(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904558
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】関節機構、これを用いた多関節マニピュレータ及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B25J 17/00 20060101AFI20210708BHJP
F16H 37/12 20060101ALI20210708BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20210708BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
B25J17/00 G
F16H37/12 Z
F16H55/36 Z
D07B1/02
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-93787(P2017-93787)
(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-187733(P2018-187733A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年4月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/高強度化学繊維を用いた『超』腱駆動機構と制御法の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 玄
(72)【発明者】
【氏名】堀米 篤史
【審査官】
樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−082688(JP,A)
【文献】
特表2000−506980(JP,A)
【文献】
特開2014−057626(JP,A)
【文献】
特開平11−028689(JP,A)
【文献】
特開2001−248712(JP,A)
【文献】
特開2003−074650(JP,A)
【文献】
特開2004−169724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 17/00
D07B 1/02
F16H 37/12
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝付きプーリと、
前記溝付きプーリに巻き架された軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤと、
前記溝付きプーリに固定され、前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部が固定されたリンクと
を具備し、
前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの前記固定端部は結び法によるループを構成し、該ループは前記リンクのピンに通されて固定されている関節機構。
【請求項2】
前記各軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤは高強度化学繊維よりなる請求項1に記載の関節機構。
【請求項3】
前記高強度化学繊維は高強度ポリエチレン、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維及び炭素繊維のいずれか1つである請求項2に記載の関節機構。
【請求項4】
前記溝付きプーリは溝角度及び溝底径によって定義された溝を有する請求項1に記載の関節機構。
【請求項5】
基台と、
複数の関節と、
前記関節によってシリアルに連結され、前記基台に結合された複数のリンクと、
前記関節に摺動可能に軸着された複数のプーリと、
前記プーリに巻き架された複数の軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤと、
前記各軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの張力を調整するための複数のアクチュエータと
を具備し、
前記各軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤが巻き架された最外側のプーリは溝付きプーリとし、
前記各軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部は結び法によるループを構成し、該ループは前記最外側のリンクのピンに通されて固定されている多関節マニピュレータ。
【請求項6】
前記各軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤは高強度化学繊維よりなる請求項5に記載の多関節マニピュレータ。
【請求項7】
前記高強度化学繊維は高強度ポリエチレン、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維及び炭素繊維のいずれか1つである請求項6に記載の多関節マニピュレータ。
【請求項8】
前記溝付きプーリは溝角度及び溝底径によって定義された溝を有する請求項5に記載の多関節マニピュレータ。
【請求項9】
請求項1に記載の関節機構の製造方法であって、
前記溝付きプーリの直径Dと前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの直径dとの比D/dが所定値以上である前記溝付きプーリの直径D及び前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの直径dを決定するための工程と、
前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部の強度効率を評価するための工程と、
前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤを前記溝付きプーリに巻き付けた場合の強度効率に応じて前記溝付きプーリの溝構造を決定するための工程と、
前記溝構造が決定された前記溝付きプーリに対する前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの疑似摩擦係数を測定するための工程と、
前記疑似摩擦係数及び前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤによる摩擦力による前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの張力減衰率に応じて前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの前記溝付きプーリの巻き付け角度を演算するための工程と
を具備する関節機構の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載の多関節マニピュレータの製造方法であって、
前記溝付きプーリの直径Dと前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの直径dとの比D/dが所定値以上である前記溝付きプーリの直径D及び前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの直径dを決定するための工程と、
前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部の強度効率を評価するための工程と、
前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤを前記溝付きプーリに巻き付けた場合の強度効率に応じて前記溝付きプーリの溝構造を決定するための工程と、
前記溝構造が決定された前記溝付きプーリに対する前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの疑似摩擦係数を測定するための工程と、
前記疑似摩擦係数及び前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤによる摩擦力による前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの張力減衰率に応じて前記軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの前記溝付きプーリの巻き付け角度を演算するための工程と
を具備する多関節マニピュレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
関節機構、これを用いた多関節マニピュレータ及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酷事故後の原子力発電所において溶融した核燃料を取り出すための遠隔操作用マニピュレータとして、
手先出力が大きく細長いアームの超長尺超多自由度の多関節マニピュレータが必要である。
【0003】
従来の多関節マニピュレータは、基台と、複数の関節と、関節によってシリアルに連結され、基台に結合された複数のリンクと、関節に軸着された複数のプーリと、プーリに少なくとも1回転して巻き架された複数の金属ワイヤと、金属ワイヤの張力を調整するための複数のアクチュエータ(モータ)とによって構成されている(参照:非特許文献1、2、特許文献1)。たとえば、
図15に示すごとく、多数のリンク101−1、101−2、…(3つのみ図示)は各関節(軸)102−1、102−2、…によってシリアルに回転可能に連結されて基台103に固定リンク101−0を介して結合されている。関節102−1にはプーリ104(1、1)、104(1、2)、104(1、3)が摺動自在に軸着され、関節102−2にはプーリ104(2、2)、104(2、3)が摺動自在に軸着され、関節102−3にはプーリ104(3、3)が摺動自在に軸着されている。金属ワイヤ105−1はプーリ104(1、1)に1回転巻き架され、金属ワイヤ105−1の固定端部105−1aはリンク101−1に固定されている。つまり、プーリ104(1、1)の回転と共にリンク101−1も回転するようになっている。また、金属ワイヤ105−2はプーリ104(1、2)、104(2、2)に1回転巻き架され、金属ワイヤ105−2の固定端部105−2aはリンク101−2に固定されている。つまり、プーリ104(2、2)の回転と共にリンク101−2も回転するようになっている。さらに、ワイヤ105−3はプーリ104(1、3)、104(2、3)、104(3、3)に1回転巻き架され、金属ワイヤ105−3の固定端部105−3aはリンク101−3に固定されている。つまり、プーリ104(3、3)の回転と共にリンク101−3も回転するようになっている。尚、多数のリンク101−1、101−2、…の重量の増加を抑制するために、金属ワイヤ105−1、105−2、…を介して各リンク101−1、101−2、…を駆動するためのアクチュエータ(モータ)106−1、106−2、…は多関節マニピュレータの基台103内に設けている。
【0004】
図15において、たとえば、アクチュエータ106−3を金属ワイヤ105−3を巻き取るように駆動させると、リンク101−1、101−2、101−3は同時に上昇する。また、さらにアクチュエータ106−1を金属ワイヤ105−1を巻き取るように駆動させると、リンク101−1のみが上昇する。
【0005】
金属ワイヤ105−1、105−2、105−3の固定端部105−1a、105−2a、105−3aのリンク101−1、101−2、101−3への固定法は
図16に示すごとく、クランプ法、カシメ加工法等で行われるが、金属ワイヤ105−1、105−2、105−3(たとえばステンレス)の摩擦係数は大きいので、固定端部105−1a、105−2a、105−3aの強度効率を95〜100%と大きくできる(参照:機械設計便覧、金属ワイヤロープの端部処理法)。従って、固定端部105−1a、105−2a、105−3aが破断、滑り抜ける等の恐れは少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】広瀬茂男、馬 書根:ワイヤ干渉駆動型多関節マニピュレータの開発、計測自動制御学会論文集、26−11、1291/1298(1990)
【非特許文献2】石井智之、葉石敦生、広瀬茂男:ワイヤと二重プーリによる自重補償機構の説明とFloat Arm Vの性能評価、日本ロボット学会創立10周年記念学術講演会、1002
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開1003−89090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の従来の多関節マニピュレータにおいては、各関節の駆動は金属ワイヤの牽引によって行われているので、関節数が増大すると、多関節マニピュレータの重量が過大となるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明に係る関節機構は、溝付きプーリと、溝付きプーリに巻き架された軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤと、溝付きプーリに固定され、軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部が固定されたリンクとを具備
し、軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部は結び法によるループを構成し、ループはリンクのピンに通されて固定されているものである。
【0010】
また、本発明に係る
関節機構の製造方法は、溝付きプーリの直径Dと軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの直径dとの比D/dが所定値以上である溝付きプーリの直径D及び軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの直径dを決定するための工程と、軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部の強度効率を評価するための工程と、軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤを溝付きプーリに巻き付けた場合の強度効率に応じて溝付きプーリの溝構造を決定するための工程と、溝構造が決定された溝付きプーリに対する軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの疑似摩擦係数を測定するための工程と、疑似摩擦係数及び軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤによる摩擦力による軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの張力減衰率に応じて軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの溝付きプーリの巻き付け角度を演算するための工程とを具備するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤにより軽量化を図ることができると共に、軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの低摩擦係数による軽量高強度低摩擦係数材料ワイヤの固定端部の破断等は溝付きプーリによって抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る
関節機構の実施の形態を示す正面図である。
【
図2】
図1の高強度化学繊維ワイヤの例を示す写真である。
【
図4】
図1の
関節機構の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図4のステップ401におけるプーリ径D/ワイヤ径dに対する強度効率特性を示すグラフである。
【
図6】
図4のステップ402における特殊加工法による固定端部の強度効率の評価を示すグラフである。
【
図7】
図4のステップ402におけるクランプ法による固定端部の強度効率の評価を示すグラフである。
【
図8】
図4のステップ402における結び法による固定端部の強度効率の評価を示すグラフである。
【
図9】
図4のステップ403における溝付きプーリの形状決定を説明するものであって、(A)は形状パラメータ、(B)は(A)の形状パラメータの例を示す図、(C)は(B)の強度効率を示す表である。
【
図10】
図4のステップ404における摩擦係数、疑似摩擦係数を説明するためのものであり、(A)は張力を示す図、(B)は溝なしプーリの場合の垂直抗力を示す図、(C)は溝付きプーリの場合の垂直抗力を示す図である。
【
図11】
図4のステップ404において用いられる引張試験装置を示す図である。
【
図12】
図4のステップ404における測定された疑似摩擦係数を示すグラフである。
【
図13】
図4のステップ405における高強度化学繊維ワイヤの巻き付け角度を説明するための正面図である。
【
図14】
図4のステップ405における巻き付け角度に対する張力減衰率を示すグラフである。
【
図15】従来の多関節マニピュレータを示す斜視図である。
【
図16】
図15の金属ワイヤの固定端部の固定法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る
関節機構の実施の形態を示す正面図である。
図1においては、構造を単純化するために、関節数は1とし、最外側の関節のみを図示している。
【0014】
図1において、多関節マニピュレータは、基台1、関節(軸)2、関節2によってシリアルに連結され、基台1に結合されたリンク3−1、3−2を有する。関節2には溝付きプーリ4がリンク3−1に対して回転自在に軸着されている。リンク3−2は溝付きプーリ4に固定され、溝付きプーリ4に巻き架けた高強度化学繊維ワイヤ5を基台1に設けたアクチュエータ6を駆動することによって回動される。この場合、高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aは最外側のリンク3−2に固定されている。
【0015】
高強度化学繊維ワイヤ5は高密度化学繊維たとえば高密度ポリエチレン繊維によって構成され、金属たとえばステンレスに比較して比強度(単位重量当たりの引張強度)が非常に大きいので、多関節マニピュレータの軽量化を図れる。たとえば、高密度ポリエチレン繊維はたとえば
図2の(A)に示すダイニーマ(登録商標)又は
図2の(B)に示すザイロン(登録商標)/ダイニーマ(登録商標)である。他方、高強度化学繊維ワイヤ5の摩擦係数は小さいので、高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aの強度効率は小さくなり、固定端部5aは破断、滑り抜け等し易い。このような固定端部5aの破断、滑り抜け等を抑止するために、本発明はプーリとして
図3に示す溝付きプーリ4を採用する。
【0016】
次に、
図1の
関節機構の製造方法を
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0017】
始めに、ステップ401では、
図1の溝付きプーリ4の直径D及び高強度化学繊維ワイヤ5の直径dを決定する。この場合、溝付きプーリ4は溝なしとして溝付きプーリ4の直径D及び高強度化学繊維ワイヤ5の直径dをD/dによる強度効率Eを用いて決定する。尚、ここでの強度効率Eは、高強度化学繊維ワイヤ5を溝付きプーリ4に所定角度巻き付けて高強度化学繊維ワイヤ5の両端を引っ張る引張試験を行い、破断したときの最大張力=固定力を高強度化学繊維ワイヤ5の素の強度たとえば2.14kN(ダイニーマの場合)、2.99(ザイロン/ダイニーマの場合)で除した値である。この場合、強度効率特性は
図5に示される。
図5に示すように、
D/d≧15 (1)
であれば、強度効率Eは90%以上となる。軽量化の観点から、(1)式を満足する範囲内で、溝付きプーリ4の直径Dをできる限り小さい値を選択しかつ設計仕様から求められる最大張力で破断しない範囲内で高強度化学繊維ワイヤ5の直径dをできる限り小さい値を選択すればよい。たとえば、溝付きプーリ4の直径D及び高強度化学繊維ワイヤ5の直径dを
D=37.5mm (2)
d=2.0mm (3)
と決定する。この場合、D/d=18.75であり、強度効率Eは100%に近い92%を達成できる。
【0018】
次に、ステップ402では、ステップ401にて決定した直径d=2.0mmの
図1の高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aの強度効率Eを評価する。尚、ここでの強度効率Eは高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aをリンク3−2(リンクでなくともよい)に固定し、高強度化学繊維ワイヤ5とリンク3−2とを引張る引張試験を行い、固定端部5aが破断又は滑り抜けたときの最大張力=固定力を高強度化学繊維ワイヤ5の素の強度で除した値である。
【0019】
図6は特殊加工法によって行った場合の高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aの強度効率Eの評価を示す。評価は、カシメ加工又はミシン加工された高強度化学繊維ワイヤ5のループをリンク3−2(リンクでなくともよい)に設けられた直径10mmのピンに通して行った。すなわち、カシメ部材が1個の場合には、強度効率Eは非常に小さいが、カシメ部材を2個又は3個にすると強度効率Eは大きくなり、ステップ401での強度効率E=92%に到達するものの、概して小さい。また、ミシン加工の場合も、ミシン加工部が10mmの場合には、強度効率Eは非常に小さいが、ミシン加工部を25mm、40mmとすると強度効率Eは大きくなり、ステップ401での強度効率E=92%に到達するものの、概して小さい。尚、このような特殊加工法は安定した加工が可能だが、高強度化学繊維ワイヤ5の長さを変更ができない。
【0020】
図7はクランプ法によって行った場合の高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aの強度効率Eの評価を示す。クランプ法としては、トルク1.2Nmの2つのネジによる小型クランプ法、トルク1.2Nmの6つのネジによる大型クランプ法、トルク1.2Nmの2つのネジによる円柱形クランプ法がある。さらに、円柱形クランプ法では、クランプ力を与えてから円柱に巻き付けてクランプ力を分散させて高強度化学繊維ワイヤ5の負担を軽減することにより、巻き付けの摩擦力による固定力を増加させる(A)型、円柱に半周だけ高強度化学繊維ワイヤ5を巻き付けてからクランプ力を与えることによりD/dの影響による強度効率とする(B)型がある。クランプ法によれば、大型クランプ法、円柱型クランプ法では強度効率Eは比較的大きくなるものの、ステップ401での強度効率E=92%より概して小さい。尚、クランプ法は安定しているが、高い強度効率を得るためには,質量・体積とも増大してしまう.
【0021】
図8は結び法によって行った場合の高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aの強度効率Eの評価を示す。評価は、結びによる高強度化学繊維ワイヤ5のループをリンク3−2(リンクでなくともよい)に設けられた直径6mmのピンに通して行った。結びによる方法としては、二重継ぎ方法、二重8の字結び方法、もやい結び方法及び変形もやい結び方法がある。結びによる方法によれば、特殊加工法、クランプ法に比較して、強度効率Eは比較的小さく、たとえば、E=50%程度である。尚、結び法は、固定方法が容易であり、高強度化学繊維ワイヤ5の長さの変更も可能である。
【0022】
このように、ステップ402における低摩擦係数の高強度化学繊維ワイヤ5の固定端部5aにおける強度効率Eの評価は概して小さい。たとえば、この場合の強度効率E=E2=50%とする。このような固定端部5aにおける小さい強度効率E2を補償するために、本発明は溝付きプーリ4において高強度化学繊維ワイヤ5の摩擦力を発生させ、固定端部5aの強度効率E2まで高強度化学繊維ワイヤ5の張力を小さくするようにしたものである。
【0023】
次に、ステップ403では、
図1の溝付きプーリ4の溝形状を決定する。この場合、溝付きプーリ4に高強度化学繊維ワイヤ5を所定角度を巻き付けた場合の強度効率Eを用いて決定する。尚、ここでの強度効率Eは、高強度化学繊維ワイヤ5を溝付きプーリ4に所定角度巻き付けて高強度化学繊維ワイヤ5の両端を引っ張る引張試験を行い、破断したときの最大張力=固定力を高強度化学繊維ワイヤ5の素の強度たとえば2.14kN(ダイニーマの場合)で除した値である。すなわち、D=37.5mm、d=2.0mmの基で溝付きプーリ4の溝形状を、
図9の(A)に示すごとく、溝角度α及び溝底径φで定義する。この場合、高強度化学繊維ワイヤ5は柔らかいために大変形してしまうので、強度効率Eは変動する。たとえば、α=30°、45°、60°とし、φ=0.5mm、1.0mm、1.5mmとし、
図9の(B)に示す9通りの形状について強度効率Eを測定する。この結果、
図9の(C)に示す強度効率Eが得られた。そこで、溝形状は強度効率E=E1=98%が一番大きいα=30°及びφ=1.5mmと決定する。尚、α及びφの測定数が多い程よい。
【0024】
次に、ステップ404では、溝付きプーリ4に対する高強度化学繊維ワイヤ5の疑似摩擦係数μ’を測定する。
【0025】
図10を用いて摩擦係数μ及び疑似摩擦係数μ’について説明する。
図10の(A)に示すごとく、プーリに巻き付けてワイヤに張力T1、T2を発生して張力T1、T2を力センサで測定する。尚、引張試験装置は
図11に示す。
図10の(B)に示すプーリが溝なしの場合、高強度化学繊維ワイヤ5が溝なしプーリから受ける垂直抗力Nd1は小さいので、オイラのベルト理論に従う。つまり、
μ=−(1/θ)ln(T2/T1)
但し、μは溝なしプーリと高強度化学繊維ワイヤ5との摩擦係数たとえば0.04となる、
θは高強度化学繊維ワイヤ5のプーリに対する巻き付け角度(接触角度)
である。他方、
図10の(C)に示すごとく、プーリが溝付きの場合、高強度化学繊維ワイヤ5は溝付きプーリ4の溝の両面から垂直抗力Nd2を受けるので、オイラのベルト理論及びVベルトの理論から
μ’=−(1/θ)ln(T2/T1)
但し、μ’は疑似摩擦係数であり、
μ’=μ/(sin(α/2)+μcos(α/2))
となる。実際には、
図12に示すごとく、疑似摩擦係数μ’は高強度化学繊維ワイヤ5は柔らかいことから理論値と異なる傾向にあり、溝付きプーリ4の溝底径φにも依存する。たとえば、θ=1350°(つまり、3回転+270°)、α=30°、φ=1.5mmのときには、
μ’=0.071
であった。尚、理論値μ’は0.145である。
【0026】
最後に、ステップ405では、高強度化学繊維ワイヤ5の巻き付け角度θをステップ404にて測定された疑似摩擦係数μ’を用いて演算する。巻き付け角度θは、
図13に示すごとく、強度効率E1=98%における張力T1を高強度化学繊維ワイヤ5の摩擦力によって固定端部5aの強度効率E2まで高強度化学繊維ワイヤ5の張力T1を小さくするように定められる。つまり、
θ=−(1/μ’)ln(T2/T1)
=−(1/0.071)ln(0.5/0.98)
=543°(つまり、1回転+183°)
尚、理論値μに対する張力減衰率(T2/T1)を示す
図14を参照すると、溝なしプーリの場合、θ≒1000°であり、θ=543°は大幅に小さいことが分る。但し、α=30°の場合の理論値μ=0.0145の場合のθ≒300°より大きい。
【0027】
このように、たとえば、溝付きプーリ4については、
直径D=37.5mm
溝角度α=30°
溝底径φ=1.5mm
として、高強度化学繊維ワイヤ5については、
直径2.0mm
巻き付け角度(接触角度)θ=543°
とする。
【0028】
尚、上述の実施の形態においては、関節数が1であるが、本発明は
図15に示すような関節数が複数の多関節マニピュレータに適用できることは言うまでもない。
【0029】
また、上述の実施の形態における高強度化学繊維ワイヤ5は高強度ポリエチレン繊維の外に、他の軽量高強度低摩擦係数材料になし得る。たとえば、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール(PBO)繊維及び炭素繊維になし得る。
【0030】
さらに、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲のいかなる変更にも適用し得る。
【符号の説明】
【0031】
1:基台
2:関節
3−1、3−2:リンク
4:溝付きプーリ
5:高強度化学繊維ワイヤ
5a:固定端部
101−0:固定リンク
101−1、101−2、…:リンク
102−1、102−2、…:関節
103:基台
104(1、1)、104(1、2)、104(1、3);104(2、2)、104(2、3)、104(3、3):プーリ
105−1、105−2、105−3、…:ワイヤ
105−1a、105−2a、105−3a、…:固定端部
106−1、106−2、…:アクチュエータ(モータ)