【課題を解決するための手段】
【0007】
独立請求項に記載されている、本発明に係る塗布方法および対応する塗布システムを使用することにより、上記目的は達成される。
【0008】
本発明は、特許文献1とは異なり、特に、振動の結合を通して液滴を生じさせるのではなく、むしろ、コーティングのためにコーティング剤のジェットの連続した領域を用いて、液滴へと分裂させるという共通の技術的教示を含む。従って、本発明の文脈において、塗布距離(すなわち、一方の塗布装置の噴射口と他方のコーティング対象の部品表面との間の距離)は、コーティング剤のジェットの分裂距離(すなわち、塗布装置の噴射口と、液滴への分裂に移行する連続した領域の端との間の、コーティング剤のジェットの連続した領域の長さ)よりも小さくなるよう選択される。この結果、コーティング剤のジェットが、その連続した領域で、部品に衝突することとなり、より良いコーティング結果が得られる。
【0009】
本発明に係る塗布方法では、上述した従来技術に従って、コーティング剤のジェットが塗布装置から放出され、塗布装置から出た後、コーティング剤のジェットは、該ジェットが分裂距離に達するまで、最初、噴射方向内に連続した領域を有し、塗布装置からの放出後、分裂距離以降、コーティング剤のジェットは、自然法則(レイリーによる自然分裂)に従い、噴射方向に互いから離散した液滴へと分裂する。
【0010】
本発明の文脈において用いられるコーティング剤のジェットの概念は、単数と複数のコーティング剤のジェットを含むが、本明細書では、簡明にするため、単数の形式のみを用いる。コーティング剤のジェットは、例えば、従来の回転式噴霧器から放出されるような、コーティングミストとは区別すべきである。従って、本発明に係るコーティング剤のジェットは、密着する断面と、噴霧されたミストと比較して小さい広がり角と、特に細部の塗装では重要な、とても小さい側方への広がりとにより区別される。
【0011】
さらに、本発明に係る塗布方法では、上記先行技術に従って、コーティング剤のジェットが部品に衝突して部品の表面をコーティングするよう、塗布装置の位置が、塗布対象の部品(例えば、自動車車体部品)を基準に、塗布装置と部品との間で、所定の塗布距離に合わされる。
【0012】
コーティング剤のジェットの断面は比較的小さく明瞭であるため、部品を基準に塗布装置の位置を適切に合わせることにより、細部の塗布が可能である。それゆえ、ただ1箇所の相応に小さい部品の表面の領域を選択的にコーティングすることもできる。
【0013】
しかし、代わりに、コーティング剤のジェットが隣接または重複する複数のストリップ状に部品表面上を移動することで、部品が領域的にコーティング剤で塗布されてもよい。
【0014】
本発明に係る塗布方法では、上記先行技術とは異なり、コーティング剤のジェットが連続した領域で部品に衝突するよう、塗布距離をコーティング剤のジェットの分裂距離より小さく選択する。そのため、冒頭に記載の周知先行技術では、コーティング剤の個々の液滴が部品表面に衝突するが、本発明によれば、連続的なコーティング剤のジェットが部品に衝突する。
【0015】
本発明の文脈において使用されるコーティング剤の概念は、広義に理解されるべきであり、例えば、塗料(例えば、下地塗料、クリアラッカー)、封止剤、離型剤、機能層、および接着剤を含む。しかし、本発明の好ましい例示的実施形態では、塗料を用いて、細部の塗布を行う。機能層のカテゴリーは、接着促進、プライマ、石片保護層、または透過抑制層などの、表面の機能化をもたらす全てのコーティングを含む。
【0016】
例えば、コーティング剤のジェットは部品上に模様、例えばストライプ(例えば、デザインストライプ、装飾的ストライプ)、を塗布することもできる。しかしながら、本発明の文脈において使用される模様の概念は、広義に理解されるべきであり、ストライプに限定されない。例えば、模様は、グラフィックデザイン、例えば、自動車のボンネット上で跳躍する馬のシルエットや車体屋根上のチェッカーフラッグ、もまたあり得る。
【0017】
回転式噴霧器を使用する従来の噴霧方法とは対照的に、本発明に係る塗布方法を使用し、高級感を出すために重要な鮮明な縁の模様を作ることができる。まず、本発明の文脈において使用される鮮明な縁の模様の概念は、模様の端が、予め定められた端の形と比較して、非常に誤差が小さく、好ましくは、3mm、1mm、0.5mm、0.2mm、または、さらに0.1mmよりも小さいことを意味する。また、本発明の文脈において使用される「鮮明な縁の模様」の表現は、コーティングされる模様の外側において、部品表面に衝突するコーティング剤の飛沫のないことも意味する。
【0018】
既に上で簡単に触れたように、本発明に係る塗布方法は領域的な部品コーティングにも適している。こうした目的のため、コーティング剤のジェットは、一回毎にコーティング剤のストリップが塗布されるよう、部品上を複数回移動させられ得る。このように、コーティング剤のジェットを蛇行して誘導することにより、多数の平行なコーティング剤のストリップが塗布され得る。
【0019】
本発明の一変形例では、塗布後に、個々のコーティング剤のストリップは、互いに結合し、単一のストライプ、または単一のコーティング剤層を形成する。
【0020】
しかし、本発明の別の変形例では、個々のコーティング剤のストリップは、互いに結合せず、むしろ最終状態では、2以上の別個のストライプを形成する。
【0021】
上で簡単に触れたように、本発明の文脈において使用される「模様」という表現は、好ましくは部品表面に塗布されるストライプを意味する。本発明に係る塗布方法を使用して、1m、10cm、5cm、2cm、1cm、5mm、2mm、1mm、400μm未満または、さらに200μm未満の幅を有する極めて狭いストリップが有利に塗布されることができる。しかしながら、個々のストリップは、好ましくは、100μm、200μm、400μm、1mm、2mm、5mm、1cm、2cm、5cm、10cm以上、または、さらに1m以上の幅を有する。
【0022】
本発明の好ましい例示的実施形態において、塗布装置は、単一のコーティング剤のジェットのみではなく、実質的に互いに平行な複数のコーティング剤のジェットをも放出する。直接に隣接するコーティング剤のジェット間の距離は、好ましくは、直接に隣接するコーティング剤のジェットが、塗布装置と部品との間で結合せず、別々のコーティング剤のジェットとして部品表面に衝突し、さらに、部品上で一領域へと結合するよう、十分に大きい。
【0023】
好ましくは、所定のノズルの内径を有し、所定のノズルの間隔で配置された複数の塗布ノズルが、個々のコーティング剤のジェットを放出するために設けられている。塗布ノズルと部品表面との間の隣接するコーティング剤のジェットの結合を防止するため、隣接する塗布ノズル間のノズル間隔は、好ましくは、ノズルの内径の、3倍、4倍、または6倍に少なくとも等しい。
【0024】
個々の塗布ノズルは、好ましくは、有孔板として共に設けられ、経済的に生産可能である。
【0025】
さらに、個々の塗布ノズルから放出されるコーティング剤のジェットが異なる処理変数を有するよう、個々の塗布ノズル、または、複数のノズルを有する領域は、互いに独立に制御可能とすることも本発明の範囲において可能である。例えば、塗布ノズルからのコーティング剤の放出速度、コーティング剤の種類、または放出されるコーティング剤の体積流量率は、個々の塗布ノズルまたは領域のために、個々に設定され得る。
【0026】
上述の通り、コーティング剤の塗布中、部品を基準に塗布装置が動かされることにより、コーティング剤のジェットは、部品表面上でのその衝突位置と共に、対応するストリップに沿って移動する。
【0027】
本発明の変形例では、塗布装置が固定位置に配置される一方、部品が移動させられるとすることができる。移動の速さは、好ましくは、10cm/s、50cm/s、1m/s、1.5m/s以上であり、かつ10m/s、5m/s以下、または1m/s以下である。この変形例自体は、欧州特許出願公開第1745858号明細書から周知であり、この特許出願の内容は、塗布装置と部品の相対的な移動の観点にて、本記述に完全に組み込まれる。
【0028】
しかし、本発明の別の変形例では、部品が固定位置に配置される一方、塗布装置が移動させられるとすることもできる。この点について、移動の速さは、好ましくは、10cm/s、20cm/s、30cm/s、50cm/s、1m/s以上、または2m/s以上であり、かつ、250cm/s、700mm/s、500mm/s以下、または100mm/s以下である。
【0029】
さらに、塗布装置とコーティング対象の部品の間の相対移動は、塗布装置とコーティング対象の部品との両方が動かされることによりなし得る。
【0030】
塗布装置が部品を基準に部品表面上を移動させられることにより、部品表面上のコーティング剤のジェットの衝突位置は、コーティング剤により塗布されるストリップに沿って移動することを上で簡単に触れた。この点については、カバーされる経路が、部品表面上でコーティング剤でコーティングされない隙間を有するよう、部品表面上のストリップに沿って移動している間、コーティング剤のジェットは、一時的にスイッチを切られるかまたは中断され、その後、再びスイッチを入れられまたは続行されてもよい。部品上で5mm、2mm、または1mmより微細な空間分解能となるよう、コーティング剤のジェットは、部品表面に亘って、ゆっくり移動させられ、かつ迅速にスイッチを切ったり入れたりされることとすることも本発明の範囲において可能である。これは特に、模様の細部を塗布することに有利である。
【0031】
本発明に係る塗布方法は、オーバースプレーを回避する点、および/または、塗布効率、すなわち、部品表面上に実際に積層される塗布済みのコーティング剤の比率、を増進する点で有利である。好ましくは、コーティング剤のジェットがまた実際に部品表面に衝突するときのみ、コーティング剤のジェットはスイッチを入れられる。好ましくは、側縁部を有する部品をコーティングする際、塗布装置は、コーティング剤のジェットのスイッチを切った状態で、縁へ向けて側方向に動かされる。その後、コーティング剤のジェットは、塗布装置が縁の上方に存在するときのみ、スイッチを入れられ、これにより、スイッチの入ったコーティング剤のジェットは実際に部品に衝突する。続いて、塗布装置は、コーティング剤の対応するストリップを塗布するために、コーティング対象の部品表面に沿って、コーティング対象の部品に亘って移動させられる。塗布装置がコーティング対象の部品の側縁の向こう側へ移動させられると、コーティング剤のジェットがもはや部品表面に衝突しなくなることから、コーティング剤のジェットは再びスイッチを切られる。
【0032】
コーティング剤のジェットのスイッチを適切に入れ、および/または、切ることを可能にするため、好ましくは、コーティング対象の部品と塗布装置の空間的位置が検出され、コーティング剤のジェットが部品表面に衝突するか否かを予測できるようになる。好ましくは、部品と塗布装置の検出位置から、コーティング剤のジェットは部品表面に衝突しないと結論できるとき、コーティング剤のジェットはスイッチを切られる。しかし、部品と塗布装置の検出位置から、コーティング剤のジェットは実際に部品表面に衝突すると結論できるときのみ、コーティング剤のジェットはスイッチを入れられ得る。
【0033】
上述した位置検出は、例えば、カメラ、超音波センサ、誘導または容量センサを使用し、またはレーザセンサを使用し、実行できる。しかし、部品と塗布装置が機械またはロボットに配置されているならば、部品と塗布装置の位置は、機械またはロボットの制御システムから読み取ることも可能である。
【0034】
上で触れたように、本発明に係る塗布方法は高い塗布効率を可能とするが、塗布されたコーティング剤の実質的に全部が、顕著なオーバースプレーを起こすことなく、部品上全体に積層されるよう、塗布効率は、例えば、80%、90%、95%よりも高く、または、さらに99%より高くできる。
【0035】
さらに、本発明に係る塗布方法は、0.5m
2/min、1m
2/min、または3m
2/min以上の比較的高い領域コーティング出力を可能にする。塗布装置の塗布ノズルの数が増やされるに応じて、領域コーティング出力はほとんど要望通り増加させられることができる。
【0036】
鮮明な縁の塗装を妨げる厄介なコーティング剤の飛沫を生じさせることから、部品衝突後の部品からのコーティング剤のジェットの跳ね返りを抑えるべきことも特筆に値する。塗布されるコーティング剤の体積流量とそのようなコーティング剤の放出速度は、それゆえに好ましく設定され、それにより、コーティング剤は、部品上への衝突後、部品から跳ね返ることがない。
【0037】
コーティング剤の放出速度はここでは、好ましくは、5m/s、7m/s、または10m/s以上であり、30m/s、20m/s、または10m/s以下である。
【0038】
しかし、塗布装置の放出口と部品表面との間の塗布距離は、好ましくは、4mm、10mm以上、または40mm以上であり、かつ、好ましくは、200mmまたは100mm以下である。
【0039】
塗布装置は、好ましくは、直列または並列運動学を有する多軸ロボットを使用して、移動させられることも特筆に値する。そのようなロボット自体は、従来技術から周知なので、詳細には述べない。
【0040】
さらに、既に上で触れたように、コーティング剤は、例えば、下地塗料、クリアラッカー、効果塗料、雲母塗料、または金属塗料などの塗料であってもよい。この観点において、コーティング剤は、任意に水性塗料または溶媒系塗料とできることもまた特筆に値する。
【0041】
本発明の文脈において、50ms、20ms、10ms、5ms、または1msより短い切替間隔で、コーティング剤のジェットのスイッチを入れたり切ったりできるということも特筆に値する。本願明細書では、切替間隔は、コーティング剤のジェットのスイッチを切ってから、次いで再びそれを入れるまで、またはそのスイッチ入れてから、次いで再び切るまでに、必要な最小の間隔として定義される。
【0042】
本発明が、上述した塗布方法とは別に、それに対応する塗布システムも包含するものであることは、上述の記載から明らかなので、塗布システムについての別個の記述は必要ではないだろう。
【0043】
本発明の他の有利な発展例が、従属項に開示されており、また、以下でも、図面を参照しつつ、本発明の好ましい例示的実施形態の記載とともに、より詳細に記載されている。