(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記合成パルプは、MFRが5.0g/10min以上150g/10min以下である樹脂からなる、平均繊維長が0.10mm以上1.15mm以下であり、かつ、平均繊維径が15μm以上35μm以下であるミクロフィブリル繊維が集合してなる、カナディアンフリーネスが300ml以上740ml以下である合成パルプである、請求項1に記載の複合体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体
本発明の一実施形態に係る合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体は、MFRが0.1g/10min以上200g/10minである樹脂からなる、平均繊維長が0.05mm以上50mm以下であり、かつ、繊維径の最小値が0.5μmであり繊維径の最大値が50μmであるミクロフィブリル繊維が集合してなる、カナディアンフリーネスが300ml以上740ml以下である合成パルプと、前記合成パルプに捕捉されたセルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略す場合がある)と、を含む。
【0014】
捕捉されたとは、CNFが容易には離脱しない程度に合成パルプに固着していることを意味する。本明細書において、合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体を入れたポリ袋を振盪したときに、合成パルプから分離してポリ袋中の下部に落下したCNFの量が、振盪前に合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体が含有していたCNFの量の5質量%以下であるとき、CNFは合成パルプに捕捉されているとする。
【0015】
なお、上記振盪前に合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体が含有していたCNFの量は、合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体を分解し、繊維とCNFを精密に分離してそれぞれを計量することによって測定することができる。このようにしてあらかじめ測定したCNFの量から、振盪後の分離CNF量を計量することで、分離率を求めることができる。
【0016】
このようにCNFが合成パルプに捕捉されていると、使用中にCNFが合成パルプから分離して、凝集することはない。よって、本発明の合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体を従来の合成パルプの代替として使用し、合成紙を作成すると、強度と印刷適性の改善された合成紙が得られる。また、塗料やインクなどの増粘剤として使用すると、他のレオロジーコントロール剤等を添加せずに、良好なレオロジー特性を示す塗料やインクなどを得ることができる。
【0017】
(合成パルプ)
合成パルプは、合成された樹脂からなる複数の微小繊維が絡まり合って、分岐構造を有するより太い繊維を形成する構造を有する繊維(単に「ミクロフィブリル繊維」ともいい、このような構造を単に「ミクロフィブリル構造」ともいう。)が、全体として特定方向に整列せずに集合してなる繊維集合体である。
【0018】
上記合成された樹脂は、特に限定されず種々の化合物を用いることができるが、熱可塑性樹脂であることが好ましく、ポリオレフィンであることがより好ましい。上記ポリオレフィンの例には、炭素数2〜6のα−オレフィンの単独重合体および共重合体が含まれる。上記共重合体は、2種類以上の炭素数2〜6のα−オレフィンの共重合体でもよいし、炭素数2〜6のα−オレフィンと他の重合性化合物との共重合体でもよい。上記他の重合性化合物の例には、炭素数2〜6のα−オレフィン以外のオレフィン、アクリル酸およびメタクリル酸などを含む不飽和カルボン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ならびに酢酸ビニルなどが含まれる。上記共重合体は、上述した単独重合体または共重合体に、不飽和カルボン酸モノマーを過酸化物でグラフト反応させて得られる、グラフト共重合体であってもよい。上記単独重合体または共重合体は、結晶性であることが好ましい。
【0019】
上記炭素数2〜6のα−オレフィンの好ましい例には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテンおよび4−メチル−1−ブテンが含まれる。これらの炭素数2〜6のα−オレフィンを含む材料から製造される結晶性の単独重合体または共重合体の例には、線状低密度ポリエチレンやエラストマー(エチレン−α−オレフィン共重合体)などを含む低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸共重合体、マレイン酸やアクリル酸による酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ3−メチルブテン、およびポリ4−メチルブテン、ならびにこれらの混合物が含まれる。
【0020】
上記合成された樹脂は、分子量分布(Mw/Mn)(TSKgelカラムを用いたGPC法によるポリスチレン換算の分子量を用いて算出した値)が1.5以上3.5以上であることが好ましい。また、上記合成された樹脂は、メルトフローレート(MFR:ASTMD1238による190℃、2.16kg加重で測定される値)が0.1g/10min以上200g/10min以下であることが好ましく、5.0g/10min以上150g/10min以下であることがより好ましい。さらに上限は110g/10min以下が好ましく、100g/10min以下であることが特に好ましい。
【0021】
上記合成された樹脂は、ポリエチレンからなることが好ましく、特には上記メルトフローレートが5.0g/10min以上150g/10min以下であるポリエチレンからなることが好ましい。
【0022】
上記合成された樹脂の製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造したものを用いることができる。
【0023】
なお、合成パルプは、CNFの分布むらを極端に生じやすくしない限りにおいて、ミクロフィブリル繊維以外の種々の化合物(以下、単に「他の化合物」ともいう。)を含有していても良い。たとえば、合成パルプは、上記他の化合物として、抗菌剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、各種安定剤、酸化防止剤、分散剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、および充填剤などとして公知の化合物を含有することができる。合成パルプは、複数種のこれらの化合物を含有していても良く、その含有量はこれらの化合物を含有させる目的に応じて適宜選択できる。
【0024】
ミクロフィブリル繊維は、1本の繊維の端部間の距離のうち、最長となるように設定された端部間の距離の平均値(以下、「平均繊維長」という。)が、0.05mm以上50mm以下であればよく、0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1.15mm以下であることがより好ましい。平均繊維長がこの範囲にあれば、合成パルプとしたときに、適度な嵩高性を有し圧力を印加されたときに十分な復元力を有するため好ましい。
【0025】
平均繊維長は以下の手順で求めることができる。
【0026】
合成パルプを構成するミクロフィブリル繊維を、上記最長となる長さを用いて長さ0.05mmごとに分級する。その後、それぞれの級(長さ)に含まれるミクロフィブリル繊維の実測繊維長と、それぞれの級に含まれるミクロフィブリル繊維の本数を測定する。測定は、12000〜13000本の繊維について行えばよい。その後、上記測定結果から、以下の式により、それぞれの級の数平均繊維長Ln(mm)を求める。
【0027】
Ln=ΣL/N
L:1つの級に含まれるミクロフィブリル繊維の実測繊維長(mm)
N:1つの級に含まれるミクロフィブリル繊維の本数
【0028】
その後、以下の式により、合成パルプを構成するミクロフィブリル繊維の平均繊維長(mm)を求める。
【0029】
平均繊維長=Σ(Nn×Ln
3)/Σ(Nn×Ln
2)
Nn:それぞれの級に含まれるミクロフィブリル繊維の本数
【0030】
なお、上記実測繊維長は、たとえば、濃度0.02質量%になるように合成パルプを水に分散し、フィンランド国、メッツォオートメーション社製自動繊維測定機(製品名:FiberLab−3.5)で合成パルプを構成する繊維の一本一本の繊維の長さを測定して求めることができる。当該測定機では、キャピラリー中を流れる際の繊維にキセノンランプ光を照射してCCD(電荷結合素子)センサーで映像信号を採取し、画像解析する。
【0031】
ミクロフィブリル繊維は、直径(以下、単に「繊維径」ともいう。)の最小値が0.5μm以上であることが好ましく、繊維径の最大値が50μm以下であることが好ましい。平均繊維径は、15μm以上であることがより好ましく、35μm以下であることがより好ましい。繊維径がこの範囲にあれば、当該繊維を集合体としたときに適度な嵩高性を有し圧力を印加されたときに十分な復元力を有するため好ましい。
【0032】
繊維径は、1本、1本の繊維を、光学顕微鏡および電子顕微鏡などの顕微鏡で観察して測定できる。
【0033】
具体的には、繊維径の最大値および最小値は、次のようにして測定できる。
【0034】
キーエンス社製デジタルHFマイクロスコープVH8000にて倍率100倍で合成パルプを観察し、線維径が10μm以上であるように観察されるミクロフィブリル繊維を無作為に100本選択する。選択されたミクロフィブリル繊維の繊維径を測定し、測定値のうち最大の値を「繊維径の最大値」とする。
【0035】
日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM6480にて倍率3000倍で合成パルプを観察し、線維径が10μm未満であるように観察されるミクロフィブリル繊維を無作為に100本選択する。選択されたミクロフィブリル繊維の繊維径を測定し、測定値のうち最小の値を「繊維径の最小値」とする。
【0036】
また、平均繊維径は、バルメットオートメーション製Valmet FS5などの繊維画像分析計を用いて測定することができる。
【0037】
ミクロフィブリル繊維は、たとえば
図1に示すように、1本の繊維が多数に枝分かれた分岐構造を有する。分岐構造は光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察して確認できる。なお、
図1は、合成パルプを、日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM6480にて500倍で観察した写真である。
【0038】
分岐構造を有するミクロフィブリル繊維は、多数集合して合成パルプを形成したときに、特定方向に整列せず、分岐した繊維同士が互いに絡み合ったり、分岐部分が交差したりしやすい。上記絡み合いや交差により、合成パルプには多数の空孔が形成される。また、上記絡み合いや交差により、上記空孔は、圧力をかけても潰れ難くなる。これにより、合成パルプは、空孔部分に入り込んだ水分をそのまま保持することが可能であり、たとえばシート状の繊維集合体としたときに、吸水性が高い合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体とすることができる。
【0039】
吸水性がより高い合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体とする観点からは、合成パルプは、JISP 8121−2に準じて測定されるカナディアンフリーネス(以下、「CSF」と略する場合がある)が300ml以上740ml以下であり、340ml以上700ml以下であることが好ましい。
【0040】
CSFは以下の手順で求めることができる。
【0041】
絶乾重量24gの合成パルプを量り取り、2000mlの水を加えて濃度1.2%程度とし、JISP8220−1に規定する離解機にかけて30000回転(10分間)まで離解させる。完全に離解したミクロフィブリル繊維を0.3%濃度程度に希釈し、水温を20.0±0.5℃とする。離解したパルプスラリーを1000ml量り取り、カナダ標準ろ水度試験器を用いて、側管から出た排水量を読み取る。
【0042】
(合成パルプの製造方法)
合成パルプは、種々の方法により製造し得るが、通常はフラッシュ法で製造することが可能である。フラッシュ法とは、樹脂が溶媒に溶解している高圧の樹脂溶液を減圧下に噴出することで上記溶媒を揮散させて上記樹脂からなる繊維を形成し、さらに必要に応じてワーリングブレンダーまたはディスクリファイナーなどで上記形成された繊維を切断および叩解する方法である。フラッシュ法は、不織布にしたときに強度が高い合成パルプを得られるため好ましい。特に、特開昭48−44523号公報に記載されているような、ポリオレフィン溶液を懸濁剤の存在下、水媒体に分散させたものをフラッシュさせる方法は、乱雑に分岐した形状を有する繊維状の樹脂を有する合成パルプが得られ、このような合成パルプはより強度が高い不織布を得られため、好ましい。
【0043】
フラッシュ法は、合成パルプを構成するミクロフィブリル樹脂の材料となる熱可塑性樹脂を溶解し、懸濁液および水を添加してエマルジョンとする工程と、上記エマルジョンを減圧下に噴出(フラッシュ)すると同時に溶剤を気化させる工程と、を含む。
【0044】
フラッシュ法の第1工程では、前記熱可塑性樹脂を、当該熱可塑性樹脂を溶解可能な溶剤に溶解し、懸濁剤および水を加えてエマルジョンとする。
【0045】
上記溶剤の例には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンなどを含む飽和炭化水素系溶剤、ベンゼンおよびトルエンなどを含む芳香族系溶剤、塩化メチレン、クロロホルムおよび四塩化炭素などを含むハロゲン化炭素類などが含まれる。これらの溶剤から、製造しようとする合成パルプを構成するミクロフィブリル樹脂の材料となる熱可塑性樹脂を溶解せしめ、かつ、フラッシュ時に揮発し得られた繊維の集合体に残存しにくいものを適宜選択すればよい。
【0046】
上記懸濁剤の例には、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸塩、ゼラチン、トラガカントゴム、デンプン、メチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースなどを含む親水性樹脂が含まれる。また、上記親水性樹脂と、一般的なノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤とを併用することもできる。懸濁剤は、上記熱可塑性樹脂、溶剤および水を均一に混合させるため、エマルションを安定化させ、かつ、フラッシュ後の繊維の切断および叩解を水中でも安定して行うことを可能とする。
【0047】
上記懸濁剤の添加量は、繊維中、懸濁剤が0.1質量%以上5質量%以下となる量とするのが好ましい。上記懸濁剤の量は、製造過程において、添加した懸濁剤の一部が抜けるような操作をする場合は多めに添加するなど、適宜調整することが好ましい。添加量の目安としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下とすることができる。
【0048】
フラッシュ法の第2工程では、上記第1工程で得られたエマルジョンを、温度が100℃以上200℃以下、好ましくは130℃以上150℃以下となるように加熱し、かつ、圧力が0.1MPa以上5.0MPa以下、好ましくは圧力0.5MPa以上1.5MPa以下の加圧状態にする。その後、上記加熱および加圧したエマルジョンを、ノズルより減圧された空間へ噴出(フラッシュ)すると同時に溶剤を気化させ揮散させる。上記減圧された空間は、圧力が1kPa以上95kPa以下であることが好ましい。また、上記減圧された空間は、窒素雰囲気などの不活性雰囲気であることが好ましい。なお、本発明において、「圧力」とは絶対圧力のことを示す。
【0049】
上記工程により、上記熱可塑性樹脂を材料とした、分岐構造を有する不定長のミクロフィブリル繊維が得られる。このようにして得られたミクロフィブリル繊維は、さらにワーリング・ブレンダーまたはディスクリファイナーなどで、平均繊維長が上述した範囲の長さになるように切断および叩解することが好ましい。このとき、上記ミクロフィブリル繊維を水に溶解または分散させて、濃度が0.5g/L以上5.0g/L以下の水スラリーにして、上記切断および叩解を行うことが好ましい。
【0050】
このとき、たとえば、ディスクリファイナーの刃の種類、回転数、またはスクリーンの径などを所定の条件に沿って選択することで、ミクロフィブリル樹脂の線維径およびカナディアンフリーネスなどを所望の程度に調整することができる。
【0051】
上記ミクロフィブリル樹脂には、親水性を増大させるために、ノニオン性界面活性剤またはポリプロピレングリコールによる表面処理を行ってもよい。親水化処理されたミクロフィブリル樹脂の例には、特開昭63−235575号公報および特開昭63−66380号公報などに示された合成パルプに用いられるミクロフィブリル樹脂が含まれる。
【0052】
このようにして得られたミクロフィブリル樹脂を、乾燥後、ミキサーなどによって開綿して、合成パルプとすることができる。
【0053】
以上説明した方法によれば、分岐構造を有するミクロフィブリル樹脂、および上記ミクロフィブリル繊維が集合してなる合成パルプ、を好ましく製造することができる。なお、合成パルプが前述した他の化合物を含有するときは、上記エマルジョンに上記他の化合物を添加することが好ましい。このようにすることで、上記他の化合物が合成パルプ中に十分に分散し、上記他の化合物による効果を長期間保持することが可能となる。
【0054】
(セルロースナノファイバー(CNF))
セルロースナノファイバーは、パルプ繊維を微細化(解繊)処理して得ることができる。原材料として用いるパルプ繊維としては、例えば、
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
セルロースナノファイバーの原料となるパルプ繊維に特に限定はない。たとえば、本発明の複合体を合成紙の材料として用いる場合には、合成紙となった時の色目など仕上がりや、強度の観点から、化学パルプもしくは機械パルプが好ましい。本発明の複合体を塗料などの添加剤として用いる場合には、塗料の乾燥が容易となる観点から、化学パルプもしくは機械パルプが好ましい。
【0056】
パルプ繊維は、本発明の効果を損なわない限り、その他の製紙用薬剤を任意に含有していてもよい。
【0057】
その他の製紙用薬剤としては、例えば顔料、染料、填料、サイズ剤、耐摩耗性向上剤、耐水化剤、界面活性剤、ワックス、防錆剤、導電剤、紙粉脱落防止剤等が挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
機械的処理による解繊方法としては、例えばパルプ繊維を回転する砥石間で磨砕するグラインダー法、ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル等を用いる粉砕法などが挙げられる。
【0059】
機械的処理による解繊方法としては、これらの中でセルロースナノファイバーをより容易かつ確実に得ることができる観点から、パルプ繊維を回転する砥石間で磨砕するグラインダー法が好ましい。
【0060】
回転する砥石間で磨砕するグラインダー法としては、例えば石臼式磨砕機を使用する磨砕処理法を用いることができる。具体的には、石臼式磨砕機の擦り合わせ部にパルプ繊維を通過させることで、パルプ繊維が通過の際の衝撃、遠心力、剪断力等により次第に磨り潰され、化学的に変質することなく、均一なセルロースナノファイバーが得られる。
【0061】
また、パルプ繊維は解繊の前に予備叩解に付してもよい。
【0062】
具体的には、段階的に解繊を進めることが好ましく、特に未叩解の原料パルプをナイヤガラビーター等のいわゆる粘状叩解設備にて予めカナディアンフリーネスを出発原料の30%以下となるまで予備叩解処理した後、回転する砥石間で磨砕するグラインダー法によって、セルロースナノファイバーが得られるまで解繊処理することが、ナノセルロース化処理において効率的であり、ガスバリア性を付与できるセルロースナノファイバーが得られるため好ましい。
【0063】
セルロースナノファイバーの保水度としては、400%以上が好ましく、430%以上がより好ましい。セルロースナノファイバーの保水度が上記下限未満であると、セルロースナノファイバーの水への分散性が不十分となるおそれがある。他方、セルロースナノファイバーの保水度としては、800%以下が好ましく、500%以下がより好ましい。セルロースナノファイバーの保水度が上記上限を超えると、自然乾燥工程で長時間を要するおそれがある。なお、セルロースナノファイバーの保水度(%)はJAPAN TAPPI No.26に準拠して測定される。
【0064】
2.合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体の製造方法
合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体は、上述したミクロフィブリル樹脂または上述したミクロフィブリル樹脂から製造した合成パルプと、CNFと、を混合して製造することができる。上記混合の方法は特に限定されず、たとえば、合成パルプをシート状に成形した後、溶液状のCNFを散布する方法、フラッフ化した合成パルプとCNFとをミキサーなどで混合する方法、フラッフ化した合成パルプとCNFとを解砕しながら同時に容器中を降下させて積層する方法、ミクロフィブリル樹脂または合成パルプとCNFとをミキサーなどで混合してCNFを捕捉した合成パルプを製造する方法などを用いることができる。合成パルプとCNFとをミキサーなどで混合する方法、またはフラッフ化した合成パルプとCNFとを解砕しながら同時に容器中を降下させて積層する方法が好ましい。
【0065】
これらのうち、ミクロフィブリル樹脂または合成パルプとCNFとをミキサーなどで混合する方法が好ましい。特に合成パルプやCNFの化学処理や機械処理といった複雑な製造工程を行うことなく、CNFの凝集や分布むらを抑制した複合体が製造できることから、下羽根および上羽根の上下二段に設置された撹拌羽根を撹拌容器内に有するミキサーで、下羽根による回転力によって上記ミクロフィブリル樹脂または合成パルプおよびCNFを流動させ、同時に上羽根による剪断力によって両者を撹拌および混合する方法が好ましい。本発明者らの知見によれば、上記上下二段に設置された撹拌羽根を有するミキサーで混合することで、合成パルプがCNFを十分に捕捉し、かつ、CNFをより均一に分散させた複合体を製造することができる。工程としては、乾燥前のウェットな合成パルプと水溶液状態のCNFとを上記方法で混合し複合した後、乾燥する工程により製造することができる。またあらかじめ乾燥してフラッフ化した合成パルプに水溶液状態のCNFを加えて、混合複合化した後、再度乾燥することもできる。
【0066】
このときの下羽根の周速度は、30m/s以上100m/s以下であることが好ましく、40m/s以上80m/s以下であることがより好ましく、50m/s以上70m/s以下であることがさらに好ましい。一方で上羽根の回転速度は、下羽根と同軸で、同周速度で構わない。二軸等で下羽根と周速度を変えられるときは、下羽根の周速度の範囲で周速度を変えることもできる。また、混合時間は3分以上30分以下であることが好ましく、5分以上20分以下であることがより好ましく、10分以上15分以下であることがさらに好ましい。
【0067】
上記上下二段に設置された撹拌羽根を有するミキサーの例には、ヘンシェル型ミキサーが含まれる。特に、日本コークス工業製のFMミキサー、CPミキサー、サイクロミックス(R)CLX高速せん断型混合機などが好ましい。これらの中でも、剪断および混合をより十分に行い得る、日本コークス工業社製FMミキサーが好ましい。
【0068】
3.複合体の用途
本発明の合成パルプとCNFとの複合体は、従来の合成パルプの代替として、公知の種々の用途に使用することができる。本発明の合成パルプとCNFとの複合体は、種々の形状に成形することができ、例えば、不織布状に成形することができる。本発明の複合体を不織布とすることにより、ティーバッグ紙、コーヒーバッグ紙、だしパック紙、エアフィルタ、マスク、浄水用フィルタ、ワインフィルタ、ビールフィルタ、ジュースフィルタ等などのフィルタ類;食品包装紙、脱酸素材包装紙、医療用包装紙、防虫包装紙等の包装材;合成紙、壁紙、透湿防水シート、耐熱ボード、ふすま紙、障子紙、グリーティングカード、パンフレット、名刺、ブックカバー、封筒、ランプシェード、ラベル用紙、印刷用紙、ポスター用紙等のカード・シート・ラベル類;セメント粒子捕捉材、チクソ性付与材等の住宅用資材;使い捨てのオムツ・ナプキン・シーツのトップシートや吸収体バインダー繊維、使い捨てのおしぼり・ワイパー・ティッシュのバインダー繊維、脂取り紙、滅菌紙等の衛生材料;加湿器用水蒸気揮散材、芳香剤芯材等の揮散材;および食品トレー・文具用品・大型部品緩衝材・自動車ドアパネルのバインダー用繊維等の多岐に渡って好適に使用することが出来る。
【0069】
なお、上記用途において不織布は、本発明の合成パルプとCNFとの複合体のみから構成してもよいし、本発明の複合体に他の繊維が混繊していてもよい。
【0070】
(合成紙用の材料)
本発明の合成パルプとCNFとの複合体は、従来の合成パルプの代替として、合成紙用の材料とすることもできる。このような合成紙としては、本発明の複合体をパルプ代わりの原料とし、必要であればバインダーなどを加えて通常の抄紙機で製紙される「合成パルプ紙」が挙げられる。合成紙の材料となる複合体に特に限定はないが、複合体に含まれる合成パルプの原料樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、たとえば、エチレン系、プロピレン系、メチルペンテン系重合体からなる樹脂や、それらに、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン等との共重合体からなる樹脂を用いることができる。また、これらの樹脂はそれぞれ単独でも混合しても用いることができる。
【0071】
(塗料またはインク用の材料)
本発明の合成パルプとCNFとの複合体は、塗料またはインク用の材料に含まれてもよい。従来の合成パルプと同様に、本発明の複合体も、塗料またはインク用の添加剤、特に増粘剤として使用することができる。塗料やインクの種類に特に制限はないが、本発明の複合体の親和性と分散性の観点から、水系での使用が好ましい。
【0072】
本発明の複合体を塗料やインクに添加する場合には、塗料またはインクの質量に対して0.1〜5.0質量%の範囲で添加することが好ましい。上記範囲内の添加量であれば、塗料またはインクのレオロジー特性を調整しつつ、塗料やインクの分散性を損なうこともない。
【0073】
本発明の複合体を含む塗料やインクは、当該複合体と共に、顔料を20〜40質量%含んでいる。顔料の量は、より好ましくは25〜35質量%である。顔料の種類に特に限定はなく、防錆塗料、白色顔料、体質顔料、着色顔料等を使用することができる。顔料の具体例としては、クロム酸亜鉛、亜鉛丹、リン酸亜鉛等の防錆塗料、酸化チタン、超微粒子酸化チタン、鉛白、塩基性硫酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、亜鉛華、硫化亜鉛、三酸化アンチモン、カルシウム複合物等の白色顔料、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、ケイソウ土、カオリン、タルク、有機ベントナイト、ホワイトカーボン等の体質顔料、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、ベンガラ、黄色酸化鉄、酸化チタン、鉄黒、黄土、シェナ、アンバー、緑土、マルスバイオレット、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミボンレッド、カドミボンイエロー、群青、紺青等の着色顔料が挙げられる。特に顔料が平均粒径100nm以下の超微粒子であると、塗膜や筆記部位に透明性を付与できるため、好ましい。
【0074】
塗料またはインクは、上記着色顔料の他にも、断熱・遮熱顔料(中空シリカゲル、セラミック)、潤滑性顔料(シリコン)、抗菌顔料(プラチナ、銀)、熱伝導顔料(ダイヤモンド)、脱臭顔料(脱臭ゼオライト)、高効率輻射(遠赤・放熱)顔料(アルミナ、マグネタ糸など)、耐磨耗顔料(セラミック)、高輝度顔料(アルミなど金属)等の機能性顔料を含んでいてもよい。機能性顔料と着色顔料の合計含有量が上記範囲内にあることが好ましい。
【0075】
当該塗料が水性塗料組成物である場合には、水系樹脂を含んでいる。使用する水系樹脂は、顔料を分散することができるものである限り、何ら制約はない。例えば、水溶性、ディスパージョン、エマルション、ミクロゲル、等の形態を有する樹脂が使用できる。
【0076】
さらに具体的に上記水系樹脂を例示すると、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ブロックイソシアネート、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、等が挙げられる。
【0077】
さらに、水性塗料組成物に使用する水系樹脂には、重合または架橋により樹脂を潜在的に形成しうる化合物、いわゆる、モノマーやオリゴマーも含まれる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1〜8)
平均繊維長が0.9mm、繊維径が30μm、MFRが7.0g/10minのミクロフィブリル繊維からなる、CSFが400mlの合成パルプである三井化学(株)製のSWP(登録商標)EST−2、または平均繊維長が0.1mm、繊維径が15μm、MFRが100g/10minのミクロフィブリル繊維からなる、CSFが300mlの合成パルプである三井化学(株)製のSWP ESS−5と、大王製紙(株)製のセルロースナノファイバー(CNF)であるB(針葉樹漂白化学パルプ)またはC(機械パルプ)とを、表1に示す組成となるように使用し、粉砕混合乾燥機で混合し、乾燥させて、合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体を製造した。なお、EST−2およびESS−5は、平均繊維径が1〜50μmの範囲にあり、分岐構造を有することが分っている。
【0080】
混合は日本コークス工業製FMミキサーFM20C/Iを用いて行い、必要に応じて攪拌翼を変更して行った。攪拌翼としては、A0/Z0を用いた。
【0081】
得られた複合体をそれぞれポリ袋に入れ、振盪して下部に分離した粒子を計量した。分離した粒子の質量を、複合体の製造に用いたCNFの質量で除算して、CNFの分離率とした。
【0082】
(比較例1および2)
合成パルプの代わりにポリエチレンのショートカットファイバーを用い、表2に示す組成となるようにCNFと組み合わせ、上記実施例と同様に、粉砕混合乾燥機(日本コークス工業製FMミキサーFM20C/I)により混合した。使用した解砕物は、ミクロフィブリル構造を有さず、また分岐構造も有さなかった。
【0083】
(比較例3および4)
合成パルプとしてEST−2またはESS−5、CNFとしてB(針葉樹漂白化学パルプ)を用い、表2に示す組成となるように混合した。合成パルプとCNFとの混合を、FMミキサーに替えてそれぞれブレンダーミキサー(比較例3)またはタンブラーミキサー(比較例4)を用いて行った。
【0084】
比較例1〜4のそれぞれで得られた複合体をポリ袋に入れ、振盪して下部に分離した粒子を計量した。分離した粒子の質量を、複合体の製造に用いたCNFの質量で除算して、CNFの分離率とした。
【0085】
合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体の製造に用いたミクロフィブリル樹脂およびCNFの種類、それぞれの量(質量部)、製造方法(混合機の種類、撹拌速度および混合時間)、ならびに上記振盪によって求められたCNFの分離率を、表1および表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
下羽根による回転力からなる流動に加え、上羽根による剪断力を発生させるFMミキサーを使用し、合成パルプとして多分岐構造を持ち、ミクロフィブリル構造を有する合成パルプであるEST−2またはESS−5を用いると、合成パルプとCNFとを効率よく均一に混合でき、繊維がCNFを捕捉できることが見いだされた(実施例1〜8)。
【0089】
また、CNFも、由来原料となるパルプの違いにかかわらず、同様に混合、複合化することができた。
【0090】
それに対し、分岐構造が少なく、フィブリルも少ないポリエチレンショートカットファイバーでは、効率よく均一にCNFと混合することが困難であった。また、CNFの保持性も悪く、多くのCNFが分離してしまい、さらにCNFそのものが大きな塊となって凝集してしまう結果となった(比較例1、2)。
【0091】
また、混合に一般的なミキサーを用いた場合、EST−2またはESS−5と、CNFとを均一に混合し、合成パルプにCNFを保持させる事はできなかった(比較例3、4)。
【0092】
図1は、実施例1に用いた、複合前の合成パルプを日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM6480にて500倍で撮像した電子顕微鏡写真である。
【0093】
図2は、実施例1の合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体を、上述したように振盪後に、日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM6480にて500倍で撮像した電子顕微鏡写真である。
図3は、
図2の倍率を5000倍に上げて撮像した電子顕微鏡写真である。
図1〜
図3より、本発明の複合体においては、合成パルプの表面をセルロースナノファイバーが万遍なく覆って複合体を形成しており、合成パルプがCNFを捕捉していることがわかる。
【0094】
(実施例9)
実施例1で得られた複合体を用い、角型抄紙機を用いて坪量20g/m
3の合成紙を手漉きにて作成した。この合成紙の引張強度は10N/15mmであり、紙としての強度は十分であった。また、水性ボールペンにより文字を書いて印刷適性を確認したところ、十分な適性があることが確認できた。
【0095】
(比較例5)
比較例3で得られた混合物を用い、角型抄紙機を用いて坪量20g/m
3の合成紙を手漉きにて作成した。この合成紙の引張強度は1.5N/15mmであり、紙としての十分な強度が得られなかった。また、紙の表面に凝集状態の異物(CNFの凝集物)が見られ、良好な地合とすることができなかった。さらに、水性ボールペンので文字を書いてもインクをはじいてしまい、印刷適性もなかった。
【0096】
(比較例6)
実施例1と同様の方法で、CNFを用いず合成パルプ(SWP EST−2)のみを粉砕乾燥し、複合化していない繊維を得た。得られた繊維を用いて、実施例9と同様に角型抄紙機で手漉きの紙を作成した。合成パルプ単独では水への分散性が悪く、均一な地合の紙を得ることができなかった。また、引張強度を測定したところ、1N/15mmであり、紙としての強度を十分持てないものであった。
【0097】
(実施例10および比較例7と8)
実施例5で得られた複合体を市販のアクリル系水性塗料に1%添加、混合し、レオメーターにて塗料のレオロジー特性を測定した。比較例7としては、複合化していない単独のSWP ESS−5を、比較例8としては比較例4で得られた混合物を、それぞれ乾燥粉砕して、上記と同様に水性塗料に添加、混合し、レオロジー特性を測定した。その結果を
図4に示す。
【0098】
図4から明らかなように、比較例7と8では十分な増粘効果が得られていないが、実施例10では系の粘度が上昇しており、複合体に増粘剤としての効果があることが確認できた。