(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記防曇層は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含み、
前記ポリマーの含有量は、50質量%以上99質量%以下である、
請求項1から11のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、曇りを防ぐために、ウインドシールドに防曇機能を付与するコーティングを施すことが提案されている。しかしながら、情報取得領域は、比較的に小さい領域である。そのため、このような小さい領域にコーティングを均一に付与するのは困難であり、情報取得装置による情報の取得を阻害するようなムラ(凹凸)がコーティングの表面にできてしまう可能性がある。
【0008】
そこで、情報取得領域に防曇機能を付与する代替方法として、コーティングに代えて、防曇性能を有する防曇シートを、粘着層を介して貼り付ける方法が考えられる。情報取得領域のような小さな領域であってもフィルムを貼り付けるのは容易である。そのため、例えば、歪みの殆どない透明な防曇シートを利用すれば、情報取得装置による情報の取得を阻害することなく、情報取得領域に容易に防曇機能を付与することができる。
【0009】
しかしながら、本件発明者らは、上記のような防曇シートが経時変化により白濁するという問題を見出した。その原因の1つとして、ウインドシールドを構成するガラス板に含有されるアルカリ成分が防曇シート側に析出し、これによって防曇シートが白濁することを見出した。そして、このように防曇シートが白濁すると、ガラスが曇った場合と同様、情報取得装置から正確に光を照射できなかったり、あるいは受光できないおそれがある。これにより、車間距離などが正確に算出されない可能性もある。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる、ウインドシールド、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第1のウインドシールド及びその製造方法は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域を有する合わせガラスと、
少なくとも粘着層、基材フィルム、及び防曇層がこの順で積層され、少なくとも前記情報取得領域の車内側の面に前記粘着層が貼り付けられた防曇シートと、
を備え、
前記合わせガラスは、表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板を少なくとも1枚含み、前記車内側の面は、当該ガラス板の酸化スズの濃度が高い方の面により構成されている、ウインドシールド。
【0012】
項2.前記合わせガラスに設けられ、車外からの視野を遮蔽するとともに、前記情報取得領域に対応して配置された開口部を有する遮蔽層と、
前記情報取得装置を前記開口部と対向する位置に取り付けるためのブラケットと、
をさらに備え、
前記ブラケットは、前記開口部の周囲に配置され、前記遮蔽層により少なくとも部分的に遮蔽されるように固定されている、
項1に記載のウインドシールド。
【0013】
項3.前記表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板は、フロートガラスであり、
当該フロートガラスの2つの主面において、前記酸化スズの濃度が高い方の面がボトム面を構成し、前記酸化スズの濃度が低い方の面がトップ面を構成する、項22に記載のウインドシールド。
【0014】
項4.前記合わせガラスは、車内側に配置される内側ガラス板と、車外側に配置される外側ガラス板と、当該内側ガラス板と外側ガラス板との間に配置される中間膜と、を備えており、
前記内側ガラス板及び外側ガラス板は、前記フロートガラスにより形成され、
前記内側ガラス板のトップ面と、前記外側ガラス板のトップ面とが、前記中間膜に接している、項3に記載のウインドシールド。
【0015】
項5.前記合わせガラスは、車内側に配置される内側ガラス板と、車外側に配置される外側ガラス板と、当該内側ガラス板と外側ガラス板との間に配置される中間膜と、を備えており、
前記内側ガラス板及び外側ガラス板は、前記フロートガラスにより形成され、
前記内側ガラス板のトップ面と、前記外側ガラス板のボトム面とが、前記中間膜に接している、項3に記載のウインドシールド。
【0016】
項6.前記防曇シートの平面寸法は、前記遮蔽層の前記開口部の平面寸法より大きい、
項2に記載のウインドシールド。
【0017】
項7.前記ブラケットは枠状に形成され、
前記防曇シートの平面寸法は、前記ブラケットの内寸より小さい、
項6に記載のウインドシールド。
【0018】
項8.前記防曇シートの平面寸法は、前記遮蔽層の前記開口部の平面寸法より小さい、
項2に記載のウインドシールド。
【0019】
項9.前記遮蔽層の前記開口部の平面寸法は、前記情報取得領域の平面寸法より大きく、
前記防曇シートの平面寸法は、前記情報取得領域の平面寸法より大きく、前記遮蔽層の開口部の平面寸法より小さい、
項2に記載のウインドシールド。
【0020】
項10.前記遮蔽層の開口部の縁と前記防曇シートの縁とは少なくとも部分的に接している、
項2から8のいずれかに記載のウインドシールド。
【0021】
項11.前記情報取得装置として、前記情報取得領域を通して車外の状況を撮影する撮影装置と、光線の照射及び/又は受光するレーザー装置とが水平方向に並んで配置され、
前記遮蔽層の開口部の縁と前記防曇シートの縁とが接する部分は、前記撮影装置側に配置される、
項10に記載のウインドシールド。
【0022】
項12.前記防曇シートの基材フィルム及び防曇層の合計の厚みは前記遮蔽層の厚みより大きい、
項1から11のいずれかに記載のウインドシールド。
【0023】
項13.前記防曇シートの基材フィルムの厚みは前記遮蔽層の厚みより大きい、
項12に記載のウインドシールド。
【0024】
項14.前記中間膜は、熱線を吸収する粒子が含有され、
前記粒子は、前記開口部を含む前記遮蔽層と平面視において重なる前記中間膜の領域には配置されておらず、それ以外の領域に配置されている、
項1から13のいずれかに記載のウインドシールド。
【0025】
項15.前記防曇層は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含み、
前記ポリマーの含有量は、50質量%以上99質量%以下である、
項1から14のいずれかに記載のウインドシールド。
【0026】
項16.前記防曇シートは、平面視矩形状に形成され、
前記防曇シートの角部は丸みを帯びている、
項1から15のいずれかに記載のウインドシールド。
【0027】
項17.前記防曇シートの角部のうち、少なくとも1つの角部は、他の角部よりも丸みの曲率半径が小さくなっている、
項16に記載のウインドシールド。
【0028】
項18.前記基材シートは、熱伝導率が5×10
-4cal/cm・sec・℃以下の材料で構成される、
項1から17のいずれかに記載のウインドシールド。
【0029】
項19.前記防曇層には、界面活性剤が含まれている、
項1から18のいずれかに記載のウインドシールド。
【0030】
項20.前記防曇シートの断面形状は、前記防曇層側の辺が前記基材フィルム側の辺よりも短い台形状に形成されている、
項1から19のいずれかに記載のウインドシールド。
【0031】
項21.前記情報取得装置として、前記情報取得領域を通して車外の状況を撮影する撮影装置と、光線の照射及び/又は受光するレーザー装置とが水平方向に並んで配置され、
前記防曇シートの台形状は、前記レーザー装置が配置される側の脚が、前記撮影装置が配置される側の脚よりも大きな角度で傾斜するよう構成されている、
項20に記載のウインドシールド。
【0032】
項22.前記基材フィルムは複数の層で構成される、
項1から21のいずれかに記載のウインドシールド。
【0033】
項23.光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドの製造方法であって、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域を有する合わせガラスであって、車外からの視野を遮蔽し、前記情報取得領域に対応して配置された開口部を有する遮蔽層が設けられた合わせガラスを用意する第1ステップと、
少なくとも粘着層、基材フィルム、及び防曇層がこの順で積層された防曇シートの前記粘着層を、少なくとも前記情報取得領域の車内側の面に貼り付ける第2ステップと、
前記情報取得装置を前記情報取得領域に対向させるためのブラケットを、前記開口部の周囲において、前記遮蔽層により少なくとも部分的に遮蔽されるように固定する第3ステップと、
を備え、
前記合わせガラスは、表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板を少なくとも1枚含み、前記車内側の面は、当該ガラス板の酸化スズの濃度が高い方の面により構成されている、ウインドシールドの製造方法。
【0034】
項24.前記表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板は、フロートガラスであり、
当該フロートガラスの2つの主面において、前記酸化スズの濃度が高い方の面がボトム面を構成し、前記酸化スズの濃度が低い方の面がトップ面を構成する、項23に記載のウインドシールの製造方法。
【0035】
項25.前記防曇シートの平面寸法は、前記遮蔽層の前記開口部の平面寸法より大きい、
項23に記載のウインドシールドの製造方法。
【0036】
項26.前記ブラケットは枠状に形成され、
前記防曇シートの平面寸法は、前記ブラケットの内寸より小さい、
項25に記載のウインドシールドの製造方法。
【0037】
項27.前記防曇シートの平面寸法は、前記遮蔽層の前記開口部の平面寸法より小さい、
項26に記載のウインドシールドの製造方法。
【0038】
項28.前記遮蔽層の前記開口部の平面寸法は、前記情報取得領域の平面寸法より大きく、
前記防曇シートの平面寸法は、前記情報取得領域の平面寸法より大きく、前記遮蔽層の開口部の平面寸法より小さい、
項25に記載のウインドシールドの製造方法。
【0039】
項29.前記第2ステップでは、前記遮蔽層の開口部の縁と前記防曇シートの縁とが少なくとも部分的に接するように、前記情報取得領域の車内側の面に防曇シートを積層する、
項23から28のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0040】
項30.前記情報取得装置として、前記情報取得領域を通して車外の状況を撮影する撮影装置と、光線の照射及び/又は受光するレーザー装置とが水平方向に並んで配置され、
前記遮蔽層の開口部の縁と前記防曇シートの縁とが接する部分は、前記撮影装置側に配置される、
項29に記載のウインドシールドの製造方法。
【0041】
項31.前記防曇シートの機材フィルム及び防曇層の合計の厚みは前記遮蔽層の厚みより大きい、
項23から30のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0042】
項32.前記防曇シートの基材フィルムの厚みは前記遮蔽層の厚みより大きい、
項31に記載のウインドシールドの製造方法。
【0043】
項33.前記中間膜は、熱線を吸収する粒子を含み、
前記粒子は、前記開口部を含む前記遮蔽層と平面視において重なる前記中間膜の領域には配置されておらず、それ以外の領域に配置されている、
項23から32のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0044】
項34.前記防曇層は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含み、
前記ポリマーの含有量は、50質量%以上99質量%以下である、
項23から33のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0045】
項35.前記防曇シートは、平面視矩形状に形成され、
前記防曇シートの角部は丸みを帯びている、
項23から34のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0046】
項36.前記基材フィルムは、熱伝導率が5×10
-4 cal/cm・sec・℃以下の材料で構成される、
項23から35のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0047】
項37.前記防曇層には、界面活性剤が含まれている、
項23から36のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0048】
項38.前記防曇シートの断面形状は、前記防曇層側の辺が前記基材フィルム側の辺よりも短い台形状に形成されている、
項23から37のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0049】
項39.前記情報取得装置として、前記情報取得領域を通して車外の状況を撮影する撮影装置と、光線の照射及び/又は受光するレーザー装置とが水平方向に並んで配置され、
前記防曇シートの台形状は、前記レーザー装置が配置される側の脚が、前記撮影装置が配置される側の脚よりも大きな角度で傾斜するよう構成されている、
項38に記載のウインドシールドの製造方法。
【0050】
項40.前記基材フィルムは複数の層で構成される、
項23から39のいずれかに記載のウインドシールドの製造方法。
【0051】
ところで、上記のような防曇シートを合わせガラスに貼り付けると、干渉縞が生じるおそれがある。すなわち、外部からの光による、ガラス板と粘着層との界面での反射光と、粘着層と基材フィルムとの界面での反射光が干渉し、干渉縞が生じるおそれがある。例えば、一般的に用いられるフロートガラスの屈折率は1.52であるが、ボトム面はそれより高く1.54〜1.59である。また、アクリル製の粘着層、基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレートの屈折率は、それぞれ1.47,1.60であるとすると、これら屈折率の差により、上記のような干渉縞が生じる。これにより、情報取得装置から正確に光を照射できなかったり、あるいは受光できないおそれがある。その結果、車間距離などが正確に算出されない可能性もある。そこで、第2の本発明は、防曇シートを貼り付けても干渉縞が生じるのを防止することができる、ウインドシールド、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0052】
本発明に係る第2のウインドシールド、及びその製造方法は、以下のように構成される。
【0053】
光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドであって、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域を有する合わせガラスと、
少なくとも粘着層、基材フィルム、及び防曇層がこの順で積層され、少なくとも前記情報取得領域の車内側の面に前記粘着層が貼り付けられた防曇シートと、
を備え、
前記合わせガラスは、表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板を少なくとも1枚含み、前記車内側の面は、当該ガラス板の酸化スズの濃度が低い方の面により構成されている、ウインドシールド。
【0054】
光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能な自動車のウインドシールドの製造方法であって、
前記情報取得装置と対向し前記光が通過する情報取得領域を有する合わせガラスであって、車外からの視野を遮蔽し、前記情報取得領域に対応して配置された開口部を有する遮蔽層が設けられた合わせガラスを用意する第1ステップと、
少なくとも粘着層、基材フィルム、及び防曇層がこの順で積層された防曇シートの前記粘着層を、少なくとも前記情報取得領域の車内側の面に貼り付ける第2ステップと、
前記情報取得装置を前記情報取得領域に対向させるためのブラケットを、前記開口部の周囲において、前記遮蔽層により少なくとも部分的に遮蔽されるように固定する第3ステップと、
を備え、
前記合わせガラスは、表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板を少なくとも1枚含み、前記車内側の面は、当該ガラス板の酸化スズの濃度が低い方の面により構成されている、ウインドシールド。
【0055】
以上の第2の発明によれば、フロートガラスのトップ面での屈折率がボトム面の屈折率よりも低いため、このトップ面に粘着層を接するようにすると、粘着層との屈折率の差を小さくすることができる。例えば、上述したアクリル製の粘着層を用いた場合、一般的なガラスのボトム面との屈折率の差は0.07〜0.12であるが、トップ面を粘着層と接触させた場合には、屈折率の差を0.06よりも小さくすることができる。その結果、干渉縞を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、以下の説明では、説明の便宜のため、図面内の向きを基準として説明を行う。
【0059】
§1 構成例
まず、
図1及び
図2を用いて、本実施形態に係るウインドシールド100を説明する。
図1は、本実施形態に係るウインドシールド100の一例を模式的に例示する正面図である。また、
図2は、本実施形態に係るウインドシールドの情報取得領域3付近を模式的に例示する部分断面図である。
【0060】
図1及び
図2に例示されるように、本実施形態に係るウインドシールド100は、合わせガラス1と、濃色のセラミックにより構成され、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層2と、を備えている。遮蔽層2は、合わせガラス1の周縁部に沿って設けられており、環状の周縁部21、及び周縁部21の上辺部中央から面方向内側に突出する突出部22を有している。
【0061】
突出部22には、セラミックが積層していない開口部23が設けられており、開口部23の周囲には枠状のブラケット6が固定されている。このブラケット6には、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置を付設するためのカバー7を取り付けることができるようになっている。これにより、ウインドシールド100は、情報取得装置を車内に配置可能に構成されている。
【0062】
本実施形態では、情報取得装置の一例として、カメラ81及びレーダ82が車内に取り付けられる。カメラ81は、本発明の「撮影装置」に相当する。また、レーダ82は、本発明の「レーザー装置」に相当する。カメラ81及びレーダ82が車内に取り付けられると、合わせガラス1では、カメラ81及びレーダ82に対向する位置に、すなわち、開口部23内に、光の通過する情報取得領域3が設定される。カメラ81及びレーダ82は、この情報取得領域3を介して、車外の情報を取得する。
【0063】
情報取得領域3の車内側の面には、防曇シート4が積層(貼着)されている。防曇シート4は、本発明の「防曇性積層体」に相当する。防曇シート4は、防曇性を有する防曇層43と、車内から車外に熱が放熱されるのを遮断する基材フィルム42とを備えている。防曇層43は最外層に配置されており、基材フィルム42は、防曇層43と合わせガラス1(情報取得領域3)との間に配置されている。これにより、本実施形態では、情報取得領域3付近の温度が低下しにくいようにし、情報取得領域3における防曇機能の低下を抑制することができるようになっている。以下、各構成要素について説明する。
【0064】
[合わせガラス]
まず、
図3を更に用いて、合わせガラス1について説明する。
図3は、本実施形態に係る合わせガラス1を模式的に例示する断面図である。
図3に示されるとおり、合わせガラス1は、車外側に配置される外側ガラス板11と、車内側に配置される内側ガラス板12と、を備えている。外側ガラス板11と内側ガラス板12との間には中間膜13が配置されており、この中間膜13は、外側ガラス板11の車内側の面と内側ガラス板12の車外側の面とを接合している。
【0065】
<外側ガラス板及び内側ガラス板>
両ガラス板(11、12)は、互いにほぼ同形であり、平面視台形状に形成されている。両ガラス板(11、12)は、面直方向に湾曲していてもよいし、平らであってもよい。例えば、各ガラス板(11、12)の車外側の面が凸となり、車内側の面が凹となるように湾曲した形状を有してもよい。
【0066】
各ガラス板(11、12)には、公知のガラス板を用いることができる。例えば、各ガラス板(11、12)は、フロートガラスの一形態である熱線吸収ガラス、クリアガラス、グリーンガラス、UVグリーンガラス等であってよい。ただし、各ガラス板(11、12)は、自動車の使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現するように構成される。例えば、各ガラス板(11、12)は、JIS R 3211で定められるように、可視光(380nm〜780nm)の透過率が70%以上になるように構成されてもよい。なお、この透過率は、JIS R 3212(3.11 可視光透過率試験)で定められているように、JIS Z 8722に規定された分光測定法によって測定することができる。また、例えば、外側ガラス板11によって所望の日射吸収率を確保し、内側ガラス板12によって可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することもできる。以下に、各ガラス板(11、12)を構成可能なガラスの組成の一例として、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0067】
(クリアガラス)
SiO
2:70〜73質量%
Al
2O
3:0.6〜2.4質量%
CaO:7〜12質量%
MgO:1.0〜4.5質量%
R
2O:13〜15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3):0.08〜0.14質量%
【0068】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3)の比率を0.4〜1.3質量%とし、CeO
2の比率を0〜2質量%とし、TiO
2の比率を0〜0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO
2やAl
2O
3)をT−Fe
2O
3、CeO
2およびTiO
2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0069】
本実施形態に係る合わせガラス1の厚みは特に限定されないが、軽量化の観点からは、両ガラス板(11、12)の厚みの合計を、2.5mm〜10.6mmとすることが好ましく、2.6mm〜3.8mmとすることがさらに好ましく、2.7mm〜3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、両ガラス板(11、12)の合計の厚みを小さくすればよい。各ガラス板(11、12)の厚みは特に限定されないが、例えば、以下のように、各ガラス板(11、12)の厚みを決定することができる。
【0070】
すなわち、外側ガラス板11は、主として、小石等の飛来物等の衝撃に対する耐久性及び耐衝撃性が求められる。他方、外側ガラス板11の厚みを大きくするほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは、1.6mm〜2.5mmとすることが好ましく、1.9mm〜2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
【0071】
一方、内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11の厚みと同等にすることができるが、例えば、合わせガラス1の軽量化のために、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、内側ガラス板12の厚みは、0.6mm〜2.1mmであることが好ましく、0.8mm〜1.6mmであることがさらに好ましく、1.0mm〜1.4mmであることが特に好ましい。更には、内側ガラス板12の厚みは、0.8mm〜1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板12についても、何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
【0072】
<中間膜>
中間膜13は、両ガラス板(11、12)の間に挟持され、両ガラス板(11、12)を接合する膜である。中間膜13は、実施の形態に応じて種々の構成が可能である。例えば、中間膜13は、軟質のコア層を、これよりも硬質の一対のアウター層で挟持した3層構造で構成することができる。中間膜13をこのように軟質の層及び硬質の層の複数層で構成することによって、合わせガラス1の耐破損性能及び遮音性能を高めることができる。
【0073】
この中間膜13の材料は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて例えば、樹脂材料の中から適宜選択されてよい。例えば、中間膜13を上記のように硬さの異なる複数の層で構成する場合、硬質のアウター層には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)を用いることができる。このポリビニルブチラール樹脂(PVB)は、外側ガラス板11及び内側ガラス板12それぞれとの接着性及び耐貫通性に優れるため、アウター層の材料として好ましい。また、軟質のコア層には、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、又はアウター層に利用するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質のポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
【0074】
なお、一般的に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、(a)〜(d)の少なくともいずれかの条件を適切に調整することにより、アウター層に用いる硬質のポリビニルアセタール樹脂とコア層に用いる軟質のポリビニルアセタール樹脂とを作製してもよい。
【0075】
更に、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によって、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−へプチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
【0076】
また、中間膜13の総厚は、実施の形態に応じて適宜設定可能である。例えば、中間膜13の総厚は、0.3〜6.0mmとすることができ、0.5〜4.0mmであることが好ましく、0.6〜2.0mmであることが更に好ましい。コア層とコア層を挟持する一対のアウター層との3層構造で中間膜13を構成する場合、コア層の厚みは、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層の厚みは、コア層の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜1.0mmであることがさらに好ましい。
【0077】
このような中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作製した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜13は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0078】
[ガラス板の向き]
本実施形態においては、外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、ともにフロート法で製造したフロートガラスである。フロート法により製造されたガラス板は一般にフロートガラスと呼ばれるが、フロートガラスはその製造方法に由来して、その2つの主面における酸化スズの濃度が異なるガラス板であることがよく知られている。つまり、フロート法では、溶融したガラスを溶融したスズの表面に流すことで平板状のガラス板を製造する。このとき、ガラス板のうち、溶融したスズと接した面には酸化スズの含有層が存在する。そして、ガラス板において、この酸化スズの含有層が存在する面を一般的にはボトム面と称し、これとは反対側のスズに接していなかった面をトップ面と称する。そして、後述するように、ボトム面における酸化スズの含有率は、トップ面における酸化スズの含有率よりも大きい。ここで、酸化スズの含有率とは、ガラスの表面から深さ10μmの範囲で、二酸化スズに換算した酸化スズの濃度の最大値である。具体的には、例えば、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer: EPMA)に装着した波長分散型X線検出器(Wavelength Dispersive X-ray Detector: WDX)により測定した値に基づいて特定することができる。そして、ボトム面における酸化スズの含有率は1〜10質量%であることが好ましく、トップ面における酸化スズの含有率は1%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
本実施形態においては、内側ガラス板12において車内側を向く面をボトム面としている。一方、外側ガラス板11の向きは、いずれであってもよく、車内側を向く面、つまり中間膜13と接する面をボトム面としてもよいし、トップ面としてもよい。
【0080】
[遮蔽層]
次に、
図4及び
図5を更に用いて、車外からの視野を遮蔽する遮蔽層2について説明する。
図4は、本実施形態に係るウインドシールド100の情報取得領域3付近を模式的に例示する部分拡大図である。
図5は、本実施形態に係る遮蔽層2を模式的に例示する断面図である。
【0081】
図2及び
図5に示されるとおり、遮蔽層2は、合わせガラス1の車内側の面、すなわち、内側ガラス板12の車内側の面に設けられている。遮蔽層2は、合わせガラス1の車内側の面の周縁部に沿って環状に積層された周縁部21と、周縁部21の上辺部中央から面方向内側に突出する略矩形状の突出部22とを有している。
【0082】
突出部22には、情報取得領域3に対応して配置された開口部23が設けられている。
図1及び
図4に示されるとおり、開口部23は、略矩形状に形成されており、下方側の領域232は開放されている。開口部23の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きくなるように設定される。
【0083】
遮蔽層2の各部の寸法は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、周縁部21において、合わせガラス1の上端辺及び下端辺それぞれに沿う部分の幅は20mm〜100mmの範囲で設定されてよく、合わせガラス1の左端辺及び右端辺それぞれに沿う部分の幅は15mm〜70mmの範囲で設定されてよい。また、突出部22は、200mm(縦)×100mm(横)〜400mm(縦)×200mm(横)の範囲で設定されてよい。
【0084】
また、情報取得領域3の平面寸法は、車内に設置する情報取得装置によって定まる。これに対して、開口部23の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きくなるように、適宜設定されてよい。開口部23は、例えば、平面視で上辺85mm、下辺95mm、高さ65mmの台形状の領域として設定されてよい。
【0085】
開口部23は、遮蔽層2を構成する濃色のセラミックが積層されていない領域である。つまり、この開口部23と周縁部21の面方向内側の領域とでは、濃色のセラミックが積層されておらず、光の通過が可能となっている。
図2に示されるとおり、合わせガラス1よりも車内側に配置されるカメラ81及びレーダ82は、この開口部23内の情報取得領域3を介して車外の情報を取得する。そのため、情報取得領域3は、例えば、上記のとおり、JIS R 3211で定められるように、可視光の透過率が70%以上になるように構成されてよい。
【0086】
同様に、周縁部21の面方向内側の領域でも、濃色のセラミックが積層されておらず、光の通過が可能となっている。ウインドシールド100を取り付けた自動車に乗車した運転者及び助手席に座る同行者は、周縁部21の面方向内側の領域を介して車外前方を確認することになる。そのため、周縁部21の面方向内側の領域は、少なくとも車外の交通状況を目視可能な程度に可視光の透過率を有するように構成される。
【0087】
図4に示されるとおり、本実施形態では、突出部22は、開口部23よりも上側に配置された上部領域221、上部領域221より下方で開口部23を含む下部領域222、及び下部領域222の側部に形成された矩形状の側部領域223で構成されている。この突出部22は、
図5に示されるような層構造を有している。
【0088】
すなわち、上部領域221は、濃色のセラミックで構成される第1セラミック層241により1層で形成されている。下部領域222は、合わせガラス1の内表面から積層される上記第1セラミック層241、銀層242、及び第2セラミック層243により3層で形成されている。銀層242は銀により形成され、第2セラミック層243は第1セラミック層241と同じ材料で形成される。
【0089】
また、側部領域223は、合わせガラス1の内表面から積層される第1セラミック層241及び銀層242により形成されており、銀層242が車内側に露出している。最下層の第1セラミック層241は、各領域で共通であり、2層目の銀層242は下部領域222と側部領域223で共通である。
【0090】
なお、後述するとおり、内側ガラス板12の車内側の面に形成された突出部22には、カメラ81及びレーダ82のカバーを取り付けるためのブラケットが接着剤で接着される。このとき、例えば、ウレタン・シリコン系の接着剤を利用すると、接着剤が紫外線などによって劣化するおそれがある。そのため、遮光性を担保し、接着剤の劣化を防ぐ観点から、各セラミック層(241、243)の厚みは、例えば、20μm〜50μmとするのが好ましい。また、銀層242の厚みは、例えば、20μm〜50μmとするのが好ましい。そのため、突出部22の下部領域222の厚みD1は、例えば、60μm〜150μmとするのが好ましい。
【0091】
上記のような周縁部21及び突出部22を備える遮蔽層2は、例えば、次のように形成することができる。まず、ガラス板上に、第1セラミック層241を塗布する。第1セラミック層241は、周縁部21及び突出部22で共通である。次に、第1セラミック層241上において、下部領域222及び側部領域223に該当する領域に銀層242を塗布する。最後に、銀層242上において、下部領域222に該当する領域に第2セラミック層243を塗布する。
【0092】
なお、側部領域223において露出する銀層242には接地用の配線が施される。両セラミック層(241、243)及び銀層242は、スクリーン印刷法により形成することができるが、これ以外に、焼成用転写フィルムをガラス板に転写し焼成することにより作製することも可能である。このように、銀層242を含むように下部領域222を構成することにより電磁波を遮蔽することができ、これによって、下部領域222に固定されるブラケット6を介して取り付けられるカメラ81及びレーダ82が電磁波の影響を受けないようにすることができる。
【0093】
また、各セラミック層(241、243)の材料は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、各セラミック層(241、243)は、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックにより形成することができる。具体的に、以下の表1に示す組成のセラミックにより各セラミック層(241、243)を形成することができる。ただし、各セラミック層(241、243)を形成するセラミックの組成は、以下の表1に限定される訳ではなく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0094】
【表1】
*1,アサヒ化成工業株式会社製:Black 6350(Pigment Green 17)
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0095】
また、銀層242の材料も、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、銀層242には、以下の表2に示される組成の材料を利用することができる。
【0096】
【表2】
*1,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0097】
また、スクリーン印刷の条件として、例えば、ポリエステルスクリーン:355メッシュ,コート厚み:20μm,テンション:20Nm,スキージ硬度:80度,取り付け角度:75°,印刷速度:300mm/sとすることができ、乾燥炉にて150℃、10分の乾燥により、各セラミック層(241、243)及び銀層242を形成することができる。なお、第1セラミック層241、銀層242、及び第2セラミック層243をこの順で積層する場合には、上述したスクリーン印刷及び乾燥を繰り返せばよい。
【0098】
[防曇シート]
次に、防曇シート4について説明する。
図2に示されるとおり、防曇シート4は、断面矩形状に形成されており、シート状の透明の基材フィルム42と、基材フィルム42の一方の面上に積層された透明の防曇層43と、基材フィルム42の他方の面上に積層された透明の粘着層41と、を備えている。防曇シート4は、情報取得領域3の車内側の面、すなわち、内側ガラス板12の車内側の面に、基材フィルム42の他方の面を向けて、粘着層41を介して貼着されている。以下、各層について説明する。
【0099】
(A)防曇層
まず、防曇層43について説明する。防曇層43は、防曇シート4の最外層として配置され、防曇機能を発揮する層である。防曇層43の種類は、透明で防曇性を有しているものであれば、特に限定されなくてもよく、公知のものを用いることができる。一般的に防曇層の種類として、水蒸気から生じる水を水膜として表面に形成する親水タイプ、水蒸気を吸収する吸水タイプ、及び水蒸気から生じる水滴を撥水する撥水タイプがある。防曇層43には、いずれのタイプも利用可能である。
【0100】
吸水タイプを採用する場合、防曇層43は、例えば、次のように構成することができる。すなわち、防曇層43は、撥水基と金属酸化物成分とを含み、好ましくは吸水性樹脂をさらに含むように構成することができる。防曇層43は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇層43に供給することができる。金属酸化物成分は、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物、金属酸化物微粒子等から防曇層43に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0101】
<吸水性樹脂>
まず、吸水性樹脂について説明する。防曇層43は、吸水性樹脂として、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種類のポリマーを含むことができる。ウレタン樹脂として、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましい。エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。好ましいエポキシ樹脂は、環式脂肪族エポキシ樹脂である。以下、好ましい吸水性樹脂であるポリビニルアセタール樹脂(以下、単に「ポリアセタール」)について説明する。
【0102】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2〜40モル%、さらには3〜30モル%、特に5〜20モル%、場合によっては5〜15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば
13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタールは、吸水性及び耐水性が良好である防曇層の形成に適している。
【0103】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、200〜4500、さらに500〜4500が好ましい。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である防曇層の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて防曇層の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75〜99.8モル%が好適である。
【0104】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた防曇層を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い防曇層を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタールは、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0105】
防曇層43における吸水性樹脂(ポリマー)の含有量は、硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であり、99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。これにより、親水性の無機材料のみを利用した場合に比べて、防曇層43を比較的に熱膨張しやすくすることができる。そのため、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの熱膨張しやすい材料で基材フィルム42を構成しても、基材フィルム42の熱膨張に防曇層43を追従させることができるため、防曇シート4を情報取得領域3から剥がれ難いようにすることができる。なお、上記のように、ポリマーを主成分とすると、防曇層43は、比較的柔らかく構成され得る。例えば、防曇層43の鉛筆硬度は2H以下になる可能性がある。
【0106】
<撥水基>
次に、撥水基について説明する。撥水基は、防曇層の強度と防曇性との両立を容易にすると共に、防曇層の表面を疎水性として水滴が形成されたとしても入射する光の直進性を確保することに貢献する。撥水基による効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。例えば、防曇層43は、(1)炭素数3〜30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種類の撥水基を含むことができる。
【0107】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇層を白濁させることがある。防曇層の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、鎖状アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、例えば1〜8であり、また例えば4〜16であり、好ましくは4〜8である。特に好ましいアルキル基は、炭素数4〜8の直鎖アルキル基、例えばn−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、及びn−オクチル基である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、防曇層を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0108】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇層43に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、防曇層を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
【0109】
R
mSiY
4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1〜3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1〜4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1〜2である。
【0110】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
【0111】
R
mSiO
(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇層中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0112】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R−Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを防曇層に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇層を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇層中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0113】
防曇層が吸水性樹脂を含む場合、撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇層表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、防曇層に含まれる撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、防曇層の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0114】
吸水性樹脂を含む防曇層へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇層中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇層において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、防曇層中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇層において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で防曇層に保持されることになるが、保持されるまでには防曇層の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で防曇層の底部まで移動しやすい。結果的に、防曇層の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から防曇層の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇層の厚さ方向の全てを有効に活用し、防曇層表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。
【0115】
一方、撥水基を含まない従来の防曇層においては、防曇層中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、防曇層の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、防曇層中の水分は、表面近傍が極端に多く、防曇層の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、防曇層の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、防曇層の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなる。
【0116】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇層に導入すると、強固なシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0117】
撥水基は、防曇層の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を防曇層の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇層に配合することが好ましい。この水の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには105度以下である。撥水基は、防曇層の表面のすべての領域において上記水の接触角が上記の範囲となるように、防曇層に均一に含有させることが好ましい。
【0118】
ここで、
図6A及び
図6Bを用いて、水の接触角と防曇層43との関係について説明する。
図6A及び
図6Bは、接触角の異なる水滴(430、431)が防曇層43に取り付いた状態を示す。
図6A及び
図6Bに示すように、防曇層43の表面に同量の水蒸気が凝結して形成された水滴(430、431)が防曇層43を覆う面積は、その表面の水の接触角が大きいほど小さくなる傾向を有する。また、水滴(430、431)により覆われる面積が小さいほど、防曇層43に入射する光が散乱する面積の比率も小さくなる。したがって、撥水基の存在により水の接触角が大きくなった防曇層43は、その表面に水滴が形成された状態において透過光の直進性を保持するうえで有利である。
【0119】
防曇層43は、水の接触角が上述の好ましい範囲となるように、撥水基を含むことが好ましい。吸水性樹脂を含む場合、防曇層43は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0120】
<金属酸化物成分>
次に、金属酸化物成分について説明する。金属酸化物成分は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物成分であり、好ましくはSiの酸化物成分(シリカ成分)である。吸水性樹脂を含む場合、防曇層43は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上、場合によっては7質量部以上、必要であれば10質量部以上、また、60質量部以下、特に50質量部以下、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、場合によっては18質量部以下となるように、金属酸化物成分を含むことが好ましい。金属酸化物成分は、防曇層の強度、特に耐擦傷性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が過多となると防曇層の防曇性が低下する。
【0121】
金属酸化物成分の少なくとも一部は、防曇層を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分であってもよい。ここで、加水分解性金属化合物は、a)撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)及びb)撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有する金属化合物(撥水基非含有加水分解性金属化合物)から選ばれる少なくとも1つである。a)及び/又はb)に由来する金属酸化物成分は、加水分解性金属化合物を構成する金属原子の酸化物である。金属酸化物成分は、防曇層を形成するための塗工液に添加された金属酸化物微粒子に由来する金属酸化物成分と、その塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又その加水分解物に由来する金属酸化物成分とを含んでいてもよい。ここでも、加水分解性金属化合物は、上記a)及びb)から選ばれる少なくとも1つである。上記b)、すなわち撥水基を有しない加水分解性金属化合物は、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。以下、既に説明した上記a)を除き、金属酸化物微粒子と上記b)とについて説明する。
【0122】
(金属酸化物微粒子)
防曇層43は、金属酸化物成分の少なくとも一部として金属酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくはシリカ微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより防曇層に導入できる。金属酸化物微粒子は、防曇層に加えられた応力を防曇層を支持する透明物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、金属酸化物微粒子の添加は、防曇層の耐摩耗性及び耐擦傷性を向上させる観点から有利である。また、防曇層に金属酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から防曇層中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、金属酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。金属酸化物微粒子は、防曇層を形成するための塗工液に予め形成した金属酸化物微粒子を添加することにより、防曇層に供給することができる。
【0123】
金属酸化物微粒子の平均粒径は、大きすぎると防曇層が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、金属酸化物微粒子の好ましい平均粒径は、1〜20nm、特に5〜20nmである。なお、ここでは、金属酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、金属酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。金属酸化物微粒子は、その含有量が過大となると、防曇層全体の吸水量が低下し、防曇層が白濁するおそれがある。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、金属酸化物微粒子は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜50質量部、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは5〜25質量部、場合によっては10〜20質量部となるように添加するとよい。
【0124】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
また、防曇層43は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0125】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
【0126】
SiY
4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0127】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇層の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜40質量部、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、特に好ましくは3〜10質量部、場合によっては4〜12質量部の範囲とするとよい。
【0128】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン及びテトラ−tert−ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0129】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇層の防曇性が低下することがある。防曇層の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う防曇層の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜30質量部、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜10質量部の範囲で添加するとよい。
【0130】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1〜3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0131】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇層の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇層の防曇性が低下し、場合によっては防曇層が白濁する。防曇層が吸水性樹脂を含む場合、シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部の範囲で添加するとよい。
【0132】
<架橋構造>
また、防曇層43は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇層の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇層の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0133】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇層に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇層は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0134】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ−ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0135】
吸水性樹脂がポリビニルアセタールである場合の好ましい架橋剤は、有機チタン化合物、特にチタンラクテートである。
【0136】
<その他の任意成分>
防曇層43には、その他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。防曇層43の材料に界面活性剤を配合することにより、基材フィルム42上に液剤を塗布して、防曇層43を形成する際に、基材フィルム42上で液剤が拡がりやすくなる。そのため、形成される防曇層43の表面に凹凸が生じ難いようにすることができ、これによって、防曇層43に生じる歪みを軽減することができる。したがって、情報取得領域3に貼着するのに適した防曇シートを提供することができる。なお、界面活性剤として、例えば、BYK社のBYK-323、BYK-333、BYK-342、BYK-377、BYK-3455、信越化学社のKP-109、KP-110、KP-112、モメンティブ社のTSF4440、TSF4452、TSF4450を用いることができる。
【0137】
以上の説明から明らかなように、防曇層43の好ましい形態としては、以下が挙げられる。すなわち、防曇層43は、好ましくは、吸水性樹脂100質量部に対し、金属酸化物成分を0.1〜60質量部、撥水基を0.05〜10質量部含む。このとき、撥水基は、炭素数1〜8の鎖状アルキル基であり、撥水基は、金属酸化物成分を構成する金属原子に直接結合しており、金属原子がシリコンであってよい。また、金属酸化物成分の少なくとも一部が、防曇層を形成するための塗工液に添加された、加水分解性金属化合物又は加水分解性金属化合物の加水分解物に由来する金属酸化物成分であって、加水分解性金属化合物は、撥水基を有する加水分解性金属化合物、及び撥水基を有しない加水分解性金属化合物から選ばれる少なくとも1種であってよい。更に、撥水基を有しない加水分解性金属化合物が、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を含んでよい。防曇層43をこのようにすることで、情報取得領域3の曇りを抑えることができ、カメラ81及びレーダ82による車外の情報の取得を適切に行えるようになる。
【0138】
上記防曇層43の実施例として、例えば、ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む) 87.5質量%、n−ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS、信越化学工業社製「KBM−3063」) 0.526質量%、3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」) 0.198質量部、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」) 2.774質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」) 5.927質量%、精製水2.875質量%、酸触媒として塩酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」) 0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌する。これにより、防曇層43を形成するための塗工液を調製することができる。
【0139】
(B)基材フィルム及び粘着剤層
次に、基材フィルム42及び粘着層41について説明する。基材フィルム42は、防曇シート4の基となり、それぞれの面側で防曇層43及び粘着層41を保持する層である。また、粘着層41は、防曇シート4を対象物に接着するための層である。粘着層41の材料は、防曇シート4を情報取得領域3の車内側の面に貼着可能で透明な材料であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。粘着層41は、例えば、アクリル系、シリコーン系の接着剤により形成することができる。
【0140】
また、基材フィルム42の材料は、特には限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの透明の樹脂シートにより形成することができる。なお、基材フィルム42は、熱伝導率が5×10
-4 cal/cm・sec・℃以下の材料で構成することができる。これにより、車内から車外に熱が放熱するのを遮断することができる。なお、このような条件を満たす材料として、例えば、コスモシャインA4300(東洋紡績株式会社製)を挙げることができる。
【0141】
(C)製造方法
次に、上記のような防曇シート4の製造方法について説明する。防曇シート4は、基材フィルム42の一方の面に防曇層43を成膜し、他方の面に粘着剤を塗布して粘着層41を形成することで、作製することができる。
【0142】
防曇層43の成膜は、防曇層43を形成するための塗工液(液剤)を基材フィルム42上に塗布し、塗布した塗工液を乾燥させ、必要に応じてさらに高温高湿処理等を実施することにより、行うことができる。塗工液の調製に用いる溶媒、塗工液の塗布方法は、従来から公知の材料及び方法を用いればよい。
【0143】
塗工液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0144】
塗工液の乾燥工程は、風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むことが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に塗工液を曝すことにより、実施するのが好ましい。風乾工程は、非加熱工程として、言い換えると室温で実施できる。塗工液に加水分解性シリコン化合物が含まれている場合、加熱乾燥工程では、シリコン化合物の加水分解物等に含まれるシラノール基及び透明物品上に存在する水酸基が関与する脱水反応が進行し、シリコン原子と酸素原子とからなるマトリックス構造(Si−O結合のネットワーク)が発達する。
【0145】
吸水性樹脂等の有機物の分解を避けるべく、加熱乾燥工程において適用する温度は過度に高くしないほうがよい。この場合の適切な加熱温度は、300℃以下、例えば100〜200℃であり、加熱時間は、1分〜1時間である。
【0146】
防曇層43の成膜に際しては、適宜、高温高湿処理工程を実施してもよい。高温高湿処理工程の実施により、防曇性と膜の強度との両立がより容易になりうる。高温高湿処理工程は、例えば50〜100℃、相対湿度60〜95%の雰囲気に5分〜1時間保持することにより、実施することができる。高温高湿処理工程は、塗布工程及び乾燥工程の後に実施してもよく、塗布工程及び風乾工程の後であって加熱乾燥工程の前に実施してもよい。特に前者の場合には、高温高湿処理工程の後に、さらに熱処理工程を実施してもよい。この追加の熱処理工程は、例えば、80〜180℃の雰囲気に5分〜1時間保持することにより、実施することができる。
【0147】
また、塗工液から形成した防曇層43は、必要に応じ、洗浄及び/又は湿布拭きを行ってもよい。具体的には、防曇層43の表面を、水流に曝したり、水を含ませた布で拭いたりすることにより実施できる。これらで用いる水は純水が適している。洗浄のために洗剤を含む溶液を用いることは避けたほうがよい。この工程により、防曇層43の表面に付着した埃、汚れ等を除去して、清浄な塗膜面を得ることができる。
【0148】
(D)各層の厚み
次に、各層の厚みについて説明する。各層の厚みは、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、粘着層41の厚みは、数μm〜数百μmの範囲で設定されてよい。
【0149】
また、
図2に例示されるように、基材フィルム42の厚みD2は、遮蔽層2の厚みD1より大きくすることができる。なお、厚みD2を小さくすると、防曇シート4が柔らかくなりすぎてしまい、合わせガラス1に貼付し難くなってしまう可能性がある。一方、厚みD2を大きくすると、防曇シート4の薄板化が実現できなくなってしまう。この観点から基材フィルム42の厚みD2は、例えば、75μm〜150μmの範囲で設定することができる。このとき、熱の交換を遮断する観点からは、基材フィルム42の厚みD2は、75μm以上が好ましく、100μm以上が更に好ましい。遮蔽層2の厚みD1は、この厚みD2よりも小さくなるように適宜設定されてよい。
【0150】
基材フィルム42の厚みD2を遮蔽層2の厚みD1より大きくすることで、
図2に例示されるように、合わせガラス1側を下方とした場合に、遮蔽層2の上面よりも防曇シート4の上面の方が高い位置に配置されるようにすることができる。そのため、情報取得領域3の車内側の面に防曇シート4を貼り付ける際に、遮蔽層2が物理的に干渉するのを防ぐことができ、これによって、防曇シート4を貼り付ける作業を簡単にすることができる。
【0151】
加えて、遮蔽層2の厚みD1を基準にして、基材フィルム42の厚みを比較的に大きくすることで、当該基材フィルム42の熱の遮断性を十分に確保することができる。
【0152】
また、防曇層43の厚みD3は、要求される防曇特性等に応じて適宜調節されてよい。例えば、防曇層43の厚みD3は、1μm〜20μmの範囲で設定することができ、2μm〜15μmの範囲で設定するのが好ましく、3μm〜10μmの範囲で設定するのが更に好ましい。
【0153】
(E)形状及び平面寸法
次に、防曇シート4の形状及び平面寸法について説明する。
図4に例示されるように、本実施形態では、防曇シート4は、平面視矩形状に形成されており、4つの角部46を有している。各角部46は、丸みを帯びている。これによって、防曇シート4は、情報取得領域3の車内側の面から剥がれにくいようになっている。特に、防曇シート4がブラケット6で囲まれた領域内に配置されている場合には有利である。すなわち、ブラケット6内では温度が上昇しやすいため、基材フィルム42の熱膨張率が大きい場合には、ガラス板との膨張の差により基材フィルム42に応力が生じやすい。したがって、上記のように角部に丸みが形成されると、温度が上昇のような、外力が作用しない状況下であっても、防曇シート4の剥がれを防止することができる。
【0154】
なお、基材フィルム42の熱膨張率が大きい場合とは、例えば、基材フィルム42を150℃で30分放置した場合(JIS C2318にもとづいて測定した場合)、熱収縮率が0.7%以上ある基材材料をいう。このような材料としては、例えば、テトロンフィルム(帝人社製)や、コスモシャインA4300(TOYOBO社製)を挙げることができる。
【0155】
また、防曇シート4の全ての角部のうち、少なくとも1つの角部は、他の角部よりも丸みの曲率半径を小さくすることができる。この場合、曲率半径が小さいとは、曲率半径が相当に小さく鋭角をなす場合も含む。このように角部の曲率半径が小さいと、この角部から防曇シートを剥がしやすくすることができる。
【0156】
一般的に、防曇シート4は一旦貼り付けられると剥がれにくいことが求められるが、貼り替えなどで剥がすことがある。特に、防曇層43は、有機材料で形成されているため、経時変化により劣化して交換が必要になることがある。また、ブラケットの取り付け時の作業ミスなどで防曇シート4の交換が必要になる場合がある。
【0157】
そして、ガラス板のように平滑性が高い対象物に防塵シートを貼り付けると、防曇シート4を剥がしにくいため、上記のように少なくとも1つの角部の曲率半径が小さいとそれを起点に剥がしやすい。また、曲率半径の小さい角部が遮蔽層2に配置されている場合には、特に剥がしやすくなる。
【0158】
また、防曇シート4の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きく、遮蔽層2の開口部23の平面寸法より小さくなっている。例えば、防曇シート4の平面寸法は、例えば、開口部23の平面寸法より垂直方向及び水平方向それぞれ2mmずつ小さくなるように設定されてよい。の範囲で設定することができる。
【0159】
これにより、
図4に例示されるように、防曇シート4を開口部23内に収まるようにすることができるため、情報取得領域3の車内側の面と遮蔽層2(突出部22)との間の段差を防曇シート4がまたがないようにすることができる。これにより、防曇シート4を情報取得領域3に貼着させやすくなり、また、情報取得領域3の車内側の面と防曇シート4との間に、カメラ81及びレーダ82による情報の取得を阻害するような隙間(気泡)が殆ど生じないようにすることができる。
【0160】
また、上記のとおり、遮蔽層2は、濃色のセラミック等で構成されるため、高温(例えば、105℃)になる場合がある。そのため、防曇シート4の一部でも遮蔽層2上に貼着すると、当該防曇シート4は高い耐熱性を要求される可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、防曇シート4を、遮蔽層2上に乗り上げないようにして、情報取得領域3に貼り付けることができる。そのため、防曇シート4として、耐熱性の比較的に高くない防曇シートを利用することができる。
【0161】
更に、基材フィルム42は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの、合わせガラス1に比べて熱膨張しやすい材料で構成される。そこで、防曇シート4の平面寸法を開口部23の平面寸法より小さくすることで、
図2及び
図4に例示されるように、防曇シート4と開口部23の縁との間に少なくとも一部でも隙間を設けておくことができる。これによって、防曇シート4が熱膨張した際に、防曇シート4が、開口部23の縁を越えて膨張しようとして、情報取得領域3の車内側の面から剥がれてしまうのを抑止することができる。
【0162】
(F)その他
また、
図2及び
図4に例示されるように、本実施形態では、開口部23の右側の縁231と防曇シート4の右側の縁44とは接している。このように、開口部23の縁と防曇シート4の縁とが少なくとも部分的に接するように防曇シート4を配置することで、開口部23の縁と防曇シート4の縁とで位置合わせを行うことができる。そのため、防曇シート4を情報取得領域3に貼り付ける作業を正確かつ簡単にすることができる。
【0163】
また、
図2に例示されるように、本実施形態では、情報取得領域として、情報取得領域3を通して車外の状況を撮影するカメラ81と、光線の照射及び/又は受光するレーダ82と、が水平方向に並んで配置される。これに対して、開口部23の縁231と防曇シート4の縁44とが接する部分はカメラ81側に配置される。
【0164】
カメラ81とレーダ82とを比較した場合には、カメラ81のほうがレーダ82よりも広い画角、すなわち、広い情報取得領域3が要求される。これに対して、本実施形態では、開口部23の縁231と防曇シート4の縁44とをカメラ81側で接するようにすることで、防曇シート4の貼着されていない部分がカメラ81の画角に入るのを防止することができる。加えて、防曇シート4の縁44からはみ出した粘着層41が、カメラ81の画角に入り、カメラ81による撮影を阻害するのを防止することができる。
【0165】
また、
図2及び
図4に例示されるように、防曇シート4の平面寸法は情報取得領域3の平面寸法より大きくなっているため、防曇シート4は、情報取得領域3の面方向外側にはみ出す部分を有している。この部分に、防曇シート4が貼着していることを示す2つの貼着印45が付されている。各貼着印45は、防曇シート4がガラス板に貼着していることを示す不透明な印である。貼着印45は、例えば、基材フィルム42にインク等で印刷することで形成することができる。また、貼着印45は、インク等によらず、打ち抜き等によって形成されてもよい。
【0166】
防曇シート4の各層は透明な材料で構成されるため、情報取得領域3の車内側の面に防曇シート4を貼り付けても、そのことを確認できない場合がある。これに対して、本実施形態によれば、情報取得領域3の面方向外側に貼着印45を付すことで、カメラ81及びレーダ82による情報の取得を阻害しないようにしつつ、情報取得領域3の車内側の面に防曇シート4を貼り付けていることの確認を容易にすることができる。
【0167】
なお、貼着印45の数は、2つに限定されなくてもよく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、貼着印45の種類は、
図4で例示されるような丸印に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて、文字、図形、記号等から適宜選択されてよい。更に、貼着印45の色は、視認可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0168】
[情報取得装置]
次に、カメラ81及びレーダ82について説明する。カメラ81及びレーダ82は、車内に配置される情報取得装置の一例である。カメラ81は、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary MOS)等のイメージセンサ及びレンズ系を備え、情報取得領域3を通して車外の状況を撮影可能に構成されている。カメラ81により取得された画像は、画像処理装置(不図示)に送られる。
【0169】
画像取得装置は、カメラ81により取得された画像に基づいて、被写体の種別等を解析する。例えば、被写体の種類は、パターン認識等の公知の画像解析方法によって推定することができる。画像処理装置は、そのような画像解析を行い、その結果をユーザ(運転者)に提示可能なように、記憶部、制御部、入出力部等を有するコンピュータとして構成される。このような画像処理装置は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置であってもよい。
【0170】
また、レーダ82は、光線の照射及び/又は受光が可能に構成されている。例えば、レーダ82は、レーザー光を照射するレーザー発光素子と、このレーザー光が先行車等の障害物で反射した反射光を受光する受光素子と、を備えている。レーザー発光素子は、例えば、レーザーダイオード等により、850nm〜950nmの近赤外線波長域のレーザー光を発信することができるように構成されている。このレーダ82によれば、レーザー光を照射してから反射光を受光するまでの時間によって、自車と障害物との距離を算出することができる。算出された距離は、コネクタを介して外部機器に送信され、自動車のブレーキの制御等に用いられる。
【0171】
[ブラケット及びカバー]
次に、
図7及び
図8A〜
図8Cを更に用いて、上記カメラ81及びレーダ82をウインドシールド100に付設するためのブラケット6及びカバー7について説明する。
図7は、ウインドシールド100にブラケット6及びカバー7を取り付けた状態を模式的に例示する。
図8Aは、本実施形態に係るブラケット6の車外側の状態を模式的に例示する。
図8Bは、本実施形態に係るブラケット6の車内側の状態を模式的に例示する。
図8Cは、本実施形態に係るカバー7を模式的に例示する。
【0172】
図8A及び
図8Bに例示されるように、本実施形態では、ブラケット6は、カメラ81及びレーダ82を保持するカバー7が配置される取付開口61を有する矩形の枠状に形成されている。このブラケット6は、取付開口61を囲む矩形状の本体部62と、この本体部62の両側の辺に配置され、カバー7を固定するための支持部63とを備えている。
【0173】
図1及び
図7に示されるとおり、ブラケット6は、遮蔽層2の開口部23の周囲に配置されている。本体部62には、平坦面が形成されており、この平坦面には、接着剤64及び両面テープ65が取り付けられている。本体部62は、この接着剤64及び両面テープ65によって、遮蔽層2(突出部22)又は合わせガラス1に接着される。これによって、ブラケット6は、全体又は少なくとも部分的に遮蔽層2(突出部22)により遮蔽されるように固定される。
【0174】
接着剤64及び両面テープ65の種類は、特に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、接着剤64には、ウレタン樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤等の接着剤を利用することができる。また、両面テープ65には、公知の両面テープを利用することができる。
【0175】
なお、
図8Aに示される接着剤64及び両面テープ65の配置は、一例であり、この例に限定されなくてもよい。ただし、本実施形態では、開口部23の下方側の領域232は開放されている。そのため、
図8Aに示されるとおり、この部分では、ブラケット6を車外側から視認可能であるため、濃色の両面テープ65を利用して、車外から視認しにくいようにするのが好ましい。
【0176】
このブラケット6には、ハーネス(不図示)等が取り付けられた後に、
図7に示されるように、カメラ81及びレーダ82を保持するカバー7が車内側から取り付けられる。これにより、カメラ81及びレーダ82は、ブラケット6、カバー7、及び合わせガラス1に囲まれた空間に収容される。
【0177】
図8Cに示されるとおり、カバー7は、矩形状に形成されており、支持部63によってブラケット6に支持され、取付開口61を塞ぐように配置される。カバー7の筐体において、取付開口61を介して合わせガラス1と対向する面には、凹部71が形成されている。この凹部71は、上端が最も深く、下端側にいくにしたがって浅くなるように傾斜しており、上端の壁面72には、カメラ81及びレーダ82のレンズ73が配置されている。各レンズ73は、情報取得領域3(開口部23)に対応するように適宜位置合わせされている。
【0178】
そのため、このカバー7をブラケット6に取り付けることで、カメラ81及びレーダ82は、ブラケット6及びカバー7に支持された状態で、情報取得領域3(開口部23)を介して車外の情報を取得することができるようになる。なお、取付開口61に外部から光が侵入すると、カメラ81の撮影及びレーダ82の測定に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、凹部71を囲むように、接着剤64、両面テープ65等の遮光部材を設けるのが好ましい。なお、ブラケット6及びカバー7は、公知の加工方法によって適宜作製されてよい。
【0179】
§2 製造方法
次に、
図9A〜
図9D及び
図10を用いて、本実施形態に係るウインドシールド100の製造方法を説明する。
図9A〜
図9Dは、本実施形態に係るウインドシールド100の製造過程を模式的に例示する。また、
図10は、本実施形態に係る合わせガラス1の製造工程を模式的に例示する。なお、以下で説明するウインドシールド100の製造方法は一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてもよい。また、以下で説明する製造工程について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0180】
まず、第1ステップとして、
図9Aに示されるように、遮蔽層2を備える合わせガラス1を用意する。合わせガラス1は、例えば、
図10に例示される製造ラインにより製造することができる。具体的には、
図10で例示される製造ラインは、リング状の成形型200と、この成形型200を搬送する搬送台201と、加熱炉202と、徐冷炉203と、を備えている。
【0181】
成形型200に載置される前に、平板状の各ガラス板(11、12)を用意し、用意した各ガラス板(11、12)を所定の形状に切断する。そして、内側ガラス板12の車内側の面に、スクリーン印刷等によって、遮蔽層2を構成するセラミックを印刷(塗布)する。
【0182】
次に、各領域に印刷したセラミックを適宜乾燥させる。セラミックを乾燥させた後、外側ガラス板11の車内側の面と内側ガラス板12の車外側の面とが向かい合うように、外側ガラス板11と内側ガラス板12とを上下に重ね合わせることで、平板状の合わせガラス10を形成する。そして、形成した平板状の合わせガラス10を成形型200に載置する。この成形型200は搬送台201上に配置されており、成形型200に合わせガラス10を載置した状態で、搬送台201は、加熱炉202及び徐冷炉203内を順に通過する。このとき、内側ガラス板12は、ボトム面が上方を向くように成形型に載置する。
【0183】
加熱炉202内で軟化点温度付近まで加熱されると、両ガラス板(11、12)は自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。続いて、両ガラス板(11、12)は加熱炉202から徐冷炉203に搬入され、徐冷処理が行われる。その後、両ガラス板(11、12)は、徐冷炉203から外部に搬出されて放冷される。
【0184】
このようにして、両ガラス板(11、12)が成形された後、両ガラス板(11、12)の間に中間膜13を挟み込むことで、両ガラス板(11、12)及び中間膜13の積層した積層体を作製する。この積層体をゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃で予備接着する。予備接着の方法は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0185】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8〜15気圧で、100〜150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、中間膜13を挟んだ状態で各ガラス板(11、12)は接着される。これにより、開口部23を有する遮蔽層2が設けられた湾曲した合わせガラス1を用意することができる。
【0186】
次に、第2ステップとして、防曇シート4を用意する。そして、
図9Bに示されるように、情報取得領域3の車内側の面の方に粘着層41を向けて配置し、当該情報取得領域3の車内側の面に防曇シート4を押し付ける。例えば、スキージ等の器具を用いて、手動又は自動で、情報取得領域3の車内側の面に対して防曇シート4を押し付ける。これにより、情報取得領域3の車内側の面に防曇シート4貼着することができる。
【0187】
このとき、正確な位置に防曇シート4を貼着した場合には、防曇シート4の右側の縁44は、開口部23の縁231に接するように配置される。そのため、本第2ステップを実施する際に、防曇シート4の縁44を開口部23の縁231に当接するようにして、防曇シート4の位置決めを行うことができる。よって、本実施形態では、第2ステップの作業が容易に行えるようになっている。
【0188】
また、本実施形態では、防曇シート4の基材フィルム42の厚みD2が遮蔽層2(突出部22)の厚みD1よりも大きくなっている。そのため、合わせガラス1側を下方とした場合に、保護フィルム5を含む防曇シート4の上面が遮蔽層2の上面よりも上方にくるため、スキージ等の器具で防曇シート4を押し付ける際に、遮蔽層2が物理的に干渉しない。そのため、これによっても、本実施形態では、第2ステップの作業が容易に行えるようになっている。
【0189】
次に、第3ステップとして、カバー7を取り付けるためのブラケット6を用意する。そして、
図9Cに例示されるように、用意したブラケット6を、遮蔽層2の開口部23の周囲に配置して、接着剤64及び両面テープ65によって、遮蔽層2により少なくとも部分的に遮蔽されるように固定する。
【0190】
<特徴>
<1>
以上のとおり、本実施形態によれば、内側ガラス板12のボトム面が車内側を向くように配置され、このボトム面に防曇シート4が貼り付けられる。そのため、次の効果を得ることができる。すなわち、ボトム面にはスズを含有する層(以下、スズ含有層という)が存在するため、このスズ含有層によってガラスのアルカリ成分が防曇シート4側に拡散するのを防止することができる。これにより、防曇シート4の粘着層41や基材フィルム42がアルカリ成分によって白濁するのを防止することができる。その結果、センサからの光またはセンサに入る光が、白濁により防曇シート4を正しく通過できなくなるのを防止することかできる。したがって、車間距離などを正確に算出することができる。
【0191】
<2>
また、熱伝導率を上記のように調整した基材フィルム42を用いると、次の効果を得ることができる。すなわち、このような基材フィルム42を用いると、防曇シート4において、防曇性を有する防曇層43と合わせガラス1(情報取得領域3)との間で、熱の交換を遮断することができる。そのため、この基材フィルム42によって、情報取得領域3の車内側の面が冷たくなったとしても、防曇シート4の防曇層43まで温度が低下してしまうのを抑えることができる。したがって、本実施形態によれば、防曇層43が温度低下しにくいようにすることができるため、情報取得領域3における防曇機能の低下を抑制することができる。例えば、防曇層43を上記の吸水タイプで構成した場合に、防曇層43の飽和吸水量が低下するのを抑制することができる。特に、基材フィルム42の厚みD2を遮蔽層2の厚みD1より大きくしたりすることで、基材フィルム42の熱の遮断性を十分に確保し、情報取得領域3における防曇機能の低下を適切に抑制することができる。
【0192】
なお、合わせガラス1の厚みの値をT1(単位:mm)とし、中間膜13の厚みの値をT2(単位:mm)としたときに、T1×T2が4(次元上の単位は「mm
2」)以下である場合、合わせガラス1の車内側の面が結露しやすくなる。T1×T2が3以下、2.5以下になった場合には、合わせガラス1の車内側の面は更に結露しやすくなる。また、情報取得領域3が合わせガラス1の上端部から250mm以下の範囲に設けられている場合には、情報取得領域3の車内側の面は結露しやすくなる。情報取得領域3が合わせガラス1の上端部から200mm以下の範囲に設けられている場合には、情報取得領域3の車内側の面は更に結露しやすくなる。これは、気流の流れが影響しているからである。同様の観点から、左右方向の両端それぞれから200mm以下、更には150mm以下の範囲に情報取得領域3が設けられた場合には、情報取得領域3の車内側の面は結露しやすくなる。更に、ウインドシールド100が水平方向に近い角度で取り付けられるほど、合わせガラス1の車内側の面は結露しやすくなる。例えば、ウインドシールド100が水平方向からの角度が45度以内、更には30度以内に取り付けられると、合わせガラス1の車内側の面は結露しやすくなる。このような場合に、防曇シート4による防曇機能はより発揮される。
【0193】
また、本実施形態によれば、情報取得領域3の周囲に遮蔽層2(突出部22)が設けられ、かつカメラ81及びレーダ82が付設されるため、カメラ81及びレーダ82が発熱したり、遮蔽層2が熱を帯びたりすることで、この付近の温度が高くなりやすくなる。加えて、上記のとおり、基材フィルム42によって、情報取得領域3付近の温度は低下しにくいようになっている。したがって、本実施形態によれば、情報取得領域3付近の熱を有効に活用できるため、防曇シート4によって情報取得領域3付近の曇りを効率よく防ぐことができる。
【0194】
なお、ウインドシールドは、製造されてから使用されるまで倉庫で半年以上保管される場合がある。このとき、倉庫では、湿度及び温度の管理がなされていないことが多い。そのため、防曇シート4の防曇性能が低下してしまう可能性がある。例えば、上記実施形態のように、防曇シートが吸水タイプの防曇層を有する場合、倉庫内の湿度が高くなった際に、防曇層が水を吸ってしまい、これによって、防曇シートの防曇性能が低下してしまう。これに対処すべく、上記実施形態では、ウインドシールド100を使用するまで、防曇層43を保護する手段を設けてもよい。
【0195】
防曇層42を保護する手段としては、例えば、シート状の保護カバーを用いることができる。この保護カバーは、シリコンなどの離型層を有しており、防曇層42に着脱可能に貼り付けることができる。そして、このような保護シートには、識別手段を付することができる。効これにより、保護シートの識別手段を管理することで、防曇層42への保護シートの貼り付けの有無を管理することができる。なお、識別手段としては、番号、印などを付すことのほか、色を変えるなどとすることができる。
【0196】
また、上記のように、ポリマーを主成分として防曇層43を構成した場合には、防曇層43は比較的に柔らかくなってしまうため、防曇層43の耐傷性が低くなってしまう。そのため、ウインドシールド100の流通過程において、防曇層43に傷がついてしまう。目安として、鉛筆硬度が4H以上であれば、防曇層43は比較的に硬く、耐傷性は問題になり難い。一方、鉛筆硬度が2H以下であれば、防曇層43は比較的に柔らかく、耐傷性が問題になりやすい。よって、防曇層43の鉛筆硬度を指標に、防曇層43を保護する手段を採用するか否かを決定してもよい。例えば、鉛筆硬度が2H以下の場合に、防曇層43を保護する手段を採用し、そうでない場合に、防曇層43を保護する手段をしないようにしてもよい。
【0197】
§3 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、上記ウインドシールド100の各構成要素に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記ウインドシールド100の各構成要素の形状及び大きさも、実施の形態に応じて適宜決定されてもよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、また、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。
【0198】
<3.1>
上記実施形態では、合わせガラス1は、略台形状に形成されている。しかしながら、合わせガラス1の形状は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0199】
また、例えば、上記実施形態では、合わせガラス1は、自重曲げ成形によって、湾曲形状に形成されている。しかしながら、合わせガラス1を成形する方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、合わせガラス1は、公知のプレス成形によって、湾曲形状に形成されてもよい。
【0200】
<3.2>
また、例えば、上記実施形態では、情報取得装置として、カメラ81及びレーダ82を用いている。しかしながら、情報取得装置は、光の照射及び/又は受光を行うことで車外からの情報を取得可能な装置であれば、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、車内に設置する情報取得装置の数は、2台に限定されなくてもよく、実施形態に応じて、適宜選択されてよい。例えば、情報取得装置として、車間距離を測定するための可視光線及び/又は赤外線カメラ、光ビーコンなどの車外からの信号を受信する受光装置、道路の白線等を画像にて読み取る可視光線及び/又は赤外線を使用したカメラ、立体視により被写体の位置を特定可能なステレオカメラ等を挙げることができる。また、例えば、カメラ81及びレーダ82のいずれか一方のみが用いられてもよい。
【0201】
<3.3>
また、例えば、上記実施形態では、ブラケット6は枠状に形成され、このブラケット6に取り付け可能なようにカバー7は矩形状に形成されている。しかしながら、ブラケット6及びカバー7の形状は、情報取得装置を支持した上で遮蔽層2に固定可能であれば、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、ブラケット6には、複数の情報取得装置に対応するように、複数の開口が設けられていてもよい。また、ウインドシールド100に複数の情報取得装置を付設するため、ブラケット6及びカバー7の組を複数組用意し、用意した複数組のブラケット6及びカバー7を合わせガラス1に取り付けるようにしてもよい。
【0202】
<3.4>
また、例えば、上記実施形態では、遮蔽層2は、上部領域221と下部領域222とで層構造が異なっている。しかしながら、遮蔽層2は、このような例に限定されなくてもよく、各領域は、同じ層構造を有してもよい。なお、開口部23内及び/又は周囲に熱線を設ける場合には、上記の銀層242を通じて熱線の通電が可能となる。そのため、このような場合には、遮蔽層2は、上記のような銀層242を含む層構造を備えるのが好ましい。
【0203】
また、例えば、上記実施形態では、合わせガラス1の周縁部に沿って遮蔽層2が設けられている。この遮蔽層2は省略されてもよい。また、遮蔽層2の形状は、
図1に例示される形状に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、遮蔽層2の開口部23の縁では、下方側の領域232が開放されている。しかしながら、開放されている部分の方向は、このような例に限定されていなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、複数方向で開口部23の縁が開放されていてもよい。
【0204】
また、例えば、
図11に例示されるように、開口部23の縁はいずれの方向も開放されていなくてもよい。
図11は、本変形例に係る遮蔽層2Aを例示する。
図11に示されるとおり、突出部22Aでは、矩形状の開口部23が設けられており、開口部23の下方側の領域232Aにもセラミックが積層している。このように、開口部23の周囲は完全に閉じられていてもよい。
【0205】
また、例えば、
図12に例示されるように、情報取得装置としてステレオカメラを車内に設置する等の場合には、情報取得領域3及び開口部23を複数個所に設けてもよい。
図12は、2つのカメラ(831、832)を備えるステレオカメラ83を付設可能なウインドシールド100Bを例示する。
【0206】
図12に例示されるウインドシールド100Bでは、遮蔽層2Bは、左右方向にやや長い突出部22Bを有している。この突出部22Bには、ステレオカメラ83の各カメラ(831、832)の位置に対応して、開口部23Bが設けられている。これにより、各開口部23B内に適切に情報取得領域3Bが設定されている。このとき、
図12に示されるとおり、2つの情報取得領域3Bに別々に防曇シート4を貼着してもよい。
【0207】
また、
図13に例示されるように、防曇シート4のいずれの縁も開口部23の縁に接しないようにしてもよい。
図13は、本変形例における防曇シート4Cの配置を模式的に例示する。
図13で例示される防曇シート4Cの平面寸法は開口部23の平面寸法より小さくなっており、防曇シート4Cのいずれの縁も開口部23の縁に接していない。このように、遮蔽層の開口部の縁に接しないように防曇シートを配置してもよい。
【0208】
なお、遮蔽層の開口部の縁と防曇シートの縁とを少なくとも部分的に接するようにすれば、その部分を利用して防曇シートの位置合わせを行うことができる。そのため、このような位置合わせを可能にするためには、防曇シート4の平面寸法を開口部23の平面寸法とほぼ同じにする場合、防曇シート4の縁と開口部23の縁とは全体的に接していてもよい。また、防曇シート4の平面寸法を開口部23の平面寸法より小さくする場合には、防曇シート4のいずれかの縁で開口部23のいずれかの縁に接するようにすればよい。
【0209】
また、例えば、上記実施形態では、遮蔽層2は、内側ガラス板12の車内側の面に積層されている。しかしながら、遮蔽層2を積層する面は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、遮蔽層2は、外側ガラス板11の車内側の面及び/又は内側ガラス板12の車外側の面に積層されてもよい。
【0210】
また、例えば、上記実施形態では、左右方向の右側で、遮蔽層2の開口部23の縁と防曇シート4の縁とが接するように構成されている。しかしながら、両者の縁が接する方向は左側でもよい。すなわち、遮蔽層2の開口部23の縁と防曇シート4の縁とが接する部分は、左右方向のいずれか一方に配置されるように構成されてもよい。
【0211】
上記実施形態に係る合わせガラス1では、遮蔽層2の開口部23は、上端部側に配置されている。そのため、防曇シート4を合わせガラス1に貼着する際には、作業者は、合わせガラス1の上端部側に向かって作業する。この際、作業者は、防曇シート4を貼り付けるためのスキージを利き手で把持し、利き手の方向から反対方向にそのスキージを動かす。よって、遮蔽層2の開口部23の縁と防曇シート4の縁とが接する部分がこの利き手の方向に一致していれば、防曇シート4の貼着作業の作業性を向上させることができる。
【0212】
例えば、右利きの作業者は、スキージを右手に持って、防曇シート4にスキージを押し当てた状態で、右から左へスキージを動かすことで、防曇シート4の貼り付け作業を行う。このとき、上記実施形態のように、開口部の縁と防曇シートの縁とが右側で接している場合には、作業者は、スキージの操作に先立ち、当該スキージを持つ右側で、開口部23の縁231と防曇シート4の縁44とを接するように防曇シート4を合わせガラス1上に配置することができる。そのため、作業者は、防曇シート4を正確に位置合わせした上で、開口部23の縁231と防曇シート4の縁44と接している状態を利用しながら、両者が接している地点からスキージを右から左へ動かして、ずれないように防曇シート4を合わせガラス1に貼り付けていくことができる。よって、遮蔽層2の開口部23の縁と防曇シート4の縁とが接する部分を作業者の利き手の方向に一致させることで、防曇シート4の貼着作業の作業性を向上させることができる。つまり、防曇シートの貼着作業を手動で行う場合には、その作業に従事する作業者の利き手の割合に応じて、遮蔽層の開口部の縁と防曇シートの縁とが接する方向を決定すれば、その作業現場での防曇シートの貼着作業の作業性を高めることができる。
【0213】
<3.5>
また、上記実施形態では、防曇シート4の平面寸法は遮蔽層2の開口部23の平面寸法より小さくなっている。しかしながら、防曇シート4の平面寸法は、このような例に限定されなくてもよく、開口部23の平面寸法より大きくなっていてもよい。
【0214】
例えば、防曇シートの平面寸法は、
図14及び
図15に例示されるように設定されてもよい。
図14は、開口部23の平面寸法より大きな平面寸法を有する防曇シート4Dを情報取得領域3に貼り付けたウインドシールド100Dを模式的に例示する。例えば、防曇シート4Dの平面寸法は、開口部23の平面寸法より垂直方向及び水平方向それぞれに10mmずつ大きくなるように設定されてよい。このとき、
図14に例示されるように、防曇シート4Dの平面寸法は、ブラケット6の内寸(取付開口61の平面寸法)よりも小さくなるように設定される。そのため、防曇シート4Dは、遮蔽層2(突出部22)上に乗り上げるが、ブラケット6には乗り上げないようにして、情報取得領域3の車内側の面に貼着される。
【0215】
防曇シート4Dが、上記のような吸水タイプである場合には、防曇シート4Dの大きさを大きくすればするほど、情報取得領域3に付与する防曇機能の能力を高めることができる。したがって、本変形例にように、防曇シート4Dの平面寸法を開口部23の平面寸法よりも大きくすることで、情報取得領域3に付与する防曇機能の能力を高くすることができる。
【0216】
また、
図15は、ウインドシールド100Eにおいて、開口部23の平面寸法より大きな平面寸法を有する防曇シート4Eの右側の縁44Eを開口部23の右側の縁231に接するようにした例を模式的に例示する。このように、防曇シート4Eの平面寸法を開口部23の平面寸法よりも大きくした場合であっても、開口部23の縁と防曇シート4Eの縁とが少なくとも部分的に接するようにしてもよい。
【0217】
なお、
図14及び
図15では、防曇シートの層構造を図示していないが、各防曇シート(4D、4E)は、上記実施形態に係る防曇シート4と同じ層構造を有している。
【0218】
<3.6>
また、上記実施形態では、開口部23の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きくなっており、防曇シート4の平面寸法は、情報取得領域3の平面寸法より大きく、開口部23の平面寸法より小さくなっている。しかしながら、各構成の大きさの関係は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、防曇シート4の作業性を高めるためには、防曇シート4の平面寸法が開口部23の平面寸法より小さければよく、情報取得領域3の平面寸法は適宜設定されてよい。また、例えば、開口部23、情報取得領域3、及び防曇シート4の平面寸法は互いにほぼ同じにしてもよい。
【0219】
<3.7>
また、例えば、上記実施形態では、基材フィルム42の厚みD2が遮蔽層2(突出部22)の厚みD1よりも大きくなっている。しかしながら、基材フィルム42の厚みD2は、このような例に限定されなくてもよく、遮蔽層2の厚みD1よりも小さくてもよい。この場合、基材フィルム42の厚みD2と防曇層43の厚みD3との合計が、遮蔽層2の厚みD1より大きくなるようにしてもよいし、遮蔽層2の厚みD1より小さくなるようにしてもよい。なお、基材フィルム42の厚みD2と防曇層43の厚みD3との合計が遮蔽層2の厚みD1より大きくなるようにした場合には、上記実施形態と同様に、防曇シート4を貼り付ける作業を行う際に、遮蔽層2が物理的に干渉しないようにすることができる。
【0220】
<3.8>
また、例えば、上記実施形態では、防曇シート4の基材フィルム42には、貼着印45が付されている。しかしながら、貼着印45は、適宜省略されてもよい。また、貼着印45の数、配置、及び形状は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0221】
<3.9>
また、例えば、上記実施形態では、防曇シート4は平面視矩形状に形成され、各角部46は丸みを帯びている。しかしながら、防曇シート4の形状は、このような形状に限定される訳ではなく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。同様に、上記実施形態では、情報取得領域3を矩形状で示し、開口部23は矩形状に形成されている。しかしながら、このような例に限定される訳ではなく、情報取得領域3の形状は、利用する情報取得装置に応じて適宜設定されてよく、開口部23の形状は、情報取得装置が車外の情報を取得可能なように、適宜決定されてよい。例えば、開口部23の形状は、円形状、楕円形状、瞳形状、台形状等であってよい。
【0222】
また、上記各図面では、4つの角部46の丸みは一致している。しかしながら、4つの角部46のうち少なくともいずれかは丸みを有していなくてもよい。また、4つの角部46のうち、少なくとも1つの角部46は、他の角部46よりも丸みの曲率が小さくなっていてもよい。耐久性の観点から、防曇シート4を取り替える場合がある。この場合に、角部46の丸みの曲率が小さいほど、すなわち、角部46が尖っているほど、その角部46を起点に防曇シート4は剥離しやすくなる。そのため、他の角部46よりも丸みの曲率の小さい角部46を設けておくことによって、防曇シート4の取り替え作業の作業性を高めることができる。ただし、全ての角部46の曲率を小さくすると、防曇シート4の剥離が生じやすくなってしまう可能性がある。そのため、このような曲率の小さい角部46は一か所にのみ設け、その他の3つの角部46の曲率は大きくするのが好ましい。これによって、防曇シート4が自然に剥離するのを抑制することができ、かつ、防曇シート4の取り換え作業の作業性を高めることができる。
【0223】
<3.10>
また、上記実施形態では、防曇シート4の断面形状は矩形状に形成されている。しかしながら、防曇シート4の断面形状は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0224】
例えば、
図16に例示されるようにしてもよい。
図16は、断面台形状に形成された防曇シート4Gを情報取得領域3に貼着したウインドシールド100Gを模式的に例示する。このウインドシールド100Gでは、防曇シート4Gの断面形状は、防曇層43G側の辺が基材フィルム42G側の辺よりも短い台形状に形成されている。
【0225】
これにより、
図16に例示されるように、開口部23に収まるように防曇シート4Gを貼り付けている場合には、台形状の各脚(47、48)と開口部23の縁との間に隙間を設けることができる。そのため、防曇シート4Gの周囲が高温になっても、その隙間の分だけ防曇シート4Gを熱膨張させることができる。よって、本変形例によれば、防曇シート4Gが熱膨張することに起因する防曇シート4Gの剥離を抑制することができる。
【0226】
更に、
図16で例示される変形例では、カメラ81とレーダ82とが水平方向に並んで配置されており、防曇シート4Gの台形状は、レーダ82が配置される側の脚48が、カメラ81が配置される側の脚47よりも大きな角度で傾斜するように構成されている。つまり、合わせガラス1側を下方とした場合に、カメラ81が配置される側の脚47が、レーダ82が配置される側の脚48よりも垂直方向に近い角度で傾斜している。
【0227】
上記のとおり、カメラ81とレーダ82とを比較した場合、カメラ81のほうがレーダ82によりも広い画角、すなわち、広い情報取得領域3が要求される。そこで、本変形例では、カメラ81が配置される側の脚47が、レーダ82が配置される側の脚48よりも大きな角度で傾斜しないようにすることで(すなわち、脚47が合わせガラス1の面に対して水平な方向に傾かないようにすることで)、防曇シート4Gの脚47がカメラ81の画角に入り難いようにすることができる。これによって、防曇シート4Gの縁が画角に入ることで、カメラ81による撮影が阻害されるのを防止することができる。
【0228】
なお、このような断面台形状の防曇シート4Gは、適宜作製することができる。例えば、上記実施形態のように断面矩形状で平板状の防曇シートを用意し、NC工作機を用いて、防曇層側からカットする。このとき、カッタ刃を垂直に入れるのではなく斜め方向に入れることで、断面台形状の防曇シート4Gを形成することができる。
【0229】
<3.11>
また、合わせガラス1の中間膜13には、様々なタイプの中間膜を採用することができる。例えば、ITO(Indium Tin Oxide)粒子、ATO(アンチモン酸化スズ)粒子等の、熱線を吸収する粒子を含む中間膜を利用してもよい。
【0230】
例えば、
図17に例示されるようにしてもよい。
図17は、本変形例に係る合わせガラス1Hを模式的に例示する断面図である。
図17に示されるとおり、本変形例に係る中間膜13Hは、第1領域131及び第2領域132の2種類の領域に分かれている。第1領域131は、開口部23を含む遮蔽層2と平面視において重ならない領域である。一方、第2領域132は、開口部23を含む遮蔽層2と平面視において重なる領域である。本変形例では、上記のような熱線を吸収する粒子を、第2領域132には配置せず、第1領域131に配置されるようにしている。
【0231】
本変形例によれば、熱線を吸収する粒子を情報取得領域(開口部23)上に配置しないようにすることで、カメラ81及びレーダ82による情報の取得に当該粒子の影響が及ぶのを避けることができる。また、遮蔽層2と平面視で重なる位置に当該粒子を配置しないようにすることで、合わせガラス1の車内側の面に配置した遮蔽層2に、車外からの光が到達できるようにすることができる。これにより、遮蔽層2が温まりやすくなるため、防曇シート4の作用の他に、この遮蔽層2の熱によっても、ガラス板1が結露しにくいようにすることができる。
【0232】
なお、このような中間膜13Hは、例えば、次のようにして作製することができる。すなわち、熱線を吸収する粒子を含む第1の中間膜と当該粒子を含まない第2の中間膜とを用意し、第1の中間膜と第2の中間膜とを重ね合わせて、第2領域132を形成する部分を切断する。そして、第1の中間膜の切断した部分を第2の中間膜の切断した部分で置き換えることで、中間膜13Hを作製することができる(例えば、特許4442863号参照)。また、赤外線遮蔽材料であるCWO(セシウム酸化タングステン)粒子は、熱線を吸収する粒子ではない。そのため、上記変形例において、CWO粒子は、第2領域132に含まれていてもよい。
【0233】
<3.12>
また、上記実施形態では、基材フィルム42は、単一の層で構成されている。しかしながら、基材フィルム42は、例えば、熱伝導性が低くなるように、複数の層で構成されていてもよい。当該構成によれば、合わせガラス1と防曇層43との間の熱交換を更に遮断することができ、これによって、防曇層43付近の温度の低下を防ぎ、防曇機能の低下を抑制することができる。
【0234】
<3.13>
防曇シートは、上記説明のようなフィルム材に限定されなくてもよく、合わせガラス1の車内側の面に積層可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、ア合わせガラスの車内側の面において、防曇シートを積層する領域に、粘着層を介して基材フィルムとなるPET基材等を貼着する。続いて、スプレー又はフローコートによって、PET基材に液剤を塗布し、防曇層を形成する。このとき、防曇層を形成する領域以外には、マスキングをする。マスキングは、例えば、シリコン製の枠材によって行うことができる。シリコン製の枠材をマスキングに利用する場合には、この枠材に液剤を垂らすことで、防曇層を形成する領域に液剤を塗布することができる。続いて、シリコン製の枠材を取り付けたまま、ガラス板を仮焼きする(例えば、120℃、10分)。そして、シリコン製の枠材を取り外し、高温・高湿(80℃、90%)でガラス板を30分間本焼きする。以上により、防曇シートを積層したガラス板を作製することができる。なお、このとき、上記防曇層43の液組成と同様の液剤を利用して、防曇層のコーティングを形成してもよい。
【0235】
<3.14>
合わせガラスの情報取得領域に、防曇層を直接塗布することもできる。すなわち、合わせガラスの車内側の面において、防曇層を塗布すべき領域をマスキングテープで画定し、その内部に<3.13>で説明したように、液剤を塗布し、防曇層を形成することができる。
【0236】
<3.15>
上記実施形態では、合わせガラス1の内側ガラス板12及び外側ガラス板11をフロートガラスにより構成しているが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る合わせガラス1においては、表面における酸化スズの濃度が2つの主面で異なるガラス板を少なくとも1つ含み、このようなガラス板を用いて、車内側の面を、このガラス板の酸化スズの濃度が高い方の面とすることができる。また、防曇シート3が貼付けられていない外側ガラス板11をフロートガラス以外で構成することもできる。また、2以上のガラス板で合わせガラスを構成することもできる。
【実施例】
【0237】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0238】
以下では、実施例及び比較例に係るウインドシールドを準備し、これらに対し、高温高湿試験を行なった。また、それらのウインドシールドに用いたフロートガラスの2つの主面のそれぞれにおけるアルカリ溶出試験および酸化スズの濃度測定を行った。順に説明する。
【0239】
[実施例]
(1) 合わせガラスの構成:
外側ガラス板及び内側ガラス板を厚み2mmのグリーンガラスのフロートガラスで構成し、これらの間に単層の中間膜を配置し、合わせガラスとした。このとき、いずれのガラスもトップ面が中間膜に接するように配置した。
【0240】
(2) マスク層:
上述した表1の組成とし、
図1のような形状のマスク層を内側ガラス板の内面に形成した。マスク層の開口の大きさは、縦100mm、横150mmとした。
【0241】
(3) 防曇シートの基材フィルム:
厚さ100μmのPETフィルム(市販品)を準備した。
【0242】
(4) 防曇シートの防曇層:
・ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%
・アセタール化度9モル%(ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む) 87.5質量%
・n−ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS、信越化学工業社製「KBM−3063」) 0.526質量%
・3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」) 0.198質量部
・テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」) 2.774質量%
・アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」) 5.927質量%
・精製水 2.875質量%
・酸触媒として塩酸0.01質量%
・レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」) 0.01質量%
以上をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇層形成用塗工液を調製した。
【0243】
次いで、上記基材フィルム上に、室温20℃、相対湿度30%の環境下で、塗工液をフローコート法により塗布した。同環境下で10分間乾燥させた後、120℃の(予備)加熱処理を実施した。その後、上述の雰囲気及び時間を適用して高温高湿処理を実施し、さらに、同じく上述の雰囲気及び時間を適用して追加の熱処理を実施した。
【0244】
(5) 防曇シートの粘着層:
粘着剤には、アクリル酸メチルとアクリル酸nブチルとを所定の配合比で共重合させて、ガラス転移温度Tgが−36℃となるように調整したポリマーをトルエンに溶解して用いた。この液をメイヤーバーを用いて塗布し、粘着層を形成した。
【0245】
(6) ウインドシールドの作製:
上記内側ガラス板の車内側の面に、マスク層用の材料をスクリーン印刷し、マスク層を形成した。次に、
図10に示すような成形型で、外側ガラス板及び内側ガラス板を加熱炉で650℃に焼成し曲面状に成形し、加熱炉から搬出後に徐冷した。続いて、両ガラス板の間に中間膜を配置し、上記実施形態の通り、予備接着及び本接着を行った。その後、内側ガラス板の内面の開口部に、これよりもやや小さい大きさの上記防曇シートを貼り付けた。したがって、実施例のウインドシールドでは、合わせガラスを構成するフロートガラスのボトム面に防曇シートが貼り付けられている。
【0246】
[比較例]
(1) 合わせガラスの構成:
内側ガラス板のボトム面が中間膜に接するように配置したことを除き、実施例の合わせガラスと同様にして合わせガラスを構成した。
【0247】
(2) マスク層、(3) 防曇シートの基材フィルム、(4) 防曇シートの防曇層、(5) 防曇シートの粘着層、(6) ウインドシールドの作製については、上記実施例と同じである。したがって、比較例のウインドシールドでは、合わせガラスを構成するフロートガラスのトップ面に防曇シートが貼り付けられている。
【0248】
[評価試験]
(1) 高温高湿試験
実施例及び比較例のウインドシールドに対して高温高湿試験を行なった。高温高湿試験では、以下の評価を行った。
【0249】
・実施例及び比較例のウインドシールドを、温度85℃相対湿度95%の雰囲気に1000時間保持した。
・保持後のウインドシールドの外観を目視で観察するとともに、防曇シートを貼り付けた個所のヘイズ率を測定した。
・ヘイズ率は、積分球式光線透過率測定装置(スガ試験機(株)製、「HGM−2DP」、C光源使用、膜面側から光入射)を用いて測定した。
【0250】
その結果、いずれのウインドシールドにおいても防曇シートを貼り付けた個所が、貼り付けていない部分より白く濁って見えたが、比較例のほうが白濁の程度が著しかった。参考として、実施例及び比較例から、防曇シートを貼り付けた領域を切り出したものを,
図18に示す。また、防曇シートを貼り付けた個所のヘイズ率については、実施例が3.5%であったのに対し、比較例は7.6%であった。評価後のヘイズ率が4%以下であれば、自動車の窓ガラス用として許容されるので、実施例は許容することができるが、比較例は許容できないことが分かった。
【0251】
(2) フロートガラスのアルカリ溶出試験
用いたフロートガラスについて、トップ面とボトム面からのアルカリ溶出試験を行なった。アルカリ溶出試験では以下の評価を行なった。
【0252】
・実施例及び比較例で用いたものと同じガラスから5cm角の試片を2枚切り出した。これら試片を加熱炉で650℃に加熱し、その後室温まで徐冷した。この操作は、実施例・比較例のウインドシールドが、焼成、成形および徐冷において経験する温度履歴に相当する。
・次いで、試片を洗浄し、片方の主面を露出したままそれ以外の表面をマスキングすることでサンプルを調製した。すなわち、一方のサンプルにおいては、トップ面のみが露出しており、他方のサンプルにおいてはボトム面のみが露出している。
・調製したサンプルを、温度60℃相対湿度100%の雰囲気に168時間保持した。
・保持後のサンプルの露出した面に析出したアルカリ成分を回収し、定量することでアルカリ溶出量を測定した。すなわち、サンプルの露出した面を精製水で洗浄し、洗浄した水をすべて回収し、その水に含まれるナトリウムを定法で定量分析することによって、ガラス内部から露出した面へ析出したアルカリ成分を定量した。
【0253】
その結果、実施例に相当するボトム面のアルカリ析出量は0.3μg/cm
2であったが、比較例に相当するトップ面のそれは0.8μg/cm
2であった。
【0254】
(3) フロートガラスの表面の酸化スズの濃度
用いたフロートガラスについて、トップ面とボトム面における表面近傍の酸化スズの濃度を評価した。
【0255】
実施例及び比較例で用いたものと同じガラスから5cm角の試片を2枚切り出し、洗浄した。そして、電子線プローブマイク口アナライザ(EPMA)とそれに装着した波長分散型X線検出器(WDX)を用い、酸化スズの濃度を測定した。具体的には、EPMA(JXA8600、日本電子株式会社製)によるWDX分析(加速電圧:15kV,試料電流:2.5x10
-7A、スキャンスピード:66μm/分、分光結晶:PET)で行なった。その測定結果から、2価および4価で存在するSnを4価に換算した。
【0256】
その結果、表面から10μmまでの深さにおけるSnO
2換算の酸化スズ濃度の最大値は、ボトム面について2.5質量%、トップ面について0.1質量%であった。
【0257】
これらから、ウインドシールドに含まれるガラス板の少なくとも1枚を、酸化スズの含有率が2つの主面で異なるガラス板とし、さらに防曇シートを貼り付ける面を、酸化スズの含有率が高い面とすることにより、ガラス板から防曇シート、とくに防曇シートの粘着層へ拡散するナトリウム量を減らすことができ、耐久性に相当する高温高湿試験後の防曇シートの白濁を効果的に抑制することができることが分かった。