特許第6905963号(P6905963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6905963-建設機械 図000002
  • 特許6905963-建設機械 図000003
  • 特許6905963-建設機械 図000004
  • 特許6905963-建設機械 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6905963
(24)【登録日】2021年6月30日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20210708BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20210708BHJP
   E02F 9/00 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   F01N3/08 GZAB
   F02D45/00
   E02F9/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-152661(P2018-152661)
(22)【出願日】2018年8月14日
(65)【公開番号】特開2020-26782(P2020-26782A)
(43)【公開日】2020年2月20日
【審査請求日】2020年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小竹 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 謙輔
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−133115(JP,A)
【文献】 特開2012−2062(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第3333388(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
F02D 43/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンから排出される排ガスを通す排気管と、前記排気管に取り付けられて還元剤を噴射する還元剤噴射装置と、還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、前記還元剤タンクに貯蔵された還元剤を前記還元剤噴射装置に圧送する還元剤ポンプと、前記還元剤噴射装置からの還元剤を前記還元剤タンクに戻す第1位置及び前記還元剤ポンプから吐出した還元剤を前記還元剤噴射装置に送る第2位置を有する方向制御弁と、を備える建設機械において、
前記排気管を通る排ガスの温度を検出する温度センサと、
前記還元剤噴射装置と前記方向制御弁との間に設けられて前記還元剤噴射装置への吐出圧を検出する圧力センサと、
前記還元剤噴射装置、前記還元剤ポンプ、及び前記方向制御弁をそれぞれ制御するコントローラと、を有し、
前記コントローラは、
前記エンジンが始動し、前記温度センサで検出された温度センサ値が所定の温度閾値以上となる開始条件を満たすか否かを判定する開始条件判定部と、
前記還元剤噴射装置による還元剤の噴射開始から所定の第1経過時間内において、前記圧力センサで検出された圧力センサ値が所定の圧力閾値未満となる第1特定条件を満たすか否かを判定する特定条件判定部と、
前記還元剤噴射装置、前記還元剤ポンプ、及び前記方向制御弁のそれぞれに対する動作を指令する動作指令部と、を含み、
前記動作指令部は、
前記開始条件判定部で前記開始条件を満たすと判定され、かつ、前記特定条件判定部で前記第1特定条件を満たさないと判定された場合、前記還元剤噴射装置の噴射口の開度を全開とし、かつ前記還元剤ポンプの出力を最大出力とすると共に、前記方向制御弁の位置を前記第2位置に切り換える第1動作を指令し、
前記開始条件判定部で前記開始条件を満たすと判定され、かつ、前記特定条件判定部で前記第1特定条件を満たすと判定された場合、前記還元剤噴射装置の前記噴射口の開度を全閉とし、かつ前記還元剤ポンプの出力を最大出力とすると共に、前記方向制御弁の位置を前記第1位置と前記第2位置との間で繰り返して切り換える第2動作を指令する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記動作指令部は、前記第2動作が所定の第2経過時間行われた場合、前記第1動作を再び指令し、
前記特定条件判定部は、前記動作指令部で前記第1動作が再び指令された場合、前記第1動作の再開から所定の第3経過時間内において、前記圧力センサで検出された圧力センサ値が前記所定の圧力閾値未満となる第2特定条件を満たすか否かを判定し、
前記特定条件判定部で前記第2特定条件を満たすと判定された場合、前記動作指令部は、前記第2動作を再び指令する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械において、
前記所定の第3経過時間は、前記所定の第1経過時間よりも短く設定されている
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから排出される排ガスを処理する排ガス後処理装置を備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械においても、エンジンから排出される排ガスに含まれる窒素酸化物(以下、「NOx」とする)の量を低減するために、還元剤として尿素水溶液(以下、単に「尿素水」とする)を用いた選択触媒還元システム(以下、「尿素SCRシステム」とする)が採用された排ガス後処理装置が搭載されている。この尿素SCRシステムでは、還元剤噴射装置を用いてエンジンの排気管内に尿素水を噴射し、噴射位置よりも下流側に配設された還元触媒によってエンジンの排ガス中に含まれるNOxを選択的に還元する。
【0003】
例えば、特許文献1には、貯蔵タンク内の尿素水を噴射弁に向けて圧送するポンプと、尿素水の流れる方向を切り換える流路切換弁と、を有するポンプモジュールを備えた還元剤噴射装置が開示されている。流路切換弁は、尿素水を噴射弁に送る場合に尿素水を貯蔵タンク側から噴射弁側に向かわせる第1位置と、尿素水を貯蔵タンクに回収する場合に尿素水を噴射弁側から貯蔵タンク側に向かわせる第2位置と、を有する4ポート2位置の方向制御弁である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−56697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の尿素SCRシステムに適用されるポンプモジュールに搭載された流路切換弁において、切換位置を切り換える際に異物が内部に噛み込み、内部スプールが第1位置と第2位置との中間位置で動かなくなってしまうことがある。この場合、噴射弁に送られる尿素水の一部が漏出してしまい、必要な量の尿素水を還元剤噴射装置に圧送することが困難となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、方向制御弁の内部に噛み込んだ異物を迅速に除去して、還元剤を還元剤噴射装置へ十分に圧送することが可能な建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンと、前記エンジンから排出される排ガスを通す排気管と、前記排気管に取り付けられて還元剤を噴射する還元剤噴射装置と、還元剤を貯蔵する還元剤タンクと、前記還元剤タンクに貯蔵された還元剤を前記還元剤噴射装置に圧送する還元剤ポンプと、前記還元剤噴射装置からの還元剤を前記還元剤タンクに戻す第1位置及び前記還元剤ポンプから吐出した還元剤を前記還元剤噴射装置に送る第2位置を有する方向制御弁と、を備える建設機械において、前記排気管を通る排ガスの温度を検出する温度センサと、前記還元剤噴射装置と前記方向制御弁との間に設けられて前記還元剤噴射装置への吐出圧を検出する圧力センサと、前記還元剤噴射装置、前記還元剤ポンプ、及び前記方向制御弁をそれぞれ制御するコントローラと、を有し、前記コントローラは、前記エンジンが始動し、前記温度センサで検出された温度センサ値が所定の温度閾値以上となる開始条件を満たすか否かを判定する開始条件判定部と、前記還元剤噴射装置による還元剤の噴射開始から所定の第1経過時間内において、前記圧力センサで検出された圧力センサ値が所定の圧力閾値未満となる第1特定条件を満たすか否かを判定する特定条件判定部と、前記還元剤噴射装置、前記還元剤ポンプ、及び前記方向制御弁のそれぞれに対する動作を指令する動作指令部と、を含み、前記動作指令部は、前記開始条件判定部で前記開始条件を満たすと判定され、かつ、前記特定条件判定部で前記第1特定条件を満たさないと判定された場合、前記還元剤噴射装置の噴射口の開度を全開とし、かつ前記還元剤ポンプの出力を最大出力とすると共に、前記方向制御弁の位置を前記第2位置に切り換える第1動作を指令し、前記開始条件判定部で前記開始条件を満たすと判定され、かつ、前記特定条件判定部で前記第1特定条件を満たすと判定された場合、前記還元剤噴射装置の前記噴射口の開度を全閉とし、かつ前記還元剤ポンプの出力を最大出力とすると共に、前記方向制御弁の位置を前記第1位置と前記第2位置との間で繰り返して切り換える第2動作を指令することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、方向制御弁の内部に噛み込んだ異物を迅速に除去して、還元剤を還元剤噴射装置へ十分に圧送することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの一構成例を示す外観側面図である。
図2】尿素SCRシステムの構成を説明する説明図である。
図3】コントローラ周辺の接続構成及びコントローラが有する機能構成を示す図である。
図4】コントローラ内で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る建設機械の一態様として、油圧ショベルについて説明する。
【0011】
<油圧ショベル1の構成>
まず、油圧ショベル1の全体構成及びその動作について、図1を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の一構成例を示す外観側面図である。
【0013】
油圧ショベル1は、路面を走行するための下部走行体11と、下部走行体11の上方に旋回装置12を介して旋回可能に取り付けられた上部旋回体13と、上部旋回体13の前部において俯仰動可能に連結されて掘削等の作業を行うフロント作業機14と、を備えている。
【0014】
下部走行体11は、その左右方向(車幅方向)の両端にクローラ111がそれぞれ配置されている。左右それぞれのクローラ111は、下部走行体11の左右にそれぞれ設けられた走行モータ112の駆動力によって独立して回転駆動する。これにより、油圧ショベル1は、左右それぞれのクローラ111を地面に接触させた状態で前後方向に走行する。なお、図1では、クローラ111及び走行モータ112はそれぞれ、左右のうちの一方側のみを図示している。
【0015】
上部旋回体13は、オペレータが搭乗する運転室131と、フロント作業機14とのバランスを保つためのカウンタウェイト132と、エンジン200(図2参照)や油圧ポンプ等の機器類を内部に収容する機械室133と、を備えている。上部旋回体13において、運転室131は前部に、カウンタウェイト132は後部に、機械室133は運転室131とカウンタウェイト132との間に、それぞれ配置されている。上部旋回体13は、旋回装置12内に設けられた旋回モータ(不図示)の駆動力によって下部走行体11に対して旋回する。
【0016】
フロント作業機14は、基端部が上部旋回体13に回動可能に取り付けられて、上部旋回体13に対して上下方向に回動(俯仰)するブーム141と、ブーム141の先端部に回動可能に取り付けられてブーム141に対して前後方向に回動するアーム142と、アーム142の先端部に回動可能に取り付けられてアーム142に対して前後方向に回動するバケット143と、を備えている。
【0017】
バケット143は、例えば土砂等を掘削したり、均したり、あるいは地面を締め固めたりするものである。このバケット143は、例えば、木材や岩石、廃棄物等を掴むグラップルや、岩盤を掘削するブレーカ等のアタッチメントに変更することが可能である。これにより、油圧ショベル1は、作業内容に適したアタッチメントを用いて、掘削や破砕等を含む様々な作業を行うことができる。
【0018】
また、フロント作業機14は、上部旋回体13とブーム141とを連結するブームシリンダ141Aと、ブーム141とアーム142とを連結するアームシリンダ142Aと、アーム142とバケット143とを連結するバケットシリンダ143Aと、これらの各油圧シリンダ141A,142A,143Aへ作動油を導くための複数の配管144と、を有している。各油圧シリンダ141A,142A,143Aは、ロッドを伸縮させてブーム141、アーム142、及びバケット143をそれぞれ駆動させる。
【0019】
この油圧ショベル1では、エンジンから排出される排ガスを浄化して排ガス中のNOx量を低減するためのシステムとして、還元剤に尿素水を用いる尿素SCRシステムが採用されている。
【0020】
<尿素SCRシステムの構成>
次に、油圧ショベル1に適用される尿素SCRシステムの構成について、図2を参照して説明する。
【0021】
図2は、尿素SCRシステムの構成を説明する説明図である。
【0022】
油圧ショベル1は、エンジン200と、エンジン200から排出される排ガスを通す排気管210と、排気管210を通る排ガスの浄化処理を行う排ガス後処理装置10と、を備えている。排気管210には、内部を通る排ガスの温度を検出する温度センサ101が設けられている。
【0023】
排ガス後処理装置10は、排気管210の途中に取り付けられて排ガスに尿素水を噴射する尿素水噴射装置102と、尿素水を貯蔵する尿素水タンク103と、尿素水を尿素水噴射装置102に圧送するための圧送モジュール104と、尿素水噴射装置102の下流側における排気管210の途中に設けられた還元触媒220と、を有する。尿素水噴射装置102及び圧送モジュール104はそれぞれ、コントローラ105によって制御される。
【0024】
圧送モジュール104には、尿素水タンク103から尿素水を吸い込む吸込み口104Aと、尿素水タンク103に尿素水を戻す戻り口104Bと、尿素水を尿素水噴射装置102に吐出する吐出口104Cと、が設けられている。
【0025】
また、圧送モジュール104は、尿素水タンク103に貯蔵された尿素水を尿素水噴射装置102へ圧送する尿素水ポンプ41と、尿素水の流れ(流量及び方向)を制御する方向制御弁42と、尿素水噴射装置102(吐出口104C)と方向制御弁42との間に設けられて尿素水噴射装置102への吐出圧を検出する圧力センサ43と、圧力センサ43と方向制御弁42との間に設けられて尿素水中の異物を取り除くフィルタ44と、方向制御弁42と戻り口104Bとの間に設けられた逆止弁45と、を有している。
【0026】
方向制御弁42は、尿素水タンク103に接続された第1ポート420Aと、尿素水ポンプ41の吸込み側に接続された第2ポート420Bと、尿素水ポンプ41の吐出し側に接続された第3ポート420Cと、尿素水噴射装置102に接続された第4ポート420Dと、尿素水噴射装置102からの尿素水を尿素水タンク103に戻す第1位置42Aと、尿素水ポンプ41から吐出した尿素水を尿素水噴射装置102に送る第2位置42Bと、を有する4ポート2位置の方向制御弁である。
【0027】
尿素SCRシステムでは、まず、尿素水噴射装置102から排気管210内に尿素水が噴射されると、尿素水が分解することによりアンモニアが生成して還元触媒220に吸着される。そして、吸着されたアンモニアによって、還元触媒220に流入する排ガス中のNOxが選択的に還元される。
【0028】
尿素SCRシステムを始動させる場合、排ガス後処理装置10ではコントローラ105からの指令信号にしたがってスタートアップ動作が行われる。「スタートアップ動作」とは、尿素水噴射装置102の噴射口の開度を全開とし、かつ尿素水ポンプ41の出力を最大出力とすると共に、方向制御弁42の位置を第2位置42Bに切り換える動作(第1動作)のことである。
【0029】
このスタートアップ動作により、尿素水タンク103に貯蔵されている尿素水が、吸込み口104A、第1ポート420A、及び第2ポート420Bを順に通って尿素水ポンプ41で吸い上げられ、第3ポート420C及び第4ポート420Dを通った後、一部はフィルタ44及び吐出口104Cを通って尿素水噴射装置102に導かれる。また、第3ポート420C及び第4ポート420Dを通った尿素水のうちの残りは、逆止弁45及び戻り口104Bを通って尿素水タンク103に戻される。
【0030】
また、尿素SCRシステムが稼働している間は、吐出口104Cにおける尿素水の吐出圧が所定の適正値P0に保たれるように、コントローラ105が尿素水ポンプ41の出力を制御する通常動作が行われる。
【0031】
一方、尿素SCRシステムを停止させる場合、排ガス後処理装置10ではコントローラ105からの指令信号にしたがってアフターラン動作が行われる。「アフターラン動作」とは、尿素水噴射装置102の噴射口の開度を全開とし、かつ尿素水ポンプ41の出力を最大出力とすると共に、方向制御弁42の位置を第1位置42Aに切り換える動作のことである。
【0032】
このアフターラン動作により、尿素水噴射装置102内に残留している尿素水が、吐出口104C、フィルタ44、第4ポート420D、第2ポート420B、尿素水ポンプ41、第3ポート420C、第1ポート420A、及び吸込み口104Aを経由して尿素水タンク103に戻される。
【0033】
尿素SCRシステムでは、尿素水噴射装置102に対して必要な量の尿素水を確実に供給することが、排ガスの浄化性能を満足させる上で重要となる。そのためには、圧送モジュール104が精度よく確実に作動する必要がある。
【0034】
しかしながら、例えば圧送モジュール104の方向制御弁42を切り換える際に、方向制御弁42の内部に異物が噛み込んでしまい、内部スプールが第1位置42Aと第2位置42Bとの中間位置で動かなくなり、圧送モジュール104を正常に作動させることが困難となることがある。
【0035】
この場合、第1ポート420Aと第4ポート420D、あるいは第2ポート420Bと第3ポート420Cとが互いに連通し、尿素水ポンプ41がポンプとしての機能を果たすことができなくなる。このような状態において圧送モジュール104を作動させると、尿素水噴射装置102に向けて送られる尿素水の一部が第2ポート420Bから第3ポート420Cに漏出してしまい、必要な量の尿素水を尿素水噴射装置102に圧送することができなくなる。
【0036】
そこで、排ガス後処理装置10では、コントローラ105によって方向制御弁42に対する異物の噛み込みを判定し、判定結果に基づくコントローラ105からの指令信号にしたがってフラッシング動作を行うことにより、方向制御弁42に噛み込んだ異物を迅速に除去している。
【0037】
ここで、「フラッシング動作」とは、尿素水噴射装置102の噴射口の開度を全閉とし、かつ尿素水ポンプ41の出力を最大出力とすると共に、方向制御弁42の位置を第1位置42Aと第2位置42Bとの間で繰り返し切り換える動作(第2動作)のことである。
【0038】
このように、圧送モジュール104内において、尿素水ポンプ41を最大出力で連続的に運転すると共に、方向制御弁42の位置を一定間隔で断続的に切り換えることにより、圧送モジュール104内に残留している尿素水が方向制御弁42の周辺において撹拌され、方向制御弁42の内部に噛み込んでいた異物を除去することができる。
【0039】
コントローラ105は、CPU、RAM、ROM、入力I/F、及び出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、エンジン制御部133A、ならびに温度センサ101及び圧力センサ43といった各種の検出器等が入力I/Fに接続され、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42等が出力I/Fに接続されている。
【0040】
このようなハードウェア構成において、ROMや光学ディスク等の記録媒体に格納された演算プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された演算プログラムを実行することにより、演算プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ105の機能を実現する。
【0041】
なお、本実施形態では、コントローラ105をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって構成されるコンピュータとして説明しているが、これに限らず、他のコンピュータの構成の一例として、油圧ショベル1の側で実行される演算プログラムの機能を実現する集積回路を用いてもよい。
【0042】
<コントローラ105の機能構成>
次に、コントローラ105の機能構成について、図3を参照して説明する。
【0043】
図3は、コントローラ105周辺の接続構成及びコントローラ105が有する機能構成を示す図である。
【0044】
コントローラ105は、データ取得部51と、判定部52と、閾値記憶部53と、動作指令部54と、経過時間計測部55と、動作回数カウント部56と、を含む。
【0045】
データ取得部51は、エンジン制御部133Aからのエンジン状態に関するデータ、ならびに温度センサ101で検出された温度センサ値T及び圧力センサ43で検出された圧力センサ値Pに関するデータをそれぞれ取得する。
【0046】
判定部52は、開始条件判定部52Aと、特定条件判定部52Bと、を含む。開始条件判定部52Aは、エンジンが始動し、温度センサ101で検出された温度センサ値Tが所定の温度閾値Tth(以下、単に「温度閾値Tth」とする)以上となる開始条件を満たすか否かを判定する。
【0047】
特定条件判定部52Bは、尿素水噴射装置102による尿素水の噴射開始から所定の第1経過時間t1(以下、単に「第1経過時間t1」とする)内において、圧力センサ43で検出された圧力センサ値Pが所定の圧力閾値Pth(以下、単に「圧力閾値Pth」とする)未満となる第1特定条件を満たすか否かを判定する。
【0048】
温度閾値Tthは、エンジンから排出された排ガスの温度に関する閾値であり、尿素SCRシステムを始動させる際に基準となる温度である。また、圧力閾値Pthは、尿素水噴射装置102への尿素水の吐出圧、すなわち圧送モジュール104の吐出口104Cにおける尿素水の圧力に関する閾値であり、フラッシング動作を開始する際の基準となる圧力である。温度閾値Tth及び圧力閾値Pth、ならびに第1経過時間t1はいずれも、予め設定されて閾値記憶部53に記憶されている。
【0049】
動作指令部54は、スタートアップ動作指令部54Aと、通常動作指令部54Bと、フラッシング動作指令部54Cと、アフターラン動作指令部54Dと、を含む。
【0050】
スタートアップ動作指令部54Aは、開始条件判定部52Aで開始条件を満たすと判定された場合に、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してスタートアップ動作を指令する。
【0051】
本実施形態では、スタートアップ動作指令部54Aは、フラッシング動作が所定の第2経過時間t2(以下、単に「第2経過時間t2」とする)行われた場合に、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対して再びスタートアップ動作を指令する(スタートアップ動作再開)。
【0052】
このように、スタートアップ動作指令部54Aにおいてスタートアップ動作が再び指令された場合、特定条件判定部52Bは、スタートアップ動作の再開から所定の第3経過時間t3(以下、単に「第3経過時間t3」とする)内において、圧力センサ43で検出された圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満となる第2特定条件を満たすか否かを判定する。
【0053】
本実施形態では、第3経過時間t3は、第1経過時間t1よりも短く設定されている(t3<t1)。なお、第2経過時間t2及び第3経過時間t3はいずれも、第1経過時間t1と同様に、予め設定されて閾値記憶部53に記憶されている。
【0054】
通常動作指令部54Bは、スタートアップ動作を行った後に圧力センサ43で検出された圧力センサ値Pが圧力閾値Pth以上であった場合(P≧Pth)に、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対して通常動作を指令する。
【0055】
フラッシング動作指令部54Cは、特定条件判定部52Bで第1特定条件を満たすと判定された場合に、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してフラッシング動作を指令する。本実施形態では、特定条件判定部52Bで第2特定条件を満たし、かつフラッシング動作が所定の回数(以下、「N回」とする)行われていない場合に、フラッシング動作指令部54Cは、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してフラッシング動作を再び(繰り返し)指令する。
【0056】
アフターラン動作指令部54Dは、フラッシング動作がN回完了した場合に、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してアフターラン動作を指令する。なお、エンジンが停止された場合には、尿素SCRシステムを稼働させる必要がなくなるため、アフターラン動作指令部54Dは、エンジン制御部133Aからのエンジン停止に関する信号に基づいて、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してアフターラン動作を指令する。
【0057】
経過時間計測部55は、尿素水噴射装置102による尿素水の噴射開始、すなわち最初のスタートアップ動作開始からの経過時間ts1、フラッシング動作開始からの経過時間tf、及びスタートアップ動作の再開(2回目以降におけるスタートアップ動作開始)からの経過時間ts2をそれぞれ計測する。動作回数カウント部56は、フラッシング動作の回数をカウントする。
【0058】
<コントローラ105内における処理>
次に、コントローラ105内で実行される具体的な処理の流れについて、図4を参照して説明する。
【0059】
図4は、コントローラ105内で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0060】
コントローラ105では、まず、データ取得部51が、エンジン制御部133Aからのエンジン始動に係る信号を取得すると(ステップS501)、開始条件判定部52Aが、データ取得部51で取得された温度センサ値Tが温度閾値Tth以上であるか否かを判定する(ステップS502)。
【0061】
ステップS502において温度センサ値Tが温度閾値Tth以上である(T≧Tth)と判定された場合(ステップS502/YES)、開始条件が満たされるため、スタートアップ動作指令部54Aが、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してスタートアップ動作を指令する(ステップS503)。
【0062】
一方、ステップS502において温度センサ値Tが温度閾値Tth未満である(T<Tth)と判定された場合(ステップS502/NO)には、温度センサ値Tが温度閾値Tth以上になるまでスタートアップ動作は開始されない。
【0063】
ステップS503においてスタートアップ動作が開始されると、特定条件判定部52Bは、データ取得部51で取得された圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満であるか否かを判定する(ステップS504)。
【0064】
ステップS504において圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満ではない、すなわち圧力センサ値Pが圧力閾値Pth以上である(P≧Pth)と判定された場合(ステップS504/NO)、通常動作指令部54Bが、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対して通常動作を指令し(ステップS505)、コントローラ105内における処理が終了する。
【0065】
一方、ステップS504において圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満である(P<Pth)と判定された場合(ステップS504/YES)、特定条件判定部52Bは、さらに、経過時間計測部55で計測された経過時間ts1(ステップS503からの経過時間ts1)が第1経過時間t1よりも長いか否かを判定する(ステップS506)。
【0066】
ステップS506において計測された経過時間ts1が第1経過時間t1よりも長い(ts1>t1)と判定された場合(ステップS506/YES)、第1経過時間t1内に圧力センサ値Pが圧力閾値Pthに到達せず第1特定条件が満たされるため、フラッシング動作指令部54Cが、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してフラッシング動作を指令する(ステップS507)。
【0067】
一方、ステップS506において計測された経過時間ts1が第1経過時間t1以内である(ts1≦t1)と判定された場合(ステップS506/NO)、ステップS504に戻る。
【0068】
ステップS507においてフラッシング動作が開始されると、判定部52は、経過時間計測部55で計測された経過時間tf(ステップS507からの経過時間tf)が第2経過時間t2よりも長いか否かを判定する(ステップS508)。
【0069】
ステップS508において計測された経過時間tfが第2経過時間t2以上である(tf≧t2)と判定された場合(ステップS508/YES)、フラッシング動作が第2経過時間t2以上行われたことになるため、スタートアップ動作指令部54Aが、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対して再びスタートアップ動作を指令する(ステップS509)。
【0070】
一方、ステップS508において計測された経過時間tfが第2経過時間よりも短い(tf<t2)と判定された場合(ステップS508/NO)、第2経過時間t2経過するまでフラッシング動作を継続して行う。
【0071】
ステップS509においてスタートアップ動作が再開されると、特定条件判定部52Bは、データ取得部51で取得された圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満であるか否かを判定する(ステップS510)。
【0072】
ステップS510において圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満ではない、すなわち圧力センサ値Pが圧力閾値Pth以上である(P≧Pth)と判定された場合(ステップS510/NO)、通常動作指令部54Bが、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対して通常動作を指令し(ステップS505)、コントローラ105内における処理が終了する。
【0073】
一方、ステップS510において圧力センサ値Pが圧力閾値Pth未満である(P<Pth)と判定された場合(ステップS510/YES)、特定条件判定部52Bは、さらに、経過時間計測部55で計測された経過時間ts2(ステップS509からの経過時間ts2)が第3経過時間t3よりも長いか否かを判定する(ステップS511)。
【0074】
ステップS511において計測された経過時間ts2が第3経過時間t3よりも長い(ts2>t3)と判定された場合(ステップS511/YES)、第3経過時間t3内に圧力センサ値Pが圧力閾値Pthに到達せず第2特定条件が満たされる。判定部52は、さらにフラッシング動作がN回完了しているか否かを判定し(ステップS512)、ステップS512においてフラッシング動作がN回完了していないと判定された場合には(ステップS512/NO)、ステップS507に戻って再びフラッシング動作を開始する。
【0075】
ステップS512においてフラッシング動作がN回完了していると判定された場合には(ステップS512/YES)、アフターラン動作指令部54Dが、尿素水噴射装置102、尿素水ポンプ41、及び方向制御弁42のそれぞれに対してアフターラン動作を指令し(ステップS513)、コントローラ105内における処理が終了する。
【0076】
ステップS511において計測された経過時間ts2が第3経過時間t3以内である(ts2≦t3)と判定された場合(ステップS511/NO)、ステップS510に戻る。
【0077】
このように、圧送モジュール104に搭載された圧力センサ43を用いて方向制御弁42に対する異物の噛み込みを検出し、フラッシング動作を行うことによって、噛み込んだ異物を迅速に除去することができる。これにより、尿素水噴射装置102へ尿素水を十分に圧送することが可能となる。
【0078】
また、排ガス後処理装置10において、既存の部品の改造や、各部品のレイアウトの変更をする必要がなく、圧送モジュール104の制御ロジックに変更を加えることのみにより、方向制御弁42に対する異物の噛み込みを除去することができる。
【0079】
本実施形態では、フラッシング動作を行った後に再びスタートアップ動作を行うことにより、方向制御弁42に噛み込んだ異物が当該フラッシング動作によってきちんと除去されたかどうかを確認し、異物の除去に対する精度の向上を図っている。
【0080】
さらに、本実施形態では、2回目のスタートアップ動作における第2特定条件の判定に用いる第3経過時間t3が、最初のスタートアップ動作における第1特定条件の判定に用いる第1経過時間t1よりも短く設定されているため(t3<t1)、異物の除去の確認をより厳しく行うことができ、異物の除去に対する精度がさらに向上する。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0082】
例えば、上記実施形態では、油圧ショベル1に排ガス後処理装置10を適用した場合について説明したが、必ずしも油圧ショベル1である必要はなく、他の建設機械に適用してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1:油圧ショベル(建設機械)
41:尿素水ポンプ(還元剤ポンプ)
42:方向制御弁
42A:第1位置
42B:第2位置
43:圧力センサ
52A:開始条件判定部
52B:特定条件判定部
54:動作指令部
101:温度センサ
102:尿素水噴射装置(還元剤噴射装置)
103:尿素水タンク(還元剤タンク)
105:コントローラ
200:エンジン
210:排気管
図1
図2
図3
図4