特許第6904566号(P6904566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6904566澱粉含有冷凍食品、その品質改良剤および澱粉含有冷凍食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904566
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】澱粉含有冷凍食品、その品質改良剤および澱粉含有冷凍食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/37 20060101AFI20210708BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20210708BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   A23L3/37 A
   A23L7/10 E
   A23G3/34 106
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-175012(P2017-175012)
(22)【出願日】2017年9月12日
(65)【公開番号】特開2019-50735(P2019-50735A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2020年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591219566
【氏名又は名称】青葉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】石川 禎将
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 光紹
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】千葉 克則
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−188137(JP,A)
【文献】 特開2016−2024(JP,A)
【文献】 特許第5881118(JP,B2)
【文献】 特開2016−69603(JP,A)
【文献】 特開平6−319501(JP,A)
【文献】 特開平6−253801(JP,A)
【文献】 特開平11−18701(JP,A)
【文献】 特開平8−168350(JP,A)
【文献】 特開2001−178384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00
A23G 3/00
A23L 7/00
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロースと、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤とを含むことを特徴とする澱粉含有冷凍食品の品質改良剤。
【請求項2】
前記担子菌はエノキタケ(Flammulina velutipes種)またはその類縁品種もしくは改良品種であることを特徴とする請求項1記載の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤と、澱粉と、水分とを含むことを特徴とする澱粉含有冷凍食品。
【請求項4】
前記トレハロースを全体量に対し1質量%以上4質量%未満含み、前記氷結晶化阻害剤はエノキタケエキスを0.1質量%以上含み、前記氷結晶化阻害剤を全体量に対し0.03質量%以上含むことを特徴とする請求項3記載の澱粉含有冷凍食品。
【請求項5】
澱粉含有食品に対し、請求項1または2記載の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤を添加した後、凍結させることを特徴とする澱粉含有冷凍食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有冷凍食品、その品質改良剤および澱粉含有冷凍食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍食品、特に澱粉を主成分とした菓子類・パン類・製粉類・米飯などの冷凍の穀類加工品では、冷凍期間中における澱粉の冷凍老化、および氷の昇華に伴う乾燥、白蝋化が発生することで、食品の著しい劣化が起こってしまうという問題がある。さらに、解凍時、(特に自然解凍時と解凍後には澱粉の老化によって更なる製品劣化が起こってしまう。
【0003】
糖類、特にトレハロースは水との親和性に優れるため、自由水を制御し、少量でも解凍時・解凍後の澱粉の老化抑制に寄与するが、冷凍耐性を付与するためには多量の添加が必要となる。そのため、冷凍耐性を付与することによって食品の風味や食感の変化を避けざるを得ない。
【0004】
一方で、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤(以下、「不凍多糖」という)が知られている(特許文献1参照)。不凍多糖は、氷結晶の成長抑制機能を有する天然の多糖類であり、エノキタケ細胞壁を構成する多糖類の中から発見された。氷結晶の成長や再結晶化を抑制する機能があることから、水を含む種々の加工食品の凍結保存において、品質維持に効果を発揮する。不凍多糖は、氷結晶の結晶面に結合して氷結晶の成長を阻害し、再結晶化を抑制する機能があると考えられている。不凍多糖は、少量での添加によって効果を発揮し、食品の風味や食感の変化に影響を及ぼさない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5881118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の不凍多糖は、澱粉類における冷凍食品に対し、氷結晶によるダメージを軽減することで、結果的に老化を遅らせることが可能であるが、解凍後の老化だけに着目した場合、効果を発揮しないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、澱粉の冷凍期間中の冷凍老化と解凍後の老化をともに抑制することができる澱粉含有冷凍食品、その品質改良剤および澱粉含有冷凍食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、凍結過程を経る澱粉の品質改良の方法として、不凍多糖による冷凍耐性付与と、トレハロースによる老化耐性付与を組み合わせることによって、冷凍老化と解凍後の経時的な老化を含む総合的な老化を防ぎ、澱粉において凍結解凍後も食感や風味が低下せず、凍結前の高い品質を維持できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る澱粉含有冷凍食品の品質改良剤は、トレハロースと、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤とを含むことを特徴とする。
【0009】
トレハロースには、α,α体、α,β体およびβ,β体の3種類の異性体が存在するが、これらの異性体の1又は複数が全体として有効量含まれていれば、性状および純度は問わない。
【0010】
担子菌由来のキシロマンナンとしては、分子量が280,000以上、340,000以下であり、マンノースとキシロースの構成比がキシロース1モルに対してマンノース1.5モル以上、2.5モル以下であるものが好ましい。
本発明に係る澱粉含有冷凍食品の品質改良剤において、前記担子菌はエノキタケ(Flammulina velutipes種)またはその類縁品種もしくは改良品種であることが好ましい。
【0011】
氷結晶化阻害剤は、水溶液から成るとき、不凍活性として、RI値0.6〜0.8に規格化されたキシロマンナン含有エノキタケエキスを0.1質量%以上含むものが好ましい。
なお、不凍活性は、式1:氷再結晶化阻害活性(RI値)=(不凍タンパク質又は不凍多糖類を含む30%ショ糖溶液を−40℃に冷却後、−6℃まで100℃/分で昇温して30分保存した際に形成される氷結晶の平均面積)/(30w/v%ショ糖溶液のみを−40℃に冷却後、−6℃まで100℃/分で昇温して30分保存した際に形成される氷結晶の平均面積)により求められる。
【0012】
澱粉としては、例えば、穀類を原料とするコーンスターチ、小麦粉澱粉、ライススターチ、マイロスターチなど、イモ類を原料とするばれいしょ澱粉、かんしょ澱粉、タピオカ澱粉など、根・幹類を原料とするサゴ澱粉、クズ澱粉、わらび澱粉、レンコン澱粉など、豆類を原料とする緑豆澱粉などが挙げられる。
【0013】
本発明に係る澱粉含有冷凍食品は、前述の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤と、澱粉と、水分とを含むことを特徴とする。
本発明に係る澱粉含有冷凍食品は、前記トレハロースを全体量に対し1質量%以上4質量%未満含み、前記氷結晶化阻害剤はエノキタケエキスを0.1質量%以上含み、前記氷結晶化阻害剤を全体量に対し0.03質量%以上含むことが好ましい。
本発明に係る澱粉含有冷凍食品の品質改良剤は、調味料、保存料、着色料、増量剤その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0014】
本発明に係る澱粉含有冷凍食品の製造方法は、澱粉含有食品に対し、前述の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤を添加した後、凍結させることを特徴とする。
本発明において、澱粉含有冷凍食品としては、例えば、菓子類・パン類・製粉類・米飯などの冷凍の穀類加工品が挙げられる。澱粉含有冷凍食品は、解凍後、湯煮、焙焼、油ちょう、その他の方法により加熱調理してもよい。澱粉含有冷凍食品の品質改良剤は、澱粉含有食品と混合することが好ましい。
本発明によれば、澱粉の冷凍期間中の冷凍老化と解凍後の老化をともに抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、澱粉の冷凍期間中の冷凍老化と解凍後の老化をともに抑制することができる澱粉含有冷凍食品、その品質改良剤および澱粉含有冷凍食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1のレオメーターによる解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、各種の試験に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤は、トレハロースと、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤(不凍多糖)とを含む。本発明の実施の形態の澱粉含有冷凍食品は、その澱粉含有冷凍食品の品質改良剤と、澱粉と、水分とを含む。
【0018】
以下に、本発明の実施の形態の澱粉含有冷凍食品の品質改良剤について、効果的な構成を調べるために、各種の試験を行った。以下、本明細書において「%」は「質量%」を意味する。以下、トレハロースには、純度98重量%以上の市販品を使用した。不凍多糖には、市販のエノキタケ抽出液製剤(株式会社カネカ製、商品名「カネカ不凍多糖 EF1」、不凍活性(RI値):0.6〜0.8、エノキタケエキスの含有量:0.1%)を使用した。
各種試験において、以下の評価基準により評価を行った。
「表面の状態」:◎とてもしっとりしている、 ○しっとりしている、 △やや乾燥している、 ×とても乾燥している
「風味への影響」:◎まったく影響が無い、 ○やや甘い、 △甘い、 ×かなり甘い
【0019】
[試験1:トレハロースを添加した際の効果の評価]
澱粉にトレハロースのみを添加した際の品質改良効果を評価した。
[試験方法]:澱粉としてコーンスターチを用い、表1に示す配合で試験区ごとにゲルを作製して、−20℃に急速凍結を行った。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、−20℃設定)にて1週間、凍結保管した。自然解凍後、4℃で6時間静置し、ゲル表面の乾燥状態の確認を行った。その結果を表2に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表2に示すとおり、トレハロースのみの添加では、添加量が4%以上から効果的であり、添加量を大きくするのに比例して表面の乾燥状態は改善された。一方で、風味への影響は添加量が増えると大きくなり、老化に対して効果的な添加量では風味への影響が大きくなった。
【0023】
[試験2:不凍多糖を添加した際の効果の評価]
澱粉に不凍多糖のみを添加した際の品質改良効果を評価した。
[試験方法]:澱粉としてコーンスターチを用い、表3に示す配合で試験区ごとにゲルを作製して、−20℃に急速凍結を行った。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、−20℃設定)にて1週間、凍結保管した。自然解凍後、4℃で6時間静置し、ゲル表面の乾燥状態の確認を行った。その結果を表4に示す。
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
表4に示すとおり、不凍多糖のみの添加では、凍結解凍後の経時的な老化を防ぐことは難しく、添加量が0.1%以上でやや効果が観察された。一方で風味への悪影響はほとんど観察されなかった。
【0027】
[試験3:トレハロースと不凍多糖を併用した際の効果の評価]
トレハロースと不凍多糖を併用した際の効果を評価した。なお、添加量はそれぞれトレハロース1.0〜5.0%、不凍多糖0.01〜0.2%の範囲で行った。
【0028】
[試験方法]:澱粉としてコーンスターチを用い、表3に示す配合で試験区ごとにゲルを作製して、−20℃に急速凍結を行った。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、−20℃設定)にて1週間、凍結保管した。自然解凍後、4℃で6時間静置し、ゲル表面の乾燥状態の確認を行った。その結果を表6に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
表6に示すとおり、トレハロースの添加量が1%以上、不凍多糖の添加量が0.03%以上の併用で乾燥状態の改善が観察され、トレハロースの添加量が2%以上、不凍多糖の添加量が0.04%以上で乾燥状態のさらなる改善があり、トレハロースの添加量が3%以上、不凍多糖の添加量が0.1%以上で最も改善効果が観察された。風味への影響に関しては、トレハロースの添加量が4%以上添加した場合に風味の低下が観察された。
【0032】
以上の試験結果より、不凍多糖のみの添加では澱粉における冷凍解凍後の時間経過による老化を防ぐことは困難であることがわかった。不凍多糖により、冷凍解凍時における氷結晶によるダメージは軽減され、冷凍解凍時のダメージを防ぐことによって副次的に老化を遅らせることは可能であったが、それだけでは不十分であった。
【0033】
一方で、トレハロースの添加では、多量の添加によって冷凍解凍後の時間経過による老化をある程度防ぐことが可能であったが、食感や食味の面で大きく変化してしまった。不凍多糖とトレハロースを併用することによって、風味への悪影響が起きない範囲で、冷凍解凍時の氷結晶ダメージによる冷凍老化と、解凍後に経時的に起こる通常の老化を総合的に防ぎ、冷凍解凍後も冷凍前の品質を長く維持し続けることが可能となる。
【0034】
以上のとおり、トレハロースと不凍多糖とを組み合わせて用いることにより、澱粉を主成分とした菓子類・パン類・製粉類・米飯などの冷凍穀類加工品で、冷凍老化と通常の老化を防止し、総合的に冷凍解凍後の老化を防止することができる。
【実施例1】
【0035】
[冷凍米飯]
生米を洗米し、炊飯器に表7に示す配合で洗米後の米と水を入れ、通常炊飯を行った。試験区2ではトレハロースを、試験区3ではトレハロースおよび不凍多糖を、予め水に溶解させておき、水とともにそれらを加えた。炊飯後の米を型に入れ、シールをし、−20℃に急速凍結を行った。冷凍機(霜取り機能付き、−20℃設定)にて凍結保管1週間後、常温にて自然解凍を行い、食味試験・レオメーターを用いた解析を行った。解析においては比較のため、試験区1の冷凍前のものの解析も行った。レオメーターによる解析の方法としては、解凍後の米40gを型に入れ、直径30mm、高さ8mmのプレンジャーを用いて、速度1mm/秒、歪み率80%で測定を実施した。
【0036】
その食味試験結果を表8に示す。食味試験では、しっとり感とやわらかさともちもち感と風味の影響について、◎とても良い、 ○良い、 △やや悪い、 ×悪い、の4段階で評価した。レオメーターによる解析結果を図1に示す。図1において、試験区1を「無添加」、試験区2を「トレハロース」、試験区3を「テスト製剤」、試験区1の冷凍前のものを「冷凍前(無添加)」で示す。
【0037】
【表7】
【0038】
【表8】
【0039】
表8に示すとおり、トレハロースおよび不凍多糖を用いた試験区3では、しっとり感、やわらかさ、もちもち感、風味のいずれも良好であった。また、図1に示すとおり、試験区3は、試験区1の冷凍前のもの以上に歪率が小さく、良好な品質を示した。
【実施例2】
【0040】
[冷凍おはぎ]
生米を洗米し、炊飯器に表9に示す配合で洗米後のもち米と水を入れ、一晩静置後、通常炊飯を行った。試験区2ではトレハロースを、試験区3ではトレハロースおよび不凍多糖を、予め水に溶解させておき、水とともにそれらを加えた。炊飯後のもち米と市販の餡子を用いて、もち米:餡子=2:1の配合で成形を行った。成形後、−20℃に急速凍結を行った。冷凍機(霜取り機能付き、−20℃設定)にて凍結保管1週間後、常温にて自然解凍を行い、食味試験を行った。その食味試験結果を表10に示す。食味試験では、しっとり感とやわらかさと粘りと風味の影響について、◎とても良い、 ○良い、 △やや悪い、 ×悪い、の4段階で評価した。
【0041】
【表9】
【0042】
【表10】
【0043】
表10に示すとおり、トレハロースおよび不凍多糖を用いた試験区3では、しっとり感、やわらかさ、粘り、風味のいずれも良好であった。
図1