【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成
攪拌機付きの反応槽に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを所定比(ニッケル:コバルト:亜鉛=86.4:6.4:7.2の質量比)で溶解した水溶液に、硫酸アンモニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を滴下して反応槽内のpHを12.0に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を得た。
【0038】
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の酸化処理
上記のようにして得られたコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子と48質量%の水酸化ナトリウム水溶液(「アルカリ溶液」に対応)とを質量比9:1で混合し、120℃にて1時間、加熱処理してコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子に酸化処理を行った。その後、水洗、脱水、乾燥の各処理を行い、固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子、すなわち、コア粒子を得た。コア粒子のD50は11.0μmであった。
【0039】
固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子表面への被覆層の形成
上記のようにして得られた固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子、すなわち、コア粒子を、水酸化ナトリウムでpH10〜13の範囲に維持した反応浴中のアルカリ水溶液に投入した。投入後、該溶液を撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、反応浴のpHを10〜13の範囲に維持した。pHを10〜13の範囲に約1時間保持して、固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子(コア粒子)の表面に水酸化コバルトからなる被覆層を形成させた、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子を得た。なお、被覆されたコバルトの含有量は、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子全体に対して2.5質量%だった。
【0040】
被覆層の酸化処理
上記のようにして得られた水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子と48質量%の水酸化ナトリウム水溶液(「アルカリ溶液」に対応)とを質量比9:1で混合し、120℃で1時間、加熱処理して被覆層の酸化処理を行った。その後、水洗、脱水、乾燥の各処理を行い、本発明に係るコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を得た。
【0041】
正極板の作製
上記のようにして得られたコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子と3質量%のPTFE水溶液と水とを質量比78:10:12で混合した。得られた混合物を、発泡ニッケル(多孔度95%、平均孔径200μm)からなる多孔性の基板に充填後、乾燥、加圧成形した。次に、30mm×30mmにカットすることでニッケル正極板とした。
【0042】
評価セルの作製
上記のようにして得られた正極板をポリアミド不織布(セパレータ)に巻き、正極板よりも電気化学的容量の大きい水素吸蔵合金(50mm×40mm)で挟み、さらにその上からアクリル製のセルホルダーで挟み、ねじ止めしてセルを作製した。8M水酸化カリウム溶液で満たした容器に上記セルを入れて、評価セルとした。
【0043】
活性化
上記評価セルを25℃にて12時間保管の後、0.2Cにて6時間充電し、その後、0.2Cで1.0Vまで放電した。この操作を10回繰り返して評価セルを活性化した。
【0044】
ハイレート充放電特性評価
上記活性化した評価セルを常温(25℃)の雰囲気にて5Cの電流値でSOCが70%となるように、充電カット電圧1.6Vで充電し、充電後30分放置した。その後、放電レート0.2C、放電カット電圧1.0Vで放電することで、充電された電池容量を測定した。前記正極板の作製の理論容量(100%)に対する充電容量と放電容量の比率(%)を利用率として評価した。
【0045】
高温充放電試験
上記活性化した評価セルを高温(65℃)の雰囲気にて0.2Cの電流値でSOCが100%となるように、充電カット電圧1.6Vで充電し、充電後30分放置した。その後、放電レート0.2C、放電カット電圧1.0Vで放電することで、充電された電池容量を測定した。前記正極板の作製の理論容量(100%)に対する充電容量と放電容量の比率(%)を利用率として評価した。
【0046】
実施例2
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成において、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを、ニッケル:コバルト:亜鉛=87.8:4.9:7.3の質量比となるよう溶解した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0047】
実施例3
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成において、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを、ニッケル:コバルト:亜鉛=84.8:8.0:7.2の質量比となるよう溶解した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0048】
比較例1
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子について、酸化処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。すなわち、比較例1では、コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子をそのまま使用した。
【0049】
比較例2
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子について、酸化処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。すなわち、比較例2では、コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子をそのまま使用した。
【0050】
比較例3
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成において、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを、ニッケル:コバルト:亜鉛=91.1:1.6:7.3の質量比となるよう溶解した水溶液を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行った。
【0051】
実施例1〜3で使用した固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子及び比較例1〜3で使用した固溶コバルトを酸化させなかった水酸化ニッケル粒子(以下、固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子と固溶コバルトを酸化させなかった水酸化ニッケル粒子をあわせて、「コア粒子等」ということがある。)の、それぞれの物性を以下の表1に示す。なお、質量%は、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子に対する割合を意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜3、比較例1〜3にて得られたコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の物性を以下の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表1、2中、
組成は、ICP発光分析装置(リガク社製、CIROS−120 EOP)を用いて分
析した。
タップ密度は、タップデンサー(セイシン社製、KYT−4000)を用いて、JISR1628に記載の手法のうち、定容積測定法によって測定を行った。
バルク密度は、試料を自然落下させて容器に充填し、容器の容積と試料の質量からバルク密度を測定した。
BET比表面積は、比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb)を用い、1点BET法によって測定した。
D50は、粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA−950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。
【0056】
実施例1〜3、比較例1、2にて得られたコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子のコバルト含有量に関するデータを以下の表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3中、粒子全体のCo
3+含有量は、過マンガン酸カリウムの滴定によって測定した。
Co含有量、すなわち、コア粒子等のCo含有量、粒子全体のCo含有量、被覆層のCo含有量は、それぞれ、ICP発光分析装置(リガク社製、CIROS−120 EOP
)を用いて、コア粒子等及びコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を分析することで算出した。
コア粒子等のCo
3+含有量は、粒子全体のCo
3+含有量から被覆層のCo含有量を差し引いて算出した。
また、表3中、「粒子全体」とは、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を意味する。
【0059】
なお、上記活性化の条件とハイレート充放電特性評価の条件を、以下の表4にまとめて示す。
【0060】
【表4】
【0061】
ハイレート充放電特性評価の結果を以下の表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
高温充放電試験の条件を、以下の表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
高温充放電試験の結果を、以下の表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
上記表5の結果から、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)が、21.1質量%と、12.0質量%以上である実施例1では、5C充電時という高負荷充電時の利用率が18.8%と優れた利用率を有するセルを得ることができた。また、実施例1では、0.2C放電の利用率も16.7%と優れた利用率を得ることができた。
【0068】
また、水酸化ニッケル粒子に固溶しているコバルトの含有量が、4.0質量%である実施例1よりも少ない実施例2(3.0質量%)でも、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を酸化処理することによって、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)を20.5質量%と、実施例1と同様に、12.0質量%以上とすることができ、5C充電時という高負荷充電時の利用率が15.2%と優れた利用率を有するセルを得ることができた。また、実施例2では、0.2C放電の利用率も15.2%と優れた利用率を得ることができた。
【0069】
さらに、水酸化ニッケル粒子に固溶しているコバルトの含有量が、4.0質量%である実施例1よりも多い実施例3(5.0質量%)でも、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を酸化処理することによって、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)を16.9質量%と、実施例1と同様に、12.0質量%以上とすることができ、5C充電時という高負荷充電時の利用率が24.0%と、さらに優れた利用率を有するセルを得ることができた。また、実施例3では、0.2C放電の利用率も23.8%と、さらに優れた利用率を得ることができた。
【0070】
上記利用率の向上は、被覆層の形成前に、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を酸化処理することによって、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)が上昇したこと、すなわち、コア粒子の導電性が向上してコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の抵抗が低減したことに起因すると考えられる。
【0071】
一方で、実施例1とは異なり、被覆層の形成前に、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の酸化処理を行わなかった比較例1では、上記割合(X)が9.7質量%であり、5C充電時という高負荷充電時の利用率が10.0%にとどまった。従って、実施例1に対する相対的な利用率は53.2%であった。また、比較例1では、0.2C放電の利用率も10.0%にとどまり、実施例1に対する相対的な利用率は59.9%であった。
【0072】
また、実施例3とは異なり、被覆層の形成前に、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の酸化処理を行わなかった比較例2では、上記割合(X)が10.7質量%であり、5C充電時という高負荷充電時の利用率が13.0%にとどまった。また、比較例2では、0.2C放電の利用率も12.9%にとどまった。従って、比較例2では、コア粒子に固溶しているコバルトの含有量が同じである実施例3よりも低い利用率となった。
【0073】
上記表7の結果から、コア粒子中のコバルト含有量が2.0質量%以上である実施例1〜3(実施例1は4.0質量%、実施例2は3.0質量%、実施例3は5.0質量%)は、65℃という高温での充放電試験において、それぞれ、60.8%、59.5%、62.7%と高い利用率を有するセルを得ることができた。
【0074】
一方で、コア粒子中のコバルト含有量が1.0質量%と、2.0質量%未満である比較例3では、高温充放電試験での利用率は、46.6%にとどまり、実施例1との相対的な利用率は76.6%となった。
【0075】
上記ハイレート充放電特性評価の結果と高温充放電試験の結果より、コア粒子のコバルト含有量が2.0質量%以上、かつコア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)が12.0質量%以上である実施例1〜3のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子は、高温環境において良好な利用率を有し、さらには、優れたハイレート充放電特性を有することがわかった。