特許第6906083号(P6906083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906083
(24)【登録日】2021年6月30日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/04 20060101AFI20210708BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20210708BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20210708BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20210708BHJP
   B60K 17/02 20060101ALI20210708BHJP
   B60K 23/02 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   B60K17/04 G
   B60K6/40ZHV
   B60K6/442
   B60K6/36
   B60K17/02 Z
   B60K23/02 L
   B60K23/02 T
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-70457(P2020-70457)
(22)【出願日】2020年4月9日
(62)【分割の表示】特願2018-525922(P2018-525922)の分割
【原出願日】2016年7月26日
(65)【公開番号】特開2020-121716(P2020-121716A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年4月9日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/070232
(32)【優先日】2016年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】相川 政士
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】河野 篤志
(72)【発明者】
【氏名】グエン ソン デュイ
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−247786(JP,A)
【文献】 特開2002−120575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/04
B60K 6/40
B60K 6/442
B60K 6/36
B60K 17/02
B60K 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の動力源および第2の動力源から車軸へトルクを出力する動力伝達装置であって、
前記第1の動力源に結合する第1のシャフトと、
前記車軸へ前記トルクを差動的に分配するデファレンシャルと、
前記第1のシャフトと前記デファレンシャルとを駆動的に結合する第1のギア組と、
前記第2の動力源に結合する第2のシャフトと、
前記第2のシャフトに駆動的に結合した第2のギア組と、
流体圧を受けて前記第2のギア組を前記第1のギア組に切断可能に駆動的に結合するクラッチと、
前記第2の動力源に駆動的に結合した第3のギア組と、
前記第3のギア組により駆動されて前記流体圧を発生するポンプであって、前記クラッチから離れて配置され、前記流体圧を供給するべく前記クラッチに流体連結されたポンプと、
単一の空間を囲み、前記空間に前記第1および第2のシャフトと、前記デファレンシャルと、前記第1、第2および第3のギア組と、前記ポンプと、前記クラッチとを収容するべく寸法づけられたケーシングであって、前記空間の最下点であって前記ポンプの直下に位置したオイル溜りを備えたケーシングと、
前記ケーシングを貫通し、前記流体圧を供給するべく前記ポンプと前記クラッチとを流体連結する流路と、
を備えた動力伝達装置。
【請求項2】
前記流路は水平な部分を含む、請求項1の動力伝達装置。
【請求項3】
前記流路は全体として前記ポンプから前記クラッチへ下方に傾いている、請求項1または2の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ポンプおよび前記クラッチは、前記第1のシャフト、前記第2のシャフトおよび前記デファレンシャルの軸よりも下方に配置されている、請求項1ないし4の何れか1項の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2のシャフトに前記第2のギア組を介して駆動的に結合した第3のシャフトをさらに備え、
前記ポンプは前記第3のシャフトよりも下方に配置されている、請求項1ないし4の何れか1項の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、二以上の電動モータあるいは燃焼機関を組み合わせた車両において、トルクを車軸に伝達するための動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギ効率の向上のために、二以上の動力源を組み合わせた車両が市場に登場している。その代表的な例は、所謂ハイブリッド車である。燃焼機関の出力は、車軸の駆動のみならず、バッテリの充電にも利用され、その際にはモータはジェネレータとして作用し、燃焼機関の出力の一部を受けて発電する。また多くの場合において、車両が減速する際にもモータはジェネレータとして作用し、車両の慣性エネルギを電力として回生する。すなわちトルクは二以上の動力源と車軸の間で、三方向にやりとりされる必要がある。そのような動力伝達を可能にしようとすると、装置は複雑かつ大規模になりがちである。一方、エンジンルームは二以上の動力源を搭載せねばならないので、利用可能な空間は従来の車両以上に少ない。自由な空間を確保し難い車両内において、二以上の動力源および動力伝達装置のレイアウトは難しい問題である。
【0003】
特許文献1ないし7は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特許公開2009−072052号
【特許文献2】日本国特許公開2010−247786号
【特許文献3】日本国特許公開2015−54670号
【特許文献4】日本国特許公開2010−1944号
【特許文献5】国際公開公報第2015/083700号
【特許文献6】日本国特許公開2014−145409号
【特許文献7】日本国特許公開2002−120575号
【発明の概要】
【0005】
電動モータを主動力源とするハイブリッド車においては、かかる電動モータは当然に大型であって、エンジンルームにおいて相当程度の容積を占める。例えば電動モータがエンジンルームの左側に、副動力源たる燃焼機関がこれに並ぶように右側に配置されるとすると、動力伝達装置を配置するには、その間の僅かな隙間を利用せざるを得ない。しかも副動力源たる燃焼機関を駆動系から切り離せるよう、クラッチおよびこれを駆動するアクチュエータをも動力伝達装置に搭載しようとすると、これらは特に幅方向に相当程度の大きさを占めるので、レイアウトの問題は各段に難しいものとなる。かかる問題に鑑み、以下の装置が創出された。
【0006】
一局面によれば、第1の動力源および第2の動力源から車軸へトルクを出力する動力伝達装置は、前記第1の動力源に結合する第1のシャフトと、前記車軸へ前記トルクを差動的に分配するデファレンシャルと、前記第1のシャフトと前記デファレンシャルとを駆動的に結合する第1のギア組と、前記第2の動力源に結合する第2のシャフトと、前記第2のシャフトに駆動的に結合した第2のギア組と、流体圧を受けて前記第2のギア組を前記第1のギア組に切断可能に駆動的に結合するクラッチと、前記第2の動力源に駆動的に結合した第3のギア組と、前記第3のギア組により駆動されて前記流体圧を発生するポンプであって、前記クラッチから離れて配置され、前記流体圧を供給するべく前記クラッチに流体連結されたポンプと、単一の空間を囲み、前記空間に前記第1および第2のシャフトと、前記デファレンシャルと、前記第1、第2および第3のギア組と、前記ポンプと、前記クラッチとを収容するべく寸法づけられたケーシングであって、前記空間の最下点であって前記ポンプの直下に位置したオイル溜りを備えたケーシングと、前記ケーシングを貫通し、前記流体圧を供給するべく前記ポンプと前記クラッチとを流体連結する流路と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、車両の概括的なブロックダイアグラムである。
図2図2は、一実施形態による動力伝達装置の斜視図である。
図3図3は、動力伝達装置の他の斜視図であって、図2とは反対側を見せた図である。
図4図4は、動力伝達装置の側面図である。
図5図5は、動力伝達装置の断面図であって、図4の線VI−VIから取られた図である。
図6図6は、油圧発生装置の付近を拡大して見せる側面図である。
図7図7は、他の実施形態による動力伝達装置の斜視図である。
図8図8は、図7に示した動力伝達装置の他の斜視図であって、図7とは反対側を見せた図である。
図9図9は、動力伝達装置の側面図である。
図10図10は、動力伝達装置の内部の側面図である。
図11図11は、動力伝達装置の断面図であって、図9,10の線XI−XIから取られた図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1ないし11を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。
【0009】
各図において、Fは前を、Aは後ろを、Rは右を、Lは左を、Uは上を、Dは下を、それぞれ表すが、これらの区別は説明の便宜のために過ぎず、左右を入れ替え、あるいは前後を入れ替えた実施形態が可能である。
【0010】
本実施形態による動力伝達装置は、第1の動力源(電動モータ)、第2の動力源(ジェネレータを含む燃焼機関)および車軸の間で三方向にトルクを伝達する用途に利用され、例えばハイブリッド車に適用される。図1は動力伝達装置がハイブリッド車の前車軸に適用される例を示すが、もちろん後車軸に適用することもできる。
【0011】
図1を参照するに、車両は、概して、前車輪を駆動するための動力伝達装置1と、後車輪のためのギアボックス15と、を備える。ギアボックス15は、右および左の車軸間の差動を許容するデファレンシャルを含むが、さらに後車輪を駆動する電動モータやその他の装置を含んでもよい。また電子的に制御するべく各要素にはワイヤリングWを介してエレクトリックコントロールユニット(ECU)11が接続されている。ECU11にはバッテリ13が接続されており、ワイヤリングWを介して各要素に電力を供給している。
【0012】
動力伝達装置1には、その構成要素として、あるいは外部要素として、電動モータ3、ジェネレータ5、および燃焼機関7が結合している。電動モータ3は本実施形態において車両を駆動する主動力源であり、燃焼機関7とジェネレータ5との組み合わせは副動力源である。詳しくは後述するが、電動モータ3はギア組を介して前車軸に駆動的に常時結合しているが、燃焼機関7とジェネレータ5との組み合わせはクラッチ9が連結したときにのみ、これと駆動的に結合する。
【0013】
燃焼機関7は、既に述べた通り副動力源であると共に、ジェネレータ5を駆動してこれに発電せしめる。燃焼機関7には、よく知られている通り、ガソリンエンジンないしディーゼルエンジンを利用することができるが、他の形式の内燃機関を利用してもよく、あるいは可能ならば外燃機関を利用してもよい。
【0014】
ジェネレータ5が発生した電力はバッテリ13の充電に利用され、さらにバッテリ13を介して、ジェネレータ5自身、電動モータ3および各種電装品に供給されて、これらの駆動に利用される。またジェネレータ5に電力を投入して、燃焼機関7の始動に利用することもできる。
【0015】
なお車両を制動するときには電動モータ3は発電に利用されてエネルギを回生するし、またジェネレータ5に電力を投入して車両を駆動することも可能である。すなわち容量や寸法の問題を別にすれば、電動モータ3とジェネレータ5との間に機能の点で本質的な相違はない。
【0016】
図2を参照するに、例えば電動モータ3とジェネレータ5とは、動力伝達装置1のケーシング21に関して同じ側に配置することができ、ケーシング21と一体であってもよく、さらにその内部であってもよい。電動モータ3とジェネレータ5の軸は互いに平行にすることができる。図3を参照するに、燃焼機関7はこれらとは反対側に配置することができ、また動力伝達装置1とは別体であってボルト等により互いに固定されてもよい。燃焼機関7の回転軸も電動モータ3、ジェネレータ5の軸と平行にすることができ、またケーシング21から外部に引き出されたドライブシャフト37に、例えばスプライン結合により結合する。後述のポンプ17を駆動するための電動モータ19(第3の動力源)は、燃焼機関7と同じ側に配置することができる。
【0017】
あるいはこれらの配置は、図示されたものに代えて、種々の変形がありうる。例えば、ジェネレータ5はケーシング21に関して燃焼機関7と同じ側であってもよく、その場合にこれらは同軸に配置されていてもよい。また電動モータ3とジェネレータ5とが同軸であってもよい。
【0018】
図4,5を参照するに、動力伝達装置1は、概して、電動モータ3に駆動的に結合する第1のギア組25と、右および左の前車軸へトルクを差動的に分配するデファレンシャル27と、燃焼機関7およびジェネレータ5に駆動的に結合する第2のギア組29と、を備える。デファレンシャル27のサイドギアは、それぞれ動力伝達装置1のケーシング21の両側に臨んでおり、それぞれ右および左の前車軸にスプライン結合する。デファレンシャル27には、図示のごとくベベルギア式の差動ギア組が適用できるが、あるいはフェースギア式やヘリカルギア式等、いずれの形式の差動ギア組を利用してもよい。あるいは差動ギア組に代えて、左右の車軸を独立に制御可能なクラッチパックを利用してもよい。
【0019】
ケーシング21は、二以上に分割することができ、ボルト等により相互に結合することができる。結合したときにはケーシング21は単一の空間を囲み、かかる空間に各シャフト、デファレンシャル27、ギア組25,29、ポンプ17、およびクラッチ9を収容して回転可能に支持する。車軸や動力源との結合のために幾つかの開口があるが、これらは適宜のシール手段により液密に封ずることができ、以って内部の潤滑油が漏れることはない。
【0020】
第1のギア組25は常時デファレンシャル27に駆動的に結合しており、従って電動モータ3と車軸との間においてトルクは双方向にやりとりされる。一方、第2のギア組29とデファレンシャル27との間にはクラッチ9が介在しており、その間は切断可能であるので、クラッチ9が連結したときにのみ燃焼機関7およびジェネレータ5は車軸の駆動に参加する。
【0021】
より詳しくは、動力伝達装置1は、電動モータ3に駆動的に結合する第1のドライブシャフト31を備え、その一端はケーシング21の外部に臨んでいる。かかる一端は、結合のためのスプラインを備えてもよい。第1のドライブシャフト31はまたピニオン22を、一体または別体として備え、デファレンシャル27が備えるリングギア35に駆動的に結合する。その間には、リングギア24およびピニオン26を備えた中間シャフト33が介在していてもよい。これらの互いに噛合したギアは、第1のギア組25を構成する。これらのギアにはヘリカルギアを適用することができるが、あるいは平歯車等他の形式であってもよい。
【0022】
電動モータ3をより高回転域において運用するべく、第1のギア組25は減速ギアにすることができる。第1のギア組25がリングギア35を介してデファレンシャル27を回転せしめ、以って電動モータ3のトルクが右および左の前車軸に差動的に分配される。
【0023】
動力伝達装置1は、また、第2のドライブシャフト37を備え、その一端はケーシング21の外部に引き出されて燃焼機関7に結合する。かかる一端は、結合のためのスプラインを備えてもよい。燃焼機関7とシャフト37との間には、ドライクラッチやトルクダンパのごとき他の装置が介在していてもよい。
【0024】
ジェネレータ5は、第2のドライブシャフト37に直接に、あるいはこれと別体のドリブンシャフト39に、結合する。ドリブンシャフト39もその一端にスプラインを有してもよい。ドライブシャフト37はリングギア28を、一体または別体として備え、ドリブンシャフト39はこれに噛合するピニオン30を備え、これらは第2のギア組29を構成する。これらのギアにもヘリカルギアないし他の形式を適用することができる。
【0025】
ジェネレータ5をより高回転域において運用するべく、ジェネレータ5から見たときには第2のギア組29も減速ギアにすることができる。燃焼機関7から見たときには、第2のギア組29は等速ないし増速ギアにすることができる。
【0026】
クラッチ9のシャフト53に対して相対回転できるよう、リングギア41が嵌合しており、リングギア41は第2のギア組29に噛合する。またデファレンシャル27のリングギア35に噛合するピニオン43が、シャフト53にスプライン結合しており、これはリングギア41に軸方向に隣接するように配置されていてもよい。
【0027】
図5から特によく理解される通り、これらの全てのシャフトは互いに平行することができ、また各ギアはこれらのシャフトに直交する一の平面付近に配列することができる。それゆえ動力伝達装置1の全体は、幅方向に極めて小さくすることができる。また図4から特によく理解される通り、これらのシャフトを同一の平面上に配列する必要はなく、例えば第1のドライブシャフト31および第2のドライブシャフト37をより上方に、デファレンシャル27およびクラッチ9のシャフト53をより下方に配置することができる。これによりシャフト31,37を近接せしめ、従って動力伝達装置1の全体を、前後方向にも、また上下方向にも、小さくすることができる。
【0028】
図5に戻って参照するに、クラッチ9は、シャフト53に固定的に結合したクラッチドラム55と、リングギア41に固定的に結合したクラッチハブ57とを備え、これらは同軸であって入れ子になっている。クラッチドラム55およびクラッチハブ57にそれぞれ結合した複数のクラッチプレートが交互に配列しており、かかる複数のクラッチプレートは多板クラッチを構成する。あるいは多板クラッチに代えて適宜の摩擦クラッチ、ないしスプライン、ドッグ、シンクロコーン等の他の形式のクラッチを利用してもよい。
【0029】
クラッチ9に軸方向に押圧力を及ぼすには、ポンプ17が供給する油圧のごとき流体圧を利用することができる。加圧流体を貯留するように、クラッチ9の一端にリザーバ61を結合することができる。リザーバ61の内部には後述の流路69が開口しており、ポンプ17から供給された加圧流体によって満たされる。またリザーバ61内はさらに例えばシャフト53を貫通した流路を通ってクラッチドラム55内に流体連通している。リザーバ61は、さらにアキュムレータを包含してもよく、これは一定の圧力を維持するのに有利である。これは加圧のための動力源を持続的に稼働せしめる必要性を減じ、ひいてはエネルギロスを抑制するのに有利である。
【0030】
ポンプ17がリザーバ61を介して押圧力を及ぼすと、クラッチ9は連結し、押圧力を除けば脱連結する。加圧と除圧とを切り替える目的で、流路69はオン・オフバルブ63を備えてもよく、バルブ63の開閉はECU11により制御されてもよい。
【0031】
図4,5と組み合わせて図6を参照するに、ポンプ17は、好ましくはケーシング21に関してクラッチ9と同じ側に、クラッチ9から離れて配置される。ケーシング21は流路69を備え、流路69はポンプ17をクラッチ9のリザーバ61に流体連通する。リザーバ61からポンプ17が分離しているので、クラッチ9は軸方向に比較的に小寸法であり、これは動力伝達装置1の全体を幅方向に小さくすることに寄与する。流路69は、その全体がケーシング21を貫通してもよく、あるいは部分的に別体のパイプを含み、かかるパイプがケーシング21の外部または内部に接合されていてもよい。製造の便宜あるいは設計的自由度に鑑みて自由に選択することができる。
【0032】
ポンプ17は、ケーシング21において適宜に低い位置、例えばジェネレータ5より下方に配置される。かかる位置はケーシング21において最下点に近く、従ってオイル溜りになっており、クラッチ9を駆動した後の作動油F1が下りてきている。ポンプ17は、好ましくはストレーナ65を介して作動油F1を吸い上げ、ロータ67の回転によりこれを加圧し、流路69を通って加圧流体F2をリザーバ61に供給する。
【0033】
図6より理解される通り、ポンプ17はリザーバ61と略同じ高さにすることができ、また流路69は略水平にすることができる。作動油が吸い上げられ、加圧されて流路69を通ってリザーバ61に供給する過程において、作動油が履歴する高低差は僅かであって、圧力損失も小さい。すなわちかかる配置は、エネルギ損失を小さくすることに著しく寄与する。
【0034】
ポンプ17には、ギアポンプ、ベーンポンプあるいはプランジャーポンプの何れも利用することができる。何れを利用した場合でも、ポンプ17のケーシング21からの突出は、ジェネレータ5やその他の要素に比べれば十分に小さくすることができる。
【0035】
ポンプ17を駆動するためには、何れの動力源を利用することもできる。例えばロータ67を、シャフト53、デファレンシャル27、あるいは第1のギア組25の何れかに駆動的に結合し、以って電動モータ3をポンプ17の動力源として利用することができる。しかし、この場合には車両が停車しているときにはポンプ17も停止してしまい、リザーバ61内の流体圧が維持できなくなるので、クラッチ9を連結することができない。停車中にもクラッチ9を作動せしめるには、これらから独立した動力源を利用することが好ましい。
【0036】
そのような第3の動力源として、既に述べた電動モータ19を利用することができる。電動モータ19は、他の動力源に比べて小さな出力で済むので、その寸法を小さくすることができる。従って電動モータ19のケーシング21からの突出は、ジェネレータ5やその他の要素に比べれば十分に小さくすることができる。電動モータ19はケーシング21に関してポンプ17とは反対側に配置することができ、そのシャフト18はケーシング21を貫通してロータ67に直接に連結することができる。それゆえ電動モータ19とポンプ17との組み合わせは、動力伝達装置1の幅方向に対して、大きな空間を占有するわけではない。
【0037】
電動モータ19を利用すれば、ポンプ17の配置を自由に選択することができ、図4に示すごとく、ポンプ17は、クラッチ9と共に、第1のドライブシャフト31、第2のドライブシャフト37およびデファレンシャル27の軸よりも下方に配置することができる。かかる位置はデッドスペースであるので、かかる配置はエンジンルーム内の自由空間を圧迫することがない。さらにかかる位置は、車両が走行する際に生ずる気流を受けることができるので、電動モータ19およびポンプ17を冷却するに著しく有利である。これらを含めた流体圧システムの全体の耐久性が向上する。また電動モータ19およびポンプ17は、周囲の可動部材による干渉を避ける配置を選択することが容易である。
【0038】
また電動モータ19はバッテリ13に溜められた電力を利用していつでも駆動できるので、車両が停車していても、あるいは燃焼機関7がストールしていても、クラッチ9を駆動することが可能になる。必要に応じて即座に副動力源を車両の駆動に利用しうるので、これはドライバーの操作に対する車両のレスポンスの改善に貢献する。またクラッチ9の駆動はポンプ17に対する電力のオン・オフにより直接に制御でき、それゆえ油圧回路を制御するバルブを必要としない。
【0039】
もちろんオン・オフバルブを利用してもよい。特にオン・オフバルブをアキュムレータと組み合わせれば、電動モータ19の稼働を制限してエネルギロスの抑制に寄与し、またクラッチ9の動作を迅速にすることができる。
【0040】
あるいは、ロータ67は、ジェネレータ5に近接して配置することができるので、ジェネレータ5をギア組を介してロータ67に駆動的に結合し、以ってジェネレータ5をポンプ17の動力源としてもよい。この場合でも、車両が停車しているか否かに関わらずクラッチ9を駆動することが可能である。
【0041】
主に図7ないし11を参照して他の実施形態を以下に説明する。既に述べた通り、ポンプ17を駆動するために、電動モータ19に代えて、電動モータ3およびクラッチ9から独立した他の動力源を利用することができ、本実施形態はジェネレータ5および/または燃焼機関7を動力源として利用する例である。
【0042】
図7ないし9より理解される通り、既に説明した電動モータ3、ジェネレータ5、燃焼機関7、およびクラッチ9は、本実施形態においてもそのまま利用することができ、またこれらの配置も実質的に変更を要しない。例えば各シャフトの中心を通る断面図は、本実施形態においても図5と同一である。
【0043】
図10,11を参照するに、本実施形態による動力伝達装置1は、ジェネレータ5および/または燃焼機関7を動力源として利用するべく、第3のギア組を備える。第3のギア組は、ケーシング21の内側に配置されており、リングギア28と、これに噛合したリングギア71と、よりなる。あるいは、リングギア71は、ピニオン30に噛合していてもよい。さらにあるいは、シャフト37はリングギア28とは独立した他のギアを備え、リングギア71はかかる他のギアに噛合していてもよい。
【0044】
既に述べた通り、リングギア28は燃焼機関7に、ピニオン30はジェネレータ5に、それぞれ駆動的に結合しており、またリングギア28とピニオン30は互いに噛合している。それゆえ、燃焼機関7とジェネレータ5の何れかが稼働したときにはリングギア71が回転し、以ってシャフト18が回転する。
【0045】
リングギア28あるいは他のギアの歯幅、およびリングギア71の歯幅は、それぞれ適宜に増大することができる。ともに十分な歯幅であれば、リングギア71の噛み合い率が向上し、これは振動の低減と静粛性の向上に寄与する。
【0046】
先の実施形態と同じく、ケーシング21から外方に突出したポンプ17を利用することができるが、あるいはこれに代えてケーシング21内に収容されたポンプ17Uを利用することができる。図8,9を図3,4と比較して理解される通り、本実施形態におけるケーシング21は、ポンプ17Uの付近において、幅方向にも前後方向にも、よりコンパクトにすることができる。
【0047】
例えばトロコイドポンプの形式を利用する場合、ポンプ17Uは、シャフト18に結合して共に回転するインナロータ67と、これの外周に嵌合して回転可能なアウタロータ68と、これらの間の空間に連通した流路66,69と、を備える。
【0048】
インナロータ67の外周は星形をなしている。アウタロータ68は、これに対応して星形をなした内周を備え、インナロータ67に嵌合するが、インナロータ67に対して偏心している。インナロータ67の回転に伴ってアウタロータ68も回転するが、偏心のためにインナロータ67とアウタロータ68の間の空間は拡大と縮小とを繰り返す。拡大に伴い吸入側流路66内の作動油はかかる空間に吸入され、縮小に伴い送出側流路69へ押し出される。
【0049】
ポンプ17Uは、ケーシング21の内部の空間21Eにおいて最下点近くに配置することができ、また最下点はオイル溜り21Rになっている。すなわちポンプ17Uの直下にオイル溜り21Rを配置することができる。オイル溜り21Rは吸入側流路66に連通しており、ポンプ17Uは作動油F1を吸い上げ、ロータ67,68の回転によりこれを加圧し、流路69を通って加圧流体F2をリザーバ61に供給する。
【0050】
オイル溜り21Rと流路69とは略同一の高さにできるので、ポンプ17Uは僅かなエネルギ損失で加圧流体を供給することができる。またオイル溜り21Rがその直下であれば、作動油が履歴する流路の長さは最短である。すなわちかかる配置は、エネルギ損失を小さくすることに著しく寄与する。
【0051】
なお本実施形態において、あるいは先の実施形態においても、動力伝達装置1は、第1のギア組25を停止するパークロック機構23を備えることができる。
【0052】
クラッチ9を駆動しようとするときにはクラッチ9は未だ連結していない。このとき第3のギア組は第1のギア組25やデファレンシャル27から切り離されており、従ってポンプ17Uの回転はこれらから自由である。すなわち車両が停車していても、燃焼機関7とジェネレータ5の何れかが稼働していれば、その駆動力を利用してクラッチ9を駆動することができる。ジェネレータ5はバッテリ13に溜められた電力を利用していつでも駆動できる利点を、本実施形態も享受することができる。ケーシング21をコンパクトにすることができる点では、先の実施形態よりも本実施形態のほうがより有利である。
【0053】
上述の全ての実施形態に共通して、第2の動力源または第3の動力源が駆動するポンプ17,17Uが供給する加圧された作動油は、クラッチ9のみならず動力伝達装置1の全体に伝播し、電動モータ3、ジェネレータ5、各シャフト、ギアそしてベアリングなどを潤滑しうる。あるいは、流路69をさらにパークロック機構23に連結してその切換え(例えば、双方向シリンダーへの油圧供給による作動状態の切換え)のために利用してもよい。また、かかる加圧された作動油は、電動モータ3やジェネレータ5の冷却にも寄与する。
【0054】
なお第2の動力源としては、ジェネレータと燃焼機関との何れか一方であってもよく、もちろんその両方の組み合わせでもよい。また電動モータ、ジェネレータの各ケーシングは、ケーシング21と一体であってもよく、あるいは別体でもよい。また電動モータ、ジェネレータのロータおよびステータはケーシング21の内部であってもよく、あるいは外部であってもよい。
【0055】
既に述べた通り、ポンプ17,17Uには、ギアポンプ、ベーンポンプあるいはプランジャーポンプの何れも利用することができ、またネジポンプのごとき他の適宜の形式を利用することができる。何れを利用した場合でも、ポンプ17,17Uをケーシング21内に収容することに障害はない。あるいはポンプ17,17Uがケーシング21の外方に突出し、またはケーシング21の外側に配置された場合でも、大きな空間を占有するわけではなく、またジェネレータ5の下方に隠れる程度である。従ってケーシング21をコンパクトにすることができる。
【0056】
送出側流路69上であって好ましくはポンプ17,17Uに近接して、調圧弁が介在していてもよい。調圧弁は、加圧流体F2の流量を調節することができ、且つ流路抵抗を増大することがない。調圧弁から排出された作動油は、ストレーナ65を介することなく、ポンプ17,17Uに近接した位置において、吸入側流路66に回収せしめてもよい。かかる排出油はオイル溜り21Rにまで落下しないので、作動油の吸入に係る抵抗を増大することはない。
【0057】
ポンプ17,17Uに加えて、さらに他のポンプを追加してもよい。かかるポンプは、例えばポンプ17,17Uのシャフト18に連結してもよく、あるいは他のシャフトから駆動力を取り出してもよい。かかるポンプを利用することにより、ケーシング21内において潤滑油の循環を増大せしめ、各要素の冷却効率を高めることができる。
【0058】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
レイアウトの問題を解決する動力伝達装置が提供される。
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