特許第6906072号(P6906072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社田中化学研究所の特許一覧

特許6906072コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子及びコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906072
(24)【登録日】2021年6月30日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子及びコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20210708BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20210708BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20210708BHJP
【FI】
   C01G53/04
   C01G53/00 A
   H01M4/52
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-11561(P2020-11561)
(22)【出願日】2020年1月28日
(62)【分割の表示】特願2016-50799(P2016-50799)の分割
【原出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2020-73449(P2020-73449A)
(43)【公開日】2020年5月14日
【審査請求日】2020年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-69503(P2015-69503)
(32)【優先日】2015年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】安田 太樹
(72)【発明者】
【氏名】畑 未来夫
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−169201(JP,A)
【文献】 特開2002−075352(JP,A)
【文献】 特開2001−052693(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/004974(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00 − 53/12
H01M 4/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆するコバルト化合物の被覆層を有するコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子であって、
前記被覆層のコバルト化合物がコバルトの価数が3価であるコバルト化合物を含み、
前記コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子に対する前記コア粒子のコバルトの含有量が2.0〜7.0質量%であり、前記コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量が、前記コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有する3価のコバルトの含有量(A)から前記被覆層のコバルトの含有量(B)を差し引いた値で表わされ、前記コア粒子のコバルトの含有量(C)と前記被覆層のコバルトの含有量(B)との合計に対する、前記コア粒子のコバルトのうちの前記3価のコバルトの含有量の割合(X)が、12.0質量%以上であるコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子。
【請求項2】
前記コア粒子の、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、4.0〜15μmである請求項1に記載のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子。
【請求項3】
前記コア粒子のBET比表面積が、5.0〜20m/gである請求項1または2に記載のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子。
【請求項4】
前記コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に第1の酸化処理をして得られた、固溶コバルトを酸化させたコア粒子の懸濁液に、2価のコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液を添加して、pH を10〜13の範囲に維持しながら中和晶析を行うことにより、前記固溶コバルトを酸化させたコア粒子の表面が水酸化コバルトで被覆された、被覆コア粒子の懸濁液を生成させ、前記被覆コア粒子を第2の酸化処理をすることにより前記被覆コア粒子の水酸化コバルトを酸化させることによって得られる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1の酸化処理が、前記コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理であり、前記第2の酸化処理が、前記被覆コア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理である請求項4に記載のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法。
【請求項6】
コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に、第1の酸化処理をする工程と、
前記第1の酸化処理により得られた、固溶コバルトを酸化させたコア粒子の懸濁液に、2価のコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液を添加して、pHを10〜13の範囲に維持しながら中和晶析を行うことにより、前記固溶コバルトを酸化させたコア粒子の表面に水酸化コバルトの被覆を形成して被覆コア粒子を生成する工程と、
前記被覆コア粒子に、第2の酸化処理をすることにより前記被覆コア粒子の水酸化コバルトを酸化させる工程と、
を含むコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の酸化処理が、前記コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理であり、前記第2の酸化処理が、前記被覆コア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理である請求項6に記載のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境において良好な利用率を有し、優れたハイレート充放電特性を有するコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル水素二次電池等の二次電池の高容量化の要求が高まっており、二次電池正極活物質用のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子において、高温環境での利用率を向上させるため、コバルトの含有量を高めた水酸化ニッケル粒子が開発されている。コバルトの含有量を高める方法として、例えば、水酸化ニッケル粒子にコバルトを固溶させる等が行われている(特許文献1)。
【0003】
さらに、コバルトの含有量を高めるために、水酸化ニッケル粒子にコバルト化合物の被覆層を形成することも行われている。コバルト化合物の被覆層を形成した水酸化ニッケル粒子として、例えば、該被覆層の均一性と密着性を確保するために、水酸化ニッケル粉末の粒子表面をオキシ水酸化コバルト若しくはオキシ水酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物を主成分とするコバルト化合物で被覆したアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末であって、前記被覆中のコバルトの価数が2.5以上であり、前記被覆水酸
化ニッケル粉末20gを密閉容器中で1時間振盪したときの被覆の剥離量が、全被覆量の20質量%以下であることを特徴とするアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末が提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかし、特許文献1のコバルト固溶水酸化ニッケル粒子、特許文献2のアルカリ二次電池正極活物質用被覆水酸化ニッケル粉末では、ハイレートで充電を行うと、充電電圧が上昇しやすく、十分な充電容量が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/119608号
【特許文献2】特開2014−103127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、高温環境において良好な利用率を有し、優れたハイレート充放電特性を有するコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子と、該コア粒子の表面を被覆するコバルト化合物の被覆層を有するコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子であって、前記コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子に対する前記コア粒子のコバルトの含有量が2.0〜7.0質量%であり、前記コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量が、前記コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有する3価のコバルトの含有量(A)から前記被覆層のコバルトの含有量(B)を差し引いた値で表わされ、前記コア粒子のコバルトの含有量(C)と前記被覆層のコバルトの含有量(B)との合計に対する、前記コア粒子のコバルトのうちの前記3価のコバルトの含有量(すなわち、(A)−(B))の割合(X)が、12.0質量%以上であるコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子である。
【0008】
本発明では、コア粒子の3価のコバルトの含有量は、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子全体の3価のコバルトの含有量から被覆層のコバルトの含有量を減じた含有量とする。
【0009】
本発明の態様は、前記コア粒子の、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、4.0〜15μmであるコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子である。
【0010】
本発明の態様は、前記コア粒子のBET比表面積が、5.0〜20m/gであるコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子である。
【0011】
本発明の態様は、前記コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に第1の酸化処理をして得られた、固溶コバルトを酸化させたコア粒子の懸濁液に、2価のコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液を添加して、前記固溶コバルトを酸化させたコア粒子の表面が水酸化コバルトで被覆された、被覆コア粒子の懸濁液を生成させ、前記被覆コア粒子を第2の酸化処理をすることにより前記被覆水酸化コバルトを酸化させることによって得られる、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子である。
【0012】
本発明の態様は、前記第1の酸化処理が、前記コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理であり、前記第2の酸化処理が、前記被覆コア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理であるコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子である。
【0013】
本発明の態様は、コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に、第1の酸化処理をする工程と、前記第1の酸化処理により得られた、固溶コバルトを酸化させたコア粒子の懸濁液に、2価のコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液を添加して、中和晶析により、前記固溶コバルトを酸化させたコア粒子の表面に水酸化コバルトの被覆を形成して被覆コア粒子を生成する工程と、前記被覆コア粒子に、第2の酸化処理をすることにより前記被覆水酸化コバルトを酸化させる工程と、を含むコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法である。
【0014】
本発明の態様は、前記第1の酸化処理が、前記コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理であり、前記第2の酸化処理が、前記被覆コア粒子に、アルカリ溶液を添加、混合しながら80〜150℃に加熱する処理であるコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の態様によれば、前記コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子に対するコア粒子のコバルトの含有量が2.0〜7.0質量%であり、コア粒子のコバルトの含有量(C)と被覆層のコバルトの含有量(B)との合計に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量((A)−(B))の割合(X)が、12.0質量%以上であることにより、高温環境において良好な利用率を有し、優れたハイレート充放電特性を有するコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を得ることができる。
【0016】
本発明の態様によれば、コバルトが固溶された水酸化ニッケルのコア粒子に第1の酸化処理をして得られた、固溶コバルトを酸化させたコア粒子の懸濁液に、2価のコバルト塩水溶液とアルカリ水溶液を添加して、固溶コバルトを酸化させたコア粒子の表面が水酸化コバルトで被覆された、被覆コア粒子の懸濁液を生成させ、前記被覆コア粒子を第2の酸化処理をして被覆された前記水酸化コバルトを酸化させることにより、より確実に、コア粒子のコバルトの含有量(C)と被覆層のコバルトの含有量(B)との合計に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量((A)−(B))の割合(X)を12.0質量%以上にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子は、コバルトが固溶された水酸化ニッケル粒子の表面に、コバルト化合物の被覆層が形成されている。すなわち、コバルトが固溶された水酸化ニッケル粒子がコア粒子となっており、該コア粒子は、コバルト化合物の層、例えば、主に、コバルトの価数が3価であるコバルト化合物の層によって被覆されている。コバルトが3価であるコバルト化合物としては、例えば、オキシ水酸化コバルトを挙げることができる。
【0018】
前記コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子全体に対する、コア粒子における固溶したコバルトの含有量の割合は、温度等の使用環境や要求されるハイレート充電特性によって適宜選択されるが、その下限値は、高温環境においても良好な水酸化ニッケルの利用率を得る点から2.0質量%が好ましく、2.5質量%がより好ましく、3.0質量%が特に好ましい。一方で、上記コア粒子における固溶したコバルトの含有量の上限値は、エネルギー密度の点から7.0質量%が好ましく、6.0質量%がより好ましく、5.0質量%が特に好ましい。
【0019】
本発明では、コア粒子における固溶したコバルトのうちの3価のコバルトの含有量は、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有する3価のコバルトの含有量(A)から被覆層のコバルトの含有量(B)を差し引いた値、すなわちA−Bで表す。コア粒子のコバルトの含有量(C)と被覆層のコバルトの含有量(B)との合計(C+B)、すなわち、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量(A−B)の割合(X)(以下、「割合(X)」という場合がある。)は、良好なハイレート充放電特性を得る点から12.0質量%以上であり、コア粒子の導電性をさらに向上させてより優れたハイレート充放電特性を得る点から15.0質量%以上が好ましく、20.0質量%以上が特に好ましい。
【0020】
なお、上記から、本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)は、X=[(A−B)/(C+B)]×100の式にて算出できる。
【0021】
また、本発明では、コア粒子である水酸化ニッケル粒子は、コバルトだけでなく、水酸化ニッケル粒子の寿命を長期化させる点から、さらに、亜鉛やマグネシウムを固溶させてもよい。
【0022】
コア粒子の粒度分布は特に限定されないが、例えば、コア粒子の累積体積百分率が50体積%の粒子径D50(以下、「D50」ということがある。)の範囲は、コア粒子に固溶したコバルトを円滑に酸化することによって、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)を確実に12.0質量%以上とする点から4.0〜15μmが好ましく、より確実に割合(X)を12.0質量%以上としつつ、正極活物質として使用した際の容量密度の低下を防止する点から5.0〜10μmが特に好ましい。
【0023】
また、コア粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、その範囲は、コア粒子に固溶したコバルトを円滑に酸化することによって、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)を確実に12.0質量%以上とする点から5.0〜20m/gが好ましく、より確実に割合(X)を12.0質量%以上とする点から10〜15m/gが特に好ましい。
【0024】
本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子では、上記コア粒子の表面に、コバルト化合物の被覆層、例えば、オキシ水酸化コバルト等の被覆層が形成されている。従って、被覆層に含まれるコバルトは、主に、3価となっている。
【0025】
コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子に対する、被覆層のコバルトの質量の割合は、特に限定されず、例えば、導電性付与の点から1.0〜5.0質量%が好ましく、製造コストと導電性のバランスの点から2.0〜4.0質量%が特に好ましい。
【0026】
本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子のタップ密度は、特に限定されないが、例えば、その値は、正極活物質として使用した際の充填度向上の点から1.5g/cm以上が好ましく、1.7g/cm以上が特に好ましい。
【0027】
本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子のバルク密度は、特に限定されないが、例えば、その値は、正極活物質として使用した際の充填度向上の点から0.8g/cm以上が好ましく、1.0g/cm以上が特に好ましい。
【0028】
次に、本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法例について説明する。本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、まず、コア粒子である水酸化ニッケル粒子に固溶しているコバルトを、酸化することにより、コア粒子のコバルトを、主に、3価のコバルトの化合物(例えば、オキシ水酸化コバルト)とする。次に、コバルトを主に3価のコバルトに酸化したコア粒子に、コバルト塩溶液とアルカリ溶液を添加して、中和晶析により、コア粒子の表面に水酸化コバルトの被覆を形成する。次に、生成した水酸化コバルトの被覆を酸化することにより、本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を製造することができる。
【0029】
具体的には、まず、コア粒子である、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子に、第1の酸化処理を行って、水酸化ニッケル粒子に固溶したコバルトを、主に、3価のコバルトの化合物(例えば、オキシ水酸化コバルト)とする。第1の酸化処理としては、例えば、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子に、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を混合しながら添加して加熱する方法が挙げられる。加熱温度は、80〜150℃が好ましく、加熱時間は、0.5〜2時間が好ましい。
【0030】
次に、前記第1の酸化処理により得られた、固溶しているコバルトを酸化させたコア粒子の懸濁液に、2価のコバルト塩水溶液(例えば、硫酸コバルトの水溶液等)とアルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)を撹拌しながら添加して、中和晶析により、コバルトを酸化させたコア粒子の表面に、水酸化コバルトを主成分とする被覆を形成して被覆コア粒子の懸濁液を得る。上記被覆を形成させる工程のpHは、10〜13の範囲に維持することが好ましい。
【0031】
次に、生成した被覆コア粒子に、第2の酸化処理を実施することにより、被覆層を形成する水酸化コバルトを、主に、コバルトの価数が3価であるコバルト化合物(例えば、オキシ水酸化コバルト等)に酸化させることにより、本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を得ることができる。
【0032】
第2の酸化処理としては、例えば、上記した第1の酸化処理と同じ処理方法を挙げることができる。すなわち、第2の酸化処理としては、例えば、被覆コア粒子に、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を混合しながら添加して加熱する方法が挙げられる。加熱温度は、80〜150℃が好ましく、加熱時間は、0.5〜2時間が好ましい。
【0033】
なお、第1の酸化処理は、上記した、アルカリ溶液を添加して加熱するアルカリ酸化に限定されず、他の酸化処理方法、例えば、コア粒子の懸濁液を撹拌しながら、連続的に酸素を供給する方法、コア粒子を酸性の電解質水溶液中で電気酸化する方法、コア粒子の懸濁液を撹拌しながら、酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム等)を加えて酸化する方法等を用いてもよい。
【0034】
また、第2の酸化処理も、上記した、アルカリ溶液を添加して加熱するアルカリ酸化に限定されず、他の酸化処理方法、例えば、コア粒子の懸濁液を撹拌しながら、連続的に酸素を供給する方法、コア粒子を酸性の電解質水溶液中で電気酸化する方法、コア粒子の懸濁液を撹拌しながら、酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム等)を加えて酸化する方法等を用いてもよい。
【0035】
次に、本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の使用方法例を説明する。本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子は、優れたハイレート充放電特性を有するので、アルカリ二次電池の正極活物質、例えば、ニッケル水素二次電池の正極活物質として使用することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成
攪拌機付きの反応槽に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを所定比(ニッケル:コバルト:亜鉛=86.4:6.4:7.2の質量比)で溶解した水溶液に、硫酸アンモニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を滴下して反応槽内のpHを12.0に維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を得た。
【0038】
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の酸化処理
上記のようにして得られたコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子と48質量%の水酸化ナトリウム水溶液(「アルカリ溶液」に対応)とを質量比9:1で混合し、120℃にて1時間、加熱処理してコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子に酸化処理を行った。その後、水洗、脱水、乾燥の各処理を行い、固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子、すなわち、コア粒子を得た。コア粒子のD50は11.0μmであった。
【0039】
固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子表面への被覆層の形成
上記のようにして得られた固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子、すなわち、コア粒子を、水酸化ナトリウムでpH10〜13の範囲に維持した反応浴中のアルカリ水溶液に投入した。投入後、該溶液を撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、反応浴のpHを10〜13の範囲に維持した。pHを10〜13の範囲に約1時間保持して、固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子(コア粒子)の表面に水酸化コバルトからなる被覆層を形成させた、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子を得た。なお、被覆されたコバルトの含有量は、水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子全体に対して2.5質量%だった。
【0040】
被覆層の酸化処理
上記のようにして得られた水酸化コバルト被覆水酸化ニッケル粒子と48質量%の水酸化ナトリウム水溶液(「アルカリ溶液」に対応)とを質量比9:1で混合し、120℃で1時間、加熱処理して被覆層の酸化処理を行った。その後、水洗、脱水、乾燥の各処理を行い、本発明に係るコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を得た。
【0041】
正極板の作製
上記のようにして得られたコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子と3質量%のPTFE水溶液と水とを質量比78:10:12で混合した。得られた混合物を、発泡ニッケル(多孔度95%、平均孔径200μm)からなる多孔性の基板に充填後、乾燥、加圧成形した。次に、30mm×30mmにカットすることでニッケル正極板とした。
【0042】
評価セルの作製
上記のようにして得られた正極板をポリアミド不織布(セパレータ)に巻き、正極板よりも電気化学的容量の大きい水素吸蔵合金(50mm×40mm)で挟み、さらにその上からアクリル製のセルホルダーで挟み、ねじ止めしてセルを作製した。8M水酸化カリウム溶液で満たした容器に上記セルを入れて、評価セルとした。
【0043】
活性化
上記評価セルを25℃にて12時間保管の後、0.2Cにて6時間充電し、その後、0.2Cで1.0Vまで放電した。この操作を10回繰り返して評価セルを活性化した。
【0044】
ハイレート充放電特性評価
上記活性化した評価セルを常温(25℃)の雰囲気にて5Cの電流値でSOCが70%となるように、充電カット電圧1.6Vで充電し、充電後30分放置した。その後、放電レート0.2C、放電カット電圧1.0Vで放電することで、充電された電池容量を測定した。前記正極板の作製の理論容量(100%)に対する充電容量と放電容量の比率(%)を利用率として評価した。
【0045】
高温充放電試験
上記活性化した評価セルを高温(65℃)の雰囲気にて0.2Cの電流値でSOCが100%となるように、充電カット電圧1.6Vで充電し、充電後30分放置した。その後、放電レート0.2C、放電カット電圧1.0Vで放電することで、充電された電池容量を測定した。前記正極板の作製の理論容量(100%)に対する充電容量と放電容量の比率(%)を利用率として評価した。
【0046】
実施例2
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成において、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを、ニッケル:コバルト:亜鉛=87.8:4.9:7.3の質量比となるよう溶解した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0047】
実施例3
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成において、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを、ニッケル:コバルト:亜鉛=84.8:8.0:7.2の質量比となるよう溶解した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0048】
比較例1
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子について、酸化処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。すなわち、比較例1では、コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子をそのまま使用した。
【0049】
比較例2
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子について、酸化処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。すなわち、比較例2では、コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子をそのまま使用した。
【0050】
比較例3
コア粒子の原料となるコバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の合成において、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸亜鉛とを、ニッケル:コバルト:亜鉛=91.1:1.6:7.3の質量比となるよう溶解した水溶液を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行った。
【0051】
実施例1〜3で使用した固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子及び比較例1〜3で使用した固溶コバルトを酸化させなかった水酸化ニッケル粒子(以下、固溶コバルトを酸化させた水酸化ニッケル粒子と固溶コバルトを酸化させなかった水酸化ニッケル粒子をあわせて、「コア粒子等」ということがある。)の、それぞれの物性を以下の表1に示す。なお、質量%は、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子に対する割合を意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1〜3、比較例1〜3にて得られたコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の物性を以下の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表1、2中、
組成は、ICP発光分析装置(リガク社製、CIROS−120 EOP)を用いて分
析した。
タップ密度は、タップデンサー(セイシン社製、KYT−4000)を用いて、JISR1628に記載の手法のうち、定容積測定法によって測定を行った。
バルク密度は、試料を自然落下させて容器に充填し、容器の容積と試料の質量からバルク密度を測定した。
BET比表面積は、比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb)を用い、1点BET法によって測定した。
D50は、粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA−950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。
【0056】
実施例1〜3、比較例1、2にて得られたコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子のコバルト含有量に関するデータを以下の表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3中、粒子全体のCo3+含有量は、過マンガン酸カリウムの滴定によって測定した。
Co含有量、すなわち、コア粒子等のCo含有量、粒子全体のCo含有量、被覆層のCo含有量は、それぞれ、ICP発光分析装置(リガク社製、CIROS−120 EOP
)を用いて、コア粒子等及びコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を分析することで算出した。
コア粒子等のCo3+含有量は、粒子全体のCo3+含有量から被覆層のCo含有量を差し引いて算出した。
また、表3中、「粒子全体」とは、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子を意味する。
【0059】
なお、上記活性化の条件とハイレート充放電特性評価の条件を、以下の表4にまとめて示す。
【0060】
【表4】
【0061】
ハイレート充放電特性評価の結果を以下の表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
高温充放電試験の条件を、以下の表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
高温充放電試験の結果を、以下の表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
上記表5の結果から、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)が、21.1質量%と、12.0質量%以上である実施例1では、5C充電時という高負荷充電時の利用率が18.8%と優れた利用率を有するセルを得ることができた。また、実施例1では、0.2C放電の利用率も16.7%と優れた利用率を得ることができた。
【0068】
また、水酸化ニッケル粒子に固溶しているコバルトの含有量が、4.0質量%である実施例1よりも少ない実施例2(3.0質量%)でも、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を酸化処理することによって、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)を20.5質量%と、実施例1と同様に、12.0質量%以上とすることができ、5C充電時という高負荷充電時の利用率が15.2%と優れた利用率を有するセルを得ることができた。また、実施例2では、0.2C放電の利用率も15.2%と優れた利用率を得ることができた。
【0069】
さらに、水酸化ニッケル粒子に固溶しているコバルトの含有量が、4.0質量%である実施例1よりも多い実施例3(5.0質量%)でも、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を酸化処理することによって、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)を16.9質量%と、実施例1と同様に、12.0質量%以上とすることができ、5C充電時という高負荷充電時の利用率が24.0%と、さらに優れた利用率を有するセルを得ることができた。また、実施例3では、0.2C放電の利用率も23.8%と、さらに優れた利用率を得ることができた。
【0070】
上記利用率の向上は、被覆層の形成前に、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子を酸化処理することによって、コバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の有するコバルトの含有量に対する、コア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)が上昇したこと、すなわち、コア粒子の導電性が向上してコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子の抵抗が低減したことに起因すると考えられる。
【0071】
一方で、実施例1とは異なり、被覆層の形成前に、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の酸化処理を行わなかった比較例1では、上記割合(X)が9.7質量%であり、5C充電時という高負荷充電時の利用率が10.0%にとどまった。従って、実施例1に対する相対的な利用率は53.2%であった。また、比較例1では、0.2C放電の利用率も10.0%にとどまり、実施例1に対する相対的な利用率は59.9%であった。
【0072】
また、実施例3とは異なり、被覆層の形成前に、予め、コバルトの固溶した水酸化ニッケル粒子の酸化処理を行わなかった比較例2では、上記割合(X)が10.7質量%であり、5C充電時という高負荷充電時の利用率が13.0%にとどまった。また、比較例2では、0.2C放電の利用率も12.9%にとどまった。従って、比較例2では、コア粒子に固溶しているコバルトの含有量が同じである実施例3よりも低い利用率となった。
【0073】
上記表7の結果から、コア粒子中のコバルト含有量が2.0質量%以上である実施例1〜3(実施例1は4.0質量%、実施例2は3.0質量%、実施例3は5.0質量%)は、65℃という高温での充放電試験において、それぞれ、60.8%、59.5%、62.7%と高い利用率を有するセルを得ることができた。
【0074】
一方で、コア粒子中のコバルト含有量が1.0質量%と、2.0質量%未満である比較例3では、高温充放電試験での利用率は、46.6%にとどまり、実施例1との相対的な利用率は76.6%となった。
【0075】
上記ハイレート充放電特性評価の結果と高温充放電試験の結果より、コア粒子のコバルト含有量が2.0質量%以上、かつコア粒子のコバルトのうちの3価のコバルトの含有量の割合(X)が12.0質量%以上である実施例1〜3のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子は、高温環境において良好な利用率を有し、さらには、優れたハイレート充放電特性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のコバルト化合物被覆水酸化ニッケル粒子は、高温環境において良好な利用率を有し、優れたハイレート充放電特性を有するので、例えば、アルカリ二次電池の正極活物質の分野で利用価値が高い。