(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高圧の水素ガスは、弁機構により絞られる流路を通過する際に減圧され、二次ポートへ送出される。そのため、水素ガスの流速が弁機構を通過する際に急激に速くなり、乱流が発生した場合、高周波の気流音(笛吹音)が発生するおそれがあるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、高周波気流音の発生を抑制できる減圧弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する減圧弁は、一次ポート及び二次ポートが設けられたボディと、前記一次ポートと前記二次ポートとを繋ぐガス流路の途中に設けられ、弁孔を有する環状の弁座と、前記弁座の上流側において前記ガス流路の内周面との間に隙間を有して設けられ、前記弁座に対して接離する弁体と、前記二次ポートの圧力に応じて前記弁体を前記弁座から離間する方向に押圧する押圧機構とを備え、前記押圧機構は、前記弁座の下流側に設けられ、前記弁孔の軸方向に貫通したプラグ孔を有するプラグと、前記プラグ孔内において該プラグ孔の内周面との間に隙間を有して挿入される軸状の摺動部、及び前記摺動部の上流側に形成されて前記弁体に当接する上流端部を有するピンとを備え、前記ピン及び前記プラグは、前記摺動部の前記プラグ孔に対する嵌合長さを「L」、前記摺動部と前記プラグ孔との間の隙間を「C」とした場合に、前記嵌合長さLと前記隙間Cとが式:0.0005L<C<0.00908Lを満たすように形成された。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、高周波気流音が発生する一因としてピンの傾斜が関係すること見出した。この発生メカニズムは次のように推測される。
すなわち、弁体及びピンの円滑な往復動を可能とするために、弁体はガス流路内に隙間を有して挿入されるとともに、ピンはプラグのプラグ孔内に隙間を有して挿入されるため、ピンがプラグ孔内で僅かながら傾斜した姿勢となり得る。その結果、ピンは、傾斜した姿勢のまま弁体を押圧して弁座から離間させることがある。この場合、弁体が弁座の軸線方向に沿って移動せず、ピンの傾斜に倣うため、該弁座の弁孔と弁体との間に形成される流路の断面が弁座の軸線回りに対称な形状とならない。これにより、弁孔と弁体との間に形成される流路について、幅の狭い部分と広い部分が生じることで、該流路を通過するガスに流速差が生じ、この流速差が大きくなると、乱流が生じて高周波気流音が発生すると推測される。
【0009】
そして、本発明者らは、上記知見に基づき更なる研究開発を続けた結果、ピンの軸線に対する傾斜角が0.52度以下であれば、弁体が該ピンの傾斜に倣って移動しても、弁孔と弁体との間に形成される流路について、幅の狭い部分と広い部分との差が過大になり難く、気流音の発生が抑制されることを見出した。この点、上記構成によれば、隙間Cと嵌合長さLとの関係を0.0005L<C<0.00908Lとするため、ピンがプラグ孔内で構造的(幾何学的)に最大限傾斜できる角度が0.52度に規制される。したがって、弁孔と弁体との間の流路について、幅の狭い部分と広い部分との差が過大になることを抑制でき、該流路を通過するガスに生じる流速差を抑制して高周波気流音が発生することを抑制できる。
【0010】
上記減圧弁において、前記嵌合長さLと前記隙間Cとが式:0.0005L<C<0.00454Lを満たすように形成されることが好ましい。
上記構成によれば、隙間Cと嵌合長さLとの関係を0.0005L<C<0.00454Lとするため、ピンがプラグ孔内で構造的に最大限傾斜できる角度が0.26度に規制される。これにより、高周波気流音の発生率を極めて低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、気流音の発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、減圧弁の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す減圧弁(レギュレータ)1は、燃料電池自動車に搭載される水素ガスのガスタンク2と燃料電池3に水素ガスを供給するインジェクタ4とをつなぐ流体回路の途中に設けられ、高圧(例えば最大87.5MPa程度)の水素ガスを減圧(例えば1.2MPa程度)してインジェクタ4側に送出する。なお、本実施形態のインジェクタ4には、PWM(Pulse width modulation)制御によりスイッチング素子をオンオフしてコイル(ともに図示略)に駆動電力を供給することで、燃料電池3への水素ガスの供給量が制御されるものが採用されており、スイッチング素子のデューティ比(オンオフ比)が大きいほど、水素ガスの供給量が多くなる。
【0014】
減圧弁1は、一次ポート5及び二次ポート6が形成されたボディ7と、ボディ7内における一次ポート5と二次ポート6との間に設けられた弁機構8と、弁機構8の開き量(開度)を調整する押圧機構9とを備えている。
【0015】
図1及び
図2に示すように、ボディ7には、一次ポート5及び二次ポート6に連通するとともに、外部に開口した丸穴状の収容穴11が形成されている。一次ポート5から延びるガス流路としての供給流路12は収容穴11の底面11aにおける中央に開口し、二次ポート6へ延びるガス流路としての送出流路13は収容穴11の底面における偏心した位置に開口している。供給流路12は断面円形の直線状に形成されるとともに、その収容穴11側の開口部分は弁機構8を収容するように他の部分よりも大きな内径に設定されている。具体的には、供給流路12の開口部分は、供給流路12の上流側(
図1中、下側)から順に円筒状の第1収容部14、及び第1収容部14に連続するとともに底面11aに開口する円筒状の第2収容部15を有している。第1及び第2収容部14,15は、内径がこの順で大きくなるとともに、それぞれ収容穴11と同軸上に配置されるように形成されている。なお、供給流路12における開口部分よりも上流側部分の内径ID1は、例えば8mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては4mm〜16mm程度の範囲が好ましい。
【0016】
弁機構8は、供給流路12に収容される弁体(ポペット)21と、第1収容部14に収容される弁座22とを備えている。
弁体21は、有底筒状の筒状部31と、筒状部31の底部から下流側(
図1中、上側)に向かって外径が小さくなるテーパ状の頭部32と、頭部32の下流側端部から突出した円柱状の当接部33とを有している。筒状部31、頭部32及び当接部33は、同一の軸線AX1上に一体形成されている。筒状部31(弁体21)の外径OD1は供給流路12の内径ID1よりも僅かに小さく設定されている。なお、筒状部31の外径OD1は、例えば8mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては4mm〜16mm程度の範囲が好ましい。そして、弁体21は供給流路12の内周面との間に隙間を有して供給流路12に挿入されており、軸方向移動可能に配置されている。なお、
図2では、説明の便宜上、供給流路12と弁体21との間の隙間、及び後述するプラグ51とピン52との間の隙間を誇張して示している。頭部32の外周面は、軸線AX1に対して略一定の傾斜角を有するテーパ状に形成されており、当接部33の外周面は、軸線AX1に対して略平行な円筒状に形成されている。なお、本実施形態の当接部33の外径OD2は、例えば1.8mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては0.9mm〜3.6mm程度の範囲が好ましい。
【0017】
筒状部31内には、コイルバネ34が収容されている。コイルバネ34は、供給流路12の上流側に配置された棒状の支持部材35と弁体21との間で圧縮されている。これにより、弁体21は、コイルバネ34によって弁座22側に付勢されている。
【0018】
弁座22は、弁孔41を有する円環状に形成されており、第1収容部14内に圧入されている。なお、弁座22は、ポリイミド樹脂等の弾性変形可能な硬質樹脂により構成されている。弁孔41は、その軸線AX2に対する傾斜角が頭部32の傾斜角よりも大きいテーパ状の内周面を有するテーパ孔部42と、軸線AX2と平行な円筒状の内周面を有する円筒孔部44とを有している。テーパ孔部42及び円筒孔部44は、上流側からこの順で形成されている。なお、円筒孔部44の内径ID2は、例えば2.8mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては1.4mm〜5.6mm程度の範囲が好ましい。
【0019】
押圧機構9は、第2収容部15に取着されるプラグ51と、プラグ51内に配置されるピン52と、収容穴11に固定されるシリンダ53と、シリンダ53内に摺動可能に収容されるピストン54と、シリンダ53とピストン54との間に圧縮状態で配置されるコイルバネ等の付勢部材55とを備えている。
【0020】
プラグ51は、円柱状に形成されており、弁座22を圧縮しつつ第2収容部15の内周に螺着されており、その一部が収容穴11内に突出している。プラグ51の中央には、軸方向に貫通するプラグ孔61が弁孔41と同軸(軸線AX2)上に形成されている。プラグ孔61は、弁孔41に連続する縮径孔部62と、縮径孔部62に連続する摺動孔部63とを有している。縮径孔部62は、その上流側部分が弁孔41(円筒孔部44)と略等しい内径を有する円筒状に形成されるとともに、その下流側端部が下流側に向かって大径となるテーパ状に形成されている。摺動孔部63は、その軸方向全域に亘って略等しい内径ID3を有する円筒状に形成されている。なお、摺動孔部63の内径ID3は、例えば10mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては5mm〜20mm程度の範囲が好ましい。また、プラグ51における収容穴11内に突出した突出部64には、径方向に延びてプラグ孔61と収容穴11とを連通する流路孔65が形成されている。
【0021】
ピン52は、軸状に形成された摺動部71と、摺動部71から下流側に突出する下流端部73と、摺動部71から上流側に突出する上流端部74とを有している。摺動部71、下流端部73及び上流端部74は、同一の軸線AX3上に一体形成されている。本実施形態の摺動部71は、プラグ孔61の内周面に対して摺動する本体部71a、及び本体部71aの上流側に設けられるとともに本体部71aよりも小さな外径を有する逃し部71bを備えている。本体部71aの外径OD3はプラグ孔61の摺動孔部63の内径ID3よりも僅かに小さく設定されている。なお、摺動部71の外径OD3は、例えば10mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては5mm〜20mm程度の範囲が好ましい。また、本体部71aの摺動孔部63に嵌合した嵌合長さLは、例えば10mm程度に設定されており、燃料電池自動車用の減圧弁1としては5mm〜20mm程度の範囲が好ましい。なお、逃し部71bの軸方向長さは、ピン52のプラグ孔61内での軸方向移動に伴って本体部71aがプラグ孔61から突出しないように設定されており、ピン52の位置に関わらず、嵌合長さLは一定となる。そして、摺動部71は、プラグ孔61の内周面との間に隙間Cを有して挿入されており、軸方向移動可能に配置されている。
【0022】
本実施形態では、隙間Cは、下記(1)を満たすように、好ましくは下記(2)式を満たすように設定されている。
0.0005L<C<0.00908L …(1)
0.0005L<C<0.00454L …(2)
なお、上記(1)、(2)式における0.0005Lは、ピン52の円滑な摺動を担保するために設定した、必要最小限度の隙間を示す。
【0023】
上記(1)、(2)式は、換言すると、ピン52の軸線AX3の弁座22の軸線AX2に対する交差角、つまりピン52がプラグ孔61内で構造的(幾何学的)に最大限傾斜できる傾斜角θ(=arctan(C/L))は、下記(3)式を満たし、好ましくは下記(4)式を満たす。
【0024】
0.029°<θ<0.52° …(3)
0.029°<θ<0.26° …(4)
また、摺動部71には、軸方向に延びる複数の流路孔72がその中心軸周りに等角度間隔で形成されている。下流端部73の外径は、摺動部71よりも小径の円柱状に形成されている。上流端部74の外径は弁体21における当接部33の外径と略等しく設定されており、上流端部74及び当接部33は弁孔41及びプラグ孔61(縮径孔部62)内に挿通されて互いに当接している。
【0025】
図1に示すように、シリンダ53は有底円筒状に形成されている。シリンダ53は、その円筒部81の外周部分が収容穴11の内周に螺着されるとともに、その底部82の外周部分にロックナット83が螺着されることによりボディ7に固定されている。なお、円筒部81の開口部外周には、Oリング等のシール部材84が装着されており、収容穴11と外部との間の気密を確保している。
【0026】
ピストン54は有底円筒状に形成されるとともに、その外径は円筒部81の内径よりも僅かに小さく設定されている。ピストン54は、その底部が円筒部81の開口端側に位置する姿勢で円筒部81内に軸方向に摺動可能収容され、円筒部81内を二次ポート6側の圧力調整室85と圧力調整室85よりも低圧の減圧室86とに区画している。なお、ピストン54の外周にはウェアリングやリップシール等のリング部材87が装着されており、圧力調整室85と減圧室86との間の気密を確保している。そして、ピストン54は、ピン52の下流端部73に当接している。これにより、ピン52及び弁体21は、ピストン54の摺動に応じて一体で移動する。
【0027】
付勢部材55は、シリンダ53とピストン54との間で圧縮された状態で収容されている。そして、付勢部材55は、弁体21が弁座22から離座する、すなわち弁機構8の開き量が大きくなるようにピストン54を付勢している。
【0028】
このように構成された減圧弁1では、圧力調整室85と減圧室86との差圧、コイルバネ34及び付勢部材55の付勢力に応じてピストン54が円筒部81内を摺動する。そして、ピストン54の軸方向位置に応じて弁機構8の開き量、より厳密には弁体21の頭部32とテーパ孔部42及び円筒孔部44間のエッジ状をなす境界部分との間の流路断面積を調整することで、二次ポート6側の圧力(圧力調整室85内の圧力)が所定圧を超えないようにしている。
【0029】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)隙間Cと嵌合長さLとの関係を0.0005L<C<0.00908Lとすることで、ピン52がプラグ孔61内で構造的に最大限傾斜できる角度が0.52度よりも小さくなるように規制され、高周波の気流音(笛吹音)が発生することを抑制できる。
【0030】
(2)隙間Cと嵌合長さLとの関係を0.0005L<C<0.00454Lとすることで、ピン52がプラグ孔61内で構造的に最大限傾斜できる角度が0.26度よりも小さくなるように規制され、高周波気流音の発生率を極めて低く抑えることができる。
【0031】
このように高周波気流音の発生を抑制でき、その発生率を極めて低く抑えることのできるメカニズムは、次のように推測される。
上記のように弁体21及びピン52の円滑な往復動を可能とするために、弁体21は供給流路12内に隙間を有して挿入されるとともに、ピン52はプラグ孔61内に隙間を有して挿入されている。そのため、例えば
図3に示すように、ピン52がプラグ孔61内で僅かながら傾斜した姿勢となり得、ピン52は傾斜した姿勢のまま弁体21を押圧して弁座22から離間させることがある。この場合、弁体21が弁座22の軸線方向に沿って移動せず、ピン52の傾斜に倣うため、
図4に示すように、弁孔41と弁体21との間に形成される流路の断面が弁座22の軸線AX2回りに対称な形状とならない。その結果、弁孔41と弁体21との間に形成される流路について、
図4において二点鎖線で示すように、幅の狭い部分と広い部分が生じることで、該流路を通過する水素ガスに流速差が生じ、この流速差が大きくなると、乱流が生じて高周波気流音が発生する。なお、
図4は、弁孔41におけるテーパ孔部42と円筒孔部44との間のエッジ状をなす境界部分を通る断面図を示す。
【0032】
さらに詳しく考察すると、弁孔41と弁体21との間の流路において、弁体21(頭部32)の上流側と下流側との差圧は軸線AX2周りの全域に亘って略等しいため、水素ガスの流速は、幅の広い部分で流速が速く、幅の狭い部分で遅くなる。その結果、水素ガスの流速が遅い部分(幅の狭い部分)の圧力が、流速の速い部分(幅の広い部分)よりも大きくなる。そして、流路における幅の狭い部分と広い部分との圧力差に応じて、
図3に示すように、弁体21には、その軸心を弁座22の軸線AX2に近づける力f1が作用する。また、減圧弁1の作動時において、ピン52が押圧機構9から受ける荷重F、ピン52の傾きを傾斜角θとすると、ピン52から弁体21には、弁体21の軸線AX1を径方向外側に偏心させる力f2(=F×tanθ)が作用する。したがって、減圧弁1の開き量が略一定となる定常状態では、力f1と力f2とが互いに略等しくなるため、ピン52が傾斜した姿勢で弁体21を押圧していても、弁体21の偏心量は略一定となる。このことから、ピン52の傾斜角θを好適に設定することで、弁体21の偏心量、すなわち弁孔41と弁体21との間の流路で生じる流速差を高周波気流音が発生しないようなものとすることが可能になる。つまり、高周波気流音が発生する一因としてピン52の傾斜が関係している。
【0033】
なお、弁体21が弁座22に対して傾いた姿勢で着座している場合であっても、弁体21が弁座22の軸線AX2に沿って離座すれば、弁孔41と弁体21との間に形成される流路の断面が弁座22の軸線AX2回りに対称な形状となるため、気流音の発生に与える影響は少ないと考えられる。
【0034】
したがって、隙間Cと嵌合長さLとの関係を上記のように規定し、ピン52のプラグ孔61内での最大限傾斜を規定することで、高周波気流音の発生を抑制でき、その発生率を極めて低く抑えることができる。
【0035】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、摺動部71が本体部71a及び逃し部71bを有する構成としたが、これに限らず、摺動部71が逃し部を有さない構成としても良い。なお、この場合、嵌合長さLは、減圧弁1の閉弁時(弁体21が弁座22に着座した状態)におけるピン52の位置を基準として設定される。
【0036】
・上記実施形態において、テーパ孔部42と円筒孔部44との間に、テーパ孔部42よりも小さな傾斜角を有する絞り孔部を形成してもよく、例えば絞り孔部の傾斜角を頭部32の傾斜角と等しくしてもよい。
【0037】
・上記各実施形態において、減圧弁1を高圧の水素ガスを減圧する用途に用いたが、これに限らず、例えばヘリウム等、水素以外の気体を減圧する用途に用いてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
図1に示す減圧弁1について、プラグ孔61の摺動孔部63とピン52の摺動部71との間の隙間Cと、摺動部71の摺動孔部63に対する嵌合長さLとの関係が異なるものを複数製造し、これらを実施例a1〜a6,b1〜6、比較例a7〜a9,b7とした。各実施例及び比較例は、表1及び表2に示すように、隙間Cと嵌合長さLとの関係を異ならせており、経験上、高周波気流音が発生し易いことが明らかになっている条件下で減圧弁1を作動させて、試験を行った。なお、試験の条件及び各実施例及び各比較例として用いた減圧弁1の参考寸法等は以下の通りである。
【0039】
ガス種:水素ガス又はヘリウムガス
一次ポート5の圧力(一次圧力):35MPa〜87MPa程度
二次ポート6の圧力(二次圧力):1.1MPa〜1.3MPa程度
インジェクタ4のデューティ比:48%〜90%程度
供給流路12の内径ID1:8mm程度
弁体21の筒状部31の外径OD1:8mm程度
弁体の当接部33の外径OD2:1.8mm程度
弁座22の円筒孔部44の内径ID2:2.8mm程度
ピン52の摺動部71(本体部71a)の外径OD3:10mm程度
ピン52の摺動部71(本体部71a)の嵌合長さL:10mm程度
プラグ51の摺動孔部63の内径ID3:10mm程度
なお、上記のように高周波気流音は、弁孔41と弁体21との間の流路の断面において、流速差が大きくなることにより乱流が生じて発生すると推測されるため、弁機構8を通過する流量が多いほど、発生し易い。したがって、一次圧力が35MPa以下の圧力であっても、またデューティ比が48%以下の比率であっても、流量は減少するため、表1及び表2に示す各実施例の隙間Cと嵌合長さLとの関係を満たせば、高周波気流音の発生を同様に抑制できると考えられる。また、流量に大きな影響を与えない減圧弁1を構成する部材の寸法についても、表1及び表2に示す各実施例の隙間Cと嵌合長さLとの関係を満たせば、少なくとも上記発明を実施するための形態に示した燃料電池自動車用の減圧弁1の寸法範囲、及び該寸法範囲を大きく逸脱しない範囲で高周波気流音の発生が同様に抑制されることが期待される。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
ただし、表1及び表2における「CとLとの関係」の欄は、便宜上、「C」の上限のみを示しており、実施例a1〜a6,b1〜6、比較例a7〜a9,b7のいずれも隙間Cの下限は「C>0.0005L」である。
【0042】
表1及び
図5に示す試験は、減圧弁1において、プラグ51及びボディ7における少なくともプラグ51と径方向に対向する部分をガラス等の透明な部材により構成し、減圧弁1の作動時におけるピン52の角度をカメラ等により撮像するとともに発生する音の大きさ(音圧)を計測することにより行った。画像傾斜角は、撮像した画像を解析することに得られたピン52の軸線AX2に対する傾斜角θを示す。なお、
図5における白抜きの四角は、本発明者らの聴覚によっては高周波気流音を感知できなかったときの結果を示し、黒抜きの四角は、本発明者らの聴覚によって高周波気流音を感知できたときの結果を示す。表1の「高周波気流音の感知」欄では、高周波気流音が感知されなかった場合を「○」、感知された場合を「×」で示す。
【0043】
表1及び
図5に示すように、ピン52の傾斜角θが0.52°よりも小さな範囲では、本発明者らの聴覚によっては高周波気流音が感知されなかった。この結果から、ピン52のプラグ孔61内での構造的な最大傾斜角を0.52°よりも小さくなるように隙間C及び嵌合長さLを設定する、すなわち隙間C及び嵌合長さLとの関係が上記(1)式を満たすことによって、高周波気流音の発生を抑制できたことがわかる。
【0044】
表2及び
図6に示す試験について、構造的最大傾斜角は、隙間C及び嵌合長さLとの関係を表2に示すものとした場合に、ピン52がプラグ孔61内において構造的に最大限傾斜できる傾斜角θを示し、高周波気流音発生率は、各実施例及び各参考例の減圧弁1を用いて64回の試験を行った中で本発明者らが高周波気流音を感知した回数の割合を示す。
【0045】
表2及び
図6に示すように、ピン52の傾斜角θが0.52°よりも小さな範囲では、高周波気流音の発生を抑制できたことがわかる。なお、実施例b4,b6では、高周波気流音発生率がそれぞれ30%、9.5%となっている。これは、本試験を上記のように高周波気流音が発生し易い条件下で行っているためであり、実際に各実施例の減圧弁1を搭載した燃料電池自動車で走行した際には、数%以下の小さな発生率に抑えることができると考えられる。また、こうした高周波気流音が発生し易い条件下で試験を行った場合であっても、ピン52の構造的最大傾斜角が0.26°よりも小さな範囲では、高周波気流音発生率を極めて低く抑えることができたことがわかる。