(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記風況情報と前記ブレードの疲労損傷量との相関関係、前記所定の部位におけるひずみと前記第1の荷重情報との相関関係、前記風況情報と前記第2の荷重情報との相関関係、並びに、前記第1及び第2の荷重情報と前記ブレードの疲労損傷量との相関関係、を予め記憶する相関関係記憶部をさらに備え、
前記疲労損傷量算出部、前記第1の荷重情報算出部、前記第2の荷重情報算出部、及び、前記疲労損傷量補正部は、前記相関関係記憶部に記憶された内容を参照しつつ、前記疲労損傷量の算出、前記第1の荷重情報の算出、前記第2の荷重情報の算出、前記疲労損傷量の補正、をそれぞれ行う、
請求項1に記載の風車発電機の疲労損傷量算出装置。
前記風況情報取得部により取得された風況情報と、前記風車発電機の設計時に想定された風速の平均及び風速の変化を表す風況情報と、をあわせて出力する風況情報出力部、
をさらに備える請求項1から6までのいずれか1項に記載の風車発電機の疲労損傷量算出装置。
前記第1の荷重情報及び前記第2の荷重情報と、前記第1の荷重情報と前記第2の荷重情報との差異を表す情報と、のうちの少なくともいずれかを出力する荷重情報出力部、
をさらに備える請求項1から7までのいずれか1項に記載の風車発電機の疲労損傷量算出装置。
【背景技術】
【0002】
風車発電機を運用する発電事業者には、運用コストの低減が要求されている。風車発電機の運用コストでは、点検や補修、故障による停止を考慮する必要がある。この運用コストは、風車発電機導入後の時間の経過に伴い、急激に増加することが知られている。つまり、風車発電機は、絶えず変動する風の影響を受け続けるため、風車発電機本体の各部に繰り返し加わる負荷によって疲労損傷や摩耗損傷が生じ、この結果、運用コストの増加を招くことになる。
【0003】
そこで、風車発電機の設計段階では、このような風の影響を十分に考慮して、強度評価が行われる。具体的には、風車発電機の設置予定場所で事前に風況情報を収集し、想定される平均風速や風速の変動に対して十分な強度を持つ風車発電機を設計する。例えばIECの風車標準では、風の強度は、風速を表す指標である参照風速が3段階あり、一方、風の変動を表す指標である乱流強度が3段階あり、さらにこれらを組み合わせて9段階に分類されている。したがって、風車発電機は、設置予定場所の風況や実際の運用を想定して設計される。
【0004】
例えば、風車発電機を構成しているタワーやナセルなどの構造物は、適切な構造設計をすることで、風によって生じる応力を低減して十分な疲労強度を確保できる。すなわち、タワーやナセルは、経時的な疲労によって破壊する可能性が低いため、例えば風車発電機の運転中や運転停止中に、風の影響で生じる応力を実測したり、疲労損傷の状況を計算したりする必要性などがほとんどない。
【0005】
これに対して、風車発電機のブレードは、疲労強度に対する裕度を大きくとることができないため、長期の運用や実際の風速の変動によって疲労損傷が生じる可能性が高い構造物である。したがって、ブレードは、経時変化する疲労損傷の状況を正しく予測する必要性がある。
【0006】
なお、風車発電機に内蔵されるギアや軸受などは、風による変動荷重によって摩耗損傷を受ける可能性が高いものの、振動計などのセンサを設けることで重大な損傷に至る前に軽い状況の損傷を検出することが可能となる。つまり、風車発電機の実際の運用や風速変動からブレードの損傷量を推定できれば、発電事業者は、風車発電機の運転制御や、点検及び補修を合理化して、運用コストを低減することができる。
【0007】
ここで、ナセルなどに取り付けた風向風速計や荷重センサの出力に基づき算出した風車各部に働く応力から、現在の疲労損傷率若しくは劣化度を演算により求め、さらにこれらを、予め定めた疲労劣化スケジュールテーブルと対比させながら、風車の運転を制御する第1及び第2の技術が提案されている。これらの技術によれば、疲労劣化スケジュールに対して現在の疲労損傷率に余裕がある場合とそうでない場合とで風車の制御を変えることによって、変動荷重による風車ブレードなどの疲労劣化を防止し、理想的な環境下で風車を運転することができる。
【0008】
また、複数の風力発電装置を有する風力発電システムにおいて、劣化度に基づき風力発電装置をグループ化し、高劣化した風力発電装置群に含まれる各風力発電装置を優先的に電力低減制御する第3の技術が知られている。つまり、この技術は、電力系統の要求に応じた有効電力の出力制御を行いつつ、ウインドファーム(大規模集中風力発電所)としての寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態を図面に基づき説明する。
<第1の実施の形態>
図1に示すように、本実施形態に係る風力発電システム10は、風車発電機(風力発電装置)20及び風車発電機の
疲労損傷量算出装置30を備えている。風車発電機20は、筐体としてのナセル15と、ナセル15を下方から支持する支柱であるタワー14と、複数のブレード(風車ブレード)12と、ハブを介して複数のブレード12を支持するボス19と、を主に備えている。
【0021】
ナセル15は、回転軸17、変速機構16、発電機本体18を内蔵する。回転軸17の一端部は、ボス19に固定され、回転軸17の他端部は、変速機構16と連結されている。変速機構16は、適宜のカップリング機構などを介して発電機本体18と連結されている。例えば3つ設けられたブレード12は、それぞれの基端部がボス19(回転軸17)の軸まわりに120度(deg)の間隔をおいて各々固定されている。
【0022】
ここで、風車発電機20の運転中(発電中)には、各ブレード12は、風力を受けて回転するように、各ブレード本体の圧力面(正圧面)及び負圧面の向きが調整される。なお、風車発電機20の運転停止中(非発電中)には、各ブレード12は、風力を受けても例えば回転しないように、各ブレード本体の圧力面及び負圧面の向きが調整される。このような複数のブレード12、並びにボス19及び回転軸17は、ナセル15に対して回転可能に支持されている。
【0023】
つまり、風車発電機20の運転中において、ボス19及び回転軸17と共に一体となって回転する複数のブレード12は、風力から得た流体エネルギを回転エネルギに変換する。また、回転軸17の回転エネルギ(駆動力)は、変速機構16により減速又は増速されて発電機本体18へ伝達される。発電機本体18は、伝達されたこの回転エネルギを用いて発電を行う。
【0024】
一方、ナセル15には、風速計や風向計などの機能を有する風況計測器(風況センサ)23が設けられている。風向や風速を計測可能な風況計測器23は、風車発電機20の設置された設置場所で、例えば風速の平均及び風速の変化を表す風況情報を計測し、計測したこの風況情報(計測結果)を出力する。なお、風況計測器23は、単に、風速や風向を計測し、この計測結果を、計測した時刻情報と共に出力するものであってもよい。一方、タワー14には、ひずみゲージ21、22や、作業者が出入りする出入口24が設けられている。
【0025】
ひずみゲージ21、22は、タワー14の胴部(本体部分)に取り付けられており、タワー14の例えば軸方向のひずみを各々計測する。なお、タワー14の例えば径方向のひずみを計測させるように、ひずみゲージ21、22を取り付けてもよい。また、ひずみゲージ21とひずみゲージ22とは、
図1に示すように、タワー14における、例えば高さの異なる位置にそれぞれ取り付けられている。ひずみゲージ21、22の計測結果を基づき、風力によりタワー14やブレード12に加わる荷重やその荷重の変化を算出することが可能となる。さらに、ひずみゲージ21、22の計測結果と、タワー14の各部の寸法値と、ひずみゲージ21、22の取り付け位置と、に基づいて、タワー14に加わる曲げモーメントなどを算出することも可能となる。
【0026】
ここで、タワー14に対して曲げモーメントが加わる方向は、ナセル15の取り付けの向きや位置によって影響を受ける。しかしながら、例えば2つのひずみゲージを、タワー14の高さ方向において同一の高さ位置で、かつタワー14を360度(deg)、周回する周回角度方向において互いを90度(deg)ずらした位置に、それぞれ設置して、タワー14の軸方向のひずみを計測させることで、タワー14において、曲げ応力が最大となる方向を求めることができる。また、90度取り付け位置をずらしたこのような2つのひずみゲージに加え、上述したように、取り付け高さをずらしたひずみゲージをさらに追加してもよい。
【0027】
なお、ひずみゲージの取り付け(貼り付け)位置は、ブレード12に加わる力に応じて曲げモーメントが大きくなるタワー14の低層階が好ましいものの、タワー14の剛性がタワー14の周回方向に応じて変わらないことがより好ましいので、
図1に示すように、出入口24が設けられた高さ位置を避けたほうがよい。
【0028】
ところで、
図2は、上述した第1の技術における疲労寿命解析プロセスを比較例として示すフローチャートである。この比較例には、風車の劣化度を計算して、現在の劣化度と、長期間にわたる劣化度スケジュールと、を対比させた情報を用いて、風車を制御する方法が開示されている。この比較例では、現在の劣化度を計算する方法として、風速計などのセンサから取得した情報を用いて(S21)、風車に加わる荷重波形を計算し(S22)、この荷重波形を基に座標変換を行って特定の係数を算出し(S23)、この算出結果から風車に生じる応力波形を求める(S24)。さらに、この応力波形からレインフローカウント法を用いて応力頻度を計算し(S25)、計算した応力頻度から、個々の繰返し応力に対する疲労損傷率を線形累積損傷則から求める(S26)。一連のこの
疲労損傷量算出方法は、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)の風車設計標準などにおける一般的な疲労設計法に準拠した公知の技術であるといえる。
【0029】
図3Aは、ある一定期間の計測例として、風況計測器23で計測した10分間の風速の変化を示している。また、
図3Bは、上記の10分間にブレード12に加わる荷重の変化を示し、さらに、
図3Cは、上記の10分間にブレード12に作用するモーメントの変化を示している。このように風速は絶えず変化し、それに伴い、ブレード12に作用する荷重、モーメントも変動する。このような荷重及びモーメントの変動から、疲労評価の対象
部位の応力変動とそれらの回数(繰り返し回数)とを計算すれば、疲労損傷評価を行うことが可能となる。しかしながら、このような高速に変化する事象を逐一計算して累積する疲労損傷評価は、高性能な計算機やセンサが必要になる。
【0030】
また、風速の変化から風車のブレードに加わる繰返し応力を算出する場合、いわゆるタワーシャドウ効果(回転中のブレードがタワーの前を通過するときに、ブレードの回転が減速する現象)などの影響、つまりブレードの回転に伴う応力変化、が考慮されない算出結果となる。各ブレードの例えばルート部(根元部)に、ひずみゲージなどのセンサを取り付ければ、上記のタワーシャドウ効果の影響なども、繰返し応力の算出結果に加味されることになるが、センサの使用個数が増え、これに伴い計算負荷も増加することになる。また、この場合、複雑な計算を要することになるので、発電事業者にとっては、疲労損傷評価の妥当性が判断し難いものとなる。
【0031】
そこで、本実施形態に係る風車発電機の
疲労損傷量算出装置30は、例えば、高速サンプリングで得た膨大なデータを分析しなくても、発電事業者からみて妥当性のある風車発電機の疲労損傷評価を行えるものである。本実施形態の
疲労損傷量算出装置30は、風速の変化に応じて、疲労損傷率を逐一計算して累積するのではなく、ある一定期間(所定期間)毎に疲労損傷率を求め、最終的に一定期間毎の疲労損傷率を積算する。
【0032】
具体的には、本実施形態の風車発電機の
疲労損傷量算出装置30は、
図1に示すように、風況情報取得部31、疲労損傷量算出部32、ひずみ情報取得部33、第1の荷重情報算出部34、第2の荷重情報算出部35、疲労損傷量補正部36、疲労損傷量積算部37、疲労損傷量出力部38、並びに相関関係記憶部39を備えている。これら風況情報取得部31や疲労損傷量算出部32を始めとする各構成要素(
図1中に機能ブロックで示された構成要素)は、各種の電子部品を組み合わせて構成されるハードウェアによって実現されていてもよいし、所定のプログラムを実行して得られるソフトウェアによって実現されていてもよい。
【0033】
風況情報取得部31は、風車発電機20の設置場所で一定期間中に計測された風速の平均(平均風速)及び風速の変化(風速の変化幅)を表す風況情報を取得する。つまり、風況情報取得部31は、風車発電機20のナセル15に設けられた風況計測器23より例えば出力される上記の風況情報を取得する構成であってもよいし、風況計測器23が計測した例えば風速や風向及びその計測時刻を風況計測器23から受け取り、受け取ったこれらの情報を基に風況情報を算出して当該風況情報を取得する構成であってもよい。
【0034】
ここで、上記した風況情報は、一定期間中の最大風速と最小風速との差を表す情報や、一定期間中の風速の変化の標準偏差(変動風速の標準偏差)を風速の平均で除した乱流強度を表す情報を含む概念である。本実施形態の風況情報取得部31は、例えば10分間の平均風速と乱流強度とを代表値(指標値)として取得する。
【0035】
一方、疲労損傷量算出部32は、風況情報取得部31により取得された風況情報に基づいて、風車発電機20のブレード12の疲労損傷量を算出する。疲労損傷量は、疲労損傷率、寿命消費量、寿命消費率なとどと同じ意味を表す用語であり、例えば全く損傷していないノーダメージの部品が数値「0」又は「0%」などで表現され、例えば完全破壊の状態の部品が数値「1」又は「100%」などで表現される。本実施形態の疲労損傷量算出部32は、風況情報取得部31により取得された平均風速と乱流強度とを用いて、疲労損傷量(疲労損傷量の基準値)を算出する。
【0036】
図4Aは、
図3Bで示した10分間の荷重変化(ブレード12に加わる荷重変動)を、レインフロー法によってサイクルカウントし、荷重変動Faと、各荷重変動Faの頻度を足し合わせた合計回数Nとを求め、これをヒストグラムで整理した結果である。上記のレインフロー法は、レインフロー計数法(rainflow counting method)などともいい、不規則な繰り返し変動荷重を受ける構造体において、疲労寿命を予測するための応力頻度、若しくは、ひずみ頻度の計数法の一つである。
図4Aに示すように、ブレード12に作用する荷重変動Faは、小さいFaの回数(頻度)が多く、まれに大きなFaがある。
【0037】
一方、
図4Bは、ヒストグラムの分布を関数化して確率密度にした結果を示している。荷重変動Faの分布をモデル化するのに適した確率関数としては、ワイブル分布などが挙げられる。ワイブル分布は、2つのパラメータ、分布の形を決める形状パラメータ、分布の幅(横軸の大きさ)を決める寸法パラメータによって定義できる。これにより、
図3Cに示した10分間のモーメントの変化も、荷重変動と同様に、モーメント変動Maの大きさとその頻度とを示す分布をモデル化することができる。
【0038】
すなわち、
図3A〜
図3Cに示した風速、荷重、モーメントは、それぞれ10分間の平均風速、10分間の乱流強度、10分間の荷重変動の合計回数、10分間の荷重変動分布の形状パラメータ、10分間の荷重変動分布の尺度パラメータ、10分間のモーメント変動の合計回数、10分間のモーメント変動分布の形状パラメータ、10分間のモーメント変動分布の尺度パラメータ、という代表値に変換できる。
【0039】
このような処理を、別の10分間、つまり、平均風速、乱流強度が異なる場合についても行って分析すると、平均風速や乱流強度と合計回数、各形状パラメータ、各尺度パラメータの関係を分析できる。この結果、平均風速、乱流強度とパラメータとの明確な相関が明らかになれば、風況から荷重変動やモーメント変動が求められることになる。例えば、尺度パラメータは、平均速度と乱流強度とを掛け合わせたパラメータで整理すると、良好な相関が得られる。一方、明確な相関が認められない場合もある。
【0040】
図5A、
図5Bは、荷重変動分布の形状パラメータの分析例を示している。
図5A、
図5Bに示すように、平均風速や乱流強度との間に、全てのプロットで成立する相関が認められない場合、平均風速や乱流強度の範囲を区切ってマトリックス化し、風況のパラメータを用いて関数化する。なお、疲労損傷評価に際して要求される精度は、パラメータ毎に異なる。また、要求される疲労損傷評価の精度によっても異なる。
【0041】
続いて、風況情報(平均風速及び乱流強度)から、10分間の荷重変動の合計回数、10分間の荷重変動分布の形状パラメータ、10分間の荷重変動分布の尺度パラメータを求めることができるようになった以降の疲労損傷評価プロセスについて説明する。ワイブル分布の形状パラメータと尺度パラメータとを用いると、荷重変動の値がある範囲をとる場合の確率を計算できる。10分間の合計回数を掛ければ、ある値の荷重変動の10分間の回数となる。モーメントの場合も同様である。
【0042】
図6は、疲労評価の対象部位の疲労寿命線図を例示したものである。つまり、
図6は、疲労評価の対象部位における材料の設計S−N線図(応力振幅と破断回数の関係)と荷重が加わった場合に疲労評価対象部位に生じる応力との関係を用いて、荷重変動Faと疲労評価対象部位(本実施形態ではブレード12)の破断回数Nfとの関係に直したものである。
図6に示すように、荷重変動Faの大きさが決まれば、破断回数Nfが決定される。したがって、ある値の荷重変動に対応した破断回数がわかれば、累積疲労損傷則にて疲労損傷量を求めることが可能となる。すなわち、ある10分間の風況下で取り得る、荷重変動の範囲とそれらの各回数(破断回数)を推定することができ、これにより、10分間の疲労損傷量(疲労損傷量の予測値)を算出できる。
【0043】
様々な条件(個々のケース)について整理すれば、
図7に示すように、平均風速及び乱流強度(風況情報)から疲労損傷量を求める例えば風車発電機運転中のマトリックス(風況情報とブレード12の疲労損傷量との相関関係)を作成することが可能となる。各マトリックスの内容は、
図8A、
図8Bに示すように、ケース毎に区分された、平均風速及び乱流強度を表す風況情報から疲労損傷量を算出するための評価式で構成される。
【0044】
ここで、同じ風況でもブレード12に加わる繰返し応力は、風車発電機20の運転状況によって変わる。そこで、上述したマトリックスは、
図9A、
図9Bに示すように、風車発電機20の運転中及び運転停止中といった運転状況に応じて変更を加えたものが予め用意されている。つまり、
図9A、
図9Bは、風車発電機20の運転中、運転停止中において、平均風速と風速変化(乱流強度など)との相対的な関係を個々のケース毎に区分したマトリックスを例示している。さらに、
図10は、風車発電機20の運転中の状況において、ケース毎の平均風速と疲労損傷量との相関関係を表している。
図10の相関関係では、実線に比べて、破線は、風速の変化が大きく、疲労損傷量も大きくなっている。
図10に示すような情報を利用することで、ケース及び平均風速から疲労損傷量を求めることが可能となる。
【0045】
すなわち、
図1に示すように、相関関係記憶部39は、平均風速及び乱流強度を表す風況情報とブレード12の疲労損傷量との相関関係(例えば
図8A、
図8B、
図10などに例示した情報)を予め記憶している。さらに、疲労損傷量算出部32は、相関関係記憶部39に記憶された内容を参照しつつ、風車発電機20におけるブレード12の疲労損傷量を算出する。
【0046】
また、本実施形態に係る風車発電機の
疲労損傷量算出装置30は、疲労評価の信頼性を向上させるために、風況情報を基に算出したブレード12に加わり得る荷重(荷重の基準値)とひずみの計測値を基に算出したブレード12に加わり得る荷重とを比較する。つまり、
図1に示すように、ひずみ情報取得部33は、一定期間中に計測された風車発電機20の所定の部位(本実施形態では風車発電機20が備えた支柱であるタワー14)におけるひずみを表す情報を取得する。具体的には、ひずみ情報取得部33は、タワー14に取り付けられたひずみゲージ21、22を少なくとも含む2以上のひずみゲージの計測結果(例えば上記した90度取り付け位置をずらした2つのひずみゲージの計測結果)を取得する。
【0047】
また、第1の荷重情報算出部34は、ひずみ情報取得部33により取得されたひずみを表す情報に基づいて、一定期間中にブレード12に加わる荷重の平均及び荷重の変化を表す第1の荷重情報を算出する。さらに、第2の荷重情報算出部35は、風況情報取得部31により取得された風況情報に基づいて、一定期間中にブレード12に加わる荷重の平均及び荷重の変化を表す第2の荷重情報を算出(推定)する。また、疲労損傷量補正部36は、第1及び第2の荷重情報算出部34、35によりそれぞれ算出された第1及び第2の荷重情報に基づいて、疲労損傷量算出部32により算出された疲労損傷量を補正する。
【0048】
ここで、
図11は、前記した
図10に示した例と同じケースにおいて、平均風速と、ブレード12に加わり得る荷重変化(荷重変化の推定値)と、の相関関係を表している。一方、
図12は、計測されたひずみを表す情報に基づくブレード12への荷重変化ΔF2及び風況情報を基に推定したブレード12への荷重変化ΔF1と、平均風速と、の相関関係を示している。
図12に示すように、風況情報を基に推定した荷重変化ΔF1は、ひずみを表す情報に基づくブレード12への荷重変化ΔF2と異なる場合がある。この理由は、設計時に用いる荷重計算式や適宜のツールの計測精度などが不十分な場合も考えられるが、他にもブレードのピッチ制御、発電機出力、制御不具合による想定外の荷重の影響など、多様な場合が考えられる。
【0049】
そこで、
図1に示すように、相関関係記憶部39は、風況情報とブレード12の疲労損傷量との相関関係の他に、前記所定の部位(タワー14)におけるひずみと前記した第1の荷重情報との相関関係、風況情報と前記した第2の荷重情報との相関関係、並びに、第1及び第2の荷重情報とブレード12の疲労損傷量との相関関係、を予め記憶している。一方、第1の荷重情報算出部34、第2の荷重情報算出部35及び疲労損傷量補正部36は、相関関係記憶部39に記憶された内容を参照しつつ、第1の荷重情報の算出、第2の荷重情報の算出、疲労損傷量の補正、をそれぞれ行う。これにより、ブレード12に加わる応力を適切に評価することが可能となる。
【0050】
また、疲労損傷量積算部37は、一定期間の単位で疲労損傷量補正部36によりそれぞれ補正された複数の疲労損傷量を積算する。ここで、既述してきた一定期間とは、例えば5分、10分、20分などといった、所定の時間間隔であって、疲労損傷量積算部37は、一定期間を5分間として求めた疲労損傷量と、一定期間を10分間として求めた疲労損傷量などと、を積算するものであってもよい。一方、疲労損傷量出力部38は、疲労損傷量積算部37により積算された疲労損傷量を出力する。疲労損傷量出力部38は、例えば表やグラフなどで疲労損傷量を可視的に表示する表示装置として構成されていてもよいし、風車発電機の
疲労損傷量算出装置30とは別体の表示装置へ疲労損傷量を表示出力するためのインターフェースとして構成されていてもよい。
【0051】
次に、風車発電機の
疲労損傷量算出装置30による
疲労損傷量算出方法を
図13に示すフローチャートに基づき説明する。
図13に示すように、まず、風況情報取得部31は、風車発電機20の設置場所で(ナセル15に設けられた風況計測器23により)、一定期間中に計測された風速の平均及び風速の変化を表す風況情報を取得する(S1)。次に、疲労損傷量算出部32は、風況情報取得部31により取得された風況情報に基づいて、風車発電機20におけるブレード12の疲労損傷量を算出する(S2)。
【0052】
さらに、ひずみ情報取得部33は、ひずみゲージ21、22により一定期間中に計測された風車発電機20の所定の部位(タワー14の軸方向)におけるひずみを表す情報を取得する(S3)。次いで、第1の荷重情報算出部34は、ひずみ情報取得部33により取得されたひずみを表す情報に基づいて、一定期間中にブレード12に加わる荷重の平均及び荷重の変化を表す第1の荷重情報を算出する(S4)。一方、第2の荷重情報算出部35は、風況情報取得部31により取得された風況情報に基づいて、一定期間中にブレード12に加わる荷重の平均及び荷重の変化を表す第2の荷重情報を算出する(S5)。
【0053】
続いて、疲労損傷量補正部36は、第1及び第2の荷重情報算出部34、35によりそれぞれ算出された第1及び第2の荷重情報に基づいて、疲労損傷量算出部32により算出された疲労損傷量を補正する(S6)。次に、疲労損傷量積算部37は、補正された疲労損傷量の数(個数)が、規定した数を超えている場合(S7のYES)、前記一定期間の単位で疲労損傷量補正部36によりそれぞれ補正された複数の疲労損傷量を積算する(S8)。さらに、疲労損傷量出力部38は、疲労損傷量積算部37により積算された疲労損傷量を例えば表示装置に表示出力する(S9)。
【0054】
既述したように、本実施形態に係る風車発電機の
疲労損傷量算出装置30を含む風力発電システム10及び風車発電機の
疲労損傷量算出方法によれば、センサ類の追加、高機能なサンプリング装置の設置、膨大なデータを分析処理する例えば高性能な演算装置の追加によるモニタリングコストの増加、などを抑えつつ、ブレード12についての信頼度の高い疲労損傷量を容易に求めることができる。つまり、本実施形態によれば、風車発電機20における疲労寿命の解析精度を容易に高めることができるので、発電事業者では、解析精度が高められた疲労寿命の解析結果を基に、風車発電機20に対する適切な点検、補修、更新計画などを立案することができる。
【0055】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施形態を
図14に基づき説明する。なお、
図14中において、
図1に示した第1の実施形態中の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付与し重複する説明を省略する。
【0056】
図14に示すように、第2の実施形態に係る風力発電システム50は、第1の実施形態の風力発電システム10が備えていた風車発電機の
疲労損傷量算出装置30に代えて、風車発電機の
疲労損傷量算出装置70を備えている。風車発電機の
疲労損傷量算出装置70は、風車発電機の
疲労損傷量算出装置30の構成に加え、風況情報出力部71及び荷重情報出力部72をさらに備えている。
【0057】
風況情報出力部71は、風況情報取得部31により取得された風況情報と、風車発電機20の設計時に想定された風速の平均(平均風速)及び風速の変化(乱流強度)を表す風況情報と、をあわせて出力する。一方、荷重情報出力部72は、第1及び第2の荷重情報算出部34、35によりそれぞれ算出された第1の荷重情報及び第2の荷重情報と、前記第1の荷重情報と前記第2の荷重情報との差異を表す情報と、のうちの少なくともいずれかを出力する。なお、風況情報出力部71及び荷重情報出力部72は、例えば表やグラフなどで上記の各風況情報や上記の差異を表す情報を可視的に表示する表示装置として構成されていてもよいし、風車発電機の
疲労損傷量算出装置30とは別体の表示装置へ各風況情報や前記差異を表す情報を表示出力するためのインターフェースとして構成されていてもよい。
【0058】
したがって、本実施形態に係る風車発電機の
疲労損傷量算出装置70を含む風力発電システム50によれば、設計時に想定した風況に対する実際の風況や、実際の風況による風車発電機の応答性がどのような状況にあるのかを、例えば発電事業者が容易に把握することが可能となる。これにより、発電事業者では、風車発電機の有益な運用を実現することができる。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。