特許第6905441号(P6905441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6905441積層チューブ及び複合管並びに積層チューブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6905441
(24)【登録日】2021年6月29日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】積層チューブ及び複合管並びに積層チューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20210708BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20210708BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20210708BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210708BHJP
   B32B 27/08 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   F16L11/08 B
   B32B1/08 B
   B32B27/34
   B32B27/30 D
   B32B27/08
   F16L11/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-190277(P2017-190277)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65920(P2019-65920A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 国男
【審査官】 黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−116048(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0124976(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
B32B 1/08
B32B 27/08
B32B 27/30
B32B 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1材料からなる内層と、第2材料からなる外層と前記内層及び前記外層の間に隣接して配置された、第3材料からなる温度緩衝層と、を有しており、前記第1材料は、前記第2材料と異なる温度で、前記第2材料と同一の粘度となる材料であり、前記第3材料は、前記第1材料の温度と前記第2材料の温度との中間の温度で、前記同一の粘度となる材料である、積層チューブを得るための、積層チューブを製造する方法であって、
前記第1材料、前記第2材料及び前記第3材料の、少なくとも3つの材料を共押出しするステップを有する、積層チューブの製造方法
【請求項2】
前記第1材料は、前記第2材料よりも高い温度で、前記同一の粘度となる材料である、請求項1に記載の積層チューブの製造方法
【請求項3】
前記第2材料は、エラストマーである、請求項2に記載の積層チューブの製造方法
【請求項4】
前記第1材料は、ポリアミド樹脂である、請求項2又は3に記載の積層チューブの製造方法
【請求項5】
前記積層チューブは、前記内層の内側に隣接して配置された、第4材料からなる最内層を更に有し、
前記第4材料は、フッ素樹脂である、請求項3又は4に記載の積層チューブの製造方法
【請求項6】
前記第1材料は、フッ素樹脂であり、前記第2材料は、エラストマーである、請求項2に記載の積層チューブの製造方法
【請求項7】
前記第3材料は、エラストマーである、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の積層チューブの製造方法
【請求項8】
前記第3材料は、ポリアミド樹脂である、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の積層チューブの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層チューブ及び複合管並びに積層チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層チューブには、内容物等に対する耐性等に優れたフッ素樹脂と、柔軟性に優れた熱可塑性エラストマーと、フッ素樹脂と熱可塑性エラストマーとの間の層間接着力を得るためのポリアミド樹脂と、を共押出しすることによって製造されるものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/110756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの材料を実際に共押出しすることによって、上述の積層チューブを製造した場合、当該積層チューブは、押出成形機を出た直後から、その断面形状を正円形状に保持することができず、当該断面形状が潰れてしまうことがある。特に、上述のような積層チューブの潰れは、柔軟性を確保するため、当該積層チューブの大半を、エラストマーで占める場合に生じ易いことを、本願発明者は確かめた。
【0005】
本発明の目的は、製造時に潰れ難い積層チューブ及び複合管を提供することにあり、また、本発明の他の目的は、製造時に潰れ難い積層チューブを得ることができる、積層チューブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述のように積層チューブの断面形状が押出し直後に潰れてしまう原因につき、本願発明者が鋭意検討した結果、以下の新たな知見を得、本発明をなすに至った。一般に熱可塑性材料等は高温になるほど粘度が低下する。しかしながら、こうした温度に対する粘度特性は材料ごとに異なり、複数の材料を所定の粘度で共押出しして押出成形する場合は、押出成形に要する所定の粘度となる温度が個々の材料で異なるときがある。特に、使用される材料が高い温度で所定の粘度となる高粘度材料(例えば、ポリアミド樹脂)のときには、当該高粘度材料は他の材料よりも高温にして押出ししなくてはならない。ところが、これらの材料が押出し出口付近で合流すると、当該高粘度材料の熱が、低い温度で所定の粘度となる低粘度材料(例えば、熱可塑性エラストマー)に移行して低粘度材料の粘度がさらに不必要に低下し、その結果、押出し直後の断面形状が正円形状に保持できなくなり潰れてしまう。
【0007】
本発明に係る積層チューブは、第1材料からなる内層と、第2材料からなる外層と、の少なくとも2層を有する、積層チューブであって、前記内層及び前記外層の間に隣接して配置された、第3材料からなる温度緩衝層を更に有し、前記第1材料は、前記第2材料と異なる温度で、前記第2材料と同一の粘度となる材料であり、前記第3材料は、前記第1材料の温度と前記第2材料の温度との中間の温度で、前記同一の粘度となる材料である。
本発明に係る積層チューブによれば、製造時に潰れ難い積層チューブになる。
【0008】
本発明に係る積層チューブにおいて、前記第1材料は、前記第2材料よりも高い温度で前記同一の粘度となる材料であることが好ましい。
この場合、より実用に即した積層チューブになる。
【0009】
本発明に係る積層チューブにおいて、前記第2材料は、エラストマーであることが好ましい。
この場合、積層チューブの柔軟性を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る積層チューブにおいて、前記第1材料は、ポリアミド樹脂であることが好ましい。
この場合、積層チューブの強度を向上させることができると共に、内層の内側に更に別の層を配置する場合、内層を接着層として機能させることができる。
【0011】
本発明に係る積層チューブは、前記内層の内側に隣接して配置された、第4材料からなる最内層を更に有し、前記第4材料は、フッ素樹脂であることが好ましい。
この場合、積層チューブにおける、内容物等に対する耐性等を向上させることができる。
【0012】
本発明に係る積層チューブにおいて、前記第1材料は、フッ素樹脂であり、前記第2材料は、エラストマーとすることができる。
この場合、積層チューブにおける、内容物等に対する耐性等と柔軟性とを、向上させることができる。
【0013】
本発明に係る積層チューブにおいて、前記第3材料は、エラストマーとすることができる。
この場合、第2材料がエラストマーであるときには当該第2材料(外層)との接着性を向上させることができると共に、更に柔軟性に優れた積層チューブとなる。なお、上記第3材料のエラストマーは、前記第2材料のエラストマーとは、粘度特性の異なる(前記第2材料のエラストマーよりも、同一の粘度となる温度の高い)エラストマーである。
【0014】
本発明に係る積層チューブにおいて、前記第3材料は、ポリアミド樹脂とすることができる。
この場合、第1材料がポリアミド樹脂であるときには当該第2材料(内層)との接着性を向上させることができると共に、更に強度に優れた積層チューブとなる。なお、上記第3材料のポリアミド樹脂は、前記第1材料のポリアミド樹脂とは、粘度特性の異なる(前記第1材料のポリアミド樹脂よりも、同一の粘度となる温度の高い)ポリアミド樹脂である。
【0015】
本発明に係る複合管は、上記いずれかに記載の積層チューブと、前記積層チューブを被覆する補強層と、前記補強層を被覆する外被と、を有する。
本発明に係る複合管によれば、積層チューブが製造時に潰れ難い複合管になる。
【0016】
本発明に係る、積層チューブの製造方法は、上述したいずれかの積層チューブを得るための、積層チューブを製造する方法であって、前記第1材料、前記第2材料及び前記第3材料の、少なくとも3つの材料を共押出しするステップを有する。
本発明に係る、積層チューブの製造方法によれば、製造時に潰れ難い積層チューブを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造時に潰れ難い積層チューブ及び複合管を提供することができる。また、本発明によれば、製造時に潰れ難い積層チューブを得ることができる、積層チューブの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の一実施形態に係る積層チューブが用いられた、本発明の一実施形態に係る複合管を一部断面で示す斜視図である。
図1B図1Aに示す積層チューブの断面図である。
図2図1A及び図1Bの積層チューブに用いられた各材料における、温度に対する粘度の特性を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る、積層チューブ及び複合管、並びに、積層チューブの製造方法を説明する。
【0020】
図1A及び図1B中、符号10は、本発明の一実施形態に係る積層チューブである。積層チューブ10は、第1材料M1からなる内層1と、第2材料M2からなる外層2と、の少なくとも2層を有している。
【0021】
また、積層チューブ10は、第3材料M3からなる温度緩衝層3を有している。温度緩衝層3は、図1A及び図1Bに示すように、内層1及び外層2の間に隣接して配置されている。より具体的には、温度緩衝層3は、内層1及び外層2の間で、内層1及び外層2の間のそれぞれに隣接して配置されている。
【0022】
更に、本実施形態では、積層チューブ10は、第4材料M4からなる最内層4を有している。最内層4は、内層1の内側に隣接して配置されている。より具体的には、最内層4は、内層1の内側で、内層1に隣接して配置されている。
【0023】
本実施形態に係る積層チューブ10は、積層チューブ10の内側から順に、最内層4、内層1、温度緩衝層3及び外層2を有している。即ち、積層チューブ10は、4層の積層チューブである。
【0024】
本実施形態に係る積層チューブ10は、押出成形機(図示省略。)を用いた共押出法によって成形(以下、単に、「押出成形」ともいう。)されたものである。本実施形態では、第1材料M1、第2材料M2、第3材料M3及び第4材料M4は、それぞれ、図2に示すような特性を有している。
【0025】
図2は、第1材料M1〜第4材料M4の各材料における、温度Tに対する粘度ηの特性(以下、単に「粘度特性」ともいう。)を例示するグラフである。図2のグラフでは、横軸は、温度T(°C)を示し、縦軸は、第1材料M1〜第4材料M4の各材料における、温度Tに対する粘度η(Pa・s)を示す。
【0026】
図2のグラフは、粘度ηが対数で示された片対数グラフである。本実施形態では、粘度ηは、JISK7199 「プラスチック−キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法」に基づき、270(mm/s)のせん断速度で測定したときの粘度である。
【0027】
図2中、白抜き三角プロットのグラフは、第4材料M4の粘度特性P4を示す。この粘度特性P4で表されるように、第4材料M4の粘度η(≡η4)は、第4材料M4の温度T(≡T4)の上昇に従って減少していく。即ち、第4材料M4は、温度T4の上昇に従って粘度η4が減少していく材料である。
【0028】
第4材料M4は、最内層4を形成する。本実施形態に係る積層チューブ10では、最内層4は、内容物(液体・気体等の流体)を流通させるパイプとして機能している。第4材料M4としては、例えば、耐薬品性、ガスバリア性、耐熱性等の、内容物等に対する耐性等に優れた、フッ素樹脂が挙げられる。
【0029】
「フッ素樹脂」としては、例えば、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド(二フッ化))、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフロオロプロピレン共重合体)等が挙げられる。
【0030】
図2中、黒丸プロットのグラフは、第1材料M1の粘度特性P1を示す。この粘度特性P1で表されるように、第1材料M1の粘度η(≡η1)は、第1材料M1の温度T(≡T1)の上昇に従って減少していく。即ち、第1材料M1も、温度T1の上昇に従って粘度η1が減少していく材料である。
【0031】
第1材料M1は、内層1を形成する。内層1は、最内層4と隣接して配置されている。本実施形態に係る積層チューブ10では、内層1は、最内層4と温度緩衝層3、ひいては、最内層4と外層2との間を接着する接着層として機能している。第1材料M1としては、例えば、ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0032】
「ポリアミド樹脂」としては、例えば、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン610等のナイロン、アラミド等が挙げられる。
【0033】
一方、図2中、黒菱形プロットのグラフは、第2材料M2の粘度特性P2を示す。この粘度特性P2で表されるように、第2材料M2の粘度η(≡η2)も、第2材料M2の温度T(≡T2)の上昇に従って減少していく。即ち、第2材料M2も、温度T2の上昇に従って粘度η2が減少していく材料である。
【0034】
第2材料M2は、外層2を形成する。本実施形態に係る積層チューブ10では、外層2は、積層チューブ10に柔軟性を付与する弾性層として機能している。第2材料M2としては、例えば、エラストマーが挙げられる。
【0035】
本明細書中で、「エラストマー」とは、架橋(加硫)しなくてもゴムの性質(ゴム弾性)を有する材料をいう。言い換えれば、本明細書中で、「エラストマー」とは、工業的な意味での「エラストマー」である。「エラストマー」としては、例えば、熱可塑性エラストマーが挙げられる。「熱可塑性エラストマー」としては、例えば、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0036】
これらの3つの第4材料M4、第1材料M1及び第2材料M2を共押出しすることによって、積層チューブを製造した場合、当該積層チューブは、押出成形機を出た直後から、その断面形状を正円形状に保持することができず、当該断面形状が潰れてしまうことがある。こうした積層チューブの潰れは、当該積層チューブの大半を、エラストマーで占める場合、或いは、当該積層チューブを大径とした場合に生じ易い。積層チューブの大半を、エラストマーで占める場合の具体例としては、例えば、最内層4の肉厚d4が0.2mmであり、内層1の肉厚d1が0.2mmであり、外層2の肉厚d2が1.0mmである、積層チューブが挙げられる。また、積層チューブを大径とした場合の具体例としては、例えば、積層チューブ10の内径(図1Bでは、φ1)が12mm以上、積層チューブ10の外径(図1Bでは、φ2)が15mm以上で、積層チューブ10の肉厚d10(図1Bでは、d10=(φ2−φ1)/2)が1.5mm以下の薄い積層チューブが挙げられる。
【0037】
上述のような潰れの原因につき、本願発明者は、鋭意検討した結果、以下の新たな知見を得、本発明をなすに至った。図2の粘度特性P4、P1及びP2に示されるように、一般に熱可塑性材料等は温度Tが高温になるほど粘度ηが低下する。しかしながら、こうした温度Tに対する粘度特性P4、P1及びP2は、図2に示すように、第4材料M4、第1材料M1及び第2材料M2ごとに異なる。第4材料M4、第1材料M1及び第2材料M2の、複数の材料を所定の粘度ηxで共押出しする場合は、図2に示すように、第4材料M4、第1材料M1及び第2材料M2で、同一の粘度(押出成形に要する所定の粘度)ηx(例えば、図2に示すように、ηx=300)となる、第1材料M1の温度(共押出成形時における第1材料M1の温度)T1x、第2材料M2の温度(共押出成形時における第2材料M2の温度)T2x、第4材料M4の温度(共押出成形時における第4材料M4の温度)T4xが異なるときがある。特に、使用される材料が第1材料M1のような高粘度材料であるときには、当該第1材料M1は第2材料M2よりもΔT=T1x−T2xだけ高温にして押出ししなくてはならない。ところが、これら第4材料M4、第1材料M1及び第2材料M2が押出し出口付近で合流すると、第1材料M1の熱が、隣接する第2材料M2に移行して第2材料M2の粘度η2がさらに不必要に低下し、その結果、押出し直後の断面形状が正円形状に保持できなくなり潰れてしまう。特に、図2の場合、第1材料M1の粘度特性P1と第2材料M2の粘度特性P2とを比較すれば明らかなように、第2材料M2の粘度η2は、温度Tが増加するに従って急激に低下し、その低下の割合は、隣接する第1材料M1の粘度η1の低下に比べて大きい。
【0038】
そこで、本発明では、第1材料M1が第2材料M2の温度T2xと異なる温度T1xで第2材料M2と同一の粘度ηxとなる材料である場合、内層1及び外層2の間に隣接して、第3材料M3からなる温度緩衝層3を配置する。第3材料M3は、第1材料M1の温度T1xと第2材料M2の温度T2xとの中間の温度(共押出成形時における第3材料M3の温度)T3xで、同一の粘度ηxとなる材料である。即ち、T2x<T3x<T1x、又は、T1x<T3x<T2x、である。
【0039】
本実施形態に係る積層チューブ10では、図2の粘度特性P1及びP2で表されるように、第1材料M1は、第2材料M2よりも高い温度T1xで同一の粘度ηxとなる材料である。即ち、T2x<T3x<T1x、である。
【0040】
図2中、白抜き丸形プロットのグラフは、第3材料M3の粘度特性P3を示す。この粘度特性P3で表されるように、第3材料M3の粘度η(≡η3)も、第3材料M3の温度T(≡T3)の上昇に従って減少していく。即ち、第3材料M3も、温度T3の上昇に従って粘度η3が減少していく材料である。
【0041】
第3材料M3は、温度緩衝層3を形成する。本実施形態に係る積層チューブ10では、温度緩衝層3は、積層チューブ10の押出成形を行う場合、第1材料M1(内層1)からの熱を第2材料M2(外層2)に伝え難くする層、又は、当該熱を伝えるのに要する時間を長くする層として機能している。図2を参照すれば、第3材料M3は、第1材料M1の温度T1と、第2材料M2の温度T2との中間の温度T3(T3=T3x)で、同一の粘度ηxとなる材料である。即ち、図2では、第3材料M3は、同一の粘度ηxとなる第1材料M1の温度T1xと、同一の粘度ηxとなる第2材料M2の温度T2xとの中間の温度T3xで、当該粘度ηxとなる材料である。
【0042】
本実施形態に係る積層チューブ10によれば、同一の粘度ηxで、積層チューブ10の押出成形を行うと、第3材料M3(温度緩衝層3)が第1材料M1(内層1)と第2材料M2(外層2)との間に介在することで、第1材料M1からの温度T1xを直接、第2材料M2(外層2)に伝えることがない。加えて、第3材料M3(温度緩衝層3)は、第1材料M1の温度T1xと第2材料M2の温度T2xとの中間の温度T3xで、同一の粘度ηxとなる材料であることで、第2材料M2(外層2)に比べて軟化し難い。このため、積層チューブ10の断面形状は、押出成形機からの共押出し後から、例えば冷却水に投入されるまでの間も、正円形状に保持され得る。
【0043】
なお、本実施形態に係る積層チューブ10では、T2x<T3x<T1xとしている。T3x<T2xの場合、第3材料M3が不必要に軟化し、目的を達成できない。T1x<T3xの場合、第3材料M3が同一の粘度ηxとなる温度T3xが高くなり過ぎ、やはり目的を達成できない。また、本発明に係る積層チューブでは、T1x<T3x<T2xとすることができる。これは、上記と同様の理由である。
【0044】
また、本実施形態に係る積層チューブ10では、第3材料M3が第1材料M1又は第2材料M2と隣接した位置に配置されている。第3材料M3が第1材料M1又は第2材料M2と隣接していない場合、即ち、第1材料M1と第3材料M3との間、又は、第3材料M3と第2材料M2との間に、別の材料からなる別の層が介在する場合、当該別の材料によっては、目的が達成できない虞がある。
【0045】
従って、本実施形態に係る積層チューブ10によれば、製造時に潰れ難い積層チューブになる。
【0046】
特に、本実施形態に係る積層チューブ10では、第1材料M1は、第2材料M2よりも高い温度T1xで同一の粘度ηxとなる材料である。この場合、内層1は、温度Tが上昇しても外層2に比べて軟化し難いことから、より実用に即した積層チューブになる。
【0047】
特に、本実施形態に係る積層チューブ10では、第2材料M2は、エラストマーである。この場合、積層チューブ10の柔軟性を向上させることができる。従って、本実施形態に係る積層チューブ10によれば、柔軟性を有しつつ、製造時に潰れ難い積層チューブとなる。言い換えれば、本実施形態に係る積層チューブ10によれば、柔軟性と成形性を両立させた積層チューブとなる。
【0048】
また、本実施形態に係る積層チューブ10では、第1材料M1は、ポリアミド樹脂である。この場合、積層チューブの強度(例えば、引張、圧縮、曲げ、衝撃等に対する強度)を向上させることができる。特に、本実施形態に係る積層チューブ10では、第1材料M1は、最内層4と温度緩衝層3、ひいては、最内層4と外層2とを接着する接着層として機能させることができる。このため、本実施形態に係る積層チューブ10によれば、最内層4と外層2との間が接着によって接着された積層チューブとなる。
【0049】
また、本実施形態に係る積層チューブ10は、内層1の内側に隣接して配置された、第4材料M4からなる最内層4を更に有し、第4材料M4は、フッ素樹脂である。この場合、積層チューブ10における、内容物等に対する耐性等を向上させることができる。
【0050】
ところで、本実施形態に係る積層チューブ10において、第3材料M3は、エラストマーとすることができる。第3材料M3をエラストマーとすれば、積層チューブ10に対するエラストマーの割合を増加させることができる。この場合、更に柔軟性に優れた積層チューブとなる。また、第3材料M3をエラストマーとすれば、外層2及び温度緩衝層3は同材質となることにより、外層2を温度緩衝層3に接着させ易い。従って、本実施形態に係る積層チューブ10のように、外層2がエラストマーからなる場合、外層2との接着性を向上させることができる。なお、第3材料M3のエラストマーは、第2材料M2のエラストマーとは、粘度特性の異なる(第2材料M2のエラストマーよりも、同一の粘度ηxとなる温度の高い)エラストマーである。また、第3材料M3の「エラストマー」としては、例えば、外層2のエラストマーよりも硬めのエラストマー(粘度η3が外層2のエラストマーの粘度η2よりも高いエラストマー)等が挙げられる。
【0051】
或いは、本実施形態に係る積層チューブ10において、第3材料M3は、ポリアミド樹脂とすることができる。第3材料M3をポリアミド樹脂とすれば、積層チューブ10に対するポリアミド樹脂の割合を増加させることができる。この場合、更に強度に優れた積層チューブとなる。また、第3材料M3をポリアミド樹脂とすれば、内層1及び温度緩衝層3は同材質となることにより、内層1を温度緩衝層3に接着させ易い。従って、本実施形態に係る積層チューブ10のように、内層1がポリアミド樹脂からなる場合、最内層4との間の接着性を向上させることができる。なお、第3材料M3のポリアミド樹脂は、第2材料M2のポリアミド樹脂とは、粘度特性の異なる(第2材料M2のポリアミド樹脂よりも、同一の粘度となる温度ηxの高い)ポリアミド樹脂である。また、第3材料M3の「ポリアミド樹脂」としては、例えば、内層1のポリアミドよりも柔らかめのポリアミド(粘度η3が内層1のポリアミド樹脂の粘度η1よりも高いポリアミド樹脂)等が挙げられる。
【0052】
ところで、本実施形態に係る積層チューブ10では、第3材料M3は、図2の粘度特性P3を有している。第3材料M3が図2の粘度特性P3を有している材料の場合、同一の粘度(押出成形に要する所定の粘度)ηxが少なくとも100(Pa・s)≦ηx≦300(Pa・s)を満たす範囲(図2参照)で、第3材料M3は、第1材料M1の温度T1xと、第2材料M2の温度T2xとの中間の温度T3xで、同一の粘度ηxとなる。従って、本実施形態の場合、前記範囲(100(Pa・s)≦ηx≦300(Pa・s))の範囲で、積層チューブ10の押出成形を行えば、当該積層チューブ10は、製造時に潰れ難い積層チューブとなる。
【0053】
一方、押出成形に要する所定の粘度ηxの範囲としては、例えば、100(Pa・s)≦ηx≦600(Pa・s)の範囲が挙げられる。本実施形態に係る積層チューブ10では、同一の粘度ηxは、当該範囲(100(Pa・s)≦η≦600(Pa・s))内の粘度ηである。
【0054】
本発明によれば、第3材料M3は、第1材料M1の温度T1と、第2材料M2の温度T2との中間の温度T3で、同一の粘度ηxとなる材料であるが、図2に示した第3材料M3は、例示的なものである。このため、本実施形態に係る前記範囲(100(Pa・s)≦ηx≦300(Pa・s))以外の粘度ηxで押出成形を行う場合、本発明によれば、第1材料M1の温度T1xと、第2材料M2の温度T2xとの中間の温度T3で当該粘度ηxとなる材料を、新たな第3材料M3として選択することにより、製造時に潰れ難い積層チューブとなる。更に、図2の粘度特性P1〜P4において、その粘度特性が開示されていない部分についても容易に測定することができる。
【0055】
即ち、本発明に係る積層チューブによれば、温度緩衝層3の第3材料M3は、図2に示す粘度特性P3で表された材料に限定されるものではない。第3材料M3は、図2に例示されるような、各材料の粘性特性との関係により、適宜選択することができる材料である。T2x<T3x<T1x、又は、T1x<T3x<T2x、を満たす限り、第1材料M1、第2材料M2及び第3材料M3はそれぞれ、適宜選択することができる。
【0056】
次に、本発明の他の実施形態に係る積層チューブについて説明する。本発明によれば、本発明の他の実施形態に係る積層チューブとして、例えば、第1材料M1は、フッ素樹脂であり、第2材料M2は、エラストマーとすることができる。なお、以下の説明において、図1A及び図1B並びに図2と実質的に同一の部分は、同一の符号をもって、その説明を省略する。
【0057】
上記他の実施形態に係る積層チューブは、第1材料M1(フッ素樹脂)からなる内層1と、第2材料M2(エラストマー)からなる外層2と、内層1及び外層2の間に隣接して配置された、第3材料M3からなる温度緩衝層3との3層を有している。即ち、他の実施形態に係る積層チューブは、図1A及び図1Bの積層チューブ10において、最内層4と温度緩衝層3との間に隣接して配置された、ポリアミド樹脂からなる内層1が省略された、3層の積層チューブである。
【0058】
本実施形態に係る積層チューブでは、内層1は、前述の実施形態における第4材料M4と同様の第1材料M1からなる。本実施形態における第2材料M2及び第3材料M3はそれぞれ、前述の実施形態における第2材料M2及び第3材料M3と同じ材料である。図2を参照すれば、第3材料M3は、第4材料M4の温度T4(本実施形態では、第1材料の温度T1)と第2材料M2の温度T2との中間の温度T3(図2では、T3=T3x)で、同一の粘度ηxとなる材料である。言い換えれば、本実施形態においても、第3材料M3は、同一の粘度ηxとなる第1材料M1の温度T1x(図2に示す前述の実施形態における第4材料M4の温度T4x)と、同一の粘度ηxとなる第2材料M2の温度T2xとの中間の温度T3xで、当該粘度ηxとなる材料である。この場合、積層チューブにおける、内容物等に対する耐性等と柔軟性とを、向上させることができる。
【0059】
次に、本発明の一実施形態に係る、積層チューブの製造方法について説明する。本実施形態に係る、積層チューブの製造方法は、前述の積層チューブ10を得るための製造方法である。以下の説明において、上述したところと実質的に同一の部分は、同一の符号をもって、その説明を省略する。
【0060】
本実施形態に係る、積層チューブの製造方法は、第1材料M1からなる内層1と、第2材料M2からなる外層2と、内層1及び外層2の間に隣接して配置された、第3材料M3からなる温度緩衝層3と、内層1の内側に隣接して配置された、第4材料M4からなる最内層4との、4層を有する積層チューブ10の製造方法である。
【0061】
本発明に係る、積層チューブの製造方法は、第1材料M1、第2材料M2及び第3材料M3の、少なくとも3つの材料を共押出しするステップを有している。本実施形態では、第1材料M1〜第4材料M4を共押出しするステップを有している。前記ステップでは、これら4つの第1材料M1〜第4材料M4を押出成形機から共押出しする。前記押出成形機としては、例えば、各第1材料M1〜第4材料M4の押出温度(共押出成形時における各材料M1〜M4の温度T1x〜T4x)が第2材料M2の温度T2x(=210(°C))以上の押出成形機を使用することができる。より具体的な前記押出温度としては、例えば、250°C〜280°Cの範囲の温度が挙げられる。第1材料M1〜第4材料M4の4つの材料は、押出し出口付近で合流し、第3材料M3は、第1材料M1及び第2材料M2の間に隣接して配置されると共に、第4材料M4は、第1材料M1の内側に隣接して配置される。これにより、前記押出成形機からは、内側から順に、最内層4、内層1、温度緩衝層3及び外層2の4層を有する積層チューブ10が押し出される。なお、第1材料M1〜第4材料M4の各材料を押出す際(合流前)の粘度η(=ηx)は必ずしも同一である必要はない。例えば、第1材料M1〜第4材料M4の各材料が合流するときの各粘度ηが同一の粘度ηxとなるのであれば、押出す際(合流前)の粘度ηは、押出成形機が許容する粘度ηの範囲で互いに異ならせることができる。
【0062】
本実施形態に係る、積層チューブの製造方法では、第1材料M1〜第4材料M4には、例えば、図2に示す粘度特性P1〜P4を満たす材料を使用する。
【0063】
上記ステップにおいて、第1材料M1は、上述のとおり、第2材料M2の温度(共押出成形時における第2材料M2の温度)T2xと異なる温度(共押出成形時における第1材料M1の温度)T1xで第2材料M2と同一の粘度ηxとなる材料である。本実施形態に係る、積層チューブの製造方法では、第1材料M1は、第2材料M2よりも高い温度T1xで同一の粘度ηxとなる材料である。また、第3材料M3も、上述のとおり、第1材料M1の温度(共押出成形時における第1材料M1の温度)T1と、第2材料M2の温度(共押出成形時における第2材料M1の温度)T2との中間の温度(共押出成形時における第3材料M3の温度)T3で同一の粘度ηxとなる材料である。
【0064】
本実施形態に係る、積層チューブの製造方法によれば、第3材料M3が第1材料M1及び第2材料M2の間に隣接して配置されることにより、内層1と外層2との間には、温度緩衝層3が隣接して配置される。従って、本実施形態に係る、積層チューブの製造方法によれば、製造時に潰れ難い積層チューブ10を得ることができる。なお、本発明の他の実施形態に係る、3層の積層チューブを得る場合は、上記ステップにおいて、フッ素樹脂からなる第1材料M1、エラストマーからなる第2材料M2、及び、エラストマー又はポリアミド樹脂からなる第3材料M3を共押出しする。
【0065】
特に、本実施形態に係る、積層チューブの製造方法は、第1材料M1は、第2材料M2よりも高い温度T1xで同一の粘度ηxが達成される材料である。この場合、より実用に即した積層チューブ10を得ることができる。
【0066】
次に、本発明の一実施形態に係る複合管について説明する。図1中、符号100は、本発明の一実施形態に係る複合管である。本実施形態に係る複合管100は、積層チューブ10と、積層チューブ10を被覆する補強層5と、補強層5を被覆する外被6と、を有している。本実施形態に係る複合管100によれば、積層チューブ10が製造時に潰れ難い複合管になる。
【0067】
補強層5としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維で構成された補強層等が挙げられる。また、外被6としては、上述のエラストマー、ゴム(本明細書中では、架橋(加硫)することにより、ゴムの性質を有するもの)等が挙げられる。
【0068】
なお、積層チューブの潰れは、上述のとおり、例えば、積層チューブ10の内径φ1が12mm以上であって、積層チューブ10の外径φ2が15mm以上で、積層チューブ10の肉厚が薄い場合(積層チューブ10の肉厚d10が1.5mm以下)に生じ易い。即ち、積層チューブ10の内径φ1及び外径φ2が大きく、かつ、積層チューブ10の肉厚d10の薄い場合に生じ易い。このため、本実施形態に係る積層チューブ10は、積層チューブ10の外径φ2が15mm以上、積層チューブ10の内径φ1が13mm以上であって、積層チューブ10の肉厚d10が薄い場合(肉厚d10が1.5mm以下)に設定されることが有効である。
【0069】
また、図1Bに示すように、積層チューブ10において、内層1の肉厚d1、外層2の肉厚d2、温度緩衝層3の肉厚d3及び最内層4の肉厚d4は、積層チューブ10の用途等に応じて、適宜設定することができる。例えば、肉厚d1=0.25mm、肉厚d2=1mm、肉厚d3=0.25mm、肉厚d4=0.25mmである。
【符号の説明】
【0070】
1:内層, M1:第1材料, P1:第1材料の粘度特性, T1:第1材料の温度, T1x:同一の粘度となる第1材料の温度, 2:外層, M2:第2材料, P2:第2材料の粘度特性, T2:第2材料の温度, T2x:同一の粘度となる第2材料の温度, 3:温度緩衝層, M3:第3材料, P3:第3材料の粘度特性, T3:第3材料の温度, T3x:同一の粘度となる第3材料の温度, 4:最内層, P4:第4材料の粘度特性, M4:第4材料, T4:第4材料の温度, T4x:同一の粘度となる第4材料の温度, 5:補強層, 6:外被, 10:積層チューブ, 100:複合管, η:粘度, ηx:同一の粘度, T:温度
図1A
図1B
図2