(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボディ部とネック部及びヘッド部で構成されるギター等のフレット弦楽器における、前記ネック部の最上部に位置するナットと前記ボディ部上のブリッジに設置されるサドル間を開放振動弦長として最低音程を発するように架設される複数の弦を、前記ネック部の表面の指板上に押さえ付けて半音毎の音程を発するように設置されるフレットであって、
ペグからブリッジ間の全弦長について、調弦において、弦の巻き取りによって生じる弦径及び線密度の変化を伴う弦長の延びを考慮した張力による、開放振動弦長における剛性の影響を受けた振動周波数が平均律音階のものと等しくなる条件の下、弦の巻き取り長を変数とした方程式を構築して、弦の巻き取り長を算出し、
求めた弦の巻き取り長に加え、対象フレットでの押弦によって生じる弦径及び線密度の変化を伴う弦長の延びも考慮した上で、フレットとサドル間の振動弦長における剛性の影響を受けた振動周波数が平均律音階のものと等しくなる条件の下、振動弦長を変数とした方程式を構築して、振動弦長を数値計算により算出し、
電磁型ピックアップが存在する弦楽器については、負スチフネスにより生じる振動周波数の低下分を予め張力を強めて補償するものとし、それに伴う弦長の延びによる弦径及び線密度の変化を考慮して、振動弦長を変数とした前記方程式を再度解法して振動弦長を再算出し、
全弦について算出された前記振動弦長に基づき、ナット、サドル又は任意のフレットの何れかを直線形状とした上で、前記任意のフレット以外のフレットを滑らかに曲線近似して設置し、すべての音階について平均律音階とのズレを発生しないという特徴を有するフレット、
を設置した弦楽器のネック。
【背景技術】
【0002】
図1は、フレット弦楽器の例として示したエレキギターの全体斜視図である。このような楽器は大まかには、ボディ1部、ネック2部、ヘッド3部で構成される。アコースティックギターであるクラッシックギターやフォークギターについても、ネック2とヘッド3の基本的考え方、役割は同一である。
【0003】
ネック2には指板9が設置され、押弦により半音毎の音程を構成するための金属製のフレット10(10
1〜10
21)が19〜22本設置される。これらは、一般にナット6に平行に直線形状となっている。ヘッド3にはペグ(糸巻き)4(4
1〜4
6)が取り付けられ、弦5(5
1〜5
6)を巻き取ることにより張力を変化させて調音を行う。
【0004】
クラシックギターやフォークギターは、
図2に示すようなボディ101に共鳴を意図とした空胴115と表面の共鳴板116にサウンドホール117を有し、独自に生音を響かす機構となっており、総じてアコースティックギターと呼ばれる。また、共鳴板115上にブリッジ107があり、その上にサドル108が設置される。エレクトリックギターは、セミアコースティックギターと呼ばれるボディ1が空胴のものもあるが、多くは硬い木材で構成されソリッドギターと呼ばれる。
【0005】
ネック2の最上部に設置されるナット6とボディ1上のブリッジ7(107)に置かれるサドル8(108)間を開放弦長としてギターの場合弦5(5
1〜5
6)が張られる。
【0006】
ギターでは、第1弦5
1から第6弦5
6の開放弦について十二平均律音階(以下、平均律音階と略す)のE4(329.627557Hz)、B3(233.08188Hz)、G3(195.997718Hz)、D3(116.54094Hz)、A2(110.0Hz),E2(82.406889Hz)音に調音される。
【0007】
音階を決定するのは、各弦の振動周波数である。これは弦の質量と長さ、ペグによる弦の巻き取り量により決まる張力に関係し、弦の剛性及び摩擦を無視した理想状態の場合、数1に示すごとく与えられる。ここで、nはフレット番号を示し、n =0の10
nはナット6であり、f
0は開放弦の振動周波数である。
【0008】
【数1】
ここで、f
n:nフレット10
nの振動周波数[Hz]
l
n:nフレット10
nとサドル8間の弦長[m]
T :弦の張力[N]
σ:弦の線密度[Kg/m]
である。即ち、弦の振動周波数は、重くて長いものほど低音となり、弦を巻き取ることにより張力を強くするほど、また弦長を短くするほど高音になる。
【0009】
各弦の振動長は、ナット6とサドル8間の開放弦長l
0が最長であり、このときの振動周波数f
0が最低音として上述のように設定され、押弦によりサドル8間との弦長l
nを狭め、半音毎の振動周波数f
nが得られるように指板上に金属製のフレット10
nが設置される。
【0010】
音階には、他の多くの楽器と同様に平均律音階が用いられる。平均律音階は、周波数440Hzである中央A(ラ)音を基本として、周波数が2倍の関係となる1オクターブを等比的に12分割したものであり、高音側には周波数を2の12分の1乗倍、低音側には2のマイナス12分の1乗倍とする半音の周波数毎に構成される。そこで、フレット弦楽器のnフレット10
nの振動周波数f
nは、ナット6とサドル8の解放弦長で決まる振動周波数をf
0として、数2のごとく定義される。従って、開放弦長をl
0とするとき、nフレット10
nとサドル8の弦長l
nは数3のごとく得られ、nフレット10
nとn+1フレット10
n+1間の幅は数4のように与えられる。
【0011】
【数2】
【数3】
【数4】
【0012】
即ち、第nフレット10
nでn=0はナット6を意味するが、数3は、第nフレット10
nとサドル8間の弦長l
nは、n-1フレット10
n-1の弦長l
n-1に2のマイナス12分の1乗(0.94387)を乗じて得られることを意味している。このことは、
図3に示すがごとく、ナット6と第1フレット間幅l
0-l
1を高さとし、開放弦長l
0を底辺とした直角三角形を考慮して、高さを半径とした円と底辺との交点である第1フレット弦長l
1から垂線を斜線に引くとき、その交点により新たに出来る直角三角形は元の三角形と相似であり、この高さを半径とした円と底辺との交点より第1フレット10
1と第2フレット10
2間の幅l
1-l
2が求められる。この操作を繰り返すことによりすべてのフレット位置が求められ、第12フレット10
12の弦長が開放弦長の2分の1となる。数4で示した各フレット幅l
n-l
n+1は、各フレット長l
nを18に近い17.8175で除することにより得られることからこのフレット設計方法は18ルールと呼ばれている。一般にフレット楽器のフレット位置はこのようにして決められている。
【0013】
ところで、クラシックギターではナイロン弦が多く用いられるが、フォークギターやエレクトリックギター、特にエレクトリックギターではその発音原理から必然的にスチール弦が用いられる。ナイロン弦も含め、どのような弦も完全に柔軟ではなく少なからず剛性を有しており、その影響により基本振動周波数fは、弦長をlとするとき数5のように与えられる(非特許文献1)。
【0014】
【数5】
ここで、Bは曲げ剛性による影響を表し、数6のように示される。
【数6】
ここで、π:円周率
E :ヤング率[N/m
2]
d :弦径[m]
である。
【0015】
したがって、例え開放弦については張力Tを調整して正しい振動周波数が与えられたとしても、剛性の影響は数5に示すように弦長により異なることから、数1より求められる振動周波数を想定して18ルールで設計されたフレット10ではいずれの振動周波数も平均律音階の周波数よりも高くなる。
【0016】
音楽分野では、周波数のズレを細かく表すにはセント値が用いられる。1オクターブは周波数の比率が2倍であり、半音は1オクターブを等比的に12分割したものである。周波数f
0に対するfのセント値は、1200×log
2(f/f
0)と定義されるが、先の半音及び1オクターブの周波数比を考慮すると、半音は100セント、1オクターブは1200セントとなる。
【0017】
図4は、エレクトリックギターでは最も細い弦に属するエクストラ・ライトゲージと呼ばれる弦を対象として、18ルールで設計されたフレット10について数5で表される剛性の影響をl→l
nとして各フレットの数1に対する振動周波数のズレをセント値で計算したものである。太い弦ほど、また、高域のフレットほど振動周波数のズレが平均律音階に対して大きくなることが確認される。表1に弦の諸元を示しているが、スチール弦の場合,第3弦5
3,あるいは第4弦5
4から6弦5
6は,線密度を増やす目的で芯線にニッケルやステンレスの細い線を密に巻いた巻弦が用いられる。ここで用いた弦5では,第4弦5
4から6弦5
6が巻弦となっており、剛性の影響は芯線について考慮したことから、第3弦5
3より第4弦5
4の方が小さい値を示している。細い弦を対象にしたことから、それほど甚大な影響を与えるとは言えないが、開放弦以外のすべてのフレット10において平均律音階からのズレを与える要因となっていることを確認することが出来る。
【表1】
【0018】
次に、フレット10間で押弦することにより発生する現象について考慮する。
図5は、ギターやエレクトリックギターの弦5の架設、フレット10における押弦による弦長の考え方を示したモデル図である。弦5は、開放弦において左側支持端に位置するペグ4により巻き取られることにより張力が発生する。このとき、弦5は、ナット6とサドル8間の開放弦長l以外の部分l
e = l
1 + l
2も引き延ばされ、弦径は減少し、これに伴い弦の断面積、線密度も若干小さくなる。指板9は押弦により振動部の弦5とフレット10との接触が無いように若干傾斜を持たせて設置されており、フレットを押さえたときに振動周波数を決定する弦長l
nは、水平状態で数1により決定される値とは、微小な差ではあるものの、明らかに異なるものとなる。
【0019】
図6は、開放弦においてペグ4で張力を調整後、18ルールで決定された各フレット位置で押弦した場合に、数5より求められる振動周波数の平均律音階からのズレをセント値で求めたものであり、弦径が大きい弦ほど、高域フレットになるほど大きくなることが確認される。なお、弦高は、市販のエレクトリックギターの実測値を参考として、
図7のように設定している。
【0020】
このような18ルールがもたらす不具合は、楽器業界では既知のことであり、アコースティックギターでは
図2に示すようにサドル108を斜めに設置して、弦径が大きい低音弦ほど弦長が長くなるように工夫されている。また、エレクトリックギターでは、
図8のブリッジの拡大図に示すように弦5毎にサドル8の位置が調整できるように考慮されている。これらサドル8の位置は、第12フレット10
12での音階が開放弦の振動周波数より1オクターブ高くなることを根拠に決定される。即ち、数5、
図6で示したように、弦5の長さが短く弦径が太いほど剛性の影響が強いために高くなってしまう振動周波数を、第12フレット10
12押弦時の弦長を伸ばすことにより補正している。
【0021】
上記の補正はオクターブ調整と呼ばれ、サドル8の移動による第12フレット10
12での振動周波数の調整と、その結果生じる開放弦の振動周波数の変化を補正するためのペグ4による張力の調整とを繰り返し行う必要がある。
図9は18ルールで設計されたエレクトリックギターの第1,3,5弦5
1、5
3、5
5について1回のオクターブ調整を行ったときの振動周波数を測定し、平均律音階とのズレを求めた例である。未だ第12フレット10
12で完全に0セントにならず調整の甘さはあるが、
図6と比較するとき、低域、特に1〜7フレット10
1〜10
7では殆ど改善されておらずむしろ想定以上のズレを生じており、高域フレットでは周波数が低くなるズレを発生している。開放弦と第12フレット10
12においては所望の平均律音階に調音されたとしても、それ以外のフレット10において、音楽的にも看過できないほどのズレを見せていることが確認される。
【0022】
結果として、18ルールで設計されたフレット10では、オクターブ調整を行った場合でも、特に低域フレット、また第20フレット10
20以上の高域フレットにおける振動周波数は、平均律音階との相当なズレを残したままである。このような事実に関係して、米国特許5,404,783号明細書(特許文献1)では、アコースティックギターについてサドルの位置を弦毎に調整できるブリッジを提案しており、また、18ルールで設計した第1フレット10
1とナット6の幅を3.3%狭くすることにより改善できることを提唱している。また、米国特許5,814,745号明細書(特許文献2)では、アコースティックギターのナイロン弦については3.3%、エレクトリックギターや第3弦が巻弦でないライトゲージの弦では2.1%、アコースティックのスチール弦やベースギター、ヘビーゲージの弦については1.4%の補正が適するとしている。但し、フレット10は直線形状のものが用いられており、特質の異なる各弦がフレット10の平行移動により一様に補正されるとは考え難い。
【0023】
米国特許6,156,962号明細書(特許文献3)及び米国特許6,433,264号明細書(特許文献4)では、ナット6と第1フレット10
1を狭くする補正を各弦に施すためのナットを提案している。また特開2005−275340号明細書(特許文献5)では、剛性と押弦による弦5の伸びを考慮し、各弦の補正を行う補助具を提案している。これらの案件も、第1フレット10
1に対する補正が主体であり、全弦5、全フレット10に対して改善されるものではない。
【0024】
既述のように、ギターに使用される弦は、第1弦5
1から第6弦5
6に向かって太くなり、第3弦5
3、もしくは第4弦5
4から第6弦5
6では巻弦が用いられているが、数5、6に示す特質を考慮して設計されているわけではない。そこで、弦毎にサドル8を調整してオクターブ調整を実施し、開放弦と12フレット10
12の振動周波数を平均律音階に一致させることが出来たとしても、
図9に示したように弦5の特質により振動周波数のズレは異なり、一様な直線形状のフレット10による正確な調音の実現は不可能である。従って、特許文献1〜5の主張は、主に低音弦の低次フレットの音程のズレを補正することは確かと思われるが、いずれの提案も18ルールに基づいて設計されたフレット10を基本に置いており、各弦5、各フレット10の細かな音程については未だ誤差が存在していることは明白である。
【0025】
以上の考察に基づけば、フレット弦楽器のフレット10は曲線形状にならざるを得ないが、特表2009−532737号公報(特許文献6)では、各弦、各フレットの位置を個別に決定しそれらを繋ぎ合わせた階段状の曲線のフレットを開発している。弦の直下では弦と垂直に接触するように考慮されており正しい調音が期待されるが、理論的に求められているものではなく、押弦位置が開放弦直下から大きくずれるチョーキングやヴィブラート演奏には大きな弊害となる。
【0026】
剛性と押弦の影響に加え、エレクトリックギターではピックアップ11の磁気吸引力の動的成分の係数である負スチフネスS
n[N/m]の影響も存在する。弦長をl [m]、張力をT[N]、線密度をσ [Kg/m]としてc=(T/σ)
1/2 [m/sec]とすると、サドル8より位置a[m]に負スチフネスS
nが作用するときの振動周波数f[Hz]は、角振動周波数をω=2πf [rad/sec]として、数7を満たすものとなる(非特許文献2)。
【0027】
【数7】
この解は、正弦関数が周期関数であることから、無限の周波数モードが存在する結果となる。剛性の無い柔軟な理想的な弦5では高次の振動周波数は倍音関係にあるが、剛性が存在することにより高次の成分は非調和性を生じる。このような高次成分は部分音と呼ばれ、楽音としての大きな特質となる。数7で示した負スチフネスの影響も、同様に非調和性を発生させ、楽音としての特徴を形成するが、調音の対象である基本振動周波数は、ピックアップ11の位置や弦5の特質に応じて低下する。
【0028】
図10は、表1に示した弦5を対象として、負スチフネス2 [N/m]がサドル8から弦長の4分の1の位置aに作用した場合の各フレット10の基本振動周波数の変化を求めたものである。振動弦長が長く、負スチフネスの作用点が振動弦長に対して中心に近いほど振動周波数の低下が大きく、また弦径や張力等に関係するが、ここでは第2弦への影響が最も強いことが確認される。複数の負スチフネスが存在する場合、振動周波数のズレをセント値で考慮する時、近似的に各ズレのセント値を加え合わせた値として得られることが調べられている(非特許文献3)。従って、複数のピックアップ11(11
1〜11
3)が存在する場合、振動周波数の低下は看過できない大きさとなる。
【0029】
以上のように現状のフレット10の設計では、各フレット10での周波数誤差が必然的に生じることから、平均律音階に基づく厳密な楽音を得るためには、剛性や押弦、複数の負スチフネスの影響を理論的かつ総合的に考慮した設計が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
現状のフレット弦楽器において平均律音階とのズレが発生する原因である弦の剛性や押弦の影響、さらにエレクトリックギターでは電磁型ピックアップの負スチフネスの影響について、弦径や線密度等の弦の諸元にも変化が発生することを加味した上で、理論的かつ総合的に考慮してサドルとフレット間の弦長を変数として定式化し、十二平均律音階に調音されるフレット位置を決定する数値計算プログラムの作成と数値計算によりフレット楽器の指板上のすべてのフレット位置、形状の設計・製作を行う。
【課題を解決するための手段】
【0033】
課題解決のフローを
図11に示している。まず、ナット6とサドル8間に架設した開放弦長に加え、
図5に示したヘッド3部のペグ4間とナット6及びブリッジ7部のサドル8から弦の固定部間の弦長も加えて全弦長とした調音を理論的に考慮する。即ち、全弦長に対して、ペグ4により弦が巻き取られ、弦5には、その弾性係数に応じて張力が発生する。このとき、微小ながら弦5の直径、従って断面積、線密度も変化するが、これらを考慮した上で、弦の巻き取りにより与えられた張力と剛性の影響を受けた弦5の振動周波数を満たす張力とを等しくおくことにより、巻き取り長を変数とした方程式を構築、巻き取り長を算出する。次に、諸元を新たにして、各フレット10で押弦された場合、弦に伸びが発生しさらに諸元に変化が生じることを加味した上で、対象フレットの振動周波数が平均律音階のものと等しくなる条件の下に、サドル8から各フレット間長を変数とした方程式を構築する。方程式は、数値計算プログラムを作成して解法する。さらに、エレクトリックギターなど、電磁型ピックアップが存在する楽器では、その負スチフネスは弦の振動周波数をその作用点に応じて低下させることから、予め張力を強めて振動周波数の低下分を高めておくことにより補償するものとし、同時に発生する諸元の変化を考慮して各弦のサドル8からの各フレット間長を変数とした方程式を数値計算により再度解法して各フレット位置を算出する。
【0034】
即ち、ナット6とサドル8の開放弦長l
0[m]に対して外部弦長の合計をl
e[m]、弦径をd[m]、弦の断面積をS[m
2]とすると、巻き取り長dl[m]による張力T[N]の発生は次の関係で与えられる。
【0035】
【数8】
また、振動周波数を与える数5、6より、開放弦において張力は次の数9を満たさねばならない。
【数9】
【0036】
初期弦径をd
0[m]、初期断面積をS
0[m
2]、線密度を芯線分σ
0[Kg/m]と巻弦分σ
e[Kg/m]とに分けて考慮するとき、開放弦長における弦の伸び(巻き取り長) dl
[m]は、弦径及び断面積、線密度の変化を考慮した数8及び数9を等しく置いて得られる次の数10を解くことにより算出される。
【0037】
【数10】
但し、l
t =l
0 +l
eとした。
【0038】
各弦5、各フレット10の設計にあたり、開放弦の振動周波数及びフレット10からの弦高h
n[m]が設定された後、押弦による張力の増加を考慮してサドル8とフレット10間の振動弦長l
n[m]を決定する。nフレット10
nとナット6間の長さl
d[m]は、数11のごとく与えられ、l
nは、数12を満たす値として数値計算により算出する。
【0039】
【数11】
【数12】
ここでl
a[m]は、先に求めた弦の巻き取り長をdlとして、次式で与えられる押弦時の全弦長を示す。
【数13】
【0040】
電磁型ピックアップを有するギターについては、その負スチフネスによる影響を補償する。なお、数7で示した負スチフネスの影響は、通常使用されるピックアップ11では、2πσc
2>>s
n(l−a)と考えられ、基本1次モードの振動周波数の低下分Δfは、次式で近似できる。
【数14】
まず、開放弦において数7、あるいは数14より負スチフネスによる周波数の低下を求め、平均律音階の周波数に合わせるための張力、これに基づき変化する諸元も新たに設定する。次に、先に求められたフレット位置について、作用点aに応じて各弦5、フレット10毎に負スチフネスの影響により低下する周波数を算出する。そして、複数の負スチフネスによる変化分を求め、それを補償するように振動周波数を予め高めに設定し、押弦の影響を考慮して改めて数12を解法することによりフレット位置を算出する。このとき、厳密に言及すれば、負スチフネスの影響を考慮する前後でフレット位置は若干異なるが、その差は各フレット10での振動長lに対しては極めて微小であり、数7、14及び
図10等を考慮する時、負スチフネスの影響による周波数の変化Δfは、殆ど同一であると考えることができる。
【0041】
図12に本発明の実施例の一つを示している。求められる各弦5の各フレット位置l
n は、あくまでもサドル208からの弦長を与えるものであるが、本例はナット206及びサドル208をあえて直線形状に設定したものであり、任意フレット210の第1弦から6弦のフレット位置l
1〜l
6を結ぶ線分は必ずしも滑らかな曲線とはならない。その場合、演奏の簡便さを考慮し、各弦のフレット210を
図12に示すように、滑らかな曲線に近似する。結果として、曲線に沿わない弦では、若干の誤差を発生することになるが、任意のフレット210を直線形状に設定することなどによりこの問題は改善される。
【0042】
図13に実施例2として、第7フレット310
7を直線形状に設定した場合のナット306、サドル308を含む各フレット310の設計例を示している。第7フレット310
7近辺のフレットも殆ど直線形状に近いが、各弦のナット位置及びサドル308の位置は直線上にはなく、第1フレット310
1など低域及び高域のフレットほど曲率が大きい曲線形状となっている。これらナット306やサドル308、各フレット310の微妙な変化を確認するために、指板を中心とした拡大図を
図14に示している。なお、ナット306は、窪みを付けて架設される弦を支持する振動端であり、機構上の必要性から階段状としている。
【発明の効果】
【0043】
本発明により設計された指板上の各弦のフレット310は、いずれも平均律音階に限りなく等しい音程を構成することができる。フレット310は曲率の小さい曲線形状となるが、任意のnフレット310
nを直線形状に設定した設計も可能である。その場合近辺の数フレットも殆ど直線形状に近い形状となり、演奏上の不都合も発生しない。何より、低域フレット及び高域フレットで聴感上も感知できるような周波数のズレを完全になくすことが出来る。また、平均律音階に一致する完全な調音が可能であることから、これを基準として、例えばピアノで望まれる調律曲線(Sカーブ)のような高域周波数は高めに、低域周波数は低めに設定するというようなアレンジを加えたフレット310等も容易に設計することが可能である。
【0044】
図15は、プロトタイプのネック302を作成し、第3弦についての各フレット310の振動周波数の測定値を市販ギターのものと比較して示したものである。プロトタイプは、手作りによるため製作精度には未だ問題があるが、全フレット310にわたり周波数偏差が大きく改善されており本発明の効果を確認することができる。