【実施例1】
【0019】
まず、本発明である高放射線量率固体試料測定装置について説明する。
図1は、高放射線量率固体試料測定装置と従来の核種分析の流れを比較した図である。
図1(A)に示すように、測定装置100は、原子力発電所などの現場から高放射線量率の固体試料300を採取して、ガンマ線などの放射線を測定することにより核種分析などを行う装置である。なお、固体試料としては、スミヤ濾紙、ダスト濾紙、土壌などがある。
【0020】
図1(a)に示すように、現場で採取された固体試料300は、試料運搬容器200に収納される。試料運搬容器200は、線量の高い固体試料300を収容するので、周囲が鉛などで被覆され、蓋210をすることで遮蔽される。内部の放射線が外部へ透過しないように被覆を厚くするので、試料運搬容器200は相当な重量となる。
【0021】
図1(b)に示すように、従来においては、試料運搬容器200を鉄セル400aなど厚い壁で空間が隔離された遮蔽施設に搬入し、放射線の影響を受けないように、作業者が外部からマニプレータ等を操作して試料運搬容器200から固体試料300を取り出し、酸で溶解する等した上で希釈する。その希釈試料310は、マニプレータ等を操作して試料運搬容器200aに収納され、鉄セル400aから搬出される。
【0022】
現場において採取された高放射線量率の固体試料300は、鉄セル400aにおいて希釈されることで線量が低減される。しかし、現場から固体試料300と共に鉄セル400a内に入り込んだ放射性物質などの汚染物質は、希釈試料310と共に試料運搬容器200aに入る可能性がある。
【0023】
図1(c)に示すように、試料運搬容器200a内は、放射性物質などで汚染されている可能性があるので、気密されたグローブボックス500aで希釈試料310を測定容器320に移し替える。作業者が外部からグローブに手を通して試料運搬容器200aの蓋を開け、希釈試料310を取り出して測定容器320に入れる。
【0024】
図1(d)に示すように、測定容器320を遮蔽容器400bに収容して検出器600aで希釈試料310の放射能を測定する。遮蔽容器400bは、鉛などで被覆かつ密閉された容器で、外部からの放射線の影響を遮断することで、希釈試料310の放射線だけを検出器600で検出可能にする。検出器600aは、希釈試料310が測定容器320の底側にあることから、遮蔽容器400bの下側に配置されることが多い。
【0025】
希釈試料310は、放射線量が低減されていることから、検出器600aにおいて数え落としは発生しにくい。しかし、鉄セル400aなど大掛かりな施設を利用したり、試料の移し替えをしたり、作業に手間や工程を要するので、約1週間と時間が掛かる。
【0026】
図1(A)に示すように、本発明においては、現場で採取された固体試料300を収納した試料運搬容器200を、その外面を除染した上で、測定装置100に連結する。測定装置100は、放射線を遮断する遮蔽体400と、汚染物質の漏洩を防止する気密容器500とで、二重に遮蔽する。その上で、開閉ハンドル410で外部から試料運搬容器200を開け、検出器600で固体試料300の放射能を測定する。
【0027】
検出器600に入射する放射線をコリメータ610で調整し、さらに固体試料300と検出器600の間隔を確保することで、放射線を数え落とすことなく検出する。途中で大掛かりな施設を経由せず、また試料の移し替えもせずに、直接に測定可能となるので、検出器600に連結するまでに数分と短時間で済む。
【0028】
図2は、高放射線量率固体試料測定装置の概観を示す図である。
図3は、高放射線量率固体試料測定装置に試料運搬容器を搬入する状況を示す図である。
図4は、高放射線量率固体試料測定装置に試料運搬容器を連結した状態を示す図である。
図5は、高放射線量率固体試料測定装置において核種分析する状況を示す図である。
【0029】
図2に示すように、測定装置100は、高放射線量率の固体試料300を測定する装置であり、固体試料300を収納するために鉛で被覆された試料運搬容器200が着脱可能に連結され、試料運搬容器200から入った汚染物質が外部へ漏洩しないように密閉された気密容器500、固体試料300の放射線が外部へ漏洩しないように且つ外部からの放射線を遮断するために気密容器500の周囲を鉛で被覆した遮蔽体400、及び気密容器500を透過した遮蔽体400内の放射線量を測定可能に設置された検出器600等を有する。
【0030】
気密容器500は、アクリルやポリカーボネート等のプラスチック板で密閉された箱状の容器である。ガンマ線など一部の放射線、少なくとも測定対象の放射線は透過するが、放射性物質を含む所定の汚染物質の漏洩を防止する。試料運搬容器200と連結することにより、試料運搬容器200と気密容器500の内部が開通可能となり、試料運搬容器200内の汚染物質(固体試料300を含む)が気密容器500内に流入する。
【0031】
遮蔽体400は、放射線が透過する場所を塞ぐにように、気密容器500を含んで全体的に遮蔽材で被覆したものである。遮蔽材は、鉛や鉄などの厚い板であり、透過率に応じて厚みを持たせれば良い。遮蔽体400は、内部から外部へ人体に有害な放射線が放出されて作業者が被曝するのを防止すると共に、外部から内部へ余計な放射線が侵入して対象の放射線の測定に影響を及ぼすのを防止する。
【0032】
検出器600は、半導体などを用いた放射線検出器であり、例えば、半導体としてSi(シリコン)やGe(ゲルマニウム)などが用いられる。ガンマ線の核種分析などを行う場合は、時間応答性が比較的早くエネルギー分解能に優れたゲルマニウム半導体検出器などでスペクトル解析を行えば良い。
【0033】
遮蔽体400内に検出器600を入れて固体試料300を測定すると、検出器600が遮蔽体400内の汚染物質により汚染するおそれがあるが、気密容器500で二重に遮蔽することにより、検出器600の汚染が防止される。
【0034】
図3に示すように、現場で採取した固体試料300が収納された試料運搬容器200を搬入し、測定装置100まで運搬する。試料運搬容器200は、厚い鉛板などで覆われていると作業者230が手で運ぶには重いので、台車220等に載置しても良い。
【0035】
図4に示すように、試料運搬容器200を測定装置100の下側まで移動させ、気密容器500の下面に連結する。測定装置100は、試料運搬容器200を下側に配置するために、脚などによって地面から浮かせた状態にすれば良い。また、試料運搬容器200を連結する場所は、遮蔽体400を空けて気密容器500と連結可能、かつ連結後は遮蔽可能になっていれば良い。
【0036】
遮蔽体400内に検出器600を置いてしまうと、固体試料300などのセットにマニプレータ等を使用しなければならないが、試料運搬容器200を連結するだけで外部から操作可能にする。
【0037】
図5に示すように、試料運搬容器200は、固体試料300の収納時の蓋210とは別に気密容器500に連結されると開閉可能なダブルドア210aを備える。例えば、蓋210の中央部にダブルドア210aを設け、気密容器500の蓋210を封止した後は、気密容器500に連結するまではダブルドア210aが開かないようにすれば良い。
【0038】
また、測定装置100は、遮蔽体400の外部からの操作により、ダブルドア210aを開閉させる手段として開閉ハンドル410を備える。ダブルドア210aを開くことで、試料運搬容器200内と気密容器500内の空間が繋がる。作業者230が被曝することなく、試料運搬容器200を開閉することが可能となる。
【0039】
試料運搬容器200内の汚染物質や、固体試料300から放出される放射線620が、気密容器500内に入り込む。少なくとも測定対象の放射線620は、気密容器500を透過して遮蔽体400で止まるが、検出器600を配置するために空けた場所には到達する。放射線620が外部に曝露されることなく直接に測定可能である。
【0040】
なお、固体試料300と対向する位置に検出器600があれば、放射線620を検出しやすくなる。試料運搬容器200を測定装置100の下側に配置する場合は、検出器600を下向きにして遮蔽体400の上部に設置すれば良い。
【0041】
気密容器500及び遮蔽体400の内部空間により固体試料300と検出器600との距離が確保されることで、放射線620の数え落としは低減されるが、さらに放射線620の進路及び入射面積を制限するコリメータ610を設けても良い。
【0042】
コリメータ610は、粒子や波を平行にする機器であり、放射線の経路を調整することで、先の放射線を検出してから次の放射線を検出できるまでの分解時間内に放射線を数え落とさないようにする。固体試料300の放射能濃度が高い場合でも、希釈せずに直接測定することが可能となる。
【実施例2】
【0043】
遮蔽体400内に配置される気密容器500としてグローブボックスを用いても良い。
図6は、高放射線量率固体試料測定装置の気密容器をグローブボックスにした場合を示す図である。
【0044】
図6に示すように、測定装置100aは、気密容器500に代えてグローブボックス500aを設置する。グローブボックス500aは、アクリル等の透明なプラスチック板で密閉された箱体にゴム手袋のようなグローブを取り付けたグローブポート530を設けたものである。
【0045】
作業者230が外部からグローブポート530に手を通すことにより、グローブボックス500aの内部においてグローブを介して直接作業が可能となる。なお、グローブボックス500aは、感染力のある細菌やウイルス等の微生物類や汚染物質など、外気と遮断する必要のある場合に用いられることが多いが、ガンマ線など一部の放射線は遮蔽しない。
【0046】
グローブボックス500aに排気手段510を設けて内部を負圧に保つことで、汚染物質などの漏洩防止の効果を向上させても良い。なお、排気手段510には、汚染物質などが通過しないようにフィルタ520を設ける。
【0047】
また、遮蔽体400には、フィルタ520を交換するための交換用扉420や、作業者230がグローブポート530に手を通すためのポート用扉420aを設けても良い。グローブボックス500aにすることで、放射線の影響が少ない状態において、作業者230が汚染することなく内部点検することが可能となる。
【0048】
また、グローブボックス500aと遮蔽体400の間に空間を確保してカメラなどの撮影手段を設け、遮蔽体400の外部にカメラから送信した画像や映像を写すためのモニタを配置しても良い。なお、グローブボックス500aの気密を維持したままカメラを交換等するためのメンテ用扉で塞げば良い。
【実施例3】
【0049】
ガンマ線核種分析だけでなく、全アルファ放射能や全ベータ放射能の測定に適用しても良い。電磁波であるガンマ線は透過能力が高く、厚い鉛板で遮蔽する必要があるのに対し、ヘリウム4の原子核であるアルファ粒子は1枚の紙も透過できず、ベータ線の実態である電子はプラスチック板で遮蔽可能である。
【0050】
全アルファ放射能や全ベータ放射能においては、検出器600として比例計数管などを用いれば良い。なお、ストロンチウム90などを測定する場合は、固体試料300からストロンチウムを化学的に分離するなど前処理を施した上で、ベータ線を測定することになる。
【0051】
アルファ線やベータ線の飛程及び減衰を考慮すると、固体試料300と検出器600の距離を近接させる必要がある。特にアルファ線の場合、例えば検出器600を気密容器500に貫通させて設置するなど、固体試料300と検出器600の間を遮らないようにした上で気密性も担保する。
【0052】
また、試料運搬容器200の蓋210(ダブルドア210aを含む)をスライド状に開閉させたり、遮蔽体400を扁平化したりしても良い。さらに、含まれる固体試料300により、アルファ線及びベータ線の減衰を考慮した換算を行っても良い。
【0053】
本発明によれば、現場で採取した固体試料を希釈することなくそのまま半導体検出器で測定することができる。遮蔽性能と気密性能を兼ね備えたグローブボックスにおいて測定することにより、作業者被曝低減、放射性物質の内部取込防止、及び身体汚染防止も実現することができる。コリメータを使用し、固体試料と半導体検出器の間の距離を取ることで、放射線の数え落としを防止することができる。
【0054】
作業者にマニプレータ等を操作するための技能も不要となり、固体試料を希釈して移し替える必要はないので、測定開始までの時間を大幅に短縮することができる。特に原子力発電所の廃炉作業などにおいて迅速に放射能の分析結果を報告できるようになる。
【0055】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。例えば、半導体検出器の代わりにシンチレーション検出器などを用いても良い。