(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904660
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】滑り軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 17/24 20060101AFI20210708BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20210708BHJP
F16C 9/04 20060101ALI20210708BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20210708BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
F16C17/24
F16C9/02
F16C9/04
F16C33/20 Z
F16C41/00
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-4059(P2016-4059)
(22)【出願日】2016年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-133220(P2016-133220A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2018年11月21日
(31)【優先権主張番号】1500714.9
(32)【優先日】2015年1月16日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511128228
【氏名又は名称】マーレ エンジン システムズ ユーケイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MAHLE Engine Systems UK Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴージズ ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ラサム デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ディクソン スチュアート
【審査官】
古▲瀬▼ 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−122393(JP,A)
【文献】
特表2005−502892(JP,A)
【文献】
実開昭55−034588(JP,U)
【文献】
特表2013−528781(JP,A)
【文献】
特開2014−163428(JP,A)
【文献】
特開2006−112602(JP,A)
【文献】
特開2014−163434(JP,A)
【文献】
特開2005−133807(JP,A)
【文献】
特開2012−149736(JP,A)
【文献】
特開2014−074641(JP,A)
【文献】
米国特許第05701119(US,A)
【文献】
実開昭55−167104(JP,U)
【文献】
特開2004−301522(JP,A)
【文献】
特開昭58−13221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
F16C 41/00−41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの軸受シェルを備えた滑り軸受であって、
金属製基材と、
前記金属製基材の上の第1電気絶縁層と、
前記第1電気絶縁層の上の電気部品とを備え、
前記電気部品は、前記軸受シェルの上を、少なくとも部分的に外周方向に沿って伸びており、
前記金属製基材には、前記軸受シェルの凸状面に、前記電気部品と電気的に接続される電気的接触パッドが設けられており、
前記金属製基材と前記電気的接触パッドとは、電気的に絶縁されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
請求項1において、
前記電気部品は軸受シェル上を少なくとも部分的に円周に沿って延びていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
請求項2において、
前記電気部品は抵抗器を備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項4】
請求項3において、
前記抵抗器は抵抗温度検出器であり、
選択的にプラチナ、ニッケル、又は銅からなる電気要素を備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
前記電気部品は、他の電機部品である導通監視要素をさらに備えていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つにおいて、
前記電気部品は前記第1電気絶縁層上に誘電物質を備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つにおいて、
前記電気部品はコンデンサを備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つにおいて、
前記電気部品は圧力センサを備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つにおいて、
前記電気部品は前記第1電気絶縁層上に半導体物質を備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つにおいて、
複数の電気部品が軸受シェルの軸方向に間隔を空けて設けられていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つにおいて、
前記電気部品は互いに電気的に絶縁された複数の導電パッドを第1電気絶縁層と第2電気絶縁層との間に備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項12】
請求項11において、
前記互いに電気的に絶縁された複数の導電パッドは、互いに厚さが異なる少なくとも2つのパッドであり、
前記パッドは、それぞれの近くの第2電気絶縁層が異なる高さ分だけ摩耗した後に露出するように構成されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項13】
請求項11において、
前記互いに電気的に絶縁された複数の導電パッドは、互いに厚さが等しい少なくとも2つのパッドであり、
前記パッドは、前記パッドそれぞれの近くの第2電気絶縁層が実質的に等しい高さ分だけ摩耗した後に露出するように構成されていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1つにおいて、
前記電気部品と導通しているRFIDタグを備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1つにおいて、
前記第1電気絶縁層の上に第2電気絶縁層を備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1つにおいて、
前記電気部品と前記第1電気絶縁層との間に固着促進剤が設けられていることを特徴とする滑り軸受。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1つにおいて、
軸受シェル、スラストワッシャー、軸受ブッシュ、又は軸受シェルフランジを備えることを特徴とする滑り軸受。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1つに記載された滑り軸受と、
前記電気部品を監視し前記電気部品の測定結果と対応してアラームを発するか及び/又は滑り軸受が格納されているエンジンの作動を停止状態にする監視モジュールと、を備えることを特徴とする滑り軸受監視システム。
【請求項19】
少なくとも1つの軸受シェルを備えた滑り軸受において、
金属製基材と、前記金属製基材上の第1電気絶縁層と、前記第1電気絶縁層上の電気部品とを備え、前記電気部品は、前記軸受シェルの上を、少なくとも部分的に外周方向に沿って伸びており、前記金属製基材には、前記軸受シェルの凸状面に、前記電気部品と電気的に接続される電気的接触パッドが設けられており、前記金属製基材と前記電気的接触パッドとは、電気的に絶縁されている滑り軸受の製造方法であって、
前記金属製基材上の前記第1電気絶縁層と第1導電層との上に前記電気部品を配置することを特徴とする滑り軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑り軸受に関するものであり、特に内燃エンジンの軸受組立体内の滑り軸受のための軸受シェル、スラストワッシャー、軸受ブッシュ、そして軸受シェルフランジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジン内では、メインクランクシャフト軸受組立体は典型的には軸に対して回転可能なクランクシャフトを保持する半割軸受を各々1組備える。半割軸受はそれぞれ空洞を備える一般的に半筒状の軸受シェルであり、典型的にはクランクシャフトジャーナル内に格納されており、少なくとも1つの軸受シェルはフランジ付半割軸受であり、軸方向の各端部において一般的には半環状のスラストワッシャーが外方向(半径方向)に延びるように構成されている。あるフランジ付半割軸受では軸受シェルとスラストワッシャーとが一体成形されて用いられ、その一方で他の半割軸受では軸受シェルとスラストワッシャーとはクリップのような機構でゆるく結合される。更に他のタイプの半割軸受では、結合機構の変形によりスラストワッシャーは軸受シェル上に永続的に組み込まれる。他の軸受組立体では、環状(円形状)のスラストワッシャーが用いられることが知られている。
【0003】
軸受ブッシュはコネクティングロッドのスモールエンドに用いられ、コネクティングロッドをピストンピン(ガジョンピン又はリストピンとして知られる)に対して連結する。軸受ブッシュは又、エンジン内の至るところで使用される。軸受ブッシュは空洞を備える円筒状の軸受ライナーであり、固体のスリーブブッシュやスプリットブッシュ(突合した端面を備えシリンダーにスプリットが形成されている)、又はクリンチブッシュ(スプリットブッシュと類似していて、更にスプリットの端部に相互に結合した機構を備える)としてもよい。
【0004】
公知の軸受シェルでは、スラストワッシャーと軸受シェルフランジは層構造を備えており、基材は1つかそれ以上の層としてコーティングされた強度の高いバッキング材を備え、バッキング材は好ましい摩擦特性を備えてクランクシャフトなどの協同的に作動する部品と向き合うための軸受面を提供する。公知の軸受シェルでは、基材はライニング層がコーティングされたバッキング層を備え、さらにオーバーレイ層によってコーティングされる。
【0005】
強度の高いバッキング材は鉄を用いることができ、1mmかそれ以上の厚さを備える。公知のライニング層は銅ベースの物質(例えば銅とスズからなるブロンズ)、又はアルミニウムベースの物質(例えばアルミニウム又はアルミニウムとスズの合金)であり、基材に(バッキング層に直接又は選択的な中間層を介して)固着している。ライニング層の厚さは一般には約0.05mmから0.5mmの範囲である(例えば、偶発的な不純物を除いて8質量%のスズと1質量%のニッケルと残りの銅とからなる300μmの銅ベースの合金)。オーバーレイ層は6〜25μmのポリマーベースの化合物層又は金属合金層(例えばスズベースの合金オーバーレイ層)である。
【0006】
公知の軸受ブッシュは高強度の鉄製バッキング層と、バッキング層上のライニング層とを備え、軸受内に回転可能に保持されたジャーナル(例えばガジョンピン又はリストピン)のためのランニング面を提供する。
【0007】
国際公開第2010/066396には、銅ベース又はアルミニウムベースのライニング層上の軸受オーバーレイ層に使用するためのプラスチックポリマーベースの化合物質が開示されており、鉄製のバッキング層に接着されている。開示されたオーバーレイ層はポリアミド−イミドからなるプラスチックポリマー物質の母材であり、その母体から生み出される微粒子を備える。
【0008】
省燃費作動機構が自動車のエンジンにおいて一般的となってきており、そこにおいてはエンジンの始動頻度が増加する。「ストップ−スタート」作動機構では、自動車の停止と再始動の動作がエンジンの停止と再始動につながる。「ハイブリッド」作動機構では、自動車が代替的な動力源、つまり電力によって動かされるとエンジンは停止される。エンジン軸受は典型的には自動車の寿命分だけもつように設計されているが、上述の作動機構によってエンジンの始動がより頻繁となると、軸受シェルの軸受面、スラストワッシャー、軸受ブッシュとクランクシャフトのジャーナルやガジョンピン、又は関連するクランクシャフトウェブの対向面との接触が増加し、滑り軸受の性能がより要求されることとなる。しかしながら、接触が増加するとそれ相応に軸受シェル、スラストワッシャー、軸受ブッシュのランニング面の摩耗が増加する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の側面として、金属製の基材と、該基材上の第1電気絶縁層と、該第1電気絶縁層上の電気部品とを備える滑り軸受が提供される。
【0010】
第2の側面として、請求項に記載のいずれか1つの滑り軸受と、電気部品を監視し、電気部品の測定結果と対応して警報を作動するか及び/又は滑り軸受が格納されているエンジンの作動を停止状態にするように構成された監視モジュールとを備える滑り軸受の監視システムが提供される。
【0011】
第3の側面として、金属製の基材と、該基材上の第1電気絶縁層と、該第1電気絶縁層上の電気部品とを備え、電気部品を金属基材上の第1導電層上と第1電気絶縁層上に設置することを備える滑り軸受の製造方法が提供される。
【0012】
電気部品は軸受シェル上を少なくとも部分的に円周にそって延びていてもよい。
【0013】
電気部品は抵抗器を備えていてもよい。
【0014】
抵抗器は抵抗温度検知器としてもよい。抵抗温度検知器はプラチナ、ニッケル、又は銅の電気要素を備えていてもよい。
【0015】
電気部品は熱電対を備えていてもよい。
【0016】
電気部品は導通監視要素を備えていてもよい。
【0017】
電気部品は第1電気絶縁層の誘電物質を備えていてもよい。
【0018】
電気部品はコンデンサを備えていてもよい。
【0019】
電気部品は圧力センサを備えていてもよい。電気部品は歪みセンサを備えていてもよい。
【0020】
電気部品は第1電気絶縁層の半導体物質を備えていてもよい。
【0021】
電気部品はトランジスタを備えていてもよい。
【0022】
トランジスタは半導体層にソース電極とドレイン電極とを備えることができ、該ソース電極とドレイン電極との間の活性領域にゲート電極を設けていてもよい。
【0023】
軸受シェルの軸方向に間隔を空けて複数の電気部品を設けていてもよい。
【0024】
電気部品は電気的に互いに絶縁した複数の導電パッドを第1電気絶縁層と第2電気絶縁層との間に備えていてもよい。
【0025】
電気的に互いに絶縁した導電パッドは異なる厚さを持つ少なくとも2つのパッドであり、それぞれのパッドに近い第2電気絶縁層が異なる高さ分だけ擦り減った後に露出するように構成されていてもよい。
【0026】
電気的に互いに絶縁した導電パッドは同じ厚さを持つ少なくとも2つのパッドであり、それぞれのパッドに近い第2電気絶縁層が実質的に等しい高さ分だけ擦り減った後に露出するように構成されていてもよい。
【0027】
滑り軸受は電気部品と導通されたRFIDタグを備えていてもよい。
【0028】
滑り軸受は第1電気絶縁層の上に第2電気絶縁層を備えていてもよい。
【0029】
滑り軸受は電気部品と電気絶縁層との間に固着促進剤を備えていてもよい。
【0030】
第1電気絶縁層は金属製基材上全体に亘って広がっている。代わりに、第1電気絶縁層は電気部品に対応したパターンが形成されたパターン層を備えていてもよい。
【0031】
滑り軸受は複数の電気部品を備えていてもよい。複数の電気部品は互いに同一、又は2種類以上としてもよい。複数の電気部品は1つの電気回路によって導通させていてもよい。
【0032】
滑り軸受は軸受シェル、スラストワッシャー、軸受ブッシュ又は軸受シェルフランジを備えていてもよい。
【0033】
電気部品は印刷によって配置されていてもよい。
【0034】
電気部品はフレキシブル電子挿入体を第1電気絶縁層上に固着させることによって配置されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】抵抗器を備える第1軸受シェルの斜視図である。
【
図1B】監視モジュールと導通された
図1Aの軸受シェルの軸と垂直な面における断面図である。
【
図1C】
図1Aの軸受シェルのクラウンを通る軸と平行な面における断面図である。
【
図1D】クラウンが優先的に摩耗した後の
図1Bの軸受シェルを示す図である。
【
図1E】
図1Aの第1軸受シェルの変形例におけるクラウンを通る軸と平行な面における断面図である。
【
図2】軸方向に間隔をあけて3つの抵抗要素を備える第2軸受シェルのクラウンを通る軸と平行な面における断面図である。
【
図3A】軸方向に間隔をあけて異なる厚さの抵抗を備える軸受シェルのクラウンを通る軸と平行な面における断面図である。
【
図3B】使用によって摩耗した後の
図3Aの軸受シェルを示す図である。
【
図4】トランジスタを備える軸受シェルのクラウンを通る軸と平行な面における断面図である。
【
図5A】コンデンサを備える軸受シェルのクラウンを通る軸と平行な面における断面図である。
【
図5B】監視モジュールと導通された
図5Aの軸受シェルの軸と垂直な面における断面図である。
【
図6A】
図1Aの軸受シェルと類似した抵抗器から軸受外周まで通路が設けられた軸受シェルの斜視図である。
【
図7】クラウンに設けられたオイル供給孔に沿って導通路が設けられた軸受シェルの軸に垂直な面による断面図である。
【
図8A】軸受シェルの内側と外側の表面にそれぞれ設けられたRFIDタグに導通されている抵抗器を中に備える軸受シェルの内部空間の模式図である。
【
図8B】軸受シェルの内側と外側の表面にそれぞれ設けられたRFIDタグに導通されている抵抗器を中に備える軸受シェルの内部空間の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の実施形態は以下において添付の図面と共に説明される。
【0037】
説明される実施形態において、類似の形状は類似の数字によって識別され、場合によっては100ずつ番号が上がっていくか、添え字が付くか、又は幾何学的マーク(例えばダッシュ記号)が付いて表される。例えば、異なる図において100、100′、200、300、400、500、700は軸受シェルと特定するために用いられ、600、600′、700′が軸受シェルの空洞を特定するために用いられる。
【0038】
図1Aは(例えば例示的なスライド・エンジン部品の)軸受シェル100を、空洞を備える半筒状の軸受シェルの形式として図示しており、通常「半割軸受」と呼ばれ、
図1Bと
図1Cとは軸方向に垂直な断面における軸受シェルの断面図である。
38.軸受100はプラスチックポリマーベースの混合物からなるオーバーレイ層106を、頑強なバッキング層102を構成する鉄製の基材上に備える。基材は選択的に追加層104をバッキング層102とオーバーレイ層106との間に設けることもできる。抵抗器108を(電気部品の例示として)混合物からなるオーバーレイ層106の中に埋め込むことができる。
【0039】
バッキング層102は、例えばメイン軸受ハウジングやコネクティングロッドのビッグエンドに対応する軸受組立体に組み込まれた際に、軸受シェル100の変形を阻止する強度を備えている。
【0040】
図示の例では、追加ライニング層104は、銅ベースの物質(例えば銅とスズからなるブロンズ)か、アルミニウムベースの物質(例えばアルミニウム又はアルミニウムとスズの合金)か、又はポリマーベースの物質とすることができ、鉄製のバッキング層102に接着している。
【0041】
追加ライニング層104は、何らかの理由でオーバーレイ層106が全体的に擦り減った際に、最適な軸受の移動特性を提供する。
【0042】
オーバーレイ層106は基材上の第1オーバーレイ層106Aと、第1オーバーレイ層上の第2オーバーレイ層106Bとを備える。少なくとも第1オーバーレイ層106Aは電気的に絶縁されており、図示の例では第2オーバーレイ層106Bも電気的に絶縁されている。
【0043】
オーバーレイ層106は軸受シェル100の寿命に亘ってランニング面(つまり滑り面)を提供する。使用において、組み立てられた軸受内でオーバーレイ層106は回転ジャーナル(例えばクランクシャフトジャーナル)と対向し、そこにおいて軸受シェル100は潤滑油からなる介在膜(図示せず)を介して相互に作動する。
【0044】
オーバーレイ層106は特に軸受表面とシャフトジャーナルとの間の小さなミスアライメントに適合され(適合性と呼ばれる)、潤滑油内を循環しているごみ粒子を受け取って埋込み(ごみ埋込性)、ジャーナル表面がデブリによって擦り減り、損傷するのを防ぐ。オーバーレイ層106は、もし介在オイル膜に破損が生じた場合に軸受シェル100とシャフトジャーナルとの間の適切な摩擦特性を提供する。
【0045】
オーバーレイ層106は一般にはプラスチックポリマー物質の母体を含む混成層であり、機能性をもつ微粒子がその母体より分配される。例えば、国際公開第2010/066396に記載されているように、オーバーレイ層106は固体の潤滑部と固い微粒子とを備える。図示された例では、オーバーレイ層106のプラスチックポリマー母材はポリアミド−イミドレーヨンである。
【0046】
製造過程において、抵抗器108は第2オーバーレイ層106Bが配置される前に第1オーバーレイ層106Aの上に形成される。抵抗器108は第1オーバーレイ層106Aによって基材102から電気的に絶縁される。抵抗器108は一般に軸受シェル100の円周上に沿ってジョイント面150の方向に延びる電気抵抗を示すコーティング片を備え、軸端面152間の両端面から等距離の位置に配置される。
【0047】
図1Bは抵抗器108を監視モジュール110に導通した軸受シェル100を模式的に描いている。使用において、監視モジュール110は抵抗器108の抵抗を測定する。ひとたび上側に設けられた第2オーバーレイ層106Bが摩耗すると、更なる使用によって抵抗器108が摩耗し始める。抵抗器108の測定された抵抗値から監視モジュール110は抵抗器の一部が
図1DにWとして示すように完全に擦り減って電気回路の導通性が失われたかどうかを決定する。有利なことに、もし第2オーバーレイ層106Bが全体的に摩耗したことを検知した場合、監視モジュール110はアラームを作動し、及び/又はエンジンの動作を停止する。
【0048】
更に、抵抗器108が厚い場合、抵抗器108の電気抵抗は摩耗につれて変化する。有利なこととして、抵抗器108の電気抵抗を監視することは、オーバーレイ層106の摩耗のレベルをより精度良く検知することができ、監視モジュールによってオーバーレイ層106の摩耗レベルに応じた異なるレベルの警報(例えば黄色や赤色の警報など)を提供することを可能とする。
【0049】
抵抗器108は(例えばプラチナ、ニッケル、銅などの金属片から構成される)抵抗温度検知素子とすることができ、温度に応じて変化する電気抵抗を備える。抵抗器108の電気抵抗を(場合によっては以前に測定した抵抗値の目盛を参照しつつ)測定することによって、監視モジュールは軸受シェル100の温度を測定してもよい。有利なこととして、もし軸受シェルが過熱された場合には監視モジュール110は警報を作動し、及び/又はエンジンの動作を停止させてもよい。
【0050】
図1A〜
図1Dは絶縁された第1オーバーレイ層106Aが基材102,104の表面全体に亘って設けられた軸受シェル100を示す。しかしその代りとして、
図1Eに示す軸受シェル100′に描かれるように、第1オーバーレイ層106′は電気部品に対応する場所にのみ設けることもできる。有利なこととして、この場合において滑り軸受(例えば軸受シェル100′)の製造コストを削減することができる。
【0051】
図1Aには例示の電気部品として抵抗器108が描かれているが、代わりの、又は追加の電気部品を以下に示すように設けてもよい。例えば、軸受シェルは高い導電性を持つ導通路(例えば金属コーティングによって形成されたストリップなど)を備えてもよく、摩耗による導通の破損を検知することができる。更なる代替として、軸受シェルは軸受の温度を感知するための(例えば2種の金属からなる)熱電対を備えてもよい。更なる代替として、電気部品は歪みセンサ(歪みゲージ)の機能を備えてもよい。
【0052】
図示された層に加えて、電気部品の堆積前及び/又は堆積後に電気部品がオーバーレイ層から剥離するリスクを減らすために固着促進剤を(例えばスプレー法や物理蒸着堆積工程や炎熱分解やプラズマ工程によって)堆積してもよい。例示的な固着促進剤はシラン化合物であり、例えば、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン(3アミノプロピルトリエトキシシラン)やビスガンマトリメトキシルプロピルアミンなどである。
【0053】
更に、第1電気絶縁層を堆積する前に基材への固着を強化するために基材の表面を(例えばグリットブラスティングや化学エッチングなどによって)粗くすることもできる。
【0054】
電気部品は第1オーバーレイ層の上に形成され、そこは絶縁されており、電気部品は基材への電気伝導から絶縁されている。電気部品はインクによるパターン層を備えていてもよい。インクは(例えば、金、銀、銅などの)金属粒子の導電層(例えば導通路など)への、炭素粒子の抵抗層への、又は半導体粒子の半導体層への散布である。代わりの微粒子分散として、酸化金属やネオデカン酸銀などの銀ベース化合物などを用いていてもよい。塩化物インクも使用してもよい。更に、電気部品は誘電層のための誘電インクによるパターン層を備えていてもよい。電気部品はセラミック微粒子物質による導電層を備えることができ、例えば導電酸化金属(酸化亜鉛、酸化インジウム、インジウム−スズ酸化物など)や酸化グラファイトなどがある。その代わりに、電気部品は有機半導体物質を備えることもできる。
【0055】
パターン層や電気部品の層はフォトリソグラフィーによってパターン形成してもよい。パターン層は10nmかそれ以上の厚さ(ここで、厚さとは軸受の滑り面に垂直な方向を意味する)を備える。
【0056】
堆積層をパターン形成する代わりに、電気部品を印刷、テープ構造又は印刷前の電気的挿入による電気部品の固着によって堆積してもよい。電気部品は、例えば軸受シェルの絶縁された第1オーバーレイ層などの湾曲した面に堆積される。例えば、印刷前の電気的挿入は固着剤がコーティングされた面を持つ柔軟性基材を備えており、基材の固着テープに適用される。代わりに、電気部品は湾曲される前にプリントされ、又は平らな空間に形成されていてもよい。
【0057】
オーバーレイ層は、一般には溶剤に懸濁されたポリマー層として堆積され、熱処理段階において溶剤は除去される。電気部品は導通路がポリマー溶剤に溶解可能な導電性基材の上に設けられる挿入体として配置され、導電性基材はオーバーレイ層が形成される前にオーバーレイ層の材質に溶け込んでいく。
【0058】
図1A〜
図1Cの軸受シェルは1つの電気部品(抵抗器108)のみを備えているが、軸受シェルは異なる場所に複数の類似の電気部品を設けることもできる。
図2は3つの抵抗器208を軸受シェルの厚さに亘って軸方向の端面252間に間隔を空けて備えた第2の軸受シェル200を示す。有利なこととして、複数の電気部品を設けることで異なる場所での軸受の摩耗を感知することができ、軸受の軸方向に沿って一様でない摩耗を検知することができる。更に、監視モジュールは警報の閾値を、1つ以上の箇所における導通性の破損(あるいは摩耗の検知)と独立して設定することができ、例えば抵抗器を突き抜けてオーバーレイ層に微粒子が埋め込まれることなど、潤滑油からの微粒子による抵抗器(又は他の電気部品)の傷痕やこすれによって引き起こされる誤報を防ぐことができる。
【0059】
図3Aの軸受シェル300は、同一の層(例えば第1オーバーレイ層306A)の上に異なる厚さの複数の抵抗器308Aと308Bとを備えることによって、
図2のものと異なる。厚い方の抵抗器308Aの摩耗は、その上部の第2オーバーレイ層306Bが厚さAだけ摩耗した後に始まり、その一方で、薄い方の抵抗器308Bの摩耗は、第2オーバーレイ層が厚さBだけ摩耗した後に始まる。
図3Bは軸受シェル300の摩耗の中間段階を示し、厚い方の抵抗器308Aの摩耗は始まっており、薄い方の抵抗器308Bの摩耗は始まっていない。有利なことに、異なる厚さの電気部品を用いることで、滑り軸受の異なるレベルの摩耗を検知することができ、監視モジュールによって(黄や赤などの)異なるレベルの警報を提供することができる。
【0060】
使用において、
図3Cに示すひとたび上に重なっているオーバーレイ層が摩耗すると露出される異なるパッド間の潤滑油を通した電気伝導によって摩耗を検知することもできる。
【0061】
共通の層に配置された厚さの異なる複数の電気部品ではなく、
図3Dに示すように電気部品308Aと308Bとは高さの異なる層306Aと306Bとに配置されていてもよい。有利なこととして、この形態では異なるレベルの摩耗を検知することができる。例えば、オーバーレイ層は3つの層を備えており、第1層と第2層との間にいくつかの電気部品が配置され、第2層と第3層との間にさらにいくつかの電気部品が配置される。
【0062】
軸受シェル400はトランジスタ408を備えることができ、第1層406Aと第2層406Bとの間に半導体層430が形成され、ゲート電極422Gが設けられている。ゲート電極422Gは、半導体層上(または内部)に設けられたソース電極422Sとドレイン電極422Dとの下方を導通した活性領域の電気伝導を制御する。半導体層はプリント可能な有機半導体物質を備えており、例えばポリ(スチレスルフォネート)や(PEDOT:PSS)やポリ(アニリン)(PANI)をドープした、ポリ(チオペン)に類似のポリ(3ヘキシルチオフェン)(P3HT)やポリ(9,9ヂオクチルフルオレンコビチオフェン)(F8T2),ポリ(3,4エチレンヂオシチオフェン)である。
【0063】
図5Aと
図5Bとは軸受シェルのクラウン(つまり、ジョイント面の中央)に容量素子508を備える軸受シェル500を示す。軸受シェル500は第1オーバーレイ層506Aと第2オーバーレイ層506Bとの間に誘電層520を備え、容量素子508は誘電層の上下にそれぞれ配置された電気パッド522Aと522Bとの間に形成される。有利なこととしては、誘電層520は軸受組立体内で発生する高圧力下で圧縮可能であり、使用において容量素子508の容量を局所的な圧力によって変化させることができ、圧力センサとして機能する。監視モジュール510は容量素子508の容量を監視するように構成されることで、圧力を検知する。容量は(例えばクランクシャフト軸受組立体のクランクシャフトジャーナルなどの)ジャーナルの回転を通して監視される。加えて軸受組立体は、例えばエンジン軸受組立体内でエンジンが動いていない時やちょうど動き出した時など、使用されていないときも監視される。
【0064】
一般的にクランクシャフト軸受組立体内では、軸受シェルは(対応するピストンが燃焼工程にある間に発生する)最も高い負荷がクラウン(ジョイント面として知られる軸受シェルの円周方向の端面の中央)に生じるように合わせられ、そのような軸受組立体では電気部品はクラウンに設けられて最も高い負荷がかかる領域を監視することが可能となる。しかし、コネクティングロッド軸受組立体のような他の軸受組立体では、軸受シェルは斜めに組み立てられるので最も高い負荷は軸受シェルのクラウンからずれたところで発生し、電気部品もその場所に設置されて最も高い負荷のかかる領域を監視することが可能となる。
【0065】
図6Aは
図1Aと類似の軸受シェルを示しており、導通路662が軸受シェルの軸方向の端面652まで延びており、そこで更なる導通路662′′が電気的接触パッドとされており、それは(選択的に)オーバーレイ層から基材の反対側まで回り込んでいて、更なる電気的接触パッド662′として例えば軸受シェル600の凸状面に設けられている。
図6Bは
図6Aの軸受シェル600を形成するための空間断面の模式図である。
【0066】
クランクシャフト軸受組立体は一般に一対の軸受シェルを備え、負荷の軽い方の軸受シェルは(使用時において)円周状のオイル配給溝とオイル供給孔を備え、オイル供給孔は対応するハウジング内のオイル供給洞とオイル配給溝とを連結しており、負荷の重い方の軸受シェルは円周状のオイル配給溝とオイル供給孔とを備えずに形成される。負荷のかかる軸受シェルに設けられた電気部品は、摩耗や損傷をしやすくなる。しかし、電気部品は軸受シェル内に配給溝と共に設けるべきであり、電気部品は溝の(両)側部に設けられる。
【0067】
図7に示すようにオイル供給孔750を備える軸受シェル700が設けられた場合において、導通路752(又は予め形成されたコネクタ)は、軸受シェルの外側から電気部品708への電気的接触(例えば軸受シェルのためのハウジング内に設けられた電極からの電気的接触)のために、電気部品708からオイル供給孔を通して延びる。有利なことに、オイル供給孔を通して電気的接触を延ばすことは、軸受シェルに更なる加工をすることなく電気部品を導通することができる。
【0068】
直接電気的に接触するのではなく、電気部品とアンテナを備えるRFIDタグとを導通し、監視モジュールが対応する軸受組立体のハウジング内に更にアンテナを備え、それによって電気部品と無線通信をすることもできる。
図8Aと
図8Bとは、軸受シェル内部を形成するための空間断面図を示す。
図8Aは軸受シェルの空間800を示し、導通路862が電気部品とRFIDタグ860とを導通し、例えば導通路とRFIDタグとは電気部品と同じ層に配置され、それによって有利なことに製造が単純となる。代わりに、
図8Bは軸受シェル空間800′を示し、RFIDタグ860′は滑り面から見て基材の反対側に設けられ、電気部品から延びる導通路862と862′とは軸受シェル空間の軸方向の端面を周って基材の反対側まで延びる。有利なこととしては、RFIDタグを軸受シェルの滑り面の反対側に設けることは、ジャーナルによって研摩されて損傷する危険から保護し、介在している潤滑油が運んでくる微粒子に対して露出することを減らす。RFIDタグ860と860′とは、軸受シェルが使用される際の物理的な損傷から保護するために、凹部に設けていてもよい。
【0069】
軸受シェル上のRFIDタグからのデータを受け取ることに加えて、監視モジュールは作動電力を軸受シェル上のRFIDタグへ無線で供給してもよい。代わりに、軸受シェルは機械エネルギーから局所的に電力を発生させる(例えば軸受シェルの機械的振動から電力を発生させる)マイクロ発生器を備えていてもよい。
【0070】
軸受シェルについて説明しているが、電気部品を備える代わりの滑り軸受、例えばスラストワッシャーや軸受シェルフランジ、を設けていてもよい。
【0071】
ここで提供された図は概要であり、縮尺で描かれたものではない。
【0072】
この詳述での説明や請求項を通して、「備える」や「含む」やそれらに類する言葉は、「含んでいるが限定はされない」ことを意味し、それらは他の成分、添加物、化合物、数量、工程を排除(しないし、)することを意図しない。この詳述での説明や請求項を通して、文脈において断りがなければ単数は複数を包含する。特に、不明確な記載が使われている場合は、文脈において断りがなければ、詳述では単数と同様に複数も想定されていると理解されるべきである。
【0073】
発明の特定の側面、実施形態、又は例示とともに示される特徴、数量、性質、化合物、化学的成分又はグループは、それらが相容れないものでない限り、ここで示された他の側面、実施形態、例示にも適用されると理解されるべきである。この詳述において開示されている全ての特徴(添付の請求項、要約、図面を含む)、及び/又は開示されている方法又は工程の全てのステップは、少なくともそのような特徴及び/又は工程が相互に排他的なものを除いて、あらゆる組み合わせが可能である。発明は前述の実施形態の詳細に制限されない。発明は、この詳述(添付の請求項、要約、図面を含む)において開示された特徴の何らかの新規なものや新規な組み合わせに拡張され、開示された方法又は工程のステップの何らかの新規なものや新規な組み合わせに拡張される。
【0074】
読み手の注意は同時に添付された、又はこの詳述以前でこの出願と繋がりのある、又はこの詳述と共に公開されている全ての書面や文書に向けられるべきであり、そしてそのような書面や文書の内容は参照によってここに含まれる。