(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1推定ステップでは、前記第1差分が所定値以上の場合には前記金属材料の破壊原因が疲労破壊であると推定し、前記第1差分が所定値に満たない場合には前記金属材料の破壊原因が疲労破壊ではないと推定する
請求項1に記載の金属材料の破壊原因の推定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の金属材料の破壊原因推定方法では、破損した金属材料の方位差曲線や標準試料の標準方位差曲線を取得するために、複数の計測視野範囲を計測する必要があり、複数の計測視野範囲の計測には時間がかかるので、破損した金属材料の破壊原因の特定に時間がかかるという問題がある。また、破面からの深さ1mm以下の破面近傍で発現する方位差特性が取得できておらず、金属材料の破壊原因の推定を誤る可能性がある。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定できることを見出した。また、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料と同じ材料から形成された試料についての、応力拡大係数パラメータと、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、の間に相関関係があること、および該相関関係に基づいて金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の応力拡大係数パラメータを推定できることを見出した。ここで、応力拡大係数パラメータとは応力拡大係数や応力拡大係数範囲などを含むものである。
【0008】
上述した事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、短期間で高精度な推定が可能な金属材料の破壊原因の推定方法および推定システム、並びに金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法および推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定方法は、
金属材料の破壊原因の推定方法であって、
前記金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測し、前記一計測視野範囲に含まれる複数の計測点における結晶方位を取得するステップと、
取得した前記結晶方位に基づいて前記複数の計測点における結晶方位差を取得する結晶方位差取得ステップと、
前記破面からの深さが所定以下である破面近傍位置における前記結晶方位差である第1結晶方位差と、前記破面近傍位置よりも前記破面からの深さが大きい破面遠方位置における前記結晶方位差である第2結晶方位差と、の差分である第1差分を取得する第1差分取得ステップと、
前記第1差分に基づいて前記金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定する第1推定ステップと、を備える。
【0010】
上述したように、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定できることを見出した。より具体的には、金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲に含まれる破面近傍位置と破面遠方位置とにおける結晶方位差の差分である第1差分により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定することができる。
【0011】
上記(1)の方法によれば、上述した結晶方位を取得するステップ、結晶方位差取得ステップおよび第1差分取得ステップを経ることで第1差分を取得することができ、第1推定ステップで第1差分により金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを高精度で推定することができる。また、上記の方法によれば、金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、短期間で金属材料の破壊原因の推定を行うことができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記第1推定ステップでは、前記第1差分が所定値以上の場合には前記金属材料の破壊原因が疲労破壊であると推定し、前記第1差分が所定値に満たない場合には前記金属材料の破壊原因が疲労破壊ではないと推定する。
【0013】
上記(2)の方法によれば、第1差分により金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを定量的に推定できるので、第1推定ステップにおける推定にかかる時間を少なくできる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記金属材料の破壊原因の推定方法は、
前記結晶方位を取得するステップの後、且つ、前記結晶方位差取得ステップの前に、前記破面の線形回帰直線の傾きが所定角度以上の場合には、前記線形回帰直線を第1座標軸とし、且つ、前記線形回帰直線に直交する前記破面の深さ方向に沿うような直線を第2座標軸とする直交座標系に座標変換を行う傾き調整ステップをさらに備える。
【0015】
上記(3)の方法によれば、破面の線形回帰直線の傾きが所定角度以上の場合には、一計測視野範囲を計測した際の計測座標系を用いると破面の深さ方向の誤差が大きくなる。このため、上述した線形回帰直線の傾きが所定角度以上の場合には、直交座標系に座標変換をすることで、破面の深さ方向における誤差を少なくすることができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の方法において、
前記第1結晶方位差は、前記破面近傍位置における前記破面の深さ方向に直交する方向に沿って配列される前記複数の計測点の前記結晶方位差の統計値を含み、
前記第2結晶方位差は、前記破面遠方位置における前記破面の深さ方向に直交する方向に沿って配列される前記複数の計測点の前記結晶方位差の統計値を含む。
【0017】
金属材料には破面から深い位置に局所的に結晶方位差の大きい部分が存在することがある。上記(4)の方法によれば、第1結晶方位差や第2結晶方位差は、各々所定位置における破面の深さ方向に直交する方向に沿って配列される複数の計測点の結晶方位差の統計値を含んでいるので、上述した局所的に結晶方位差が大きい部分が及ぼす影響を少なくできるため、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを高精度で推定することができる。
【0018】
(5)本発明の少なくとも一実施形態にかかる金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法は、
金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法であって、
前記金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測し、前記一計測視野範囲に含まれる複数の計測点における結晶方位を取得するステップと、
取得した前記結晶方位に基づいて前記複数の計測点における結晶方位差を取得する結晶方位差取得ステップと、
前記破面からの深さが所定以下である破面近傍位置における前記結晶方位差である第1結晶方位差と、前記破面近傍位置よりも前記破面からの深さが大きい破面遠方位置における前記結晶方位差である第2結晶方位差と、の差分である第1差分を取得する第1差分取得ステップと、
前記金属材料と同じ材料から形成された試料についての、応力拡大係数パラメータと、前記第1差分に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分との相関関係を取得するステップと、
取得された前記相関関係に基づいて、前記第1差分から前記金属材料の応力拡大係数パラメータを推定し、推定した前記応力拡大係数パラメータから前記金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定する第2推定ステップと、を備える。
【0019】
上述したように、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料と同じ材料から形成された試料についての、応力拡大係数パラメータと、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、の間に相関関係があること、および該相関関係に基づいて金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の応力拡大係数パラメータを推定できることを見出した。
【0020】
上記(5)の方法によれば、第1差分に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分と応力拡大係数パラメータとの相関関係に基づいて、上述した結晶方位を取得するステップ、結晶方位差取得ステップおよび第1差分取得ステップを経ることで取得される第1差分により、金属材料の応力拡大係数パラメータを高精度で推定することができる。そして、金属材料の応力拡大係数パラメータから金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定することができる。また、上記の方法によれば、上述した相関関係を取得するとともに、金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、短期間で金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定を行うことができる。
【0021】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の方法において、
前記応力拡大係数パラメータは、前記試料に対して疲労き裂進展試験を実施することにより取得され、
前記第2差分は、前記疲労き裂進展試験が実施された前記試料の複数の計測点における結晶方位を取得し、取得した前記結晶方位に基づいて前記複数の計測点における結晶方位差を取得するとともに、前記疲労き裂進展試験において生成された破面からの深さが所定以下である破面近傍位置における前記結晶方位差である第3結晶方位差と、前記破面近傍位置よりも前記破面からの深さが大きい破面遠方位置であって、前記破面からの深さが100μm以下である破面遠方位置における前記結晶方位差である第4結晶方位差と、の差分である。
【0022】
上記(6)の方法によれば、応力拡大係数パラメータを取得するために疲労き裂進展試験が実施された試料について第2差分が取得されるので、応力拡大係数パラメータと第2差分との間の相関関係の精度を向上させることができる。また、試料の第3結晶方位差や第4結晶方位差は、金属材料の第1結晶方位差や第2結晶方位差に対応しているので、試料の第2差分を金属材料の第1差分に精度よく対応させることができる。また、上記の方法によれば、破面近傍位置、および破面近傍位置よりも破面からの深さが大きく、且つ、破面からの深さが100μm以下である破面遠方位置、における結晶方位差に基づいて第2差分が取得されるので、破面近傍位置および破面遠方位置を含む一計測視野範囲の大きさを小さくすることができる。そして、一計測視野範囲を小さくすることで、計測や計測結果の処理にかかる時間を少なくすることができる。
【0023】
(7)幾つかの実施形態では、上記(5)又は(6)の方法において、
前記応力拡大係数パラメータは、応力拡大係数、応力拡大係数範囲、および有効応力拡大係数範囲の少なくとも一つを含む。
上記(7)の方法によれば、第1差分により、応力拡大係数、応力拡大係数範囲、又は有効応力拡大係数範囲を推定することができるので、応力拡大係数などを用いて金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定することができる。
【0024】
(8)本発明の少なくとも一実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定システムは、
金属材料の破壊原因の推定システムであって、
前記金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測可能な計測装置であって、前記一計測視野範囲に含まれる複数の計測点における結晶方位を取得可能な計測装置と、
前記計測装置が取得した前記結晶方位に基づいて前記複数の計測点における結晶方位差を取得可能な解析装置と、
前記解析装置が取得した前記破面からの深さが所定以下である破面近傍位置における前記結晶方位差である第1結晶方位差と、前記解析装置が取得した前記破面近傍位置よりも前記破面からの深さが大きい破面遠方位置における前記結晶方位差である第2結晶方位差と、の差分である第1差分を取得可能な演算装置と、を備える。
【0025】
上述したように、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定できることを見出した。より具体的には、金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲に含まれる破面近傍位置と破面遠方位置とにおける結晶方位差の差分である第1差分により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定することができる。
【0026】
上記(8)の構成によれば、金属材料の破壊原因の推定システムは、上述した結晶方位を取得可能な計測装置、上述した結晶方位差を取得可能な解析装置、および上述した第1差分を取得可能な演算装置を備えるので、上述した第1差分を取得することができる。このため、取得した第1差分により金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを高精度で推定することができる。また、上記の構成によれば、計測装置は金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、金属材料の破壊原因の推定システムは、短期間で金属材料の破壊原因の推定を行うことができる。
【0027】
(9)本発明の少なくとも一実施形態にかかる金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システムは、
金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システムであって、
前記金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測可能な計測装置であって、前記一計測視野範囲に含まれる複数の計測点における結晶方位を取得可能な計測装置と、
前記計測装置が取得した前記結晶方位に基づいて前記複数の計測点における結晶方位差を取得可能な解析装置と、
前記解析装置が取得した前記破面からの深さが所定以下である破面近傍位置における前記結晶方位差である第1結晶方位差と、前記解析装置が取得した前記破面近傍位置よりも前記破面からの深さが大きい破面遠方位置における前記結晶方位差である第2結晶方位差と、の差分である第1差分を取得可能な演算装置と、
前記金属材料と同じ材料から形成された試料についての、応力拡大係数パラメータと、前記第1差分に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分との相関関係を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された前記相関関係に基づいて、前記第1差分から前記金属材料の前記応力拡大係数パラメータを推定する推定装置と、を備える。
【0028】
上述したように、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料と同じ材料から形成された試料についての、応力拡大係数パラメータと、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、の間に相関関係があること、および該相関関係に基づいて金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の応力拡大係数パラメータを推定できることを見出した。
【0029】
上記(9)の構成によれば、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システムは、上述した金属材料の結晶方位を取得可能な計測装置、上述した金属材料の結晶方位差を取得可能な解析装置、および上述した第1差分を取得可能な演算装置を備えるので、上述した金属材料の第1差分を取得することができる。また、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システムは、上述した相関関係を記憶する記憶装置、および記憶装置に記憶された相関関係に基づいて第1差分から金属材料の応力拡大係数パラメータを推定する推定装置をさらに備えるので、上述した第1差分の値から、金属材料の応力拡大係数パラメータを高精度で推定することができる。そして、金属材料の応力拡大係数パラメータから金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定することができる。また、上記の構成によれば、上述した相関関係を記憶装置に記憶しておくとともに、計測装置が金属材料の少なくとも破面の一部を含む一計測視野範囲を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システムは、短期間で金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定を行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、短期間で高精度な推定が可能な金属材料の破壊原因の推定方法および推定システム、並びに金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法および推定システムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」および「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同様の符号を付し説明を省略することがある。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定方法の一例を示すフロー図である。
図2は、本発明の一実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定方法を実施するための推定システムの構成の一例を概略的に示す概略構成図である。以下、金属材料の破壊原因の推定方法10を実施するための、金属材料の破壊原因の推定システム1の構成を先に説明する。
【0034】
図2に示されるように、金属材料の破壊原因の推定システム1は、EBSD検出装置2と、情報処理装置3と、SEM制御ユニット12と、ステージ制御ユニット13と、カメラ制御ユニット14と、を備えている。情報処理装置3は、EBSD検出装置2、SEM制御ユニット12、ステージ制御ユニット13、およびカメラ制御ユニット14に電気的に接続されており、装置間における信号の送受信が可能に構成されている。
【0035】
情報処理装置3は、金属材料の破壊原因の推定システム1を構成する構成要素を制御可能に構成されている。具体的には、情報処理装置3は、入出力装置31(入出力インターフェース)、記憶装置32(ROM、RAM)、表示装置33(ディスプレイ)および演算装置34(CPU)を含むマイクロコンピュータから構成されているが、一般的な構成および制御については適宜割愛することとする。
【0036】
情報処理装置3の入出力装置31は、金属材料の破壊原因の推定システム1において用いられる各構成要素(EBSD検出装置2など)からの各種情報が入力され、且つ、演算結果などに基づく各種情報を上述した各構成要素に出力する。また、入出力装置31は、キーボードやマウスなどを含んでいる。記憶装置32は、入力された各種情報や制御実施のために必要な各種プログラムや演算結果などを記憶可能に構成されている。演算装置34は、上述した各種情報に基づいて演算処理を行う。表示装置33は、入力された各種情報や上述した演算装置34による演算結果などの情報を表示する。
【0037】
EBSD検出装置2(結晶方位検出装置)は、破損した金属材料から形成された第1試料5における複数の計測点Pの結晶方位を電子後方散乱回折像法により計測可能に構成されている。具体的には、EBSD検出装置2は、
図2に示されるように、走査電子顕微鏡4(SEM)を少なくとも含んでいる。走査電子顕微鏡4は、第1試料5の組織観察が可能に構成されているとともに、任意の視野について所定のステップ間隔で計測可能に構成されている。また、走査電子顕微鏡4は、
図2に示されるように、金属材料から形成された第1試料5を固定可能な試料ステージ41と、試料ステージ41を収納する試料室42と、第1試料5に電子線を照射可能な電子銃43と、を備えている。なお、EBSD検出装置2や走査電子顕微鏡4が備える一般的な構成および制御については適宜割愛することとする。
【0038】
SEM制御ユニット12は、演算装置34の制御下において、電子銃43による電子線の照射量、照射タイミングや走査方向などを含む電子線の照射動作を制御可能に構成されている。ステージ制御ユニット13は、演算装置34の制御下において、試料ステージ41に設けられた不図示の多軸モータと該多軸モータにより駆動される不図示の駆動装置を制御することで、試料ステージ41の位置や傾きを調整可能に構成されている。
【0039】
EBSD検出装置2は、
図2に示されるように、試料室42の内部に設けられるとともに電子銃43が第1試料5に電子線を照射することで生じる電子後方散乱回折像(菊池パターン)を投影するスクリーン21と、スクリーン21に投影された電子後方散乱回折像を撮像するためのカメラ22と、をさらに含んでいる。カメラ22は、高感度カメラを含み、試料室42の内部において電子線の照射方向に対して直交する方向に沿って設けられる。カメラ制御ユニット14は、演算装置34の制御下において、カメラ22の撮影タイミングなどの制御を行うように構成されている。
【0040】
以下、金属材料の破壊原因の推定方法10について詳細に説明する。
図1に示されるように、幾つかの実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定方法10は、金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測して結晶方位を取得する計測ステップS101と、取得した結晶方位に基づいて結晶方位差を取得する結晶方位差取得ステップS102と、破面近傍位置55における結晶方位差である第1結晶方位差OD1と、破面近傍位置55よりも破面51からの深さが大きい破面遠方位置56における結晶方位差である第2結晶方位差OD2と、の差分である第1差分D1を取得する第1差分取得ステップS103と、第1差分D1に基づいて金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定する第1推定ステップS104と、を備えている。
【0041】
図3は、本発明の一実施形態における計測に用いられる試料を示す図である。計測ステップS101では、破損した金属材料から形成された第1試料5の計測が行われる。第1試料5は、
図3に示されるように、破損した金属材料から破面51を含むように切り出された金属構成部53と、破面51を保護するために例えばエポキシ樹脂などを固めた樹脂構成部54であって、金属構成部53とは破面51に対して反対側に設けられる樹脂構成部54と、を含んでいる。第1試料5は、計測前に破面51に対して垂直な面である計測面52が研磨装置などにより研磨される。
【0042】
具体的には、計測ステップS101では、
図2に示されるように、第1試料5を試料ステージ41に固定する。ステージ制御ユニット13は、第1試料5が試料ステージ41に固定された後に、不図示の多軸モータや不図示の駆動装置を制御して、試料ステージ41を水平に対して70°程度に傾斜させる。
【0043】
情報処理装置3の演算装置34は、記憶装置32に記録された結晶方位を計測するためのプログラム(ソフトウェア)を動作させる。演算装置34は、上述した結晶方位を計測するためのプログラムに基づいて、SEM制御ユニット12を制御し、電子銃43から照射される電子線を計測面52上に走査させ、電子線を所定ピッチ毎に離れた複数の計測点P(
図4A参照)に照射させる。
図4Aは結晶方位計測座標(データ抽出座標)として六角格子の場合を示したが、
図4Bは正方格子の場合を示している。
【0044】
ここで、EBSD検出装置2は、
図3に示されるように、一回の計測において、第1試料5の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測する。一計測視野範囲6は、第1試料5の計測面52を互いに直交するX軸とY軸とを有する基準面と規定した際に、X軸寸法が1000μm以下およびY軸寸法が600μm以下である。一計測視野範囲6は、好ましくはX軸寸法が500μm以下およびY軸寸法が500μm以下であり、さらに好ましくはX軸寸法が300μm以下およびY軸寸法が100μm以下である。ここで、Y軸は、破面51の線形回帰直線LR(
図10参照)との間の傾きがX軸よりも大きくなるような、破面51の深さ方向に向かう軸である。なお、一計測視野範囲6のX軸寸法およびY軸寸法は、演算装置34が上述した結晶方位を計測するためのプログラムを実行することにより変更可能に構成されている。
【0045】
図4Aは、本発明の一実施形態における複数の計測点の配置を説明するための配置図である。
図4Aに示されるように、複数の計測点Pは、計測格子である六角格子の中心に設けられるとともに、第1試料5の計測面52を互いに直交するX軸とY軸とを有する基準面と規定した際に、他の計測点Pに対してX軸方向に0.5XS、Y軸方向に0.5XS×tan(π/3)だけ離れた位置に設けられている。XSは互いにX軸方向に沿って並んだ2つの計測点Pの間隔であり、一例としては1.6μmである。なお、XSは、演算装置34が上述した結晶方位を計測するためのプログラムを実行することにより変更可能に構成されている。また、計測格子の形状も四角格子などに変更可能である。
【0046】
図4Bは、本発明の他の一実施形態における複数の計測点の配置を説明するための配置図である。
図4Bに示される実施形態では、複数の計測点Pは、計測格子である正方格子の中心に設けられるとともに、第1試料5の計測面52を互いに直交するX軸とY軸とを有する基準面と規定した際に、他の計測点Pに対してX軸方向およびY軸方向に上述したXSだけ離れた位置に設けられている。
【0047】
電子線は、一計測視野範囲6の範囲内に設けられる複数の計測点Pに照射され、該電子線の照射により生じる電子後方散乱回折像(菊池パターン)がスクリーン21上に投影される。スクリーン21上に投影された電子後方散乱回折像は、計測点P毎にカメラ22により撮像される。カメラ22は、計測点P毎に撮像した電子後方散乱回折像の画像データ(画像信号)を、カメラ制御ユニット14および入出力装置31を介して、記憶装置32に送信する。
【0048】
図2に示されるように、情報処理装置3の演算装置34は、画像処理装置35を含んでいる。画像処理装置35は、計測点P毎に撮像された電子後方散乱回折像の画像データを画像処理することで、計測点P毎に結晶方位を取得する。ここで、上述した画像処理は、記憶装置32に記憶されている例えばTLS社製の「OIM」などの解析用プログラムにより行われる。計測点P毎に取得された結晶方位の情報は、計測点Pの位置情報(位置座標)とともに、記憶装置32に記憶される。
【0049】
また、画像処理装置35は、記憶装置32に記憶された計測点P毎の結晶方位の情報および計測点Pの位置情報に基づいて、結晶方位の分布マップが形成される。
図5は、本発明の一実施形態における試料であって、疲労破壊した金属材料から形成された試料の一計測視野範囲における結晶方位の分布を説明するための図である。
図5においては、同様の結晶方位を有する結晶粒には同じハッチングが施されている。
【0050】
次に、結晶方位差取得ステップS102では、上述した計測ステップS101で取得した結晶方位に基づいて計測点P毎の結晶方位差を取得する。結晶方位差としては局所方位差(KAM)などが用いられる。ここで、局所方位差は、
図4A、4Bに示されるような、対象となる計測点Pの結晶方位と、該対象となる計測点Pに隣接して配置される複数の計測点Pと、の差を平均した平均値を対象となる計測点Pの結晶方位差とする。具体的には、情報処理装置3の演算装置34は、
図2に示されるように、解析装置36を含んでいる。解析装置36は、例えば上述したTLS社製の「OIM」などの解析用プログラムを実行することで、結晶方位に基づいて計測点P毎の結晶方位差を取得する。なお、結晶方位差として、局所方位差(KAM)以外を用いてもよい。例えば、結晶粒における隣接計測点間の方位差の平均値で定義される局所方位差粒平均(GAM)、局所方位差の領域平均である局所方位差領域平均、同一結晶粒内で計測点Pと結晶の平均方位との方位差で定義される粒内方位差(GROD)、同一結晶粒内における計測点Pの他の計測点Pに対する方位差を平均化した値で定義される粒内方位差粒平均(GOS)、局所方位差粒平均や粒内方位差粒平均の領域平均である粒内方位差領域平均などを用いてもよい。
【0051】
図6は、本発明の一実施形態における試料であって、疲労破壊した金属材料から形成された試料の一計測視野範囲における結晶方位差の分布を説明するための図である。
図6においては、結晶方位差が大きい部分にドットが打たれている。
図6に示されるように、疲労破壊した金属材料から形成された第1試料5は、破面51の近傍が、破面51から離れた部分に比べて、広範囲にわたりドットが打たれている。
【0052】
図6に示されるように、破面51からの深さが所定以下である破面近傍位置55と、破面近傍位置55よりも破面51からの深さが大きい破面遠方位置56と、を規定している。
図6中点線は破面近傍位置55と破面51からの深さが同じ位置を繋ぐ線であり、
図6中二点鎖線は破面遠方位置56と破面51からの深さが同じ位置を繋ぐ線である。ここで、破面近傍位置55は、破面51からの深さが50μm以下である。破面近傍位置55は、好ましくは破面51からの深さが40μm以下であり、さらに好ましくは破面51からの深さが20μm以下である。また、破面遠方位置56は、破面51からの深さが400μm以下である。また、破面遠方位置56は、好ましくは破面51からの深さが200μm以下であり、さらに好ましくは破面51からの深さが100μm以下である。
【0053】
第1差分取得ステップS103では、
図2に示されるように、破面近傍位置55における結晶方位差である第1結晶方位差OD1と、破面遠方位置56における結晶方位差である第2結晶方位差OD2と、の差分である第1差分D1が取得される。具体的には、情報処理装置3の演算装置34は、
図2に示されるように、差分演算装置37を含んでいる。差分演算装置37は、記憶装置32に記憶された第1結晶方位差OD1および第2結晶方位差OD2を取得し、第1結晶方位差OD1および第2結晶方位差OD2から第1差分D1を算出する。
【0054】
図7は、本発明の一実施形態における試料であって、引張破壊した金属材料から形成された試料の結晶方位差と破面からの距離との関係を説明するためのグラフである。
図8は、本発明の一実施形態における試料であって、疲労破壊した金属材料から形成された試料の結晶方位差と破面からの距離との関係を説明するためのグラフである。
図7に示されるように、引張破壊した金属材料から形成された試料は、結晶方位差が破面からの距離に関わらず一様であるという傾向がある。これに対して、
図8に示されるように、疲労破壊した金属材料から形成された試料は、破面から離れた部分は結晶方位差が一様であるが、破面に近づくにつれて結晶方位差が指数関数的に増加するという傾向がある。
【0055】
第1推定ステップS104では、
図2に示されるように、第1差分D1に基づいて金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定する。
【0056】
上述したように、幾つかの実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定方法は、
図1に示されるように、上述した計測ステップS101と、上述した結晶方位差取得ステップS102と、上述した第1差分取得ステップS103と、上述した第1推定ステップS104と、を備えている。
【0057】
上述したように、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定できることを見出した。より具体的には、金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6に含まれる破面近傍位置55と破面遠方位置56とにおける結晶方位差(第1結晶方位差OD1、第2結晶方位差OD2)の差分である第1差分D1により、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを推定することができる。
【0058】
上記の方法によれば、上述した計測ステップS101、結晶方位差取得ステップS102および第1差分取得ステップS103を経ることで第1差分D1を取得することができ、第1推定ステップS104で第1差分D1により金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを高精度で推定することができる。また、上記の方法によれば、金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測すればよいので、計測にかかる時間が少なく、短期間で金属材料の破壊原因の推定を行うことができる。
【0059】
幾つかの実施形態では、
図1に示されるように、上述した第1推定ステップS104において、第1差分D1が閾値D0(所定値)以上の場合には(S141で「YES」の場合)、金属材料の破壊原因が疲労破壊であると推定し(S142)、第1差分D1が閾値D0(所定値)に満たない場合には(S141で「NO」の場合)、金属材料の破壊原因が疲労破壊ではないと推定する(S143)。閾値D0は、記憶装置32に記憶されており、金属材料毎に異なる値を用いてもよい。上記の方法によれば、第1差分D1により金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを定量的に推定できるので、第1推定ステップS104における推定にかかる時間を少なくできる。
【0060】
図9は、本発明の他の一実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定方法の一例を示すフロー図であって、
図1に示すフロー図の一部を拡大して示すフロー図である。
図9に示されるように、幾つかの実施形態では、上述した金属材料の破壊原因の推定方法10は、上述した計測ステップS101の後、且つ、上述した結晶方位差取得ステップS102の前に、線形回帰直線LRの傾きを調整する傾き調整ステップS123をさらに備えている。
【0061】
具体的には、
図9に示されるように、計測ステップS101の後、且つ、結晶方位差取得ステップS102の前に、破面座標を取得する破面座標取得ステップS121と、破面51の線形回帰直線LRを作成する線形回帰直線作成ステップS122と、上述した傾き調整ステップS123と、を備えている。なお、破面座標取得ステップS121は、上述した計測ステップS101よりも前に行われてもよく、また、計測ステップS101と同時に行われてもよい。
【0062】
破面座標取得ステップS121では、第1試料5の一計測視野範囲6の範囲内における破面51の位置座標を取得する。具体的には、上述した金属材料の破壊原因の推定システム1の情報処理装置3は、上述した計測ステップS101において、結晶方位だけでなく計測点Pにおける信頼性指数(方位同定確度、CI値)を取得するようになっている。第1試料5の樹脂構成部54は、CI値が正となる金属構成部53とは異なりCI値が零や負となるので、情報処理装置3は、演算装置34により、金属構成部53と樹脂構成部54との境界である破面51の計測面52における位置座標を推定し、推定された位置座標は記憶装置32に記憶される。
【0063】
図10は、本発明の他の一実施形態における試料であって、疲労破壊した金属材料から形成された試料の一計測視野範囲における破面と、破面の線形回帰直線とを併せて示す図である。線形回帰直線作成ステップS122では、上述した破面座標取得ステップS121で取得した破面座標から、
図10に示されるような破面51の線形回帰直線LRを作成する。
【0064】
図10に示されるように、複数の計測点Pの位置情報として、一計測視野範囲6を計測した際の計測座標系(X軸、Y軸)における位置座標を用いる場合において、例えば第1試料5の設置時における位置ずれなどにより、破面51の線形回帰することで取得した線形回帰直線LRが、X軸に対して傾きθ1を有することがある。傾きθ1は、一例として5°である所定角度θ0(閾値)以上の場合には、実際の破面の深さとY軸の値との間の誤差が大きくなる。
【0065】
上述した傾き調整ステップS123では、
図9に示されるように、破面51の線形回帰直線LRの傾きθ1が所定角度θ0以上の場合には(S124で「YES」の場合)、線形回帰直線LRを第1座標軸(X1軸)とし、且つ、線形回帰直線LRに直交する破面51の深さ方向に沿った直線を第2座標軸(Y1軸)とする直交座標系に座標変換を行う(座標変換ステップS125)。なお、他の幾つかの実施形態では、傾きθ1の大きさに関わらず、X1軸とY1軸を有する直交座標系に座標変換を行ってもよい。
【0066】
上記の方法によれば、破面51の線形回帰直線LRの傾きθ1が所定角度θ0以上の場合には、一計測視野範囲6を計測した際の計測座標系(X軸、Y軸)を用いると破面51の深さ方向の誤差が大きくなる。このため、上述した線形回帰直線LRの傾きθ1が所定角度θ0以上の場合には、上述した直交座標系(X1軸、Y1軸)に座標変換をすることで、破面の深さ方向における誤差を少なくすることができる。
【0067】
幾つかの実施形態では、上述した第1結晶方位差OD1は、破面近傍位置55における破面51の深さ方向に直交する方向に沿って配列される複数の計測点Pの結晶方位差の統計値を含み、上述した第2結晶方位差OD2は、破面遠方位置56における破面51の深さ方向に直交する方向に沿って配列される複数の計測点Pの結晶方位差の統計値を含む。
【0068】
第1結晶方位差OD1の統計値は、
図6中点線で示される線上に位置するような、破面近傍位置55と破面51からの深さが同じである複数の計測点Pの統計値である。また、第2結晶方位差OD2の統計値は、
図6中二点鎖線で示される線上に位置するような、破面遠方位置56と破面51からの深さが同じである複数の計測点Pの統計値である。ここで、統計値には、平均値や標準偏差、パーセンタイル値などが含まれる。なお、第1結晶方位差OD1や第2結晶方位差OD2の統計値を、上述したX軸やX1軸に沿った直線上の複数の計測点Pの統計値とすると、破面51の凹凸形状が顕著な場合に深さが同じである複数の計測点Pの統計値に比べて、誤差が大きくなる。
【0069】
図6に示されるように、金属材料には破面51から深い位置に局所的に結晶方位差の大きい部分(極値部分57)が存在することがある。上記の方法によれば、第1結晶方位差OD1や第2結晶方位差OD2は、各々所定位置における破面の深さ方向に直交する方向に沿って配列される複数の計測点Pの結晶方位差の統計値を含んでいるので、上述した局所的に結晶方位差が大きい部分(極値部分57)が及ぼす影響を少なくできるため、金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを高精度で推定することができる。
【0070】
幾つかの実施形態にかかる金属材料の破壊原因の推定システム1は、
図2に示されるように、金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測可能な計測装置11であって、一計測視野範囲6に含まれる複数の計測点Pにおける結晶方位を取得可能な計測装置11と、計測装置11が取得した結晶方位に基づいて複数の計測点Pにおける結晶方位差を取得可能な上述した解析装置36と、解析装置36が取得した上述した破面近傍位置55の第1結晶方位差OD1と、解析装置36が取得した上述した破面遠方位置56の第2結晶方位差OD2と、の差分である第1差分D1を取得可能な上述した差分演算装置37(演算装置)と、を備えている。
【0071】
計測装置11は、
図2に示されるように、EBSD検出装置2、SEM制御ユニット12、ステージ制御ユニット13、カメラ制御ユニット14、および情報処理装置3の画像処理装置35を少なくとも含んでいる。
【0072】
上記の構成によれば、金属材料の破壊原因の推定システム1は、上述した結晶方位を取得可能な計測装置11、上述した結晶方位差を取得可能な解析装置36、および上述した第1差分D1を取得可能な差分演算装置37を備えるので、上述した第1差分D1を取得することができる。このため、取得した第1差分D1により金属材料の破壊原因が疲労破壊であるか否かを高精度で推定することができる。また、上記の構成によれば、計測装置11は金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、金属材料の破壊原因の推定システム1は、短期間で金属材料の破壊原因の推定を行うことができる。
【0073】
図11は、本発明の一実施形態にかかる金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法の一例を示すフロー図である。
図11に示されるように、幾つかの実施形態にかかる金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法70は、上述した計測ステップS101と、上述した結晶方位差取得ステップS102と、上述した第1差分取得ステップS103と、金属材料と同じ材料から形成された第2試料8(試料)についての、応力拡大係数パラメータと、第1差分D1に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分D2との相関関係を取得する相関関係取得ステップS204と、取得された相関関係に基づいて、第1差分D1から金属材料の応力拡大係数パラメータを推定し、推定した応力拡大係数パラメータから金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定する第2推定ステップS205と、を備えている。ここで、
図2に示されるように、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法70を実施するための、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システム7は、上述した金属材料の破壊原因の推定システム1と同様の構成を備えている。
【0074】
相関関係取得ステップS204よりも前に、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法70の推定対象である金属材料と同じ材料から試験片9が作成される。
図12は、疲労き裂進展試験を説明するための図であって、疲労き裂進展試験の構成と疲労き裂進展試験に用いられる試験片とを概略的に示す図である。試験片9は、
図12に示されるように、
図12中紙面垂直方向に厚さを有する板状に切欠91が形成されたCT試験片と呼称されるものであり、一対の貫通孔92の各々に挿入される不図示のピンを介して、不図示の試験治具に連結されることにより、不図示の材料試験機における試験位置に配置される。そして、材料試験機により繰り返し荷重が負荷される。ここで、
図12に示されるように、コンプライアンス法によりき裂長さaを算出する際の試験片幅Wは、貫通孔92の中心から切欠91が形成された側とは反対側の端部までの距離である。
【0075】
試験片9は、
図12に示されるように、切欠91が形成された側とは反対側の端部には背面ひずみゲージ93が設けられている。背面ひずみゲージ93は計測機94に接続されており、計測したひずみの値を計測機94に伝達する。また、
図12に示されるように、試験片9の上端および下端の2点には電流源95が接続されており、直流の電流が付与される。電流の値は計測機94に伝達される。また、
図12に示されるように、試験片9の切欠91を挟んだ2点には、計測機94が接続されており、2点間における電位差が計測される。計測機94は、疲労き裂進展試験時に、背面ひずみゲージ93が計測したひずみ、上述した電流の値、および上述した電位差の変化挙動を記憶するようになっている。上述した計測機94に記憶されたデータから第2試料8の応力拡大係数パラメータが推定される。
【0076】
第2試料8は、
図3に示されるように、疲労き裂進展試験により疲労して破断した試験片9から、破面81を含むように切り出された金属構成部83と、破面81を保護するために例えばエポキシ樹脂などを固めた樹脂構成部84であって、金属構成部83とは破面81に対して反対側に設けられる樹脂構成部84と、を含んでいる。第2試料8は、破面81に対して垂直な面である計測面82が計測前に研磨装置などにより研磨されている。
【0077】
第2試料8は、上述した第1試料5と同様に、上述した計測ステップS101および上述した結晶方位差取得ステップS102と同様のステップを経て、一計測視野範囲6に含まれる複数の計測点Pの、計測点P毎の結晶方位の情報、計測点Pの位置座標および計測点P毎の結晶方位差などが記憶装置32に記憶される。
【0078】
図13は、本発明の一実施形態における試料であって、疲労破壊した金属材料と同じ材料から形成された試料の一計測視野範囲における結晶方位差の分布を説明するための図である。
図13に示されるように、破面81からの深さが所定以下である破面近傍位置85と、破面近傍位置85よりも破面81からの深さが大きい破面遠方位置86と、を規定している。
図13中点線は破面近傍位置85と破面81からの深さが同じ位置を繋ぐ線であり、
図13中二点鎖線は破面遠方位置86と破面81からの深さが同じ位置を繋ぐ線である。ここで、破面近傍位置85は、破面81からの深さが80μm以下である。破面近傍位置85は、好ましくは破面81からの深さが40μm以下であり、さらに好ましくは破面81からの深さが20μm以下である。また、破面遠方位置86は、破面81からの深さが400μm以下である。破面遠方位置86は、好ましくは破面81からの深さが200μm以下であり、さらに好ましくは破面81からの深さが100μm以下である。
【0079】
そして、破面近傍位置85における結晶方位差である第3結晶方位差OD3と、破面遠方位置86における結晶方位差である第4結晶方位差OD4と、の差分である第2差分D2を算出する。ここで、第3結晶方位差OD3や第4結晶方位差OD4は、第1結晶方位差OD1や第2結晶方位差OD2と同様に統計値であってもよい。
【0080】
図14は、試料についての、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、応力拡大係数と、の相関関係を説明するためのグラフである。
図15は、試料についての、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、応力拡大係数範囲と、の相関関係を説明するためのグラフである。
図16は、試料についての、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、有効応力拡大係数範囲と、の相関関係を説明するためのグラフである。
【0081】
図14〜16に示されるように、金属材料と同じ材料から形成された第2試料8についての、応力拡大係数K、応力拡大係数範囲ΔKおよび有効応力拡大係数範囲ΔKeffを含む応力拡大係数パラメータと、第2差分D2と、の間には相関関係がある。なお、記憶装置32は、第2試料8についての上述した相関関係を表す数値データ、グラフや式、表などを前もって記憶していてもよい。
【0082】
上述した相関関係取得ステップS204では、記憶装置32から、第2試料8についての、応力拡大係数パラメータと、第1差分D1に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分D2との相関関係を取得する。
【0083】
上述した第2推定ステップS205は、
図11に示されるように、相関関係取得ステップS204において取得された相関関係に基づいて、第1差分D1から金属材料の応力拡大係数パラメータを推定するステップS206と、上述したステップS206において取得された金属材料の応力拡大係数パラメータから金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定するステップS207と、を含んでいる。
【0084】
上述したように、幾つかの実施形態にかかる金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定方法70は、
図11に示されるように、上述した計測ステップS101と、上述した結晶方位差取得ステップS102と、上述した第1差分取得ステップS103と、上述した相関関係取得ステップS204と、上述した第2推定ステップS205と、を備えている。
【0085】
上述したように、本発明者らは、鋭意検討の結果、金属材料と同じ材料から形成された試料についての、応力拡大係数パラメータと、試料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分と、の間に相関関係があること、および該相関関係に基づいて金属材料の破面の表層における異なる2つの深さ位置の結晶方位差の差分により、金属材料の応力拡大係数パラメータを推定できることを見出した。
【0086】
上記の方法によれば、第1差分D1に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分D2と応力拡大係数パラメータとの相関関係に基づいて、上述した計測ステップS101、結晶方位差取得ステップS102および第1差分取得ステップS103を経ることで取得される第1差分D1により、金属材料の応力拡大係数パラメータを高精度で推定することができる。そして、金属材料の応力拡大係数パラメータから金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定することができる。また、上記の方法によれば、上述した相関関係を取得するとともに、金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、短期間で金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定を行うことができる。
【0087】
幾つかの実施形態では、上述したように、応力拡大係数パラメータは、第2試料8(試料)に対して疲労き裂進展試験を実施することにより取得され、第2差分D2は、疲労き裂進展試験が実施された第2試料8の複数の計測点Pにおける結晶方位を取得し、取得した結晶方位に基づいて複数の計測点Pにおける結晶方位差を取得するとともに、疲労き裂進展試験において生成された破面81からの深さが所定以下である破面近傍位置85における結晶方位差である第3結晶方位差OD3と、破面近傍位置85よりも破面81からの深さが大きい破面遠方位置86であって、破面81からの深さが100μm以下である破面遠方位置86における結晶方位差である第4結晶方位差OD4と、の差分である。
【0088】
上記の方法によれば、応力拡大係数パラメータを取得するために疲労き裂進展試験が実施された第2試料8(試料)について第2差分D2が取得されるので、応力拡大係数パラメータと第2差分D2との間の相関関係の精度を向上させることができる。また、第2試料8の第3結晶方位差OD3や第4結晶方位差OD4は、金属材料の第1結晶方位差OD1や第2結晶方位差OD2に対応しているので、第2試料8の第2差分D2を金属材料の第1差分D1に精度よく対応させることができる。また、上記の方法によれば、破面近傍位置85、および破面近傍位置85よりも破面81からの深さが大きく、且つ、破面81からの深さが100μm以下である破面遠方位置86、における結晶方位差に基づいて第2差分D2が取得されるので、破面近傍位置85および破面遠方位置86を含む一計測視野範囲6の大きさを小さくすることができる。そして、一計測視野範囲6を小さくすることで、計測や計測結果の処理にかかる時間を少なくすることができる。
【0089】
幾つかの実施形態では、上述した応力拡大係数パラメータは、応力拡大係数K、応力拡大係数範囲ΔK、および有効応力拡大係数範囲ΔKeffの少なくとも一つを含んでいる。上記の方法によれば、第1差分D1により、応力拡大係数K、応力拡大係数範囲ΔK、または有効応力拡大係数範囲ΔKeffを推定することができるので、応力拡大係数Kなどを用いて金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定することができる。
【0090】
幾つかの実施形態にかかる金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システム7は、
図2に示されるように、金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測可能な計測装置11であって、一計測視野範囲6に含まれる複数の計測点Pにおける結晶方位を取得可能な上述した計測装置11と、計測装置11が取得した結晶方位に基づいて複数の計測点Pにおける結晶方位差を取得可能な上述した解析装置36と、解析装置36が取得した上述した破面近傍位置55の第1結晶方位差OD1と、解析装置36が取得した上述した破面遠方位置56の第2結晶方位差OD2と、の差分である第1差分D1を取得可能な上述した差分演算装置37(演算装置)と、金属材料と同じ材料から形成された第2試料8(試料)についての、応力拡大係数パラメータと第1差分D1に対応する深さ位置における結晶方位差の差分である第2差分D2との相関関係を記憶する上述した記憶装置32と、記憶装置32に記憶された相関関係に基づいて、第1差分D1から金属材料の応力拡大係数パラメータを推定する推定装置38と、を備えている。
図2に示されるように、演算装置34は推定装置38を含んでいる。
【0091】
上記の構成によれば、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システム7は、上述した金属材料の結晶方位を取得可能な計測装置11、上述した金属材料の結晶方位差を取得可能な解析装置36、および上述した第1差分D1を取得可能な差分演算装置37を備えるので、上述した金属材料の第1差分D1を取得することができる。また、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システム7は、上述した相関関係を記憶する記憶装置32、および記憶装置32に記憶された相関関係に基づいて第1差分D1から金属材料の応力拡大係数パラメータを推定する推定装置38をさらに備えるので、上述した第1差分D1の値から、金属材料の応力拡大係数パラメータを高精度で推定することができる。そして、金属材料の応力拡大係数パラメータから金属材料の疲労破壊時における応力レベルを推定することができる。また、上記の構成によれば、上述した相関関係を記憶装置32に記憶しておくとともに、計測装置11が金属材料の少なくとも破面51の一部を含む一計測視野範囲6を計測すればよいので、計測や計測結果の処理にかかる時間が少なく、金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定システムは、短期間で金属材料の疲労破壊時における応力レベルの推定を行うことができる。
【0092】
なお、上述した幾つかの実施形態では、画像処理装置35、解析装置36、差分演算装置37および推定装置38は、情報処理装置3の演算装置34に含まれていたが、これらの装置は、演算装置34や情報処理装置3とは別に設けられる例えばマイクロコンピュータなどであってもよい。
【0093】
また、上述した幾つかの実施形態では、EBSD検出装置2(結晶方位検出装置)は、電子後方散乱回折像法により複数の計測点Pの結晶方位を計測するようになっていたが、X線回折法などの電子後方散乱回折像法以外の方法で結晶方位を取得するようにしてもよい。
【0094】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。