(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0007】
従来の整合素子ユニットは、主整合素子109および副整合素子111という複数の部材によって構成される。そのため、これら複数の部材をマジックT型導波管101の内部における適切な位置にそれぞれ配設させるに時間と労力を要する。その結果、インピーダンスが整合されたマジックT型導波管101の製造コストが高くなる。
【0008】
さらに従来の整合素子ユニットにおける主整合素子109は、ベース部113とE面分岐導波管107の内部へ延びるように突出する突出部114とが組み合わされた構成となっている。そのため、主整合素子109は全体として上方に突出する円錐状となっており、主整合素子109の高さは主導波管103の高さより高くなるように構成される。
【0009】
主整合素子109が配設されない場合、E面分岐導波管107における絶縁距離は
図16において符号L1で示す距離、すなわちE面分岐導波管107の一方の壁面から他方の壁面までの距離である。一方、主整合素子109が配設される場合、E面分岐導波管107における絶縁距離は符号L2で示す距離、すなわちE面分岐導波管107の一方の壁面から突出部114の先端までの距離となる。主整合素子109が配設されることによって、絶縁距離はL1からより短いL2となるので、突出部114の先端部において放電が発生しやすくなるという問題が懸念される。特に突出部114の先端部が円錐形を例とする先鋭な形状である場合、コロナ放電などに起因して放電がより発生しやすくなる。
【0010】
さらに、従来の主整合素子109の高さは主導波管103の高さより高いので、主整合素子109をマジックT型導波管101に配設させることが難しいという問題も懸念される。すなわちベース部113と突出部114とを一体とした状態では主整合素子109が主導波管103の内部を通らないので、主整合素子109をベース部113のパーツと突出部114のパーツとに分離させなければ主整合素子109をマジックT型導波管101に配設させることができない。
【0011】
すなわち主整合素子109をマジックT型導波管101に配設させるには、ベース部113のパーツを主導波管103に通して分岐部Tに固定させた後、突出部114のパーツをE面分岐導波管107に通して分岐部Tへと案内させ、突出部114をベース部113に接合させるという操作が必要になる。このように従来のマジックT型導波管101は整合素子ユニットの構造および整合素子ユニットを配設する操作が複雑であるので、マジックT型導波管101の製造コストが上昇するとともに製造に要する工程が長期化する。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、放電の発生を確実に回避しつつインピーダンスを整合させることを可能とし、さらに製造がより容易である導波管型分配合成器、整合器、および移相器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る導波管型分配合成器は、一端に第1ポートを有し他端に第2ポートを有する第1の導波管と、一端に第3ポートを有し、他端は前記第1の導波管の長さ方向の中間部であって前記第1の導波管のE面に接続される第2の導波管と、一端に第4ポートを有し、他端は前記第1の導波管の長さ方向の中間部であって前記第1の導波管のH面に接続される第3の導波管と、前記第1の導波管の長さ方向の中間部に配置され、前記第1ポートと前記第2ポートと前記第3ポートと前記第4ポートとの間におけるインピーダンスを整合させる整合素子と、を備え、前記整合素子は、前記第1の導波管の幅方向において、前記第1の導波管の中心から前記第2の導波管に近づく方向へ所定の距離だけ離れた位置に配置されており、前記第1の導波管の高さより低い柱状の構造を有することを特徴とするものである。
【0014】
当該構成において、第1の導波管の高さより低い柱状の構造を有する整合素子を、第1の導波管の幅方向において第1の導波管の中心から当該第1の導波管のE面に接続される第2の導波管に近づく方向へ所定の距離だけ離れた位置に配置する。このように、E面に接続される第2の導波管に近づく方向へシフトした位置に整合素子を配置することにより、単一の部材からなる整合素子を用いて導波管型分配合成器のインピーダンスを整合させることができる。
【0015】
すなわち従来の装置ではインピーダンスを整合させるためには複数の部材から構成される整合素子ユニットを必要とする一方、本発明に係る導波管型分配合成器では単一の部材である整合素子を用いるので、導波管型分配合成器に整合素子を配設する際に複数の部材を組み合わせる過程を行う必要がない。また複数の部材の各々を導波管型分配合成器に配設させるという複数回の過程を行う必要もない。そのため、整合素子を備える導波管型分配合成器を迅速かつ低コストで製造することができる。
【0016】
そして、整合素子は直方体を例とする柱状部材であり、整合素子の高さは第1の導波管の高さより低く、第3の導波管に先鋭な突出部が存在しない。よって、第3の導波管における絶縁距離が短くなるという事態が発生することを回避できる。従って、第3の導波管の内部に先鋭な突出部が存在しないように構成することにより、導波管型分配合成器の内部で絶縁距離が短いことによって生じる放電や、先鋭な部分で生じるコロナ放電が発生することを防止できる。
【0017】
また、上述した発明において、前記第1の導波管における電磁波の管内波長をλ
gとした場合、前記第1の導波管の管軸方向における前記整合素子の寸法であるdxは、第1条件「0.30λ
g≦dx≦0.40λ
g」を満たし、前記第1の導波管の幅方向における前記整合素子の寸法であるdyは、第2条件「0.15λ
g≦dy≦0.25λ
g」を満たし、前記第1の導波管の高さ方向における前記整合素子の寸法であるdzは、第3条件「0.05λ
g≦dz≦0.15λ
g」を満たし、前記所定の距離であるkyは、第4条件「0.15λ
g≦ky≦0.25λ
g」を満たすことが好ましい。
【0018】
[作用・効果]本発明に係る導波管型分配合成器によれば、整合素子の寸法と整合素子を第1の導波管の中心から第2の導波管に近づく方向へシフトさせる所定の距離とについて、第1条件ないし第4条件を満たすように構成されることによって、導波管型分配合成器のインピーダンスをより精度よく整合させることができる。
【0019】
また、上述した発明において、前記整合素子は、鋭角または直角である部分を有しない形状となるように構成されることが好ましい。
【0020】
[作用・効果]本発明に係る導波管型分配合成器によれば、高さが低い柱状の整合素子は鋭角または直角である先鋭な部分が存在しない。このような構成の整合素子を用いることにより、先鋭な部分においてコロナ放電が発生することを抑制できる。従って、整合素子を備える導波管型分配合成器において放電が発生することをより確実に防止できる。
【0025】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち、本発明に係る導波管型分配合成器を備える整合器であって、前記第2の導波管の内部に設けられており前記第2の導波管の管軸方向に移動可能に配置されたHプランジャと、前記第3の導波管の内部に設けられており前記第3の導波管の管軸方向に移動可能に配置されたEプランジャと、反射係数と位相とを検出する反射係数検出部と、前記反射係数検出部が検出する前記反射係数および前記位相を用いて、前記第1ポートに接続されている電磁波供給源と前記第2ポートに接続されている負荷との間のインピーダンスが整合するような前記Hプランジャの位置と前記Eプランジャの位置との組み合わせを算出するプランジャ位置算出部と、前記プランジャ位置算出部が算出した前記Hプランジャの位置と前記Eプランジャの位置との組み合わせに基づいて前記Hプランジャおよび前記Eプランジャを移動させるプランジャ移動機構と、を備えることを特徴とするものである。
【0026】
[作用・効果]本発明に係る整合器によれば、第1の導波管の中心から第2の導波管に近い側へシフトした位置に、第1の導波管の高さより低い柱状の整合素子が配設されている。そのため、整合器が備える導波管型分配合成器のインピーダンスは、整合素子によって適切に整合される。よって、導波管型分配合成器におけるインピーダンスの不整合に起因して整合器における整合不良が発生するという事態を、整合素子の配設によってより確実に回避できる。
【0027】
また、第1の導波管より低い高さの整合素子を用いるので、導波管型分配合成器において放電が発生することをより確実に防止できる。そして、単一の部材である整合素子を用いるので、導波管型分配合成器に整合素子を配設する際に複数の部材を組み合わせる過程を行う必要がない。また複数の部材の各々を導波管型分配合成器に配設させるという複数回の過程を行う必要もない。従って、本発明に係る導波管型分配合成器を用いることにより、より精度良く整合をとることができる整合器をより低コストで実現できる。
【0028】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち、本発明に係る導波管型分配合成器を備える移相器であって、前記第2の導波管の内部に設けられており前記第2の導波管の管軸方向に移動可能に配置されたHプランジャと、前記第3の導波管の内部に設けられており前記第3の導波管の管軸方向に移動可能に配置されたEプランジャと、前記第1ポートにおける電磁波の反射を抑えつつ、前記第1ポートから前記第2ポートへと伝送される電磁波の位相を所定値に変更できるような前記Hプランジャの位置と前記Eプランジャの位置との組み合わせを算出するプランジャ位置算出部と、前記プランジャ位置算出部が算出した前記Hプランジャの位置と前記Eプランジャの位置との組み合わせに基づいて前記Hプランジャおよび前記Eプランジャを移動させるプランジャ移動機構と、を備えることを特徴とするものである。
【0029】
[作用・効果]本発明に係る移相器によれば、第1の導波管の中心から第2の導波管に近い側へシフトした位置に、第1の導波管の高さより低い柱状の整合素子が配設されている。そのため、移相器が備える導波管型分配合成器のインピーダンスは、整合素子によって適切に整合される。よって、導波管型分配合成器におけるインピーダンスの不整合に起因して移相器における整合不良が発生するという事態を、整合素子の配設によってより確実に回避できる。
【0030】
また、第1の導波管より低い高さの整合素子を用いるので、導波管型分配合成器において放電が発生することをより確実に防止できる。そして、単一の部材である整合素子を用いるので、導波管型分配合成器に整合素子を配設する際に複数の部材を組み合わせる過程を行う必要がない。また複数の部材の各々を導波管型分配合成器に配設させるという複数回の過程を行う必要もない。従って、本発明に係る導波管型分配合成器を用いることにより、より精度良く位相を変更させることができる移相器をより低コストで実現できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る導波管型分配合成器、整合器、および移相器によれば、第1の導波管の高さより低い柱状の構造を有する整合素子を、第1の導波管の幅方向において第1の導波管の中心から当該第1の導波管のE面に接続される第2の導波管に近づく方向へ所定の距離だけ離れた位置に配置する。このように、E面に接続される第2の導波管に近づく方向へシフトした位置に整合素子を配置することにより、単一の部材からなる整合素子を用いて導波管型分配合成器のインピーダンスを整合させることができる。
【0032】
すなわち従来の装置ではインピーダンスを整合させるためには複数の部材から構成される整合素子ユニットを必要とする一方、本発明に係る導波管型分配合成器では単一の部材である整合素子を用いるので、導波管型分配合成器に整合素子を配設する際に複数の部材を組み合わせる過程を行う必要がない。また複数の部材の各々を導波管型分配合成器に配設させるという複数回の過程を行う必要もない。そのため、整合素子を備える導波管型分配合成器を迅速かつ低コストで製造することができる。
【0033】
そして、整合素子は直方体を例とする柱状部材であり、整合素子の高さは第1の導波管の高さより低い。よって、整合素子を導波管型分配合成器の内部に配設することに起因して、第1の導波管などの各導波管における絶縁距離が短くなるという事態が発生することを回避できる。従って、整合素子の配設に起因して導波管型分配合成器の内部で放電が発生することを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0035】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は実施例1に係る導波管型分配合成器1の斜視図であり、
図2は実施例1に係る導波管型分配合成器1のA−A断面図である。
図3は実施例1に係る導波管型分配合成器1のB−B断面図である。
図3は実施例1に係る導波管型分配合成器1のC−C断面図である。
【0036】
<全体構成の説明>
実施例1に係る導波管型分配合成器1は、いわゆるマジックT構造を有するマジックT型導波管であり、分岐が電界面に平行に出るE面分岐導波管と磁界面に平行に出るH面分岐導波管とを組み合わせた導波管である。導波管型分配合成器1は
図1に示すように、x方向に延びる主導波管3と、y方向に延びるH面分岐導波管5と、z方向に延びるE面分岐導波管7と、整合素子9とを備えている。
【0037】
主導波管3は、一端側に第1ポート11を備えており、他端側に第2ポート12を備えている。H面分岐導波管5は、一端側に第3ポート13を備えている。H面分岐導波管5の他端側は、主導波管3の長さ方向(x方向)の中間部において主導波管3のE面に接続されている。E面分岐導波管7は、一端側に第4ポート14を備えている。E面分岐導波管7の他端側は、主導波管3の長さ方向の中間部(分岐部T)において主導波管3のH面に接続されている。
【0038】
主導波管3、H面分岐導波管5、およびE面分岐導波管7は、いずれも角形導波管であり、縦断面が矩形となっている。
図5は、主導波管3の縦断面を示している。主導波管3において、電界面に平行な側壁であるE面を符号Seで示しており、磁界面に平行な側壁であるH面を符号Shで示している。すなわち、実施例1では主導波管3の側壁のうち長辺側がH面Shに相当し、短辺側がE面Seに相当する。
【0039】
実施例1において、主導波管3、H面分岐導波管5、およびE面分岐導波管7の内部の寸法はいずれも等しく、
図2ないし
図5に示すように長辺の長さがaとなるように構成されており、短辺の長さがbとなるように構成されている。長辺の長さaは、80mm以上100mm以下であることが好ましい。実施例1では主導波管3、H面分岐導波管5、およびE面分岐導波管7として、長辺の長さaが96mmであり短辺の長さbが27mmである導波管を用いるものとする。
【0040】
なお実施例1に係る導波管型分配合成器1において、主導波管3は本発明における第1の導波管に相当する。H面分岐導波管5は本発明における第2の導波管に相当する。E面分岐導波管7は本発明における第3の導波管に相当する。
【0041】
整合素子9は主導波管3の分岐部Tに配設されており、ネジなどの固定具によって分岐部Tの底面に固定されている。整合素子9は、主導波管3、H面分岐導波管5、およびE面分岐導波管7における各々のポートのインピーダンスを整合させる。整合素子9を構成する好ましい材料としては、アルミニウムまたは銅などを例とする電気抵抗率が低い金属が挙げられる。また、整合素子9は全体としてx方向の長さがy方向の長さより長い柱状となるように構成されている。また、整合素子9の高さは、主導波管3の高さより低くなるように構成されている。実施例1において整合素子9はx方向を長手方向とする直方体となっている。
【0042】
分岐部Tにおいて柱状の整合素子9が配設される位置は、
図3および
図4などに示すように、主導波管3の幅方向(y方向)において主導波管3の中心BsからH面分岐導波管5に近い側へ離れた位置(シフトした位置)となるように構成されている。すなわち平面視における整合素子9の中心Bpは、y方向における主導波管3の中心BsからH面分岐導波管5に近づくようにy方向へシフトしている。なお、整合素子9の中心Bpが主導波管3の中心Bsからy方向にシフトする距離をシフト距離kyとする。
【0043】
実施例1の導波管型分配合成器1では、マイクロ波を例とする電磁波が主導波管3の第1ポート11から入力された場合、当該電磁波は分岐部TにおいてH面分岐導波管5およびE面分岐導波管7へと分配され、第3ポート13および第4ポート14から出力される。電磁波がH面分岐導波管5の第3ポート13から入力された場合、当該電磁波は第1ポート11および第2ポート12へと同相で分配される。電磁波がE面分岐導波管7の第4ポート14から入力された場合、当該電磁波は第1ポート11および第2ポート12へと逆相で分配される。電磁波が分配される際において、H面分岐導波管5に近づくように中心Bsからy方向へシフトしている整合素子9によって、入力側と出力側のインピーダンスが整合される。
【0044】
<整合素子の寸法および配置>
ここで導波管型分配合成器1において、整合素子9の寸法および整合素子9が配置される位置について、インピーダンスをより好適に整合できる条件を説明する。ここで、x方向における整合素子9の寸法(長さ)をdxとし、y方向における整合素子9の寸法をdyとし、z方向における整合素子9の寸法をdzとする。
【0045】
また
図5に示すように、主導波管3の内部における長辺の長さをaとし、短辺の長さをbとする。すなわち、主導波管3の幅方向における内径の長さがaに相当し、主導波管3の高さ方向(z方向)における内径の長さがbに相当する。なお上述したように、実施例1では主導波管3、H面分岐導波管5、およびE面分岐導波管7の各導波管について、内部の寸法はいずれも同じとなるように構成されている。また、長辺の長さaは80mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0046】
各導波管における管内波長をλ
gとすると、導波管型分配合成器1のインピーダンスが好適に整合されるような整合素子9の寸法及び位置とは以下の通りである。各方向における整合素子9の寸法dx、dy、dz、および整合素子9のシフト距離kyの各々が以下の(A)ないし(D)で示される条件を満たす場合、整合素子9によって導波管型分配合成器1のインピーダンスが特に好適に整合される。
0.30λ
g≦dx≦0.40λ
g ……(A)
0.15λ
g≦dy≦0.25λ
g ……(B)
0.05λ
g≦dz≦0.15λ
g ……(C)
0.15λ
g≦ky≦0.25λ
g ……(D)
【0047】
ここで、主導波管3など各導波管における電磁波の管内波長λ
gは導波管の長辺の長さaと自由空間波長λ
0とを用いて、以下の数式によって求められる。
【0048】
【数1】
【0049】
なお、自由空間波長λ
0は、光速度cと伝送させる電磁波の周波数fとを用いて以下の(E)で示される式を用いて求められる。
λ
0=c/f ……(E)
【0050】
なお寸法およびシフト距離が上記の(A)ないし(D)で示される条件を満たす整合素子9を用いることにより導波管型分配合成器1のインピーダンスが特に好適に整合されるという点において、伝送させる電磁波の周波数fは2.4GHz以上2.5GHz以下であることが好ましい。同様の理由により、主導波管3など各導波管における長辺の長さaは80mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0051】
なお、上記の(A)で示される式は本発明における第1条件に相当する。上記の(B)で示される式は本発明における第2条件に相当する。上記の(C)で示される式は本発明における第3条件に相当する。上記の(D)で示される式は本発明における第4条件に相当する。
【0052】
また、整合素子9のz方向における寸法dz(整合素子9の高さdz)は、主導波管3の短辺の長さb(主導波管3の高さb)の1/3以上2/3以下であることが好ましい。実施例1では、整合素子9の高さdzは主導波管3の高さbの1/2となるように構成されている。
【0053】
<実施例1の構成による効果>
実施例1では各導波管の内径の長さなどの各種条件に応じて、整合素子9の寸法dx、dy、dz、および整合素子9のシフト距離kyを調整することにより、単一の部材である整合素子9を用いて導波管型分配合成器1のインピーダンスを好適に整合させることができる。
【0054】
従来、マジックT型の導波管型分配合成器を例とする、主導波管とE面分岐導波管とH面分岐導波管とを備える導波管型分配合成器では分岐部において整合素子を配設させる場合、
図16および
図17に示すように、主導波管103の中心からH面分岐導波管105と逆側に整合素子(主整合素子109)を配設させる。
【0055】
しかし、従来のマジックT型導波管101では整合素子を分岐部に配設するだけではインピーダンスの整合性を十分に向上させることが困難であった。そのため、従来の導波管型分配合成器では分岐部に整合素子を配設させるのみならず、主導波管103のうち分岐部から離れた領域、H面分岐導波管105、およびE面分岐導波管107などに新たな整合素子(副整合素子111)を配設することによってインピーダンスの整合性を向上させていた。
【0056】
このように従来のマジックT型導波管101においてインピーダンスを高い精度で整合させるには複数の整合素子109および111が必要になるので、導波管型分配合成器の構造が複雑化する。また導波管型分配合成器の製造工程も複雑化するため、導波管型分配合成器の製造コストが上昇する。
【0057】
このような問題について発明者が鋭意検討を行った結果、導波管型分配合成器1の分岐部Tにおいて、主導波管3の中心からH面分岐導波管5に近い側に整合素子9を配設することにより、導波管型分配合成器1におけるインピーダンスを高い精度で整合できることを見出した。言い換えると、主導波管3の幅方向において、主導波管3の中心からH面分岐導波管5に近づく方向へ所定の距離(シフト距離ky)だけ離れた位置に1つの整合素子9を配置することによって、新たな整合素子を配設することなく導波管型分配合成器1におけるインピーダンスを高い精度で整合できることを見出した。
【0058】
H面分岐導波管を備える従来の導波管型分配合成器において、主導波管の中心からH面分岐導波管と逆側に整合素子を配設させる理由として、
図18ないし
図20および参考文献を用いて説明する。
【0059】
従来、入力された電磁波を2方向へ分岐させる2分岐型の導波管として、
図18(a)および
図18(b)に示すようなY型分岐管201が考案されていた(参考文献1:George L.Ragan「Microwave transmisson circuit」)。Y分岐管201は平面視において3本の導波管203を備えている。そして3本の導波管203のうち入力側の導波管を導波管203aとし、出力側の2本の導波管を導波管203bおよび導波管203cとする。
【0060】
このような2分岐型(3端子型)のY型分岐管201において、導波管203aが延びる方向(y方向)と導波管203bが延びる方向とがなす角度α、および導波管203aが延びるy方向と導波管203cが延びる方向とがなす角度βはそれぞれ120°となる。よって、導波管203aのポート204から入力された電磁波は分岐部において伝送方向が120°変更されて導波管203bおよび導波管203cへと伝送され、導波管203bのポート205および導波管203cのポート206の各々から出力される。
【0061】
ここで3端子型の導波管の利便性を向上させることを目的として、Y型分岐管201の発展型として
図19(a)および
図19(b)に示すようなT型分岐管211が考案された。T型分岐管211では出力側の導波管203bおよび導波管203cが延びる方向は、入力側の導波管203aが延びる方向(y方向)と直交する方向(x方向)になっている。すなわち、Y型分岐管201では電磁波の入力側から見て出力側は120°方向である一方、T型分岐管211では電磁波の入力側から見て出力側が90°方向である。導波管203bおよび203cが延びる方向をx方向に直交する方向へ変更することにより、T型分岐管211はY型分岐管201と比べて据え付け工程などにおける利便性が向上する。
【0062】
但し、導波管203bおよび導波管203cが延びる方向を変更することにより、T型分岐管211は分岐部Tにおいて導波管203aから遠い側の側壁に三角柱型の凹部Kが形成されている。このような三角柱型の凹部Kが形成されているT型分岐管211は形状が複雑であるので製造しにくい。そのため、凹部Kを有するT型分岐管211のさらなる発展型として、整合素子213を有するT型分岐管221が考案された(参考文献2:実開昭49−9143)。
【0063】
T型分岐管221は全体として、導波管203bおよび導波管203cからなる主導波管のE面に導波管203aが接続された形状となっている。すなわちT型分岐管221は、導波管203bおよび導波管203cからなる主導波管の分岐部Tから、H面分岐導波管に相当する導波管203aが分岐してy方向に延びる形状となっている。
【0064】
T型分岐管221は分岐部Tにおいて整合素子213を備えている。整合素子213はT型分岐管221のうち、T型分岐管211では凹部Kが形成されていた位置に配設されており、凹部Kと同じ形状およびサイズとなっている。すなわちT型分岐管211の凹部Kを整合素子213と置き換えることによりT型分岐管221となる。
【0065】
分岐部Tにおいて導波管203aから遠い側に整合素子213を配置することにより、T型分岐管221における導波管203aから遠い側の側壁215は平坦な形状となる。すなわち整合素子213によってT型分岐管221は全体として単純な形状となるので、製造が容易となる。このような経緯により、T型分岐を有するマジックT型の導波管型分配合成器において整合素子を配設する場合、従来は分岐部TにおいてH面分岐導波管から遠い側に配設されることが一般的となっている。また、H面分岐導波管から遠い側に整合素子を配設することにより、整合素子は側壁215に沿って配設できる。よって、整合素子を安定に配置させるという視点からも従来ではH面分岐導波管から遠い側に整合素子が配設されることが一般的である。
【0066】
すなわち従来のマジックT型の導波管型分配合成器では整合素子を分岐部に配置する場合に、T型分岐管221における整合素子213の配設位置と同様に、H面分岐導波管から遠い側に整合素子が配設される。この場合、インピーダンスを精度良く整合させるために、複数の部材から構成される整合ユニットが用いられる。その一方で、実施例1に係る導波管型分配合成器1では分岐部TにおいてH面分岐導波管7に近い側に整合素子9を配設することにより、単一の部材である整合素子9のみでインピーダンスを精度よく整合できる。すなわち、実施例1に係る導波管型分配合成器1では整合素子9を配設する際に複数の部材を組み合わせる過程を行う必要がない。また複数の部材の各々を導波管型分配合成器1に配設させるという複数回の過程を行う必要もない。そのため、整合素子9を備える導波管型分配合成器1を迅速かつ低コストで製造することができる。
【0067】
また実施例1に係る構成において、整合素子9の長さdxおよび幅dyは主導波管3の長辺の長さaより短く、整合素子9の高さdzは主導波管3の高さbより低い。そのため、第1ポート11などの各ポートを介して整合素子9を容易に導波管型分配合成器1の内部へと案内させ、分岐部Tに整合素子9を固定配設させることができる。よって、導波管型分配合成器1が主導波管3とH面分岐導波管5とE面分岐導波管7とが組み合わされた状態であっても整合素子9をインピーダンスの整合に適切な位置へと精度よく迅速に配設できる。また、整合素子ユニットを有しない既存のマジックT型導波管に対して整合素子9を事後的に組み合わせてインピーダンスの整合性を向上させることも容易となる。
【0068】
そして、実施例1に係る整合素子9は直方体を例とする柱状部材であり、整合素子9の高さdzは主導波管3の高さbより低い。つまり、E面分岐導波管7の内部に先鋭な突出部が存在しない。すなわち、整合素子9のサイズは導波管型分配合成器1の分岐部Tに収まる程度に小さくすることができる。よって、E面分岐導波管7の内部に突出部が存在しないので、E面分岐導波管7などの各導波管における絶縁距離が短くなるという事態が発生することを回避できる。また、高さが低い柱状の整合素子9は先鋭な部分が存在しないので、コロナ放電の発生を抑制できる。従って、整合素子9に起因して放電が発生することを防止できる。
【実施例2】
【0069】
以下、図面を参照して本発明の実施例2を説明する。実施例1に係る導波管型分配合成器1として、4端子回路であるマジックT型導波管を例にとって説明した。これに対し、実施例2に係る導波管型分配合成器1Aとして、3端子回路であるH面T分岐型導波管を例にとって説明する。
【0070】
実施例2に係る導波管型分配合成器1Aは
図6に示すように、x方向に延びる主導波管3と、y方向に延びるH面分岐導波管5と、整合素子9とを備えている。主導波管3は、一端側に第1ポート11を備えており、他端側に第2ポート12を備えている。H面分岐導波管5は、一端側に第3ポート13を備えている。H面分岐導波管5の他端側は、主導波管3の長さ方向の中間部(分岐部T)において主導波管3のE面Seに接続されている。
【0071】
主導波管3およびH面分岐導波管5の構成は実施例1と同様である。すなわち内部の寸法は
図5に示すように、長辺の長さがaであり短辺の長さがbとなるように構成されている。実施例2において、主導波管3は本発明における第1の導波管に相当し、H面分岐導波管5は本発明における第2の導波管に相当する。
【0072】
整合素子9は主導波管3の分岐部Tに配設されており、ネジなどの固定具によって分岐部Tの底面に固定されている。整合素子9は実施例1と同様に、導波管型分配合成器1Aにおいて入力側と出力側とのインピーダンスを整合させる柱状部材である。また
図7ないし
図9に示すように、主導波管3の幅方向における主導波管3の中心BsからH面分岐導波管5に近い側へシフトした位置に整合素子9が配設される。実施例2における整合素子9のシフト距離kyおよび整合素子9の各寸法dx、dy、dzは、実施例1と同様に上述した(A)ないし(D)の式を満たすように調整される。
【0073】
このように、整合素子9を主導波管3の中心BsからH面分岐導波管5に近い側へシフトした位置に配設することにより、実施例2に係る3端子回路のH面T分岐型導波管においても実施例1に係る4端子回路のマジックT型導波管と同様の効果を得ることができる。すなわち単一の柱状部材である整合素子9を主導波管3の分岐部Tにおいてy方向にシフトした位置に配設することにより、放電の発生頻度が低くインピーダンスの整合性が高い導波管型分配合成器を低コストで実現できる。
【実施例3】
【0074】
以下、図面を参照してこの発明の実施例3を説明する。実施例3は、実施例1に係る導波管型分配合成器1を備えた整合器21である。実施例3に係る整合器21は
図10および
図11に示すように、主導波管3とH面分岐導波管5とE面分岐導波管7と整合素子9とを備える導波管型分配合成器1に加え、第1可動短絡終端機構23と第2可動短絡終端機構25とを備えている。
【0075】
第1可動短絡終端機構23は、Hプランジャ27と、ボールネジ29と、第1駆動機構31とを備えている。Hプランジャ27は摺動自在となるようにH面分岐導波管5に挿入されており、H面分岐導波管5の管軸方向であるy方向に往復移動可能に構成される。ボールネジ29はH面分岐導波管5の管軸方向であるy方向に延びている。ボールネジ29の一端はHプランジャ27に接続されており、ボールネジ29の他端は第1駆動機構31に接続されている。
【0076】
第1駆動機構31はHプランジャ27をy方向に沿って往復移動させてHプランジャ27の位置を調整するものであり、一例としてボールネジ29を回転させるモータを備えている。第1駆動機構31がHプランジャ27をy方向へ変位させることにより、第1ポート11からみた反射係数および位相を変化させる。
【0077】
第2可動短絡終端機構25は、Eプランジャ33と、ボールネジ35と、第2駆動機構37とを備えている。Eプランジャ33は摺動自在となるようにE面分岐導波管7に挿入されており、E面分岐導波管7の管軸方向であるz方向に往復移動可能に構成される。ボールネジ35はE面分岐導波管5の管軸方向であるz方向に延びている。ボールネジ35の一端はEプランジャ33に接続されており、ボールネジ35の他端は第2駆動機構37に接続されている。
【0078】
第2駆動機構37はEプランジャ33をz方向に沿って往復移動させてEプランジャ33の位置を調整するものであり、一例としてボールネジ35を回転させるモータを備えている。第2駆動機構37がEプランジャ33をz方向へ変位させることにより、第1ポート11からみた反射係数および位相を変化させる。
【0079】
整合器21はさらに電磁波発生器39と、反射係数検出部41と、主制御部43とを備えている。電磁波発生器39は主導波管3の第1ポート11に接続されており、第1ポート11から電磁波を入力する。本実施例では電磁波の例としてマイクロ波を用いる。すなわち電磁波発生器39はマイクロ波発生器として機能する。また、主導波管3の第2ポート12は負荷45と接続されている。なお主導波管3のうち、第1ポート11に近い側の主導波管3を主導波管3aとし、第2ポート12に近い側の主導波管3を主導波管3bとして両者を区別する。
【0080】
H面分岐導波管5にはHプランジャ27の位置を随時検出する図示しないHプランジャ検出部が設けられている。E面分岐導波管7にはEプランジャ33の位置を随時検出する図示しないEプランジャ検出部が設けられている。
【0081】
反射係数検出部41は、主導波管3の所定の位置で電磁波の反射係数および位相角を検出する。反射係数検出部41の構成の一例として、主導波管3の管軸方向(x方向)に沿って所定の間隔で設けられている複数本のアンテナ機構が挙げられる。この場合、当該複数のアンテナ機構によって受信された信号の各々を比較することによって反射係数および位相角が検出される。
【0082】
主制御部43は中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)などを備えている。主制御部43は各種演算処理を行うとともに、第1駆動機構31、第2駆動機構37、電磁波発生器39、反射係数検出部41を例とする導波管型分配合成器1の各部構成を統括制御する。主制御部43は図示しないプランジャ位置算出部を備えている。プランジャ位置算出部は反射係数検出部41が検出した反射係数および位相角の情報に基づいて、電磁波発生器39と負荷45とのインピーダンスを整合できるようなHプランジャ27の位置とEプランジャ33の位置とをそれぞれ算出する。
【0083】
整合器21は、Hプランジャ27およびEプランジャ33の位置を適宜調整することにより、負荷45において反射された電磁波を打ち消す操作を行う。電磁波発生器39において発生した電磁波Fの位相をθとすると、負荷45から反射される電磁波Fの反射係数は絶対値Γを用いてΓe
iθと示すことができる。負荷45から反射される電磁波Fの反射係数は、反射係数検出部41によって随時検出される。反射係数検出部41によって検出された情報は、主制御部43へと送信される。
【0084】
整合器21における電磁波の挙動は以下の通りである。電磁波発生器39において発生される電磁波Fは、
図12に示すように主導波管3aの第1ポート11から入力される。主導波管3aに入力された電磁波Fは分岐部Tへと伝送され、分岐部Tの中心である分岐点においてH面分岐導波管5とE面分岐導波管7とに2分配される。
【0085】
H面分岐導波管5に分配された電磁波FはHプランジャ27によって反射されて再び分岐点へと伝送される。Hプランジャ27によって反射された電磁波Fを電磁波FHとする。電磁波FHはHプランジャ27の位置に応じて位相θhが変化する。すなわち電磁波FHの位相θhは、分岐点からHプランジャ27までの距離の関数として表すことができる。電磁波FHは、分岐点において主導波管3aと主導波管3bとに2分配されて同相で伝送する。すなわち主導波管3aに分配される電磁波FHの信号電圧は反射係数を用いて(1/2)・e
iθhとなる。そして主導波管3bに分配される電磁波FHの信号電圧も(1/2)・e
iθhとなる。
【0086】
一方、E面分岐導波管7に分配された電磁波FはEプランジャ33によって反射され、Eプランジャ33から再び分岐点へと伝送される。Eプランジャ33によって反射された電磁波Fを電磁波FEとする。電磁波FEはEプランジャ33の位置に応じて位相θeが変化する。すなわち電磁波FEの位相θeは、分岐点からEプランジャ33までの距離の関数として表すことができる。電磁波FEは、分岐点において主導波管3aと主導波管3bとに2分配されて逆相で伝送する。すなわち主導波管3aに分配される電磁波FEの信号電圧は反射係数を用いて(1/2)・e
iθeとなる。そして主導波管3bに分配される電磁波FEの信号電圧は(−1/2)・e
iθeとなる。
【0087】
主導波管3aに分配される電磁波FHおよび電磁波FEはベクトル的に足し合わされる。そして主導波管3bに分配される電磁波FHおよび電磁波FEもベクトル的に足し合わされる。よって、主導波管3aを伝送する電磁波の信号電圧は(1/2)・e
iθhと(1/2)・e
iθeとの和になり、主導波管3bを伝送する電磁波の信号電圧は(1/2)・e
iθhと(−1/2)・e
iθeとの和になる。
【0088】
整合器21は、電磁波発生器39と負荷45との間でインピーダンスの整合をとるべく、負荷45から反射される電磁波と、主導波管3bに伝送される電磁波FHおよび電磁波FEの和とが複素共役の関係にあるように、Hプランジャ27の位置とEプランジャ33の位置とを調整する。すなわち主制御部43に設けられる図示しないプランジャ位置算出部は、以下の(F)で示す式が成り立つような位相θhおよび位相θeの組み合わせを算出する。
(1/2)・e
iθh−(1/2)・e
iθe=Γe
−iθ ……(F)
【0089】
位相θhは分岐点からHプランジャ27までの距離の関数で表され、位相θeは分岐点からEプランジャ33までの距離の関数で表されるので、プランジャ位置算出部は適切な位相θhおよび位相θeの組み合わせを算出することにより、整合器21において電磁波発生器39と負荷45との間でインピーダンスの整合がとれるようなHプランジャ27の位置とEプランジャ33の位置との組み合わせを算出できる。
【0090】
主制御部43は、算出されたHプランジャ27の位置とEプランジャ33の位置との組み合わせの情報に基づいて、第1駆動機構31および第2駆動機構37を制御する。第1駆動機構31は、主制御部43によって算出された位置へとHプランジャ27を移動させる。第2駆動機構37は、主制御部43によって算出された位置へとEプランジャ33を移動させる。Hプランジャ27およびEプランジャ33の位置を調整することにより整合器21による整合が完了し、主導波管3aの内部における電磁波の反射をゼロにすることができる。
【0091】
これらの電磁波の挙動において、整合器21が備える導波管型分配合成器1には主導波管3の中心BsからH面分岐導波管5に近い側へシフトした位置に、主導波管3の高さbより低い柱状の整合素子9が配設されている。そのため、導波管型分配合成器1の入力側と出力側とのインピーダンスは整合素子9によって適切に整合される。よって、導波管型分配合成器1における入力側と出力側とのインピーダンスの不整合に起因して整合器21による整合不良が発生するという事態を、整合素子9の配設によってより確実に回避できる。従って、整合素子9を備える導波管型分配合成器1を用いることにより、より精度良く整合をとることができる整合器21を実現できる。
【0092】
<他の実施形態>
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲、並びに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。例として、本発明は下記のように変形実施することができる。
【0093】
(1)上述した各実施例において、導波管型分配合成器1はマジックT型導波管またはH面T分岐型導波管に限られない。すなわち導波管型分配合成器1がH面分岐導波管5および整合素子9を備える構成であれば、整合素子9の寸法dx、dy、dz、およびシフト距離kyを適切に調整することによって、本発明に係る有利な効果を実現できる。
【0094】
(2)上述した各実施例において、整合素子9は直方体である構成を例として説明したが、整合素子9の形状は直方体に限られない。すなわち、x方向における整合素子9の寸法dxがy方向における寸法dyより長く、z方向における整合素子9の寸法dzが主導波管3の高さbより低い柱状であれば、好適な整合素子9として用いることができる。直方体以外に整合素子9として用いることができる形状の例を
図13の各図に示している。
【0095】
図13(a)に示されている整合素子9は、x方向に並べられた複数の円柱によって構成されている。各々の円柱の高さdzは主導波管3の高さbより低くなるように構成されている。円柱をx方向に複数並べることにより、整合素子9は全体としてx方向の寸法dxをy方向の寸法dyより長くすることができる。
図13(b)に示される整合素子9は、x方向が長軸である楕円を底面とする柱状の部材によって構成されている。
図13(c)に示される整合素子9は、比較的長い対角線がx方向である菱形を底面とする柱状の部材によって構成されている。
【0096】
(3)上述した各実施例において、整合素子9は角がとれた形状であることが好ましい。すなわち角がとれた形状の例として、鋭角または直角である部分を有しておらず、鈍角によって構成される形状が挙げられる。鈍角によって構成される形状の具体的な例としては
図14(a)に示すように、直方体の各辺を各々の面Laに対して斜め方向に削り取ることによって斜面Lbを作成することにより、各辺および各頂点が鈍角となる略直方体形状が挙げられる。
【0097】
また
図14(b)に示すように、曲面または平面によって構成される形状(一例として半球状または略半球状)も、角がとれた形状の一例として挙げられる。整合素子9が
図14(b)に示すような半球状である場合、整合素子9が主導波管3の下面から上方へ突出している部分は全て曲面である。よって、整合素子9は鋭角である部分および直角である部分をいずれも有していない形状、すなわち先鋭な部分を有しない形状となる。
【0098】
整合素子9に先鋭な部分がある場合、当該先鋭な部分においてコロナ放電が発生し易くなる。そのため整合素子9を角がとれた形状、すなわち鋭角である部分および直角である部分をいずれも有しない形状とすることにより、整合素子9に起因して放電が発生することをより確実に回避できる。
【0099】
(4)上述した実施例3において、実施例1に係る導波管型分配合成器1を備えた整合器21を例として説明したが、導波管型分配合成器1は主導波管3aの内部における電磁波の反射をゼロにする整合器21に用いる構成に限られない。すなわち実施例1に係る導波管型分配合成器1を、第1ポート11と第2ポート12との間の電磁波の位相を変更させる移相器として用いてもよい。
【0100】
導波管型分配合成器1を備える移相器の構成は、
図10および
図11に示す整合器21の構成と同様である。但し、当該移相器は整合器21と異なり反射係数検出部41を省略できる。当該移相器において、主制御部43は、Hプランジャ27およびEプランジャ33を任意の位置に適宜調整することにより、電磁波FHの位相θhおよび電磁波FEの位相θeを適宜変更する。電磁波FHの位相θhおよび電磁波FEの位相θeを適宜調整することにより、第1ポート11における電磁波の反射を抑えつつ、第1ポート11から第2ポート12へと伝送される電磁波Fの位相を所望の位相へと変更することができる。このような移相器において整合素子9が配設された導波管型分配合成器1を用いることにより、導波管型分配合成器1における入力側と出力側とのインピーダンスの不整合を確実に防止できる。そのため、移相器において電磁波の位相を精度良く変更することができる。
一端に第1ポート11を有し他端に第2ポート12を有する主導波管3と、一端に第3ポート13を有し、他端は主導波管3のE面に接続されるH面分岐導波管5と、一端に第4ポート14を有し、他端は主導波管3のH面に接続されるE面分岐導波管7と、主導波管3の分岐部Tに配置され、インピーダンスを整合させる整合素子9と、を備え、整合素子9は、主導波管3の幅方向において、主導波管の中心BsからH面分岐導波管5に近づく方向へシフト距離kyだけ離れた位置に配置されており、主導波管3の高さbより低い柱状の構造を有する。