(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0020】
〔1.インクジェット印刷用凝集インク〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インク(以下、単に「凝集インク」と称する場合がある。)は、アニオン性樹脂を含むインク(以下、「アニオン性樹脂含有インク」と称する場合がある。)と接触することで当該アニオン性樹脂を含むインクとの凝集物を生成するためのインクであって、ポリエチレンの水素の内、少なくとも一つが−CH
2NH
2基に置換されているアミン系ポリマーと、難水溶性アルカンジオールと、アルコールと、1,2−ヘキサンジオールと、を含む。
【0021】
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、プラスチック基材(被記録媒体)に対する密着性及び濡れ性が良好である。従って、このような凝集インクをインクジェット記録方法に使用することで、プラスチック基材に対しても所望の文字、画像等を良好に印刷することができる。また、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、泡立ちが抑制され、且つ凝集インク中の成分が水に対して分離せずに良好に相溶する。従って、このような凝集インクは、取扱い性に優れる。
【0022】
好ましい一態様において、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクの表面張力は、35mN/m以下であり、より好ましくは、30mN/m以下である。凝集インクの表面張力が前記範囲であれば、プラスチック基材に対する濡れ性が良好である。凝集インクの表面張力は、Wilhelmy型表面張力計を用いて測定することができる。
【0023】
また、好ましい一態様において、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、実施例において後述した方法によって評価したプラスチック基材に対する密着性のスコアが、7以上であり、より好ましくは、10である。密着性のスコアが前記範囲であれば、プラスチック基材に対する密着性が良好である。尚、プラスチック基材については後述する。
【0024】
〔アミン系ポリマー〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、アミン系ポリマーを含むことによって、プラスチック基材への密着性が向上する。
【0025】
アミン系ポリマーは、ポリエチレンの水素の内、少なくとも一つが−CH
2NH
2基に置換されているものを言う。アミン系ポリマーは、好ましくは、ポリエチレンの水素の内、50%以上の水素が−CH
2NH
2基に置換されており、より好ましくは、ポリエチレンの水素の内、80%以上の水素が−CH
2NH
2基に置換されている。
【0026】
アミン系ポリマーとしては、例えば、アリルアミンが重合しているポリアリルアミンが挙げられる。具体的には、ポリアリルアミンは、例えば、PAA−15C、PAA−08及びPAA−03(いずれもニットーボーメディカル株式会社製)等が挙げられる。これらのポリアリルアミンの構造式は、下記の構造式(1)で表わされる。
【化1】
(前記構造式(1)中、nは15以上の整数である。)
ポリアリルアミンは、前記構造式(1)中、nは、15以上の整数であるものであることが好ましい。nが15以上であることによって、プラスチック基材に対する密着性が良好となる。
【0027】
また、上述のアミン系ポリマーは、ポリエチレンの水素の一部が、本発明の効果を損なわない範囲で、−CH
2NH
2基以外の置換基によってさらに置換されていてもよい。−CH
2NH
2基以外の置換基でポリエチレンの水素の一部が置換されている形態において、当該置換基による置換率は、ポリエチレン中の水素の内10%以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクにおける、アミン系ポリマーの含有量は、凝集インク全量に対して0.5重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。アミン系ポリマーの含有量が前記範囲であれば、プラスチック基材に対する密着性が良好である。
【0029】
また、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクにおける、アミン系ポリマーの重量平均分子量が1000以上、50000以下であることが好ましく、3000以上、15000以下であることがより好ましい。
【0030】
アミン系ポリマーの重量平均分子量が1000以上であれば、プラスチック基材に対する密着性が良好である。また、アミン系ポリマーの重量平均分子量が50000以下であれば、インクジェット印刷時の凝集インクの吐出安定性が良好である。
【0031】
例えば、上述のPAA−15Cの重量平均分子量は15000、PAA−08の重量平均分子量は8000、及びPAA−03の重量平均分子量は3000である。なお、本願明細書中の「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したポリエチレングリコール換算の値を意味する。
【0032】
〔難水溶性アルカンジオール〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、難水溶性アルカンジオールを含むことにより、凝集インクの表面張力を低下させて、基材への濡れ性を向上させることができる。
【0033】
液体の表面張力を低下させるために界面活性剤を添加する場合があるが、液体が泡立ち易くなる。また、界面活性剤の種類によっては水への溶解性が悪い、十分に表面張力を低下させることができない場合がある。これに対して、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは難水溶性アルカンジオールを含むことにより、界面活性剤を含有していなくても、十分に表面張力を低下させることができる。さらに、界面活性剤を含有していないので凝集インクの泡立ちを抑制することができる。
【0034】
ここで、難水溶性とは、20℃での水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が1.0g未満であることを意味する。
【0035】
また、難水溶性アルカンジオールの炭化水素基部分は、直鎖又は分枝鎖のいずれであってもよい。
【0036】
難水溶性アルカンジオールとしては、例えば、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。この中でも、難水溶性アルカンジオールは、1,2−オクタンジオールであることが好ましい。これらは、単独で又は複数種類を組み合わせて使用し得る。
【0037】
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクにおける、難水溶性アルカンジオールの含有量は、凝集インク全量に対して0.1重量%以上、2重量%以下であることが好ましく、0.2重量%以上、1重量%以下であることがより好ましく、0.3重量%以上、0.8重量%未満であることがさらに好ましい。難水溶性アルカンジオールの含有量が0.1重量%以上であれば、プラスチック基材に対する濡れ性が良好となる。また、難水溶性アルカンジオールの含有量が2重量%以下であれば、成分が分離することを抑制することができる。
【0038】
〔アルコール〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、アルコールを含む。ここで、アルコールは、水溶性であり、且つ1,2−ヘキサンジオールとは異なるアルコールである。
【0039】
ここで、水溶性とは、20℃での水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0g以上であることを意味する。
【0040】
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、後述する1,2−ヘキサンジオールと共に、アルコールを含むことにより、難水溶性アルカンジオールの水に対する相溶性を向上させることができる。その結果、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、難水溶性アルカンジオールが分離することが抑制される。
【0041】
上述のアルコールとしては、水溶性であり、且つ1,2−ヘキサンジオールとは異なるアルコールである限りは特に限定されず、一価のアルコール又は多価アルコールを好適に使用し得る。上述のアルコールには、多価アルコールの一部のヒドロキシ基が、例えば、メチル基等の置換基に置換された化合物も含むものとする。
【0042】
上述のアルコールとしては、これらのアルコールの中でも、特に、一価のアルコールであることが好ましい。一価のアルコールを使用する場合、難水溶性アルカンジオールの分離を抑制するために、凝集インクにおけるアルコールの含有量を多くする必要がないので、インクジェット印刷物の乾燥性が悪化することを抑制することができる。
【0043】
このような一価のアルコールとしては、例えば、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらのアルコールは、単独で又は複数種類を組み合わせて使用し得る。
【0044】
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクにおける、アルコールの含有量は、凝集インク全量に対して0.1重量%以上、20重量%以下であることが好ましい。アルコールの含有量が0.1重量%以上であることにより、成分が分離することを抑制することができる。また、アルコールの含有量が20重量%以下であることにより、インクジェット印刷物の乾燥性が良好となる。
【0045】
〔1,2−ヘキサンジオール〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、上述のアルコールと共に、1,2−ヘキサンジオールを含むことにより、難水溶性アルカンジオールの水に対する相溶性を向上させることができる。
【0046】
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクにおける、1,2−ヘキサンジオールの含有量は、凝集インク全量に対して0.1重量%以上、5重量%以下であることが好ましい。1,2−ヘキサンジオールの含有量を0.1重量%以上とすることにより、成分が分離することを抑制することができる。また、1,2−ヘキサンジオールの含有量を5重量%以下とすることにより、インクジェット印刷物の乾燥性が良好となる。
【0047】
さらに、凝集インクに含まれる、1,2−ヘキサンジオールとアルコールと難水溶性アルカンジオールとの含有量の和が、凝集インク全量に対して0.3重量%以上、27重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以上、25.1重量%以下であることがより好ましい。1,2−ヘキサンジオールとアルコールと難水溶性アルカンジオールとの含有量の和が前記範囲であれば、難水溶性アルカンジオールの水に対する相溶性を向上させつつ、凝集インクの表面張力を十分に低下させることができる。
【0048】
また、1,2−ヘキサンジオールとアルコールと難水溶性アルカンジオールとの含有量の和を100重量%とした場合の、難水溶性アルカンジオールの含有量は、0.4重量%以上、50重量%以下であることが好ましい。難水溶性アルカンジオールの含有量が前記の数値範囲であれば、難水溶性アルカンジオールの水に対する相溶性を向上させることができる。
【0049】
さらに、凝集インクに含まれる、1,2−ヘキサンジオールとアルコールとの含有量の和を100重量%とした場合に、1,2−ヘキサンジオールの含有量は、5重量%以上、90重量%以下であることが好ましい。
【0050】
〔溶媒〕
本発明の一態様における凝集インクは、上述した各成分を溶解するための溶媒を含む。溶媒としては、水、又は水溶性溶媒が挙げられる。水溶性溶媒としては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、複素環類、含硫黄化合物、多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。
【0051】
〔アニオン性樹脂含有インク〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、アニオン性樹脂含有インクと接触することで当該アニオン性樹脂含有インクとの凝集物を生成するためのインクである。アニオン性樹脂含有インクとしては、アニオン性樹脂を含むインクであればよい。アニオン性基としては、例えば、COO
−、SO
3−等が挙げられる。アニオン性樹脂含有インクは、水性インクであることが好ましい。また、アニオン性樹脂含有インクは、アニオン性樹脂エマルジョンであってもよく、アニオン性樹脂が溶媒に溶解したものであってもよい。また、色材を含有していてもよく、例えばメジウムだけのインクのように色材含有していなくてもよい。アニオン性樹脂エマルジョンとは、アニオン性基を有する樹脂のエマルジョンである。アニオン性樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン系樹脂エマルジョン、ポリエステル系樹脂エマルジョン、エポキシ系樹脂エマルジョン、塩化ビニル系樹脂エマルジョン等が挙げられる。これらは、単独で又は複数種類を組み合わせて使用し得る。水性インクの溶媒又は分散媒としては、水又は水溶性溶媒が挙げられる。水溶性溶媒としては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、複素環類、含硫黄化合物、多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。
【0052】
〔インクジェット印刷用凝集インクの製造方法〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、水に、上述の含有量となるように、アミン系ポリマーと、難水溶性アルカンジオールと、アルコールと、1,2−ヘキサンジオールとを混合することによって製造することができる。
【0053】
〔用途〕
本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、インクジェット記録法による印刷に好適に用いることができる。
【0054】
〔2.印刷方法〕
本発明の一態様に係る印刷方法は、インクジェット印刷用凝集インクを基材上に塗布する凝集インク塗布工程と、前記凝集インク塗布工程の後、又は前記凝集インク塗布工程と実質的に同時に、着色剤を含む着色インクを基材上に塗布する着色インク塗布工程とを含む。
【0055】
凝集インク塗布工程と着色インク塗布工程とを含むことで、基材上で印刷用凝集インクと着色インクとを接触させて凝集物を生じさせることができる。その結果、基材に対して所望の文字、画像等を印刷することができる。
【0056】
上述したとおり、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは、プラスチック基材に対する密着性が良好であるので、本発明の一態様に係る印刷方法によれば、プラスチック基材に対しても所望の文字、画像等を良好に印刷することができる。また、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクは表面張力が低いので、基材への濡れ性が高い。このため、本発明の一態様に係る印刷方法によれば、着色インクのドットの大きさを大きくすることができる。
【0057】
さらに、本発明の一態様に係る印刷方法は、本発明の一態様に係るインクジェット印刷用凝集インクを使用するので、印刷中に凝集インクの泡立ちや成分が分離することを抑制することができる。
【0058】
本発明の一態様に係る印刷方法は、前記凝集インク塗布工程の後、又は前記凝集インク塗布工程と実質的に同時に、アニオン性樹脂エマルジョンを基材上に塗布する工程を含むことが好ましい。
【0059】
〔基材〕
本発明の一態様に係る印刷方法において、基材は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0060】
本発明の一態様に係る印刷方法では、凝集インク塗布工程において上述したインクジェット印刷用凝集インクを塗布するので、プラスチック基材に対する着色インクの密着性を向上させることができプラスチック基材に対しても好適に印刷することができる。プラスチック基材としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(ABS)等を含む基材を挙げることができる。
【0061】
〔着色インク〕
着色インクに含まれている着色剤は、例えば、顔料、及び染料を挙げることができる。
【0062】
着色インクにおける着色剤の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0063】
着色インクは、着色剤の他に、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、粘度調整剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0064】
〔凝集インク塗布工程〕
凝集インク塗布工程は、インクジェット印刷用凝集インクを基材上に塗布する工程である。
【0065】
基材への凝集インクの塗布方法は、例えば、インクジェット記録方法を採用することができる。基材に塗布する凝集インクの塗布量は特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。
【0066】
〔着色インク塗布工程〕
着色インク塗布工程は、前記凝集インク塗布工程の後、又は前記凝集インク塗布工程と実質的に同時に、着色剤を含む着色インクとアニオン性樹脂を含むインクとを基材上に塗布する工程である。また、凝集インク塗布工程の後に着色インク塗布工程が行われる場合は、当該着色インク塗布工程は、基材上に塗布した凝集インクが完全に乾燥する前に行われる。完全に乾燥する前とは、乾燥処理を行なう前、乾燥処理を開始した後であっても、乾燥の対象であるインク中の乾燥によって揮発させる成分が完全に揮発する前を包含し、乾燥対象のインクが完全に硬化する前ともいえる。凝集インクが完全に乾燥する前にアニオン性樹脂含有インクが凝集インクと接触することで、凝集インク中の成分とアニオン性樹脂が接触することができ、凝集インクとアニオン性樹脂含有インクとの凝集物を生成することができる。
【0067】
着色インク塗布工程では、凝集インク塗布工程の後、又は前記凝集インク塗布工程と実質的に同時に、上述の凝集インクと、着色インクとが接触するように着色インクを塗布すればよい。凝集インクと、着色インクとが接触することで凝集物が生じ、基材に着色インクを良好に密着させることができる。
【0068】
ここで、「凝集インク塗布工程の後」とは、凝集インク塗布後(凝集インクが基材上に着弾した後)に所定の時間経過した後であれば特に限定されない。例えば、凝集インクを塗布した直後であってもよく、凝集インクを塗布した後であり且つ凝集インクが完全に乾燥した後であってもよい。
【0069】
また、「凝集インク塗布工程と実質的に同時」とは、凝集インクと着色インクとを同時に又は略同時に基材上に塗布する(着弾させる)ことを指す。
【0070】
着色インクの基材への塗布方法は、特に限定されず、例えば、インクジェット記録方法を採用することができる。
【0071】
また、凝集インク塗布工程と実質的に同時に着色インクを基材に塗布する方法としては、例えば、凝集インクを吐出する凝集インクヘッドと、着色インクを吐出する着色インクヘッドを、ヘッドの移動方向(走査方向)に沿ってインラインに、好ましくは隣接させて配置し、凝集インクヘッドと着色インクヘッドとを一体として基材上を移動(走査)させながら、凝集インクと着色インクとを吐出させることによって行うことができる。この場合、着色インクが凝集インクよりも僅かに早く基材に着弾してもよい。
【0072】
着色インク塗布工程では、凝集インクの重量を1としたときの着色インクの重量は、基材に着弾した時のドット当り、1以上、20以下であることが好ましい。凝集インクの重量を1としたときの着色インクの重量が、基材に着弾した時のドット当り、1以上であることにより、良質な画像を得る。また、凝集インクの重量を1としたときの着色インクの重量が、基材に着弾した時のドット当り、20以下であることにより、着色インクを十分に凝集させることができることができる。
【0073】
本発明の一態様に係る印刷方法において、前記凝集インク塗布工程の後、又は前記凝集インク塗布工程と実質的に同時に、アニオン性樹脂含有インクも基材上に塗布する。「凝集インク塗布工程の後」及び「凝集インク塗布工程と実質的に同時」については、着色インクの塗布について説明した箇所に記載した通りである。
【0074】
アニオン性樹脂含有インクを基材上に塗布することで、基材上でアニオン性樹脂と凝集インクとを接触させて凝集物を生じさせることができる。その結果、基材に対して所望の文字、画像等を印刷することができる。
【0075】
アニオン性樹脂含有インクを基材上に塗布する方法は、凝集インクと、アニオン性樹脂とが接触するようにアニオン性樹脂含有インクを塗布することができれば特に限定されず、例えば、インクジェット記録方法を採用することができる。
【0076】
アニオン性樹脂含有インクの塗布は、着色インクの塗布の前に行ってもよく、後に行ってもよく、又は、実質的に同時に行ってもよい。
【0077】
後述する実施例に示すように、例えば、アニオン性樹脂を予め着色インクの中に混ぜておくことも可能である。これにより、アニオン性樹脂含有インクと着色インクとを同時に行うことが可能である。つまり、着色インクとアニオン性樹脂含有インクとは、着色剤とアニオン性樹脂が予め混合された一つのインクであってもよい。
【0078】
アニオン性樹脂含有インクを塗布する量は、凝集インクの重量を1としたときのアニオン性樹脂の重量が、基材に着弾した時のドット当り、1/3以上、30以下であることが好ましい。凝集インクの重量を1としたときのアニオン性樹脂の重量が、基材に着弾した時のドット当り、1/3以上であることにより、良質な画像を得ることができる。また、凝集インクの重量を1としたときのアニオン性樹脂の重量が、基材に着弾した時のドット当り、30以下であることにより、着色インクを充分に凝集させることができる。
【0079】
また、着色インクの塗布量に対するアニオン性樹脂の塗布量の重量比、及び、着色剤とアニオン性樹脂との重量比は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。
【0080】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0081】
本発明を、実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
〔実施例1〕
20重量%のPAA−15C(ニットーボーメディカル株式会社製)、2.0重量%の1,2−ヘキサンジオール、0.5重量%の1,2−オクタンジオール、2.0重量%の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、及び75.5重量%の水を混合してインクジェット印刷用凝集インクを製造した。なお、PAA15−C中のポリアリルアミンの濃度は、15重量%である。このため、インクジェット印刷用凝集インク中のポリアリルアミンの含有量は、3重量%である。
【0083】
〔実施例2〜5、比較例1〜7〕
凝集インクの組成を表1の通りにした以外は、実施例1と同じ方法でインクジェット印刷用凝集インクを製造した。実施例2〜5、比較例1〜7のインクジェット印刷用凝集インク中のポリマー含有量は、いずれも5重量%であった。
【表1】
【0084】
≪インクジェット印刷用凝集インクの評価≫
実施例及び比較例で製造したインクジェット印刷用凝集インクの特性を下記の通り評価した。
【0085】
(透明性評価)
インクジェット印刷用凝集インクを、100mlのガラス製容器に入れ、蓋をして密閉した状態で20回振り混ぜ、直後の液体の透明性を目視で確認した。
【0086】
(泡立ち評価)
インクジェット印刷用凝集インクを、100mlのガラス製容器に入れ、蓋をして密閉した状態で20回振り混ぜた後、1分間静置した後の液体の表面が泡立っているか否かについて目視で確認した。
【0087】
(表面張力評価)
インクジェット印刷用凝集インクの表面張力を、Wilhelmy型表面張力計を用いて測定した。
【0088】
(PPに対する密着性評価)
インクジェット印刷用凝集インク吐出ヘッド及び着色インク吐出ヘッドがヘッドの移動方向に沿ってインライン配置されたインクジェットプリンタを用いて、PP基材上に、インクジェット印刷用凝集インクと着色インクとを、各インクを格納したヘッドをインライン配置することで、実質的に同時に印刷した。ここで、着色インクは、シアンインクを91重量%と、アクリル系樹脂エマルジョンを9重量%とを混合することによって製造した。
【0089】
PP基材に印刷したインクジェット印刷用凝集インク及び着色インクの塗膜を、カッターを用いてX状にカットし、その部分に18mm×18mmの大きさのセロハンテープ(ニチバン株式会社製、型番:CT405AP−18)を貼り付け、基材面に対して約60°の方向へ勢いよく剥がした。剥がれなかった塗膜の割合を目視で確認し、0〜10のスコアを用いて10段階で評価することで、インクのPP基材に対する密着性を評価した。スコアの評価方法については、スコア「X」(Xは、0〜10の整数)は、上述の方法で、剥がれなかった塗膜の割合がX割であることを意味している。例えば、スコア「3」は、剥がれなかった塗膜の割合が3割(30%)であることを意味している。
【0090】
(PETに対する密着性評価)
基材がPET基材であることを除いては、上述のPPに対する密着性の評価方法と同じ方法で、PETに対する密着性を評価した。
【0091】
結果を下記の表2に示す。
【表2】
【0092】
実施例1〜5の凝集インクは、いずれも、表面張力が30mN/m以下であり、表面張力が十分に低かった。さらに、振り混ぜた後に凝集インクが泡立ったり、成分が分離したりしなかった。また、実施例1〜5の凝集インクは、いずれもPP、PET等のプラスチック基材に対する密着性が良好であった。
【0093】
一方、比較例の凝集インクは、透明性、泡立ち、表面張力、プラスチック基材への密着性の何れかが十分ではなく、全てが良好な結果を示すものはなかった。