(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チタンおよびケイ素と、タングステンおよび/またはバナジウムとを含む酸化物に、バナジウム化合物とモリブデン化合物とを担持する担持工程と、焼成工程と、を有する無機複合酸化物の製造方法であって、前記担持工程において、バナジウム化合物およびモリブデン化合物とブレンステッド塩基となる構造を有する窒素原子を含む化合物とを含み、前記窒素原子とモリブデン原子とのモル比(N/Mo)が4.5〜6.5である水性液を用いることを特徴とする無機複合酸化物の製造方法。
前記無機複合酸化物の製造方法に用いられる全バナジウムの量が、五酸化バナジウム換算で前記無機複合酸化物に対して1〜20質量%となるように調整することを特徴とする請求項1記載の無機複合酸化物の製造方法。
請求項1〜3に記載の無機複合酸化物の製造方法で得られた無機複合酸化物を触媒として用いて、窒素酸化物および/または有機ハロゲン化合物を含有する排ガスを処理することを特徴とする排ガス処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、チタンおよびケイ素と、タングステンおよび/またはバナジウムとを含む酸化物(以下、チタン系酸化物と称する)に、バナジウム化合物とモリブデン化合物とを担持する担持工程と、焼成工程と、を有する無機複合酸化物の製造方法であって、前記担持工程において、バナジウム化合物およびモリブデン化合物とブレンステッド塩基となる構造を有する窒素原子を含む化合物とを含み、前記窒素原子とモリブデン原子とのモル比(N/Mo)が4.5〜6.5である水性液を用いることを特徴とするものである。
【0010】
前記チタン系酸化物とは、チタンおよびケイ素とを含み、さらにタングステンおよび/またはバナジウムを含む酸化物である。但し、全ての元素が複合酸化物を形成している形態だけでなく、一部の元素のみを含む酸化物と他の元素を含む酸化物との混合物となっている形態をも含むものである。
【0011】
以下、本発明の無機複合酸化物の製造方法について、順に記載する。
【0012】
1.チタン系酸化物
1−1.原料
本発明のチタン系酸化物の調製に用いられる原料は以下の通りである。
【0013】
チタン原料としては、硫酸チタニル、四塩化チタン、メタチタン酸、テトライソプロピルチタネートなどを用いることが出来る。好ましくは、硫酸チタニル、メタチタン酸であり、より好ましくは、硫酸チタニルである。
【0014】
ケイ素原料としては、シリカゾル、水ガラス、四塩化ケイ素、テトラエトキシシランなどを用いることが出来る。好ましくは、シリカゾル、テトラエトキシシランであり、より好ましくは、シリカゾルである。
【0015】
タングステン原料としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸などを用いることが出来る。好ましくは、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムであり、より好ましくは、パラタングステン酸アンモニウムである。
【0016】
バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、三酸化バナジウムなどを用いることができる。好ましくは、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウムであり、より好ましくは、メタバナジン酸アンモニウムである。
【0017】
1−2.調製方法
前記1−1に記載の原料を用いて行われる前記チタン系酸化物の調製方法としてはゾル−ゲル法、水熱合成、共沈法、沈着法、混練法、析出沈殿法、各原料を混合して焼成する方法など、公知の調製法から適宜選択すればよい。好ましくは、ゾル−ゲル法、共沈法、混練法、各原料を混合して焼成する方法であり、より好ましくは、共沈法である。
【0018】
具体的な方法としては、特開2016−64358や特開2014−61476等に記載されている実施例を参照して行えばよい。
【0019】
2.担持工程で用いられる水性液
2−1.バナジウム化合物
水性液の調製に用いられるバナジウム化合物は、酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩などが用いられ、たとえばメタバナジン酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0020】
本発明の無機複合酸化物を窒素酸化物を含む排ガス処理の触媒として用いる場合には、無機複合酸化物中のバナジウム酸化物の含有量が、窒素酸化物の除去性能に大きく影響する。
【0021】
従って、水性液の調製で用いられるバナジウム化合物の量は、無機複合酸化物の合計質量に対する五酸化バナジウム(V
2O
5)換算で、1〜20質量%となる量が好ましく、より好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。バナジウム酸化物の含有量が1質量%未満では充分な除去性能が得られず、20質量%を超えて多く含有すると金属種のシンタリングによって却って性能低下を引き起こす恐れがあるからである。尚、前記チタン系酸化物にバナジウムが含まれる場合には、その量を考慮して調整する。
【0022】
2−2.モリブデン化合物
水性液の調製に用いられるモリブデン化合物は、酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩などが用いられ、たとえばモリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウム、酸化モリブデンが好適に用いられる。
【0023】
本発明の無機複合酸化物を排ガス処理の触媒として用いる場合には、無機複合酸化物中のモリブデン酸化物の含有量が除去性能および耐久性に大きく影響する。
【0024】
従って、水性液の調製で用いられるモリブデン化合物の量は、無機複合酸化物の合計質量に対する三酸化モリブデン(MoO
3)換算で、2〜10質量%となる量が好ましく、より好ましくは3〜8質量%、さらに好ましくは4〜6質量%である。モリブデン酸化物の含有量が2質量%未満では充分な耐久性が得られず、10質量%を超えて多く含有すると除去性能が低下する場合があるからである。尚、前記チタン系酸化物にモリブデンが含まれる場合には、その量を考慮して調整する。
【0025】
2−3.ブレンステッド塩基となる構造を有する窒素原子を含む化合物
本発明で用いられるブレンステッド塩基となる構造を有する窒素原子を含む化合物(以下、塩基性窒素化合物と称することがある)とは、アンモニアやモノエタノールアミンのようなプロトンが付加していない化合物だけでなく、アンモニウムイオンやモノエタノールアミンカチオン(HO−CH
2−CH
2−NH
3+)などようにブレンステッド塩基となる構造を有する窒素原子(以下、塩基性窒素原子と称することがある)にプロトンが付加した形態(以下、プロトン付加窒素化合物と称することがある)をも含むものである。
【0026】
本発明における前記塩基性窒素原子のモル数とは、塩基性窒素化合物のモル数ではなく窒素原子のモル数である。例えば、エチレンジアミンのように二つの塩基性窒素原子を含む化合物の場合には、エチレンジアミンのモル数を2倍したものが塩基性窒素原子のモル数となる。また、水性液に用いられるバナジウム化合物やモリブデン化合物がアンモニウム塩であった場合には、それらに含まれるアンモニア(アンモニウムカチオン)も塩基性窒素原子のモル数に含まれる。尚、複数の塩基性窒素化合物が含まれている場合には、それぞれの塩基性窒素原子のモル数を合計して求める。
【0027】
塩基性窒素化合物は、好ましくは、アンモニアや硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの窒素原子含有無機化合物、エタノールアミンやピリジン等の1〜3級の窒素原子を有する有機化合物と、これら塩基性窒素化合物の塩基性窒素原子にプロトンが付加したプロトン付加窒素化合物から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、アンモニア、アンモニウムカチオン、モノエタノールアミン、モノエタノールアミンカチオン、エチルアミン、エチルアンモニウムカチオン、ピリジン、ピリジニウムカチオンから選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくは、アンモニアとアンモニウムカチオンから選ばれる少なくとも1種と、モノエタノールアミンとモノエタノールアミンカチオンから選ばれる少なくとも1種とを併用する形態である。
【0028】
2−4.窒素原子とモリブデン原子とのモル比(N/Mo)
本発明における窒素原子とモリブデン原子とのモル比(以下、N/Mo比と称することがある)は、4.5〜6.5の範囲であり、好ましくは5.0〜6.5、より好ましくは5.5〜6.5の範囲である。水性液中の塩基とモリブデンのモル比が4.5未満または6.5を超えると排ガス処理触媒の性能が不十分となる恐れがある。
【0029】
2−5.水性液
本発明で用いられる水性液とは、前記バナジウム化合物と前記モリブデン化合物と前記塩基性窒素化合物とを水とを含む溶液またはスラリーである。好ましくは、更にシュウ酸またはシュウ酸イオンを含み、より好ましくは、前記バナジウム化合物と前記モリブデン化合物と前記塩基性窒素化合物と水とシュウ酸またはシュウ酸イオンのみを含む溶液またはスラリーであり、さらに好ましくは、前記バナジウム化合物と前記モリブデン化合物と前記塩基性窒素化合物と水とシュウ酸またはシュウ酸イオンのみを含む溶液である。
【0030】
前記水性液に含まれるシュウ酸は、シュウ酸および/またはシュウ酸イオンだけでなく、シュウ酸アンモニウムやシュウ酸バナジルのようなシュウ酸化合物であってもよい。その合計量は、水性液中のバナジウム原子1モルに対して、好ましくは0.9〜10モルであり、より好ましくは1〜7モルであり、さらに好ましくは1.5〜5モルである。
【0031】
前記水性液に含まれる水の量は、好ましくはバナジウム化合物の質量に対して1〜10であり、より好ましくは1.5〜5である。1以下の場合には担持する際に局所的に水性液が存在するためバナジウム酸化物やモリブデン酸化物を均一に担持することができず、10以上の場合には担体に含浸した際にスラリーとなり、後工程で無機複合酸化物を成形する際にハンドリングが難しくなるので好ましくない。
【0032】
尚、担持工程で用いる際に適宜調整されるのであれば、水性液の調製時点では上記範囲外の水の量を含んでいても構わない。
【0033】
前記水性液の温度は、好ましくは0℃〜90℃であり、より好ましくは10℃〜70℃であり、さらに好ましくは20℃〜60℃である。0℃以下では均一な溶液が得られにくく、90℃以上では水や塩基性窒素化合物が揮発して水性液の組成が安定しないため好ましくない。
【0034】
3.無機複合酸化物の製造方法
3−1.担持工程
担持工程で用いるバナジウム化合物およびモリブデン化合物を含む水性液の調製方法としては、以下の(a)〜(c)のいずれかであるのが好ましい。尚、下記方法における追加塩基性窒素化合物とは、メタバナジン酸アンモニウムやモリブデン酸アンモニウムのように他の原料化合物に由来する塩基性窒素化合物は含まれず、得られる水性液のN/Mo比を調整するために添加される塩基性窒素化合物である。
【0035】
(a)シュウ酸を含む液に、バナジウム化合物を含む液と、追加塩基性窒素化合物とモリブデン化合物とを含む液とを混合する方法
具体的には、シュウ酸と水との溶液またはスラリーに、バナジウム化合物と水との溶液またはスラリー、モリブデン化合物と追加塩基性窒素化合物と水との溶液またはスラリーの順で添加する方法である。
(b)シュウ酸と追加塩基性窒素化合物に、バナジウム化合物と、追加塩基性窒素化合物とモリブデン化合物とを含む液とを混合する方法
具体的には、シュウ酸と追加塩基性窒素化合物と水との溶液またはスラリーに、バナジウム化合物またはバナジウム化合物を含む液、モリブデン化合物と追加塩基性窒素化合物と水との溶液またはスラリーの順で添加する方法である。
(c)シュウ酸と追加塩基性窒素化合物に、バナジウム化合物とモリブデン化合物とを含む液を混合させる方法
具体的には、シュウ酸と追加塩基性窒素化合物と水との溶液またはスラリーに、バナジウム化合物とモリブデン化合物またはそれらを含む液とを添加する方法である。
【0036】
前記(a)〜(c)の水性液の調製方法において、均質な溶液またはスラリーがより短時間で調製できる点で(b)が好ましい。
【0037】
本工程における担持方法は、前記水性液の調製方法により得られた水性液と前記複合酸化物とを十分に混合することができる範囲において公知の方法から適宜選択することが出来る。得られる無機複合酸化物の細孔容積を制御する場合には、前記水性液と前記複合酸化物とニーダー等で混合する混練法が好ましい。
【0038】
3−2.焼成工程
担持工程後に、所定の温度および時間で加熱することで、無機複合酸化物が得られる。
【0039】
本工程における最高温度を焼成温度と言い、その温度は、好ましくは300℃〜600℃であり、より好ましくは350℃〜550℃であり、さらに好ましくは400℃〜500℃である。300℃以下では無機複合酸化物の形成が不十分となる恐れがあり、600℃以上ではバナジウムやモリブデン等が揮発する恐れがあるので好ましくない。
【0040】
前記所定の温度範囲で加熱されている時間を焼成時間と言う。従って、前記焼成温度で保持されている時間とは必ずしも一致しない。前記焼成温度が低ければ焼成時間を長くすることで調整することが可能である。但し、一般的には、好ましくは3時間〜7時間であり、より好ましくは4時間〜6時間である。
【0041】
本工程における雰囲気ガスには酸化性ガス成分を含んでいるのが好ましい。酸化性ガス成分としては酸素が好ましく、典型的な雰囲気ガスは空気である。尚、塩基性窒素化合物が有機化合物である場合には、焼成工程の前半は無酸素または低酸素雰囲気で行い、後半では空気等の高酸素雰囲気で行うなどしてもよい。
【0042】
均一に焼成するという観点から、前記雰囲気ガスは流動しているのが好ましい。流動の程度は、得られる無機複合酸化物の量及び配置、焼成装置の内容積等から適宜設定すればよい。一つの目安として、焼成装置内の温度差があげられ、30℃以内となるように調整すればよく、好ましくは20℃以内、より好ましくは15℃以内に調整する。
【0043】
また、焼成中に消費された酸化性ガスを補うことや、前記水性液で用いた化合物の分解や蒸発により発生するガスを排出するために、焼成装置内への吸気と装置外への排気を継続的に行ってもよい。
【0044】
3−3.その他の工程
本発明の無機複合酸化物の製造方法は、担持工程と焼成工程以外に、成型工程や乾燥工程等を有していてもよい。成型工程や乾燥工程を行う場合には、以下の(1)〜(3)のような実施形態が好ましい。尚、乾燥工程と焼成工程との主な差異はその温度であり、区別せずに続けて行うこともできる。
【0045】
(1)担持工程後に、成形工程、乾燥工程、焼成工程の順で行う形態
担持工程後に、所定形状に成形し乾燥、焼成する方法である。
【0046】
(2)担持工程後に、乾燥工程、焼成工程、スラリー化工程、成形工程、乾燥工程、焼成工程の順で行う形態
担持工程後に、乾燥、焼成し、さらに水性液を加えてスラリーとしたのちに所定形状に成形し、再度、乾燥、焼成する方法である。
【0047】
(3)担持工程後に、乾燥工程、焼成工程、スラリー化工程、担体被覆工程、乾燥工程、焼成工程の順で行う形態
担持工程後に、乾燥、焼成し、さらに水性液を加えてスラリーとしたのちに所定の担体にスラリーを添加し、再度、乾燥、焼成する方法である。
【0048】
成形工程では、押し出し成形、打錠成形、転動造粒など公知の方法で行うことが出来る。また、成形された形状は、その目的に応じて、サドル状、ペレット、球体、ハニカム状等の形状から選択することが出来る。
【0049】
また、担体被覆工程に用いる担体の形状も、サドル状、ペレット、球体、ハニカム状等からその目的に応じて適宜選択すればよい。
【0050】
排ガス処理用触媒として用いる場合には、ハニカム状であると装置の圧力損失が少なくなるので好ましい。
【0051】
4.排ガス処理方法
本発明の製造方法で得られた無機複合酸化物は、排ガス処理触媒として好適に用いられる。特に、窒素酸化物(以下、NOxと称することがある)および/または有機ハロゲン化合物を含む排ガス処理に好適である。
【0052】
4−1.触媒物性
本発明の無機複合酸化物の比表面積は50〜200m
2/gの範囲にあるのがよく、より好ましくは60〜150m
2/g、さらに好ましくは70〜120m
2/gの範囲にあるのがよい。無機複合酸化物の比表面積が低すぎると充分な触媒性能が得られない他、担持した金属種のシンタリングが起こりやすくなり、高すぎても触媒性能はそれほど向上しないが、被毒物質の蓄積量が多くなって性能低下が大きくなる場合があるからである。
【0053】
また、本発明の無機複合酸化物の細孔容積は、全細孔容積が0.20〜0.70mL/gの範囲にあるのがよく、より好ましくは0.25〜0.60mL/g、さらに好ましくは0.30〜0.50mL/gの範囲にあるのがよい。無機複合酸化物の細孔容積が小さすぎると十分な触媒性能が得られず、大きすぎても触媒性能はそれほど向上しないが、機械的強度が低下してハンドリングに支障をきたすことなどの弊害が生じる恐れがあるので好ましくない。
【0054】
4−2.排ガス処理温度
本発明の排ガスの処理温度は、150〜400℃、好ましくは150〜300℃、より好ましくは160〜250℃、更に好ましくは160〜190℃の範囲にあるのがよい。排ガスの処理温度が150℃未満ではNOxや有機ハロゲン化合物の十分な除去効率が得られず、400℃を超えるとモリブデンの飛散による触媒性能の低下や後流機器への悪影響を引き起こす場合があるからである。
【0055】
4−3.排ガス組成
本発明にかかる触媒が処理対象とする排ガスに窒素酸化物および/または有機ハロゲン化合物を含む場合には、排ガス中のNOx濃度は5〜1000ppm(容量基準)であるのが好ましく、より好ましくは10〜500ppm、更に好ましくは20〜300ppmの範囲にあるのがよい。排ガス中のNOx濃度が5ppm未満では充分のNOx除去性能が発揮されず、一方、1000ppmを超えると排ガス中に含まれている硫黄酸化物が硫酸アンモニウム等の化合物を形成して触媒表面や装置配管内部等に蓄積するため好ましくないからである。
【0056】
排ガス中の有機ハロゲン化合物の濃度は0.1ppt〜3000ppm(容量基準)であるのが好ましく、より好ましくは0.5ppt〜1000ppm、更に好ましくは1ppt〜500ppmの範囲にあるのがよい。排ガス中の有機ハロゲン化合物の濃度が0.1ppt未満では充分な分解性能が発揮されず、一方、3000ppmを超えると反応による発熱が大きくなり、触媒が熱的ダメージを受ける場合があるためである。
【0057】
排ガス中に含まれるその他の成分として酸素、水、硫黄酸化物(以下、SOxと称することがある)などがある。例えば、排ガス中に酸素が存在する条件下で好適に用いられるが、この場合の酸素濃度は、0.1〜50容量%の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは0.3〜20容量%、更に好ましくは0.5〜16容量%の範囲にあるのがよい。酸素濃度が0.1容量%未満では除去効率が低下し、50容量%を超えると副反応であるSO
2酸化が促進されるため、好ましくない。また、排ガス中に水分を含む場合には、その濃度は50容量%以下であるのが好ましく、より好ましくは40容量%以下、更に好ましくは30容量%以下であるのがよい。排ガス中の水分濃度が50容量%を超えると除去効率が低下する他、場合によっては性能低下が大きくなるからである。
【0058】
排ガス中にSOxを含有している場合であっても本発明にかかる触媒は好適に用いられるが、SOx濃度としては0.1〜2000ppm(容量基準)、好ましくは0.2〜500ppm、より好ましくは0.5〜100ppm、更に好ましくは1〜50ppmの範囲にあるのがよい。SOx濃度が0.1ppm以上である排ガスの処理において本発明の効果が発揮される。一方、排ガス中にSOx濃度が2000ppmを超えるとSOxによる性能低下が大きくなるため、好ましくない。
【0059】
排ガスを処理する場合には排ガス中にアンモニアまたは尿素(アンモニア等とも称する)を添加することができる。特に排ガス中に窒素酸化物が含まれている場合には効果的である。アンモニア等の添加量は、窒素酸化物(NOx換算)1モルに対して、アンモニア換算(尿素の場合は1/2モル)で0.2〜20モル、好ましくは0.5〜1.0モルである。
【0060】
有機ハロゲン化合物が排ガス中に含まれる場合はアンモニア等を加えなくてもよいが、アンモニア等を加えても本発明にかかる触媒の効果は損なわれるものではない。
【0061】
4−4.排ガス量
また、本発明の排ガス処理に際しての空間速度は、100〜50,000h
−1(STP)、好ましくは200〜10,000h
−1(STP)、より好ましくは500〜5,000h
−1(STP)の範囲にあるのがよい。空間速度が50,000h
−1(STP)を超えるとNOxや有機ハロゲン化合物の十分な除去効率が得られず、100h
−1(STP)未満では除去効率は大きく変わらないが排ガス処理装置の圧力損失が高くなり、また装置自体も大きくなって非効率だからである。更に本発明の排ガス処理に際しての触媒層を通過するガスの線速度は、0.1〜10m/s(STP)、好ましくは0.5〜7m/s(STP)、より好ましくは0.7〜4m/s(STP)の範囲にあるのがよい。線速度が0.1m/s(NTP)未満では充分な除去効率が得られず、10m/s(STP)を超えると除去効率は大きくはらないが、排ガス処理装置の圧力損失が高くなるからである。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
<チタン系酸化物の調製>
90Lの水にパラタングステン酸アンモニウム14.4kgとモノエタノールアミン6.2kgを、65℃に加温して混合し、均一溶液を得た。シリカゾル(スノーテックス−30(製品名)、日産化学社製、SiO
2換算30質量%含有)105kgと、工業用アンモニア水(20質量%NH
3含有)801kgと、水2950Lと、タングステン含有溶液との混合溶液に、硫酸チタニル(テイカ社製、TiO
2として70g/L、H
2SO
4として280g/L含有)8500Lを、撹拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた後、適量のアンモニア水を加えてpHを7に調整した。
【0063】
得られた共沈スラリーを約40時間静置し、水で充分洗浄した後、濾過し、100℃で1時間乾燥させた。さらに空気雰囲気下で、500℃で5時間焼成し、更にハンマーミルを用いて粉砕し、分級機で分級してチタン系酸化物(以下、Ti−Si−W複合酸化物粉体と称することがある)を得た。このようにして調製したTi−Si−W三元系酸化物粉体の組成は、TiO
2:SiO
2:WO
3=93:5:2(質量比)であった。
【0064】
<水性液の調製>
90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを36.8gとモリブデン酸(H
2MoO
4・H
2O)52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合し、均一溶液を調製した。
【0065】
<担持−成形>
Ti−Si−W複合酸化物粉体(質量比がTiO
2:SiO
2:WO
3=93:5:2)800gをニーダーに投入後、有機バインダーなどの成形助剤とともに上記の均一溶液を加え、よく撹拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダ―でよく混合した後、連続ニーダーで充分混練りし、外形25mm角、長さ700mm、目開き2.90mm、肉厚0.4mmのハニカム状に押し出し成形した。
【0066】
<乾燥−焼成>
得られた成形物を60℃で1.5時間乾燥後、420℃で5時間焼成して触媒Aを得た。
【0067】
この触媒Aの組成はTiO
2:SiO
2:WO
3:MoO
3:V
2O
5=76.3:4.1:1.6:5.0:7.0(質量比)であり、BET表面積は84.5m
2/g、全細孔容積は0.44mL/gであった。
【0068】
(実施例2)
実施例1において、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを36.8gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合し得られた均一溶液の代わりに、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを28.9gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合して得られた均一溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒Bを得た。
【0069】
この触媒Bの組成はTiO
2:SiO
2:WO
3:MoO
3:V
2O
5=76.3:4.1:1.6:5.0:7.0(質量比)であり、BET表面積は84.0m
2/g、全細孔容積は0.42mL/gであった。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを36.8gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合し得られた均一溶液の代わりに、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを18.4gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合してえられた均一溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒Cを得た。
【0071】
この触媒Cの組成はTiO
2:SiO
2:WO
3:MoO
3:V
2O
5=76.3:4.1:1.6:5.0:7.0(質量比)であり、BET表面積は83.4m
2/g、全細孔容積は0.42mL/gであった。
【0072】
(実施例4)
実施例1において、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを36.8gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合し得られた均一溶液の代わりに、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを13.1gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合してえられた均一溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒Dを得た。
【0073】
この触媒Dの組成はTiO
2:SiO
2:WO
3:MoO
3:V
2O
5=76.3:4.1:1.6:5.0:7.0(質量比)であり、BET表面積は81.1m
2/g、全細孔容積は0.42mL/gであった。
【0074】
(比較例1)
実施例1において、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを36.8gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合し得られた均一溶液の代わりに、120mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.4gとモノエタノールアミン38.5g、さらにモリブデン酸52.5gを混合・溶解した均一溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒Eを得た。
【0075】
この触媒Eの組成はTiO
2:SiO
2:WO
3:MoO
3:V
2O
5=76.3:4.1:1.6:5.0:7.0(質量比)であり、BET表面積は76.7m
2/g、全細孔容積は0.50mL/gであった。
【0076】
(比較例2)
実施例1において、90mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.3gとモノエタノールアミン38.5gを混合・溶解したバナジウム含有溶液と、30mLの水にモノエタノールアミンを36.8gとモリブデン酸52.5gを混合・溶解したモリブデン含有溶液とを混合し得られた均一溶液の代わりに、120mLの水にメタバナジン酸アンモニウム71.3gとシュウ酸128.4g、さらにモリブデン酸52.5gを混合・溶解した均一溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、触媒Fを得た。
【0077】
この触媒Fの組成はTiO
2:SiO
2:WO
3:MoO
3:V
2O
5=76.3:4.1:1.6:5.0:7.0(質量比)であり、BET表面積は83.3m
2/g、全細孔容積は0.42mL/gであった。
【0078】
(NOx除去試験)
実施例1〜5および比較例1で得た触媒A〜Fを用い、下記性能条件でNOx除去性能の評価を行った。
【0079】
[NOx除去性能評価条件]
NOx:200ppm
NH
3:200ppm
O
2:10容量%
H
2O:15容量%
N
2:balance
ガス温度:175℃
空間速度:26,000h−1(STP)
ガス線速度:0.7m/s(STP)
次に、触媒入口および触媒出口のNOx濃度を測定し、次式に従って脱硝率(NOx除去率)を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
【数1】
【0081】
(クロロトルエン分解試験)
実施例1〜5および比較例1で得た触媒A〜Fを用い、下記条件でクロロトルエン分解性能評価を行った。
【0082】
[クロロトルエン分解性能評価条件]
クロロトルエン:30ppm
O
2:10容量%
H
2O:15容量%
N
2:balance
ガス温度:200℃
空間速度:8250h−1(STP)
ガス線速度:0.5m/s(STP)
次に、触媒入口および触媒出口のクロロトルエン(CT)濃度を測定し、次式に従ってクロロトルエン(CT)分解率を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
【数2】
【0084】
【表1】