特許第6906332号(P6906332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906332
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】タービン翼の冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F01D 5/18 20060101AFI20210708BHJP
   F01D 9/02 20060101ALI20210708BHJP
   F02C 7/18 20060101ALI20210708BHJP
【FI】
   F01D5/18
   F01D9/02 102
   F02C7/18 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-45925(P2017-45925)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-150827(P2018-150827A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】都留 智子
(72)【発明者】
【氏名】石田 克彦
【審査官】 岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−177900(JP,A)
【文献】 特開2009−221995(JP,A)
【文献】 特開平10−089006(JP,A)
【文献】 特開2016−125380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/12 − 5/18
F01D 5/22 − 5/24
F01D 5/28 − 5/32
F01D 9/00 −11/10
F02C 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温ガスによって駆動されるタービンのタービン翼を内部から冷却するための構造であって、
前記タービン翼内に形成された冷却通路の第1壁面上に配置された複数のリブからなる第1リブ組と、前記冷却通路の前記第1壁面に対向する第2壁面上に配置された複数のリブからなる第2リブ組とを有し、前記第1リブ組と前記第2リブ組とが互いに格子状に重ねられて構成されたラティス構造体であって、前記第1リブ組の複数のリブ間に形成された流路と前記第2リブ組の複数のリブ間に形成された流路とを互いに連通させる複数のラティス連通部を有するラティス構造体と、
前記ラティス構造体の両側端部に設けられた一組の仕切り体と、
を備え、
前記第1リブ組および前記第2リブ組が、それぞれ、前記冷却通路を流れる冷却媒体全体の移動方向に延びる仮想境界線に対して互いに逆向きに傾斜して延び、かつ前記仮想境界線上で互いに接する1対のリブからなるリブ壁を有しており、
前記第1リブ組および前記第2リブ組のそれぞれにおいて、少なくとも1つの前記リブ壁を形成する各リブが、その両端部における2つの前記ラティス連通部の間に複数のラティス連通部が形成されるように延設されており、
前記一組の仕切り体間に単一の前記仮想境界線のみを有する、
ガスタービンエンジンの冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却構造において、前記第1リブ組および第2リブ組は、平面視において共通の仮想境界線を有しており、かつ、各々のリブ壁の頂点部分が重なるように配置されている冷却構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷却構造において、前記第1リブ組および前記第2リブ組が、それぞれ、前記仮想境界線に対して対称に形成されている冷却構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の冷却構造において、前記冷却媒体全体の移動方向が、前記タービン翼の高さ方向における根元部から先端部へ向かう方向である冷却構造。
【請求項5】
請求項4に記載の冷却構造において、前記タービン翼の先端部における前記冷却通路に平坦面として形成された冷媒導出部が設けられており、前記タービン翼の先端部の翼壁に、前記冷媒導出部から外部へ冷媒を排出する排出孔が設けられている冷却構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の冷却構造において、前記ラティス構造体において、前記第1リブ組と前記第2リブ組とは、平面視における格子形状の各交差部分において互いに接触している冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンのタービンにおける静翼および動翼を、内部から冷却するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンを構成するタービンは、燃焼器の下流に配置され、燃焼器で燃焼された高温のガスが供給されるため、ガスタービンエンジンの運転中は高温に曝される。したがって、タービン翼、つまり静翼および動翼を冷却する必要がある。このようなタービン翼を冷却する構造として、圧縮機で圧縮された空気の一部を、翼内に形成した冷却通路に導入し、圧縮空気を冷却媒体としてタービン翼を冷却することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
圧縮空気の一部をタービン翼の冷却に用いる場合、外部から冷却媒体を導入する必要がなく、冷却構造を簡単にできるメリットがある一方、圧縮機で圧縮された空気を多量に冷却に用いるとエンジン効率の低下につながるので、できるだけ少ない空気量で効率的に冷却を行う必要がある。タービン翼を高い効率で冷却するための構造として、複数のリブを格子状に組み合わせて形成した、いわゆるラティス構造体23を採用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。一般に、ラティス構造体では、その両側端が端部壁面により閉塞されている。一方の流路を流れる冷却媒体が、構造体の内外を仕切る壁面である仕切り板に接触し、転向して他方の流路に流入する。同様に、他方の流路を流れる冷却媒体が構造体の仕切り板に接触し、転向して一方の流路に流入する。このように、冷却媒体が端部壁面への接触・転向を繰り返すことで冷却が促進される。また、冷却媒体が格子状のリブを横切る際に発生する渦流により冷却が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5603606号明細書
【特許文献2】特許第4957131号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、冷却効率を高めるため、ラティス構造体に多数の仕切り板を設ければ、タービン翼の重量が増大する。また、ラティス構造体に多数の仕切り板を設けて仕切り板間の流路数を減少させた場合、何らかの原因で一部の流路が閉塞した場合に仕切り板間の流路全体における流量バランスが大きく偏る。その結果、翼内における冷却分布が偏ることによってタービン翼の耐久性が低下する。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決すべく、タービン翼の重量増大と耐久性低下を抑制しながら、高効率に冷却可能な冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るタービン翼の冷却構造は、高温ガスによって駆動されるタービンのタービン翼を内部から冷却するための構造であって、
前記タービン翼内に形成された冷却通路の第1壁面上に配置された複数のリブからなる第1リブ組と、前記冷却通路の前記第1壁面に対向する第2壁面上に配置された複数のリブからなる第2リブ組とを有し、前記第1リブ組と前記第2リブ組とが互いに格子状に重ねられて構成されたラティス構造体であって、前記第1リブ組の複数のリブ間に形成された流路と前記第2リブ組の複数のリブ間に形成された流路とを互いに連通させる複数のラティス連通部を有するラティス構造体を備え、
前記第1リブ組および前記第2リブ組が、それぞれ、前記冷却通路を流れる冷却媒体全体の移動方向に延びる仮想境界線に対して互いに逆向きに傾斜して延び、かつ前記仮想境界線上で互いに接する1対のリブからなるリブ壁を有しており、
前記第1リブ組および前記第2リブ組のそれぞれにおいて、少なくとも1つの前記リブ壁を形成する各リブが、その両端部における2つの前記ラティス連通部の間に複数のラティス連通部が形成されるように延設されている。
【0008】
この構成によれば、ラティス構造体の仮想境界線上おいて、逆向きに傾斜する流路から流入してきた冷却媒体同士が衝突することによって静圧が上昇し、冷却媒体が転向する。すなわち、仮想境界線に対してリブを逆方向に傾斜させることにより、仮想境界線上に仕切り板を設けなくとも、仕切り板を設けた場合と同様の効果を得ることができる。したがって、タービン翼の重量増大と耐久性低下を抑制しながら、高い冷却効率を実現できる。
【0009】
また、ラティス構造体において、冷却媒体が主として連通部を通過して他方のリブ組のリブを横切ることによって、冷却媒体中に渦流が生じる。本発明では、リブ壁を形成する各リブが、その両端部における2つのラティス連通部の間に複数のラティス連通部が形成されるように延設されているので、冷却媒体がリブ間の流路に沿って流れる間に、渦流を形成してラティス流路の壁面を冷却するための十分な距離が確保される。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記第1リブ組および第2リブ組は、平面視において共通の仮想境界線を有しており、かつ、各々のリブ壁の頂点部分が重なるように配置されていてもよい。この構成によれば、仮想境界線上において、冷却媒体が、一方のラティス流路から他方のラティス流路へ円滑に転向する。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記第1リブ組および前記第2リブ組が、それぞれ、前記仮想境界線に対して対称に形成されていてもよい。この構成によれば、より効果的に仮想境界線上における冷媒衝突による静圧上昇を生じさせることができるとともに、ラティス構造体の形成が容易になる。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記冷却媒体全体の移動方向が、前記タービン翼の高さ方向における根元部から先端部へ向かう方向であってもよい。この構成によれば、タービン翼において大きな応力がかかる部分であり、それゆえ冷却の必要性がより高い部分である根元部を冷却媒体の上流側とすることによって、さらに高い冷却効率が得られる。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記タービン翼の先端部における前記冷却通路に、前記第1壁面および前記第2壁面が平坦面として形成された冷媒導出部が設けられており、前記タービン翼の先端部の翼壁に、前記冷媒導出部から外部へ冷却媒体を排出する排出孔が設けられていてもよい。この構成によれば、冷却の必要性が比較的低い翼先端部に冷媒導出部を設けることにより、冷却効率を維持しながら円滑に冷却媒体を排出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タービン翼の重量増大と耐久性低下を抑制しながら、タービン翼を効率的に冷却することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る冷却構造が適用されるタービン翼の一例を示す斜視図である。
図2図1のタービン翼の冷却構造を模式的に示す縦断面図である。
図3図1のタービン翼の横断面図である。
図4図2の冷却構造に用いられるラティス構造体を示す斜視図である。
図5図2の冷却構造に用いられるラティス構造体を模式的に示す平面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る冷却構造の配置例を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態であるタービン翼の冷却構造が適用される、ガスタービンエンジンのタービンの動翼1を示す斜視図である。タービン動翼1は、図示しない燃焼器から供給された、矢印方向に流れる高温ガスGによって駆動されるタービンを形成している。タービン動翼1は、高温ガスGの流路GPに対して凹状に湾曲する第1翼壁3と、高温ガスの流路GPに対して凸状に湾曲する第2翼壁5とを有する。本明細書では、高温ガスGの流れ方向に沿った上流側(図1の左側)を前方と呼び、下流側(図1の右側)を後方と呼ぶ。なお、以下の説明では、冷却構造が設けられるタービン翼として、主としてタービン動翼1を例として示すが、特に説明する場合を除き、本実施形態に係る冷却構造は、タービン翼であるタービン静翼にも同様に適用することができる。
【0017】
具体的には、タービン動翼1は、図2に示すように、そのプラットフォーム11がタービンディスク13の外周部に連結されることで、周方向に多数植設されてタービンを形成している。タービン動翼1の前部1aの内部には、翼の高さ方向Hに延びて折り返す前部冷却通路15が形成されている。タービン動翼1の後部1bの内部には、後部冷却通路17が形成されている。これらの冷却通路は、図3に示すように、第1翼壁3と第2翼壁5との間の空間を利用して形成されている。
【0018】
図2に示すように、圧縮機からの圧縮空気の一部である冷却媒体CLが、径方向内側のタービンディスク13の内部に形成された前部冷却媒体導入通路19,後部冷却媒体導入通路21を通って、径方向外側に向かって流れ、それぞれ前部冷却通路15,後部冷却通路17に導入される。前部冷却通路15に供給された冷却媒体CLは、タービン動翼1の外部に連通する図示しない排出孔から外部へ排出される。後部冷却通路17に供給された冷却媒体CLは、タービン動翼1の先端部の翼壁に設けられた排出孔から外部へ排出される。この排出孔については後述する。以下、本実施形態に係る冷却構造をタービン動翼1の後部1bに設けた例について説明するが、本実施形態に係る冷却構造は、タービン動翼1のいずれの部分に設けてもよい。本実施形態では、後部冷却通路17内において、冷却媒体CLの全体が、タービン動翼1の高さ方向Hにおける根元部側から先端部側へ向かう方向に流れる。本明細書では、この冷却媒体CL全体の流れ方向を、冷媒移動方向Mと呼ぶ。また、後部冷却通路17における冷媒移動方向Mに直交する方向を横断方向Tと呼ぶ。
【0019】
後部冷却通路17の内部には、タービン動翼1を内部から冷却するための冷却構造を構成する一要素としてラティス構造体23が設けられている。図4に示すように、ラティス構造体23は、後部冷却通路17の対向する壁面上に、複数のリブ31からなる2つのリブ組を、互いに格子状に重ねることにより形成されている。本実施形態では、互いに平行かつ等間隔に配置された複数の第1リブ31Aからなる第1リブ組33A(図4における下段のリブ組)33Aと、互いに平行かつ等間隔に配置された複数の第2リブ31Bからなる第2リブ組33B(図4における上段のリブ組)33Bとが格子状に重ねられている。すなわち、第1リブ組33Aと第2リブ組33Bとは、平面視における格子形状の交差部分において互いに接触している。第1リブ31Aおよび第2リブ31Bは、それぞれ、タービン動翼1の翼厚方向に対向する2つの壁面、つまり、第1翼壁3の壁面である第1壁面3aおよび第2翼壁5の壁面である第2壁面5aに設けられている。
【0020】
図4に示すように、ラティス構造体23において、各リブ組33A,33Bの隣り合うリブ31,31間の間隙が冷却媒体CLの流路(ラティス流路)37を形成する。平面視において第1リブ組33Aのラティス流路37と第2リブ組33Bのラティス流路37とが交差する部分は、これら両リブ組33A,33Bのラティス流路37,37を互いに連通させるラティス連通部23aを形成する。
【0021】
ラティス構造体23において、各ラティス流路37の最上流端は閉塞されておらず上流側に開口しており、これらの開口が、ラティス流路37の入口(以下、単に「ラティス入口」という。)37aを形成している。ラティス構造体23において、各ラティス流路37の最下流端間は閉塞されておらず下流側に開口しており、これらの開口が、ラティス流路37の出口(以下、単に「ラティス出口」という。)37bを形成している。
【0022】
図5に示すように、第1リブ組33Aおよび第2リブ組33Bは、それぞれ、冷媒移動方向Mに延びる仮想境界線Lに対して互いに逆向きに傾斜して延び、かつ仮想境界線L上で互いに接する1対のリブ31,31からなるリブ壁35を有している。つまり、本明細書における仮想境界線Lとは、ラティス構造体23において、各リブ組33A,33Bの、一方向に傾斜したリブ部分からなる冷却領域と、これに隣接する逆方向に傾斜し板リブ部分からなる冷却領域との境界を画する仮想直線である。図示の例では、第1リブ組33Aおよび第2リブ組33Bは、それぞれ、仮想境界線Lに対して対称に形成されている。換言すれば、各リブ組におけるリブ壁35は、仮想境界線L上に頂点部分35aを有し、仮想境界線Lに対して対称なV字形状を有している。
【0023】
また、図示の例では、第1リブ組33Aおよび第2リブ組33Bは、平面視において共通の仮想境界線Lを有し(つまりそれぞれの仮想境界線Lが重なっており)、かつ、それぞれのリブ壁35の頂点部分35aが重なるように配置されている。換言すれば、同図に示すように、第1リブ組33Aの全体と第2リブ組33Bの全体とによって、平面視において、ラティス構造体23の全体に渡って連続した格子形状が形成されている。したがって、両リブ組33A,33Bの互いに重ならない直近の頂点部分35a,35aの間にも、仮想境界線L上に位置しない他のラティス連通部23aと同じ平面視形状および面積を有するラティス連通部23a(同図において符号「23aX」で示されるラティス連通部)が形成されている。
【0024】
ラティス構造体23に導入された冷却媒体CLは、同図に破線矢印で示すように、まず一方のリブ組(図示の例では下段の第1リブ組33A)のラティス入口37aからラティス流路37に流入し、他方のリブ組(図示の例では上段の第2リブ組33B)を横切ることにより渦流を生じさせる。つまり、冷却媒体CLは、ラティス構造体23において、ラティス連通部23aを通過することにより渦流を生じさせる。
【0025】
その後、冷却媒体CLは仕切り体39に衝突して転向し、同図に実線矢印で示すように、衝突した部分から他方のリブ組(図示の例では上段の第2リブ組33B)のラティス流路37に流れ込む。なお、仕切り体39は、ラティス流路37を流れてくる冷却媒体CLの流通を実質的に妨げることが可能であり、かつ、ラティス構造体23の側部において、冷却媒体CLを衝突させて、一方のラティス流路37から他方のラティス流路37へ流れ込むように転向させることができれば、どのようなものを用いてもよい。本実施形態では、平板状の側壁である仕切り板を仕切り体39として用いているが、例えば、複数の仕切り用ピンフィンを仕切り体39として用いてもよい。
【0026】
本実施形態では、さらに、図5に示すように、ラティス流路37の仮想境界線L上に位置するラティス連通部23aXにおいて、逆向きに傾斜する流路から流入してきた冷却媒体CL同士が衝突する。この冷却媒体CL同士の衝突によってラティス流路37内で静圧が上昇し、冷却媒体CLが転向して他方のラティス流路37に流れ込む。すなわち、仕切り板のような冷却媒体を衝突させる構造物が存在しない仮想境界線L上の部分においても、冷却媒体CLの他方のラティス流路37への転向が生じる。冷却媒体CLが仕切り体39および仮想境界線L上において転向することによっても冷却媒体CLに渦流が生じる。
【0027】
このように、ラティス構造体23においては、冷却媒体CLが、ラティス流路37を流れ、仕切り体39および仮想境界線L上において他方のラティス流路37に流れ込むことを繰り返した後にラティス構造体23から排出される。その過程において、冷却媒体CLがラティス連通部23aを通過し、当該ラティス流路37を横断する方向に延びる他方のリブ組を横切ること、および冷却媒体CLが転向することにより、冷却媒体CL流れの中に渦流が発生し、壁面3a,5aの冷却が促進される。
【0028】
さらに、第1リブ組33Aおよび第2リブ組33Bのそれぞれにおいて、リブ壁35を形成する各リブ31,31(仕切り体39から仮想境界線Lまで延びるリブ31)は、その両端部における2つのラティス連通部23aの間に、複数(図示の例では3つ)の連通部23aが形成されるように延設されている。このように構成することにより、冷却媒体CLがリブ間のラティス流路37に沿って仕切り体39と仮想境界線L上の部分との間を流れる間に、渦流を形成してラティス流路37の壁面を冷却するための十分な距離が確保される。
【0029】
本実施形態では、図4に示すように、ラティス流路37の各出口37b部分において、上段と下段の各リブ31の高さ、すなわち翼厚方向のラティス流路37高さhは同一である。また、第1リブ組33Aにおけるリブ31,31同士の間隔と、第2リブ組33Bにおけるリブ31,31同士の間隔とは同一である。すなわち、第1リブ組33Aにおけるラティス流路37幅wと、第2リブ組33Bにおけるラティス流路37幅wとは同一である。
【0030】
なお、第1リブ組33Aおよび第2リブ組33Bは、かならずしも仮想境界線Lに対して対称でなくともよい。例えば、各リブ組のリブ壁35を形成する各リブ31,31の位置が、仮想境界線L上において、互いに接する限度で偏位していてもよく、各リブ31,31の仮想境界線Lに対する傾斜角度が異なっていてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、第1リブ組33Aおよび第2リブ組33Bは、平面視において共通の仮想境界線Lを有し、かつ、それぞれのリブ壁35の頂点部分35aが重なるように配置されているので、冷却媒体CL同士が衝突する仮想境界線L上において、冷却媒体CLが、一方のラティス流路37から他方のラティス流路37へ円滑に転向する。もっとも、第1リブ組33Aの頂点部分35aと第2リブ組33Bの頂点部分35a,35aは重なっていなくともよい。また、第1リブ組33Aと第2リブ組33Bとで仮想境界線Lの位置は異なっていてもよい。
【0032】
次に、後部冷却通路17から冷却媒体CLをタービン動翼1の外部へ排出するための構造について説明する。図2に示すように、タービン動翼1の先端壁41に、後部冷却通路17と外部とを連通させる排出孔43が設けられている。すなわち、後部冷却通路17内の冷却媒体CLは、排出孔43から外部へ排出される。本実施形態では、さらに、後部冷却通路17の先端側である下流部に、第1壁面3aおよび第2壁面5aが平坦面として形成された冷媒導出部45が形成されている。より具体的には、後部冷却通路17のラティス出口37bよりも下流側(先端側)の部分が、前記冷媒導出部45として形成されている。ラティス構造体23のラティス出口37bから流出した冷却媒体CLは、冷媒導出部45を通った後、排出孔43から外部へ排出される。なお、第1壁面3aおよび第2壁面5aが「平坦面として形成された」とは、両壁面が突起物や凹所が設けられていない面として形成されていることを意味する。
【0033】
後部冷却通路17に上記の構造を有する冷媒導出部45を設けることは必須ではなく、例えば、後部冷却通路17の先端部までラティス構造体23を配置してもよいし、冷媒導出部45に相当する領域に、ピンフィンのような、ラティス構造体23とは異なる構造体を設けてもよい。もっとも、図示の例のように冷却の必要性が比較的低い翼先端部に冷媒導出部45を設けることにより、タービン動翼1において大きな応力がかかる部分である根元部分を効果的に冷却しながら、円滑に冷却媒体を排出することができる。同様の理由により、タービン静翼にラティス構造体23を設ける場合には、タービンの径方向外側となるタービン静翼の根元側にのみラティス構造体23を設けてもよい。
【0034】
なお、図2では、先端壁41に排出孔43を設けた例を示したが、タービン動翼1の先端部の他の翼壁、すなわち第1翼壁3および/または第2翼壁5のラティス出口37bに連通する部分に排出孔43を設けてもよい。また、排出孔43の数は、図示の例のように1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0035】
また、本実施形態に係るラティス構造体23は、一組の仕切り体間に単一の仮想境界線Lのみを有している。このような構成により、ラティス構造体23の構造を簡易にしながら、仕切り体を省略する効果を得ることができる。もっとも、ラティス構造体23は、一組の仕切り体間に2つ以上の仮想境界線Lを有するように形成されていてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、後部冷却通路17における冷媒移動方向Mは、タービン動翼1の高さ方向における根元部側から先端部側に向かう方向としたが、図6に示すように、冷媒移動方向Mを翼弦方向、すなわちタービン動翼1の外部の高温ガスGの流れ方向に沿った方向としてもよい。その場合、同図に示すように、少なくとも一つの仮想境界線Lを有するラティス構造体23を、仕切り体39を介して高さ方向Hに複数並べて配置してもよい。図示の例では、4つのラティス構造体23が、3つの仕切り体39を介して高さ方向Hに並べられている。
【0037】
なお、冷媒移動方向Mを高さ方向Hとする場合も、必要に応じて、少なくとも一つの仮想境界線Lを有するラティス構造体23を、仕切り体39を介して横断方向Tに複数並べて配置してもよい。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る冷却構造によれば、ラティス構造体23の仮想境界線L上おいて、逆向きに傾斜するラティス流路から流入してきた冷却媒体CL同士が衝突することによって静圧が上昇し、冷却媒体CLが転向する。すなわち、仮想境界線Lに対してリブ31,31を逆方向に傾斜させることにより、仮想境界線L上に仕切り板等の仕切り体を設けなくとも、仕切り体を設けた場合と同様の効果を得ることができる。したがって、タービン翼の重量増大と耐久性低下を抑制しながら、高い冷却効率を実現できる。
【0039】
また、ラティス構造体23において、冷却媒体CLが主としてラティス連通部23aを通過して他方のリブ組のリブ31を横切ることによって、冷却媒体CL中に渦流が生じる。本発明では、リブ壁35を形成する各リブ31,31が、その両端部における2つのラティス連通部23a,23aの間に複数のラティス連通部23aが形成されるように延設されているので、冷却媒体CLがリブ31,31間のラティス流路37に沿って流れる間に、渦流を形成してラティス流路37の壁面を冷却するための十分な距離が確保される。
【0040】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 タービン動翼(タービン翼)
3 第1翼壁
5 第2翼壁
17 後部冷却通路(冷却通路)
23 ラティス構造体
23a ラティス連通部
31 リブ
33A 第1リブ組
33B 第2リブ組
37 ラティス流路
CL 冷却媒体
G 高温ガス
L 仮想境界線
図1
図2
図3
図4
図5
図6