(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの請求項1〜9のいずれかに記載された弾性波素子と、前記圧電基板上に配置された少なくとも1つの共振子と、がラダー型に接続されているフィルタ素子。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る弾性波素子、フィルタ素子および通信装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0013】
弾性波素子は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側を上方として、上面、下面等の用語を用いるものとする。
【0014】
<弾性波素子の構成の概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子1の構成を示す平面図である。
図2は
図1のII−II線における要部拡大断面図である。SAW素子1は、
図1に示すように、圧電基板2、圧電基板2の上面2Aに設けられた励振(IDT:Interdigital Transducer)電極3および反射器4を有している。
【0015】
圧電基板2は、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)結晶からなる圧電性を有する単結晶の基板(以下、LT基板という)によって構成されている。LT基板のカット角については後述する。圧電基板2の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、圧電基板2の厚み(z方向)は、0.2mm以上0.5mm以下である。
【0016】
IDT電極3は、
図1に示すように、2つの櫛歯電極30を有している。櫛歯電極30は、
図1に示すように、互いに対向する2本のバスバー31と、各バスバー31から他のバスバー31側へ延びる複数の電極指32とを有している。そして、1対の櫛歯電極30は、一方に接続された電極指32と他方に接続された電極指32が、弾性波の伝搬方向に互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
【0017】
また、櫛歯電極30は、それぞれの電極指32と対向するダミー電極指33を有している。なお、ダミー電極指33を配置しなくてもよい。
【0018】
バスバー31は、例えば、概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されている。従って、バスバー31の互いに対向する側の縁部は直線状である。複数の電極指32は、例えば、概ね一定の幅で直線状に延びる長尺状に形成されており、弾性波の伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。
【0019】
IDT電極3を構成する一対の櫛歯電極30の複数の電極指32は、ピッチPt1となるように設定されている。ピッチPt1は、例えば、共振させたい周波数での弾性波の波長λの半波長と同等となるように設けられている。波長λ(すなわち、2×Pt1)は、例えば、1.5μm以上6μm以下である。IDT電極3は、ほとんどの複数の電極指32がピッチPt1となるように配置することにより、複数の電極指32が一定の周期となるような配置となるため、弾性波を効率よく発生させることができる。
【0020】
ここでピッチPt1は、伝搬方向において、一方の電極指32の中心から、当該一方の電極指32に隣接する他方の電極指32の中心までの間隔を指すものである。各電極指32は、弾性波の伝搬方向における幅w1が、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。電極指32の幅w1は、例えば、ピッチPt1に対して0.3倍以上0.7倍以下である。
【0021】
このように電極指32を配置することで、複数の電極指32に直交する方向に伝搬する弾性波が発生する。従って、圧電基板2の結晶方位を考慮したうえで、2本のバスバー31は、弾性波を伝搬させたい方向に交差する方向において互いに対向するように配置される。複数の電極指32は、弾性波を伝搬させたい方向に対して直交する方向に延びるように形成される。なお、弾性波の伝搬方向は複数の電極指32の向き等によって規定されるが、本実施形態では、便宜的に、弾性波の伝搬方向を基準として、複数の電極指32の向き等を説明することがある。
【0022】
各電極指32の本数は片側あたり50〜350本である。複数の電極指32の長さ(バスバーから先端までの長さ)は、例えば、概ね同じに設定される。対向する電極指32同士の噛み合う長さ(交差幅)は10〜300μmである。
【0023】
IDT電極3は、例えば、金属の導電層15によって構成されている。この金属の材料およびこの金属層15の厚みS(z方向)については後述する。
【0024】
IDT電極3は、圧電基板2の上面2Aに直接配置されていてもよいし、別の部材からなる下地層を介して圧電基板2の上面2Aに配置されていてもよい。別の部材は、例えば、Ti、Cr、あるいはこれらの合金等からなる。下地層を介してIDT電極3を圧電基板2の上面2Aに配置する場合は、別の部材の厚みはIDT電極3の電気特性に殆ど影響を与えない程度の厚み(例えば、Tiの場合はIDT電極3の厚みの5%の厚み以内)に設定される。
【0025】
この下地層は、断面視して、IDT電極3の電極指32と接する幅よりも圧電基板2と接する幅の方を大きくしてもよい。その場合には、下地層によっても耐電力性を高めることができる。
【0026】
IDT電極3は、電圧が印加されると、圧電基板2の上面2A付近においてx方向に伝搬する弾性波を励起する。励起された弾性波は、電極指32の非配置領域(隣接する電極指32間の長尺状の領域)との境界において反射する。そして、電極指32のピッチPt1を半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指32によって取り出される。このようにして、SAW素子1は、1ポート共振子として機能する。
【0027】
反射器4は、弾性波の伝搬方向においてIDT電極3を挟むように配置されている。反射器4は、概ねスリット状に形成されている。
【0028】
保護層5は、
図2に示すように、IDT電極3および反射器4上を覆うように、圧電基板2上に設けられている。具体的には、保護層5は、IDT電極3および反射器4の表面を覆うとともに、圧電基板2の上面2AのうちIDT電極3および反射器4から露出する部分を覆っている。保護層5の厚みは、例えば、1nm以上、IDT電極3の厚みの20%以下である。
【0029】
保護層5は、絶縁性を有する材料からなり、腐食等から保護することに寄与する。好適には、保護層5は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなるSiO
2などの材料によって形成されており、これによって弾性波素子1の温度の変化による電気特性の変化を小さく抑えることもできる。また、耐湿性向上のためにSiNx等の材料を用いてもよい。
【0030】
(圧電基板2とIDT電極3との関係)
現在、弾性波素子において、弾性波の励振効率、放射損失、電気抵抗等を考慮して、カット角42°のLT基板上に、弾性波の波長比(=2×Pt1)の厚み約8%のAlからなるIDT電極を設けた構成が一般的である(以下、本構成の弾性波素子を比較モデルという)。
【0031】
これに対して、近年、弾性波素子に入力される高周波信号の電力が大きくなっていることから、Alからなる電極よりも耐電力性に優れた電極が求められている。
【0032】
しかしながら、単にMo等の高い強度を有する電極材料に置き換えるのみでは、弾性波の励振効率、放射損失、電気抵抗の各特性がトレードオフの関係にあり、Alからなる電極に置き換えるに足る特性を発現させることはできなかった。
【0033】
そこで、本実施形態に係るSAW素子1では、まず、耐電力を改善し、かつ、現状のAl電極と同等程度の各特性を発現することのできる可能性のある材料としてCuを選出した。そして、その上で、圧電基板2のカット角とIDT電極3の材料および厚みとの関係を、以下の式(1)に示す条件を満たすようにすることで、弾性波の励振効率、放射損失等の特性を向上させることを見出した。
at
2+bt+c−0.1≦p≦at
2+bt+c+0.1 ・・・(1)
【0034】
ここで、IDT電極3は
図3に示すように、Al電極35とCu電極36との組み合わせで構成される。なお、Cu電極36の割合は変化させることができ、IDT電極3が複数の電極からなる場合には、Al電極35とCu電極36とを積層した構成と仮定する。そして、式(1)中において、tはIDT電極3の厚み(波長比)、pはIDT電極3の総厚みに対するCu電極の割合を示し、0より大きく1以下の値をとる。すなわち、IDT電極3がCu電極36のみで構成される場合を含むものとする。そして、
図3において、IDT電極3の断面形状は矩形状であるため、pはCu電極36の膜厚の割合とすることができる。そして、a,b,cはそれぞれ以下の定数である。
a=6.073α2−594.6α+14600
b=−0.5997α2+5
9.46α−1497
c=0.006700α2−0.6505α+17.96
ただし、αは、LT基板のカット角(°)を示している。
【0035】
上述の関係を満たす場合には、Al電極35よりも引っ張り強さの大きい材料からなるCu電極36の存在により、IDT電極3の耐電力を高めることができることに加え、弾性波の放射損失を抑え励振効率を高めることができる。以上より、耐電力に優れ、かつ、損失の少ないSAW素子1を提供できるものとなる。
【0036】
なお、上述の関係は、圧電基板2のカット角及びIDT電極3の材料(積層構造)を変えたときに、共振周波数における弾性波の放射損失が最小となる値をシミュレーションにより求め、その相関関係を数式化したものである。また、その妥当性を実測値でも検証したものである。
【0037】
図4に式(1)の関係を示す。
図4において横軸はIDT電極3の総厚みt(単位:無次元,波長λ(=2×Pt)に対する比率)であり、縦軸は、総厚みtに対するCu電極36の厚みの割合(単位:無次元)を示している。凡例は、シミュレーションにて確認した共振周波数における弾性波の放射損失が最小となる条件であり、線は、式(1)の中心値をプロットしたものである。すなわち、p=at
2+bt+cを満たす値をプロットしたものである。圧電基板2のカット角αは42°〜50°まで変化させている。
【0038】
図4から、式(1)が、複雑に関係する圧電基板2のカット角,IDT電極3における総厚み,Cu電極36の比率等の相関を、精度よく現せていることが確認できる。
【0039】
このようなAl電極35としては、AlまたはAlを主成分とするAl合金を用いることができる。例えば、AlにCuを1%〜3%程度添加したAl−Cu合金等を用いることができる。Cu電極36としては、CuまたはCuを主成分とするCu合金を用いることができる。例えば、CuにAgを1%〜20%程度添加したCu−Ag合金等を用いることができる。
【0040】
また、
図3には、Cu電極36を圧電基板2に近い側に配置した例を示したがこの例に限定されない。例えば、Al電極35を圧電基板2側に配置してもよい。
【0041】
Cu電極36を圧電基板2側に配置した場合には、振動の強い圧電基板2に近い側に強度の強いCu電極36を設けることができるので、耐電力性に優れたSAW素子1を提供できるものとなる。また、IDT電極3の重心を下方に移動させることができるので、電気機械結合係数を小さくすることができ、伝搬損失を小さくすることができる。
【0042】
なお、弾性波の放射損失は、IDT電極3を構成する材料の密度も関係するため、IDT電極3の上にいわゆる質量付加膜が設けられている場合や、IDT電極3が絶縁材料に埋め込まれているような場合には、上述の関係は成立しない。「埋め込まれている」とは、例えば、絶縁材料の厚みがIDT電極3の厚みの半分以上の場合等を表す。
【0043】
(変形例1)
図4を用いて、SAW素子1の変形例について説明する。
【0044】
Cu電極の割合が大きくなるにつれて耐電力性は高まる。しかしながら、
図4に示すように、Cu電極の割合が大きくなるとIDT電極3の総厚みtは小さくなり、電極としての電気抵抗が高まり、その結果、電気的な損失が大きくなる。一方で、圧電基板2のカット角を大きくするに従い、総厚みtを厚くすることができることが分かる。
【0045】
以上より、Cu電極の割合を高めて耐電力性を高める一方で、圧電基板2のカット角を大きくして電気抵抗を小さくするようにしてもよい。具体的には、電極としての電気抵抗を比較モデルに比べて同程度以下とするようにしてもよい。
【0046】
電極としての電気抵抗特性を比較するために、FOM(Figure of Merit)を導入する。この例では、FOMとして、導電率と電極厚みを乗じた値を用いる。なお、積層構造の場合には、それぞれの電極材料について導電率と電極厚みをかけたものを足し合わせることによって、電極全体のFOMを計算するものとする。このようにFOMを定義すると、FOMが大きいほど電極の単位厚みあたりの電気抵抗が小さいことを示すこととなる。
【0047】
なお、計算では、導電率はμS/cm単位で表し(Cuの導電率:0.588μS/cm、Alの導電率:0.370μS/cmとする)、電極の厚みは波長λ(=2×Pt)に対する比率で表す。例えば、純Alの電極で膜厚が波長比で8%の場合には、FOM=0.370×0.08=0.0296となる。また、Cu膜厚3%、Al膜厚4%の場合には、FOM=0.588×0.03+0.370×0.04=0.0325となる。
【0048】
ここで、
図5(a)に、式(1)の中心値をとるIDT電極3について、圧電基板2のカット角を異ならせたときのFOM値を示す。
図5(a)において、横軸はIDT電極3の総厚みtであり、縦軸はFOMを示している。なお、比較モデルのFOMは0.0296である。
【0049】
図5(a)から分かるように、カット角αを大きくしていくにつれてFOM値は大きくなり、電気特性に優れたSAW素子1を提供できることが分かる。特に、α=47°以上の場合は、Cu電極とAl電極との割合をどのようにとってもFOMが比較モデルを上回る。
【0050】
ここで、圧電基板2のカット角αと、比較モデルのFOMと同じFOMとなるIDT電極3の総厚みtの値との関係は式(2)で表される。
t=0.0006429α
2−0.06314α+1.595 ・・・(2)
なお、式(2)においてαは47°以下とする。
【0051】
すなわち、t≧0.0006429α
2−0.06314α+1.595となるとき(総厚みtが式(2)以上の値をとるとき)に、従来モデルよりも電気特性の向上したSAW素子1を提供することができる。
【0052】
なお、FOM値を従来モデルよりも5%以上向上させる場合には、総厚みtが式(3)以上の値をとるようにすることが好ましい。この場合には、仮にIDT電極3の結晶性が若干悪くなった場合であっても、電気特性を良好な状態とすることができる。
t=0.0006429α
2−0.06314α+1.605 ・・・(3)
【0053】
図5(b)に、総厚みtが式(2),式(3)の値以上となる条件を満たす条件を
図4に重ねて示す。式(2)を満たす値を線L11で、式(3)を満たす値を線L12で示している。線11,線12よりも厚みの厚い側に位置する領域において、SAW素子1の電気特性を向上させることができる。
【0054】
(変形例2)
図3に示すように、Cu電極36が圧電基板2に近い側に配置することで、耐電力性に優れたSAW素子1を提供することができるが、更に耐電力性を高めるために、IDT電極3の総厚みtを式(4)に示す値以下としてもよい。
t=0.0046α―0.113 ・・・(4)
すなわちt≦0.0046α―0.113としてもよい。
【0055】
図6(a)に、IDT電極3が
図3に示す構成をとる場合におけるAl電極35内の最大応力をシミレーションした結果を示す。なお、IDT電極3は、式(1)を満たしており、その中心値をとるものとする。
【0056】
図6(a)において、横軸はIDT電極3の総厚みtであり、縦軸はAl電極35内における最大応力(単位:MPa)を示す。ここで、標準モデルと同じ応力(約60MPa)となるIDT電極3とカット角αとの関係が式(4)となる。このため、IDT電極3の総厚みtが式(4)よりも小さい場合には、強度の弱い側のAl電極35に伝わる応力を標準モデル以下とすることができ、耐電力性に優れたSAW素子1を提供できる。
【0057】
なお、Al電極35の最大応力を標準モデルよりも20%低減するためには、IDT電極3の総厚みtを式(5)に示す値以下としてもよい。
t=
0.00475α−0.1257 ・・・(5)
すなわちt≦
0.00475α−0.1257としてもよい。
この場合には、さらに耐電力性に優れたSAW素子1を提供できる。具体的には、破壊限界電力が最大2dB改善すると予想される。
【0058】
また、Al電極35の最大応力を標準モデルよりも半減するためには、IDT電極3の総厚みtを式(6)に示す値以下としてもよい。
t=
0.0049α−0.1444 ・・・(6)
すなわちt≦
0.0049α−0.1444としてもよい。
この場合には、さらに耐電力性に優れたSAW素子1を提供できる。具体的には、破壊限界電力が最大6dB改善すると予想される。
【0059】
図6(b)に総厚みtが式(4)〜式(6)の値以上となる条件を満たす条件を
図4に重ねて示す。式(4)を満たす値を線L21で、式(5)を満たす値を線L22で、式(6)を満たす値を線L23で示している。線L21〜線L23よりも厚みの薄い側に位置する領域において、SAW素子1の耐電力性を向上させることができる。
【0060】
なお、上述の変形例1とこの変形例2とを同時に満たすものとしてもよい。その場合には、電気特性と耐電力性との双方に優れたSAW素子1を提供できる。
【0061】
(変形例3)
図3において、Al電極35の厚みがCu電極36の厚みに比べて大きい例を示したが、この例には限定されない。電気特性と耐電力性とを考慮して、式(1)を満たす範囲で適宜調整すればよい。
【0062】
Al電極35の厚みがCu電極36の厚みに比べて大きい場合には、耐電力性を高めつつ、特に、電気特性に優れたSAW素子1を提供することができる。また、Al電極35の厚みを厚くすることで、<111>方向への結晶成長を促進することができ、結晶性に優れたAl電極35を得ることができる。このため、破壊元となる欠陥の発生を抑制することができ、耐電力性を高めることができる。また、Al電極35の結晶性がCu電極36の結晶性よりも高くてもよい。この場合には、材料としての引張強度が大きく、強度の高いCu電極36に応力の伝達経路を長くもたせることで、Cu電極36側に応力を集中させ、強度の低いAl電極35への応力伝達を抑制することができる。
【0063】
一方、Al電極35の厚みがCu電極36の厚みに比べて小さい場合には、電気特性を維持しつつ、特に、耐電力性に優れたSAW素子を提供することができる。特に圧電基板2のカット角αが47°以上の場合には、Cu電極36のみでIDT電極3が構成されても、従来モデルのFOMを上回ることが確認されていることから、耐電力性のみに着眼してCu電極36の厚みを厚くしても、耐電力性と電気特性の双方に優れたSAW素子1を提供することができる。特に圧電基板2のカット角αが48°以上の場合には、Cu電極36の結晶性が若干低下しても、従来モデルのFOMを上回ることができ、電気特性に優れたSAW素子1を提供できるものとなる。
【0064】
(その他の変形例)
図3に示す例では、IDT電極3の断面形状は矩形状だが、台形であってもよい。その場合には、Al電極35とCu電極36との厚みの割合は体積に応じて補正するものとする。
【0065】
また、
図2に示す例では、十分に厚い圧電基板2を用いた場合を例に説明したが、薄い圧電基板2を用いて、その下面に支持基板を貼り合せた、いわゆる貼り合せ基板を用いてもよい。この場合には、圧電基板2の厚みは、0.5μm〜20μm程度とし、支持基板は、圧電基板2を支持できる厚みとすればよい。特に支持基板として、サファイア基板はSi基板等を用いた場合には、圧電基板2の温度変化による変形を抑制することができるので、温度特性に優れたSAW素子を提供することができる。
【0066】
さらに、上述の例ではIDT電極3を一様な層構成および厚みを有するものとして説明したが、電極指32同士が交差する領域において、電極指32が上述の関係を満たせばよく、この限りではない。例えば、バスバー31は電極指32に比べ厚みが厚くてもよいし、異なる層構成を備えていてもよい。
【0067】
なお、上述の例において導出した各式の特性は、圧電基板2のカット角が50°以上であっても、IDT電極3の総厚みが増大する傾向等は同様であることを確認しているが、カット角αが50°までは実測値とシミュレーション値との整合性を確認している。
【0068】
<フィルタ素子および通信装置>
図7は、本発明の実施形態に係る通信装置101の要部を示すブロック図である。通信装置101は、電波を利用した無線通信を行うものである。分波器7は、通信装置101において送信周波数の信号と受信周波数の信号とを分波する機能を有している。
【0069】
通信装置101において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC103によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ105によって送信用の通過帯域以外の不要成分が除去され、増幅器107によって増幅されて分波器7に入力される。分波器7は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯域以外の不要成分を除去してアンテナ109に出力する。アンテナ109は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号に変換して送信する。
【0070】
通信装置101において、アンテナ109によって受信された無線信号は、アンテナ109によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器7に入力される。分波器7は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯域以外の不要成分を除去して増幅器111に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器111によって増幅され、バンドパスフィルタ113によって受信用の通過帯域以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC103によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
【0071】
送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯域は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。
【0072】
図8は、本発明の一実施形態に係る分波器7の構成を示す回路図である。分波器7は、
図7において通信装置101に使用されている分波器である。分波器7は、送信フィルタ11および/または受信フィルタ12を構成するフィルタ素子を有している。送信フィルタ11および/または受信フィルタ12を構成するフィルタ素子は、SAW素子1と、圧電基板2上に配置された共振子で構成されている。
【0073】
SAW素子1は、例えば、
図7に示した分波器7における送信フィルタ11のラダー型フィルタ回路の一部を構成するSAW素子である。送信フィルタ11は、
図8に示すように、圧電基板2と、圧電基板2上に形成された直列共振子S1〜S3および並列共振子P1〜P3を有する。
【0074】
分波器7は、アンテナ端子8と、送信端子9と、受信端子10と、アンテナ端子8と送信端子9との間に配置された送信フィルタ11と、アンテナ端子8と受信端子10との間に配置された受信フィルタ12とから主に構成されている。
【0075】
送信端子9には増幅器107からの送信信号TSが入力され、送信端子9に入力された送信信号TSは、送信フィルタ11において送信用の通過帯域以外の不要成分が除去されてアンテナ端子8に出力される。また、アンテナ端子8にはアンテナ109から受信信号RSが入力され、受信フィルタ12において受信用の通過帯域以外の不要成分が除去されて受信端子10に出力される。
【0076】
送信フィルタ11は、例えば、ラダー型SAWフィルタによって構成されている。具体的に送信フィルタ11は、その入力側と出力側との間において直列に接続された3個の直列共振子S1、S2、S3と、直列共振子同士を接続するための配線である直列腕と基準電位部Gndとの間に設けられた3個の並列共振子P1、P2、P3とを有する。すなわち、送信フィルタ11は3段構成のラダー型フィルタである。ただし、送信フィルタ11においてラダー型フィルタの段数は任意である。
【0077】
並列共振子P1、P2、P3と基準電位部Gndとの間には、インダクタLが設けられている。このインダクタLのインダクタンスを所定の大きさに設定することによって、送信信号の通過周波数の帯域外に減衰極を形成して帯域外減衰を大きくしている。複数の直列共振子S1、S2、S3および複数の並列共振子P1、P2、P3は、それぞれSAW素子1のようなSAW共振子からなる。
【0078】
受信フィルタ12は、例えば、多重モード型SAWフィルタ17と、その入力側に直列に接続された補助共振子18とを有している。なお、本実施形態において、多重モードは、2重モードを含むものとする。多重モード型SAWフィルタ17は、平衡−不平衡変換機能を有しており、受信フィルタ12は平衡信号が出力される2つの受信端子10に接続されている。受信フィルタ12は多重モード型SAWフィルタ17によって構成されるものに限られず、ラダー型フィルタによって構成してもよいし、平衡−不平衡変換機能を有していないフィルタであってもよい。
【0079】
送信フィルタ11、受信フィルタ12およびアンテナ端子8の接続点とグランド電位部Gとの間には、インダクタなどからなるインピーダンスマッチング用の回路を挿入してもよい。
【0080】
本実施形態のSAW素子を、直列共振子S1〜S3のいずれか、または、並列共振子P1〜P3のいずれかに使用してもよい。SAW素子1を並列共振子P1〜P3の少なくとも1つに用いることにより、フィルタの耐電力性を高めることができる。
【実施例】
【0081】
本実施形態および変形例のSAW素子1のように、IDT電極3の材料および圧電基板2のカット角を変化させた場合の効果を確認するために、SAW素子を製造して評価を行なった。SAW素子の基本構成は以下の通りである。
【0082】
[圧電基板2]
材料:回転YカットX伝搬LiTaO
3基板
[IDT電極3]
IDT電極3の電極指32:
(本数)150本
(ピッチPt1)2.7μm
(デューティー:w1/Pt1)0.5
(交差幅W)20λ (λ=2×Pt1)
材料:Al電極35・・・純Al
Cu電極36・・・純Cu
(ただし、圧電基板2と導電層15との間には6nmのTiからなる下地層6がある。)
[反射器4]
材料および層構成:IDT電極と同様
反射電極指42の本数:30本
反射電極指42のピッチPt2:Pt1
IDT電極3との間隔G:Pt1
[保護層5]
材料:SiO
2
厚さ:15nm
このような基本構成に対して、圧電基板2のカット角とIDT電極3の電極材料およびその厚みの組み合わせとを以下のようにしたSAW素子を作製した。
[圧電基板2のカット角と電極膜厚の組み合わせ]
比較例 :カット角:42°,電極膜厚:Al8%
実施例1:カット角:46°,電極膜厚:Cu2%/Al7%
実施例2:カット角:46°,電極膜厚:Cu4%/Al2%
実施例3:カット角:48°,電極膜厚:Cu6%
【0083】
比較例および実施例に係るSAW素子について破壊電力値を測定した結果、比較例に係るSAW素子は32dBであるのに対して、実施例1に係るSAW素子は34.5dBであり、2.5dB耐電力を向上させることができることを確認した。なお実施例2,3についても、破壊電力値を計測し、比較例に比べて耐電力性が向上していることを確認した。
【0084】
さらに、比較例および実施例に係るSAW素子について、電気特性を測定した。
図9に本発明の弾性波素子を用いたSAW共振子の特性を示す。
図9において、横軸は周波数を示している。そして、縦軸は、
図9(a)はインピーダンスの絶対値、
図9(b)はインピーダンスの位相をそれぞれ示している。
【0085】
図9から明らかなように、比較例のAl8%品に比して、実施例は3種類とも、いずれも同等以上の特性を示している。特に反共振周波数よりも高周波側(750MHz以上)で位相が比較例に比して−90°に近い。これは、この周波数帯域で損失が小さいことを示している。これは、電極材料として密度の高いCuを使用したことでIDT電極3での弾性波の反射係数が大きくなったためである。この結果から、従来モデルの構成に比べ耐電力性・電気特性共に優れたSAW素子を提供できることが分かった。