(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の蒸着マスクは前記特許文献に示される構成となっており、電鋳の手法を用いて枠体をマスク本体と適切に一体化していることで、蒸着工程で熱が加わった際のマスクと基板の相対変形を抑え、蒸着形成物の位置精度の悪化を防止することができる。
【0006】
ただし、近年の市場では蒸着形成物のさらなる高精度化の要求があり、マスクの薄型化や通孔パターンの微細化が図られるようになっており、これに伴ってマスクの変形の及ぼす影響は極めて大きくなっている。
【0007】
電鋳によるマスク形成の場合、マスクを母型から分離する際、通常はマスクの厚さに対して母型の厚さが大であることから、分離のために加えられた力で母型がマスクとなる電着層から離れる向きに変形する際に、電着層に過剰な力が加わってその一部を永久変形させ、精度を悪化させるおそれがあった。
【0008】
このため、電鋳に用いる母型を積層構造とし、マスクとなる電着層に対し、母型の各層を電着層から遠い側から順次分離していくことで、電着層に過大な力が加わって変形するのを防止できるようにするものも近年提案されている。
【0009】
こうした積層構造の母型においては、母型をなす各層を、マスク形成後にマスクと母型とを分離するまで、接着一体化した状態が維持されるようにする必要がある。ただし、こうした母型をなす各層の接着に、一般的な接着剤を用いると、接着剤層の厚さを均一に制御するのが困難であるため、母型上に形成する一次電着層(マスク)の平面度が確保できず、マスクの精度に悪影響を及ぼすおそれがあった。このため、接着剤として、未露光の場合に所定の粘着力を有するドライフィルムレジストを用いることが提案されている。
【0010】
ドライフィルムレジストは厚さを均一とされたシート状であり、接着に用いた場合、一次電着層の平面度は問題なく確保できる。しかしながら、接着のためにドライフィルムレジストを未露光のままで用いており、母型をなす各層間にあって、ドライフィルムレジストは、露光を経た安定な硬化状態にはないことから、母型の形態のまま時間が経過すると、例えば揮発分等一部成分の流出に伴う収縮などの体積変化を生じることがあり、母型上に形成した一次電着層(マスク)に、位置ずれなどの悪影響が及ぶおそれがあるという課題を有していた。
【0011】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、積層構造の母型における接着層の収縮等体積変化を抑制して、変化が母型各部に影響を与える事態を回避し、母型上に電鋳で形成されるマスク本体の位置ずれとしてあらわれる母型の経時変化を防止して、マスクの精度を向上させられる、電鋳用母型、及び、この母型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の開示に係る電鋳用母型は、多数の通孔を設けられるマスクの電鋳による製造に用いる、電鋳用母型において、少なくとも一表面を平坦面とされる板状のベース部と、当該ベース部の平坦な表面上に重ねて配設されるシート状の接着層と、当該接着層を介してベース部に接着される、一枚の、又は、複数枚積層構造の、導電性を有するシート状の導電層とを備え、前記接着層における、接着層外周縁から所定範囲の枠状部分に囲まれた中間部分が、前記枠状部分より、体積の経時変化性を小さくし、且つ、前記ベース部と導電層とを接着する接着力を小さくしたものである。
【0013】
このように本発明の開示によれば、接着層における外周縁から所定範囲の枠状部分以外の中央部分で、体積の経時変化が生じにくい状態として、少なくとも枠状部分で接着力が生じる状態は維持しつつ、接着層全体としての構造の安定化を図ることにより、時間経過に伴う体積変化を小さくした接着層でベース部と導電層を安定的に固定一体化でき、接着層の体積変化に伴う導電層の変位や、この導電層上に形成される電着層の位置ずれを抑えられ、母型を用いて形成されるマスクの精度低下を防止できる。
【0014】
また、接着層の外周縁から所定範囲の枠状部分で十分な接着力を確保する一方で、接着層における中間部分の接着力を抑えるようにすることで、電鋳工程で母型をなすベース部と導電層との一体化を確実に維持しつつ、電鋳完了後には接着層位置でベース部と導電層とをより小さい力で分離することができ、電鋳後はベース部や導電層を順次マスク側から分離して、マスクからの母型の分離除去が容易に且つ効率よく行えると共に、母型分離の際にマスク側に加わる力を小さくして、マスク本体の変形等の悪影響も抑えられる。
【0015】
また、本発明の開示に係る電鋳用母型は、必要に応じて、前記接着層が、前記ベース部に接して配設され、少なくとも外周縁から所定範囲の枠状部分が粘着性を有する未硬化状態である第一のレジストと、前記導電層に接して配設され、少なくとも外周縁から所定範囲の枠状部分が粘着性を有する未硬化状態である第二のレジストとを備え、前記第一のレジストと第二のレジストの少なくとも一方における前記枠状部分に囲まれた中間部分が、粘着性を有さず且つ体積の経時変化のない硬化状態であるものである。
【0016】
このように本発明の開示によれば、接着層をなす二層のレジストのうち、少なくとも一方のレジストの中間部分を硬化状態として、接着層の中間部分については、体積の経時変化が生じにくい安定した状態に近付けることにより、接着層によるベース部と導電層の固定一体化から時間が経過しても、接着層における体積変化を抑えて、導電層の変位やそれに伴う導電層上の電着層の位置ずれを防ぎ、高精度のマスクを製造できる。また、接着層をなす二層のレジストの少なくとも一方における中間部分を硬化状態として、接着力が発揮されない状態とすることで、電鋳完了後のベース部と導電層との分離を接着層を起点としてより小さい力で実行でき、マスクからの母型の分離除去をスムーズに進められる。
【0017】
また、本発明の開示に係る電鋳用母型は、必要に応じて、前記接着層が、前記ベース部に接して配設され、少なくとも外周縁から所定範囲の枠状部分が粘着性を有する未硬化状態である第一のレジストと、前記導電層に接して配設され、少なくとも外周縁から所定範囲の枠状部分が粘着性を有する未硬化状態である第二のレジストとを備え、前記第一のレジストと第二のレジストの少なくとも一方における前記枠状部分に囲まれた中間部分が、枠状部分より粘着性及び体積の経時変化性の小さい半硬化状態であるものである。
【0018】
このように本発明の開示によれば、接着層をなす二層のレジストのうち、少なくとも一方のレジストの中間部分を半硬化状態として、接着層の中間部分については、体積の経時変化が生じにくい状態とすることにより、接着層によるベース部と導電層の固定一体化から時間が経過しても、接着層における体積変化を抑えて、導電層の変位やそれに伴う導電層上の電着層の位置ずれを防ぎ、高精度のマスクを製造できる。また、接着層をなす二層のレジストの少なくとも一方における中間部分を半硬化状態として、接着力が弱まった状態とすることで、電鋳完了後のベース部と導電層との分離を接着層を起点としてより小さい力で実行でき、マスクからの母型の分離除去をスムーズに進められる。
【0019】
また、本発明の開示に係る電鋳用母型は必要に応じて、前記接着層における第一のレジストが、前記枠状部分を未硬化状態とされると共に、前記枠状部分に囲まれた中間部分を半硬化状態とされ、前記接着層における第二のレジストが、前記枠状部分を未硬化状態とされると共に、前記枠状部分に囲まれた中間部分を硬化状態とされるものである。
【0020】
このように本発明の開示によれば、接着層をなす二層のレジストのうち、第一のレジストの中間部分を半硬化状態とすると共に、第二のレジストの中間部分を硬化状態として、接着層の中間部分については、体積の経時変化が極めて生じにくい安定した状態にすることにより、接着層によるベース部と導電層の固定一体化から時間が経過しても、接着層における体積変化を適切に抑えられ、導電層やその上の電着層のずれを防いで、精度の高いマスクが得られることとなる。また、接着層をなす二層のレジストの中間部分で、接着力がほとんど発揮されない状態として、電鋳完了後の接着層を起点とするベース部と導電層との分離を無理なくスムーズに行うことができ、マスクと母型の分離作業の効率を大きく向上させられる。
【0021】
また、本発明の開示に係る電鋳用母型の製造方法は、多数の通孔を設けられるマスクの電鋳による製造に用いられる、電鋳用母型の製造方法において、所定の平坦な金属製基板上の所定位置に一又は複数層のシート状の導電層を形成する導電層形成工程と、前記導電層上に、接着機能を有する接着層を形成する接着層形成工程と、形成された導電層と接着層とを、板状のベース部の平坦な表面上に接着層の接着力で貼り付けて配設すると共に、前記基板から分離する転写工程とを含み、前記接着層形成工程で、接着層のうち、接着層外周縁から所定範囲の枠状部分に囲まれた中間部分を、前記枠状部分より、体積の経時変化性が小さく、且つ、前記ベース部と導電層とを接着する接着力が小さくなるように形成するものである。
【0022】
このように本発明の開示によれば、金属製の基板上に導電層を形成してから、この導電層上に接着層を形成し、一体の導電層と接着層をこの接着層の接着力でベース部に貼り付けると共に、これら導電層と接着層を基板から分離して、導電層、接着層、及びベース部からなる母型を製造する中で、接着層における外周縁から所定範囲の枠状部分以外の中間部分が、体積の経時変化が生じにくく、且つ接着力の小さい状態となるように、接着層を形成することにより、時間経過に伴う体積変化を小さくした接着層でベース部と導電層を安定的に固定一体化でき、接着層の体積変化に伴う導電層の変位や、この導電層上に形成される電着層の位置ずれを抑えられ、製造された母型を用いて形成されるマスクの精度低下を防止できる。
【0023】
また、接着層の外周縁から所定範囲の枠状部分で接着力を確保する一方で、接着層における中間部分の接着力を抑えるようにすることで、製造された母型を用いる電鋳工程で、母型をなすベース部と導電層との一体化を確実に維持しつつ、電鋳完了後には接着層位置でベース部と導電層とをより小さい力で容易に分離することができ、電鋳後のベース部や導電層を順次マスク側から分離して行われる母型の分離除去を効率よく進められると共に、母型分離の際にマスク側に加わる力を小さくして、マスク本体の変形等の悪影響も抑えられる。
【0024】
また、本発明の開示に係る電鋳用母型の製造方法は必要に応じて、前記接着層形成工程で、導電層上に、未露光のネガ型ドライフィルムレジストである一のレジストを載置し、一のレジストの外周縁から所定範囲の枠状部分には露光を行わず未露光のままとする一方、前記枠状部分に囲まれた一のレジストの中間部分には露光を行って、中間部分を硬化させ、前記中間部分が硬化した一のレジスト上に、未露光のネガ型ドライフィルムレジストである他のレジストを載置し、他のレジストの外周縁から所定範囲の枠状部分には露光を行わず未露光のままとする一方、前記枠状部分に囲まれた他のレジストの中間部分には、一のレジストの中間部分に対する露光より露光量を小さくした半露光を行い、前記一のレジストと他のレジストを前記接着層とするものである。
【0025】
このように本発明の開示によれば、接着層形成工程として、接着層をなすドライフィルムレジストである一のレジストと他のレジストを積層配置し、導電層上に載置される一のレジストについては、その外周縁から所定範囲の枠状部分を未露光のままとする一方で、中間部分を露光で硬化させ、一のレジスト上に載置される他のレジストについては、その外周縁から所定範囲の枠状部分を未露光のままとする一方で、中間部分に対しては露光量の小さい半露光を行うようにして、形成された接着層の中間部分を、体積の経時変化が生じにくい安定した状態にすることにより、接着層によるベース部と導電層の一体化から時間が経過しても、接着層における体積変化を適切に抑えられ、導電層への影響を防いで、製造された母型で精度の高いマスクを電鋳形成できる。また、接着層の中間部分で、接着力がほとんど発揮されない状態を得ることで、製造された母型を電鋳に用いた後、形成されたマスクと母型の分離作業を効率よく進められる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る電鋳用母型を
図1ないし
図14に基づいて説明する。本実施形態においては、有機EL素子用蒸着マスクを電鋳で形成するための母型に適用した例について説明する。
【0028】
前記各図において本実施形態に係る電鋳用母型10は、導電性を有する金属平板であるベース部11と、このベース部11上に重ねて配設されるシート状の接着層12と、この接着層12を介してベース部11に接着される、複数枚積層構造の、シート状の導電層13とを備える構成である。
【0029】
前記ベース部11は、例えばSUS430などのステンレス材や真ちゅう、鋼等の金属製の板状体とされるものである。ベース部の厚さは1mm程度とするのが好ましい。
このベース部11は、この他、42アロイ(42%ニッケル−鉄合金)やインバー(36%ニッケル−鉄合金)、SUS430等の低熱膨張係数の素材とすることもできる。また、ベース部11は、ガラス板や樹脂板など絶縁性基板の表面にクロムやチタンなどの導電性を有する金属からなる金属膜を形成したものでもかまわない。
【0030】
前記接着層12は、第一のレジスト12aと第二のレジスト12bとからなる二層構造とされて、ベース部11と導電層13とを接着一体化するものである。
第一のレジスト12aは、外周縁から所定範囲の枠状部分12c、例えば、外周縁から20mm幅の範囲の枠状部分、が粘着性を有する未硬化状態、それ以外の中間部分12dが未硬化状態より粘着性及び体積の経時変化性の小さい半硬化状態として、ベース部11に接して配設される構成である。
【0031】
第二のレジスト12bは、前記第一のレジスト12a同様、外周縁から所定範囲の枠状部分12eが粘着性を有する未硬化状態、それ以外の中間部分12fが体積の経時変化のない硬化状態として、導電層13に接して配設される構成である。
【0032】
これら第一のレジスト12aと第二のレジスト12bは、詳細には、ネガ型の感光性ドライフィルムレジストを、接着対象部位に載置し、外周縁から所定範囲の枠状部分をフォトマスク71、72で覆った状態で、中間部分への露光又は半露光処理を経て形成される。
【0033】
ドライフィルムレジストは、未露光状態で粘着性を有するものであり、露光により硬化して粘着性がなく且つ体積が経時変化しない安定な状態に移行する性質を備える。また、ドライフィルムレジストは、露光時のフォトマスクにおける光の透過率を制限したり露光時間を短くするなどして露光量を減らす半露光を行うと、硬化が一部進んだ半硬化状態となる。この半硬化状態では、未硬化状態より粘着性と体積の経時変化の度合いがそれぞれ小さくなり、粘着性の低下に伴って接着層としての接着力も小さくなる。
【0034】
ドライフィルムレジストは、キャリアフィルムの表面にレジスト液を塗布、乾燥させて形成された粘着性のあるレジスト膜を有し、このレジスト膜上にカバーフィルムが配置された状態で供給されるものである。このドライフィルムレジストは、カバーフィルムを除去後、レジスト膜を設置対象箇所の表面に接触させるようにして載置される。そして、キャリアフィルム越しに必要箇所への露光を行って硬化部分を生じさせた後、キャリアフィルムも剥離除去される。
【0035】
なお、接着層12は、第一のレジスト12aと第二のレジスト12bとからなる二層構造とし、各レジストは感光性ドライフィルムレジストとしているが、シート状で接着機能を有するものであれば、ドライフィルムレジスト以外でもかまわない。ただし、感光性を有するものが、未硬化状態から半硬化状態又は硬化状態への調整に係る処理を容易に行えるなど取り扱い性に優れる点で好ましい。
【0036】
前記導電層13は、ニッケル等の電鋳に適した金属製の薄いシート13a、13b、13cを三つ重ねて積層状態としたものである。
導電層13をなす各シート13a、13b、13cの厚さは、接着層12から離れるに従って小さくなるよう設定され、例えば、接着層に近い方から60μm、40μm、20μmとされる。
【0037】
これらシート13a、13b、13cは、マスク完成後の母型除去時に各シートごとにマスク側から剥離させられるよう、シートの境界面に分離を促す所定の表面処理が施される。
【0038】
なお、この導電層13は、三枚のシートからなる積層構造としているが、これに限らず、二枚のシートや四枚以上のシートなど、三枚以外の複数枚積層構造とすることもできる。この他、導電層を積層構造ではない一枚のシート状とするようにしてもかまわない。
【0039】
本実施形態の母型10を用いて形成される蒸着マスク1は、多数の蒸着通孔8を所定パターンで設けられる複数のマスク本体2と、マスク本体2の周囲に配置される枠体3とを備える構成である。
【0040】
前記マスク本体2は、ニッケルやニッケルコバルト等のニッケル合金、その他の電着金属を素材として、電鋳によりシート状に形成され、蒸着物質を通す独立した多数の蒸着通孔8を所定パターンで設けられる構成である。
【0041】
マスク本体2は、多数の蒸着通孔8を設けられる内部のパターン形成領域2aと、めっきにより形成される金属層7を介して枠体3と一体に接合される外周縁2bとを含むものである。パターン形成領域2aでは、多数の蒸着通孔8が、発光層形成用として、前後方向に直線的に並ぶ複数個の通孔群を列とし、複数個の列が左右方向に並列状に配設されたマトリクス状の蒸着パターン9を形成している。
【0042】
前記枠体3は、マスク本体2よりも肉厚の板状体を矩形の枠形状としたもので、マスク本体2の補強用としてマスク本体2の外側を取り囲んで配置され、マスク本体2と連結一体化される構成である。詳細には、枠体3は、全体として格子状に形成され、内側で複数区画された各開口領域に、マスク本体2がそれぞれ位置し、金属層7を介して枠体3と一体化される構成である。
【0043】
この枠体3は、低熱膨張係数の材質、例えば、ニッケル−鉄合金であるインバー材、あるいはニッケル−鉄−コバルト合金であるスーパーインバー材等のような材質で形成される。そして、枠体3は、めっきにより形成された金属層7により、マスク本体2のパターン形成領域2aの外周縁2bと互いに離れないよう連結一体化される。
【0044】
枠体3の材質としてインバー材やスーパーインバー材を採用した場合、その熱膨張係数が極めて小さいことで、蒸着工程における熱影響によるマスク本体2の寸法変化を良好に抑制できる。すなわち、マスク本体2が、例えばニッケルなどの、熱膨張係数が被蒸着基板(図示を省略)である一般ガラスの熱膨張係数に比べて大きいものであっても、蒸着時の高温による熱膨張率の違いから、常温下で蒸着マスク1を被蒸着基板に整合させた際の、基板に対する通孔位置と、実際の蒸着時における蒸着物質の蒸着位置との間にずれが生じることもなく、マスク本体2を保持する枠体3の熱膨張係数が小さい特徴により、昇温時におけるマスク本体2の膨張に起因する寸法変化、形状変化をよく抑えて、常温時における整合精度を蒸着時の昇温時にも良好に保つことができる。
【0045】
なお、枠体3の材質は、被蒸着基板であるガラス等に近い低熱膨張係数の材料、例えばガラスやセラミックのようなものを用いることもできる。この場合、これら材料の少なくとも表面に導電性を付与させることとなる。
【0046】
前記蒸着マスク1は、母型10の表面に、一次電着層15の非配置部分に対応させて一次パターンレジスト14が設けられた後、母型10上に電着金属の電鋳により一次電着層15を形成され、この一次電着層15のパターン形成領域2a対応部分を覆う二次パターンレジスト16を形成され、さらに、一次電着層15を囲むように枠体3を配置された後、枠体3の表面と一次電着層15の外周縁2b表面とを覆うようにめっきにより金属層7を形成されて、この金属層7を介して一次電着層15と枠体3とを離れないよう一体に連結された状態で、これら一体の一次電着層15、枠体3及び金属層7と母型10とを分離することで製造されるものである。
【0047】
母型10上にめっきにより金属層7が形成されたら(
図12(C)参照)、母型10がこれらから分離除去される(
図13、
図14参照)。母型10は、力を加えて蒸着マスク側から物理的に引き剥がして除去するようにされ、詳細には、母型10をなす各層ごとに分離される。すなわち、ベース部11、導電層13の順でマスク側から分離され、導電層13をなす各シート13a、13b、13cはマスク側から遠い方から一枚ずつ分離されることとなる。
【0048】
前記一次電着層15は、電鋳に適したニッケルやニッケル−コバルト等のニッケル合金からなり、母型10上の一次パターンレジスト14のない部分に、電鋳で形成される構成である。蒸着マスク1において、一次電着層15は、被蒸着基板における発光層等の蒸着対象箇所に対応する蒸着通孔8を除いた、被蒸着基板の表面を覆うマスク本体2をなすものとして形成されることとなる。
【0049】
前記一次パターンレジスト14は、一次電着層15の電鋳で使用する電解液に対する耐溶解性を備えた絶縁性材で形成され、母型10上にあらかじめ設定される一次電着層15の非配置部分に対応させて配設され、一次電着層15の形成後には除去されるものである(
図9、
図10参照)。
【0050】
この一次パターンレジスト14は、母型10上に一次電着層15の形成に先立って配設され、感光性レジスト、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、母型10に所定の厚さ、例えば約20μmの厚さとなるようにして配設し、蒸着マスク1のマスク本体2位置、すなわち、一次電着層15の配置位置に対応する所定パターンのフォトマスク41を載せた状態で、紫外線照射による露光での硬化、非照射部分のレジストを除去する現像等の処理を経て、一次電着層15の非配置部分に対応させた形状で形成される。
【0051】
前記二次パターンレジスト16は、金属層7のめっきで使用する電解液に対する耐溶解性を備えた絶縁性材で形成され、あらかじめ設定される金属層7の非配置部分に対応させて配設され、金属層7の形成及び母型10の分離後には除去されるものである(
図11、
図12、
図14参照)。
【0052】
この二次パターンレジスト16は、感光性レジスト、例えばネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、母型10及び既に配置された一次電着層15上に貼着配設すると共に、蒸着マスク1の金属層7及び枠体3位置に対応する所定パターンのフォトマスク42を載せた状態での紫外線照射による露光を行う一連の工程を、一回又は複数回繰り返し行って、必要なレジスト厚さとした後、露光における非照射部分の感光性材料を除去する現像等の処理を経て、金属層7の非配置部分(マスク本体2のパターン形成領域2a)に対応させた形状で形成される。
【0053】
なお、この二次パターンレジスト16(レジスト層18)と、前記接着層12をなす第1のレジスト12a(他のレジスト64)及び第2のレジスト12b(一のレジスト63)と、一次パターンレジスト14(レジスト層17)は、全て同じレジストを使用するようにすれば、仕様条件(露光による寸法のばらつきなど)を同じにでき、より好ましい。
【0054】
前記金属層7は、めっきにより形成されるものであり、ニッケルやニッケル−コバルト合金等からなり、母型10及び既に配置された一次電着層15及び枠体3上の、二次パターンレジスト16が配設されず露出した部分に、めっきで形成される構成である。
【0055】
この金属層7は、マスク本体2のパターン形成領域2aの外周縁2bと枠体3とを接合するものである。金属層7は、パターン形成領域の外周縁2bに係るマスク本体2の上面にめっきにより積層される。詳しくは、金属層7は、パターン形成領域2aの外周縁2bの上面と、枠体3の上面及びパターン形成領域2a側の側面と、マスク本体2と枠体3との間隙部分に形成されており、これでパターン形成領域2aの外周縁2bと枠体3の開口周縁とを離れないよう一体に連結する。
【0056】
次に、本実施形態に係る母型の製造工程及び母型を用いた蒸着マスクの製造工程について説明する。
まず、母型10の製造工程について説明する。
電鋳に適した金属製(例えば、SUS304などのステンレス材)の所定の平坦な基板60表面に、例えば未露光のネガ型ドライフィルムであるレジスト61を必要な厚さとなるように配設し、あらかじめ設定されたレジスト外周部所定範囲以外をフォトマスク70で覆った状態としてから、露光工程によりレジスト61のフォトマスク70で覆われていない外周部を硬化させ、硬化した外周部以外を除去して、電鋳用の外枠レジスト62を形成する(
図4参照)。
【0057】
そして、基板60上の外枠レジスト62で囲まれた内側部分に、電鋳でシートを順次形成し、三層のシート13a、13b、13cからなる導電層13を得る(
図5参照)。この導電層13をなす各シート13a、13b、13cは、一層形成するごとに前より厚くなるように厚さの設定値を変えて形成される。また、各シート13a、13b、13cは、一層形成するごとに母型除去時の剥離を容易とする表面処理を施される。
【0058】
得られた導電層13上に、接着層12を形成する。具体的には、導電層13上に、未露光のネガ型ドライフィルムレジストである一のレジスト63を載置し、レジスト外周縁から所定範囲の枠状部分をフォトマスク71で覆った状態とする。そして、一のレジスト63のフォトマスク71で覆われていない中間部分に対し露光を行って、中間部分を硬化させる。こうして、一のレジスト63から、外周の枠状部分12eが未露光状態であると共に、枠状部分12eに囲まれた中間部分12fが硬化した第二のレジスト12bが得られる(
図6参照)。
【0059】
中間部分12fが硬化した第二のレジスト12b上に、一のレジスト63と同じ厚さの未露光のネガ型ドライフィルムレジストである他のレジスト64を載置し、レジスト外周縁から所定範囲の枠状部分をフォトマスク72で覆った状態とする。そして、他のレジスト64のフォトマスク72で覆われていない中間部分に対し、一のレジスト63の中間部分に対する露光より露光量を小さくした半露光を行い、中間部分を半硬化状態とする。こうして、他のレジスト64から、外周の枠状部分12cが未露光状態であると共に、枠状部分12cに囲まれた中間部分12dが半硬化状態である第一のレジスト12aが得られる(
図7参照)。
【0060】
他のレジスト64に対する半露光は、通常の露光時の露光量(積算光量)の1/2ないし1/50の露光量となるように行われる。例えば、通常の露光時の露光量200mJ/cm
2に対し、半露光では1/20の露光量10mJ/cm
2となるようにされる。
【0061】
なお、接着層12の形成にあたっては、一のレジスト63における中間部分を覆うキャリアフィルムか、他のレジスト64における中間部分を覆うカバーフィルムを残すようにして、第一のレジスト12aと第二のレジスト12bの各中間部分間にフィルムが介在する状態とすることもでき、レジスト中間部分同士の接着をフィルムで阻止することで、接着層12のレジスト間を起点とする分離作業をさらに容易にすることができる。
【0062】
積層一体化した導電層13と接着層12を、金属平板であるベース部11上に接着層12の接着力で貼り付けて配設すると共に、基板60から分離する転写工程(
図8参照)を経て、母型10は完成となる。
【0063】
この母型10では、第一のレジスト12aと第二のレジスト12bからなる接着層12が、その外周縁から所定範囲の枠状部分12c、12eに囲まれた中間部分12d、12fにおいて、未露光の前記枠状部分12c、12eより、体積の経時変化性を小さくされた安定な状態にあることで、母型10を用いた電鋳工程において、接着層12の体積の経時変化の影響が導電層13を経て一次電着層15に及ぶ事態を防ぐことができる。また、接着層12が、その中間部分12d、12fにおいて、ベース部11と導電層13とを接着する接着力を小さくされていることで、最終的な母型の分離工程におけるベース部11の導電層13からの分離作業を容易に行えることとなる。
【0064】
続いて、蒸着マスクの製造工程について説明する。
まず、母型10上にあらかじめ設定される、マスク本体2の蒸着通孔8、すなわち一次電着層15の非配置部分、に対応させて、母型10にレジスト層17を配設する(
図9参照)。具体的には、母型10の表面側、すなわち導電層13上に、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、形成する一次電着層15の高さに対応する所定厚さ(例えば約20μm)に合わせて一ないし数枚積層し、熱圧着によりレジスト層17を形成する(
図9(A)参照)。
【0065】
そして、レジスト層17の表面に、前記蒸着通孔8に対応する透光孔41aを有するなど、一次電着層15の配置位置に対応する所定パターンのフォトマスク(例えば、ガラスマスク)41を密着させた後、露光装置(紫外線照射装置)での紫外線照射による露光を実行する(
図9(B)、(C)参照)。
【0066】
このレジスト層17に対する露光工程にあたっては、露光装置で露光を行う前に、レジスト層17が形成された母型10を、例えばホットプレートや予熱炉等を用いて、露光工程で露光装置内の到達しうる温度としてあらかじめ設定された、所定の予熱温度、例えば、27.0℃±0.3℃、に予熱する。
【0067】
また、レジスト層17の表面に配置するフォトマスク41についても、露光前に、ダミー母型(母型+レジスト層)上に配設した状態で露光装置内にセットし、露光装置を実際の露光と同様の作動状態とするダミー露光により、母型10の場合と同じ予熱温度、例えば、27.0℃±0.3℃、に予熱する。
【0068】
加えて、露光装置内の母型10を設置するステージについても、正式な露光前に、装置内に母型等の露光対象物を収容しないか、ダミー母型をステージにセットした上で、露光装置を実際の露光と同様の作動状態とするダミー露光により、母型10の場合と同じ予熱温度、例えば、27.0℃±0.3℃、に予熱する。
【0069】
こうして、母型10、フォトマスク41、及び露光装置内(ステージ)を同じ温度に予熱してから、母型10上のレジスト層17表面にフォトマスク41を配置し、これらを露光装置のステージ上に据え付け、正式に露光を行う。
【0070】
この露光にあたり、母型10、フォトマスク41、及び露光装置内(ステージ)を、露光作業時に到達しうる温度にあらかじめ予熱する理由について説明すると、母型10やレジスト層17、フォトマスク41の熱膨張係数は、それぞれ異なるものとなっており、これらを露光装置で実際に露光を行う際の内部温度より低い温度、例えば室温など、の状態で装置内に収容して露光を行うと、紫外線照射等に伴って露光装置内に発生する熱で母型10等が加熱されて熱膨張する中、母型10やレジスト層17、フォトマスク41の相対的な位置関係にずれが生じることとなる。
【0071】
こうしたずれにより、露光後得られる一次パターンレジスト14の母型10に対する位置精度や、一次パターンレジスト14の形状に係る精度が低下する。仮に一次パターンレジスト14に位置精度の低下や形状不良が生じると、電鋳による一次電着層15(マスク本体2)の形成工程に影響が及んで、設計意図通りの精度のマスク本体2を形成できないおそれがある。
【0072】
これに対し、母型10(レジスト層17含む)、フォトマスク41、及び露光装置(ステージ)を、露光作業時に到達しうる温度にあらかじめ予熱した状態で、露光装置による露光を行うようにすることで、露光装置内で温度上昇による母型10等の新たな熱膨張が生じないことに加え、露光装置内を安定した温度に維持でき、装置内の母型10等が温度変化の影響を受けることなく露光が進行する。
【0073】
これにより、露光後の母型10上における一次パターンレジスト14の位置や形状に係る精度を向上させられ、この一次パターンレジスト14の精度に基づいて一次電着層15(マスク本体2)も安定且つ高精度に形成でき、マスク本体2による蒸着層の再現精度及び蒸着精度の向上が図れる。なお、予熱温度は、低ければ低いほど熱膨張を抑えられる点で、標準温度(23℃)、さらにはより低い温度(例えば0℃)である方が好ましいが、露光装置での露光時には熱が発生するため、予熱温度を低くするのには限度がある。上記のように露光時に発生する熱による熱膨張の影響を避けることを主な目的とする場合、露光時に露光装置内の到達する最大温度を、予熱温度に設定するのが好ましい。
【0074】
また、露光以降の各工程における熱膨張も考慮した場合、露光装置(露光温度)、めっき槽(めっき温度)、及び、蒸着装置(蒸着温度)における各温度のうち最大の温度を予熱温度とすることが好ましい。
【0075】
露光の後、母型10上のマスクされていた未露光(非照射)部分のレジストを除去する現像、乾燥、といった各処理を行う。こうして、一次電着層15の非配置部分に対応させた一次パターンレジスト14が母型10上に得られる(
図10(A)参照)。
【0076】
なお、このような一次パターンレジスト14は、フォトレジスト等を使用したリソグラフィー法その他の任意の方法で形成することもでき、その形成方法は上記に限定されるものではない。
【0077】
この一次パターンレジスト14を有する母型10を、所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、一次パターンレジスト14の厚さの範囲内で、母型10の一次パターンレジスト14で覆われていない表面(露出領域)に、ニッケル合金等の電着金属の電鋳により、例えば12μm厚の、マスク本体2となる一次電着層15を形成する(
図10(B)参照)。
【0078】
この後、一次パターンレジスト14を溶解除去することにより、所定の蒸着パターン9をなす独立した多数の蒸着通孔8を設けられたマスク本体2となる一次電着層15が得られる(
図10(C)参照)。
【0079】
この一次電着層15が得られた後、一次電着層15の形成部分を含む母型10の表面全体に、レジスト層18を配設する。具体的には、母型10の表面側に、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、あらかじめ設定された所定厚さに合わせて一ないし数枚積層し、熱圧着によりレジスト層18を形成する(
図11(A)参照)。
【0080】
そして、レジスト層18の表面に、
図11(B)に示すように、マスク本体2のパターン形成領域2aに対応する透光孔42aを有するフォトマスク42を密着させた後、紫外線照射による露光を行う(
図11(B)、(C)参照)。これにより、パターン形成領域2aに対応する部分が露光により硬化したレジスト層18a、それ以外の部分が未露光のレジスト層18bとなる。
この後、表面に露出している未露光のレジスト層18bを溶解除去する処理を行って、パターン形成領域2aを覆う二次パターンレジスト16を形成する(
図12(A)参照)。
【0081】
こうして二次パターンレジスト16を形成した後、枠体形成工程を経て形成済みの枠体3の下面側にあらかじめ接着層19を配置したものを、一次電着層15上のあらかじめ設定された箇所に位置合せして配置する(
図12(B)参照)。
【0082】
この状態での枠体3は、接着層19の粘着性により、一次電着層15上に容易に動かないよう仮固定できる。
仮固定した枠体3に対しては、必要に応じて、枠体3の上から荷重を加えて圧着する工程を実行し、枠体3が一次電着層15からさらに離れにくい状態とすることもできる。
【0083】
この後、二次パターンレジスト16に覆われず、パターン形成領域2aの外周縁2bに係る表面に露出する一次電着層15の上面、枠体3下側の一次電着層15aとその側方で表面に露出する母型10の各露出面、及び枠体3の表面上に、電着金属のめっきにより金属層7を形成する(
図12(C)参照)。この金属層7により一次電着層15と枠体3とを離れないよう一体に連結できる。
【0084】
この場合、金属層7は、パターン形成領域2aの外周縁2bに係る表面に露出する一次電着層15の上面や、一次電着層15と枠体3との間で表面に露出する母型10表面における厚さに対し、枠体3の表面での金属層7の厚さはより薄く形成されることとなる。この厚さの差異は、金属層7が母型10や一次電着層15の表面から順次積層されて、接着層19の高さ寸法を超えて枠体3に達してはじめて、枠体3が母型10や一次電着層15と導通状態となり、枠体3の表面への金属層7の形成が開始することによるものである。
【0085】
金属層7の形成が完了したら、最終工程として、一体の一次電着層15、枠体3及び金属層7から母型10を分離する。この分離は、母型のベース部11から順に行われ、最初にベース部11を導電層13に対し引き剥がす。この場合、接着層12の第一のレジスト12aと第二のレジスト12bの間を起点としてベース部11を剥離する。接着層12の第一のレジスト12aの中間部分12cが半硬化状態、第二のレジスト12bの中間部分12dが硬化状態となっていることで、この接着層部分で無理なく剥離して分離できる(
図13(A)参照)。
このベース部11を剥離する際は、一次電着層15に導電層13を加えた残り部分が十分な厚さを有していることで、一次電着層15に変形等の悪影響が及ぶことはない。
【0086】
ベース部11(接着層12の第一のレジスト12a部分を含む)を分離したら、導電層13をなすシートを一次電着層15とは離れた側から一枚ずつ剥離して分離する(
図13(B)、
図14(A)(B)参照)。シートは各層ごとに表面処理がなされているため、引き剥がそうとする力を加えると無理なく分離させられる。導電層13をなすシート13a、13b、13cは、一次電着層15等に近づくにつれて薄くなっていることで、一次電着層15等への負荷が小さく、一次電着層15を変形させることなく分離することができる。
【0087】
この導電層13をなすシート13a、13b、13cをそれぞれ剥離する際も、一次電着層15に導電層13の残りのシートが一体に接して補強状態となっていることで、一次電着層15に変形等の悪影響が及ぶことはない。
【0088】
また、導電層13をなすシート13a、13b、13cが、一次電着層15等に近づくにつれて薄くなっていることで、導電層13のうち最後のシート13aを直接一次電着層等から分離する際には、一次電着層15等に加わる力を必要最小限に抑えられ、一次電着層15を変形させることなく分離することができる。
【0089】
導電層13をなす全てのシート13a、13b、13cを剥離して母型10の分離が完了したら、枠体3の下側に存在する一次電着層15aを接着層19と共に除去し、次いで二次パターンレジスト16を除去することで、蒸着マスク1の製造が完了となる。なお、枠体3の下側に接着層19が残存している場合は、二次パターンレジスト16の除去時に除去する。また、二次パターンレジスト16の除去は、母型10の分離前に行ってもよい。
【0090】
このように、本実施形態に係る電鋳用母型は、接着層12における外周縁から所定範囲の枠状部分以外の中央部分で、体積の経時変化が生じにくい状態として、接着層12全体としての構造の安定化を図ることで、時間経過に伴う体積変化を小さくした接着層でベース部11と導電層13を安定的に固定一体化でき、接着層12の体積変化に伴う導電層13の変位や、この導電層13上に形成される一次電着層15の位置ずれを抑えられ、母型10を用いて形成されるマスク本体2の精度低下を防止できる。
【0091】
また、接着層12の外周縁から所定範囲の枠状部分で十分な接着力を確保する一方で、接着層12における中間部分の接着力を抑えるようにすることで、電鋳工程で母型10をなすベース部11と導電層13との一体化を確実に維持しつつ、電鋳完了後には接着層位置を起点としてベース部11と導電層13とをより小さい力で分離することができ、電鋳後はベース部11や導電層13を順次マスク側から分離して、マスクからの母型10の分離除去が容易に且つ効率よく行えると共に、母型分離の際にマスク側に加わる力を小さくして、マスク本体2の変形等の悪影響も抑えられる。
【0092】
なお、前記実施形態に係る電鋳用母型は、有機EL素子用蒸着マスクのうち、マスク本体2と枠体3とを金属層7で一体化した構造の蒸着マスク1を形成するための母型とする構成としているが、これに限られるものではなく、他の構造のメタルマスク、例えば、枠体を有しないマスク本体のみのマスクや、マスク本体と枠体とを有するがこれらを接着で一体化した構造のマスク、同じくマスク本体と枠体とを有するがこれらが紗(メッシュ)を介して接合一体化した構造のマスク等を形成するのに用いることもできる。また、蒸着マスク以外の、印刷用マスクやソルダーボール搭載用のマスク等を形成するための母型であってもかまわない。
【0093】
(本発明の第2の実施形態)
前記第1の実施形態に係る電鋳用母型の製造においては、接着層形成工程で、導電層13上に載置した一のレジスト63の中間部分に露光を行うと共に、一のレジスト63上に載置した他のレジスト64の中間部分に半露光を行って、中間部分12fが粘着性を有さず且つ体積の経時変化のない硬化状態である第二のレジスト12bと、中間部分12dが未露光部分より粘着性及び体積の経時変化性の小さい半硬化状態である第一のレジスト12aをそれぞれ得て、これら第一のレジスト12aと第二のレジスト12bを接着層12とする構成としているが、これに限らず、第2の実施形態として、
図15に示すように、接着層形成工程では一のレジスト63の中間部分と他のレジスト64の中間部分とのいずれにも露光を行って、接着層12をなす第一のレジスト12aと第二のレジスト12bの両方で中間部分12d、12fが粘着性を有さず且つ体積の経時変化のない硬化状態を得る構成とすることもできる。
【0094】
この場合も、前記実施形態同様、接着層12における外周縁から所定範囲の枠状部分以外の中央部分で、体積の経時変化が生じにくい状態にでき、接着層12でベース部11と導電層13を接着一体化した母型10の状態では、接着層12の体積変化に伴う導電層13の変位や、この導電層13上に形成される一次電着層15(マスク本体2)の位置ずれを抑えられ、母型10を用いて高精度のマスクを形成できる。また、接着層12の外周縁から所定範囲の枠状部分は未露光として粘着性を維持させ、十分な接着力を確保する一方で、中間部分の粘着性を抑えて接着力を小さくすることで、電鋳工程では母型10をなすベース部11と導電層13との一体化を接着層12で確実に維持しつつ、電鋳完了後には接着層位置でベース部11と導電層13とを小さい力で分離でき、マスクからの母型10の分離除去が容易に且つ効率よく行える。
【0095】
なお、接着層形成工程での両方のレジスト63、64の中間部分への露光は、レジストが完全に硬化状態に達する露光量を与えて行う手法のみに限られるものではなく、この他、
図16に示すように、接着層形成工程で一のレジスト63の中間部分と他のレジスト64の中間部分とのいずれにも露光量を小さくした半露光を行って、接着層12をなす第一のレジスト12aと第二のレジスト12bの両方で、その中間部分12d、12fがその外側の未露光である枠状部分12c、12eより粘着性及び体積の経時変化性の小さい半硬化状態を得る構成とすることもできる。
【0096】
(本発明の第3の実施形態)
前記第1の実施形態に係る電鋳用母型の製造においては、接着層形成工程で、中間部分に露光を行った後の一のレジスト63上に他のレジスト64を載置し、この他のレジスト64の中間部分に半露光を行うことで、中間部分12dが未露光の枠状部分12cより粘着性及び体積の経時変化性の小さい半硬化状態となった第一のレジスト12aを得る構成としているが、これに限らず、第3の実施形態として、
図17に示すように、中間部分に露光を行った後の一のレジスト63上に、未露光のネガ型ドライフィルムレジストである他のレジスト64を載置した後、この他のレジスト64に対しては露光を行わず、全体が未露光状態のままの第一のレジスト12aを得る構成とすることもできる。
【0097】
この場合も、接着層12のうち第二のレジスト12bでは、その中間部分12fが粘着性を有さず且つ体積の経時変化のない硬化状態であることから、前記実施形態同様、接着層全体としては、その中央部分で体積の経時変化が生じにくい状態となっており、接着層12でベース部11と導電層13を接着一体化した母型10の状態では、接着層12の体積変化に伴う導電層13の変位や、この導電層13上に形成される一次電着層15(マスク本体2)の位置ずれを抑えられる。また、接着層12の中間部分におけるベース部11と導電層13とを一体化する接着力は、その外側の枠状部分より小さくなっており、電鋳完了後における接着層12を起点とするベース部11と導電層13との容易且つ速やかな分離を促すことができる。
【0098】
なお、露光を経て、中間部分12fが粘着性を有さず且つ体積の経時変化のない硬化状態である第二のレジスト12bと、全体を未露光状態とされた第一のレジスト12aとの接着層12としての組合せは、
図17に示すような、前記第1の実施形態と同様に各レジスト12a、12bを薄型(例えば、厚さ十数μm)で同じ厚さとする他に、
図18に示すように、中間部分12fを硬化状態とした第二のレジスト12bを、第一のレジスト12aより厚さを大きく(例えば、厚さ数十μm)して配置する構成としたり、
図19に示すように、第一のレジスト12aと第二のレジスト12bを共に薄型の場合より厚さを大きくして(例えば厚さ数十μm)組み合わせる構成としてもかまわない。ただし、各レジスト12a、12bについては、より薄い方が、仮に時間の経過に伴って体積の変化が生じる状況でも、その変化量を相対的に小さくすることができ、導電層等への影響も抑えられ、より好ましい。
【0099】
(本発明の第4の実施形態)
前記第1の実施形態に係る電鋳用母型の製造においては、接着層形成工程で、導電層13上に載置した一のレジスト63の中間部分に露光を行った後、この一のレジスト63上に載置した他のレジスト64の中間部分に半露光を行って、中間部分12fが露光により硬化状態となった第二のレジスト12bと、中間部分12dが半露光により半硬化状態となった第一のレジスト12aをそれぞれ得る構成としているが、これに限らず、第4の実施形態として、
図20、
図21に示すように、接着層形成工程で導電層13上に載置した一のレジスト63に対しては、露光を行わず未露光状態のままとする一方、一のレジスト63上に載置した他のレジスト64に対しては中間部分に露光又は半露光を行い、こうした露光工程を経て中間部分12dが硬化状態又は半硬化状態となった第一のレジスト12aと、全体が未露光状態のままの第二のレジスト12bとを得る構成とすることもできる。
【0100】
この場合も、接着層12のうち第一のレジスト12aでは、その中間部分12dが粘着性や体積の経時変化性を小さくされた硬化状態又は半硬化状態であることから、前記実施形態同様、接着層全体としては、その中央部分で体積の経時変化が生じにくい状態となっており、接着層12でベース部11と導電層13を接着一体化した母型10の状態では、接着層12の体積変化に伴う導電層13の変位や、この導電層13上に形成される一次電着層15(マスク本体2)の位置ずれを抑えられる。また、接着層12の中間部分におけるベース部11と導電層13とを一体化する接着力は、その外側の枠状部分より小さくなっており、電鋳完了後における接着層12を起点とするベース部11と導電層13との容易且つ速やかな分離を促すことができる。
【0101】
なお、前記第1ないし第4の各実施形態に係る電鋳用母型の製造においては、接着層形成工程で、一のレジスト63及び他のレジスト64における、レジスト外周縁から所定範囲の枠状部分には露光を行わないようにして、第二のレジスト12bと第一のレジスト12aとにおける各枠状部分を、粘着性を有する未硬化状態のまま維持する構成としているが、これに限らず、一のレジスト63の枠状部分に露光又は半露光を行って、枠状部分12eが硬化状態又は半硬化状態である第二のレジスト12bを得るようにしたり、他のレジスト64の枠状部分に露光又は半露光を行って、枠状部分12cが硬化状態又は半硬化状態である第一のレジスト12aを得るようにすることもできる。
【0102】
この場合、一のレジスト63の露光又は半露光を行う枠状部分に対し、一のレジスト63の中間部分には露光又は半露光のいずれを行ってもよく、また露光を行わないようにすることもでき、得られる第二のレジスト12bの中間部分12fは、硬化状態、半硬化状態、又は未硬化状態のいずれでもかまわない。一方、他のレジスト64の枠状部分に露光を行う場合には、他のレジスト64の中間部分には半露光を行うか、露光を行わないようにして、得られる第一のレジスト12aの中間部分12dは半硬化状態又は未硬化状態となるようにするのが好ましい。また、他のレジスト64の枠状部分に半露光を行う場合には、他のレジスト64の中間部分には露光又は半露光のいずれを行ってもよく、また露光を行わないようにすることもでき、得られる第一のレジスト12aの中間部分12dは、硬化状態、半硬化状態、又は未硬化状態のいずれでもかまわない。
【0103】
この他、第一のレジスト12aの枠状部分12cと第二のレジスト12bの枠状部分12eとは、その性状を一致させる必要性は特になく、例えば第一のレジスト12aの枠状部分12cが硬化状態である場合に、第二のレジスト12bの枠状部分12eは半硬化状態又は未硬化状態となるようにするなど、異なる状態とすることができる。