(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906256
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】医療検査用カセット
(51)【国際特許分類】
G01N 1/36 20060101AFI20210708BHJP
【FI】
G01N1/36
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-97304(P2020-97304)
(22)【出願日】2020年6月3日
(62)【分割の表示】特願2016-18085(P2016-18085)の分割
【原出願日】2016年2月2日
(65)【公開番号】特開2020-144150(P2020-144150A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2020年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】591242450
【氏名又は名称】村角工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】村角 英彦
【審査官】
川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−515926(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0166834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/36
G01N 1/00−1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きに開口した方形の容器で底部に多数の透孔を有し、かつ検体を収容可能なカセット本体と、多数の透孔を有する蓋体からなる医療検査用カセットであって、
カセット本体及び蓋体の透孔の近傍に突起が検体と透孔との間に隙間を形成して検体と透孔との密着を防ぐようにカセットの内側に向かって突設されていることを特徴とする医療検査用カセット。
【請求項2】
突起が点状突起であることを特徴とする請求項1に記載の医療検査用カセット。
【請求項3】
点状突起の底面積の最長部が透孔の最長部よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の医療検査用カセット。
【請求項4】
点状突起が鋭角部を有しない形状からなることを特徴とする請求項2又は3に記載の医療検査用カセット。
【請求項5】
点状突起が半球状、半楕円球状、円柱状、楕円柱状、円錘状、楕円錘状から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査用顕微鏡標本の作製に使用する医療検査用カセットに係り、更に詳しくは、医療検査用カセットと検体が密着するのを防ぎ、薬液処理を好適に行うことができる医療検査用カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の医療検査用カセット(以下、単にカセットと称することがある)は、
図11および
図12に示すように、耐薬品性合成樹脂からなるカセット本体C1と蓋体C2とを具備してなる。カセット本体C1は、上面を開放した方形の容器で、底面部に多数の透孔C3を有し、短辺側の一側壁の外側に底面部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部Rを設けている。蓋体C2は、カセット本体C1に着脱可能な板状体で、板面に多数の透孔C3を有している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記カセットCを使用して顕微鏡標本を作製するには、まず、
図12に示すように、採取した検体Sをカセット本体C1内に収容して蓋体C2を取り付ける。
【0004】
続いて、透孔C3を通じて、検体Sを水洗し、アルコールにより検体Sの水分を除去し、キシレンにより検体Sの脂肪分を除去するとともに後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
【0005】
次に、
図13に示すようなステンレス製の包埋トレイ(以下、単にトレイと称することがある)T内に液状パラフィンPを入れ、検体Sをカセット本体C1から取り出して前記トレイTの中に移し替え、トレイTの中で検体Sに液状パラフィンを浸透させる。続いて、トレイTの段部にカセット本体C1を載せ、カセット本体C1の底面部が液状パラフィンPに浸るまで、液状パラフィンPを検体S上に注ぎ足す(
図14参照)。
【0006】
液状パラフィンPが固化した後トレイTを取り去ることにより、検体Sを包埋したパラフィンPがカセット本体C1の底面部に付着してなるパラフィンブロックBを得る(
図15参照)。
【0007】
次に、図示しないが、ミクロトーム上にパラフィンブロックを裏返して載せて、ミクロトームに設置されたアダプターをパラフィンブロックに係合することにより、パラフィンブロックをミクロトームに固定する。続いて、パラフィンPの検体Sを包埋した部分をスライスし、得られた薄片に染色、その他の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得るのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−333135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の方法でパラフィンブロックを作成する際、採取した検体Sがカセット本体C1の底面部に密着するため底面部の透孔C3を塞ぎ、また検体Sが大きい場合には検体Sがカセットの内面と密着するため、カセット本体C1の透孔C、又はカセット本体C1と蓋体C2の透孔C3を塞ぎ、薬液の流入・流出が阻害され、その結果、薬液処理に時間が掛かかり効率が低下したり、薬液処理が不均一になることがある。
【0010】
そこで、本発明は上記従来のカセットの問題点を解消し、検体Sがカセット本体C1の底面部に密着し底面部の透孔C3を塞ぐことがなく、また、大きな検体を収容した場合でも、カセット本体C1と蓋体C2の透孔C3を塞ぐことがないカセットについて鋭意研究の結果、透孔の近傍に突起を設ければ検体とカセットが密着しないので透孔が塞がることがなく、薬液処理が効率的且つ均一に行われるとの着想を得て、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、上向きに開口した方形の容器で底部に多数の透孔を有し、かつ検体を収容可能なカセット本体と、多数の透孔を有する蓋体からなり、カセット本体及び蓋体の透孔の近傍に突起が
検体と透孔との間に隙間を形成して検体と透孔との密着を防ぐようにカセットの内側に向かって突設されている医療検査用カセットを内容とする。
【0012】
本発明の更に別の特徴は、突起が点状突起である上記の医療検査用カセットを内容とする。
【0013】
本発明の別の特徴は、点状突起の底面積の最長部が透孔の最長部よりも小さい上記の医療検査用カセットを内容とする。
【0014】
本発明の更に別の特徴は、点状突起が鋭角部を有しない形状からなる上記の医療検査用カセットを内容とする。
【0015】
本発明の更に別の特徴は、点状突起が半球状、半楕円球状、円柱状、楕円柱状、円錘状、楕円錘状から選ばれる少なくとも1つである上記の医療検査用カセットを内容とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医療検査用カセットは、透孔の近傍に突起が設けられているため、検体が該突起に支えられてカセット本体の底面及び/又は蓋体の裏面との間に隙間が形成されるので、底面部及び/又は蓋体の透孔を塞ぐことがなく、また、検体が大きく、即ち、底面部と蓋体とに接するような場合でも、底面部及び/又は蓋体に設けた突起により、検体とカセット本体の底面部との間、及び/又は、検体と蓋体の裏面との間に隙間が形成されるので、薬液の流入・排出が妨げられることがなく、薬液処理が効率的且つ均一に行われる。
【0017】
また、突起を点状突起とすれば、突起と検体の接触面積を小さくでき、その結果、薬液と検体との接触面積を大きくすることができるので薬液処理が効果的に行われる。
【0018】
また、突起を点状突起の底面積の最長部を透孔の最長部よりも小さくすれば、突起自体
が薬液の流路を塞がないので、薬液処理がさらにスムーズになる。
【0019】
点状突起としては、鋭角部を有しない形状である半球状、半楕円球状、円柱状、楕円柱状、円錐状、楕円錐状から選ばれることにより、これらの突起は鋭角部を有しないので、薬液をスムーズに流入又は排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の医療検査用カセットで使用できるカセット本体の例を示す平面図である。
【
図4】
図4は
図1のカセット本体に通常の蓋体を組み合わせて本発明の医療検査用カセットとした例を示す断面図である。
【
図5】
図5は本発明の医療検査用カセットの蓋体の例を示す底面図である。
【
図7】
図7は
図6の蓋体に通常のカセット本体を組み合わせて本発明の医療検査用カセットとした例を示す断面図である。
【
図8】
図8は
図1のカセット本体と
図5の蓋体を組み合わせて本発明の医療検査用カセットとした例を示す断面図である。
【
図9】
図9は本発明の医療検査用カセットの別例を示す斜視図である。
【
図12】
図12は従来のカセットに検体を収容した状態を示す断面図である。
【
図14】
図14はパラフィンブロックの作成方法を示す断面図である。
【
図15】
図15は得られたパラフィンブロックを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、上向きに開口した方形の容器で底部に多数の透孔4を有するカセット本体2と、多数の透孔4を有する蓋体3からなる医療検査用カセット1であって、カセット本体2及び/又は蓋体3の透孔4の近傍に突起5がカセット1の内側に向かって突設されていることを特徴とする。
【0022】
本発明の医療検査用カセット1は、カセット本体2と蓋体3からなる。
【0023】
本発明において、カセット本体2は上向きに開口する方形の容器であり、
図1や
図3に示したように、底部に多数の透孔4を有する。この透孔4はカセット本体2内に収容した検体Sを薬液処理するために必要な薬液をカセット本体2内に導入し、さらに検体Sを処理した薬液をカセット本体2外に排出するためのものである。カセット本体2の透孔4は、必要に応じ、底部のみならずカセット本体2の側部にも設けることができる。
【0024】
図1に示した実施例において、透孔4の形状は方形であるが、薬液が流入又は排出でき薬液処理ができる限りその形状については特に限定されず、例えば円形、楕円形、三角形等の多角形であってもよい。
【0025】
本発明における蓋体3は、前記のカセット本体2における上向きの開口に被着するためのものであり、カセット本体2の底部と同様、検体Sを薬液処理するための多数の透孔4を有する(
図5参照)。
【0026】
図5に示した例において、蓋体3は矩形状であり、裏面(内側)にカセット本体2の開口部に内嵌め式に被着されるリブが設けられた構造が採用されているが、本発明において蓋体3の形状やカセット本体2への取り付け構造は特に限定されず、この種の医療検査用カセット1において用いられ得る形状や構造が、本発明においても全て好適に適用するこ
とができる。
【0027】
本発明は、本発明のカセット本体2及び/又は蓋体3の透孔4の近傍に突起5が設けられていることを特徴とする。なお、全ての透孔4の近傍に突起5が設けられている必要はなく、一部の透孔4の近傍に突起が設けられていれば足りる。但し、少なくともカセット本体2の底部及び/又は蓋体3の裏面の一部の透孔4(例えば透孔4全体の10%以上)の近傍に設けられているのが好ましく、カセット本体2の底部又は蓋体3に設けられた殆どの透孔4(例えば透孔全体90%以上)の近傍に設けられていればさらに好ましく、カセット本体2及び蓋体3に設けられた殆ど全ての透孔4の近傍に設けられていれば、検体Sを支え透孔4との間に隙間を形成できる点で最も好ましい。
【0028】
突起5はカセット1の内側に向かって突設される。即ち、カセット本体2の場合は、その底部上面に上向きに突設され、蓋体3の場合は、その裏面に下向きに突設される。尚、上向き又は下向きとは、必ずしも真上の方向又は真下の方向に限られず、検体Sを支え透孔4との間に隙間が形成できればよいので斜め方向であってもよい。
【0029】
図1乃至
図4に示されるカセット本体1の例においては、突起5はカセット本体2の底部の上面から上向きに突設されている。さらに説明すれば、突起5は透孔4の近傍であって、縦桟と横桟が交差する部分に突設されている。このようにすれば、検体Sが突起5に支えられ、検体Sと底部の0孔4との間に隙間が形成され、検体Sがカセット本体2に設けられた透孔4と密着しないため、薬液の流入・排出がスムーズであり、薬液処理が好適に行われる。
【0030】
図5乃至
図7は、蓋体3に突起5を設けた例であるが、突起5は蓋体3の裏面から下向きに突設されている。このようにすれば、検体Sが蓋体3の裏面に接する程度に大きな場合であっても、
図7に示すように、突起5により検体Sと蓋体3の透孔4との間に隙間が形成されるため蓋体3に設けられた透孔4と検体Sとが密着することがなく、薬液の流入・排出がスムーズであり、薬液処理が好適に行われる。
【0031】
突起5は、
図8に示すように、カセット本体2と蓋体3の両方に設けるのが好ましい。この場合は、
図8に示すように、検体Sが蓋体3の裏面に接するような大きな場合であっても、検体Sと蓋体3との間、及び検体Sとカセット本体2との間に隙間が形成され、薬液はカセット1の表側(上側)から裏側(下側)へ、又は裏側(下側)から表側(上側)に流入又は排出しやすくなり、薬液処理の効率は著しく向上する。
【0032】
本発明において、カセットはカセット本体2と蓋体3からなり、透孔4が設けられている限り、特に限定されない。例えば
図9、
図10には、傾斜状の記録部がないタイプのカセット1のカセット本体2及び蓋体3に内向きの突起5を設けた例が示されている。
【0033】
突起5の形状については特に限定されないが、薬液の透孔4への流入や透孔4からの排出を妨げないようにするため、突起5としては、点状突起が好ましい。点状突起の形状については特に制限されないが、鋭角部を有しない形状からなるのが好ましい。例えば、半球状、半楕円球状、円柱状、楕円柱状、円錘状、楕円錘状等が好適である。このような突起5は鋭角部を有しない形状からなるので、薬液との接触抵抗が小さく、薬液をスムーズに流入・排出させることができる。また、突起5の大きさは特に限定されないが、薬液の流入・排出及び検体Sの支持の観点から、突起5の底面積の最長部は透孔4の最長部(例えば、透孔4が円形の場合は直径、透孔4が方形の場合は対角線)よりも小さいのが好ましく、また透孔4の十分の一よりも大きくするのが好ましい。突起5の高さについては、透孔4の最長部よりも小さく、且つ透孔4の最長部の十分の一よりも大きくするのが好ましい。
【0034】
突起5を設ける位置については、透孔4の近傍であり、透孔4が縦横に規則正しく配列されている場合は、縦桟と横桟が交差する位置に突起5を設ければ、検体Sと透孔4の密着を好適に防ぐだけでなく、突起5が薬液の流入や排出を妨げないため好ましい。
【0035】
本発明のカセット本体2及び蓋体3には、通常のカセット本体2や蓋体3に設けられている構造、例えば記録部や蓋体3との係合構造などを、本発明の効果を損なわない限り自由に設計することができる。
【0036】
本発明において、カセット本体2及び蓋体3の材質は耐薬品性を有する硬質部材である限り特に限定されないが、成形性及び軽量性の観点から樹脂製とするのが好ましい。
【0037】
本発明で使用できる樹脂の例としては、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン- スチレン共重合樹脂)、AAS樹脂(アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル/エチレンプロピレンゴム/スチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン樹脂)、PS樹脂(ポリスチレン樹脂)、PMMA樹脂(ポリメチルメタクリレート樹脂)、PVC樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂)、PVDC樹脂(ポリ塩化ビニリデン樹脂)、MS樹脂(メチルメタクリレート/スチレン樹脂)、PP樹脂(ポリプロピレン樹脂)、PE樹脂(ポリエチレン樹脂)、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)およびPC樹脂(ポリカーボネート樹脂)等が挙げられる。また、天然樹脂も使用できる。
【0038】
更に、環境に優しいポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリアミド11、ポリヒドロキシ酪酸等の生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
叙上のとおり、本発明の医療検査用カセットによれば、検体Sが突起により支えられ、検体Sとカセット本体及び/又は蓋体の透孔との間に隙間が形成されるので検体と透孔とが密着せず、特に、大きな検体を収容した場合でも検体と透孔とが密着しないので薬液の流入や排出が妨げられず、薬液処理が短時間で且つ均一に行われ、検査精度の高い医療検査用カセットを提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 医療検査用カセット
2 カセット本体
3 蓋体
4 透孔
5 突起
S 検体
C 従来の医療検査用カセット
C1 カセット本体
C2 蓋体
C3 透孔
R 記録部
T 包埋トレイ
P パラフィン
B パラフィンブロック