特許第6906410号(P6906410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6906410超伝導環状部材、超伝導磁気シールド装置、及び脳磁計装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6906410
(24)【登録日】2021年7月1日
(45)【発行日】2021年7月21日
(54)【発明の名称】超伝導環状部材、超伝導磁気シールド装置、及び脳磁計装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/04 20060101AFI20210708BHJP
   A61B 5/0515 20210101ALI20210708BHJP
【FI】
   H01L39/04
   A61B5/0515
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-182504(P2017-182504)
(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-57681(P2019-57681A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】江原 悠太
(72)【発明者】
【氏名】森江 孝明
【審査官】 岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−134482(JP,A)
【文献】 特開2009−055051(JP,A)
【文献】 特開2004−039949(JP,A)
【文献】 特開2017−175010(JP,A)
【文献】 特開2009−175117(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/067828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/04
A61B 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導層と、
前記超伝導層を覆う保護層と、
前記超伝導層と前記保護層とを備える超伝導線材の両端が接合されている接合部と、
前記接合部を補強する補強手段と、を備え、
前記超伝導層は、全周に亘って連続した環状をなし、
前記補強手段は、前記接合部へ圧力を付与している、超伝導環状部材。
【請求項2】
前記接合部では、前記両端において前記保護層から前記超伝導層が露出している面が、互いに接合されている、請求項1に記載の超伝導環状部材。
【請求項3】
前記超伝導層が露出した面の裏側の面は、前記保護層によって覆われている、請求項2に記載の超伝導環状部材。
【請求項4】
前記両端のうち一端における、前記保護層から前記超伝導層が露出している面が前記超伝導線材の表面に形成されており、
前記両端のうち他端における、前記保護層から前記超伝導層が露出している面が前記超伝導線材の裏面に形成されている、請求項2又は3に記載の超伝導環状部材。
【請求項5】
円筒形状の基板と、
請求項1〜4の何れか一項に記載の超伝導環状部材と、を備え、
前記超伝導環状部材は、前記基板の内周側又は外周側に複数設置されている、超伝導磁気シールド装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超伝導磁気シールド装置を備える、脳磁計装置。
【請求項7】
円筒状の基板と、
前記基板の内周側又は外周側に設置されており、螺旋状に巻かれた超伝導部材と、を備え、
前記超伝導部材は、
第1の超伝導線材と、前記第1の超伝導線材の端部にその一端が接合された第2の超伝導線材と、を有し、
前記第1の超伝導線材および前記第2の超伝導線材は、超伝導層と、前記超伝導層を覆う保護層と、を有し、
前記第1の超伝導線材と前記第2の超伝導線材とが接合された接合部を補強する補強手段を更に備え、
前記補強手段は、前記接合部へ圧力を付与している、超伝導磁気シールド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導環状部材、超伝導磁気シールド装置、及び脳磁計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超伝導層と、超伝導層を覆う保護層と、を備えた超伝導環状部材が用いられている。この超伝導環状部材の利用方法として、例えば、超伝導磁気シールドがある。特許文献1では、超伝導量子干渉計(Superconducting Quantum Interference Device:SQUID)センサと、SQUIDセンサを取り囲む超伝導磁気シールド装置と、を用いた脳磁計装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−251527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような超伝導環状部材は、例えば、超伝導線材の両端を接合して環状とすることで構成される場合がある。ここで、通常、市販の超伝導線材を用いて環状に形成する際、線材の両端の接合部において超伝導線材の保護層(例えば、銀層)が重なり合う。その場合、抵抗値が所望の値よりも高くなり、内部電流が短時間で減衰する。そのため、超伝導環状部材を超伝導磁気シールド装置に用いる場合においては、DC磁場の遮蔽が短期間でできなくなる恐れがあった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成で低抵抗な超伝導環状部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る超伝導環状部材は、超伝導層と、超伝導層を覆う保護層と、超伝導層と保護層とを備える超伝導線材の両端が接合されている接合部と、接合部を補強する補強手段と、を備え、超伝導層は、全周に亘って連続した環状をなし、補強手段は、接合部へ圧力を付与している。
【0007】
この超伝導環状部材は、超伝導層が全周に亘って連続しているため、保護層を介して超伝導線材の両端部を接合した場合よりも抵抗を低くすることができる。これによって、簡単な構成で低抵抗な超伝導環状部材を得ることができる。また、超伝導環状部材は、超伝導層と保護層とを備える超伝導線材の両端が接合されている接合部を更に備える。このような構成により、超伝導線材を利用した、安価かつ簡単な構成でありながら低抵抗な超伝導環状部材を得ることができる。また、超伝導環状部材は、接合部を補強する補強手段を、更に備える。このような構成により、接合部の強度を上げることができ、破損を抑止することができる。補強手段は、接合部へ圧力を付与している。このような構成によれば、超伝導環状部材の臨界電流の低下を抑制することができる。
【0008】
本発明に係る超伝導環状部材において、接合部では、両端において保護層から超伝導層が露出している面が互いに接合されていてもよい。このような構成により、両端の露出面同士を接合していない超伝導環状部材よりも、容易に低抵抗な超伝導環状部材を得ることができる。
【0009】
本発明に係る超伝導環状部材において、超伝導層が露出した面の裏側の面は、保護層によって覆われていてもよい。このような構成により、端部の両面において保護層を残さずに超伝導層を露出させた場合よりも、接合部における超伝導層の露出を抑えることができる。
【0010】
本発明における超伝導環状部材において、両端のうち一端における保護層から超伝導層が露出している面が超伝導部材の表面に形成されており、両端のうち他端における保護層から超伝導層が露出している面が超伝導線材の裏面に形成されていてもよい。このような構成により、超伝導線材がねじれることなく(メビウスの輪となることなく)環状に接合されている。
【0011】
本発明に係る超伝導磁気シールド装置は、円筒状の基板と、基板の内周側又は外周側に設置されており、螺旋状に巻かれた超伝導部材と、を備え、超伝導部材は、第1の超伝導線材と、第1の超伝導線材の端部にその一端が接合された第2の超伝導線材と、を有し、第1の超伝導線材および第2の超伝導線材は、超伝導層と、超伝導層を覆う保護層と、を有し、第1の超伝導線材と第2の超伝導線材とが接合された接合部を補強する補強手段を更に備え、補強手段は、接合部へ圧力を付与している。
【0012】
この超伝導磁気シールド装置は、超伝導層と保護層とを備える第1及び第2の超伝導線材の端部同士が接合されている接合部を更に備える。このような構成により、超伝導線材を利用した、安価かつ簡単な構成でありながら低抵抗な超伝導部材を得ることができる。また、超伝導磁気シールド装置は、接合部を補強する補強手段を、更に備える。このような構成により、接合部の強度を上げることができ、破損を抑止することができる。補強手段は、接合部へ圧力を付与している。このような構成によれば、超伝導環状部材の臨界電流の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構成で低抵抗な超伝導環状部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る脳磁計装置を示す概略図である。
図2図1に示す脳磁計装置の中心線軸Cに沿った断面図である。
図3】(a)実施形態に係る超伝導環状部材の斜視図である。(b)実施形態に係る超伝導環状部材の接合処理前の状態を示す概念図である。
図4】実施形態に係る超伝導環状部材の接合部を上面から見た概念図である。
図5】実施形態に係る超伝導環状部材の断面図である。
図6】実施形態に係る超伝導環状部材の補強部材の断面図である。
図7】実施形態に係る超伝導環状部材の製造方法のフローチャートである。
図8】実施形態に係る超伝導環状部材の接合処理を示す概念図である。
図9】実施形態に係る超伝導環状部材の接合部に加圧治具を設けた状態を示す図である。
図10】変形例に係る超伝導環状部材の補強部材の断面図である。
図11】変形例に係る超伝導環状部材の補強部材の断面図である。
図12】変形例に係る超伝導環状部材の補強部材の押圧部材を示す斜視図である。
図13】溝部を有する押圧部材を示す模式図である。
図14】溝部を有さない押圧部材を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る超伝導環状部材の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、特に明示する場合を除き、上下方向は説明図面中の方向を示す。また、各図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1に示す脳磁計装置1は、計測ユニット1A内の計測位置Hに頭が位置するように着座した被験者Pに対して、脳の神経活動に伴って発生する微弱な磁場を非接触で計測、解析する装置である。この計測ユニット1Aは、脳で発生する磁場を検出するSQUIDセンサ3を備えている。この脳磁計装置1では、被験者Pの脳の様々な位置から発生する磁場を検出するため、数十個〜数百個(64個,128個,256個など)といった多数の上記SQUIDセンサ3が、計測位置Hの周囲に配置され、センサホルダ4で固定されている。
【0017】
計測ユニット1Aは、SQUIDセンサ3を冷却する液体ヘリウム5を収納するためのデュワー(容器)7を備えている。デュワー7は、図1に示すように、円筒状で有底の断熱容器である。また、デュワー7の底部7bは、被験者Pの頭部を覆うように内に凹んでいる。
【0018】
センサホルダ4は、SQUIDセンサ3の耐震性を向上させて、生体磁場の計測に対する振動の影響を低減させるべく、デュワー7の内側面7aに固定されている。
【0019】
更に、計測ユニット1Aは、デュワー7を包囲するように配置される、被験者Pを覆う二重構造の筒型体15を備えている。この二重構造の筒型体15の外筒部15aと内筒部15bとの間には、超伝導磁気シールド装置11が内蔵されている。また、筒型体15とデュワー7との間には断熱材19が充填されている。
【0020】
脳磁計装置1は、被験者Pの脳で発生する極めて微弱な磁場を検出するため、計測位置Hの近傍における外部磁場の影響を除去する必要がある。このため、脳磁計装置1は、中心軸線Cが計測位置Hを通るように配置された筒状の超伝導磁気シールド装置11を備えている。超伝導磁気シールド装置11は、デュワー7を包囲して筒型体15の外筒部15aに支持されると共に、筒型体15の上下寸法とほぼ同じ寸法で延在している。また、計測位置Hは、中心軸線C上に位置すると共に、上下方向においても超伝導磁気シールド装置11の全高のほぼ中央に位置している。
【0021】
また、脳磁計装置1は、超伝導磁気シールド装置11を冷却するための極低温の冷却ガスを超伝導磁気シールド装置11へ送出すると共に、超伝導磁気シールド装置11を冷却した後の冷却ガスが流入する冷凍機1Bを有している。なお、冷凍機1Bとして、GM冷凍機、スターリング冷凍機、パルスチューブ冷凍機等が特に好ましい。また、冷却ガスとして、例えばヘリウムガスを用いることもできる。
【0022】
次に、本実施形態の超伝導環状部材21を用いた超伝導磁気シールド装置11の構成について説明する。
【0023】
図2に示す超伝導磁気シールド装置11は、計測位置Hの近傍において、例えば地磁気、外部磁場の変動等の影響を除去するためのものである。超伝導磁気シールド装置11は、基板20と、複数の超伝導環状部材21と、冷却ガス配管22と、を備えている。
【0024】
基板20は、超伝導環状部材21を支持すると共に、冷却ガスが流通する冷却ガス配管22により冷却されることで超伝導環状部材21を冷却するためのものである。基板20は、中心軸線Cを中心とした中空の円筒形状をなしており、全体の上下寸法は、筒型体15の上下寸法とほぼ同じ寸法となっている。なお、本実施形態では脳磁計装置1へ好適に適用される超伝導磁気シールド装置11の基板20の一例として、外径寸法が約650mm、基板20全体での上下寸法が約1600mm程度のものを用いる。また、本実施形態における基板20は、ニッケルを含む金属によって構成されているが、SUS304、真鍮、銅等の材料によって構成してもよい。
【0025】
超伝導環状部材21は、基板20に設置される。超伝導環状部材21は、超伝導転移温度以下まで冷却されて超伝導状態となることで完全反磁性を示すため、基板20の内周側の磁場変動を除去することができる。すなわち、超伝導環状部材21の完全反磁性によって、基板20に包囲された計測位置Hが外部磁場から遮蔽される。これにより、SQUIDセンサ3では、外部磁場によるノイズの影響をほとんど受けることなく、微弱な磁場計測が可能になる。
【0026】
また、超伝導環状部材21は、基板20の内周側に複数設置され、それぞれが基板20の内周に沿って一周する環状に形成されている。また、超伝導環状部材21は、基板20の中心軸線C方向に沿って略等間隔に並んで配置されているため、超伝導環状部材21の内周側の磁場変動を除去する作用を中心軸方向において均一できる。なお、超伝導環状部材21は、基板20の外周に沿って一周する環状に形成されるように、基板20の外周側に設置してもよい。
【0027】
冷却ガス配管22は、複数の基板20全体の外周側を、基板20に沿って上下に往復するように取り付けられている。また、冷却ガス配管22は、1本の流路を形成する、複数本の管で構成されている。これら複数本の管は、管同士を公知の手段で連結することで一本の流路を形成する。また、冷却ガス配管22は、途中で分岐も合流もしていない。なお、1本の管で1本の流路を構成する冷却ガス配管や複数の流路を構成する冷却ガス配管を超伝導磁気シールド装置11に用いてもよい。更には、途中で分岐又は合流をする冷却ガス配管を超伝導磁気シールド装置11に用いてもよい。
【0028】
次に、本実施形態に係る超伝導環状部材21の構成について、図3図5を用いて詳細に説明する。
【0029】
図3(a)に示すように、超伝導環状部材21は、全体として円形の環状をなしている。超伝導環状部材21は、超伝導層30と、それを覆う保護層31と、を備えている(図5参照)。また、超伝導環状部材21は、補強部材40を備える(図3(a)参照)。補強部材40の詳細については後述する。超伝導環状部材21は、超伝導層30と保護層31とを備える帯状の超伝導線材25の両側の端部32A,32B(図3(b)参照)を互いに接合することで、環状に形成されている。従って、超伝導環状部材21は、超伝導線材25の両端が接合されている接合部33を備える。接合部33では、超伝導線材25の一端における表面26Aと他端における裏面26Bとが、互いに接合されている。なお、表面26Aは、保護層31が施された面と保護層31が剥離された後述の露出面34Aとを含む。また、裏面26Bは、保護層31が施された面と保護層31が剥離された後述の露出面34Bとを含む。また、図4は接合部33を外周面から垂直な方向から見た概念図であり、実線及び破線は両端の端部32A,32Bの境界を示している。
【0030】
超伝導層30は、ビスマス系酸化物超伝導体であり、磁束侵入長よりも十分に大きい膜厚を有している。例えば、超伝導層30の厚さは、0.1〜0.2mmとしてよい。ここで、超伝導環状部材21に用いられるビスマス系酸化物超伝導体として、例えば、組成式BiSrCaCuOxで表されるBi2223が好ましい。なお、超伝導環状部材21に用いられる超伝導体としては、Bi2212等が採用されてもよい。
【0031】
超伝導層30は、全周に亘って連続した環状をなしている。超伝導層30が全周に亘って連続した状態とは、超伝導層30が全周に亘って途切れることなく、電気的にかつ物理的に連続している状態である。すなわち、超伝導環状部材21の内部において、超伝導層30は、全周に亘って間に他の部材を挟むことなく、電気的かつ物理的に連続するように形成されている。
【0032】
保護層31は、銀を材料として構成される。なお、保護層31には、銅、ステンレス等を材料として用いてもよい。保護層31は、超伝導層30を内周面及び外周面から挟み込むようにして形成されていてもよいし、超伝導層30の横断面視における四方を囲むようにして形成されていてもよい。例えば、保護層31の厚さは、0.02〜0.1mmとしてよい。
【0033】
図3(b)及び図8に示すように、接合部33では、超伝導線材25の両端において保護層31から超伝導層30が露出している露出面34A,34Bが、互いに接合されている。超伝導線材25の一端側の露出面34Aは、表面26A(外周側)の保護層31が線方向に剥離されることで形成される。また、一端側の露出面34Aの裏側の面36A(内周側の面)では保護層31が剥離されていない。従って、超伝導層30における露出面34Aの裏側の面36Aは保護層31によって覆われている。超伝導線材25の他端側の露出面34Bは、裏面26B(内周側)の保護層31が線方向に剥離されることで形成される。他端側の露出面34Bの裏側の面36B(外周側の面)では保護層31が剥離されていない。従って、超伝導層30における露出面34Bの裏側の面36Bは保護層31によって覆われている。
【0034】
以上によって、超伝導環状部材21では、両端のうち一端における露出面34Aが超伝導線材25の表面26Aに形成されており、両端のうち他端における露出面34Bが超伝導線材25の裏面26Bに形成されている。これにより、超伝導線材25がねじれることなく(メビウスの輪となることなく)環状に接合されている。また、接合部33においては、露出面34A,34Bにおける超伝導層30が一体となるように形成される。これにより、接合部33においても、超伝導層30が電気的及び物理的に途切れることなく、連続した状態となる。なお、製造時において露出面同士が圧縮及び焼成されて露出面34A,34Bが一体となる。そのため、図5では、互いの境界は示されていない。
【0035】
露出面34A,34Bにおいて、保護層31は、図4に示すように線淵を底辺、線幅を高さとする略平行四辺形状に剥離されている。なお、接合処理において、両端の位置決めを容易にするために、先端Aにおいて線幅方向に長さWの遊びを設けている。例えば、遊びの長さWは1mm、露出面34A,34Bの線方向における全長にあたる長さLは20mm、略平行四辺形形状の底辺部分の長さTは10mmとしてよい。なお、各部分の長さはこれに限定されない。例えば、Wが0mm〜線幅、Lが2〜50mm、Tが1〜49mmの範囲で構成されてもよい。また、露出面34A,34Bの形状も略平行四辺形状に限定されない。例えば、単に線幅を短辺又は長辺とする長方形形状であってもよく、線幅を一辺とする正方形であってもよい。
【0036】
次に、図6を参照して、補強部材(補強手段)40について説明する。補強部材40は、上述の接合部33を補強する部材である。補強部材40は、接合部33へ圧力を付与している。これにより、端部32Aにおける超伝導層30の露出面34Aと端部32Bにおける超伝導層30の露出面34Bとを強固に押圧することができる。なお、図6では、理解を容易とするために、加圧前の状態における端部32A,32Bの様子を示している。ただし、完成品としての超伝導環状部材21では、図5に示すように、露出面34A,34Bは一体となる。
【0037】
補強部材40は、接合部33に対して圧力を付与し、補強することができる構造であれば、どのような構造を採用されてもよい。図6に示す例においては、補強部材40は、接合部33を挟み込む押圧部材41,42を備えている。押圧部材41は、露出面34Aとは反対側の保護層31から接合部33を押圧する。押圧部材42は、露出面34Bとは反対側の保護層31から接合部33を押圧する。押圧部材41は、板状の部材である。押圧部材41,42は四隅に貫通孔を有している。この貫通孔にはボルト43が挿通されている。これにより、押圧部材41,42は、ボルト43の締結力によって接合部33に圧力を付与する。なお、補強部材40は、磁化率の小さい材料によって構成される。
【0038】
超伝導環状部材21は、基板20に対して、補強部材40の部分で取り付けられてよい。例えば、押圧部材41が基板20に固定されてよい。補強部材40の基板20に対する固定方法は特に限定されず、ボルト43を用いて基板20に固定してよく、接着剤等で固定してもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係る超伝導環状部材21の製造方法について、図7図8、及び図9を用いて説明する。図7は、超伝導環状部材21の製造方法のフローチャートである。まず、各端部32A,32Bの片面のみにおいて保護層31としての銀被膜を剥離することで、超伝導層30の露出した露出面34A,34Bが形成される(ステップS1)。ここで、図8に示すように、両端の保護層31の剥離により形成された段の線方向の長さSを両端で同程度とすることで、接合処理後、接合部33において超伝導層30が露出する部分を無くす或いは微小にすることができる。
【0040】
次に、露出面34A,34Bの間に、超伝導層30と同様の超伝導体である原料粉35が塗布される(ステップS2)。
【0041】
次に、露出面34A,34Bを対向させて両端の端部32A,32Bを接合させた状態で、図9に示すように加圧治具としての補強部材40によって露出面34A,34Bと垂直方向Dに圧力が加えられる(ステップS3)。ここで加える圧力は、100〜1000MPaとしてよい。
【0042】
次に、補強部材40により圧力を加えた状態で、焼成を行う(ステップS4)。ここでの焼成条件は、830〜850℃で50〜150時間としてもよい。ステップS3で用いられた補強部材40は、取り外されることなく、接合部33を加圧した状態を維持しておく。以上の手順により、接合部33において超伝導層30が連続した、超伝導環状部材21が製造される。
【0043】
ここで、接合部33において超伝導層30が露出するのを防ぐため、樹脂により接合部33を覆ってもよい。
【0044】
次に、本実施形態に係る超伝導環状部材21の作用・効果について説明する。
【0045】
以上説明したように、超伝導環状部材21は、超伝導層30と、それを覆う保護層31と、を備えている。そして、超伝導層30は、全周に亘って連続した環状をなしている。この構成により、保護層31を介して超伝導線材25の端部32A,32Bを接合した場合よりも抵抗を低くすることができる。そのため、簡単な構成で低抵抗な超伝導環状部材21を得ることができる。例えば、ステップS4において、大気雰囲気の環境下、838℃で100時間の熱処理を行ったところ、70〜90Kで0.5〜5.0Aの超伝導電流が維持される、超伝導環状部材21を形成できた。一方、保護層を介して超伝導線材の両端部を接合した場合は、前述の超電導電流を維持できなかった。
【0046】
また、超伝導環状部材21は、超伝導層30と保護層31とを備える超伝導線材25の両端が接合されている接合部33を有している。そのため、超伝導線材25を利用した、安価かつ簡単な構成でありながら低抵抗な超伝導環状部材21を得ることができる。なお、基板に超伝導材料を溶射する製法により、繋ぎ目のない円筒状の超伝導磁気シールド装置を形成する構成を採用してもよい。その場合、上述の実施形態に比して、工数や材料費等の問題でコストが高くなる。
【0047】
例えば、接合部33が補強部材40で押圧された後に当該補強部材40を外した場合、超伝導環状部材の接合部33が機械的に脆弱になる場合がある。また、超伝導環状部材の臨界電流が低下する場合がある。臨界電流は大きい程性能が良いとされるため、補強部材40を外すことで、性能が低下する場合がある。一方、本実施形態に係る超伝導環状部材21は、接合部33を補強する補強部材40を、更に備える。補強部材40は、接合部33へ圧力を付与している。これにより、接合部33の強度を上げることができ、破損を抑止することができる。また、超伝導環状部材21の臨界電流の低下を抑制することができる。
【0048】
また、接合部33では、両端において保護層31から超伝導層30が露出している露出面34A,34Bが互いに接合されている。この構成に限らず、両端の露出面同士を接合せずに端部32Aと端部32Bの先端同士を突き合わせて接合することにより、両端の超伝導層30を接触させてもよい。なお、両端の露出面同士を互いに接合した方が、上記のような露出面同士を接合せずに端部32A,32Bの先端同士を突き合わせて接合するよりも、容易に低抵抗な超伝導環状部材を容易に得ることができる。
【0049】
また、超伝導層30が露出した露出面34A,34Bの裏側の面36A,36Bは、保護層31によって覆われている。そのため、各端部の両面において保護層31を残さずに超伝導層30を露出させた場合よりも、接合部33における超伝導層30の露出を抑えることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本実施形態に係る超伝導環状部材、超伝導磁気シールド、脳磁計、及び超伝導環状部材の製造方法は上記に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0051】
例えば、超伝導環状部材は、内周面及び外周面の両側に保護層31が設けられていたが、少なくとも一方に設けられていればよい。
【0052】
なお、上記実施形態では、超伝導環状部材21を超伝導磁気シールド装置11に用いることとしたが、これに限定されず、ケーブルや永久電流モードで使用するマグネット、超伝導センサ等にも適用できる。
【0053】
超伝導環状部材21の補強部材を介した基板20への固定方法は特に限定されない。例えば、図10に示すように、基板20に構造部材45を設けてよい。構造部材45は、円筒状の基板20の周面において、当該基板20の軸方向に沿って延びてよい。補強部材40は、構造部材45に対して固定されてよい。なお、図10では、基板20の外周側に超伝導環状部材21が配置されているが、図2に示すように、基板20の内周側に配置されてよい。
【0054】
また、図11に示すように、基板20自体を補強部材40の一部として構成してもよい。接合部33は、端部32B側で押圧部材42により支持され、端部32A側で基板20の部分20aにより支持される。このような構造により、押圧部材42がボルト43によって基板20側に締め付けられることにより、接合部33に圧力が付与される。なお、図11に示すように、部分20aの周面は、押圧部材42と対向する位置にて平面状に形成されてよい。または、部分20aの周面は、湾曲してよい。
【0055】
なお、押圧部材は様々な形状を有してよい。例えば、図12(a)に示す押圧部材46のうち、超伝導環状部材21と接触する縁部46a、46aは、面取り加工によって湾曲形状に構成されてよい。
【0056】
図12(b)に示すように、押圧部材47には、溝部47aが形成されてよい。当該溝部47aには、超伝導環状部材21の端部が配置される。また、図12(c)に示す様に、押圧部材48には、縁部付近の一部にのみ溝部48aが形成されている。
【0057】
ここで、溝部を有さない押圧部材について、図14を参照して説明する。押圧部材147は平面を有しており、当該平面に超伝導環状部材21の端部32Aが載置される。また、押圧部材147の平面に原料粉35が配置される。この場合、押圧部材147、149で接合部33を挟むと、原料粉35の量にばらつきが生じる場合がある。従って、加圧力に分布が出来てしまい、接合部33の接続性にばらつきが生じる場合がある。
【0058】
これに対して、図13(a)に示すように押圧部材47に形成された溝部47aは、端部32Aを原料粉35と共に収容する。このとき、溝部47aからはみ出た原料粉35をヘラでならすことで、図13(b)に示すように原料粉35を均一に広げることができる。これにより、上述の問題を解決し、性能を向上及び安定させることができる。
【0059】
また、上記実施形態では、複数の超伝導環状部材21を超伝導磁気シールド装置11に用いることとしたが、螺旋状に巻かれた超伝導部材を超伝導磁気シールド装置に用いてもよい。すなわち、超伝導部材は、基板の内周側又は外周側に設置されており、螺旋状に巻かれている。この場合、複数の超伝導線材の端部同士を接合し(第1の超伝導線材の一端と第2の超伝導線材の一端とを接合し)、当該接合部を補強部材によって補強することで、1つの螺旋状の超伝導磁気シールドを構成することが可能となる。超伝導線材の数は2つに限らず、3つ以上としてもよい。それぞれの超伝導部材は、超伝導層と、超伝導層を覆う保護層と、を有している。補強部材は、一方の超伝導線材と他方の超伝導線材とが接合された接合部を補強する。補強部材は、接合部へ圧力を付与している。
【0060】
このような超伝導磁気シールド装置は、超伝導層と保護層とを備える第1及び第2の超伝導線材の端部同士が接合されている接合部を更に備える。このような構成により、超伝導線材を利用した、安価かつ簡単な構成でありながら低抵抗な超伝導部材を得ることができる。また、超伝導磁気シールド装置は、接合部を補強する補強部材を、更に備える。このような構成により、接合部の強度を上げることができ、破損を抑止することができる。補強部材は、接合部へ圧力を付与している。このような構成によれば、超伝導環状部材の臨界電流の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…脳磁計装置、11…超伝導磁気シールド装置、20…基板、21…超伝導環状部材、25…超伝導線材、26A…表面、26B…裏面、30…超伝導層、31…保護層、32A,32B…端部、33…接合部、34A,34B…露出面、36A,36B…裏側の面、40…補強部材(補強手段)。
図1
図2
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