特許第6904782号(P6904782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6904782
(24)【登録日】2021年6月28日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】車両用無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 40/02 20090101AFI20210708BHJP
   H04W 4/00 20180101ALI20210708BHJP
   H04W 4/46 20180101ALI20210708BHJP
【FI】
   H04W40/02
   H04W4/00 110
   H04W4/46
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-95773(P2017-95773)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-195880(P2018-195880A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】國立 忠秀
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒人
(72)【発明者】
【氏名】金森 勝美
(72)【発明者】
【氏名】松井 研輔
【審査官】 石田 紀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−225989(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/008460(WO,A1)
【文献】 特開2005−286554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を有する複数の無線通信端末を備え、
無線通信の範囲として、全体領域と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域と、が形成され、
各前記セル領域に、少なくとも1つの前記無線通信端末が含まれており、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、前記全体領域と、自身が属する前記セル領域のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、自身が属する前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行
前記各無線通信端末は、他の各無線通信端末の位置または距離に関する情報を取得する機能を有し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合において、
前記データの宛先の端末が自端末と同じセル領域内に存在しない場合、または宛先の端末までの距離が所定以上の場合には、前記全体領域を選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を開始し、
前記データの宛先の端末が自端末と同じセル領域内に存在する場合、または宛先の端末までの距離が前記所定未満の場合には、自身が属する前記セル領域を選択し、前記広帯域無線通信機能により無線通信を開始する、
ことを特徴とする車両用無線通信システム。
【請求項2】
使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を有する複数の無線通信端末を備え、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、全体領域と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行い、
前記各無線通信端末には優先順位が定められており、
前記狭帯域無線通信機能により送信された無線信号を、宛先以外の前記各無線通信端末が受信した場合には、優先順位の高い無線通信端末が、受信した前記無線信号のデータを宛先の無線通信端末に向けて前記広帯域無線通信機能又は前記狭帯域無線通信機能により送出する、
ことを特徴とする両用無線通信システム。
【請求項3】
使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を有する複数の無線通信端末を備え、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、全体領域と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行い、
前記狭帯域無線通信機能により送信された無線信号を、宛先以外の複数の前記無線通信端末が受信した場合には、先に送信を開始した無線通信端末のみが、受信した前記無線信号のデータを該当する宛先の無線通信端末に向けて前記広帯域無線通信機能又は前記狭帯域無線通信機能により送出する、
ことを特徴とする両用無線通信システム。
【請求項4】
前記複数の無線通信端末の各々は、車両構造体もしくはそれに隣接する空間に配置され、
前記全体領域は、前記車両構造体の範囲内に相当する領域である、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の車両用無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両上で様々な機器の間を、有線または無線によるメッシュ状のネットワークを介して接続することにより、必要に応じて様々な経路を利用して、互いに通信することができる。また、無線通信を利用する場合には、その経路の分だけワイヤハーネスの構造を簡略化したり、ワイヤハーネスの配索作業の負担を削減することができる。
【0003】
また、メッシュネットワーク(mesh network)を構成する場合には、ある送信元ノードから別の送信先ノードまでの間で、様々な経路を選択的に利用して通信経路を確保できる。したがって、故障などで使えなくなった経路が発生しても別の経路に切り替えて継続的に接続できる。例えば、特許文献1に示されているようにダイナミックルーティング(dynamic routing)を利用すれば、メッシュ状のネットワーク上で、通信に使用する経路をその都度変えることができるので、故障などの影響を受けにくくなる。
【0004】
また、特許文献1においては、移動体通信システムを構成する場合に、比較的広い範囲の領域(マクロセル)をカバーする広域基地局と、比較的狭い範囲の領域(マイクロセル)をカバーする狭域基地局とを用いて、様々な位置の端末が無線通信するために利用可能な領域を形成している。また、特許文献1においては、マイクロセルで無線通信し、通信遅延が大きくなったことを確認した場合には、端末と基地局との間の無線通信をマクロセルに切り替えて通信遅延を小さくすることを示している。
【0005】
また、特許文献2は、複数の無線通信端末を含むマルチホップ無線通信ネットワークにおいて、受信側の各端末が受信したパケットを中継するための技術を示している。具体的には、送信元の端末は、宛先位置情報と送信元位置情報を含むパケットを生成して送信する。受信側の各端末は、受信したパケットの送信元の無線通信端末の位置と宛先の位置との間の送信距離、及び自身の位置と宛先の位置との間の中継距離を算出する。そして、送信距離が中継距離を越える場合にパケットを中継する。
【0006】
また、特許文献3では、複数のノードで構成される通信システムにおいて、目的ノードまで迅速にデータを送信するための技術を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−147848号公報
【特許文献2】特開2009−33516号公報
【特許文献3】特開2014−225859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、通信可能な範囲が比較的狭い多数の無線通信端末を、様々な位置に分散した状態で配置し、これらの無線通信端末を利用してメッシュ状の無線通信ネットワークを単純に構成する場合を想定する。この場合、1つの送信元ノードの無線通信端末から他の宛先ノードの無線通信端末に対してデータを送信する際に、様々な端末の間で順次に、あるいは並列的に通信を行いながら、送信元から送信先までの通信に利用可能な経路を探索するための通信処理を行う必要がある。更に、通信に利用可能な経路が確定した後であっても、送信元から宛先にデータが届くまでの間に、このデータは多数の中継点を経由することになる。したがって、この無線通信ネットワーク上を通過するトラフィックが増大する。また、送信元から宛先までの間のデータ中継回数が増えるのに伴って通信の遅延時間も増大する。
【0009】
特許文献2の技術を採用する場合には、受信側の各端末が送信元と宛先との間の送信距離、及び自身の位置と宛先の位置との間の中継距離を算出しこれらの距離に基づいて中継の制御を行うので、各端末が経路情報を記憶する必要がない。また、通信経路が長くなるのを避けることができる。しかし、例えば狭い空間に多数の端末を配置するような状況においては、送信元の端末から宛先の端末にパケットが届くまでの中継回数が増えるため、通信の遅延時間が増大するのは避けられない。
【0010】
そのため、例えば特許文献1に示されているように、各端末の無線通信の範囲を狭域から広域に切り替え、経路の探索に伴う通信の回数や、伝送するデータの中継回数を減らすことが考えられる。これにより、通信の遅延時間を減らすことができ、トラフィックも削減される。しかしながら、特許文献1の技術を採用するためには、全ての無線通信端末が、狭域無線通信と広域無線通信の両方の機能を備えたうえで、更に、通信の遅延時間を検出するために受信タイミングを測定したり、その結果に基づいて通信の範囲を切り替えるための制御が必要になる。したがって、システム全体のコストが大幅に増えるのは避けられない。また、システム全体の動作を管理する装置も必要になる。
【0011】
また、車両上で使用する無線通信システムの場合には、車両上の限られた狭い空間の中に、様々な種類の電装品の制御に用いる多数の無線通信端末が配置される可能性がある。更に、自車両上で行う無線通信の電波が、他の車両内の無線通信や、車両外の無線通信に影響を与えないように予め考慮しなければならない。したがって、車両上の各無線通信端末が送信する電波の出力電力を抑制し、ごく狭い範囲の狭域無線通信を行うことが望ましい。しかし、各無線通信端末の通信可能な範囲がごく狭い範囲に限られる場合には、上述のようにトラフィックの増大、および通信の遅延時間の増大が大きな問題になる。更に、通信システムのコストの上昇を抑制する必要がある。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストの上昇を抑制すると共に、通信の遅延時間の増大およびトラフィックの増大を避けることが可能な車両用無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用無線通信システムは、下記(1)〜()を特徴としている。
(1) 使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を有する複数の無線通信端末を備え、
無線通信の範囲として、全体領域と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域と、が形成され、
各前記セル領域に、少なくとも1つの前記無線通信端末が含まれており、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、前記全体領域と、自身が属する前記セル領域のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、自身が属する前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行
前記各無線通信端末は、他の各無線通信端末の位置または距離に関する情報を取得する機能を有し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合において、
前記データの宛先の端末が自端末と同じセル領域内に存在しない場合、または宛先の端末までの距離が所定以上の場合には、前記全体領域を選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を開始し、
前記データの宛先の端末が自端末と同じセル領域内に存在する場合、または宛先の端末までの距離が前記所定未満の場合には、自身が属する前記セル領域を選択し、前記広帯域無線通信機能により無線通信を開始する、
ことを特徴とする車両用無線通信システム。
【0015】
使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を有する複数の無線通信端末を備え、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、全体領域と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行い、
前記各無線通信端末には優先順位が定められており、
前記狭帯域無線通信機能により送信された無線信号を、宛先以外の前記各無線通信端末が受信した場合には、優先順位の高い無線通信端末が、受信した前記無線信号のデータを宛先の無線通信端末に向けて前記広帯域無線通信機能又は前記狭帯域無線通信機能により送出する、
ことを特徴とする両用無線通信システム。
【0016】
使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を有する複数の無線通信端末を備え、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、全体領域と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行い、
前記狭帯域無線通信機能により送信された無線信号を、宛先以外の複数の前記無線通信端末が受信した場合には、先に送信を開始した無線通信端末のみが、受信した前記無線信号のデータを該当する宛先の無線通信端末に向けて前記広帯域無線通信機能又は前記狭帯域無線通信機能により送出する、
ことを特徴とする両用無線通信システム。
【0017】
) 前記複数の無線通信端末の各々は、車両構造体もしくはそれに隣接する空間に配置され、
前記全体領域は、前記車両構造体の範囲内に相当する領域である、
ことを特徴とする上記(1)乃至()のいずれかに記載の車両用無線通信システム。
【0019】
上記(1)の構成の車両用無線通信システムによれば、狭帯域無線通信機能、および広帯域無線通信機能を適切に使い分けることにより、通信の遅延時間を短縮することが可能になる。すなわち、狭帯域無線通信機能を使用する時には、全体領域が通信可能な範囲になるので、送信元から宛先までの距離が大きい場合の中継回数を減らすことができ、遅延時間を短縮できる。また、狭帯域無線通信機能の使用により、送信元の端末と宛先の端末とが直接通信できない場合であっても、他の端末が広帯域無線通信機能又は狭帯域無線通信機能を利用して中継動作を行うことにより、適切な経路で宛先の端末までデータを転送できる。また、狭帯域無線通信機能は、距離が比較的大きい場合でも高速の無線通信を行うことが可能である。広帯域無線通信機能は、妨害電波の影響を受けにくいため狭い空間に多数の端末が配置されているような環境でも、効率的な通信ができる。
【0020】
更に、上記()の構成の車両用無線通信システムによれば、送信元の端末から宛先の端末までの間の中継回数や通信の遅延時間が増大すると予想される状況において、通信の範囲として全体領域が優先的に選択される。したがって、送信元の端末から宛先の端末までの間の中継回数を減らし、通信の遅延時間を短縮することができる。
【0021】
上記()の構成の車両用無線通信システムによれば、例えば狭い空間に多数の端末が配置されているような状況において、優先順位の高い端末がデータを中継するので、効率的な通信経路を利用することが可能になる。例えば、宛先の端末が送信元の端末からの電波を直接受信できない場合に、宛先の端末に最も近い他の端末や、中継回数が最も少なくなる位置の端末や、主要な経路上の端末などが優先的に中継を行うことにより、通信の遅延時間を短縮できる。
【0022】
上記()の構成の車両用無線通信システムによれば、例えば狭い空間に多数の端末が配置されているような状況において、送信元の端末からの同じ電波を複数の端末がほぼ同時に受信したような状況であっても、これら複数の端末が送信する電波が競合して干渉が発生するのを防止できる。
【0023】
上記()の構成の車両用無線通信システムによれば、各無線通信端末が狭帯域無線通信機能を使用すれば、車両構造体の範囲内のどこも受信領域とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の車両用無線通信システムによれば、コストの上昇を抑制すると共に、通信の遅延時間の増大およびトラフィックの増大を避けることが可能である。すなわち、狭帯域無線通信機能を使用する時には、全体領域が通信可能な範囲になるので、送信元から宛先までの距離が大きい場合の中継回数を減らすことができ、遅延時間を短縮できる。また、狭帯域無線通信機能の使用により、送信元の端末と宛先の端末とが直接通信できない場合であっても、他の端末が広帯域無線通信機能を利用して中継動作を行うことにより、適切な経路で宛先の端末までデータを転送できる。
【0026】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の実施形態の車両用無線通信システムに含まれる複数の無線通信端末の配置および無線通信回線の構成に関する具体例を示す平面図である。
図2図2は、本発明の実施形態の車両用無線通信システムにおけるネットワークの構成例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態の車両用無線通信システムが使用する1つの無線通信端末の構成例を示すブロック図である。
図4図4は、各ノード位置の無線通信端末における送信処理の概要を示すフローチャートである。
図5図5は、各ノード位置の無線通信端末における受信処理の概要を示すフローチャートである。
図6図6は、各ノード位置の無線通信端末における受信処理の変形例を示すフローチャートである。
図7図7は、無線通信を行う複数ノードで構成される通信ネットワークの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0029】
<各端末の配置および無線通信回線の構成の具体例>
本発明の実施形態の車両用無線通信システムに含まれる複数の無線通信端末の配置および無線通信回線の構成に関する具体例を図1に示す。
【0030】
図1に示した矩形形状の全体領域ARLは、一般的な自動車の車両構造体の領域に相当する。図1は、車両構造体を上方から視た平面における各要素の配置状態を表している。図1の左端側がこの自動車の前方側を表し、図1の右端側がこの自動車の後方側を表す。
【0031】
図1に示した例では、全体領域ARL、すなわち車両構造体およびそれに隣接した領域の各部に多数の無線通信端末10−1、10−3、・・・、10−17が設置されている。これらの無線通信端末10−1〜10−17の各々を設置する位置や総数については、必要に応じて変更される。
【0032】
これらの無線通信端末10−1〜10−17の各々は、この自動車の各部に搭載されている様々な電装品、例えば電子制御ユニット(ECU)、各種センサ、各種スイッチ、各種負荷などがそれぞれ必要とする信号の送受信を無線通信により可能にするために設けてある。
【0033】
図1に示した例では、無線通信端末10−1〜10−17の無線通信機能を利用することにより、これらの間を接続する無線通信経路C01、C03、C04、・・・、C16を形成することができる。また、図1に示した例では、全体領域ARLの内側の空間内に、それよりも十分に小さい複数のスモールセル領域ARS1、ARS2、ARS3が形成されている。もちろん、各無線通信経路、各スモールセル領域の数、大きさ、位置などは必要に応じて変更される。
【0034】
また、互いに隣接しているスモールセル領域ARS1、ARS2は一部分が互いに重なった状態で形成されている。また、互いに隣接しているスモールセル領域ARS2、ARS3も一部分が互いに重なった状態で形成されている。スモールセル領域ARS1の内側には、無線通信端末10−3、10−4、10−8が配置されている。スモールセル領域ARS2の内側には、無線通信端末10−8、10−11が配置されている。スモールセル領域ARS3の内側には、無線通信端末10−12、10−13、10−15が配置されている。
【0035】
なお、図1に示した無線通信端末10−1〜10−17の各々は、図1中に示したスモールセル領域ARS1、ARS2、ARS3のいずれかの範囲内のように比較的小さい領域内での狭域の無線通信と、全体領域ARLに相当する範囲内の比較的大きい広域の無線通信との両方に対応している。また、詳細については後述するが、無線通信端末10−1〜10−17の各々は、広域の無線通信を行う際には狭帯域の無線通信機能を利用し、狭域の無線通信を行う際には広帯域の無線通信機能を利用する。
【0036】
なお、本実施形態における「広域」は、例えば3メートル程度の大きさ、「狭域」は例えば1メートル程度の大きさになると想定される。これにより、自車両内の車両用無線通信システムが送信した電波が、他の車両内の無線通信や、その他の自車両外部の様々な無線通信に影響を与えるのを抑制できる。
【0037】
<ネットワークの構成例>
本発明の実施形態の車両用無線通信システムにおけるネットワークの構成例を図2に示す。すなわち、図1に示した無線通信端末10−1〜10−17を用いて、図2に示すような無線通信のネットワークを形成することができる。
【0038】
図2に示したネットワークにおいては、互いに異なる4つのスモールセル領域AR−A、AR−B、AR−C、およびAR−Dが形成されている。ここで、互いに隣接している2つのスモールセル領域AR−A、AR−Bは、一部分が重なった状態になっている。同様に、互いに隣接している2つのスモールセル領域AR−B、AR−Cも、一部分が重なった状態になっている。また、互いに隣接している2つのスモールセル領域AR−C、AR−Dも、一部分が重なった状態になっている。
【0039】
図2の例では、Aグループに相当するスモールセル領域AR−Aに、3つのノードNA−1、NA−2、およびNA−3が含まれている。また、Bグループに相当するスモールセル領域AR−Bに、4つのノードNB−1、NB−2、NB−3、およびNB−4が含まれている。また、Cグループに相当するスモールセル領域AR−Cに、4つのノードNC−1、NC−2、NC−3、およびNC−4が含まれている。また、Dグループに相当するスモールセル領域AR−Dに、3つのノードND−1、ND−2、およびND−3が含まれている。
【0040】
図2に示した各ノードの中でスモールセル領域AR−AのノードNA−3と、スモールセル領域AR−BのノードNB−1とは共通であり、1台の無線通信端末10により構成される。同様に、スモールセル領域AR−BのノードNB−4と、スモールセル領域AR−CのノードNC−1とは共通であり、また、スモールセル領域AR−CのノードNC−4と、スモールセル領域AR−DのノードND−1とは共通であり、それぞれ1台の無線通信端末10により構成される。また、他のノードNA−1、NA−2、NB−2、NB−3、NC−2、NC−3、ND−2、およびND−3はそれぞれ1台の無線通信端末10により構成される。
【0041】
図2の例では、スモールセル領域AR−A内の各ノードNA−1〜NA−3は、無線通信回線により互いに接続可能な状態で配置されている。また、スモールセル領域AR−B内の各ノードNB−1〜NB−4は、無線通信回線により互いに接続可能な状態で配置されている。また、スモールセル領域AR−C内の各ノードNC−1〜NC−4は、無線通信回線により互いに接続可能な状態で配置されている。また、スモールセル領域AR−D内の各ノードND−1〜ND−3は、無線通信回線により互いに接続可能な状態で配置されている。
【0042】
また、ノードNA−3とノードNB−1とが共通であるので、この共通のノードを経由することにより、互いに隣接しているスモールセル領域AR−AとAR−Bとの間で通信経路を確保することができる。同様に、ノードNB−4とノードNC−1とが共通であるので、互いに隣接しているスモールセル領域AR−BとAR−Cとの間で通信経路を確保することができる。また、ノードNC−4とノードND−1とが共通であるので、互いに隣接しているスモールセル領域AR−CとAR−Dとの間で通信経路を確保することができる。
【0043】
本実施形態においては、各ノードの位置に配置される無線通信端末10は、各スモールセル領域AR−A〜AR−Dに相当する狭い範囲の無線通信の他に、全体領域ARLに相当する広い範囲の無線通信を行う機能も備えている。したがって、必ずしも上記の共通のノードを設けなくても、全体領域ARLの内側の全てのノードが互いに無線通信することが可能である。
【0044】
<ネットワークの設計方法>
図2に示したような通信ネットワークを実際に設計する場合には、例えば図1に示した無線通信端末10−1〜10−17を複数のグループに区分して、各々のグループを、例えば図2に示したスモールセル領域AR−A、AR−B、AR−C、AR−Dのいずれかに対応付ける。そして、隣接する複数のスモールセル領域AR−A、AR−B、AR−C、AR−Dを互いに接続するようにネットワークを構成する。複数のスモールセル領域間の接続関係は予め決めておく。また、複数のスモールセル領域に跨がるノードを1つ以上含めるようにグループを作成することが望ましい。そして、スモールセル領域AR−A、AR−B、AR−C、AR−Dの各々について、セル内のみで経路設計を行う。セル内の経路設計については、例えば「ダイナミックルーティング」の手順を用いることにより自動的に処理することができる。
【0045】
<ネットワーク上の一般的な通信動作例>
図2に示した通信ネットワークにおいて、送信元のノードNA−1からノードND−2を宛先としてデータを送信する場合を想定した一般的な動作例について、以下に説明する。但し、本実施形態のシステムの場合には、以下に示した動作とは異なる特別な動作を行うことができる。これについては後で説明する。
【0046】
1.ノードNA−1では、宛先がノードND−2の通信なので、自セルであるスモールセル領域AR−Aから、AR−B、AR−Cを経由して宛先を含むスモールセル領域AR−Dに繋がることを確認する。ここで、スモールセル領域AR−A、AR−B、AR−C、AR−Dの間のつながりは固定であり、予め決められているので、例えば所定のテーブルに保持してある情報を参照することで、つながりを確認できる。
【0047】
2.宛先のノードを含むスモールセル領域AR−Dまでデータを転送するためには、まず自セルに隣接するスモールセル領域AR−Bにデータを送る必要があるので、ノードNA−1から、2つのスモールセル領域AR−A、AR−Bを跨ぐ位置に存在するノードNA−3までの通信経路を作成する。具体的には、送信元のノードNA−1の動作を契機として、スモールセル領域AR−A内で「ダイナミックルーティング」の手順が実行され、このセル内における各ノードの接続が確認され、通信に利用可能な適切な経路が自動的に作成される。
【0048】
3.上記の処理により作成した経路に従い、スモールセル領域AR−A内の各ノードが、ノードNA−1の出力した送信データをノードNA−3まで転送する。
【0049】
4.ここで、ノードNA−3がノードNB−1と共通であるので、ノードNB−1が受け取った送信データに基づき、スモールセル領域AR−B内で、上記「2.」「3.」と同様の動作を行う。これにより、スモールセル領域AR−B内でノードNB−1からノードNB−4までの経路が作成され、この経路を利用して、ノードNB−1の送信データがノードNB−4まで転送される。
【0050】
5.また、ノードNB−4がノードNC−1と共通であるので、ノードNC−1が受け取った送信データに基づき、スモールセル領域AR−C内で、上記「2.」「3.」と同様の動作を行う。これにより、スモールセル領域AR−C内でノードNC−1からノードNC−4までの経路が作成され、ノードNC−1の送信データがノードNC−4まで転送される。
【0051】
6.また、ノードNC−4がノードND−1と共通であるので、ノードND−1が受け取った送信データに基づき、スモールセル領域AR−D内で、「ダイナミックルーティング」の手順が実行され、このセル内における各ノードの接続が確認され、通信に利用可能な適切な経路が自動的に作成される。この経路に基づき、スモールセル領域AR−D内でノードND−1から宛先のノードND−2までの経路を特定し、ノードND−1の送信データがノードND−2まで転送される。
【0052】
なお、宛先のノードが送信元のノードに向けてデータを返信する場合には、送信元から宛先にデータを送信する場合と同一の経路を利用して逆方向に向かってデータを伝送する。また、各セル内で上記の経路を作成するための処理を事前に行い、その結果得られた情報を各ノードが保持しておくこともできる。その場合には、実際の送信データを転送する際に、上記の経路を作成するための所要時間が大幅に短縮される。
【0053】
図2に示したような通信ネットワークにおいては、多数のノードを必要に応じて利用できるので、様々な経路を選択的に利用してデータの送信元から送信先(宛先)までの通信経路を確保することが可能である。しかし、通信可能な相手ノードの数が多いので、経路を探索する際や、実際にデータを伝送する際の効率が低下する。すなわち、通信経路が確定していない状態で経路の探索を実施する時には、実際には使えない経路の相手ノードに対してもパケット等の信号をそれぞれ送信する必要があるため、相手ノードの数が増えると無駄なトラフィックが増えてネットワーク上の通信処理の負荷が増大し、信号の伝送遅延時間が増大する。また、通信経路が確定した後においても、この通信経路上で信号を中継するノードの数が増えるので、信号の伝送遅延時間が増大する。
【0054】
しかし、本実施形態のシステムにおいては、各無線通信端末10が各スモールセル領域AR−A〜AR−Dの範囲内で無線通信する機能の他に、全体領域ARLの範囲で無線通信する機能も備えている。したがって、例えばスモールセル領域AR−A内のノードNA−1が、スモールセル領域AR−D内のノードND−2を宛先としてデータを送信する場合に、スモールセル領域AR−A内からスモールセル領域AR−D内の各ノードとの間で直接無線送信することも可能である。この機能を利用して通信経路を適切に変更すると、送信元と宛先との間の経路における中継回数が減り、送信データの遅延時間が短縮される。また、ネットワーク上に発生するトラフィックも減らすことができる。
【0055】
<無線通信端末の構成例>
<全体の構成の概要>
本発明の実施形態の車両用無線通信システムが使用する1つの無線通信端末10の構成例を図3に示す。
【0056】
無線通信端末10は、受信機能部20および送信機能部30を備えている。また、受信機能部20にアンテナ29a、29bが接続されており、送信機能部30にアンテナ37a、37bが接続されている。
【0057】
送信機能部30は、自端末が送信元としてデータを送信する場合に、送信データを含む無線信号(電波)を送信するための機能を有している。受信機能部20は、他の端末が無線信号として送信したデータを受信する機能と、中継動作を行う場合に受信したデータを無線信号として再送信する機能とを有している。
【0058】
<受信機能部20の構成>
受信機能部20は、無線通信ユニット21、無線帯域切替機能部22、セル判別機能部23、中継データ生成機能部24、宛先判別機能部25、受信データ出力機能部26、通信成功判別機能部27、およびインタフェース(I/F)28を備えている。また、無線通信ユニット21は狭帯域無線通信部21a、および広帯域無線通信部21bを備えている。
【0059】
広帯域無線通信部21bは、無線信号の通信チャネルあたりの周波数帯域幅が非常に広い(例えば500MHz以上)無線通信機能により、無線信号の送信及び受信を行うための機能を備えている。具体的には、規格を策定計画中のUWB(超広帯域無線:Ultra Wide Band)や、特開2014−220745号公報に示されているインパルスUWBのような特殊な無線通信を行う機能を広帯域無線通信部21bが有している。
【0060】
一般的に、UWBは次のような特徴を有している。
1.近距離高速通信が可能な無線技術であり、位置測定やレーダーの機能も有している。
2.消費電力が少ない。
3.妨害電波に強い。
4.高速通信が可能であるが、距離が長くなると極端に速度が低下する。
5.位置検出の精度が高く、誤差は数センチメートル程度。
6.従来以上に広い周波数帯に拡散して通信を行う。
【0061】
したがって、UWBは、例えば図1に示した狭い車両上の空間内に多数の無線通信端末10が配置されているような状況において、一般的な通信方式と比べて高い通信性能を発揮することができる。
【0062】
本実施形態では、広帯域無線通信部21bは、図1に示した各スモールセル領域ARS1〜ARS3や、図2に示した各スモールセル領域AR−A〜AR−Dの範囲内のように比較的小さい範囲で無線通信を行う際にのみ使用される。したがって、広帯域無線通信部21bにおける無線信号の送信出力電力は、狭いスモールセルの範囲内だけに届くように予め制限してある。
【0063】
一方、狭帯域無線通信部21aは、無線信号の通信チャネルあたりの周波数帯域幅が広帯域無線通信部21bと比べて狭い一般的な(UWB以外の)無線通信機能により無線信号の送信及び受信を行うための機能を備えている。
【0064】
本実施形態では、狭帯域無線通信部21aは、図1図2に示した全体領域ARLのように比較的広い範囲で無線通信を行う場合にのみ使用される。したがって、狭帯域無線通信部21aにおける無線信号の送信出力電力は、全体領域ARLの範囲内のどこででも受信できるようになっている。
【0065】
無線帯域切替機能部22は、無線通信ユニット21が無線通信を行う際に、無線通信ユニット21内の狭帯域無線通信部21aと広帯域無線通信部21bとのいずれかを、予め定めた条件とその時の状況とに応じて自動的に選択するための機能を有している。
【0066】
セル判別機能部23は、自端末のノードが属しているセルと、中継する通信データの宛先となる端末のノードが属しているセルとが同じか否かを判別するための機能を有している。セル判別機能部23は、図2に示したようなネットワーク全体の中に含まれる各スモールセル領域AR−A〜AR−Dと、これらの各セルに所属している各ノードとの関係を表す情報を事前に把握しているので、上記判別を容易に行うことができる。
【0067】
中継データ生成機能部24は、狭帯域無線通信部21a、および広帯域無線通信部21bの各々が他のノードからの無線信号として受信した通信データを、宛先判別機能部25を経由して入力する。そして、この通信データの中から、宛先が自端末以外の中継すべき受信データのみを抽出し中継データとして出力する機能を中継データ生成機能部24が有している。
【0068】
宛先判別機能部25は、狭帯域無線通信部21a、および広帯域無線通信部21bの各々が他のノードからの無線信号として受信した通信データを、通信成功判別機能部27を経由して入力する。そして、前記通信データの宛先が自端末か否かを識別する機能を宛先判別機能部25が有している。
【0069】
受信データ出力機能部26は、狭帯域無線通信部21a、および広帯域無線通信部21bの各々が他のノードからの無線信号として受信した通信データを、宛先判別機能部25を経由して入力する。そして、この通信データの中から、宛先が自端末の受信データのみを抽出してインタフェース28に出力する機能を受信データ出力機能部26が有している。
【0070】
通信成功判別機能部27は、狭帯域無線通信部21a、および広帯域無線通信部21bの各々が他のノードからの無線信号として受信した通信データについて、通信に成功したか否かを判別する機能を有している。また、自端末が宛先でない場合に、該当する通信データの宛先の端末がこの通信データに対する受信確認の応答であるACK(acknowledgement)を送出したか否かを監視するための機能も有している。
【0071】
インタフェース28は、車両上の各種電装品の信号入力と接続される。自端末が自端末宛ての通信データを受信した場合には、この受信データが受信データ出力機能部26、およびインタフェース28を介して各種電装品に出力される。
【0072】
また、自端末が他の端末宛ての通信データを受信した場合には、この通信データを中継するための中継データが中継データ生成機能部24により生成される。この中継データは、セル判別機能部23、および無線帯域切替機能部22を経由し、狭帯域無線通信部21a又は広帯域無線通信部21bで無線信号に変換され、アンテナ29a又は29bから電波として送信される。狭帯域無線通信部21aおよび広帯域無線通信部21bのいずれを中継のための送信に利用するかはその時の状況に応じて変化する。
【0073】
<送信機能部30の構成>
一方、送信機能部30は、無線通信ユニット31、無線帯域切替機能部32、セル判別機能部33、宛先判別機能部34、通信データ作成機能部35、およびインタフェース36を備えている。また、無線通信ユニット31は狭帯域無線通信部31a、および広帯域無線通信部31bを備えている。
【0074】
広帯域無線通信部31bは、上記広帯域無線通信部21bと同様に、無線信号の通信チャネルあたりの周波数帯域幅が非常に広い特別な無線通信機能により、無線信号の送信を行うための機能を備えている。つまり、規格を策定計画中のUWBや、特開2014−220745号公報に示されているインパルスUWBのような無線通信を行う機能を広帯域無線通信部31bが有している。
【0075】
本実施形態では、広帯域無線通信部31bは、図1に示した各スモールセル領域ARS1〜ARS3や、図2に示した各スモールセル領域AR−A〜AR−Dの範囲内のように比較的小さい範囲で無線通信を行う際にのみ使用される。したがって、広帯域無線通信部31bにおける無線信号の送信出力電力は、狭いスモールセルの範囲内だけに届くように予め制限してある。
【0076】
一方、狭帯域無線通信部31aは、無線信号の通信チャネルあたりの周波数帯域幅が広帯域無線通信部31bと比べて狭い一般的な(UWB以外の)無線通信機能により無線信号の送信を行うための機能を備えている。
【0077】
本実施形態では、狭帯域無線通信部31aは、図1図2に示した全体領域ARLのように比較的広い範囲で無線通信を行う場合にのみ使用される。したがって、狭帯域無線通信部31aにおける無線信号の送信出力電力は、全体領域ARLの範囲内のどこででも受信できるようになっている。
【0078】
無線帯域切替機能部32は、無線通信ユニット31が無線通信を行う際に、無線通信ユニット31内の狭帯域無線通信部31aと広帯域無線通信部31bとのいずれかを、予め定めた条件とその時の状況とに応じて自動的に選択するための機能を有している。
【0079】
インタフェース36は、車両上の様々な電装品の信号出力と接続される。すなわち、電装品がデータ送信を要求する場合に、その通信データがインタフェース36を経由して自端末に入力される。
【0080】
通信データ作成機能部35は、インタフェース36から入力されるデータに基づいて、それを無線通信するために必要な所定の通信データを作成する機能を有している。例えば、宛先の端末又はノードを表す情報、送信元の端末又はノードを表す情報などが含まれるパケットを通信データとして作成する。
【0081】
宛先判別機能部34は、通信データ作成機能部35が作成した通信データをその宛先に届けるために利用可能な通信経路を判別するための機能を有している。なお、自端末のノードが所属しているスモールセル内で利用可能な経路については、事前に定めておくこともできるし、「ダイナミックルーティング」により自動的に決定することもできる。また、UWBを利用すれば各端末の位置や距離を正確に測定することも可能なので、事前に測定しておけば、各端末の位置や距離を簡単に把握できる。
【0082】
セル判別機能部33は、宛先判別機能部34を経由して入力される通信データについて、その宛先のノードが含まれるセルと、自ノードのセルとが同じか否かを判別する機能を有している。セル判別機能部33は、図2に示したようなネットワーク全体の中に含まれる各スモールセル領域AR−A〜AR−Dと、これらの各セルに所属している各ノードとの関係を表す情報を事前に把握しているので、上記判別を容易に行うことができる。
【0083】
なお、無線通信端末10が送信動作と受信動作とを同時に行う必要がない場合には、例えば図3に示した2つの無線通信ユニット21、31を別々に用意する必要はないので、これらを送信及び受信に共通の単一のユニットだけで構成することもできる。また、図3に示した受信機能部20内の各機能、および送信機能部30内の各機能については、無線通信端末10を制御するマイクロコンピュータ(図示せず)がソフトウェアにより実行する処理の一部分として実現することが想定されるが、専用のハードウェアで構成することもできる。
【0084】
<無線通信端末10の特徴的な動作の説明>
<送信処理の概要>
各ノード位置の無線通信端末10における送信処理の概要を図4に示す。すなわち、各無線通信端末10がインタフェース36から入力される送信要求に従い、送信機能部30がインタフェース36に入力されるデータを無線信号として他の端末に送信する場合に、図4に示した送信処理(Send)が実行される。
【0085】
ステップS11では、送信対象の通信データの宛先のノードが自端末のノードとは異なるセルに存在するか否かをセル判別機能部33が識別する。また、自端末のノードの位置から宛先のノードまでの距離を特定し、この距離が閾値よりも大きいか否かをセル判別機能部33が識別する。この比較で用いる閾値は、例えば図2に示した各スモールセル領域AR−A〜AR−Dの半径と同じ程度に定めることが想定される。各ノード間の距離の情報は、例えば事前に測定して得られた値を図示しない不揮発性メモリに保持しておく。
【0086】
宛先のノードが自端末のノードとは異なるセルに存在する場合、又は自端末のノードから宛先ノードまでの距離が大きい場合、のいずれかであれば、S11からS12に進む。それ以外の場合は、S11からS13に進む。
【0087】
ステップS12では、無線帯域切替機能部32が無線通信ユニット31内の狭帯域無線通信部31aを選択する。つまり、無線帯域切替機能部32が送信対象の通信データを狭帯域無線通信部31aに与えて、狭帯域無線通信によりデータを送信する。また、狭帯域無線通信部31aの送信出力電力が比較的大きいので、この場合の無線通信の範囲は全体領域ARLになる。
【0088】
なお、狭帯域無線通信部31aが狭帯域無線通信によりデータの送信を開始する際には、複数の送信元からの無線信号が衝突するのを回避するために、例えばCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance:搬送波検知多重アクセス/衝突回避方式)の通信プロトコルを利用する。すなわち、次のように処理する。
【0089】
1.各無線端末は、通信を開始する前に、「搬送波の検知(Carrier Sense)」を実行して現在通信をしている他の無線端末が存在するか否かを確認する。
2.複数の無線端末が同じ無線回線を共用し、他の端末が通信をしていなければ自分の通信を開始する(Multiple Access)。
3.「搬送波の検知」の際に他の無線端末が存在した場合には、他の無線端末の送信終了を検知してからランダムな長さの待ち時間を設け、この待ち時間の後で自分の通信を開始する(Collision Avoidance)。
【0090】
一方、ステップS13では、該当する通信データの送信経路として、宛先判別機能部34が生成した自セル内の通信経路の情報を利用する。また、次のステップS14では、無線帯域切替機能部32が無線通信ユニット31内の広帯域無線通信部31bを選択する。つまり、無線帯域切替機能部32は送信対象の通信データを広帯域無線通信部31bに与えて、広帯域無線通信によりデータを送信する。また、広帯域無線通信部31bの送信出力電力が比較的小さいので、この場合の無線通信の範囲は自セル内に限定される。
【0091】
つまり、各無線通信端末10が図4に示した送信処理を実行する場合には、宛先のノードが自端末のノードとは異なるセルに存在する場合、又は宛先ノードが比較的遠い位置に存在する場合に、狭帯域の無線通信が自動的に選択され、同時に無線通信の範囲として全体領域ARLが選択される。
【0092】
したがって、図2に示した通信ネットワークの場合に、送信元の端末がノードNA−1の位置に存在し、データの宛先の端末がノードND−2の位置に存在するような場合には、送信元と宛先のセルが異なり、距離も大きいので、ノードNA−1の位置の無線通信端末10は、無線通信の範囲として全体領域ARLとなる狭帯域の無線通信を選択する。
【0093】
そのため、送信元のノードNA−1から宛先のノードND−2まで1回の無線通信でデータを送信することも可能である。また、この無線通信により送信されたデータを宛先のノードND−2が直接受信できない場合であっても、ノードND−2に近い位置に存在する他のノードが受信してデータを中継すれば、少ない中継回数で、データを宛先のノードND−2まで届けることができる。したがって、送信元と宛先の間の距離が大きい場合に、このネットワーク上でデータを伝送する際の通信の遅延時間を短縮できる。
【0094】
一方、宛先のノードが自端末のノードと同じセル内に存在する場合、又は宛先ノードが比較的送信元に近い位置に存在する場合には、広帯域の無線通信が選択され、無線通信の範囲は自セル内に限定される。
【0095】
したがって、図2に示した通信ネットワークの場合に、送信元の端末がノードNB−1の位置に存在し、データの宛先の端末がノードNB−3の位置に存在するような場合には、送信元と宛先のセルが同じであり、距離も小さいので、ノードNB−1の位置の無線通信端末10は、無線通信の範囲がスモールセル領域AR−Bとなる広帯域の無線通信を選択する。
【0096】
ここで広帯域の無線通信としてUWBを利用するような場合には、端末間の距離が近く高速のデータ通信が可能であり、しかも妨害電波に強いので、例えば図1に示すように狭いセル内に複数の端末が配置されているような環境であっても、互いに近い位置の複数の端末がほぼ同時に通信を行うことも可能である。また、無線通信の範囲が同じセル内に限定されるので、1回のデータ送信に伴って他のセル内で余分なトラフィックが発生することもない。
【0097】
<受信処理の概要>
各ノード位置の無線通信端末10における受信処理の概要を図5に示す。すなわち、各ノード位置の無線通信端末10が、他のノード位置の無線通信端末から送信された通信データを含む無線信号をアンテナ29a又は29bで受信した場合に、図5に示した受信処理(Recv)が実行される。
【0098】
狭帯域の無線通信により他のノードの端末から送信された無線信号を自ノードの無線通信端末10が受信した場合には、この無線信号の電波がアンテナ29aで受信され、狭帯域無線通信部21aで受信処理され、通信データとして出力される。また、広帯域の無線通信により他のノードの端末から送信された無線信号を自ノードの無線通信端末10が受信した場合には、この無線信号の電波がアンテナ29bで受信され、広帯域無線通信部21bで受信処理され、通信データとして出力される。狭帯域無線通信部21a、および広帯域無線通信部21bのいずれかから出力される通信データは、通信成功判別機能部27を経由して宛先判別機能部25に入力される。
【0099】
図5のステップS21では、受信した通信データの宛先が自ノードであるか否かを宛先判別機能部25が判別する。すなわち、通信データのパケットヘッダなどに宛先を示す情報が含まれているので、これを自ノードに割り当てられたID等の情報と比較することにより、自ノード宛ての通信データと他ノード宛ての通信データとを区別する。
【0100】
自ノード宛ての通信データを受信した場合には、この通信データを受信データ出力機能部26がデータ処理して受信データをインタフェース28に出力する(S22)。また、他ノード宛ての通信データを受信した場合には、図5に示した中継機能PR1の動作が実行される。
【0101】
ステップS23では、中継データの宛先のノードが自端末のノードとは異なるセルに存在するか否かをセル判別機能部23が識別する。また、自端末のノードの位置から宛先のノードまでの距離を特定し、この距離が閾値よりも大きいか否かをセル判別機能部23が識別する。この比較で用いる閾値は、例えば図2に示した各スモールセル領域AR−A〜AR−Dの半径と同じ程度である。なお、中継データ生成機能部24が生成する中継データは、自ノードが受信した通信データに、例えば中継した自ノードの情報を付加したものとして作成する。
【0102】
宛先のノードが自端末のノードとは異なるセルに存在する場合、又は自端末のノードから宛先ノードまでの距離が大きい場合、のいずれかであれば、S23からS24に進む。それ以外の場合は、S25に進む。
【0103】
ステップS24では、無線帯域切替機能部22が無線通信ユニット21内の狭帯域無線通信部21aを選択する。つまり、無線帯域切替機能部22は送信対象の中継データを狭帯域無線通信部21aに与えて、狭帯域無線通信により中継データを送信する。また、狭帯域無線通信部21aの送信出力電力が比較的大きいので、この場合の無線通信の範囲は全体領域ARLになる。
【0104】
なお、S24で狭帯域無線通信部21aが狭帯域無線通信によりデータの送信を開始する際には、複数の送信元からの無線信号が衝突するのを回避するために、前述のS12と同様に、例えばCSMA/CAの通信プロトコルを利用する。
【0105】
ステップS25では、該当する中継データの送信経路として、宛先判別機能部25が生成した自セル内の通信経路の情報を利用する。また、次のステップS26では、無線帯域切替機能部22が無線通信ユニット21内の広帯域無線通信部21bを選択する。つまり、無線帯域切替機能部22は送信対象の中継データを広帯域無線通信部21bに与えて、広帯域無線通信によりデータを送信する。また、広帯域無線通信部21bの送信出力電力が比較的小さいので、この場合の無線通信の範囲は自セル内に限定される。
【0106】
なお、通信データの宛先の端末は、送信されたデータの受信に成功した場合には、受信確認の応答ACKを送信元に向けて同じ無線信号により返信する。したがって、データの中継を行う宛先以外の各端末は、宛先の端末からのACK送出の有無を監視することにより、宛先の端末が各々の通信データを受け取ったか否かを把握できる。宛先の端末からのACK送出を検知した場合には、同じ通信データを受け取った他の端末においては、図5に示した中継機能PR1の動作は、既に不要なので開始しないか又は中止する。
【0107】
したがって、各無線通信端末10が図5に示した受信処理を実行する場合には、無線信号として送信された通信データを宛先のノードが直接受信できない状況であっても、該当する通信データを受信できた他の端末が図5の中継機能PR1を実行することにより、中継した通信データを宛先のノードまで届けることができる。
【0108】
<受信処理の変形例>
各ノード位置の無線通信端末10における受信処理の変形例を図6に示す。すなわち、各ノード位置の無線通信端末10が、他のノード位置の無線通信端末から送信された通信データを含む無線信号をアンテナ29a又は29bで受信した場合に、図6に示した受信処理(Recv_2)を実行する場合を想定している。なお、図6の各ステップS21、S22では、図5に示したS21、S22と同じ処理を実行する。図6に示した動作について以下に説明する。
【0109】
各ノード位置の無線通信端末10が自ノード宛てではない通信データを受信した場合には、この通信データに対する宛先端末からのACK送出を非検出であるか否かを監視する(S31)。そして、ACK送出を非検出であれば、現在選択されている優先モードを識別する(S32)。この優先モードは、例えばスイッチの切替により必要に応じて変更することができる。本実施形態では、優先モードを表す値として「1」、「2」、「3」の3種類が存在する場合を想定する。
【0110】
優先モードの値が「1」の場合は、通信データを受信した各端末の中で、目的の宛先端末までの距離がより近い端末を優先的に選択する(S34)。また、優先モードの値が「2」の場合は、通信データを受信した各端末の中で、目的の宛先端末までの経路における中継回数がより少ない端末を優先的に選択する(S36)。
【0111】
例えば、宛先ノードに隣接する位置のノードが通信データを受信した場合には、自端末から宛先までの距離が近く、予想される中継回数も1回だけなので、優先モードの値が「1」又は「2」の場合には、自端末の優先度が最も高くなる。一方、宛先ノードとは異なるセル内に存在する端末の場合には、自端末から宛先までの距離が遠く、予想される中継回数も増えるので、優先モードの値が「1」又は「2」の場合には、自端末の優先度が低くなる。
【0112】
また、優先モードの値が「3」の場合は、通信データを受信した各端末の中で、事前に定めた優先度が高い端末を優先的に選択する(S37)。例えば、各セルの中央付近、あるいは主要な位置に配置されている端末や、他の端末との間の無線通信が容易な位置に配置されている端末、又は主要なセルに配置されている端末の優先度を事前に高くしておけば、中継回数を減らし効率的な通信を行うことが可能になる。
【0113】
そして、S34、S36、S37のいずれかの結果を反映した状況において、自ノードの位置の無線通信端末10が優先度の高い端末か否かをステップS38で識別する。自ノードが優先度の高い端末であれば、S39で図4に示した中継機能PR1と同様の処理を行う。また、自ノードが優先度の高い端末でなければ、自端末が受信した通信データを所定時間の経過後にS40で破棄する。
【0114】
なお、通信データを受信した複数の無線通信端末10が、それぞれS39で中継機能PR1を実行する場合には、例えばS24でCSMA/CAの通信プロトコルを実行する際に、優先度の高い端末の待ち時間を短くすることで、各端末の優先度の違いをシステム全体の動作に反映することができる。
【0115】
<「ダイナミックルーティング」の説明>
無線通信を行う複数ノードで構成される通信ネットワークの構成例を図7に示す。図7においては、1つのセルの中に、無線通信を行うノードN−A、N−B、N−S、N−C、N−Dが存在する状況を想定している。また、本発明の実施形態においては、セル内の通信経路を確保するために、各ノード位置の無線通信端末10が広帯域の無線通信を選択し、無線通信の範囲をセル内(狭域)に限定する。
【0116】
図7の例では、互いに隣接するノードN−A、N−Bが1つの無線通信により接続され、ノードN−B、N−Sが1つの無線通信により接続され、ノードN−S、N−Cが1つの無線通信により接続され、ノードN−C、N−Dが1つの無線通信により接続されている。但し、初期状態では各ノードは隣接する他のノード以外との間の通信に利用可能な経路は把握していない。
【0117】
ここで、図7に示したノードN−Sを通信元とし、ノードN−Dを宛先としてデータを送信する状況を想定し、「ダイナミックルーティング」を実行する場合の典型的な手順について以下に説明する。
1.まずはじめに、「通信元ノードN−S、宛先ノードN−D、中継ノード情報なし」として、通信元ノードN−Sが、ブロードキャスト(Broad Cast:BC)でルートリクエストパケット(Route-Request packet:RREQ)情報を無線信号として送信する。この情報は、通信元ノードN−Sとの間で無線通信が可能な隣接する位置の各ノードN−B、N−Cによって受信される。なお、他のノードへは距離の関係で電波が届かない。
【0118】
2.各ノードN−B、N−Cにおいては、受信した情報の宛先が自ノードではないため、中継ノード情報に自ノードの情報を格納し、ブロードキャストでRREQ情報を送信する。この場合、ノードN−Bがブロードキャストで送信したRREQ情報は各ノードN−A、N−Sで受信される。また、ノードN−Cがブロードキャストで送信したRREQ情報は各ノードN−S、N−Dで受信される。
【0119】
3.ノードN−Aは、ノードN−Bから受信したRREQ情報の宛先が自ノードではないため、中継ノード情報に自ノードの情報を格納し、ブロードキャストでRREQ情報を送信する。また、ノードN−Dは、ノードN−Cから受信したRREQ情報の宛先が自ノードであるので、通信元ノードの情報と中継ノード情報とに基づき、各ノードN−S、N−C、N−Dを順番に経由する経路で通信されることを把握する。
【0120】
4.ノードN−Bは、ノードN−AからのRREQ情報を受信するが、このRREQ情報の中継ノード情報の中に自ノードの情報が含まれているので、このRREQ情報を無視する。
【0121】
5.ノードN−Dは、受信したRREQ情報の内容により確定した経路情報に基づき、この経路情報を含むルートリプライパケット(Route-Reply packet:RREP)情報を返信する。この返信は、隣接するノードN−Cに向けて送信される。
【0122】
6.ノードN−Cは、ノードN−DからのRREP情報を受信し、これに含まれている情報を利用して、RREP情報をノードN−Sに向けて送信する。
【0123】
7.ノードN−Sは、ノードN−Cから受け取ったRREP情報に含まれる経路情報に基づき、宛先ノードN−Dまでの経路を把握する。そして、この経路に従い、宛先がN−Dのデータを、隣接するノードN−Cに向けて送信する。
【0124】
8.ノードN−Cは、ノードN−Sから受け取ったデータを中継し、宛先のノードN−Dへ転送する。
【0125】
以上の手順により、通信元のノードN−Sと宛先のノードN−Dとの間の通信が可能になる。また、例えばいずれかのノードに故障が発生して無線通信回線が途絶えたような場合には、再び上記の手順を最初からやり直すことにより、必要な経路を確保することができる。
【0126】
<システムの変形の可能性>
なお、図1に示した例では、各無線通信端末10が狭帯域の無線通信を利用する場合の広域の通信範囲が、自動車の車両構造体にほぼ相当する全体領域ARLである場合を想定しているが、全体領域ARLが車両の車室内のみの空間、又はラゲッジルームの空間のみを含むように領域を形成してもよい。また、広域及び狭域の各範囲を調整するために、例えば指向性アンテナを利用してもよい。また、全体領域ARLの中に形成する各スモールセルの大きさやセルの総数については、必要に応じて変更することが想定される。
【0127】
また、上述の実施形態では、各無線通信端末10が狭帯域無線通信部21a又は31aを用いて狭帯域無線通信を実施する場合に、1つの通信チャネルだけを使用する状況を想定しているが、必要に応じて通信チャネルを切り替えるように制御してもよい。
【0128】
なお、上述の実施形態では、車両用無線通信システムを構成する全ての無線通信端末10が、狭帯域無線通信機能および広帯域無線通信機能の両方を備える場合を想定しているが、狭帯域無線通信機能および広帯域無線通信機能のいずれか一方の機能だけを有する端末を同じネットワーク上に追加してもよい。また、ネットワーク上の一部の端末だけが中継機能PR1を有するようにシステムを構成してもよい。但し、中継機能PR1を有する端末を各々のスモールセルに最低1つだけは配置することが望ましい。
【0129】
また、上述の実施形態では、事前に複数のスモールセルの各々の範囲を規定してから制御を実施する場合を想定しているが、特別なセルを事前に規定することなく、単に端末間の距離の大小だけで狭帯域無線通信機能および広帯域無線通信機能のいずれを使用するか判定してもよい。この場合、例えば図4のステップS11や図5のステップS23において、宛先ノードが自端末のノードと異なるセルか否かを判定せず、距離の大小だけを判定するようにする。
【0130】
以上のように、本発明の実施形態に係る車両用無線通信システムによれば、例えば図4に示した送信処理や、図5に示した受信処理中の中継機能PR1を各無線通信端末10が実行する場合には、宛先のノードが自セルと異なるセルに存在する場合や、宛先の距離が遠いような場合に、狭帯域の無線通信を優先的に選択して広域の無線通信を行うことになる。したがって、送信元から宛先までの通信経路における中継回数が減り、通信の遅延時間が短縮される。また、これによりネットワーク上に発生するトラフィックの増大が抑制される。
【0131】
また、宛先の端末が送信元の端末の電波を直接受信できないような状況であっても、他の端末が中継機能PR1を実行することにより、送信元からの通信データを宛先まで届けることが可能になる。また、図6に示した各ステップS34、S36、S37のように、宛先端末までの距離、中継回数、事前に定めた優先度などを考慮して中継動作を行う端末の優先度を決定することにより、システム全体として効率的な中継動作が可能になる。つまり、通信の遅延時間が短縮され、ネットワーク上に発生するトラフィックの増大が抑制される。
【0132】
例えば各無線通信端末10が図4に示した送信処理や、図5および図6に示した受信処理を実行する場合には、狭帯域の無線通信と広帯域の無線通信の切替のために、通信の遅延時間を頻繁に計測する必要がなく、切替の処理も容易になる。
【0133】
ここで、上述した本発明に係る車両用無線通信システムの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[6]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能(狭帯域無線通信部21a、31a)、および広帯域無線通信機能(広帯域無線通信部21b、31b)を有する複数の無線通信端末(10)を備え、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、全体領域(ARL)と、前記全体領域よりも小さく且つ前記全体領域に含まれる複数のセル領域(スモールセル領域AR−A〜AR−D、ARS1〜ARS3)のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記全体領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、前記セル領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行う(S11、S12、S23、S24)、
ことを特徴とする車両用無線通信システム。
【0134】
[2] 前記各無線通信端末は、他の各無線通信端末の位置または距離に関する情報を取得する機能を有し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先の端末が自端末と同じセル領域内に存在しない場合、または宛先の端末までの距離が所定以上の場合には、前記全体領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を開始する(S11、S12、S23、S24)、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車両用無線通信システム。
【0135】
[3] 前記各無線通信端末には優先順位が定められており、
前記狭帯域無線通信機能により送信された無線信号を、宛先以外の前記各無線通信端末が受信した場合には、優先順位の高い無線通信端末が、受信した前記無線信号のデータを宛先の無線通信端末に向けて前記広帯域無線通信機能又は前記狭帯域無線通信機能により送出する(S32〜S39)、
ことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の車両用無線通信システム。
【0136】
[4] 前記狭帯域無線通信機能により送信された無線信号を、宛先以外の複数の前記無線通信端末が受信した場合には、先に送信を開始した無線通信端末のみが、受信した前記無線信号のデータを該当する宛先の無線通信端末に向けて前記広帯域無線通信機能又は前記狭帯域無線通信機能により送出する(S12、S24:CSMA−CA等の利用)、
ことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の車両用無線通信システム。
【0137】
[5] 前記複数の通信ノードの各々は、車両構造体もしくはそれに隣接する空間に配置され、
前記全体領域は、前記車両構造体の範囲内に相当する領域である(図1参照)、
ことを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の車両用無線通信システム。
【0138】
[6] 使用する周波数帯域の広さが互いに異なる、狭帯域無線通信機能(狭帯域無線通信部21a、31a)、および広帯域無線通信機能(広帯域無線通信部21b、31b)を有する複数の無線通信端末(10)を備え、
前記各無線通信端末が、無線通信の範囲として、第1の領域(ARL)と、前記第1の領域よりも狭い第2の領域(スモールセル領域AR−A〜AR−D、ARS1〜ARS3)のいずれかを選択し、
前記各無線通信端末が、前記第1の領域を選択して無線通信する場合には前記狭帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末が、前記第2の領域を選択して無線通信する場合には前記広帯域無線通信機能を使用し、
前記各無線通信端末がデータを送信する場合に、前記データの宛先に関する状況が所定の条件を満たす場合には、前記第1の領域を優先的に選択し、前記狭帯域無線通信機能により無線通信を行う(S11、S12、S23、S24)、
ことを特徴とする車両用無線通信システム。
【符号の説明】
【0139】
10 無線通信端末
20 受信機能部
21,31 無線通信ユニット
21a,31a 狭帯域無線通信部
21b,31b 広帯域無線通信部
22,32 無線帯域切替機能部
23,33 セル判別機能部
24 中継データ生成機能部
25,34 宛先判別機能部
26 受信データ出力機能部
27 通信成功判別機能部
28,36 インタフェース
29a,29b,37a,37b アンテナ
30 送信機能部
35 通信データ作成機能部
AR−A,AR−B,AR−C,AR−D スモールセル領域
ARL 全体領域
ARS1,ARS2,ARS3 スモールセル領域
C01,C03,C04,C05,C07 無線通信経路
C08,C09,C11,C12,C13,C14 無線通信経路
C15,C16 無線通信経路
NA−1,NA−2,NA−3,NB−1,NB−2,NB−3,NB−4 ノード
NC−1,NC−2,NC−3,NC−4,ND−1,ND−2,ND−3 ノード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7