【実施例】
【0014】
本発明の実施例に係る車載装置と移動体の例を
図3に示す。同図に示すように、本実施例の車載装置100は、バッテリー駆動される電動型の車イス10において使用可能であり、車載装置10は、車イス10に搭載され、あるいはユーザーが所持する携帯端末である。また、車イス10には、進行方向の物体を検知する検知手段30が取り付けられる。測距センサ130は、計測方向Cに向けて送信波を照射し、送信波が物体で反射されたときの受信波を受信し、その時間差から物体までの距離を計測する。測距センサ130の検出結果は、車イスの走行を支援するための情報としてユーザーに提示される。
【0015】
図4は、車載装置100の構成を示すブロック図である。同図に示すように、車載装置100は、ユーザーからの指示を受け取る入力部110、車イス10の現在位置を検出する位置検出部120、車イスの前方または進行方向に存在する障害物等の物体までの距離を計測する測距センサ130、加速度センサや角速度センサなどの慣性センサ140、車イスの現在位置周辺の道路案内や目的地までの経路案内を行うナビゲーション部150、外部のネットワーク等との通信を行う通信部160、ナビゲーション部150による案内音声等を出力する音声出力部170、ナビゲーション部150による道路地図等を表示する表示部180、車載装置100に必要な地図データやソフトウエア等を記憶する記憶部190、測距センサ130の計測方向(向き)Cを調整するためのアクチュエータ部(駆動部)200、各部を制御する制御部210を含んで構成される。なお、ここに示す構成は一例であり、例えば、車載装置100がスマートフォンであるならば、車載装置100は、音声通話機能を含むことになる。
【0016】
位置検出部120は、GPS受信機能を備え、GPS衛星からのGPS信号に基づき車イスの現在位置を検出する。また、位置検出部120は、慣性センサ140の検出結果を併用して現在位置を検出することも可能である。
【0017】
測距センサ130は、例えば、ソナーやレーダにより構成され、障害物やその他の対象物に電波を発し、その反射波を受信することで、対象物までの距離を計測する。計測結果は、制御部200へ提供され、制御部200は、例えば、対象物までの距離が一定以下であるとき、ユーザーに警告を与える。あるいは、制御部200は、車イスの自動運転のための必要な情報として測距センサ130の検出結果を利用する。さらに測距センサ130が電波を発する方向の基準となる計測方向Cは、アクチュエータ部200によって調整可能であり、後述するように、傾斜道路の勾配角や傾斜道路に突入するときの進入角に応じて計測方向Cが調整される。
【0018】
ナビゲーション部150は、位置検出部120により検出された車イス10の現在位置周辺の地図データを読出し、読み出した地図データを表示部180に表示させる。地図データは、
図5に示すように、道路に関するリンクデータ152、交差点等に関するノードデータ154、施設データ156等を含む。リンクデータ152には、車両が走行する道路に加え、車イス等が走行する歩道も含まれる。リンクデータ152は、リンクの識別、リンクの始点および終点の座標、リンクの方角、道路種別、車線数等の情報などに加え、リンクが傾斜道路であるか否かを示す傾斜識別157、リンクが段差を含むか否かを示す段差識別158を含む。
【0019】
傾斜道路である場合には、傾斜情報として、傾斜道路の勾配を表す勾配角θ(例えば、0°、10°、15°)と、リンクの勾配距離Lとを含む。道路に段差がある場合には、段差情報として、段差の大きさを表す情報が含まれる。車イスで走行する場合には、道路に傾斜があるか否か、段差があるか否かは、非常に重要な情報であり、ナビゲーション部150は、現在位置周辺の道路に、傾斜情報や段差情報を表示したり、あるいは目的地までの経路を探索するときに、傾斜や段差のないバリアフリーな道路を探索することができる。
【0020】
通信部160は、例えば、無線LAN、有線LAN、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、近距離無線通信、公衆無線回線網等を介して外部機器あるいは外部ネットワーク等との通信を可能にする。ナビゲーション部150は、通信部160を介して、地図データを配信するサーバにアクセスし、そこから地図データを取得することも可能である。アクチュエータ部200は、後述するように、進行方向に傾斜道路が検出されたとき、制御部210からの制御により測距センサ130の計測方向Cの調整を行う。
【0021】
制御部210は、好ましい態様では、ROM、RAMなどを含むマイクロコントローラ等から構成され、ROMまたはRAMは、車載装置100の動作を制御するための種々のプログラムを格納することができる。また、本実施例では、制御部210は、車イスの走行状態に応じて測距センサ130の計測方向Cを調整する調整プログラムを実行する。
【0022】
図5に、調整プログラムの機能的な構成を示す。本実施例の調整プログラム300は、進行方向に傾斜道路が存在するか否かを検出する傾斜道路検出部310と、傾斜道路へ突入するときの進入角を判定する進入角判定部320と、進入角に応じて傾斜道路の勾配角を算出する勾配角算出部330と、勾配角算出部330により算出された勾配角に応じて測距センサ130の計測方向Cを調整するセンサ方向調整部340とを含む。
【0023】
傾斜道路検出部310は、地図データおよび位置検出部120の検出結果に基づき、車イスが走行している道路を特定し、現在位置から一定範囲内の進行方向に傾斜道路が存在するか否かを検出する。進行方向は、車イスが現在走行している道路と同じ種別の道路またはそれを直進する道路、あるいはナビゲーション部150によって目的地までの経路が探索されている場合には、その経路である。上記したように、リンクデータ152には、傾斜識別157が含まれており、傾斜道路検出部310は、進行方向のリンクデータ152の傾斜識別157により傾斜道路の有無を検出する。
【0024】
進入角判定部320は、傾斜道路検出部310により進行方向に傾斜道路が検出されたとき、傾斜道路へ突入するときの進入角を判定する。進入角の判定は、車イス10の方位と、傾斜道路のリンクの方位との差から、車イスが傾斜道路に突入するときの進入角を判定する。車イスの方位は、例えば、慣性センサ140(角速度センサまたはジャイロセンサ)の検出結果から算出することができ、あるいはGPS信号により検出された現在位置のベクトル変化から算出することができる。また、傾斜道路の方位は、地図データに登録されているリンクの始点および終点の座標から算出されてもよいし、リンクデータの属性データとして格納されている方位データを利用するようにしてもよい。なお、進入角判定部320により判定されるときの車イス10の方位は、傾斜道路に突入するときの方位であると推定される。
【0025】
勾配角算出部330は、進入角判定部320により判定された進入角に応じた傾斜道路の実際の勾配角を算出し、地図データ上の勾配角を補正する。
図7は、傾斜道路を模式的に示した図である。図中、Lは、地図データに登録されている傾斜道路Rの勾配距離、θは、地図データに登録されている傾斜道路Rの勾配角、λは、傾斜道路Rに対する進入角、φは、進入角λで傾斜道路Rに進入したときの実際の勾配角、を表している。L、θ、λは既知であり、勾配角補正部330は、次式に従い、実際の勾配角φを算出する。
【0026】
【数1】
【0027】
センサ方向調整部340は、勾配角算出部330により算出された勾配角φに基づき、アクチュエータ部200を介して、測距センサ130の計測方向Cを調整する。好ましくは、センサ方向調整部340は、車イス10が傾斜道路にさしかかる直前で、算出した勾配角度分だけ測距センサ130の向きを調整する。センサ方向調整部340は、車イス10に車速センサが取り付けられている場合には、その車速センサの速度情報を用い、あるいは、GPS信号により検出された現在位置の変化量から速度情報を算出し、車イスの現在位置から傾斜道路の始点までの距離を速度で除することで、車イスが傾斜道路に突入する時間を予測し、その予測時間の直前に測距センサ130の調整を行う。
【0028】
図8は、測距センサ130の計測方向Cの調整動作を示すフロー、
図9は、測距センサの計測方向Cの調整タイミングを示す図である。先ず、車イス10の走行に伴い、位置検出部120により車イスの現在位置が検出され(S100)、ナビゲーション部150は、現在位置周辺の地図データを読出し、これを表示部180に表示させる(S102)。このとき、傾斜情報や段差情報を道路上に同時に表示させるようにしてもよい。
【0029】
次に、傾斜道路検出部310は、車イスの進行方向に傾斜道路Rが存在するか否かを監視し(S104)、傾斜道路Rが検出されると、進入角判定部320は、車イスが傾斜道路Rに突入するときの進入角を判定する(S106)。
図9の時刻T1が、傾斜道路Rの検出または進入角の判定のタイミングである。進入角が判定されると、勾配角算出部330は、判定された進入角に応じて、傾斜道路Rの実際の勾配角を算出する(S108)。
【0030】
次に、センサ方向調整部340は、傾斜道路Rへの突入時間を予測し(
図9の時刻T2)、車イス10が時刻T2の直線の時刻Ta、または傾斜道路Rの一定距離手前に到達したとき、アクチュエータ部200を介して測距センサ130の計測方向を調整する(S110)。
【0031】
このように本実施例によれば、車イスが傾斜道路に突入する直前に測距センサ130の計測方向Cを調整するため、傾斜道路に突入した時点で測距を行うことができる。また、計測方向Cは、傾斜道路への進入角に応じた実際の勾配角φに調整されるため、傾斜道路の走行中に正確な測距を行うことができる。
【0032】
従来の場合、慣性センサによる「傾斜道路の判定+勾配角推定時間」が正しい測距をすることができないロスタイムとなるが、本実施例では、事前に進入角を判定し、坂道に突入する直前に測距センサの角度を調整するため、このロスタイムがゼロになる。さらに、坂道に対する進入角差(道路の進行方向との差)を考慮するため、測距センサのより精度の高い角度設定が可能となる。
【0033】
例えば、電動車イスが、時速2[km/h]の走行で計算すると、坂道勾配の走行に要する推定時間は、1618[ms]である。
例えば、測距センサの設置位置が地上高120[mm]として上り勾配=10[°]を、水平に測距すると、691[mm]先で地面を検出してしまい、1618[ms]の走行時間の間、691[mm]より先の障害物が検知できないこととなる。
時速2[km/h]で1618[ms]移動すると、従来の方法では、898[mm](車両長分)進む間、正しい測距が出来なくなる
また、10[m]の10[°]勾配に対して、進入角30[°]で突入した場合、従来の方法では、実際の勾配角φ≒4.98[°]となり、約5.02°の差分が生じる。本実施例では、この角度差に応じて測距センサの角度を即座に調整することができる。
【0034】
なお、上記実施例では、移動体として電動型の車イスを例示したが、本発明、手動型の車イス、自転車、三輪車などの歩行者空間を走行可能な移動体に適用される。また、本発明は、自動車等が走行する道路に加え、車イス等が歩行者空間である歩道を走行する場合にも適用される。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。