(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を説明するが、本発明が下記の実施形態に限定されることはない。
【0014】
[捺染用インクセット]
本発明の一実施形態の捺染用インクセットは、金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液と、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクと、を含む。以下、「捺染用インクセット」を、単に「インクセット」と記す場合もある。
このインクセットは、捺染用として好ましく用いることができる。
【0015】
インクに含まれる水分散性樹脂として、ガラス転移点(以下、「ガラス転移点」を「Tg」と称することもある)が10℃以上の水分散性樹脂(C)を選定することで、水分散性樹脂により形性される被膜を硬くすることができ、インク画像の耐傷つき性を向上させることができる。
【0016】
一方、インクに含まれる水分散性樹脂のガラス転移点が高い場合、インクと基材との密着性が低下する傾向がある。また、金属塩を含む前処理液を用いてインク成分を凝集させてインクの発色性を向上させる場合、インクの浸透が抑制されるため、アンカー効果が不足し、インクと基材との密着性が低下する傾向にある。
そこで、インクと基材との密着性を向上させるために、樹脂を膨潤させる溶剤をインクに添加すると、インク画像の耐傷つき性を低下させる場合がある。
【0017】
しかし、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)を含むインクとともに、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)を含む前処理液を用いるとき、インクと布帛などの基材との密着性、及び印刷部のインク画像の耐傷つき性に優れるとともに、非印刷部のベタつきが低減された印刷物を製造することができる。
【0018】
具体的には、前処理液中の有機溶剤(B)のSP値が14(cal/cm
3)
1/2以下であることで、有機溶剤(B)が、前処理液上のインク被膜の基材側において、インク中の水分散性樹脂(C)による樹脂被膜を膨潤させて、インクと基材との密着性を高めることができる。また、このような有機溶剤(B)を前処理液に含ませることで、インク被膜の基材側のみにおいて、樹脂被膜を膨潤させることができる。これにより、インク画像表面の耐傷つき性の低下を抑えつつ、インクと基材との密着性を向上させることが出来る。
また、前処理液に含まれる有機溶剤(B)のSP値が10(cal/cm
3)
1/2以上であるとき、前処理液中の水分散性樹脂(A)を膨潤させにくく、基材上の前処理液が付与された領域の、インク画像が形成されていない非印刷部のベタ付きを低減させることができる。
【0019】
ここで、SP値は、Fedors式で求められるSP値であり、具体的には、Fedorsの提唱した下記式により算出した値である。下記式において、Δeiは、i 成分の原子または原子団の蒸発エネルギーであり、Δviは、i 成分の原子または原子団のモル体積である(Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook,Second Edition,Charles M.Hansen,CRC Press,2007参照)。
δ=[(sumΔei)/(sumΔvi)]
1/2
【0020】
金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液について説明する。
【0021】
前処理液中の金属塩は、インク中の顔料を凝集させて発色性を向上させるとともに、インク中の樹脂エマルションを析出させてインク膜形成を促進させることができる。
金属塩としては、1価金属塩、又は2価以上の多価金属塩のいずれでもよいが、多価金属塩が好ましい。
【0022】
多価金属塩は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成されることが好ましい。2価以上の多価金属イオンとしては、例えば、Ca
2+、Mg
2+、Cu
2+、Ni
2+、Zn
2+、Ba
2+が挙げられる。アニオンとしては、例えば、Cl
−、NO
3−、CH
3COO
−、I
−、Br
−、ClO
3−が例示できる。塩として具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。これらの金属塩は、単独で使用しても、複数種を混合して用いてもよい。
【0023】
金属塩の前処理液中の濃度は、前処理液全体に対して1質量%〜25質量%程度であることが好ましい。
【0024】
水分散性樹脂は、水に溶解することなく粒子状に分散して、水中油(O/W)型のエマルションを形成できるものである。
水分散性樹脂(A)としては、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂を、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
水分散性樹脂(A)は、前処理液製造においては、例えば、水中油型の樹脂エマルションとして配合することができる。
【0025】
水分散性樹脂(A)としては、特に限定されないが、例えば、ガラス転移点が−40℃以上、または0℃以上であってもよい。また、水分散性樹脂(A)のガラス転移点は、15℃以上であることが好ましく、18℃以上であることがより好ましく、20℃以上がより好ましい。水分散性樹脂(A)のガラス転移点が15℃以上であるとき、基材上の前処理液が付与された領域の、インク画像が形成されていない非印刷部のベタつきをさらに低減することが出来る。また、水分散性樹脂(A)のガラス転移点は、60℃以下が好ましく55℃以下がより好ましい。水分散性樹脂(A)のガラス転移点が60℃以下であるとき、基材の風合いを良好に保ちやすい。
【0026】
前処理液の水分散性樹脂(A)のガラス転移点は、インク画像が形成されていない非印刷部のベタつきをさらに低減する観点から、インクの水分散性樹脂(C)のガラス転移点以上であることが好ましく、例えば、水分散性樹脂(C)のガラス転移点より高くてもよい。
【0027】
水分散性樹脂(A)の市販品としては、例えば、樹脂エマルションとしては、例えば、Lubrizol社製PRINTRITE DP375(ウレタン樹脂、Tg=48℃)、日本合成化学工業(株)製モビニール780(アクリル樹脂)(Tg=20℃)、日本合成化学工業(株)社製モビニール6750(アクリル樹脂、Tg=0℃)、第一工業製薬(株)製スーパーフレックス500M(ウレタン樹脂、Tg=−39℃)、第一工業製薬(株)製スーパーフレックスE−4800(ウレタン樹脂、Tg=−65℃)、日信化学工業(株)製ビニブラン1002(酢酸ビニル樹脂、Tg=31℃)などが挙げられる。
【0028】
前処理液中の水分散性樹脂(A)の含有量は、樹脂固形分として、前処理液全量に対して1〜30質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
有機溶剤(B)のSP値は、10〜14(cal/cm
3)
1/2あることが好ましく、10.5〜13.0(cal/cm
3)
1/2であることがより好ましい。
SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)としては、溶剤種に限定はないが、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値10.5)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値10.6)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値11.2)などのグリコールエーテル;及び、ブタンジオール(例えば、1,2-ブタンジオール SP値12.8)ヘキサンジオール(例えば、1,6−ヘキサンジオール SP値13.5、1,2-ヘキサンジオール、SP値11.8)、オクタンジオール(例えば、1,2-オクタンジオール SP値11.2)などのアルカンジオールなどが挙げられる。なかでも、グリコールエーテルがより好ましい。
前処理液は、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)を1種または2種以上含んでもよい。
【0030】
前処理液は、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)以外の有機溶剤をさらに含んでも良い。その場合は、前処理液に含まれる全有機溶剤中の50質量%以上が、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)であることが好ましく、70質量%以上が、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)であることがより好ましい。また、前処理液に含まれる全有機溶剤のSP値を重量比に基づいて平均化した値が、10〜14(cal/cm
3)
1/2であることが好ましい。
【0031】
前処理液の有機溶剤(B)のSP値は、インクの有機溶剤(D)のSP値以下であることが好ましく、例えば、有機溶剤(D)のSP値より低くてもよい。前処理液の有機溶剤(B)のSP値が、インクの有機溶剤(D)のSP値以下であるとき、前処理液上のインク被膜の基材側において、インク中の水分散性樹脂(C)による樹脂被膜を、より膨潤させやくすることができる。このため、インクと基材との密着性を、より向上させやすい。
【0032】
また、例えば、前処理液の有機溶剤(B)のSP値が、インクの有機溶剤(D)のSP値以下(または、有機溶剤(D)のSP値より低い)であり、及び/または、前処理液の水分散性樹脂(A)のガラス転移点が、インクの水分散性樹脂(C)のガラス転移点以上(または、水分散性樹脂(C)のガラス転移点より高い)であってもよい。
【0033】
有機溶剤(B)は前処理液全量に対して、例えば、1〜25質量%であってよく、2〜20質量%であってよく、基材密着性の観点からは、5〜15質量%がより好ましい。
【0034】
前処理液中に含まれる水としては、特に制限されないが、不純物を含まない物が好ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
前処理液中に含まれる水の合計量は、前処理液全量に対して、20質量%〜90質量%が好ましく、50質量%〜80質量%がより好ましい。
【0035】
前処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、表面張力調整剤(界面活性剤)、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、架橋剤等の添加剤を適宜添加してもよい。このような添加剤としては、後述するインクに配合されるものと同様のものを使用することができる。
前処理剤の調製方法としては、とくに限定されず、例えば、各成分を混合して調製することができる。
【0036】
顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクについて説明する。
顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクは、例えばインクジェットインクであってよい。
【0037】
顔料としては、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができる。白インクには白色顔料が、色インクには、白以外の顔料を使用することができる。
【0038】
具体的には、白色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムなどの無機顔料が挙げられる。無機顔料以外に、中空樹脂微粒子や、高分子微粒子を使用することもできる。中でも、隠蔽力の観点から、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンを使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナやシリカで表面処理されたものを使用することが好ましい。表面処理量は、顔料中に5〜20質量%程度であることが好ましい。
【0039】
非白色の顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。
【0040】
顔料の平均粒径は、発色性の観点から50nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。
【0041】
これらの顔料は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料の配合量は、使用する顔料の種類によっても異なるが、インク中に、インク全量に対して1〜30質量%程度含まれていることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。
【0042】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤型分散剤に代表される顔料分散剤を使用することが好ましい。
高分子分散剤としては、たとえば市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ(TEGOディスパース740W、TEGOディスパース750W、TEGOディスパース755W、TEGOディスパース757W、TEGOディスパース760W)、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース41000、ソルスパース41090、ソルスパース43000、ソルスパース44000、ソルスパース46000)、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、ジョンクリル60、ジョンクリル62、ジョンクリル63、ジョンクリル71、ジョンクリル501)、BYK製のDISPERBYK−102、DISPERBYK−185、DISPERBYK−190、DISPERBYK−193、DISPERBYK−199、冨士色素製のFUJI SP A−54、第一工業製薬(株)製のポリビニルピロリドンK−30、ポリビニルピロリドンK−90等が挙げられる。
界面活性剤型分散剤としては、たとえば、花王(株)製デモールシリーズ(デモールEP、デモールN、デモールRN、デモールNL、デモールRNL、デモールT−45)などのアニオン性界面活性剤、花王(株)製エマルゲンシリーズ(エマルゲンA−60、エマルゲンA−90、エマルゲンA−500、エマルゲンB−40、エマルゲンL−40、エマルゲン420)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0043】
これらの顔料分散剤は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
顔料分散剤を使用する場合のインク中の配合量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分(固形分量)の質量比で顔料1に対し、0.005〜0.5の範囲で使用されることが好ましい。
【0044】
顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散顔料を使用してもよい。自己分散顔料の市販品としては、たとえば、キャボット社製CAB−O−JETシリーズ(CAB−O−JET200、CAB−O−JET300、CAB−O−JET250C、CAB−O−JET260M、CAB−O−JET270C)、オリヱント化学(株)製BONJET BLACK CW−1S、CW−2、CW−3、CW−4、CW−5、CW−6などが挙げられる。
顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
【0045】
インクに含まれる水分散性樹脂(C)は、ガラス転移点が10℃以上であることが好ましい。
水分散性樹脂(C)のガラス転移点は、インク画像の耐傷つき性をさらに向上させる観点から、10℃より高いことがより好ましく、15℃以上がさらに好ましい。
水分散性樹脂(C)のガラス転移点は、インク被膜のひび割れ低減の観点から、50℃以下が好ましい。
【0046】
水分散性樹脂(C)としては、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂などが挙げられ、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、又はスチレン/(メタ)アクリル樹脂が好ましく、ウレタン樹脂またはアクリル樹脂がより好ましい。
これらの樹脂を、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
水分散性樹脂(C)は、インク製造においては、例えば、水中油型の樹脂エマルションとして配合することができる。
水分散性樹脂(C)の市販品としては、例えば、樹脂エマルションとしては、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス150H(ウレタン樹脂、Tg=40℃)、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス210(ウレタン樹脂、Tg=41℃)、日本合成化学工業(株)製モビニール1752(スチレン/アクリル樹脂、Tg=16℃)、日本合成化学工業(株)製モビニール6969D(アクリル樹脂、Tg=70)、DSM社製NeoCrylBT−62(スチレン/アクリル樹脂、Tg=22)が挙げられる。
【0047】
インクは、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)以外の水分散性樹脂を含んでもよい。その場合は、インクに含まれる全水分散性樹脂の50質量%以上が、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)であることが好ましく、80質量%以上がガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)であることがより好ましい。また、インクに含まれる全水分散性樹脂のガラス転移点を重量比に基づいて平均化した値が、10℃以上であることが好ましい。
【0048】
インク中の水分散性樹脂(C)の含有量は、樹脂固形分として、インク全量に対して1〜20質量%であることが好ましく、3〜17質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
有機溶剤(D)としては、とくに限定されないが、SP値が14.5(cal/cm
3)
1/2以上であることが好ましく、例えば、15(cal/cm
3)
1/2以上、または16(cal/cm
3)
1/2以上であってもよい。有機溶剤(D)のSP値が14.5(cal/cm
3)
1/2以上であるとき、有機溶剤(D)のインク被膜での残留が低減され、インク被膜が膨潤しにくくなり、印刷部のインク画像の耐傷つき性をさらに向上させやすい。
【0050】
有機溶剤(D)としては、例えば、グリセリン(SP値16.4)、ジエチレングリコール(SP値15.0)、エチレングリコール(SP値14.8(cal/cm
3)
1/2)などの多価アルコールが挙げられる。
【0051】
インク中に含まれる水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、インクの保存安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が低いことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
インク中に含まれる水の合計量は、インク全量に対して、20質量%〜90質量%が好ましく、40質量%〜80質量%がより好ましい。
【0052】
インクは、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を適宜含んでもよい。その他の成分としては、例えば、表面張力調整剤(界面活性剤)、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、架橋剤等が挙げられる。
【0053】
表面張力調整剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤を使用できる。
【0054】
この界面活性剤を配合することにより、インクジェット方式でインクを安定に吐出させることがより容易となり、かつ、インクの浸透を適切に制御しやすくすることができるために好ましい。その添加量は(顔料分散剤として界面活性剤が使用される場合はその合計量として)、界面活性剤の種類によっても異なるが、インクの表面張力、及び、布帛等の基材への浸透速度の観点から、インク中に0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0055】
具体的には、アニオン性界面活性剤としては、花王(株)製エマールシリーズ(エマール0、エマール10、エマール2F、エマール40、エマール20C)、ネオペレックスシリーズ(ネオペレックスGS、ネオペレックスG−15、ネオペレックスG−25、ネオペレックスG−65)、ペレックスシリーズ(ペレックスOT−P、ペレックスTR、ペレックスCS、ペレックスTA、ペレックスSS−L、ペレックスSS−H)、デモールシリーズ(デモールN、デモールNL、デモールRN、デモールMS)が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、花王(株)製アセタミンシリーズ(アセタミン24、アセタミン86)、コータミンシリーズ(コータミン24P、コータミン86P、コータミン60W、コータミン86W)、サニゾールシリーズ(サニゾールC、サニゾールB−50)が挙げられる。
【0056】
非イオン性界面活性剤としては、エアプロダクツ社製サーフィノールシリーズ(サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485)及び日信化学工業(株式会社)製のオルフィンE1004、オルフィンE1010、オルフィンE1020などのアセチレングリコール系界面活性剤や、花王(株)製エマルゲンシリーズ(エマルゲン102KG、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン120、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン220、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン420、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン4085、エマルゲン2025G)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられる。
【0057】
両性界面活性剤としては、花王(株)製アンヒトールシリーズ(アンヒトール20BS、アンヒトール24B、アンヒトール86B、アンヒトール20YB、アンヒトール20N)などが挙げられる。
【0058】
インクの粘度やpHを調整するために、インクに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウムが挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インクの増粘助剤やpH調整剤として用いることができる。
【0059】
酸化防止剤を配合することにより、インク成分の酸化を防止し、インクの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いることができる。
【0060】
防腐剤を配合することにより、インクの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチ
オカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸を用いることができる。
【0061】
架橋剤を用いると、樹脂間及び/または樹脂と色材間を強固に繋ぐため、凝集破壊を起きにくくすることができる。
架橋剤としては、例えば加熱により架橋が進行するブロックイソシアネート系化合物が挙げられる。
【0062】
インクの調製方法は、特に限定されず、例えば、各成分を適宜混合することで所望のインクを得ることができる。
【0063】
インクの粘度は、適宜調節することができるが、たとえば吐出性の観点から、1mPa・s〜30mPa・sであることが好ましい。この粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの3Paにおけるインク粘度である。
【0064】
本発明の一実施形態のインクセットは、上述の、金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液と、上述の、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクと、を含むが、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外のものを含んでもよい。例えば、インクセットは、その他の処理液、及び/又はオーバーコート液などをさらに含んでもよい。また、インクセットは、その他のインクを含んでもよい。
また、インクセットは、例えば、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクを複数種含んでもよい。
このインクセットの印刷対象の基材は、とくに限定されないが、布帛への印刷に適している。布帛については後述する。
【0065】
[捺染物の製造方法]
本発明の一実施形態の捺染印刷物(捺染物)の製造方法は、上記で説明したインクセットを用いた捺染物の製造方法であって、基材に、前述の、金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液を付与する工程(以下、工程(1)ともいう場合ある。)、及び、前処理液が付与された基材に、前述の、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクを付与する工程(以下工程(2)という場合もある。)を含む。
金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液の上に、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクが付与されるとき、得られた捺染物のインクと布帛などの基材との密着性を高め、かつ、印刷部のインク画像の耐傷つき性に優れたものとすることができる。また、前処理液が付与された領域が、インク画像が形成されていない非印刷部を含んでいても、このような非印刷部のベタ付きを低減させることができる。
【0066】
基材としては特に限定されないが、布帛が好ましく用いられる。布帛としては、例えば、綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、アセテート、キュプラ等の任意の天然・合成繊維からなる布帛を用いることができる。布帛としては、織物、編物、または不織布等が挙げられる。
また、基材は、例えば、有色の基材であってよい。例えば、基材は、黒や濃色であってもよい。
【0067】
工程(1)では、基材に、前述の、金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液を付与する。基材に前処理液を付与する方法はとくに限定されず、例えば、インクジェット法を用いてもよく、スクリーン印刷、ローラーまたはスプレーなどで塗布してもよい。インクジェット法の場合に用いることができるインクジェットプリンタとしては、下記工程(2)で述べるものが挙げられる。前処理液は、基材の、インクが付与されてインク画像が形成される印刷部を含む領域に付与されることが好ましく、例えば、基材の、印刷部を含む全面に付与されてもよく、基材の、印刷部を含む一部にのみ付与されてもよい。前処理液を基材の全面に付与する場合には、生産性の観点から、スプレーまたはローラーなどによる塗布が好ましい。
【0068】
前処理液の付与量は、インクの発色性及び基材への密着性の向上の観点から、基材の単位面積当たり、40〜400g/m
2であることが好ましく、150〜300g/m
2であることがより好ましい。また、前処理液中の有機溶剤(B)の前処理液全量に対する含有量が5〜15質量%であり、かつ、前処理液の付与量が上記範囲であることがさらに好ましい。
【0069】
工程(2)では、前処理液が付与された基材に、前述の、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクを付与する。インクを付与する方法はとくに限定されないが、例えば、インクジェット法を用いることができる。インクジェット法の場合に用いることができるインクジェットプリンタとしては、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、例えば、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクの液滴を吐出させ、吐出されたインク液滴を基材上に付着させる。
【0070】
工程(1)及び工程(2)に加えて、他の工程が含まれてもよい。例えば、工程(1)の後、及び/又は工程(2)の後に、熱処理を行ってもよい。熱処理工程における加熱条件は、特に限定されない。例えば、工程(1)の後に、加熱温度100〜180℃(例えば150℃)で、所定時間(例えば30秒程度)熱処理を行い、工程(2)の後に、加熱温度100〜180℃(例えば150℃)で、所定時間(例えば60秒程度)熱処理を行ってもよい。
また、例えば、複数種のインクを付与して画像を形成してもよい。
【0071】
本発明の実施形態は、以下のものを含むが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
<1> 金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液と、
顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクと、
を含む、
捺染用インクセット。
<2> 前記水分散性樹脂(A)のガラス転移点が15℃以上である、<1>に記載の捺染用インクセット。
<3> 前記有機溶剤(B)のSP値が、前記有機溶剤(D)のSP値以下である、<1>または<2>に記載の捺染用インクセット。
<4> 前記有機溶剤(D)のSP値が14.5(cal/cm
3)
1/2以上である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の捺染用インクセット。
<5> 前記有機溶剤(B)は、前記前処理液全量に対して5〜15質量%である、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の捺染用インクセット。
<6> 前記水分散性樹脂(A)のガラス転移点が、前記水分散性樹脂(C)のガラス転移点以上である、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の捺染用インクセット。
<7> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の捺染用インクセットを用いる捺染物の製造方法であって、
基材に前記前処理液を付与する工程、及び
前記前処理液が付与された前記基材に前記インクを付与する工程を含む、
捺染物の製造方法。
<8> 前記基材が布帛である、<7>に記載の捺染物の製造方法。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
[前処理液の作製]
表1に記載の材料を混合し、ミックスロータで30分間撹拌し、前処理液1〜14を作製した。
表1に記載の材料は以下の通りである。また、表1において、各成分について単位のない数値は質量%を示す。水分散性樹脂については、各製品(樹脂エマルション)としての量(質量%)を示す。また、SP値の単位は、「(cal/cm
3)
1/2」である。
【0074】
<金属塩>
・塩化カルシウム(和光一級):和光純薬工業株式会社製
・硝酸カルシウム四水和物(和光一級):和光純薬工業株式会社製
<水分散性樹脂>
・PRINTRITE DP375:Lubrizol社製、固形分32質量%、Tg=48℃
・モビニール780:日本合成化学工業株式会社製、固形分46質量%、Tg=20℃
・モビニール6750:日本合成化学工業株式会社製、固形分49質量%、Tg=0℃
・スーパーフレックス500M(SF500M):第一工業製薬(株)製、固形分45質量%、Tg=−39℃
<有機溶剤>
・エチレングリコール(和光一級):和光純薬工業株式会社製、SP値=14.8(cal/cm
3)
1/2
・1,2−ブタンジオール:東京化成工業株式会社製、SP値=12.8(cal/cm
3)
1/2
・1,2−ヘキサンジオール:東京化成工業株式会社製、SP値=11.8(cal/cm
3)
1/2
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル:東京化成工業株式会社製、SP値=10.5(cal/cm
3)
1/2
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル:東京化成工業株式会社製、SP値=8.6(cal/cm
3)
1/2
<イオン交換水>
・イオン交換水
【0075】
【表1】
【0076】
[インクの作製]
まず、250gの白色顔料R−21N(酸化チタン、堺化学工業(株)製)、及び分散剤として10gのデモールEP(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、花王(株)製)を、イオン交換水740gと混合し、ビーズミルにてφ0.5mmのジルコニアビーズを用いて分散し、白色(W)顔料分散体を得た。
得られた白色(W)顔料分散体を、表2に記載の残りの材料と混合し、ミックスロータで30分間撹拌し、インク1〜6を作製した。
【0077】
表2に記載の材料は以下の通りである。また、表2において、各成分について単位のない数値は質量%を示す。水分散性樹脂については、各製品(樹脂エマルション)としての量(質量%)を示す。分散剤についても製品(デモールEP)としての量(質量%)を示す。また、SP値の単位は、「(cal/cm
3)
1/2」である。
【0078】
<顔料>
・R−21N:堺化学工業(株)製酸化チタン(白色顔料)
<分散剤>
・デモールEP:花王(株)製ポリカルボン酸型高分子界面活性剤(界面活性剤型分散剤)、固形分25質量%
<水分散性樹脂>
・スーパーフレックス150H(SF150H):第一工業製薬(株)製、固形分30質量%、Tg=40℃
・モビニール1752:日本合成化学工業(株)製、固形分50質量%、Tg=16℃
・モビニール6750:日本合成化学工業(株)製、固形分49質量%、Tg=0℃
・スーパーフレックス420(SF420):第一工業製薬(株)製、固形分30質量%、Tg=−10℃
【0079】
<有機溶剤>
・ジエチレングリコール(和光一級):和光純薬工業株式会社製、SP値15.0(cal/cm
3)
1/2
・エチレングリコール: 東京化成工業株式会社製、SP値14.8(cal/cm
3)
1/2
・1,2−ヘキサンジオール:東京化成工業株式会社製、SP値11.8
<界面活性剤>
・サーフィノール465:エアプロダクツ社製アセチレングリコール系界面活性剤
<イオン交換水>
・イオン交換水
【0080】
【表2】
【0081】
[評価]
<印刷物(捺染物)の作製>
基材として黒色綿100%Tシャツ「Printstar 085−cvt」(トムス株式会社製)を用意し、基材に前処理液をスプレーにて200g/m
2の量塗工し、ヒートプレス機にて150℃で、30秒間熱定着した。
インクを5μmセルロースアセテートシリンジフィルターでろ過し、インクジェットプリンタ(マスターマインド社製テキスタイルプリンタ「MMP‐8130」)に導入した。インクが導入されたプリンタを用いて、前処理液塗工及び熱定着処理を行った上記基材に、100mm×200mmのベタ画像を印刷し、最終定着として150℃で60秒間の熱処理を行った。
【0082】
<基材密着性評価方法>
上記で作製された印刷物(捺染物)を試験片として用い、JIS L0849に規定の方法に従い、II型摩擦試験機((株)大栄科学精器製作所製RT−200)を用いて試験を行った。擦過によって、白インク被膜が基材から剥がれた割合を目視で確認し、次の基準で評価した。結果を表3〜5に示す。
A:白インク被膜の剥がれが擦過部面積に対して5パーセント未満である
B:白インク被膜の剥がれが擦過部面積に対して5パーセント以上15パーセント未満である
C:白インク被膜の剥がれが擦過部面積に対して15パーセント以上である
【0083】
<耐傷つき性評価方法>
市販の歯ブラシ(毛の材質:ナイロン、硬さ:ふつう)を用い、この歯ブラシのヘッドに100gの荷重をかけて、上記で作製された印刷物の印刷部のインク画像表面を10往復こすり、30cm離れた場所から印刷部のインク画像の傷つき度合いを目視で確認し、次の基準で評価した。結果を表3〜5に示す。
A:傷が無い
B:傷はあるが目立たない
C:傷が目立つ
【0084】
<非印刷部のベタつき評価方法>
上記で作製された印刷物を20×20mmに断裁し、非印刷部で且つ前処理液塗工部にPETフィルムを押し付け、5秒放置後に、PETフィルムを摘まんで引き上げた。PETフィルムからの布帛の剥がれ性により、ベタつきを評価した。結果を表3〜5に示す。
A:印刷物が持ち上がらない(殆どベタつかない)
B:印刷物が持ち上がるがすぐに自重で落ちる(ややベタつく)
C:印刷物が自重でPETフィルムから剥がれるまで1秒以上かかる(ベタつく)
【0085】
下記の表3〜5において、SP値の単位は、「(cal/cm
3)
1/2」である。
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
金属塩、水分散性樹脂(A)、SP値が10〜14(cal/cm
3)
1/2の有機溶剤(B)、及び水を含む前処理液と、顔料、ガラス転移点が10℃以上の水分散性樹脂(C)、有機溶剤(D)、及び水を含むインクと、を用いた実施例1〜9では、「基材密着性」、「耐傷つき性」、及び、「非印刷部のベタつき」のいずれの評価項目においても良好な結果が得られ、インクと基材との密着性、及び印刷部のインク画像の耐傷つき性に優れるとともに、非印刷部のベタつきが低減された印刷物を製造することができることが示された。
インクの有機溶剤(D)のSP値が14.5(cal/cm
3)
1/2以上である実施例2、3、4、16、17及び18は、耐傷つき性において、より優れた結果が示された。また、前処理液中の水分散性樹脂(A)のガラス転移点が15℃以上の実施例12〜18では、非印刷部でのベタつきにおいて、より優れた結果が得られた。
【0090】
一方、前処理液が有機溶剤を含まない比較例1、及び、前処理液の有機溶剤のSP値が14を超えていた比較例2では、基材密着性が劣っていた。また、前処理液の有機溶剤のSP値が10未満であった比較例3では、非印刷部のベタつきの結果が劣っていた。インクの水分散性樹脂のガラス転移点が低い比較例4及び5では、耐傷つき性が劣っていた。