(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水面に浮上している水中移動体の気中から所定の構造物の気中箇所に対して光学式の計測信号を照射することにより求まる前記所定の構造物までの距離情報と、前記水面に浮上している水中移動体の水中から前記所定の構造物の水中箇所に対して音響式の計測信号を照射してからその反射信号を受信するまでに要した時間情報とを元に求まる、水中における前記音響式の計測信号の伝搬速度である水中音速情報を記憶する音速情報記憶部と、
前記音響式の計測信号を照射することで前記水中移動体の周囲に形成されるスキャン平面の計測結果に前記音速情報記憶部の前記水中音速情報を反映して計測断面データを作成し、その作成した前記計測断面データと、前記水中移動体の現在位置の候補となる調査空間内の設計断面データと照合することにより、前記水中移動体の現在位置を求める移動体位置算出部とを有することを特徴とする
水中移動体の位置推定装置。
前記移動体位置算出部は、さらに、既に求めた現在位置における前記調査空間内の仮想カメラ画像と、前記水中移動体の気中を撮影した実撮像画像とを比較して、両画像内の撮影物のずれ量をもとに前記既に求めた現在位置を補正することを特徴とする
請求項1に記載の水中移動体の位置推定装置。
前記移動体位置算出部は、照合対象とする前記計測断面データおよび前記設計断面データそれぞれについて、前記水中移動体の圧力センサから求めた水中における前記水中移動体の深度情報と、前記水中移動体のジャイロセンサから求めた水中における前記水中移動体の姿勢角情報とを反映した断面データを用いることを特徴とする
請求項1に記載の水中移動体の位置推定装置。
前記音速情報記憶部には、前記光学式の計測信号を照射するレーザセンサまたはカメラにより求まる前記所定の構造物までの前記距離情報を用いて計算された前記水中音速情報が記憶されることを特徴とする
請求項1に記載の水中移動体の位置推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、水中調査システムの側面図である。なお、
図1などの側面図は、水中調査システムの立体構造をY軸(Y+軸、Y−軸)と、Z軸(Z+軸、Z−軸)とからみたときの図である。これらの軸の定義は、
図2の説明で明らかにする。
【0013】
この水中調査システムが適用される建屋1には、調査対象である水槽2が設置されている。建屋1の上部には作業員8の作業スペースであるフロア9がある。なお、水中調査装置3は、
図1に示した建屋1内に設置された水槽2内の原子炉内検査だけでなく、ダムや河川の水中での構造物検査などの濁水環境下での水中移動体の位置推定に広く適用可能である。つまり、水槽2の外であるフロア9にいる作業員が水中調査装置3を直接目視できない濁水環境下でも、水中調査装置3の位置を把握することができる。
【0014】
水中調査システムは、水中調査装置3と、ケーブル4と、制御装置5と、モニタ6と、コントローラ7とを含めて構成される。
水中調査装置3は、水槽2内の壁面や構造物の目視検査に用いる水中移動体であり、その水中移動体自身の位置を推定するための位置推定用の各種デバイスを内部に備えている(詳細は
図2)。
【0015】
制御装置5は、ケーブル4を介して水中調査装置3に接続される。制御装置5は、コンピュータであり、ハードウェアとして、各種プログラムを実行するための演算手段としてのCPU(Central Processing Unit)などの演算処理装置と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置と、各装置と水中調査装置3に係る各センサなどへのデータおよび指示などの入出力制御を行うための入出力装置を備えている。記憶装置は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびフラッシュメモリなどの半導体メモリや、ハードディスクドライブなどの磁気記憶装置として構成される。
【0016】
モニタ6は、制御装置5に接続され、水中調査装置3のカメラ画像を表示するとともに水中調査装置3の位置や姿勢などを表示する。
コントローラ7は、制御装置5に接続され、作業員8に水中調査装置3を操作させるために使用される。水槽2内の壁面や構造物の目視検査作業を行う場合、フロア9上の作業員8は、水槽2内に水中調査装置3を投入し、この水中調査装置3の位置や姿勢をモニタ6で確認しつつ、コントローラ7を操作する。
【0017】
図2は、水中調査装置3の斜視図である。なお、本明細書での座標系は、水中調査装置3の本体をもとにした、以下の右手座標系として定義される。
X軸は、水中調査装置3からみて左右の(筐体側面の)方向であり、右方をプラス側(X+軸)とし、左方をマイナス側(X−軸)とする。
Y軸は、水中調査装置3からみて前後の方向であり、前方をプラス側(Y+軸)とし、後方をマイナス側(Y−軸)とする。
Z軸は、水中調査装置3からみて垂直の(高さの)方向であり、下方をプラス側(Z+軸)とし、上方をマイナス側(Z−軸)とする。
以上の3軸は、互いに直交しているXYZ座標系である。なお、以下の説明では、XY平面上での水中調査装置3の位置を「水平位置」とし、Z軸での水中調査装置3の位置を「垂直位置」とする。例えば、水中調査装置3が前方に1m進んだ場合は水平位置は変化するが、垂直位置は変化しない。別の例で、水中調査装置3が下方に1m沈んだ場合は水平位置は変化しないが、垂直位置は変化する。
【0018】
水中調査装置3は、水中調査用カメラ10と、画像取込部11と、調査装置側信号伝送部12と、慣性センサ部13と、超音波距離計17(音響式相対距離検出器)と、気中環境撮像用カメラ18と、レーザ距離計19(光学式相対距離検出器)と、圧力センサ20と、スラスタ21とを備える。
スラスタ21は、上方(Z−軸)、後方(Y−軸)、左方(X−軸)にそれぞれ設けられた推進機構である。3つのスラスタ21は、それぞれ、スクリューと、スクリューを正回転又は逆回転に駆動するモータ(図示せず)で構成されている。スラスタ21は、水中調査装置3に対して上下方向(Z軸)の推力、前後方向(Y軸)の推力、および、左右方向(X軸)の推力をそれぞれ付与する。すなわち、このスラスタ21により、水中調査装置3は水で満たされた3次元空間を自在に移動可能となっている。
【0019】
慣性センサ部13は、水中調査装置3の姿勢(姿勢角)を検出するための姿勢角検出器であり、慣性センサ部13は、3軸ジャイロ14と、地磁気センサ15と、傾斜計16とを備える。
3軸ジャイロ14は、X軸、Y軸、およびZ軸周りの角速度をそれぞれ検出する角速度検出器である。
地磁気センサ15は、Z軸周りの角度(方位角)を検出する方位角検出器である。
傾斜計16は、X軸およびY軸周りの角度(傾斜角)を検出する傾斜角検出器である。
【0020】
圧力センサ20は、水中調査装置3に作用する水圧を検出する垂直位置検出器であり、水中調査装置3の底面から外部に露出したセンサ部を有している。このセンサ部に作用する水圧を検出することで圧力を検出している。なお、圧力センサ20の設置の有無は、センサ部を外部から視認することで容易に確認できる。圧力センサ20で検出された圧力は、水槽2内における水中調査装置3の垂直位置(Z軸深度)の検出に用いられる。
【0021】
水中調査用カメラ10は、本体の前方(Y+軸)に設けられ水槽2内の壁面や構造物などを撮像する。画像取込部11は、水中調査用カメラ10の画像を電子情報化する。
気中環境撮像用カメラ18は、水中調査装置3が水面上にいるときに気中部を撮像する。
【0022】
レーザ距離計19は、本体上部に取り付けられた光学式の相対距離検出器であり、例えば、レーザセンサまたはカメラである。レーザ距離計19は、それぞれ、レーザを投光する投光部と、投光したレーザを受光する受光部を有している。投光部は、走査装置によってZ軸周りに回転され、同一平面上(ここでは水平面上となる)にレーザを走査する。投光部より投光および走査されたレーザは周囲の構造物などに反射して受光部で受光される。レーザ距離計19は、レーザの投光時刻からその反射光の受光時刻までのレーザ飛行時間に基づいて周囲の構造物までの相対距離を測定している。
【0023】
超音波距離計17は、本体下部(底面)に取り付けられた音響式の相対距離検出器であり、例えば、超音波センサである。超音波距離計17も、基本原理はレーザ距離計19と同様であり、超音波の送信時間と受信時間の差と超音波が伝播する媒質(水)の音速から、構造物までの相対距離を算出する。
調査装置側信号伝送部12は、ケーブル4を介して、圧力センサ20、慣性センサ部13(3軸ジャイロ14、傾斜計16、地磁気センサ15)、超音波距離計17、レーザ距離計19からの検出信号と、画像取込部11からの画像信号とを制御装置5に出力する。
【0024】
制御装置5は、調査装置側信号伝送部12からの検出信号などに基づいて水中調査装置3の位置や姿勢を算出し、この算出した水中調査装置3の位置や姿勢をモニタ6に出力して表示している。また、制御装置5は、調査装置側信号伝送部12からの画像信号をモニタ6に出力して、水中調査用カメラ10の画像を表示している。
さらに、制御装置5は、コントローラ7からの操作信号に応じてスラスタ21を駆動制御する制御信号を生成し、この生成した制御信号をケーブル4および調査装置側信号伝送部12を介してスラスタ21に出力している。
【0025】
図3は、制御装置5の構成図である。制御装置5は、水中調査装置3の位置および姿勢を算出するために、角速度算出部22と、角度算出部23と、姿勢角算出部24と、垂直位置算出部25と、音速補正処理部26と、音速情報記憶部27と、水平位置算出部28と、設計情報記憶部29と、位置・姿勢記憶部30とを有する。
【0026】
角速度算出部22は、3軸ジャイロ14の角速度信号に基づきX軸、Y軸、およびZ軸周りの角速度をそれぞれ算出する。
角度算出部23は、傾斜計16の角度信号に基づきX軸およびY軸周りの傾斜角をそれぞれ算出するとともに、地磁気センサ15の角度信号に基づきZ軸周りの方位角を算出する。
姿勢角算出部24は、角速度算出部22が算出した角速度と、角度算出部23が算出した傾斜角および方位角とに基づき、水中調査装置3の姿勢角(3軸周りの姿勢角)を算出する。
垂直位置算出部25は、圧力センサ20の圧力信号に基づき水中における水中調査装置3の深度(垂直位置)を算出する。
【0027】
音速補正処理部26は、レーザ距離計19と超音波距離計17で検出された水中調査装置3の位置と、その水中調査装置3の周辺に位置する構造物データの位置との相対距離に基づいて、超音波の音速を補正する(詳細は
図7)。
音速情報記憶部27は、音速補正処理部26の結果を保存するための記憶部であり、音速補正処理部26により補正された超音波の水中音速情報(以下、「補正音速」)が、補正時点の垂直位置に対応付けて保存される。
【0028】
水平位置算出部28は、計測断面データと設計断面データとのマップマッチング処理により、水中調査装置3の水平位置を算出する。
計測断面データは、水中調査装置3の周辺についての超音波距離計17の計測データを、音速情報記憶部27から読み出した補正音速を反映して断面化したデータである。
設計断面データは、設計情報記憶部29の構造物設計データの各位置について、仮想空間から断面化されたデータである。なお、計測断面データおよび設計断面データは、それぞれ姿勢角算出部24が出力する姿勢角と、垂直位置算出部25が出力する垂直位置とを反映してもよい。
設計情報記憶部29は、調査環境中の構造物設計データとして、各構造物の設置位置データを保存するための記憶部である。
【0029】
位置・姿勢記憶部30は、姿勢角算出部24が出力する姿勢角と、垂直位置算出部25が出力する垂直位置と、水平位置算出部28が出力する水平位置とを保存するための記憶部である。位置・姿勢記憶部30に保存された各情報は、水中調査装置3の現在状態を示す情報としてモニタ6に送信され、画像取込部11で電子情報化された目視検査用の水中調査用カメラ10の映像とともに表示される。
【0030】
図4は、モニタ6の表示画面図である。表示画面120は、位置座標表示欄95と、水平位置画像表示欄96と、カメラ映像表示欄99を有している。
【0031】
位置座標表示欄95には、制御装置5の位置・姿勢記憶部30から読み込んだ水中調査装置3の現在位置が例えば絶対位置として表示される。水平位置画像表示欄96には、水中調査装置3が位置する垂直位置(XY座標)における水槽2内の水平断面画像とともに、水中調査装置3の水平位置を示すマーカ94が表示される。
【0032】
水平位置画像表示欄96における水槽2内の水平断面画像は、例えば、制御装置5における設計情報記憶部(図示せず)に記憶されている水槽2の形状データ(例えば、CADデータ)と、垂直位置算出部25で算出された水中調査装置3の垂直位置とを利用して描かれている。この水平断面画像は、水中調査装置3の垂直方向の移動に追従して随時変化する。
また、水平位置画像表示欄96には、水中調査装置3の投入位置(初期位置)をマーカ97でマークする機能や、水中調査装置3の移動軌跡98を表示又は非表示する機能が具備されている。
【0033】
カメラ映像表示欄99は、水中調査装置3に搭載された水中調査用カメラ10の映像が表示される部分である。
なお、モニタ6は、図示しない他の表示画面に切り換えられるようになっており、位置・姿勢記憶部30から読み込んだ水中調査装置3の姿勢なども表示されるようになっている。このように構成された表示画面120によれば、作業員8は水槽2内のどこに水中調査装置3があるかを視覚的に把握しながら検査することができる。
【0034】
このように、作業員8が自身の立ち位置からは目視できない各種情報を、表示画面120を介して的確に把握させるためには、水中調査装置3の現在状態(位置・姿勢記憶部30内の姿勢角と、垂直位置と、水平位置)が高精度に求まっている必要がある。そこで、
図5からの説明では、水中調査装置3の現在状態を高精度に求める具体的な処理内容を説明する。
【0035】
図5は、制御装置5による調査工程のメイン処理を示すフローチャートである。
S11は、超音波距離計17のキャリブレーション処理である。このキャリブレーション処理は、水中調査装置3が水面に浮上し、レーザ距離計19が気中部、超音波距離計17が水中部に位置するときに実行される。
S12は、水中調査装置3の操作処理と、その操作に従って移動中の水中調査装置3の位置推定処理である。作業員8がコントローラ7を操作して、水中部の水中調査装置3を操縦する。
S13は、水中調査装置3の推定位置の補正処理である。この補正処理は、水中調査装置3が水面に浮上し、気中環境撮像用カメラ18が気中部に位置するときに実行される。
【0036】
図6は、
図5の調査工程が行われたときの水中調査システムの側面図である。
位置401において、調査工程が開始されると、水中調査装置3が水面に浮上した状態で超音波距離計17のキャリブレーション処理(S11)が実行される。
位置401から位置402までは、水中調査装置3の操作処理(S12)により、水中調査装置3が水中部を移動(潜行)する。そして、位置402において、水中調査装置3の推定位置の累積誤差が増加してきたので、水中調査装置3は水面に向かって浮上を開始する。
位置403において、水中調査装置3が水面に浮上した状態で水中調査装置3の推定位置の補正処理(S13)が実行される。これにより、推定位置の累積誤差がリセットされ、水中調査装置3の位置精度が回復する。
【0037】
位置403から位置404までは、水中調査装置3の操作処理(S12)により、再び、水中調査装置3が水中部を移動(潜行)する。位置405において、再び水中調査装置3の推定位置の補正処理(S13)が実行される。
そして、位置405から位置406まで移動することで、水中調査装置3は構造物の亀裂などの欠陥箇所410を発見することで、調査工程を終了させる。
このように、S11,S12,S13は繰り返し実行される。なお、浮上位置403,405においても、初回の浮上位置401と同様に、キャリブレーション処理(S11)を実行してもよい。
【0038】
図7は、キャリブレーション処理(S11)の概要を示す側面図である。
まず、音速補正処理部26は、レーザ距離計19から周囲の壁面などの構造物(の気中箇所)に対して、レーザ信号(第1測定用信号)を発射してから、その反射信号を受信するまでの時間をもとに気中距離Laを求める。
次に、音速補正処理部26は、水槽2の設計データ(例えば、壁面の曲率から求めた気中の壁面位置と水中の壁面位置との差分Lc)と、水中調査装置3の設計データ(例えば、レーザ距離計19の位置と超音波距離計17の位置との差分Ld)とをもとに、気中距離Laを水中距離Lbに修正する。なお、凹凸のない垂直な壁面の形状を頼りにキャリブレーション処理を行う場合は、差分Lc=0である。
【0039】
そして、音速補正処理部26は、超音波距離計17から周囲の壁面などの構造物(の水中箇所)に対して、超音波信号(第2測定用信号)を発射してから、その反射信号を受信するまでの音の伝搬時間(受信時刻−送信時刻)と、水中距離Lbとをもとに、超音波信号の水中環境下での音速情報を求める。水中環境下での音速情報は、気中環境下での音速情報を水中環境下で補正した音速情報とも言える。
このように、気中部と水中部で相対距離が異なる場合については、レーザ距離計19と超音波距離計17の水中調査装置3への設置位置関係を考慮して、レーザ距離計19の計測値を超音波距離計17の計測面での計測値になるように音速情報を求めればよい。
【0040】
図8は、音速補正処理部26が実行する超音波距離計17のキャリブレーション処理(S11)の詳細を示すフローチャートである。
S101は、水中調査装置3の初期位置入力処理である。
S102は、レーザ距離計19による構造物までの距離計測処理であり、気中部周辺構造物までの相対距離Laを計測する。
S103は、超音波距離計17による構造物までの距離計測処理であり、水中部周辺構造物までの相対距離Lbを計測する。
S104は、超音波距離計17の音速補正処理である。
図7で説明したように、音速補正処理部26は、レーザ距離計19で計測した相対距離Laを真値として、超音波距離計17で計測した距離が実際の距離Lbと一致するように音速を逆算する。
S105は、S104で計算した音速補正情報を音速情報記憶部27に保存する処理である。
【0041】
図9は、水中調査装置3の操作と移動中の位置を推定する処理(S12)の詳細を示すフローチャートである。
S201は、水平位置算出部28へのデータ入力処理である。水平位置算出部28は、設計情報記憶部29から調査環境の構造物設計情報を読み込み、音速情報記憶部27から音速補正情報を読み込む。
【0042】
S202は、姿勢角算出部24が慣性センサ(3軸ジャイロ14、地磁気センサ15、傾斜計16)の計測結果から、水中調査装置3の姿勢角を算出する処理である。S202の詳細を、以下の手順(1a)〜(5a)の順に説明する。
手順(1a)として、角速度算出部22は3軸ジャイロ14の角速度信号を取り込み、角度算出部23は傾斜計16および地磁気センサ15の角度信号を取り込む。
【0043】
手順(2a)として、角速度算出部22は、3軸ジャイロ14の角速度信号から各軸(X軸、Y軸、Z軸)周りの角速度を算出する。
3軸ジャイロ14は、静電浮上型ジャイロであり、角速度に比例する増減値が基準電圧(一定の電圧値)に加えられた正の電圧値を出力する。そのため、まず3軸ジャイロ14の各軸(X軸、Y軸、Z軸)周りの測定信号に対し基準電圧を減じる基本処理を行う。
ここで、基準電圧は、通常、3軸ジャイロ14の固有スペックとして示されているが、本実施形態では、角速度信号が入力されないときの電圧値をあらかじめ計測して平均化したものを用いる。
その後、角速度算出部22は、基本処理がなされた測定信号に対して、電圧−角速度換算係数(3軸ジャイロ14の固有のスペックとして示される一定値)を乗じることで、各軸周りの角速度を算出する。
【0044】
手順(3a)として、角度算出部23は、傾斜計16の角度信号から各軸(X軸、Y軸)周りの傾斜角を算出する。本実施の形態の傾斜計16は、封入された電解液の液面変化(X軸およびY軸周りの傾斜角)を電圧変化に変換して出力するものである。そのため、まず各軸(X軸、Y軸)周りの測定信号から基準電圧(傾斜計16の固有スペックとして示される一定の電圧値)を減じる基本処理を行う。
その後、角度算出部23は、基本処理がなされた測定信号に対して、傾斜角換算係数(傾斜計16の固有スペックとして示される一定値)を乗じることで、各軸周りの傾斜角を算出する。
【0045】
手順(4a)として、角度算出部23は、地磁気センサ15の角度信号からZ軸周りの方位角を算出する。本実施の形態の地磁気センサ15は、X軸方向およびY軸方向に感度を有するホール素子で捉えた磁力を出力するものである。そのため、まずX軸およびY軸の地磁気信号から基準電圧を減じ、ゲインを乗じる基本処理を行う。ここで、基準電圧およびゲインは、地磁気センサ15を使用する環境により異なるため、あらかじめ使用する領域で測定したものを用いる。
その後、角度算出部23は、基本処理がなされたX軸およびY軸の測定信号を用い、Z軸周りの方位角を算出する。
【0046】
手順(5a)として、姿勢角算出部24は、手順(2a)〜(4a)で求めた各パラメータをカルマンフィルタ(この種のものとして公知のもの)に入力し、水中調査装置3の姿勢角(3軸周りの姿勢角)の最適値を推定する。入力される各パラメータとは、X軸、Y軸、およびZ軸周りの角速度、X軸およびY軸周りの傾斜角、Z軸周りの方位角である。
その後、姿勢角算出部24は、手順(5a)で推定した水中調査装置3の姿勢角を位置・姿勢記憶部30に記憶する。
【0047】
S203は、圧力センサ20の計測結果から水中調査装置3の垂直位置(上下位置)を算出する処理である。S203の詳細を、以下の手順(1b)〜(3b)の順に説明する。
手順(1b)として、垂直位置算出部25は、まず圧力センサ20の圧力信号(検出電圧Vp)を取り込む。そして、垂直位置算出部25は、検出電圧Vpから基準電圧Vp_baseを減じた結果に、圧力換算係数Kv_pを乗じて圧力Pを算出する。
基準電圧Vp_baseは、圧力センサ20の固有スペックとして示される一定の電圧値である。
圧力換算係数Kv_pは、圧力センサ20の固有スペックとして示される一定値である。
【0048】
手順(2b)として、垂直位置算出部25は、算出した圧力Pと水槽2内の水の密度ρと重力加速度gとを用い、水中調査装置3の深度Hを算出する。そして、垂直位置算出部25は、算出した深度Hに例えばフロア9から水面までの距離を加えて、水中調査装置3の垂直位置とする。
手順(3b)として、垂直位置算出部25は、算出した水中調査装置3の垂直位置を位置・姿勢記憶部30に記憶する。
【0049】
S204は、超音波距離計17の計測結果から構造物形状を算出する処理である。水平位置算出部28は、超音波距離計17で計測した構造物までの相対距離情報(走査角度と距離)を、S201で取得した音速補正情報を用いて補正する。
そして、水平位置算出部28は、補正した相対距離情報をスキャン平面上において構造物の表面(外形)が位置する座標値L(xL,yL)へ変換することで、構造物形状の計測断面データを作成する。計測断面データは、例えば、水中調査装置3周囲のXY平面をスキャン平面とし、立体的な構造物形状(例えば、配管)がスキャン平面に沿って切り出されたものである(例えば、配管の断面であるだ円形状)。
【0050】
S205は、設計情報の設計断面データと、構造物形状の算出結果(計測断面データ)とから、調査装置の水平位置を算出する処理である。水平位置算出部28は、水中調査装置3の垂直位置および姿勢角に基づいて、設計情報記憶部29内に記憶されている設計情報(仮想空間)上で、水中調査装置3の水平位置の候補ごとの設計断面データを作成する。この作成される設計断面データは、水中調査装置3の垂直位置および姿勢角が反映される。
そして、水平位置算出部28は、特許文献1などに記載される断面形状データ間のマップマッチング法を利用して、設計断面データと計測断面データとを照合する。この照合処理により、計測断面データにマッチングする設計断面データの水平位置を、水中調査装置3の水平位置として採用する。
【0051】
S206として、水平位置算出部28は、S202で求めた水中調査装置3の姿勢角と、S203で求めた水中調査装置3の上下位置と、S206で求めた水中調査装置3の水平位置とを位置・姿勢記憶部30に保存する。
【0052】
図10は、水中調査装置の推定位置補正処理(S13)の詳細を示すフローチャートである。
S301は、気中環境撮像用カメラ18の画像(実撮像画像)と、水中調査装置3の現在位置・姿勢(推定値)とを水平位置算出部28に入力する処理である。
S302は、水平位置算出部28が、S301の現在位置・姿勢における撮像画像を、設計情報を用いて推定する処理である。水平位置算出部28は、設計情報記憶部29の設計情報上で、水中調査装置3の推定位置・姿勢における仮想カメラ画像(推定撮像画像)を生成する。なお、設計情報上の仮想カメラの画角は、気中環境撮像用カメラ18に設定された画角と同じ値を設定すればよい。
S303は、水平位置算出部28が、S302の推定撮像画像とS301の実撮像画像とを比較して、画像内のずれ量(画素値)を算出する処理である。
【0053】
S304は、水平位置算出部28が、S303で算出されたずれ量をS301の現在位置・姿勢へ反映することで、S301の推定値を補正する処理である。
S305は、水平位置算出部28が、S304で補正された水中調査装置3の位置・姿勢補正結果を、現在位置・姿勢として位置・姿勢記憶部30に保存する処理である。
【0054】
図11は、
図10は、水中調査装置の推定位置補正処理が行われる具体例を示す側面図である。水中調査装置3の水平位置が、補正前の位置501から補正後の位置502へ、距離Lp分だけ前方(Y+方向)に補正されている。なお、この補正処理は、気中環境撮像用カメラ18の撮像画像に撮影される2つの特徴点(建屋1の天井の照明器具508,509)が手がかりとなった。
【0055】
図12は、
図11の推定位置の補正前後それぞれで用いられる撮像画像の一例を示す画像図である。
撮像画像510は、補正前の位置501を撮影位置としたS302の仮想カメラ画像である。撮像画像520は、補正後の位置502を撮影位置としたS303の実撮像画像である。
そして、2つの撮像画像510には、ともに照明器具508,509が撮影されているが、画像内の撮影された位置が互いに異なる。撮像画像510内では、照明器具508が画像内位置511に撮影され、照明器具509が画像内位置512に撮影されている。撮像画像520内では、照明器具508が画像内位置523に撮影され、照明器具509が画像内位置524に撮影されている。
【0056】
制御装置5は、撮像画像510,520間で、互いに対応する特徴点(照明器具508,509)のずれ量Lqを算出する(S303)。例えば、撮像画像520内では、照明器具508の位置が、画像内位置521(画像内位置511と同じ位置)から右側にずれ量Lqだけずれた画像内位置523にずれている。照明器具509の位置も、画像内位置522(画像内位置512と同じ位置)から右側にずれ量Lqだけずれた画像内位置524にずれている。
制御装置5が、画像内のずれ量Lqから建屋1内のずれ量Lpを計算し、そのずれ量Lpを現在位置501に反映することで、補正後の現在位置502を求める(S304)。つまり、画像内で右側にずれているということは、水中調査装置3は実際には逆側である左側に存在するはずである。
【0057】
以上説明した本実施形態では、3次元移動可能な水中移動体の位置を推定する制御装置5を説明した。水中調査装置3に搭載された位置測定用の各種センサを用いて水中調査装置3の位置を推定するときに、各種センサの得手不得手の状況をあらかじめ考慮し、各種センサの測定データを状況に応じて組み合わせることで、総合的な水中調査装置3の位置精度を向上させることが、本実施形態の主な特徴である。
【0058】
具体的には、気中で高精度な測定が可能な気中環境撮像用カメラ18やレーザ距離計19を用いるときには、水中調査装置3を浮上させる(
図5のS11,S13)。一方、濁水環境下でも精度劣化が発生しづらい超音波距離計17を用いることで、水中調査装置3の水中時の位置を推定する(
図5のS12)。この水中時の位置を推定する処理において、超音波距離計17のキャリブレーション処理(S11)で求めた音速補正情報を用いることで、濁水環境下での推定精度を向上させている。
【0059】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。
また、前記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0060】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、IC(Integrated Circuit)カード、SDカード、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
さらに、各装置を繋ぐ通信手段は、無線LANに限定せず、有線LANやその他の通信手段に変更してもよい。