(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6905613
(24)【登録日】2021年6月29日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】往復動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/02 20060101AFI20210708BHJP
【FI】
F04B39/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-46408(P2020-46408)
(22)【出願日】2020年3月17日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川名 讓
(72)【発明者】
【氏名】中川 冬彦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 和宏
【審査官】
谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第105019974(CN,A)
【文献】
国際公開第2014/054092(WO,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2012−0004220(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部にシリンダ及びピストンを有し、下部に油面開放で潤滑油を蓄える潤滑油貯油部を有し、前記貯油部内に潤滑油を取り込む吸込口を有する往復動圧縮機において、
前記貯油部を水平方向に区分する縦向きの第1の仕切り部材と、
前記貯油部の上方において、高さ方向に区分する水平の第2の仕切り部材と、
を備え、
前記第1の仕切り部材の長さは、前記貯油部の各対向壁面間の内寸にほぼ一致させてあり、
前記第1の仕切り部材には潤滑油が透過する透過孔が形成され、
前記第2の仕切り部材には潤滑油が透過する透過孔が形成され、
平面視での前記貯油部全体に対する、前記第2の仕切り部材の長さ及び幅を、前記貯油部の各対向壁面間の内寸にほぼ一致させてあり、
前記第2の仕切り部材は前記吸込口より上位に、かつ前記貯油部内に設けられている
ことを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項2】
前記第1の仕切り部材は平面視で格子状に配置されている請求項1記載の往復動圧縮機。
【請求項3】
前記第1の仕切り部材と前記第2の仕切り部材とは連結固定され、前記潤滑油貯油部を構成するハウジングに固定されている請求項1記載の往復動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動圧縮機に係り、特に油面の揺動を抑制可能な往復動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機などに使用される往復動圧縮機の基本的構造は、クランク軸を中心として、上部にシリンダ及びピストンを有し、下部に潤滑油タンク(貯油部)を有する。
潤滑油を潤滑油ポンプによって強制的に給油する形式のものにおいては、潤滑油タンクの下方に潤滑油を取り込む吸込口が配置されている。
【0003】
従来技術の一つに下記の先行技術がある。
【0004】
しかるに、往復動圧縮機において、地震などによる振動(特に低周波振動)を受けると、潤滑油の油面が揺動し、開放油面が吸込口より下方にまで低下し、結果として潤滑油の取り込みが行い得ず、吸込み機能が阻害され、往復動圧縮機の運転ができなくなる事態が想定された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2014/054092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の主たる課題は、往復動圧縮機において、地震などによる振動を受け、潤滑油の油面が給油口より低下することを防止できる往復動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するための本発明は、上部にシリンダ及びピストンを有し、下部に潤滑油貯油部を有し、前記貯油部内に潤滑油を取り込む吸込口を有する往復動圧縮機において、前記貯油部を水平方向に区分する縦向きの第1の仕切り部材を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
第1の仕切り部材を設けることで、振動による潤滑油の油面の揺動を抑制することにより、油面が吸込口より下方にまで低下し、結果として潤滑油の取り込みが行い得ない事態を回避できる。
【0009】
この場合、前記貯油部を水平方向に区分する縦向きの第1の仕切り部材と、前記貯油部の上方において、高さ方向に区分する横向きの第2の仕切り部材との両者を備えるものがより好適である。
【0010】
地震による上下振動を強く受けた場合、油面が激しくバブリングすることを、第2の仕切り部材により抑制することができ、油面が吸込口より下方にまで低下し、結果として潤滑油の取り込みが行い得ない事態を回避できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地震などによる振動を受け、潤滑油の油面が給油口より低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明に係る往復動圧縮機の一部破断正面図である。
【
図8】往復動圧縮機の貯油部内に揺動抑制材を固定した例の平面図である。
【
図9】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図10】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図11】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図12】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図13】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図14】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図15】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図16】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図17】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図18】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図19】振動実験における油面変動を示す写真である。
【
図20】振動実験における油面変動を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
往復動圧縮機の基本的構造は、
図1が参照されるように、ハウジング1の上部にシリンダ及びピストンを有し、下部に油面開放で潤滑油を蓄える潤滑油貯油部10を有する。
シリンダ及びピストンにより、クランク4(部位のみが図示されている)が駆動され、媒体、例えば冷媒を吸入部2から吸入し、圧縮した後、吐出部3から吐出するものである。
【0015】
貯油部10内には、潤滑油のストレーナを外面に有する吸込口11を有し、ハウジング1内に形成された流路を通して、オイルポンプ12により潤滑油が吸い込まれ、クランクシャフトの構造体に形成された流路を通してコンロッド回転部に給油されるようになっている。
さらに、流路を通してピストンピン及びピストン摺動部に給油される、潤滑作用が終わった潤滑油は、各部の隙間からハウジング1内に開放され、重力で貯油部10内に流下する。
【0016】
しかるに、地震などの振動により、油面が吸込口11より下方になると、潤滑油の前述の流れが阻害されるために、往復動圧縮機の運転が不能になる。
【0017】
そこで、本発明に従って、例えば
図2に示す形態の揺動抑制手段20が設けられる。
この揺動抑制手段20は、
図3〜
図6に示すような、貯油部10を水平方向に区分する縦向きの第1の仕切り部材21と、貯油部10の上方において、高さ方向に区分する水平の第2の仕切り部材22とで構成できる。
【0018】
図示例の第1の仕切り部材21は平面視で格子状に配置されている。例えば、受け板21Aに形成された上開放溝21aに対して、組み込み板21Bに形成
された開放溝21bを差し込んで、格子状に組み上げることができる。
【0019】
第1の仕切り部材21には、潤滑油Oiが透過する透過孔21cを形成することができる。この透過孔21cは、潤滑油Oiが吸込口11に移動して吸込口11から潤滑油Oiを円滑に吸込みできるようにしたものである。
【0020】
水平に配置される第2の仕切り部材22は、吸込口11より上位に、かつ潤滑油Oi油面より下位に設けられている。
【0021】
また、第2の仕切り部材22についても、潤滑油Oiが透過する透過孔22cを形成することができる。この透過孔22cは、潤滑油Oiが吸込口11に移動して吸込口11から潤滑油Oiを円滑に吸込みできるようにしたものである。
【0022】
第1の仕切り部材21と第2の仕切り部材22とが連結固定された揺動抑制手段20は、潤滑油Oi貯油部10内に設置される。この場合、潤滑油Oi油面の揺動により移動することは好ましいことではないために、その移動を規制するための適宜の手段によりハウジング1に直接又は間接に固定することが望ましい。
【0023】
この固定例としては、第1の仕切り部材21の受け板21A及び組み込み板21Bの長さを貯油部10の各対向壁面間の内寸にほぼ一致させること、第2の仕切り部材22の長さ及び幅を、貯油部10の各対向壁面間の内寸にほぼ一致させることのより固定できる。
さらに、第2の仕切り部材22の周部に形成した凹部22dを、ハウジング1における貯油部10内への膨出部1dにほぼ合致して形成しておくのがより望ましい。
【0024】
揺動抑制手段は前述の例に限定されない。例えば、
図7に示すように、第1の仕切り部材21の枚数、第2の仕切り部材22の枚数を変更することができるとともに、これらの組み上げ形態についても限定されない(例えば溶接や連結材による連結など)。
【0025】
また、透過孔21c及び透過孔22cの形状は円形のほか、楕円、
図7に示すスリット22c1など適宜の形状を選択できる。透過孔21c及び透過孔22cの個数及びこれが占める面積率(例えば5〜60%の範囲)なども適宜選択できる。
【0026】
他方、必要により、第1の仕切り部材21の底部に通過孔21eを形成することもできる。
【0027】
さらに、必要ならば、第2の仕切り部材22を複数枚高さ方向に間隔を置いて配置することもできる。
【0028】
次に試験例を示し本発明の効果を明らかにする。
冷凍機用の往復動圧縮機の貯油部を模した透明のアクリル容器内に潤滑油を貯留した供試容器を使用した。
振動試験機の振動台上に、前記供試容器と、所定の距離離間した位置にビデオカメラとを設置した。
この状態で、振動試験機の振動台を水平方向及び鉛直方向に加振した。その際に加振周波数及び加振加速度を変化させながら、潤滑油油面の挙動をビデオカメラにより撮像した。
【0029】
代表的な結果を
図9〜
図20に示す。
図9〜
図20において、点線で示すものは、吸込口11の上面の位置を示す。実線は潤滑油油面を概要的にトレースしたものである。
【0030】
潤滑油油面と吸込口11の上面の位置との関係を評価した結果を表1に示す。
【0032】
図9〜
図20及び表1を注視してみると次のことが判る。
(1)仕切り部材を使用しない場合には、
図9に示されるように、低い周波数の水平振動を受けると、潤滑油油面が吸込口11より下位となり問題を生じる可能性が大いにある。また、高い周波数で激しい鉛直加速度を受けた場合にも、
図18に示されるように、潤滑油油面が吸込口11より下位となり問題を生じる可能性が大いにある。
(2)これに対して、第1の仕切り部材21を設けると、低い周波数及び高い周波数のそれぞれの水平振動を受けたとしても、潤滑油油面が吸込口11より下位となることがない。
(3)第1の仕切り部材21のみであり、第2の仕切り部材22を設けない場合、
図18に示されるように、高い周波数で激しい鉛直加速度を受けた場合、潤滑油油面が吸込口11より下位となり問題を生じる可能性が大いにある。
(4)第1の仕切り部材21及び第2の仕切り部材22を設けた場合、すべての条件下において、潤滑油油面が吸込口11より下位となる問題を生じる可能性はみられなかった。
【0033】
上記の考察からして、第1の仕切り部材の設置が特に水平振動を受ける場合に対して有効である。
第1の仕切り部材及び第2の仕切り部材の両者を設けた場合、すべての条件下において、潤滑油油面が吸込口より下位となる問題を生じる可能性はみられない。
よって、第1の仕切り部材の設置は有効であり、高い周波数で激しい鉛直加速度を受ける条件を考慮範囲とすると、第2の仕切り部材も設けることがより望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、冷媒を使用する冷凍機のほか、モータと連結して各種媒体を圧縮する往復動圧縮機に適用が可能である。
【要約】
【課題】地震などによる低周波振動を受け、潤滑油の油面が給油口より低下することを防止する。
【解決手段】
上部にシリンダ及びピストンを有し、下部に油面開放で潤滑油を蓄える潤滑油貯油部10を有し、前記貯油部10内に潤滑油Oiを取り込む吸込口11を有する往復動圧縮機において、前記貯油部10を水平方向に区分する縦向きの第1の仕切り部材21と、前記貯油部10の上方において、高さ方向に区分する横向きの第2の仕切り部材22とを備える。
【選択図】
図2