【実施例】
【0026】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
<1.概略>
(1.1.目的)
図1に示すステント1において、テーパ部5の形状によって、閉塞防止機能を実現することを目的とした。逆流防止機能の向上及び順流抵抗低減の両立をもって閉塞防止性能と定義した。操作する形状寸法は、テーパ部の先端径dとし、テーパ長l及びステント本体2の直径D(ステント径D)については、それぞれ10mmとし、ステント1の全長L(ステント長L)は60mmとした。
【0028】
(1.2.結果)
先端径d=4.5mmのテーパ形状が閉塞防止機能の観点から好適であることがわかった。以下、根拠を示す。
【0029】
<2.根拠>
(2.1.手法)
ステントの内部に流れが生じている時、内部におけるエネルギー損失に応じた圧力損失が生じる。ステント内部に一定流量を流している際の上流と下流の間における圧力差を用いて抵抗の評価を行った。多様な形状寸法における損失の評価を行うため、流体解析ソフトANSYS Fluentによる数値計算を用いた。
図2に示すようなステント周辺の軸対象流れ場モデルを作成し、境界条件として一定流量を与え、計算を行った。
【0030】
胆汁の流量は、様々な研究例からおおよそ推定できるものの、十二指腸側からの逆流流量については規定することが難しいため、胆汁の流量に対して高い流量帯も含めて計算を行う必要がある。シミュレーションでは、水を流体とし、流量を0.07〜0.5mL/min(低流量帯),20〜80mL/min(高流量帯)で15条件設定して計算を実施した。低流量の設定においては、胆汁流量の取り得る値および胆汁と水の粘性の違いを考慮して行なった。より詳細な条件設定及び実測値との比較については、次の項目において述べる。
【0031】
(2.2.計算条件の詳細)
本項目では、シミュレーションにおいて用意したステント形状及び流量、モデルの設定について詳細を述べる。
(2.2.1ステント形状設定)
シミュレーションで用意した形状寸法は、以下の表1の通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
(2.2.2.流量設定)
順方向流、逆方向流共に流量を同様に設定した。低流量域は0.07,0.08,0.09,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5mL/minの8種とした。高流量域は20〜80mL/minを10mL/min刻みで7種設定を行なった。全ての流量に対して両方向のシミュレーションを行なったが、低流量域は主に順方向胆汁を、高流量域は主に逆流や実測値との比較を想定した流量値となっている。
【0034】
(2.2.3.形状モデル)
流れ場のモデルとして、
図2のような軸対象モデルを作成した。メッシュサイズは0.2mmとして設定した。境界条件は逆流条件の場合は十二指腸側を入口として、境界面と垂直に流れ込む体積流量を規定し、胆管側を圧力出口として規定した。順流条件の場合は上記の逆、つまり十二指腸側を出口として、胆管側を圧力入口として規定した。
【0035】
(2.3.計算結果の整理)
(2.3.1.計算結果)
形状寸法と流量設定値、流れの方向から計算された差圧などのシミュレーションの結果をもとに、
図3のグラフが得られた。
【0036】
図3は、テーパ先端径によって逆流抵抗がどのように変化するかを示している。横軸としてテーパの先端径dをとり、縦軸として各形状において、80mL/minの逆流を与えた際の差圧DP
Tapedを、テーパなし形状に80mL/min逆流を与えた際の差圧DP
Straightで割ったものを用いている。白丸のプロットはシミュレーション結果であり、曲線は近似曲線を表している。この曲線の導出については次項目において詳述する。
【0037】
(2.3.2.利用する近似曲線)
図3のプロットとして現れた流量、先端径、差圧の関係性についてより詳細に考察を行うため、近似曲線の当てはめを行った。
【0038】
一般的に円管内部での圧力損失は、以下の式(1)の形で整理される。ここで、ξは係数であり、vは平均流速である。
【0039】
【数1】
【0040】
この式(1)を、流量Qとテーパの先端径dを用いて書き換えると、以下の式(2)となる。
【0041】
【数2】
このことから、圧力損失がdの−4乗及びQの2乗に比例することが期待される。
【0042】
また、先端径d=10mmがテーパのないステントを示すことを考慮し、管径に合致する部分をd/Dへと置き換えを行った(D:ステント径)。さらに係数の部分をbとしてまとめると以下の式(3)となる。これがステントのうちテーパの先端部によって生じる圧力損失を表すと予測される。
【0043】
【数3】
【0044】
上記の結果から、テーパのついた形状のステントにおける圧力損失は、以下の式(4)で表される(dP
Straightはテーパなし形状の圧力損失)。
【0045】
【数4】
図3の曲線は、この式(4)をもとにbを調整し作成したものである。dP
Straightについては以下において、詳述する。bの値を各流量において算出すると
図4のようになり,20〜80mL/minにおいて、ほぼ一定値となっており、式(4)が上記流量帯において有効であることがわかった。
【0046】
なお、テーパの圧力損失を取り扱う先行研究も存在するが、多くは本ケースよりも高い流速を対象とし、テーパの直径比率を固定した上でテーパ角を変化させており、圧力損失は、テーパ角のみでなく、テーパ長,入口径,出口径の複合的影響を受けることから、非常に低い流速かつ、テーパの先端径とテーパ長を固定した本ケースに対し合致するものは無かった。
【0047】
(2.3.3.一定流量下でのテーパ径による差圧変化)
図3と同様に70,60,50mL/minとそれぞれの流量に対する差圧データをプロットしていくと、
図5のようになった。凡例は流量を表している。
【0048】
(2.3.4.一定圧力下でのテーパ径による流量変化)
以上までに、一定流量における差圧(圧力損失)として図及び曲線を導いた。2.3.2.で近似式として得た式(4)をQについて解くことで、一定圧力を与えた際にどの程度流量が流れるかを逆算することができる。このことから、一定圧力(15Pa)において、逆流する流量がどのように変化するかを計算した結果を
図6に示す。
【0049】
(2.4.結果)
ここまでの結果得られた
図6から、テーパなし形状(入口径=10mm)と比較した時、テーパの先端径を細くするほど、同一圧力における逆流流量が小さくなることがわかった。なお、
図6は15Paの際の曲線であるが、他の圧力に対してもほぼ同様の曲線が得られた。また、テーパの先端径の減少に伴い、順方向の流れがどの程度阻害されるかを確認した。順方向低速流(胆汁に相当する流れ)に対して、テーパ部の先端径dと差圧変化の関係を
図7に示す。
【0050】
図6は一定圧力における逆流の生じやすさを示し、
図7は一定流量の順流が流れる際の抵抗の大きさを示すものである。このどちらも両立して低減されることが望ましい量であることを考慮し、両曲線の値を掛け合わせた結果を
図8に示す。曲線上において低い値をとるほど逆流防止性と順流抵抗のバランスに優れたものであることを示している。
【0051】
図8より、閉塞防止性能において最も優れた形状が、テーパ部の先端径d=4.5mm程度のものである可能性が示唆された。また、
図4及び
図8を検討すると、低流量域において近似曲線に見直しの余地があることが伺えるため、これにより4.5mmという値は多少前後しうる(例えば、4.5±1.0mm)。
【0052】
<3.流体シミュレーションの妥当性検証>
以上までの議論は、流体シミュレーションの結果をもとに行われたものであるため、実測値や理論解との比較を行い、結果の妥当性を検討した。
【0053】
(3.1.実験装置)
図9に概略図を示す実験装置を用いて、ステント上下流の差圧測定を行なった。具体的には、第1水槽11と第2水槽12に仕切られた水槽10を用い、ステント1の第一端部3を第1水槽11に配置し、第二端部4を第2水槽12に配置した。そして、ポンプ13を用いて一定の流量をステント1内に流し続け、上下流の圧力差を差圧計14で計測した。
図9に示すように、ステント1の第一端部3が上流側の端部であり、第二端部4が下流側の端部に相当する。
【0054】
(3.2.比較と条件)
実験の結果から
図10及び
図11のグラフが得られた。
図10及び
図11は、流量を横軸に、差圧を縦軸にとったものである。実測値を図中丸印で表記し、エラーバーは標準誤差を用いた。シミュレーションによる計算値を図中星印で表した。曲線は理論曲線(下記3.3.参照)を示している。同条件である(値が同じとなるべき)曲線及びプロット点は同色で示されている。順流逆流共に概ねよく一致しており、シミュレーションの結果が妥当であることがわかった。
【0055】
(3.3.直線管の理論曲線)
図10及び
図11で用いた理論曲線は、ステントの内壁面での損失および助走区間における壁面せん断応力、出入口での損失を考慮して計算を行ったものである。これらの要因を考慮すると、直線形状の円管において圧力と損失の関係は、以下の式(5)で表すことができる(ρ:密度,v:平均流速,dP:差圧)。
【0056】
【数5】
【0057】
十分に発達した層流において壁面損失係数は、以下の式(6)で表される(Re:レイノルズ数,l:ステント長,d:ステント径)。
【0058】
【数6】
【0059】
文献値より入り口損失係数ξ
entはξ
ent≒1程度である。また、助走区間における壁面での損失はξ
entwall=16αと計算できる(カルマンの運動量方程式より)。
【0060】
境界層の速度分布形の仮定として以下の式(7)を利用した。この時α=39/280である。
【0061】
【数7】
【0062】
また、助走区間の長さは、以下の式(8)で得られる(β=3/2)。
【0063】
【数8】
【0064】
上記をまとめて
図10及び
図11の理論曲線を得ている。また、2.3.2.において用いるdP
Straightは、ここで求められたものである。