特許第6906227号(P6906227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6906227ハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物及び酸塩基複合触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906227
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】ハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物及び酸塩基複合触媒
(51)【国際特許分類】
   C07D 453/02 20060101AFI20210708BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   C07D453/02CSP
   B01J31/02 102Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-157780(P2017-157780)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2019-34908(P2019-34908A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年7月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会第97春季年会(2017)講演予稿集 発行者:公益社団法人日本化学会 発行日:平成29年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝義
(72)【発明者】
【氏名】鍬野 哲
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−145344(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第03168208(EP,A1)
【文献】 特開2008−163022(JP,A)
【文献】 特表2007−508361(JP,A)
【文献】 Rana, Nirmal K., et al.,Highly Enantioselective Organocatalytic Sulfa-Michael Addition to α,β-Unsaturated Ketones,Journal of Organic Chemistry,2010年,75(6),2089-2091
【文献】 Farooq, Umar, et al.,Synthesis of new enantiomerically pure organoiodine catalysts and their application in the α-functionalization of ketones,Synthesis,2010年,6,1023-1029
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物。
【化1】

(Rは、水素、メトキシ基、及び水酸である。R2は、ビニル基、アルキルである。)
【請求項2】
下記式(1)で示されるハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物を含むことを特徴とする酸塩基複合触媒。
【化1】

(Rは、水素、メトキシ基、及び水酸である。R2は、ビニル基、アルキルである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物及びこれを含む酸塩基複合触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なアミノ酸や糖等を基本構成単位とする生体高分子は、人間の体内で高度な不斉空間を構築しているため、この生体高分子を受容体とする医薬品も光学活性を有している必要がある。このような光学活性な物質を合成する方法は不斉合成法と呼ばれており、不斉合成法の中でも少量の不斉源から理論上無限の光学活性体を合成することが可能な触媒的不斉合成法は極めて重要なものとなっている。
【0003】
現在、有機分子触媒を用いた様々な触媒的不斉合成が達成されている。有機分子触媒の一種として、高い触媒活性を発現するために水素結合ドナー部位と有機塩基部位を組み込んだ酸塩基複合触媒が用いられている。先駆的な例として、水素結合ドナー/有機塩基複合触媒を用いた不斉マイケル反応の例が下記非特許文献1に記載されている。また、水素結合ドナー/有機塩基複合触媒を用いた不斉マンニッヒ反応の例が下記非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Okino, T.; Hoashi, Y.; Takemoto, Y. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 12672.
【非特許文献2】Zhijin, L.; Chen, X.; Wei, Z.; Zhiqiang, D.; Jianlin, H.; Yi, P. Chin. J. Chem. 2012, 60, 2333.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1の技術では触媒にチオ尿素が組み込まれており、上記非特許文献2の技術では水酸基が組み込まれている。チオ尿素や水酸基等は酸性官能基としてルイス塩基性部位を有する反応基質をスムーズに活性化できるが、一方でそのハード性から活性化できる基質にはハード性の高いものが多く、その適用範囲には限りもある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、ソフト性の強い有機ルイス酸であるハロゲン結合ドナーを導入した新たな酸塩基複合触媒の創製を目的とする。このような触媒を創製することで、既存の触媒では活性化の困難であったソフトな基質の活性化が可能となり、新たな医薬品候補化合物等の合成が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、シンコナアルカロイド由来の光学活性ジアミンと2,3,4,5−テトラフルオロ−6−ヨード安息香酸を縮合させることで、新規なハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物の創製に成功した。更に、その新規化合物を触媒として活用する一例として、マロノニトリル及びN−Bocイミンからのマンニッヒ生成物の製造にも成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明にて創製された複合型化合物及び触媒(有機分子触媒、酸塩基複合触媒)は、下記式(1)で示される。
【化1】
【0009】
シンコナアルカロイド(シンコニン、シンコニジン、キニーネ、キニジン)に由来する4パターンの立体化学を有し、Rは、水素、メトキシ基、及び水酸基等である。R2は、ビニル基、アルキル基等である。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によると、ハロゲン結合ドナー部位のソフトなルイス酸性により、既存の触媒では活性化の難しかったソフトな基質の活性化が可能となるため、本触媒をこれまでに未開拓であった反応に用いることができる。用いるシンコナアルカロイドの選択による反応場の調整に加え、R置換基の変更による電子的効果の調整や更なる水素結合ドナーの導入等を行うことで、目的の反応に応じた触媒を柔軟に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる様態で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(実施形態1)
本実施形態に係る化合物及び触媒は、上記化学式(1)で示されることを特徴とする。
【0013】
本実施形態に係る化合物及び触媒は、シンコナアルカロイド(シンコニン、シンコニジン、キニーネ、キニジン)に由来する4パターンの立体化学を有し、Rは、水素、メトキシ基、及び水酸基等である。R2は、ビニル基、アルキル基等である。
【0014】
本実施形態に係る触媒は様々な反応に用いることができると考えられ、限定されるわけではないが、マンニッヒ反応に好適に用いることができる。
【0015】
(化合物及び触媒の製造)
【0016】
まず、下記式(2)で示されるシンコナアルカロイドに対し、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、トリフェニルホスフィン、ジフェニルリン酸アジドを作用させる。続いて、トリフェニルホスフィン、水を順に加えることにより下記式(3)で示される、水酸基をアミノ基へと変換したシンコナアルカロイド誘導体を得ることができる。
【化2】

【化3】
【0017】
次に、上記式(3)で示されるシンコナアルカロイド誘導体に対し、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール存在の下、1−(3−ジメチルアミノプロピル) −3−エチルカルボジイミド塩酸塩と2,3,4,5−テトラフルオロ−6−ヨード安息香酸を作用させることで、上記(1)に示される化合物及び触媒を得ることができる。
【0018】
以上、本実施形態により、例えばマンニッヒ反応において広範な基質にて高い不斉収率を与える触媒を提供することができる。
【0019】
以下、上記実施形態の触媒について実際に作成し、その効果について確認を行った。以下説明する。
【0020】
(実施例)
本実施例では、下記式(4)で示される化合物及び触媒を作成し、それをマンニッヒ反応の触媒に用いた。
【化4】
【0021】
(化合物及び触媒の合成)
下記反応式(5)に従い、上記式(4)の合成を行った。
【化5】
【0022】
まず、上記反応式(5)に従い、キニジン(1.00g、3.08mmol)、トリフェニルホスフィン(1.10g、4.19mmol)を無水THF(15ml)に溶かし、氷浴につけて氷冷する。そこにアゾジカルボン酸ジイソプロピル(0.760mL、3.83mmol)を加える。続いて、無水THF(7ml)に溶かしたジフェニルリン酸アジド(0.810mL、3.73mmol)をゆっくりと加え、アルゴン雰囲気下、氷浴を除き、室温で18時間攪拌する。更に、50度に昇温して2時間攪拌する。その後、トリフェニルホスフィン(1.20g、4.36mmol)を加え、50度で2時間攪拌する(注意:発泡)。反応液を室温まで冷やし、蒸留水(0.350mL)を加えて室温で14時間攪拌する。その後、ジクロロメタンを加えて希釈し、pHが2になるまで1Nの塩酸水溶液をゆっくりと加える。水相をジクロロメタンで3度洗浄し、続いて10%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10にする。水相をジクロロメタンを用いて3度抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥したのち、減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒1:1:0.03 n−ヘキサン/酢酸エチル/トリエチルアミン)により精製し、白色固体状のキニジン誘導体を77%の収率で得た。
【0023】
次に、上記で得たキニジン誘導体(33mg、0.100mmol)に加え、2,3,4,5−テトラフルオロ−6−ヨード安息香酸(32mg、0.100mmol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル) −3−エチルカルボジイミド塩酸塩(20mg、0.100mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.6mg、0.003mmol)を無水ジクロロメタン(1ml)に溶かし、アルゴン雰囲気下、室温で8時間攪拌する。ジクロロメタンと蒸留水を加えて希釈して更に2時間攪拌し、有機相を硫酸ナトリウムにより乾燥したのち、減圧濃縮する。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展展開溶媒1:1:0.03 n−ヘキサン/酢酸エチル/トリエチルアミン)により精製し、上記式(4)に示す2,3,4,5−tetrafluoro−6−iodo−N−((R)−(6−methoxyquinolin−4−yl)((1S,2R,4S,5R)−5−vinylquinuclidin−2−yl)methyl)benzamide(A)の白色固体を75%の収率で得た。
(A)の機器データ:
H NMR(400 MHz, CDCl, 50 °C):δ 8.75(d,J=4.6Hz, 1H),8.04(d,J=9.4Hz,1H),7.58(br,1H),7.52(br,1H),7.47(d,J=4.6Hz,1H),7.39(dd,J=9.4,2.5Hz,1H),5.97(ddd,J=17.4,11.0,6.2Hz,1H),5.20−5.10(m,2H),3.98(s,3H),3.10−2.87(m,5H),2.37−2.31(m,1H),1.61−1.44(m,4H),1.11−1.05(m,1H);HRMS(ESI)calcd for C2725IN[M+H] 626.0922: found 626.0916.
【0024】
(マンニッヒ生成物の合成)
次に、この得られた化合物(4)を触媒として0.7mg用い、マロノニトリルとN−Bocイミンの不斉マンニッヒ反応を行った。
【0025】
上記の触媒(4)及びマロノニトリル26.4mgを反応容器に加え、無水クロロホルム2mLに溶かし、アルゴン雰囲気下、―50度まで冷やした。tert−butyl(E)−benzylidenecarbamate41.1mgを加えて―50度で32時間攪拌した。その結果、反応が93%進行し、マンニッヒ生成物のエナンチオ選択性が98%であった。この結果より、本発明の触媒の有用性を確認することができた。また、tert−butyl(E)−(2−bromobenzylidene)carbamateを基質に用いて反応を行った場合、反応は91%進行し、目的物は93%eeであった。さらにtert−butyl(E)−(2−methoxybenzylidene)carbamateを基質に用いて反応を行った場合、反応は80%進行し、目的物は96%eeであった。
【化6】
【0026】
以上、本実施例により本触媒の効果を確認することができ、広範な基質において高い不斉収率を与える触媒を提供することができるのを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明にかかる「ハロゲン結合ドナー部位と有機塩基部位を併せ持つハロゲン結合ドナー/有機塩基複合型化合物」は、有機分子触媒(酸塩基複合触媒)として有用であり、本発明は産業上の利用可能性がある。