生するところ、図7(b)で示したヒドロキシラジカルの分布もそれを反映し、丸い電極面内をほぼ一様に覆い尽くすようにヒドロキシラジカルが分布していることがわかる。
【0078】
・実施例4(粒子状ゲル組成物の作製、並びに、プラズマジェットを用いたヒドロキシラジカルの照射及び検出の例):
本実施例は、ヒドロキシラジカル検出用の粒子状のゲル組成物を作製し、これにプラズマジェットを用いてヒドロキシラジカルを照射すると共に、ゲル組成物からの蛍光に基づきヒドロキシラジカルを検出した例である。
【0079】
ヒドロキシラジカル検出用のゲル組成物は、ゲル状高分子の材料となる水溶性高分子としてアガロース(和光純薬工業株式会社製、ゼリー強度1400〜1600g/cm)を用い、ゲル形成用溶液中のNaTAの濃度を10mMとした点を除いては、実施例1と同様の組成及び手順により、加熱下でゲル形成用溶液を調製した。得られたゲル形成用溶液を、シリンジから平板上に滴下して、室温で自然冷却することにより、粒子状のゲル組成物を作製した。この際、シリンジからのゲル形成用溶液の吐出量を種々変更することにより、直径約1.5mm〜約10mmの範囲の種々の大きさの粒子状ゲル組成物を作製した。図8は、本実施例により得られた種々の大きさの粒子状ゲル組成物を示す写真である。これを実施例4のゲル組成物とする。
【0080】
図9(a)は、図1に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射した粒子状ゲル組成物の蛍光写真である。ゲル組成物Gとして直径5mmの実施例4のゲル組成物を用いた他は、図2(a)と同様の条件でヒドロキシラジカルを照射し、蛍光写真を取得した。図9(a)の写真において観測された蛍光は、実施例1のゲル組成物中の検出用化合物であるテレフタル酸がヒドロキシラジカルをトラップしてヒドロキシテレフタル酸に変化したことを示しており、惹いてはヒドロキシラジカルの分布状態を示すことになる(なお、図9(a)の写真においても、横長の棒状の明部は紫外線ランプからの光を表す。)。
【0081】
図9(b)は、図9(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、実施例4のゲル組成物のヒドロキシラジカル照射軸に直交する面内における蛍光強度の二次元分布、惹いてはヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。
【0082】
・参考例1(糖添加によるゲル組成物の透明性の検証):
本実施例は、ゲル組成物への糖の添加がゲルの強度に与える影響を検証するものである。
【0083】
ゲル状高分子の材料となる水溶性高分子としてアガロース(和光純薬工業株式会社製、ゼリー強度600〜800g/cm)を用い、水溶性高分子の濃度を0.8重量%とした点を除いては、実施例1と同様の手順により、加熱下でゲル形成用溶液を調製した。また、更に糖として50重量%のグルコースを加えたゲル形成用溶液も調製した。これらのゲル形成用溶液をそれぞれ、石英ガラス製のキュベット(10mm×50mm、高さ45mm)内に流し込み、室温で自然冷却することにより、ゲル組成物を作製した。前者(糖添加)を参考例1−1のゲル組成物、後者(糖不添加)を参考例1−2のゲル組成物とする。
【0084】
図10(a)は、参考例1−1のゲル組成物(糖添加)の写真であり、図10(b)は、参考例1−2のゲル組成物(糖不添加)の写真である。
【0085】
図11(a)及び(b)はそれぞれ、図1に示す装置によりプラズマジェットを照射した参考例1−1及び参考例1−2の各ゲル組成物の蛍光写真である。プラズマジェットを照射は、各ゲル組成物をキュベット内に入れたまま、実施例1と同様の条件で行った。照射後の各ゲル組成物を、キュベットのまま紫外線ランプ(波長312nm)上に配置し、紫外線ランプを点灯させて励起光を照射すると共に、得られた蛍光を通常のデジタル一眼レフカメラで撮影した。図11(a)及び(b)を比較すると、糖を添加した参考例1−1のゲル組成物は、糖を添加しなかった参考例1−2のゲル組成物と比較して強度が高く、ガス流によるゲル凹みの発生が見られないことが分かる。また、糖を添加した参考例1−1のゲル組成物は、ヒドロキシラジカルの照射方向(写真に向かって深さ方向)への蛍光の拡散が見られず、表面だけが蛍光を示していることが分かる。
【0086】
なお、糖の添加によりゲルの強度が増大する原理は定かではないが、糖がゲル組織中の水和水を奪い、ゲルの分子同士の相互架橋を作る機会を増して架橋が密に均質化し、また、ゲル構造の網目間にある溶液の粘度も増す結果、流動性の少ない固くて強い弾性のあるゲルが形成される物と推測される。
【0087】
・参考例2(糖を添加したシート状ゲル組成物の作製、並びに、パルスストリーマコロナ放電を用いたヒドロキシラジカルの照射及び検出の例):
本実施例は、ゲル組成物への糖の添加がヒドロキシラジカルの検出性能に与える影響を検証するものである。
【0088】
糖としてグルコースを用い、実施例2のゲル組成物と同様の作製手順において、ゲル形成用溶液に更に10重量%及び30重量%のグルコースをそれぞれ添加することにより、2種類のシート状のゲル組成物を作製した。それぞれ参考例2−1のゲル組成物(糖10重量%添加)及び参考例2−2のゲル組成物(糖30重量%添加)のゲル組成物とする。糖10重量%を添加した参考例2−1のゲル組成物では、糖を添加しない実施例2のゲル組成物と比較して、ゲルの透明性及び強度は増した。糖30重量%を添加した参考例2−2のゲル組成物では、更にゲルの透明性及び強度が向上した。
【0089】
図12(a)及び13(a)はそれぞれ、参考例2−1(糖10重量%添加)及び参考例2−2(糖30重量%添加)のゲル組成物を用い、図4に示す装置によりヒドロキシラジカルを照射して得られた蛍光写真である。ヒドロキシラジカルの照射条件は実施例2と同様である。図12(b)及び13(b)はそれぞれ、図12(a)及び13(a)の蛍光写真を画像処理して得られた、参考例2−1(糖10重量%)及び参考例2−2(糖30重量%)のゲル組成物のヒドロキシラジカル照射軸に直交する面内における蛍光強度の二次元分布、惹いてはヒドロキシラジカル量の二次元分布を示す立体グラフである。図12(a)の蛍光写真及び図12(b)の立体グラフから分かるように、糖10重量%を添加した参考例2−1のゲル組成物では、糖を添加しない実施例2のゲル組成物と比較して、ヒドロキシラジカルの検出感度は多少低下した。図13(a)の蛍光写真及び図13(b)の立体グラフから分かるように、糖30重量%を添加した参考例2−2のゲル組成物では、ヒドロキシラジカルの検出感度には更に低下がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、ヒドロキシラジカルが用いられる水処理分野や医療分野および食品分野などの幅広い分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 ガラス管
2a、2b 電極
3 電源
4 ガス供給源
5 シャーレ
11 針電極
12 平板電極
13 電源
21a、21b 平板電極
22 ガラス製絶縁層
23 電源
100 プラズマジェットによるヒドロキシラジカル照射装置
101 パルスストリーマコロナ放電によるヒドロキシラジカル照射装置
102 バリア放電によるヒドロキシラジカル照射装置
G ゲル組成物
P プラズマ流
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13