(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フランジ収容部の内面と前記フランジ部との間に突っ張り状態に設けられた圧縮コイルバネによって前記直動付勢手段を兼ねる前記傾動付勢手段が構成されている請求項5に記載の切削ツール。
前記連通孔の内側面に対向配置された1対の支持側平坦部と、前記ヘッド支持部の外側面に対向配置されて、前記1対の平坦面に隣接する1対の可動側平坦面とによって、前記切削チップの傾動方向が一方向に規制されている請求項5から7の何れか1の請求項に記載の切削ツール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した従来の切削ツールでは、バリ取り加工を行っているときに切削刃をワークの形状に追従させるべく切削チップを直動可能に支持しているがスムーズに作動しないことがあり、スムーズなバリ取り加工が困難になることがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来よりスムーズにバリ取り加工又は面取り加工を行うことが可能な切削ツー
ルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、
棒状をなし、基端部を支持されて回転駆動される支持シャフトと、先細り形状の先細ヘッド部を有しかつその先細ヘッド部に複数の切削刃が形成されている切削チップと、
前記支持シャフトの先端部の側面に開口し、その開口から前記先細ヘッド部が突出するように前記切削チップの一部を受容して支持すると共に、前記先細ヘッド部の前記支持シャフトの長手方向への移動を伴う前記切削チップの傾動を許容するチップ収容凹部と、前記先細ヘッド部の前記支持シャフトの長手方向以外の方向への移動を伴う前記切削チップの傾動を規制する傾動方向規制手段と、前記切削チップを、その傾動可能な範囲に設けられた原点姿勢に付勢する傾動付勢手段と
、を備える切削ツールである。
請求項2の発明は、
前記先端ヘッド部の側面のうち傾動可能な方向を向いた部分にのみ前記切削刃が形成されている
請求項1に記載の切削ツールである。
請求項3の発明は、
前記先細ヘッド部の先端部は、前記切削刃を有さず丸みを帯びて膨出した摺接膨出部になっている
請求項1又は2に記載の切削ツールである。
【0008】
請求項4の発明は、
前記支持シャフトは、前記切削チップを、前記原点姿勢における前記先細ヘッド部の中心軸方向に直動可能に支持し、前記切削チップを、前記
チップ収容凹部から押し出す方向に付勢する直動付勢手段を、備える請求項1から3の何れか1の請求項に記載の切削ツールである。
【0009】
請求項5の発明は、前記切削チップには、前記先細ヘッド部の基端側に連なるヘッド支持部と、前記ヘッド支持部の基端側から側方に張り出すフランジ部とが備えられ、
前記チップ収容凹部
は、奥部が段付き状に広くなって
、奥側のフランジ収容部と開口側の連通孔とに区画されると共に、前記フランジ収容部における前記連通孔の開口縁が位置決段差面をなし、前記フランジ部が前記フランジ収容部に収容されかつ前記位置決段差面に当接するように、前記直動付勢手段を兼ねる前記傾動付勢手段により付勢されて、通常は、前記フランジ部が前記位置決段差面の全域に当接して前記先細ヘッド部が前記チップ収容凹部の外側に突出している請求項4に記載の切削ツールである。
【0010】
請求項
6の発明は、前記フランジ収容部の内面と前記フランジ部との間に突っ張り状態に設けられた圧縮コイルバネによって前記直動付勢手段を兼ねる前記傾動付勢手段が構成されている請求項
5に記載の切削ツールである。
【0011】
請求項7の発明は、前記
支持シャフトには、前記直動付勢手段を兼ねる前記傾動付勢手段として、圧縮ガスを前記フランジ収容部に供給するためのガス供給路が備えられている請求項5又は6の何れか1の請求項に記載の切削ツールである。
【0012】
請求項
8の発明は、前記連通孔の内側面に対向配置された1対の支持側平坦部と、前記ヘッド支持部の外側面に対向配置されて、前記1対の平坦面に隣接する1対の可動側平坦面とによって、前記切削チップの傾動方向が一方向に規制されている請求項
5から7の何れか1の請求項に記載の切削ツールである。
【0013】
請求項
9の発明は、前記ヘッド支持部のうち傾動可能な方向を向いた部分は、先端側に向かって互いに接近するように傾斜する1対の傾斜部になっている請求項
8に記載の切削ツールである。
【0016】
請求項
10の発明は、前記
支持シャフトの軸方向の異なる複数位置に前記チップ収容凹部が形成され、それら各チップ収容凹部に前記切削チップが収容されている
請求項1乃至9の何れか1の請求項に記載の切削ツールである。
【0018】
請求項
11の発明は、前記切削刃の刃筋は、前記先細ヘッド部の先端側から基端側に向かうに従って周方向の一方側に移動していくように湾曲している請求項1乃至
10の何れか1の請求項に記載の切削ツールである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の切削ツールでは、切削チップが傾動するので、直動のみ可能な従来のものに比べて切削チップがワークからの反力によって容易に作動する。これにより、切削刃がワークの形状にスムーズに追従して動き、スムーズなバリ取り加工又は面取り加工が可能になる。なお、本発明の切削ツールは、バリ取り加工を伴う面取り加工、バリ取り加工を伴わない面取り加工、面取り加工を伴わないバリ取り加工の何れに使用してもよい。
【0024】
請求項1
及び8の切削ツールによれば、切削チップが傾動可能な方向で切削刃をワークのエッジに押し付け、切削チップが傾動不能な方向に切削刃をエッジに沿って移動することで、切削刃が切削抵抗によって過度に逃げないようになり、確実にバリ取り加工又は面取り加工を行うことができる。この場合、ヘッド部の全体に切削刃を形成してもよいし、請求項2の切削ツールのように、先端ヘッド部のうち傾動可能な方向を向いた部分にのみ切削刃を形成してもよい。
【0025】
請求項
4の切削ツールによれば、切削チップは傾動可能であると共に直動可能でもあるので、切削チップを先細ヘッド部の中心軸方向からワークに押し付けても、切削チップが傾動しかしないものに比べて容易に作動し、そのような使用方法でもスムーズなバリ取り加工又は面取り加工を行うことが可能になる。
【0026】
請求項5の構成によれば、簡素な構造で、切削チップを直動可能かつ傾動可能に支持することができる。この請求項5の構成以外に、切削チップを直動可能かつ傾動可能に支持する構成としては、例えば、切削チップから両側方に突出する1対のヒンジ突部を設けて、それら1対のヒンジ突部を
支持シャフトに備えた支持溝にスライド可能に係合させた構成が挙げられる。
【0027】
また、請求項
5の構成とした場合、位置付勢手段を兼ねる姿勢付勢手段として、チップ収容凹部におけるフランジ収容部の内面とフランジ部との間に圧縮コイルバネを突っ張り状態に設けてもよいし(請求項
6の発明)、フランジ収容部に圧縮ガスを供給するためのガス供給路を設けてもよいし(請求項
7の発明)、それらの両方を設けてもよい。また、フランジ収容部に圧縮ガスを供給すれば、切削刃にて切除したバリを圧縮ガスによって吹き飛ばし、チップ収容凹部にバリが進入することを防ぐ効果も奏する。
【0028】
請求項
9の切削ツールでは、ヘッド支持部のうち傾動可能な方向を向いた部分が、先端側に向かって互いに接近するように傾斜する1対の傾斜部になっているので、切削チップの傾動の妨げにならない範囲でヘッド支持部の強度を高くすることができる。
【0030】
請求項
10の切削ツールは、
支持シャフトの軸方向の異なる複数位置に切削チップを備えているので、ワークの円筒壁を貫通する丸孔によって円筒壁の内外に形成されるエッジを、複数の切削チップを使用して切除することができる。
【0031】
請求項
11の切削ツールのように、切削刃の刃筋を湾曲形状にすることでワークのエッジが容易に切削されるようになる。
【0032】
請求項
3の切削ツールでは、先細ヘッド部の先端部が切削刃を有さず丸みを帯びた摺接膨出部になっているので、ワークに備えた孔内を切削チップが移動する際に、切削刃によってワークの孔の内面が傷付けられることを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を
図1〜
図10に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の切削ツール10は、支持シャフト11
の先端部に切削チップ20を組み付けてなる。また、切削チップ20は、
図2に示すように、先端側から順番に、先細ヘッド部21、ヘッド支持部22、フランジ部23及び基端ボス24を同軸上に連ねて備える。
【0036】
先細ヘッド部21は、略円錐形状をなし、その先端側は丸みを帯びたドーム形状になっている。また、先細ヘッド部21の側面は、中心軸((
図3(B)のCL1参照)に
対して例えば30〜60度の角度で傾斜していて、その先細ヘッド部21の側面には複数の切削刃25が形成されている。切削刃25に関しては、後に詳説する。
【0037】
図3(B)に示すように、ヘッド支持部22は、先細ヘッド部21の略2倍程度の軸長をなしている。ヘッド支持部22の先端は、先細ヘッド部21の基端に一致した円形をなす一方、ヘッド支持部22の基端は、
図3(A)に示すように、1対の半円部22A,22Aの間を1対の平行な直線部22B,22Bで連絡した長円形状になっている。また、ヘッド支持部22の基端の長円形を構成する1対の半円部22A,22Aは、ヘッド支持部22の先端の円形を2分割した半円部22F,22Fと同じ大きさになっている。そして、それら半円部22A,22Fの間を最短に連絡してなる1対の湾曲傾斜面22D,22D(本発明の「傾斜部」に相当する)と、1対の湾曲傾斜面22D,22Dの間に挟まれた1対の三角平面22E,22E(
図2参照。本発明の「可動側平坦面」に相当する)とがヘッド支持部22の側面に形成されている。
【0038】
フランジ部23は、円板状をなし、その表裏の主平面23A,23Aの直径は、ヘッド支持部22の基端部の最長部分より大きくなっている。また、フランジ部23の外周面23Cは、両主平面23A,23Aの間に中心点を有する球面の一部で構成されている。なお、基端ボス24は、先細ヘッド部21より外径が小さい円柱状をなしている。
【0039】
前述した複数の切削刃25は、
図3(A)に示すように、複数ずつの2つのグループに分けられ、先細ヘッド部21のうち前述した1対の湾曲傾斜面22D,22Dの対向方向の2箇所に偏在している。また、各切削刃25は、
図4に示すように、先細ヘッド部21の先端寄り位置(具体的には、前述したドーム形状部分の中腹位置)から基端位置に亘って延びている。さらには、
図3(A)に示すように、先細ヘッド部21を先端側から見た場合に、切削刃25の刃筋25Aは、先細ヘッド部21の基端側に向かうに従って反時計回り方向に徐々に移動するように湾曲している。また、各グループ
の隣り合った切削刃25,25同士の間隔は、先細ヘッド部21の先端側から基端側に向かうに従って徐々に拡がっている。
【0040】
図4に示すように、切削刃25のうち刃筋25Aより湾曲の外側は、先細ヘッド部21全体の側面に対して比較的大きな交差角θ1で交差するすくい面25Bをなし、切削刃25のうち刃筋25Aより湾曲の内側は、先細ヘッド部21の全体の側面に対して比較的小さい交差角θ2(即ち、θ1>θ2)で交差する逃げ面25Cをなしている。なお、先細ヘッド部21の先端には、切削刃25が形成されていない摺接膨出部21Aが残されている。
【0041】
図1に示すように、支持シャフト11は、断面円形の棒部材を加工してなり、その長手方向の略中央から先端寄り位置までの範囲に、全体に比べて小径なネック部11Nが形成されている。そして、支持シャフト11のうちネック部11Nより先端側が切削チップ20を支持するチップ支持部11Cになっている。
【0042】
図5に示すように、チップ支持部11Cの先端外縁部には、テーパー面11Tが形成されている。また、チップ支持部11Cの外周面のうち180度離れた2箇所には、その外周面の一部を左右対称に平坦に切除して1対のサイド平坦部11S,11Sが形成されている(
図6参照)。さらに、チップ支持部11Cの外周面のうち1対のサイド平坦部11S,11Sの対向方向と直交する方向で対向する2箇所には、幅広平坦部18と幅狭平坦部19とが形成されている。幅広平坦部18は、チップ支持部11Cの外周面の一部を、その軸方向の全体に亘ってサイド平坦部11Sより深く切除してなる。一方、幅狭平坦部19は、チップ支持部11Cの外周面の一部をその軸方向の先端から中間位置に亘ってサイド平坦部11Sより浅く切除してなる。
【0043】
図2に示すように、チップ支持部11Cの先端寄り位置には、幅広平坦部18から幅狭平坦部19寄り位置に亘って円形孔13が形成されると共に、その円形孔13の奥面から幅狭平坦部19に亘って連通孔14が形成されている。また、支持シャフト11の中心部には、支持シャフト11の全体の基端面と円形孔13との間を連絡するガス供給路32が形成されている。
【0044】
図5に示すように、連通孔14をその中心軸方向から見た形状は、支持シャフト11の軸方向に延びた長円形をなし、その長円形は、切削チップ20のヘッド支持部22における基端の長円形を僅かに長くした大きさになっている。そして、連通孔14の内面が、前記長円形の半円部に相当する1対の湾曲面14A,14Aと、前記長円形の直線部に相当する1対の平坦面14B,14B(本発明の「支持側平坦面」に相当する)とから構成されている。
【0045】
図2に示すように、円形孔13と連通孔14とは同軸上に配置され、円形孔13の内径は、切削チップ20のフランジ部23の外径より僅かに大きくなっている。また、円形孔13の奥面(即ち、円形孔13のうち連通孔14との段差面)は、本発明に係る位置決段差面16Kになっている。
【0046】
円形孔13の内周面のうち幅広平坦部18側の端部には、雌螺子部13Nが形成されている。そして、その雌螺子部13Nに蓋部材15が螺合装着されている。蓋部材15は、一端有底の筒状をなし、その外周面に雄螺子部15Nが形成されている。また、蓋部材15には、底壁の外面全体を円錐台形状に突出させてなる螺合操作部15Sが備えられ、その螺合操作部15Sの中心部を横切るように工具係合溝15Mが形成されている。また、螺合操作部15Sの外縁部は、雄螺子部15Nの外周面より側方に張り出していて、その張り出し部分における雄螺子部15N側はテーパー面15Bになっている。そして、蓋部材15は、螺合操作部15Sの外縁部が円形孔13の開口縁に食い込む位置までねじ込まれ、
図2に示すように、螺合操作部15S全体がチップ支持部11Cの外周面の延長面より内側に収まっている。なお、工具係合溝15Mは、チップ支持部11Cの周方向
に延びた状態に配置されている。
【0047】
図2に示すように、切削チップ20は、円形孔13側から先細ヘッド部21を先頭にして挿入され、
図5に示すように、ヘッド支持部22の三角平面22E,22Eが連通孔14の平坦面14B,14Bに重なった状態に組み付けられている。そして、
図2に示すように、圧縮コイルバネ17(本発明の「傾動付勢手段」、「直動付勢手段」に相当する)が切削チップ20に次いで円形孔13に挿入されてから蓋部材15が雌螺子部13Nにねじ込まれている。これにより、圧縮コイルバネ17が切削チップ20のフランジ部23と蓋部材15との間で突っ張り状態になり、フランジ部23が位置決段差面16Kに押し付けられている。
【0048】
円形孔13は、幅広平坦部18側の開口が蓋部材15によって閉塞されることで本発明に係るフランジ収容部16となり、そのフランジ収容部16と連通孔14とから本発明に係るチップ収容凹部31が構成されている。また、ガス供給路32を通してフランジ収容部16に圧縮エアーが送給された場合には、そのエアー圧によってもフランジ部23が位置決段差面16Kに押し付けられるように付勢される。
【0049】
切削ツール10の構造に関する説明は以上である。この構成により、切削ツール10は、
図2に示すように、通常は、切削チップ20のフランジ部23が位置決段差面16Kの周方向の全域に当接した状態に保持され、そこから切削チップ20がチップ収容凹部31の奥側に直動可能になると共に、支持シャフト11の長手方向に傾動可能になる。
【0050】
フランジ部23が、位置決段差面16Kの周方向の全域に当接した状態は、切削チップ20が、本発明に係る「原点位置」に配置された状態に相当する。また、切削チップ20の中心軸と連通孔14の中心軸とが略一致した状態は、切削チップ20が、本発明に係る「原点姿勢」になっている状態に相当する。即ち、切削チップ20が原点位置に配置されたときには必ず原点姿勢になる。また、切削チップ20は原点姿勢を維持して、原点位置から離れるようにチップ収容凹部31の奥側に移動することができる。さらには、切削ツール10が原点位置に配置されると、
図2に示すように、先細ヘッド部21の全体が切削ツール10から側方に突出した状態になる。そこから、切削チップ20は、先細ヘッド部21の全体がチップ収容凹部31内に収まる位置まで移動することができる。
【0051】
また、ガス供給路32からフランジ収容部16へと圧縮エアーが供給されている場合には、切削チップ20が原点位置から移動するか傾動したときに、その圧縮エアーが連通孔14から吐出され、切削チップ20が原点位置に配置されると、フランジ部23と位置決段差面16Kとの面当接により連通孔14とフランジ収容部16との間が閉塞されて、連通孔14から圧縮エアーが噴出されなくなる。
【0052】
図7には、上記した切削ツール10を有する切削装置35が示されている。この切削装置35は、特開2013−043266号公報に開示されたものと、切削ツール10以外の構造が同じになっている。即ち、切削装置35は、水平に延びた支持レール36上をスライドするスライドベース37と、スライドベース37の下端部から水平に延び、スライドベース37によって上下動可能でかつ垂直軸回りに旋回可能に支持された第1アーム38と、水平方向に延びて第1アーム38の先端部に回動可能に支持された第2アーム39と、第2アーム39の長手方向に直動可能となるように支持された先端スライダ40と、先端スライダ40に支持されて、先端スライダ40の直動方向と平行な回転軸回りに回転するツール保持軸41とを有し、それら可動部分の全てがそれぞれサーボモータによって位置制御されるようになっている。そして、切削ツール10の基端部がツール保持軸41に保持されている。また、ツール保持軸41には図示しないエアー供給管が接続されていて、切削ツール10のガス供給路32に圧縮エアーが供給されている。さらに、切削装置35には、ワーク治具42が備えられている。ワーク治具42は、水平な回転軸を中心に回転駆動される水平回転部43を有し、その水平回転部43にワーク90が取り付けられる。
【0053】
図8には、ワーク90の一例が示され、
図9及び
図10には、そのワーク90を切削ツール10によってバリ取り兼面取り加工する一連の動作の一例が示されている。
図8に示すように、ワーク90には円筒壁91が備えられ、その円筒壁91を丸孔92が横方向に直交している。そして、円筒壁91の外周面91G及び内周面91Nと丸孔92の内周面92Nとが交差するエッジE1,E2にバリが発生するため、それらバリを切除すると共にエッジE1,E2を面取り加工するために切削ツール10が使用される。なお、これらエッジE1,E2は、3次元的に湾曲した、所謂、馬鞍形状になっている。
【0054】
切削ツール10は、丸孔92の内径に対してチップ支持部11Cの外径が僅かに小さいものが選定され、切削装置35のツール保持軸41に取り付けられる。そして、切削装置35が、例えば、ティーチングプレイバック制御によって以下のように動作する。
【0055】
即ち、
図9(A)に示すように、切削装置35(ワーク治具42を含む)を起動すると、切削ツール10の支持シャフト11が、丸孔92の同心軸上の所定の第1位置に移動する。次いで、その第1位置から切削ツール10が丸孔92内に向かって前進し、
図9(B)に示すように先細ヘッド部21が円筒壁91の外面側のエッジE1に押し付けられて、切削刃25がエッジE1に宛がわれる。そして、支持シャフト11が軸方向に前後動しながら回転することで、先細ヘッド部21が、エッジE1の馬鞍形状に沿った軌跡を描き、切削刃25がエッジE1上を移動してバリ取り加工及び面取り加工が行われる。
【0056】
そのバリ取り加工及び面取り加工の間、エッジE1の馬鞍形状と先細ヘッド部21の軌跡とのズレにより、支持シャフト11からの先細ヘッド部21の突出量が変動し得るが、ここで、本実施形態の切削ツール10では、切削チップ20が傾動可能に支持されているので、直動のみ可能な従来のものに比べて、切削チップ20がエッジE1の形状に追従してスムーズに傾動する。これにより、従来よりスムーズなバリ取り加工及び面取り加工が可能になる。
【0057】
また、切削チップ20は支持シャフト11の長手方向にのみ傾動し、それ以外の方向には傾動しないので、切削刃25によってバリを切除する際の加工反力を支持シャフト11による切削チップ20の支持(
図5に示された切削チップ20の三角平面22Eと連通孔14の平坦面14Bとの当接)によって受け止めることができ、確実にバリを切除することができる。
【0058】
さらには、切削刃25の刃筋25Aが湾曲した形状をなし、支持シャフト11を回転させたときの先細ヘッド部21の進行方向に対して切削刃25
が傾斜した状態になるので、切削刃25による所謂切れ味が高くなり、バリ取り加工及び面取り加工を容易に行うことができる。しかも、複数の切削刃25が協働して面取り加工が行われるので、加工面
の品質も高くなる(滑らかになる)。また、切除されたバリは、連通孔14から吐出する圧縮エアーによって吹き飛ばされるので、支持シャフト11と切削チップ20との隙間にバリが挟まることが防がれる。なお、切削チップ20は、傾動可能な方向を向いた部分が、先端側に向かって互いに接近するように傾斜する1対の湾曲傾斜面22D,22Dになっているので、切削チップ20の傾動の妨げにならない範囲でヘッド支持部22の強度を高くすることができ、安定したバリ取り加工及び面取り加工を行うことができる。
【0059】
円筒壁91の外側のエッジE1のバリ取り加工及び面取り加工が終了したら先細ヘッド部21が外側のエッジE1を通過する位置まで支持シャフト11が前進する。すると、
図9(C)に示すようにチップ収容凹部31の奥側に移動して原点姿勢になり、切削チップ20の先端の摺接膨出部21Aが内周面92Nの内面に当接した状態になる。そして、
図10(A)に示すように、切削チップ20が丸孔92を通過する位置まで支持シャフト11が前進する。その間、摺接膨出部21Aが内周面92Nに摺接するが、摺接膨出部21Aは、切削刃25を有しない滑らかな湾曲面になっているので、丸孔92の内周面92Nに深い摺接傷が形成されることはない。
【0060】
次いで、
図10(B)に示すように、支持シャフト11が後退して先細ヘッド部21が内側のエッジE2に押し付けられる。そして、外側のエッジE1と同様に、先細ヘッド部21が内側のエッジE2の馬鞍形状に沿った軌跡を描くように移動してバリ取り加工及び面取り加工が行われる。そして、支持シャフト11が丸孔92から引き抜かれ、ワーク90をワーク治具42により180度回転してから、もう一方の丸孔92の内外のエッジE1,E2に対しても同様にバリ取り加工及び面取り加工が行われる。
【0061】
上記したように本実施形態の切削ツール10では、切削チップ20が傾動するので、直動のみ可能な従来のものに比べて、切削チップ20がワーク90からの反力によって容易に作動する。これにより、切削刃25がワーク90の形状にスムーズに追従して動き、スムーズなバリ取り加工又は面取り加工が可能になる。また、切削チップ20は直動も可能であるので、切削チップ20をその中心軸方向からワークに押し付けても切削チップ20が傾動しかしないものに比べて容易に作動し、そのような使用方法でもスムーズなバリ取り加工又は面取り加工を行うことが可能になる。
【0062】
なお、本実施形態では、切削ツール10でバリ取り加工を伴う面取り加工を行う例を示したが、バリ取り加工を伴わない面取り加工や、面取り加工を伴わないバリ取り加工に切削ツール10を使用してもよい。
【0063】
[第2実施形態]
本実施形態の切削ツール10Wは、
図11及び
図12に示されており、切削チップ20Wを全方向に傾動可能とするために連通孔14Wが円形をなし、ヘッド支持部22Wが円錐台状になっている。また、先細ヘッド部21には、全周に亘って切削刃25が形成されている。上記以外の構成は、第1実施形態の切削ツール10と同じになっている。
【0064】
[第3実施形態]
本実施形態の切削ツール10Vは、
図13に示すように、支持シャフト11の軸方向に1対のチップ収容凹部31,31を並べて備え、それらチップ収容凹部31,31内にそれぞれ切削チップ20及び圧縮コイルバネ17を収容している。また、両チップ収容凹部31,31は、互いに逆向きに開口していて、
図14に示すように、1対の切削チップ20,20の先細ヘッド部21,21が支持シャフト11からそれぞれ180度異なる方向に突出している。上記以外の構成は、第1実施形態の切削ツール10と同じになっている。
【0065】
本実施形態の切削ツール10Vを使用した場合、
図15(A)及び
図15(B)に示すように、支持シャフト11の先端側の一方の切削チップ20で円筒壁91の内面側のエッジE2のバリ取り加工及び面取り加工を行う一方、他方の切削チップ20で円筒壁91の外面側のエッジE1のバリ取り加工及び面取り加工を行うことができる。
【0066】
なお、切削ツール10Vでは、同じ大きさの切削チップ20,20を複数並べる構成としたが、大きさの異なる切削チップを複数並べる構成としてもよい。また、切削ツール10Vでは、チップ収容部31,31は互いに逆向きに開口する構成としたが、同じ向きに開口するなど、任意の方向に開口する構成としてもよい。
【0067】
[第4実施形態]
前記第1実施形態では、切削装置35(
図6)に、ティーチングプレイバックにより馬鞍形状のエッジE1,E2に対するバリ取り動作を行わせていたが、本実施形態では、僅かなティーチングと数値入力とで上記バリ取り動作を行わせることができるようになっている。
【0068】
具体的には、本実施形態の切削装置35の機械的な構成に関しては、第1実施形態と同じであり、制御部に記憶されているプログラムが異なる。そのプログラムの1つである入力アシストプログラムを実行すると、
図16に示したワーク90の円筒壁91における外径R及び壁厚Tと、丸孔92の内径rと、後述する加工回転量Nの数値入力が求められる。
【0069】
次いで、切削装置35のマニュアル操作(ティーチング操作)により、
図16に示すように、切削ツール10の支持シャフト11の中心軸を丸孔92の中心軸CL3に一致させかつ、円筒壁91の中心軸CL2と丸孔92の中心軸CL3とを含む架空の面内に切削チップ20の中心軸を配置し、さらに先細ヘッド部21を外側のエッジE1に接近させた位置(以下、これを「始点位置Z(θs)」という)に配置して、その始点位置Z(θs)をティーチングさせる処理が求められる。そして、この処理を完了すると、入力アシストプログラムが終了する。
【0070】
ここで、先細ヘッド部21の位置は、丸孔92の中心軸
CL3であるツール回転軸上において、そのツール回転軸と円筒壁91の中心軸
CL2との交点を原点とする直動座標位置Zと、ツール回転軸回りにおいて、前記した始点位置Z(θs)を原点とする回転位置θとからなる座標系(θ、Z)で特定することができる。なお、先細ヘッド部21の位置は、先細ヘッド部21に設定した任意の基準点(例えば、先細ヘッド部21の基端の中心点)の位置を意味する。
【0071】
また、直動座標位置Zを回転位置θによる関係式Z(θ)で特定することで、先細ヘッド部21の移動の軌跡を特定することができる。そして、切削装置35の制御部に備えた軌跡演算プログラムが、上記した入力アシストプログラムにより設定されたデータに基づいて先細ヘッド部21が丸孔92を通過する間に先細ヘッド部21に描かせる軌跡が、下記[数1]の関係式となるように決定する。なお、先細ヘッド部21の位置は、ワーク90に当接することで変化するが、下記[数1]の関係式で特定される先細ヘッド部21の軌跡は、先細ヘッド部21がワーク90と当接していないと仮定したときの先端ヘッド部21の中心軸CL1の軌跡である。
【0073】
上記[数1]の関係式を決定するに際し、制御部では以下の処理を行う。即ち、先細ヘッド部21の始点位置Z(θs)において、切削チップ20の中心軸CL1と円筒壁91の外面との間の距離
(以下、この距離を「予備距離D」と呼ぶ)を求める。そして、始点位置Z(θs)の先細ヘッド部21を壁厚Tに沿って平行移動して
図17に示すように、先細ヘッド部21の中心軸CL1が円筒壁91の内周面91Nより内側に予備距離Dだけ離間した位置を「終点位置Z(θe)」に決定する。そして、先細ヘッド部21の始点位置Z(θs)と終点位置Z(θe)との間の距離L(=T+2*D)を、上記した円筒壁91の壁厚Tと予備距離Dとから求めると共に、始点位置Z(θs)における直動座標位置Zo(=R+D)を円筒壁91の外径Rと予備距離Dとから求める。そして、上記[数1]の関係式を決定する。
【0074】
切削装置35に、バリ取り動作を行わせると、先細ヘッド部21が始点位置Z(θs)から終点位置Z(θe)までの間に加工回転量Nだけ回転して移動し、その間、先細ヘッド部21がワーク90に当接しないと仮定すると(切削チップ20が原点位置に維持されていたとすると)、先細ヘッド部21が上記[数1]の関係式で特定される軌跡を描く。
【0075】
具体的には、先細ヘッド部21が馬鞍形状のエッジE1,E2に沿った軌跡を描くようにツール回転軸の軸方向で前後しながら円筒壁91の中心に接近する側に移動していく。これにより、効率よく、馬鞍形状のエッジE1,E2のバリ取り加工を行うことができる。
【0076】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0077】
(1)前記第1〜第3の実施形態では、切削刃25の刃筋25Aが湾曲形状になっていたが、
図18に示すように、直線状に延び刃筋25Aを有する切削刃25を先細ヘッド部21に設けてもよい。また、前記実施形態では先細ヘッド部21の周方向の2箇所に切削刃25群が偏在していたが、先細ヘッド部21の周方向の1箇所に切削刃25群が偏在した構成としてもよい。
【0078】
(2)前記第1実施形態では、切削チップ20の三角平面22Eと支持シャフト11における連通孔14の平坦面14Bとの隣接により、切削チップ20の傾動方向が制限されると共に、切削チップ20の中心軸CL1回りの回転も制限されていたが、
図19に示すように、切削チップ20の三角平面22Eと連通孔14の平坦面14Bとの間に隙間を設けて、その隙間の範囲において切削チップ20が中心軸CL1回りに回動する構成としてもよい。
【0079】
(3)前記第1実施形態では、切削チップ20の傾動可能であると共に直動可能であったが、傾動のみ可能な構成としてもよい。具体的には、切削チップの基端部と支持シャフトとを横方向に貫通するヒンジピンを設けて、切削チップ20を傾動のみ可能としてもよい。
【0080】
(4)前記第1〜第3の実施形態では、切削チップ20が棒状の支持部材(支持シャフト11)に支持されていたが、例えば、ブロック状の支持部材で切削チップを支持してその支持部材の外面から先細ヘッド部21を突出させた構成としてもよい。
【0081】
(5)前記第1〜第3の実施形態では、ヘッド支持部22,22Wは、基端面の中心と先端面の中心とが同一軸上となるように構成されていたが、ヘッド支持部22,22Wの基端面の中心と先端面の中心とがずれるように構成してもよい。例えば、先端面が長円形の一端側に寄せられた構成とすれば、長円形における長辺のうち一方にのみ傾動する構成となる。
【0082】
(6)上記実施形態は、複数の切削刃25は、それぞれの切削刃25が略平行に形成されていたが、複数の切削刃25が交差する複目となるように構成されていてもよい。