【文献】
高橋久範,光ファイバセンサによる金型の最新測定技術,JSAE Symposium,2013年12月13日,8−13号,p.26−30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態は、プレス成形用金型、当該金型を備えるプレス成形装置、及び当該金型の寿命を判定する金型寿命判定装置を含むプレス成形システムに関する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る金型の構成例を示す斜視図である。
【0015】
金型10は、後述するプレス成形装置11に装着される。金型10は、一対の金型であるパンチ1とダイ2を含む。パンチ1は、角柱状に形成されており、そのプレス面(ダイ2側の面)の幅方向中央部分が凸状に形成されている。ダイ2は、角柱状に形成されており、そのプレス面(パンチ1側の面)の幅方向中央部分が凹状に形成されている。パンチ1とダイ2の間に金属板などの被プレス物を配置し、パンチ1とダイ2で挟んで押圧することで被プレス物を加工し、プレス成形物を作製することができる。
【0016】
パンチ1のプレス面の裏側には、パンチ1の幅方向に沿って溝部3が形成されている。溝部3のプレス面と反対側は開放しており、溝部3のパンチ1の幅方向の両側は開放している。また、ダイ2のプレス面の裏側には、ダイ2の幅方向に沿って溝部4が形成されている。溝部4のプレス面と反対側は開放しており、溝部4のダイ2の幅方向の両側は開放している。後に詳述するように、溝部3及び溝部4の底部には、それぞれ光ファイバセンサなどのひずみ分布測定手段が幅方向に沿って線状に設置される。溝部3及び溝部4は、ひずみ分布測定手段を収容する収容部と呼ぶことができる。
【0017】
図2は、本実施形態に係るプレス成形装置の概略構成及び金型の断面の一例を示す図(その1)である。
図3は、本実施形態に係るプレス成形装置の概略構成及び金型の断面の一例を示す図(その2)である。
図2及び
図3では、プレス成形装置の一部の構成(金型10が装着される部分)が示され、それ以外の構成は省略されている。
図2では、
図1に示す金型10を、その中心で溝部3及び溝部4の長手方向(金型10の幅方向)に直交する方向に切った垂直断面が示されている。
図3では、
図1に示す金型10を、その中心で溝部3及び溝部4の長手方向(金型10の幅方向)に平行に切った垂直断面が示されている。
【0018】
プレス成形装置11は、一対の金型(パンチ1及びダイ2)の少なくとも一方を上下移動させて被プレス物をプレス成形するプレス機である。プレス成形装置11は、上側基部12及び下側基部13の少なくとも一方を上下移動させることができるスライド機構(図示せず)を備える。
図2及び
図3の例では、上側基部12には、パンチ1が固定されており、下側基部13には、ダイ2が固定されている。パンチ1とダイ2は、スライド機構によって相対的に上下移動するように制御される。もちろん、上側基部12にダイ2を固定し、下側基部13にパンチ1を固定してもよい。
【0019】
図3に示すように、パンチ1の溝部3の底部31は、プレス面の輪郭形状に沿って形成されている。パンチ1の溝部3の底部31には、その長手方向にその形状に沿って線状にひずみ分布測定手段5が設置されている。また、ダイ2の溝部4の底部41は、プレス面の輪郭形状に沿うように形成されている。ダイ2の溝部4の底部41には、その長手方向にその形状に沿って線状にひずみ分布測定手段6が設置されている。ひずみ分布測定手段5及びひずみ分布測定手段6は、例えば接着剤を用いて、溝部3及び溝部4の底部31及び底部41に固定される。
【0020】
ひずみ分布測定手段5及びひずみ分布測定手段6には、例えば、光ファイバセンサ、ひずみゲージ、又はひずみインピーダンスセンサを採用することができる。ひずみゲージ及びひずみインピーダンスセンサは、1点のひずみを測定するための素子であるため、線状の複数の位置で測定する場合、複数個の素子を底部に沿って線状に設置する必要がある。そのため、配列できる個数は、素子の大きさに依存してしまい、言い換えれば、線状のひずみ分布の分解能は、素子の大きさに依存してしまう。一方、光ファイバセンサは、光ファイバを底部に沿って設置することができるため、光ファイバが延伸する方向の任意の複数の位置でひずみを測定することができる。つまり、光ファイバセンサは、線状の複数の位置でひずみを測定する際の分解能において、ひずみゲージ及びひずみインピーダンスセンサよりも優れている。従って、本実施形態では、光ファイバセンサを採用するのが好ましい。
【0021】
図4は、本実施形態に係るプレス成形装置の概略構成及び金型の断面の他の例を示す図である。
【0022】
ひずみ分布測定手段を収容する収容部の構造は、
図2及び
図3に示す溝部に限られず、例えば貫通孔であってもよい。
図4に示すように、パンチ1のプレス面の裏側には、パンチ1の幅方向に沿って貫通孔3aが形成されている。貫通孔3aのパンチ1の幅方向の両側は開放している。また、ダイ2のプレス面の裏側には、ダイ2の幅方向に沿って貫通孔4aが形成されている。貫通孔4aのダイ2の幅方向の両側は開放している。貫通孔3a及び貫通孔4aの底部には、それぞれひずみ分布測定手段5及びひずみ分布測定手段6が幅方向に沿って線状に設置される。貫通孔3a及び貫通孔4aの底部の形状は、溝部3及び溝部4の底部の形状と同様である。
【0023】
収容部が
図2及び
図3に示すように溝部で形成されている場合、その底部の反対方向は開放しているため、ひずみ分布測定手段を溝部に挿入する際の作業性を向上することができる。収容部が
図4に示すように貫通孔で形成される場合、溝部で形成される場合と比べ、金型10の空洞部の容積が小さいため、金型10の強度を向上することができる。
【0024】
なお、上述した収容部(溝あるいは貫通孔)は、パンチ1及びダイ2のいずれか一方のみに形成されてもよい。
【0025】
図5は、本実施形態に係る収容部の底部形状の例を示す断面図である。
図5(A)は、収容部の底部形状の一例を示し、
図5(B)は、収容部の底部形状の他の例を示す。
【0026】
図5(A)では、底部は、円弧状の曲面部21により形成されている。
図5(B)では、底部は、直線状の平面部22と、その両側の円弧状の曲面部23とにより形成されている。収容部の左右の壁の間の距離dは、光ファイバセンサ(図中の円状の破線)の幅よりも長く設定される。平面部22の幅は、光ファイバセンサの幅よりも長く設定されるのが好ましい。なお、収容部が溝部である場合、例えば、溝の幅は、1mmから15mmであり、溝の深さは、溝の深さ/溝の幅<15の比率となるように設定される。
【0027】
図5(A)及び
図5(B)の収容部では、光ファイバセンサを収容部の左右の壁に接触させずに底部に設置することできる。これにより、プレス面側のひずみを精度よく検出することができる。また、
図5(B)の収容部では、底部の中央部を平面に形成することで、光ファイバセンサの接触面積を小さくするとともに、
図5(A)と比べて力が加わる方向を限定することができる。これにより、プレス面側のひずみをさらに精度よく検出することができる。もちろん、
図5(B)と比べて力が加わる方向を増やしたい場合は、
図5(A)のような底部形状を用いるメリットがある。
【0028】
上述したように、金型10のプレス面の形状に沿って線状のひずみ分布測定手段を設けることで、線状のひずみ分布データを得ることができる。また、得られた線状のひずみ分布データから、プレス面の形状の変化(すなわち、プレス面の摩耗状態)を高精度に推定することができる。以下では、この線状のひずみ分布データを用いた金型10の寿命の判定について説明する。
【0029】
図6は、本実施形態に係る金型寿命判定装置の機能構成例を示す図である。以下では、ひずみ分布測定手段5を用いてパンチ1の金型寿命を判定する場合を説明するが、もちろん、ひずみ分布測定手段6を用いてダイ2の金型寿命を判定してもよい。
【0030】
金型寿命判定装置100は、ひずみ分布測定手段5に変換装置50を介して接続される。変換装置50は、ひずみ分布測定手段5に接続され、ひずみ分布測定手段5から出力されるデータに対して所定の変換処理を施して、コンピュータで解釈可能なデータに変換し、金型寿命判定装置100に出力する。
【0031】
金型寿命判定装置100は、制御部110と、記憶部120とを備える。制御部110は、金型寿命判定装置100を統合的に制御する。記憶部120は、制御部110の処理に使用される情報を格納する。制御部110は、閾値設定部111と、取得部112と、判定部113と、出力部114とを含む。
【0032】
閾値設定部111は、金型寿命の判定に使用される、ひずみ分布上の変化量の閾値を設定する。閾値設定部111の処理は、FEM(Finite Element Method)成形解析技術を利用して実現することができる。具体的には、閾値設定部111は、プレス面の摩耗量が異なる複数のパンチ1及びダイ2の金型モデルを生成する。パンチ1の金型モデルには、
図1と同様に溝部3が形成されている。パンチ1の金型モデルの溝部3の底部には、線状のひずみ分布を測定するための複数の測定位置が設定される。また、閾値設定部111は、摩耗量の異なる各金型モデルを使ったプレス工程をシミュレーションして、プレスした際の線状の各測定位置でのひずみ量データを取得する。また、閾値設定部111は、異なる2つの摩耗量の金型モデルでのひずみ分布上の変化量を算出し、変化量の閾値として設定する。閾値設定部111の処理については、
図8に示すフローチャートを用いて後に詳述する。
【0033】
なお、閾値設定部111の処理の実行の際は、金型寿命判定装置100は変換装置50と接続されている必要はない。
【0034】
取得部112は、実際の複数回のプレス工程において、プレスした際にパンチ1のひずみ分布測定手段5から出力されるデータを、後述する通信装置104を介して変換装置50から取得する。また、取得部112は、取得したデータに基づいて、線状の各測定位置でのひずみ量データ(すなわち、ひずみ分布データ)を取得する。取得部112の処理については、
図13に示すフローチャートを用いて後に詳述する。
【0035】
判定部113は、取得部112により取得されたひずみ分布データを用いて、異なる2つのプレス工程でのパンチ1のひずみ分布データを比較し、ひずみ分布上の変化量を算出する。また、判定部113は、算出した変化量が上述した変化量の閾値を超えるか否かを判定することにより、パンチ1についてプレス面の摩耗による寿命を過ぎたか否かを判定する。判定部113の処理については、
図13に示すフローチャートを用いて後に詳述する。
【0036】
出力部114は、判定部113によりパンチ1が寿命を過ぎたと判定された場合に、パンチ1の寿命に関する情報(例えば、パンチ1の寿命が過ぎたことを示すメッセージ)を、後述する出力装置106に出力させる。出力部114の処理については、
図13に示すフローチャートを用いて後に詳述する。
【0037】
図7は、本実施形態に係る金型寿命判定装置のハードウェア構成例を示す図である。
【0038】
金型寿命判定装置100は、例えば
図7に示すようなコンピュータ機器で実現することができる。コンピュータ機器は、例えば、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレットコンピュータ等の様々な態様のものを含む。金型寿命判定装置100は、複数のコンピュータ機器により実現されてもよい。
【0039】
金型寿命判定装置100は、例えば、演算装置101と、主記憶装置102と、外部記憶装置103と、通信装置104と、入力装置105と、出力装置106と、読み書き装置107とを含む。
【0040】
演算装置101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの演算処理装置である。主記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの記憶装置である。外部記憶装置103は、例えば、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)、あるいはフラッシュROM(Read Only Memory)などの記憶装置である。通信装置104は、ケーブルを介して有線通信を行う通信装置、アンテナを介して無線通信を行う通信装置を含む、情報を送受信する装置である。入力装置105は、キーボードやマウスなどのポインティングデバイス、タッチパネル、マイクロフォンなどを含む、入力情報を受け付ける装置である。出力装置106は、ディスプレイ、プリンター、スピーカーなどを含む、出力情報を出力する装置である。読み書き装置107は、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリー等の記録媒体に情報を読み書きする装置である。主記憶装置102及び外部記憶装置103の少なくとも一部は、例えば、通信装置104を介して接続されるネットワーク上のストレージにより実現されてもよい。
【0041】
図6で説明した制御部110は、例えば、演算装置101が所定のアプリケーションプログラムを実行することによって実現することができる。このアプリケーションプログラムは、例えば、外部記憶装置103内に記憶され、実行にあたって主記憶装置102上にロードされ、演算装置101によって実行される。記憶部120は、例えば主記憶装置102及び外部記憶装置103の少なくとも一方によって実現することができる。
【0042】
図8は、本実施形態に係る閾値設定処理の一例を示すフローチャートである。iは、金型10のプレス面の摩耗量を示す変数であり、初期値として0に設定される。i=0は、プレス面の摩耗がない初期状態である。
【0043】
まず、閾値設定部111は、FEM成形解析により、摩耗量iの金型を作成及び解析する(ステップS10)。具体的には、閾値設定部111は、摩耗量iのパンチ1及びダイ2の金型モデルを作成する。パンチ1の金型モデルには、
図1と同様に溝部3が形成されている。閾値設定部111は、実際のひずみ分布測定手段5と同様の線状の複数の測定位置を模擬して、パンチ1の金型モデルの溝部3の底部に線状のひずみ分布を測定するための複数の測定位置を設定する。
【0044】
また、閾値設定部111は、作成した金型モデルを使ったプレス工程をシミュレーションする。プレス工程のシミュレーションでは、例えば、金属板等の被プレス物をパンチ1及びダイ2でプレスして所望のプレス成形物を得る工程が仮想的に再現される。このシミュレーションにおいて、閾値設定部111は、プレス工程の間、線状の各測定位置でのひずみ量データを時系列に取得することができる。
【0045】
図9は、本実施形態に係る1回のプレス工程における時系列のひずみ分布の例を示す図である。
図9では、縦軸はひずみ量を示し、横軸は金型中心からの距離を示し、奥行方向軸はプレス時間を示す。金型中心からの距離とは、
図3に示すように、パンチ1の中央(図中の1点鎖線)からの、ひずみ分布測定手段5の各測定位置までの距離である。
図9では、パンチ1の中央から右側あるいは左側のデータを示している。プレス時間は、1回のプレス工程に要する時間である。
図9では、プレス時間中の5時点のひずみ分布データを示している。
【0046】
閾値設定部111は、
図9に示すように、プレス時間中の複数の時点で、各測定位置のひずみ量データを取得することができる。
【0047】
図8の説明に戻る。次に、閾値設定部111は、プレス工程の所定時点のひずみ分布を取得する(ステップS20)。具体的には、閾値設定部111は、プレス時間中の複数の時点のひずみ分布データから、所定時点のひずみ分布データを取得する。なお、所定時点は、異なる摩耗量の金型モデルの間で、共通の時点が使用される。
【0048】
次に、閾値設定部111は、摩耗量iが0であるか否かを判定する(ステップS30)。摩耗量iが0であると判定した場合(ステップS30:Yes)、閾値設定部111は、ステップS20で取得した所定時点のひずみ分布データを、初期状態のひずみ分布として定義し、記憶部120に格納する(ステップS40)。それから、閾値設定部111は、摩耗量iを所定量aだけ増加させ(ステップS50)、処理をステップS10に戻す。
【0049】
摩耗量iが0でないと判定した場合(ステップS30:No)、閾値設定部111は、ステップS40で定義した初期状態(i=0)のひずみ分布と、ステップS20で取得した摩耗量i(i>0)のひずみ分布との変化量を算出する(ステップS60)。具体的には、閾値設定部111は、初期状態(i=0)のひずみ分布データ上で所定条件を満たす位置(金型中心からの距離)を特定する。また、閾値設定部111は、摩耗量i(i>0)のひずみ分布データ上で所定条件を満たす位置(金型中心からの距離)を特定する。そして、閾値設定部111は、これらの特定した2つの位置間の距離を、変化量として算出する。
【0050】
図10は、本実施形態に係るひずみ分布の変化量を説明する図である。
図10では、縦軸はひずみ量を示し、横軸は金型中心からの距離を示す。
図10では、初期状態(i=0)のひずみ分布(破線)と、摩耗量i(i>0)のひずみ分布(実線)が示されている。
【0051】
図10の例では、閾値設定部111は、初期状態(i=0)のひずみ分布データ上で、正のひずみ量が最大となるピーク(特徴点と呼んでもよい)を特定し、その位置を特定する。また、閾値設定部111は、摩耗量i(i>0)のひずみ分布データ上で、正のひずみ量が最大となるピークを特定し、その位置を特定する。そして、閾値設定部111は、これらの特定した2つの位置間の距離を、変化量として算出する。このピーク位置の変化は、プレス面の摩耗が進んだことを表していると言える。
【0052】
図8の説明に戻る。閾値設定部111は、ステップS60で算出した各摩耗量のときの変化量を、記憶部120に格納してもよい。
【0053】
図11は、本実施形態に係る金型摩耗量に応じたひずみ分布の変化量に関するデータの構成例を示す図である。記憶部120には、摩耗量ごとに、金型摩耗量121と、ひずみ分布データ122と、ひずみ分布の所定条件を満たす位置(例えばピーク位置)の変化量123とを関連付けたレコードが格納される。閾値設定部111は、摩耗量ごとに、レコードを生成して記憶部120に格納する。初期状態のひずみ分布の変化量123には、値が設定されない。
【0054】
図8の説明に戻る。次に、閾値設定部111は、摩耗量iが摩耗量の閾値と等しいか否かを判定する(ステップS70)。摩耗量の閾値には、例えば、プレス成形の所望の精度を維持できる、金型10のプレス面の最大の摩耗量を統計的に決定し、この値を予め設定することができる。摩耗量iが摩耗量の閾値と等しくないと判定した場合(ステップS70:No)、閾値設定部111は、摩耗量iを所定量aだけ増加させ(ステップS80)、処理をステップS10に戻す。
【0055】
摩耗量iが摩耗量の閾値と等しいと判定した場合(ステップS70:Yes)、閾値設定部111は、摩耗量の閾値に相当するひずみ分布の変化量の閾値を取得する(ステップS90)。具体的には、閾値設定部111は、ステップS60で最後に算出した変化量を、変化量の閾値として取得し、記憶部120に格納する。
図11のテーブルでは、最も下のレコードの変化量123が、変化量の閾値に相当する。
【0056】
図12は、本実施形態に係る摩耗量と変化量と金型寿命の関係を説明する図である。
図12では、縦軸は摩耗量を示し、横軸はひずみ分布のピーク位置の変化量を示す。
図11の各摩耗量における変化量123をプロットすると、
図12に示すような線グラフを作成することができる。この線グラフと摩耗量の閾値との交点から横軸へ下ろした位置は、変化量の閾値に相当する。ここで、摩耗量の閾値は、上述したように、例えば、プレス成形の所望の精度を維持できる最大の摩耗量(すなわち、金型を取り替えるか否かの判断基準)である。従って、ひずみ分布の変化量の閾値も、摩耗量の閾値と同様に金型寿命を判定するための基準として利用できることが分かる。
【0057】
以上のようにして、閾値設定部111は、
図8の閾値設定処理を終了する。
【0058】
図13は、本実施形態に係る金型寿命判定処理の一例を示すフローチャートである。nは、プレス成形装置11によるプレス成形の回数であり、初期値として1に設定される。n=1は、プレス面の摩耗がない初期状態である。
【0059】
まず、プレス成形装置11は、プレス成形を実行する(ステップS110)。具体的には、プレス成形装置11は、パンチ1とダイ2の間に金属板などの被プレス物を配置し、パンチ1とダイ2で挟んで押圧することで、プレス成形物を作製する。なお、作製されたプレス成形物は、取り除かれ、次の被プレス物が配置される。
【0060】
次に、取得部112は、プレス工程の所定時点のひずみ分布を取得する(ステップS120)。具体的には、取得部112は、ステップS110のプレス工程の間、ひずみ分布測定手段5から出力される複数の時点のデータを、変換装置50を介して取得する。また、取得部112は、取得した各時点のデータに基づいて、各時点のひずみ分布データを取得する。また、取得部112は、取得した複数の時点のひずみ分布データから、所定時点のひずみ分布データを取得する。なお、所定時点は、異なる回のプレス工程の間で、共通の時点が使用される。
【0061】
次に、判定部113は、プレス成形の回数nが1であるか否かを判定する(ステップS130)。回数nが1であると判定した場合(ステップS130:Yes)、判定部113は、ステップS120で取得した所定時点のひずみ分布データを、初期状態のひずみ分布として定義し、記憶部120に格納する(ステップS140)。それから、判定部113は、回数nを1増加させ(ステップS150)、処理をステップS110に戻す。
【0062】
回数nが1でないと判定した場合(ステップS130:No)、判定部113は、ステップS140で定義した初期状態(n=1)のひずみ分布と、ステップS120で取得した回数n(n>1)のひずみ分布との変化量を算出する(ステップS160)。具体的には、判定部113は、初期状態(n=1)のひずみ分布データ上で所定条件を満たす位置(金型中心からの距離)を特定する。また、判定部113は、回数n(n>1)のひずみ分布データ上で所定条件を満たす位置(金型中心からの距離)を特定する。そして、判定部113は、これらの特定した2つの位置間の距離を、変化量として算出する。変化量は、例えば、上述したようにピーク位置間の距離を用いることができる。
【0063】
次に、判定部113は、ステップS160で算出した変化量が、閾値設定部111により設定された変化量の閾値(
図8のステップS90)を超えるか否かを判定する(ステップS170)。変化量が閾値を超えていないと判定した場合(ステップS170:No)、判定部113は、回数nを1増加させ(ステップS180)、処理をステップS110に戻す。
【0064】
変化量が閾値を超えていると判定した場合(ステップS170:Yes)、判定部113は、金型の寿命に関する情報を出力する(ステップS190)。具体的には、判定部113は、金型の寿命に関する情報を出力するように、出力部114に指示する。出力部114は、例えば、パンチ1あるいは金型10の寿命が過ぎたことを示すメッセージを、出力装置106に出力させる。メッセージの出力方法は、特に限定されず、例えば、ディスプレイを介して表示してもよいし、スピーカーを介して音声で出力してもよい。このメッセージが通知されたユーザは、例えば、プレス成形装置11を停止して、金型10を交換したり修理したりすることができる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明した。本実施形態では、プレス面の形状に沿って線状のひずみ分布測定手段を設けることで、線状のひずみ分布データを得ることができる。また、線状のひずみ分布データを用いれば、摩耗によるプレス面の形状変化を、プレス面と被プレス物の接触位置の変化によって生じるひずみ分布パターンの変化として検出できる。これにより、金型の摩耗状態を高精度に推定し、金型の寿命を高精度に判定することができる。
【0066】
本発明は、上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。各実施形態および各変形例の2つ以上を適宜組み合わせることもできる。
【0067】
上述の実施形態のある変形例では、判定部113は、摩耗が発生した部位を特定してもよい。
図14は、本実施形態に係る摩耗発生部位を説明する図である。初期状態のひずみ分布パターン(破線)と回数nのひずみ分布パターン(実線)とを比較すると、ひずみが変化している部分が、プレス面の摩耗が発生した部位であることが分かる。判定部113は、例えば、
図13のフローチャートにおいて、変化量が閾値を超えていると判定した場合(ステップS170:Yes)に、初期状態(n=1)のひずみ分布パターンと回数n(n>1)のひずみ分布パターンを比較し、異なる部位を特定する。出力部114は、例えば、
図14に示すようなグラフを出力装置106に表示させてもよい。出力部114は、
図14に示すようなグラフ上で、特定された異なる部位を強調表示してもよい。このようにすれば、ユーザは、金型10の寿命の到来に加え、摩耗した部位を把握することができる。
【0068】
他の変形例では、出力部114は、例えば、プレス成形装置11の制御盤と通信可能に接続され、
図13のステップS190において、制御盤に対して金型10の寿命の到来を知らせる通知信号を出力してもよい。この場合、制御盤は、当該通知信号に応じてプレス成形装置11を停止することができる。
【0069】
さらに他の変形例では、閾値設定部111は、金型寿命判定装置100とは別のコンピュータ上に実装されてもよい。この場合、閾値設定部111は、設定した閾値を金型寿命判定装置100に出力すればよい。
【0070】
さらに他の変形例では、変換装置50と金型寿命判定装置100は、インターネットや専用回線などの通信網を介して接続されてもよい。この場合、金型10の寿命を遠隔から監視することができる。また、金型寿命判定装置100は、複数の変換装置50に接続され、複数のプレス成形装置11の金型10の寿命を判定してもよい。また、金型寿命判定装置100の機能は、プレス成形装置あるいはその制御盤に搭載されるコンピュータに組み込まれてもよい。
【0071】
さらに他の変形例では、金型寿命判定装置100は、金型10の寿命が過ぎる前に、警告を出力してもよい。具体的には、例えば、
図8のステップS70で使用する摩耗量の閾値(プレス成形の所望の精度を維持できる、金型10のプレス面の最大の摩耗量)を、所定量小さく設定すればよい。あるいは、
図8のステップS90で算出した変化量よりも所定量小さい値を、閾値として取得すればよい。
図13のステップS190では、出力部114は、例えば、パンチ1あるいは金型10が寿命に近付いていることを示すメッセージを、出力装置106に出力させればよい。
【0072】
さらに他の変形例では、閾値設定部111は、ひずみ分布の変化量を算出する際に、ピーク以外の特徴点の位置を用いてもよい。閾値設定部111は、例えば、ひずみ分布パターンから摩耗に関する特徴点を抽出するための予め定めたアルゴリズムを実行して、当該特徴点の位置を特定する。そして、閾値設定部111は、特定した2つの特徴点の位置間の距離を、変化量として算出する。判定部113も同様に特徴点を用いてもよい。
【0073】
さらに他の変形例では、ひずみ分布測定手段は、線状のデータを測定できるように配置するのに限定されず、例えば、複数の線が集合した面状のデータを測定できるように配置してもよい。この場合、収容部の幅は、広げる必要がある。閾値設定部111は、例えば、FEM成形解析において、複数の線のひずみ分布データを対応する測定位置ごとに平均するなどして、1本の線のひずみ分布データを取得すればよい。判定部113も同様に、複数の線のひずみ分布データを対応する測定位置ごとに平均するなどして、1本の線のひずみ分布データを取得すればよい。このようにすれば、面状のひずみ分布に基づいて、金型10の寿命を判定することができる。
【0074】
なお、本発明の金型及び収容部の構成は、原理的に明らかに同様の目的及び効果を奏するのであれば、
図1〜5に示した形状、大きさ、位置等に限定されるものではない。
【0075】
また、
図6で示した金型寿命判定装置100の構成は、その構成を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。構成要素の分類の仕方や名称によって、本発明が制限されることはない。金型寿命判定装置100の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。また、各構成要素の処理は、1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
【0076】
また、
図8及び
図13で示したフローチャートの処理単位は、金型寿命判定装置100の処理の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。処理単位の分割の仕方や名称によって、本発明が制限されることはない。金型寿命判定装置100の処理は、処理内容に応じて、さらに多くの処理単位に分割することもできる。また、1つの処理単位がさらに多くの処理を含むように分割することもできる。さらに、本発明の目的及び効果を達成できるのであれば、上記のフローチャートの処理順序も、図示した例に限られるものではない。
【0077】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した各実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明が、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に、他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0078】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現されてもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリーや、ハードディスク、SSD等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0079】
本発明は、加工対象をプレスするのみの狭い範囲のプレス成形に限らず、加工対象を鍛造加工するなど広い範囲のプレス成形に適用可能である。また、本発明は、プレス成形用金型、金型寿命判定装置、及びプレス成形システムに限られず、プレス成形装置、プレス成型方法、金型寿命判定方法、プレス成形物の製造方法、コンピュータ読み取り可能なプログラム、などの様々な態様で提供することができる。